こっちのルートはエヴァにゃんがオカンみてーなそれだ――と思う。
相棒の精神が漸く『安定』してくれた―――と、歴代の中でも最も数奇で奇妙な人生を歩んできた宿主に対して、これまでの宿主達には思わなかった事を思う赤い龍。
奪い取られ、這いつくばりながらも這い戻り、そしてまた奪われた宿主と共に世界を越えた赤い龍もまた数奇な道を歩んでいるのだが、今現在そんな赤い龍もちょっとした『お悩み』があったり無かったりする。
「私に搭載された『学習AI』によると、今後はドライグ様をドライグ『お義兄様』と呼ぶべきである――との事ですので、今よりドライグお義兄様とお呼びしてもよろしいでしょうか?」
「理由が皆目見当も付かん」
「AIによると、ドライグお義兄様はチャチャゼロ姉さんと仲睦まじいので、『近い内にはそうなるやろ?』という回答結果がありましたので……」
「何故関西弁なんだそのAIとやらは……。
それに、どこを見たらそうなるんだ……?」
「イヤー、照レルゼ」
宿主がむちゃくちゃ懐いていて、そして世話にもなっている吸血鬼の従者に絡まれまくっているドライグは、その吸血鬼……つまりエヴァンジェリンの計らいにより意識そのものをエヴァンジェリンが製作した人形移動することで、簡潔ながら自由に行動することが可能になった。
その人形のモデルも宿主であるイッセーと編み出した『切り札』の姿に奇しくも近く、サイズ的にも横で無表情で勝手に照れているチャチャゼロと同等サイズだ。
「御主人モイッセートドライグノオ蔭デ、前以上ニパワーアップシタシ、オレモ前ヨリモット動ケルゼ」
「まさかギャスパーの力を扱える様になるとはオレも予想外だったがな」
「ああ、これが所謂『尊い』という気持ちなのでしょうか。
姉さんと義兄様の仲睦まじい姿を見るだけで………」
小生意気な人形であるチャチャゼロの事は若干鬱陶しいとは思うが、何を言っても絡みかたを変えなかったので今ではそれなりに受け入れてはいるが、事あるごとに一々纏わりつくのはどうにかならないのか………と、真面目な会話のつもりなのに人形形態のドライグの背中に乗ってくるチャチャゼロと、そんな姿を見て表情は変わらないがテンションが上がってる茶々丸。
「そろそろイッセーとエヴァンジェリンを起こしに行くぞ。
アイツ等、放っておくと何時までも寝ているからな」
「スッカリ御主人モイッセーと普通二寝ル様二ナッタカラナァ」
「起こす前にしっかり録画モードに切り替えないと……」
降りろと言っても降りずに背中にしがみつくチャチャゼロをそのままおぶる形でイッセーとエヴァンジェリンが寝ている部屋へと向かうドライグの小さな悩みは多分まだまだ続くのかもしれない。
あれだけ懲りずにナンパの真似事をしてきたイッセーが、最近忙しいからという理由だけで本当にナンパをしなくなりつつある事に、エヴァンジェリンはまあ良いことだろうとは思っている。
なんか前より距離感も近くなってきたし、前より言動や態度も素直になってるし、何より自分の口からナギの名前を出すと露骨に機嫌が悪くなるという、早い話が嫉妬しているのだ。
エヴァンジェリン的には気分の良い話だし、最近になってイッセーとの明確な繋がりが確定的になる『事象』も己の身に宿ったのだから。
「あ? 他の魔法先生達から死ぬほど悪口ばっかり聞いただって?」
「はい。
この前イッセー先生の事を話たら全員吐きそうな顔をしながら『あの化け物とは絶対に関わるべきではない』って……」
「他の人達からの評価は散々だってのだけは理解したわ。
アンタなにしたのよ?」
「あー……多分エヴァの件だな。
強引にエヴァにかけられた呪いっつーか封印から解放したのが彼方さん達的にはヤバかったらしくてな。
しょうがないから『納得と理解』をして頂ける為に『誠心誠意のお話』をしたわけで……」
「…………。なるほど、誠心誠意という名の『脅し』をやった訳ね。
アンタ、タカミチ先生にも同じことしてないでしょうね?」
「いんや、タカミチ先生は寧ろ俺をそこそこ信用してくれてるからな」
「なら良いわ」
ナギの呪いから解き放たれ、自由と充足感に割りとウハウハなエヴァンジェリンも、イッセーの影響により割りと丸くなってきている今日この頃。
ここ数日は学園祭の準備に忙しいのだが、ネギ達の修行は勿論一日たりとも欠かす事無く、そしてイッセー自身も手加減をせず寧ろよりハードさに拍車をかけていた。
「「…………………」」
「10㎞を25分も掛けるとはな……。
授業の時も思ってたが、宮崎と綾瀬は貧弱すぎるなやっぱ」
「「じ……じぬ……(死ぬ)」」
「とは反対に神楽坂はアホだが、元の素質や基礎体力があるお陰か悪くはねぇな」
「ま、まあ、あらアンタに比べたらまだまだ……よ……!」
女子中学生に対してやるような事ではないレベルの鬼畜トレーニングをやらせているイッセーは、吐きそうな顔で地面に転がっている宮崎のどかと綾瀬夕映に対して、副担任としてでない素としてはっきりと貧弱であると言い切り、肩で大きく息を切らせながらもギリギリで着いてきているアスナには、イッセーなりに褒める。
「長瀬と古菲と桜咲に関しては基礎は完璧だから特に言うことは無いぞ」
「えー!? なんか腑に落ちないアル!」
「そーだそーだ! もっとこうあるだろう!? もっとダメな所とかあるでござろう!?」
現在イッセーはネギの正体を知り、尚且つその助けになりたいという意思を持つ少女達が、ネギの足枷にならないように『己の身を己で守れる術』を叩き込んでおり、ただ勝手に参加してきた楓と古菲以外の面々は日を追うごとに副担任としてではないイッセーの『異質』さを身を以て体感し、そして何人かは既に心が折れかけていた。
「ネギ坊主はエヴァンジェリンと修行アルか……」
「魔法関連は完全に専門外だからな。
……小遣い3000円でなんとか触りだけを教えさせる事に成功したぜ」
「本当にエヴァンジェリンに財布を握られてるのだな……」
「まぁな……。
まあ、飯は食わしてくれるし寝るとこもあるから困ってはないんだがな……」
「「…………」」
「ちょっと、本屋ちゃんとユエがピクリとも動かないんだけど……」
「あ? ああ……おら、起きろ小娘共。
休んでは良いとは言ったが、誰が寝ていいつった?」
「「ほげ!?」」
(うっわぁ……)
(普通に蹴り入れて起こしたアル……)
(本当にこういう所は妥協も甘さもないんだなぁ……)
普段の副担任としてのイッセーとはまさに正反対の、女子供であろうが躊躇い無く鬼畜である面を全面に押し出したハードトレーニングに意識が飛んでいた夕映とのどかを蹴り起こす様を見るアスナ達は絶妙に引くものの、そんなイッセーのやり方を止めようとはしなかった。
何故なら、アスナ達も何度ものどかと夕映に『本当にやるのか』と問いかけて、本人達は頷いたのだから。
「ふーむ、普段がちゃらんぽらんな男とは思えない鬼畜っぷり」
寧ろ『向上心』のある者達からすれば、異次元のパワーを持つイッセーのトレーニングは寧ろ進んで受けたがる程であり、のどかと夕映を蹴り起こす様を実は共に見ていた褐色肌の少女もその一人だ。
「先生、言われた通り30㎞を全力で走ってきたぞ。
タイムも15分を切れた」
「龍宮か……前より速くはなったみたいだが――」
「15分だ……。まだまだ話にもならんな」
龍宮真名。
裏の仕事を請け負う中学生女子であり、バイト時代からイッセーのことは知っていた者の一人であり、異次元の戦闘力を持つイッセーに完敗を喫した事もあるせいか、そのパワーの源を探ろうと実は暫くストーキングをしていたイロモノ系女子だ。
「おぉう……相変わらず厳しいなドライグは。
ふふふふ……しかし何故だか私は嬉しい……」
「………あ、うん。
だってさドライグ?」
「………」
そのストーキングの甲斐あって、イッセーには龍の意思が宿っている事を突き止めたりもしており、何なら妙にドライグに対して懐いている。
現に様子を見に背中にチャチャゼロを背負ったまま登場した人形形態のドライグに対してニコニコとしている。
「ふふふ、早くもう一度『本当のドライグ』の姿と向かい合い……」
イッセーですら微妙にどうして良いのかわからず、意識を取り戻したのどかと夕映に対してアスナ達と一緒に水を飲ませながら見守っていると、人形形態のドライグに向かってしゃがみこみながら両手を伸ばそうとする真名。
すると、それまで黙ってドライグの背中にしがみついていたチャチャゼロが、割りとデカい刃物の切っ先を真名に向ける。
「待チナ、誰二断ッテオレノドライグ二手ェ出ソウトシテンダ?」
表情こそ変わらないが、明らかに敵意丸出しな声であるチャチャゼロの向ける刃の切っ先に対して、真名はフッと鼻で笑う。
「別に誰の許可なんて要らないと思うが? ああ、ドライグも可哀想に……。
こんなのに付きまとわれて……」
「………………」
「ケケケケケ……! ヨーシ、テメーハ殺ス」
真名の言葉にスイッチでも入ったのか、ドライグの背中から飛び降りたチャチャゼロが真名に襲いかかる形で謎のバトルが開始される。
「…………」
「なんてーか……大変だなドライグ?」
「お前にだけは言われないと思ってた言葉を言われるとはな。
オレからすればいい迷惑にも程がある……」
「いやまあ、声だけで言えば結構渋いしねドライグって……」
「うーん、あの真名がなぁ……」
「世の中は不思議だらけアル」
「「がぼぼぼぼっ!?」」
「あ、悪い」
こうしてチャチャゼロvs真名の仁義なきバトルを観戦するイッセー達なのだった。
なんやかんやネギの修行の面倒を見るようになったエヴァンジェリン。
だが決して情に絆された――という理由ではなく、真の目的は己の身に宿った神器とイッセーのかつての友の一人であるギャスパーの力を完全にモノにする為でもあった。
「昔、アザゼルさんに言われたのは『出来ると思い込む事が重要で、呼吸をするように出来て当然という認識をすること』てのが大事なんだとよ」
「認識か……」
「ああ。
まあ、こんな事言わなくても、ギャスパーに選ばれたエヴァならすぐに出来るようになると思うぞ?」
そう言いながら優しげに笑うイッセーにエヴァンジェリンは最近の距離感の急激な接近もあってか、若干ドキッとしながらも意識を集中させ、停止世界の邪眼のコントロールに努める。
集中さえすれば既にほぼ任意で時を停止させる事は出来るものの、まだイッセーのように息をするように扱えては居ない。
(気にくわないが、これでやっとイッセーと同じ
意地でも貴様の力をモノにさせて貰うぞギャスパーよ)
だからこそネギに対するトレーニングにかける手間の何割かを請け負ってまでイッセーとの訓練の時間確保をしたエヴァンジェリンは、じーっと自分を見つめてくるイッセーのせいで微妙に集中ができない。
「………。私の顔に何か付いているのか?」
「いや?」
「それならそんなにジロジロと―――」
『見るな』と言おうとしたその言葉に被せるかのように、じーっと見ているイッセーが一言呟く。
「いや、こうして見るとエヴァってキレーな顔してんだなぁと……」
考えてみたら今まで一度も容姿を褒められた事が無かったエヴァンジェリンに対する突然の不意討ちめいた言葉に、思わず口の形が三角おにぎりになってしまう。
「い、いきなり何を言い出すんだお前は……」
「や、そう思っちまったもんでな……」
はははと軽く笑うイッセーと完全な不意討ちのせいでテンパるエヴァンジェリン。
「きょ、今日はやめだ!」
「? あ、そう。それじゃあ――」
「ひゃ!? ば、バカ!! いきなり何をするんだ!?」
「だってやめるんだろ? それなら良いのかなと……」
「お、お前、自分が何をしてるのかわかってるのか? 私はお前からしたら好みにもならん――」
「体型はな。
まあ、最近はそれすら割りとどうでも良い気もしてきてるけど」
やめたと言い出した途端、犬みてーに懐いてきたというかなんか普通に抱きついてきたイッセーにエヴァンジェリンは言葉でこそ抵抗のそれを言いつつも抵抗自体はしなかった。
「お、お前というやつは……。
他所の女にこんな真似をしてみろ、本当にタダでは済まさんからな……!?」
「大丈夫だっての。
エヴァくらいしかこうしてくれないのわかってるし」
(あ、怪しいのが何人か居るから言ってるんだよこっちは!)
文字通りデカい子供のように懐いてくるイッセーの距離感の詰め方に対して別の意味で不安になってくるエヴァンジェリン。
「ぐ、一旦放せ……」
「え、なんで?」
「いやその、ぼーや達のトレーニングの面倒やら何やらでその……風呂に入りたいというか……」
「は? ………………すんすん」
「っ!? な、ななっ!? なにをして――」
「んー……別に普通っつーか何時ものエヴァの匂いじゃん。
変な匂いなんてしてねーぞ?」
「こ、このバカっ! アホ!! スケベ!! 今日はここまでだ! 放せ――」
「やだ」
「あっ!? ど、どこに顔をっ……!? く、くすぐった――あっん……!」
「オウ妹ヨ、抜カリハネーナ?」
「全て記録しておりますよ姉さん」
「よしてやれ……」
ますます犬みてーに懐かれまくるエヴァンジェリンは色々と飛躍する………かはまだ誰もわからない。
補足
色んな意味で重いのがこのルートの赤龍帝。
重すぎて、好きになった相手への執念が凄まじく、簡単に嫉妬して簡単に殺しにかかろうとする程度には重い。