忙しかった!
忙しかった!!!!!!
まあまあ最悪に近い形でのネギとの出会いから魔法を知り、ただのおちゃらけ用務員からおちゃらけ体育教師になっただと思っていたイッセーが、とても複雑な人生を生きていたと知り……。
そんな非日常に巻き込まれた私もまた、なんやかんやで非現実的な体験をしている訳で……。
「見てたぞ。今日もこっ酷くイッセーにやられたな?」
「先生がアタシの中に居るって納得してくれた途端、鬼畜度が跳ね上がったし、容赦なく顔面をグーで何百発も殴られたわ……」
「どうにも自分の経験を元にしたトレーニング法なせいで、基本的にアイツは脳筋思考なんだよ」
世の中探しても、夢の中で堕天使のイケオジと会って勉強している人間なんて私くらいね――なんて思いながら現実では眠っている私はイッセーの親にも近い人であった堕天使・アザゼルと今日あったことを振り返りながら、最初はちょっと嫌だなと思っていた勉強を教えて貰っている。
「最近の小テストの平均点が50を越えたな?」
「ええ、これでバカレッド呼ばわりされるのも卒業よ……!」
最初は勉強が嫌で仕方なかったわけだけど、教えて貰う度に結果として出ているお陰で――なによりアザゼルの教え方はアホな私でもわかりやすく、そして丁寧だった。
「やはりお前さんはイッセーにタイプが近い。
アイツもやれば出きるタイプだったからな」
「えー? 確かに私はキレやすいかもだけど、キレて相手を血祭りにはしないわよ?」
「そうじゃなくて、一度型に嵌まればスポンジの様に吸収できるって意味だ」
結果を出せば褒めてくれる。
投げ出さずに食らい付けば認めてくれる。
なにより……。
「お前さんを見ているとまだ生きていた頃の――悪ガキ共に手を焼かされていた頃を思い出す」
「あそこまで悪ガキじゃないわよ私は……」
「ああ、勿論アイツ等と比べたらお前さんは全然素直だよ……。
でも、それでもお前を見ていると思い出すんだ」
見た目ちょいワル風な顔のアザゼルが見せる優しい声と笑み――そして私の頭をちょっとだけ不器用に撫でるその手が、色々と揺らしてくる。
「中途半端な事しか出来なかったオレの存在を受け入れてくれた所なんかはな……」
「………」
私はタカミチ先生が好きなのに……。
「っと、そろそろ夜明けだし、今日の授業はここまでだ」
「う、うん……」
夢の中でしか会えない悪ぶった堕天使に私は―――
「ん……」
「おはようございますアスナさん」
「おはよー」
「ん、オハヨ……」
心を揺さぶられてしまう。
古菲と長瀬楓の最近は、所謂『ぐぬぬ』だらけであった。
ただの謎用務員から副担任へとジョブチェンジしたイッセーが、日増しに他所の異性との関わりを増やしまくるせいだ。
「なーなー頼むよエヴァ、出店のたこ焼きが食いたいんだよ~」
「駄目だ。今食ったら晩飯が食えなくなるし、買い食いは許さん」
「本当にこうして見てるとイッセーの保護者って感じね」
「大人の癖に金持っとらんのか?」
「お仕事のお給料はちゃんと貰っているけど、イッセー先生のお給料の管理は全て師匠にして貰ってるんだよ小太郎くん」
「ほーん……?」
「噂では聞いてましたけど、なんといいますか……」
「完全にエヴァンジェリンさんのお尻に敷かれてる……」
「…………」
「最近イッセーの周囲が騒がしいせいで拙者達の影が薄いでござる」
学祭が迫る事で、出店が並んでいる学園の通りを歩くイッセー達の少し後ろを歩きながら、現状に対して不満と焦りを覚える楓と古菲。
どちらもイッセーの破天荒さに脳を焼かれたクチである上で、かなりの好意をよりにもよって抱いてしまった悩める女子中学生である。
「ネギ坊主達にイッセーくんが取られてるアル……」
「ああ……エヴァンジェリンはともかくとして、アスナにすら最近負けている気がしてならない……」
「そのエヴァンジェリンとも前より色々と近いし……」
色恋沙汰とは無縁と思われていた二人にとってイッセーに焼かれに焼かれまくった脳の修復は最早不可能であり、黙って引き下がる気も全く無い。
故に最近の出遅れに対して楓と古菲は行動をすることにした。
「イッセーは今完全に金欠でござる。
つまり金をちらつかせれば……」
「奢るから遊んで欲しいと言えば良いアルな?」
「うむ。
問題は今のイッセーの優先度がアスナ達の修行を見る方が高いということだが……」
「い、一万円札を渡せば何とかならないカ?」
「十二分に試す価値はある」
ボソボソと作戦会議をする楓と古菲。
その中身が殆どホストに貢いで破滅するダメ女のそれに近いのだが、二人はとにかく僅かな時間でも良いのでイッセーを占領したいという願望が強いのでその自覚は全く無く、作戦決行の為に午前の授業を何時も以上に集中せずに乗り切った古菲と楓は、昼休みに職員室へと行こうとしていたイッセーを呼び止め、人の少ない場所へと連れ出すと、突然財布から諭吉がプリントされた紙幣を数枚差し出した。
「頼む! この金をあげるから暫く私と古菲だけと遊んでくれないか?」
「足りなければもっと出すアル……!」
「えぇー……?」
イッセーから見ても、中学生からしても大金である諭吉数枚を差し出してくる楓と古菲に、いくら金欠であっても引いてしまったイッセーは、勿論受けとる事はせずに、普段の二人とは思えぬ行動に対する理由を尋ねる。
「取り敢えず今持ってるその金は財布にしまえというか、突然どうしたんだよ?」
成績は悪いが、悪い奴等ではないと思っているからこそ心配になったイッセーは何故かもじもじする楓と古菲を見る。
「だ、だって最近のイッセーくんはネギ坊主達に構ってばかりで私達のことほったらかしアル……」
「そればかりか、この前から妙にアスナに対してまで親身になり始めたでござる……」
「はぁ?」
普通に寂しがっている――という点は全く気付かずに首を傾げるイッセー
「別にほったらかしにしてないっつーか、ネギ先生と一緒に組手とかしてるだろ?」
「それはそうだけど、なんか違うアル」
「違うって……なにが違うんだよ?」
「ついでに相手にされてる気がするんでござる。
も、もっとちゃんと見て欲しいというか……」
「見てるつもりだぞ? 古菲も長瀬も前より強くなって――」
「そうじゃなくて!! な、なんて言えば良いのかわからないアルけど……」
「もっと深く見て欲しいというか……。
ぐ、具体的に言うとイッセーがエヴァンジェリンに対して向けてるそれを拙者達にも向けて欲しいというか……」
「エヴァに対して? あー……? エヴァに対して普段やってる事って言われてもな……。最近エヴァには抱き枕になってくれって頼むけど、そういう意味じゃあ無いんだろう?」
「それアル!」
「寧ろ大当たりでござる!」
「うぉぅ!?」
勢いの良い声にイッセーが軽く仰け反る。
「じ、自慢じゃないが、多分エヴァンジェリンよりも抱き心地は良い自信はあるぞ!?」
「か、楓程じゃないけど私もそれなりに自信はあるヨ!」
「…………」
そう真っ赤な顔をしながら、自分達なりのお色気ポーズをしてみせる古菲と楓に、イッセーはかなりの困り顔となる。
「えーっとだな、まさかお前らにそんな事言われるとは思わなかったわ。
なんつーか、悪いんだけどお前らにそういう真似は頼まないぞ俺は……」
「なっ!?」
「何故だ!? 不満なのか!? 年上じゃないからでござるか!?」
「そうじゃないっつーか、自分でも上手く説明できないんだがよ、アレはエヴァだから良いのであって、お前等に同じ真似しても多分しっくり来ないっつーか、普通に倫理的にアウト案件っつーか……」
「エヴァンジェリンの様な見た目の相手にそんな真似する時点で既にアウトだろう!?」
「そうアル! 寧ろ私達の方がセーフアル!」
「う、言われてみりゃあそうかもしれねぇ……。
まさかお前らに正論言われるとは……。
確かに冷静に考えたらエヴァにあんなことさせてる時点で完璧アウトだよな……?」
見た目幼女に抱き枕を要求しているという字面を冷静に省みた事で今更ながらイッセーも世間的にはポリスメン案件であったと自覚する。
「それなら今更二人くらい同じ事をしても問題はない!」
「そうアル! イッセーくんに抱き枕にされたいアル!」
「……………」
然り気無く当初の作戦以上の要求をする楓と古菲が畳み掛けるように、後半ほぼ脅迫同然に迫られたイッセーの顔は死ぬほど渋いものだったという。
「抱き枕の件はさておき……」
「さておくなアル!」
「そうだそうだ!!」
「しょうがねぇだろ。
仮にもしもお前等相手にそれやったとして、エヴァにバレたら二度としてくれなくなるかもしれないし」
何と無く目の前の少女二人が自分に懐いているのは理解しているが、所詮は中学生でしかない。
一般中学生なんかと比較すれば多少は『普通』ではないにせよ、イッセーにしてみれば『子供』なのだ。
「そのかわりにお前たちの言う『遊び』ってのには付き合うよ」
「「…………」」
所詮自分は感性も、他の命に対する価値観も『普通』とはかけ離れた―――されど制御する気も更々無い『異常者』なのだから……。
「そんなに拙者と古菲が嫌なのか……?」
「嫌じゃねーよ。
ただ、俺に付き合うと『地獄行き』になるって事だ」
「別にそれでもいいのに……」
己の制御する気の無い『素』を受け入れられるのは、かつての友を抜かせばこの世界ではエヴァンジェリンくらいしか居ないと断定しているが故に避けるイッセーが、楓と古菲の二人に引っ張り回されている頃、最近実はタカミチへの恋心と己に宿る堕天使の男との間でグワングワンと揺れているアスナは、どういう訳か魔法で15くらいに成長したネギと疑似的なデートをしていた――――――
「ほらドライグ、そんな凶暴人形なんかより私と学園内の見回りをしよう」
「ガキガチョーシクレンナヨ? ドライグハテメーミタイナハナタレナンゾニキョウミネーンダヨ」
「……………………」
―――更に別の場所では、最近はほぼエヴァンジェリン作の人形を器にイッセーと分離しているドライグが大変困った事になっていた。
チャチャゼロという、エヴァンジェリンの魔力を媒体にする意思ある人形と、奇しくも名前に龍の文字を持つ褐色肌の少女のにらみ合いのど真ん中という位置で。
「オウ、コノガキに言ッテヤレヤ? 『オレハオ前ミタイナハナタレ小娘二興味ナンゾ無イカラ失セロ』ッテヨー?」
「逆にこの口の悪い人形に言ってやるのも優しさだぞドライグ? 『お前のような人形なんか抱いてもつまらん』ってな?」
「…………………………………」
「ア? テメーハ変態カコラ? アァ、ソウイヤ筋金入リノ馬鹿ダッタッケ? ツーカナメンナ、ドライグガドーシテモ『ソッチノ気分』二ナッタラ『ドウニカ』出来ルゼ」
ドライグ本人からしたら迷惑過ぎるし、そんな覚えも無い。
しかし何故だか知らないがこの二人………というか、一人と一体にやたら懐かれてしまったせいで、顔を合わせる度に喧嘩はするわ、普通の殺し合いを行うわで、頭を抱えたくなる。
「茶々丸、なんとかしろ……」
「私の力では姉さんと龍宮様を同時に止めるのはスペックが不足していますので……」
なので、何故かほっこりしている様な気がしてならない茶々丸にヘルプを求めるのだが、スペック不足を理由に断られてしまう。
「いい加減にしろガキ共。
オレはどちらの言い分も聞く気なぞ無い」
こんなトラブルはイッセーで充分だと心底思うドライグは、以前京都でオーバーキルにて切り札のひとつである形態をデフォルメさせたような人形の姿で、互いに武器を向け合う真名とチャチャゼロにため息混じりで止めに入る。
「ム……」
「む……」
ドライグの言葉にぴくりと反応をしたチャチャゼロと真名が揃って不満そうな顔をしながらこちらを見るので、ドライグはめんどくさそうな声で二人に向かって言い放つ。
「お前等が妙にオレに拘っているのはわかった。
だがしかし、オレはお前等のよくわからんものに付き合う程暇じゃあない」
「「………」」
見た目は人形だが、放つ声と雰囲気はまさに『赤い竜』そのものであり、その覇気にチャチャゼロと真名は声を失う中、ドライグはハッキリと告げる。
「オレの前で下らん言い争いなぞヤメロ。それこそ迷惑だし、そもそも貴様等のよくわからんものに付き合う気も無い」
そう言ってからフンと鼻を鳴らすドライグ。
(ふぅ、これでコイツ等のくだらん小競り合いも無くなるだろう)
そもそも様々な意味で間違いにしか思えない状況だったのだから、修正して然るべきであると思っていたドライグは遂にキッパリ言ってやったぞと思いながら、『その言い方が間違いである確率98%』とブツブツ言っている茶々丸の肩に飛び乗ろうとしたのだが……。
「ホーゥ?」
「つまり、ドライグの前で喧嘩をしなければ良い――という訳だな?」
「むが!?」
飛び乗ろうとしたまさにその瞬間、背中に飛び付いてそのまま押し倒してきたチャチャゼロと、勝手に一人で納得し始める真名。
「ショウガネェ、ソコマデ言ウンナラ大人シクシテヤルゼ?」
「ああ、その替わり……」
「『一緒二仲良クシヨウ?」』
「」
どうやら、余計に変なスイッチを押してしまったらしく珍しくゾワッとなったドライグにチャチャゼロと真名はとても楽しそうに――――
「」
「ト、言ウ訳ダ御主人。
呪イモ完全二解ケタ処カ、前ヨリ力ヲ増シタンナラ、オレノ身体ヲ【自主規制】出来ル様二シテクレネーカ?」
「私とチャチャゼロで半分こという形で決着がついたからな。
これからは喧嘩せず『仲良く』しようと思うんだ」
「お、おう……」
「既にドライグがぐったりしてるんだけど……ナニしたんだお前ら?」
「サァ? 仲良ク……」
「遊んだだけだけど?」
とても平和な時間(当社比)を過ごすのであった。
「「ネー♪」」
「なぁエヴァ」
「言うな。
私とて驚いてるんだぞ……チャチャゼロの奴がそんな願いを抱くとは……」
補足
次回はなんか別のネタで遊ぶ予定