なんやねんな展開
金払いの良さがあるから、今の仕事をやっている。
金払いが良いから、ある程度の事は割りきる事も出来る。
なので、目標額まで貯めたらさっさと辞めてしまうつもりだ。
マイホームを買って、リアスちゃんと何事もない平穏な暮らしの為に……な。
実はホラー関連がちょいと苦手だったイッセーにしてみれば、散々な日だった幽霊関連の件から数日後。
校舎を消し飛ばしてしまった件について、学園長に怒られてしまったイッセーは密かに――どこの誰から聞いてきたのか、幽霊ムーブをかましてきた吸血鬼ことエヴァンジェリンを半殺しにしてから決意した。
「もうお前らの口車にゃあ乗らないからな。
俺はそもそもただの用務員だし」
最近自分の存在が少しずつ周囲に知られてしまっている――つまり気が抜けているということで、縄を締め直す的な意味でイッセーは二度と小娘共の頼みごとは聞かないことにした―――という宣言をリアスに膝枕された状態でした。
「来るなって言った所でどうせ聞きやしないだろうから、そこに関しては譲歩してやるが、俺の管轄外になるような話は持ちかけて来るな」
『……………』
無意味にシリアス面で言っているつもりであるイッセーなのだが、言われてる小娘共――つまりのどか、ハルナ、夕映、木乃香、刹那からすれば、リアスに膝枕されてる体勢で言われても実に複雑な気分なだけだ。
大なり小なり、彼女達はイッセーに対して一定以上程度の好意があるのだから。
「そんな格好で言われてもなー……?」
「余計に複雑といいますか、さっきからモヤモヤしてしまうのですけど……」
「同じく、なんか悲しい気持ちになる」
「そんなん言われても俺は知らん」
最初から承知の上であるとはいえ、目の前で見せられるとなれば複雑な気持ちになってしまうので、つい素直に頷けない5人。
そんな五人を見ていたリアスも気を使うように、イッセーの髪を撫でながら声をかける。
「えーっとイッセー? そろそろお仕事に行く時間に……」
「む、もうそんな時間か……わかったよ」
基本的にリアスの言うことなら、それが例え殺人や強盗であろうともホイホイ聞く男がこう言われてしまえば名残惜しいものの従わない訳にはいかないと、ゆっくりと身体を起こしたイッセーは用務員室を出るリアスを見送る。
「そら、お前らもとっとと行け。
大人は忙しいんだ」
『むー……』
「むー……じゃない。早く勉強して来い」
そしてへちゃむくれた顔をしていた娘さん達を見ることも無く、シッシッと犬でも追い払うように追い出す。
「………よし、行ったな」
追い出す形で完全に女子達出ていくのを確認したイッセーは、誰も居なくなった事で静寂と化す用務員室の扉の鍵を閉めると、深呼吸をひとつしながら自身に宿る相棒に語りかける。
「それで、本当なんだろうなドライグ?」
生まれたその日から己に宿り、親を失うことになった後も共に在ってくれた、相棒という枠すら越えた繋がりを持つドラゴンに語りかけるイッセーが、何故一人になりたがったのか。
それはつい先日あった幽霊騒ぎ以降に起きてしまった『厄介な展開』についてであった。
『ああ、今もお前の背後に取り憑いているぞ。小娘の霊がな』
「………」
若干震え声であるイッセーに対して割りと淡々と肯定するドライグ。
どうやら先日の一件以降、何故か幽霊が自分に取り憑いたらしい。
「……全然見えないし声的なのも聞こえないんだけど?」
『信じたくはないというお前の精神が問題なのだろう。
本人はさっきから取り憑いている訳ではないと抜かしているぞ?』
「へ、へぇ……?」
イッセー本人は全くその気配も感覚も感じることが出来ないというのに、反対にドライグは小娘らしき幽霊と会話が可能であるとの事で、幽霊の言葉を伝えてくれるという、別にありがたくはない事をしてくれるせいで、若干顔色が青くなる。
「今すぐ俺から離れて消え失せろって言ってくれないか?」
『オレだってこんな小娘なぞ鬱陶しいので何度も言ってはいるし、今の声もこの小娘にも聞こえている。
が、どうしても離れる気は無いらしい』
「ふ、ふざけんなよ……!? 何の理由があって……!?」
『曰く、自分の声と姿を一瞬ながらハッキリと認識したのはお前だけらしいからな。
友達になって欲しいと』
「と、友達だァ?」
話を聞く限り、霊は霊でもその昔散々な目に逢わされた『赤い飴玉を持った幼女の幽霊』だの『長すぎる黒髪をした真っ白衣装の井戸幽霊』といった悪霊の類いとは違うのはなんとなく理解したものの、だからといってそんな要求を聞く気にはなれない。
「そ、そんなの間に合ってるし、幽霊の友達なんぞ欲しくないわこっちは!」
『――――どうしたら友達になってくれるのですか? ………だとよ』
「ならねぇってんだ!! 俺に纏わりつくんじゃねぇ!! 消えろ! 今すぐに!!!!」
『嫌です――だとよ』
これなら謎に懐く猫達に纏わりつかれてた方がまだマシだ――と、猫の人造妖怪的な姉妹に対する嫌悪で猫に対して嫌悪を持つイッセー的には霊と猫なら猫を取るらしい。
「クソがっ!!
巷に溢れてる自称霊能者なんぞ金だけ毟るだけでなんの役にも立たなそうだってのに……! 学園長に相談しようにも校舎ぶっ壊した件で借りつくってしまったからな……」
『そういえばあの時、この小娘幽霊の姿を視認していたと思われる小娘が居たな……』
「! 誰だそれは?」
『ほら、よくお前に絡んでくる褐色肌の小娘だ』
「…………あのガキか」
『もしかしたら、あの小娘ならこの小娘幽霊を追い払えるかもしれんな』
「…………」
実害が無いとはいえ、精神衛生的には全く宜しくないので早急になんとかしなければと青白い顔で考えるイッセーは、しょっちゅう自分に絡んでくる少女の事を告げられ、一瞬本気で迷う。
「ち、ちなみになんだがやっぱりヤバイ姿してたりするのか? 例えば目ん玉が無いとか、腸ぶら下げてたりだったり……」
『…………。いや、見てくれなら虫も殺せなさそうな無害な小娘だな。本人もお前に害を加える気は無いとさっきから喧しく訴えているぞ』
「取り憑く時点で最早害以外の何物でもないんだが……」
今までカスとしか認識してなかった存在に今更頭を下げるか、それともこのまま『慣れて』しまうべきか。
まさに本人的には苦渋の選択になる訳だが、本人はまだ自覚は無無かった。
幽霊に取り憑かれてしまった事による影響がほんの少しだけ発現してしまっている事に……。
「く、と、とにかく今は用務員の仕事をしないとな……」
『そこまで怯える必要もないと思うし、多分あの小娘なら事情を話せば……』
「お、怯えてなんてねーけど!? 殴っても効かないからムカつくだけだし!? てかなんであんなガキを頼らなきゃならねぇんだ! …………………今更言えるかよ」
『はいはい……』
初対面の際のミスで両腕をへし折られて以降、イッセーからの塩対応が続く龍宮真名。
リアス以外に塩ならばまだ納得はするが、そうではないのだから心情的にも納得なんてできもしない。
そもそもリアスには速攻で謝って許して貰えたというのに、イッセーは塩のまま。
故に真名は日増しにイッセーに対する妙な執念を強める訳で……。
「………………」
先日、ノールックの裏拳で殴られた影響で鼻頭に絆創膏を貼っている真名は最早日課となっている用務員探しをしている。
クラスメートの数人……というかイッセーを知る者はそんな真名を何回も止めようとしたのだが、真名本人は止める気なんて更々無く、放課後となればいつもこうしてイッセーの姿を捉える為に学園敷地内を徘徊し、今回は久し振りにイッセーの姿を即座に見つける事に成功した。
「………………は?」
珍しく簡単に発見出来た事にちょっぴりテンションが上がる真名だったが、せっせと一人で花壇のお花の鉢植え作業をしていた作業着姿のイッセーの姿に何時ものとは違うものを発見してしまい、思わず声が出てしまった。
「…………」
それは帽子を深く被っていて何時もなら窺いにくい筈のイッセーの顔色が明らかに青白くなっているのもそうだが、一番はそんなイッセーの真後ろに薄透明に透けてる女子が無視しているように見えるイッセーに対してしきりに話しかけているのだ。
「………………………」
その瞬間真名はピンと来た。
先日の幽霊騒動の事や、その幽霊の声と姿が見えたとテンパって言っていたイッセーの事。
つまりあれは幽霊であり、その幽霊がイッセーに取り憑いているということになるのだと。
「……………………………………」
意外にもイッセーは幽霊が苦手という、ちょっと可愛らし―――ではなくて弱点を知ることになった真名は、左目に宿る魔眼のお陰で女幽霊の姿も声も捉える事が出来る。
だからこそなのだろう。
『わぁ、綺麗なお花ですねー?』
「………………………」
『お天気も良いですし、イッセーさんはどんな色のお花が好きなのでしょうか?』
「…………………………」
『私はこの白色のパンジーが好きかなぁ……』
「………………………………………」
『うー……だ、ダメかぁ……』
『一応貴様の声自体は聞こえてる筈だ。
が、イッセーは貴様のような存在が苦手なのだ』
『わ、わかってましたけど致命的ですよ……』
『これでわかっただろう? イッセーに取り憑いても貴様が望むような事にはならん。
わかったのならさっさとイッセーから離れて消えろ』
『い、嫌です! わ、悪い幽霊じゃないって思って貰えればきっと――』
「良いも悪いも無いんだよ俺は……」
『っ!? い、今私の声に……!?』
「………チッ、姿はまだ見えねぇが耳元で女の声が喧しく聞こえてしょうがねぇ。
テメーがドライグの言ってた霊だな?」
『は、はい! 相坂さよです! 気軽にさよって呼んで―――』
「やだ。そして消え失せろ」
『がびーん!!』
自分は生身ですらない女幽霊以下なのかと。
自分とは会話が成立するどころか、罵倒されるか、拳が飛んでくるだけなのに、幽霊とは青白い顔とはいえ普通に会話をしている―――様に見えた真名は生まれて初めて心の底から幽霊に対して嫉妬した。
それこそ現在進行形で物陰からハンカチでも噛んでいる様な顔だった。
『と、ところでイッセーさん。
あっちの物陰からずっと此方を――恐らくイッセーさんのことを見ている方が居る様なのですけど……』
「あ? ああ……」
そんな妬ましい精神を存分にぱるぱるしていた真名に気づいた相坂さよなる幽霊に気付かれ、告げ口される形でイッセーにバレてしまった真名はイッセーと目が合う事でハッと我に返る。
(ど、どうしよう? 別に悪いことはしてないから堂々としていれば良い筈だけど、彼にはその手の常識が通用しないし……)
下手をすれば殴られてしまうとオドオドしながら考える真名を他所に、シャベルを片手にこちらに近づいてきたイッセーが、何時もならガン無視か露骨に嫌そうな顔をするかしかしなかった真名に対して、突然シャベルを渡しながら一言。
「おうガキ、そんなに暇なら手伝え」
「…………………………へ?」
生まれて初めて『まともな言葉』を言われた真名は放心するような表情だったと後に語られる―――訳でもなかったそうな。
「あ、あの……こんな感じでどうだろうか?」
「ああ……」
これはひょっとして夢なのではなかろうか……。
あのイッセーと。
基本的に拳か蹴りか罵倒の言葉しか無いイッセーとお花の植え替えなんてやっているこの状況が全くもって信じられなかった。
(ぎゃ、逆に調子が狂う……)
しかし何度自分の手の甲にシャベルを突き立てたりしても痛いだけで夢から覚めるという感覚は無いし、これが本当の現実であることを理解していくのと同時に、なんかこうも普通の対応をされるとそれはそれで調子が狂うと思う。
(ドライグの言うとおりっぽいな。
このガキ、どうも俺の背中に取り憑いてるっぽい幽霊を視認できてるようだ……)
(さっきから女幽霊がこっちを凄い目で見てくるし……。
なんかこれ見よがしに兵藤イッセーにくっついてるし……)
「チッ、やっぱり何時もより身体が重い気がするな」
もしかしてこの女幽霊によって何らかの影響を無意識に受けてしまっているのではないかと考える真名は、ぼそりと身体の重さを呟くイッセーに恐る恐る訊ねてみた。
「あ、あの……。それは恐らく貴方の背後に……その……」
「っ……!? やっぱり見えてたのか……」
「ま、まあ……。
私の左目は少し特殊というか、普段は観えないものが見えたりするんだ」
普通に自分の手の内を晒しまくる形で説明する真名に、それまで作業に向けていた視線を再び真名へと向ける。
「へぇ? 特殊な目ねぇ……?」
「お、おっふ……」
普通の男には無い、狂気や狂暴さを孕んだイッセーの目に真名の口から変な声が出てしまう。
(わ、私はひょっとして明日にでも死ぬのかもしれない……)
そんな事まで考え始める中、イッセーは重々しく口を開いた。
「見えるって事は追い払う方法なんてのも知っていたりするのか?」
これでもし『知らない』とでも言えばそれまでのつもりで訪ねてみると、今までが今までだったのか、真名の顔がこれでもかと驚いたものになっている。
「え? あ……まあ、多少の心得はあるというか、これでも実家は神社で巫女のような真似事もするというか、なんなら後で巫女服の姿を貴方に見せたいというか、その後巫女としての尊厳を破壊しまくって欲しいというか……」
「つまり、出来るんだな?」
本音がつい爆発してしまう真名にイッセーは後半の言葉を丸無視する形で切り出した。
「なら、20万を即金で払うから俺に取り憑いてるらしいドグサレ幽霊を消し飛ばせるか?」
「……へ?」
『ちょっ!?』
自分のパワー(物理)では幽霊をぶちのめせないので、対幽霊スキルに心得のありそうな誰かに消して貰うつもりで、妙に真名に対して下手に出ていたイッセーの言葉に、相坂さよは勿論ギョッとするのだが、幽霊の意思なぞ知った事ではない。
「ムカつくが、消し飛ばそうにも消し飛ばせねぇんだよ」
『はひゃあ!?』
忌々しげな顔をしながら、虚空に向かってビームを放つイッセーの言うとおり、放ったエネルギー弾は見事にさよの身体をすり抜けてしまう。
なので、ムシの良い話であるのは承知で初めてまともな会話どころか、まともにお願いをしてみる。
「刹那や木乃香達にも見えてないらしいし、見えてるのはテメー………じゃなくて、キミだけらしいからな。
いやその……今まで散々ボロクソに言った事を踏まえたら断られるのは承知なんだが……」
当然、真名からしたら、これこそまさに千載一遇のチャンスだったので、二つ返事で了承する訳で……。
「わ、わかった! び、微力ながら祓ってみせよう!」
「! そうか。
じゃあ前払いとしてまずは10万を――」
「い、いや金は要らない! 貴方やグレモリー先生には迷惑をかけてきてしまったからな! これでお詫びになるとは思ってはいないが、タダでやらせてくれ!」
ギャーギャーと相坂さよがなにやら喚いて居るが、最早当人達の耳には全く入って居らず、お祓いの為の準備の話し合いへと話は流れていく。
「ええっとだな、霊を祓う為にはまず祓う者である私と対象となる貴方だけで行う必要がある。
故に当日はふ……ふ、ふ、二人だけになれる場所の確保が必要といいますか……」
「なに? ………となると用務員室が良いのか? いや待て、あそこだと皆来るからダメか」
なるべく密かに幽霊を消滅させたいので、皆が集う用務員室はダメだと一人ブツブツ言うイッセーに、『やめてください』と泣きながら懇願している女幽霊を前に、真名はあらゆる意味でどぎまぎし続ける。
「だ、誰も来ないであろう場所なら、思い当たる所があるのだが………」
「?」
だからこそ、今が今世紀最初で最後の大チャンスだと踏んだ真名はこれまた今世紀最初で最後の勇気を振り絞りながら、イッセーに提案をするのであった。
明くる日の事。
クラスメートはちょっと引いていた。
なんならルームメイトの刹那も引いていた。
というか担任のネギも微妙にビクついていた。
「~♪」
何故か知らないが、たつみーこと龍宮真名が朝から頗るにご機嫌だったから。
ご機嫌過ぎて鼻歌なんて歌い、スキップまでしていたから。
「お、おう……今日はやけに機嫌が良いな真名?」
「なにか良いことでもあったアル?」
比較的距離が近いというか、揃ってイッセーに一度ずつ程度は蹴り飛ばされた経験のある長瀬楓と古菲が若干引きつつ声を掛けてみたところ、ずっと一人でニヤニヤ顔だった真名は、それはそれは弾んだ声と共に頷いた。
「ああ、下手をしたら明日にでも死んでしまう程度には良いことがあったのでな……」
『………』
そう言って普段は広げもしない教科書を真面目に読み始める真名に、クラスメート達は嵐の前触れなのではなかろうかと逆に心配になる中、そんな真名を遠目に見ていた木乃香、刹那、ハルナ、夕映、のどか達は基本的にイッセーに相手にされなさすぎて目が常時死にっぱなしであった真名を怪しんでいた。
「なぁせっちゃん、何か変わった事とかなかったんか?」
「さぁ、昨日の昼までは何時もの通りでしたが、夕方辺りから人が変わったかのように……」
「最近のたつみーってイッセーさんにボコボコにされては凹んでばっかりだったもんね」
ファーストコンタクトを間違えた結果、イッセーから舌打ちしかされてこなかったせいで軽く拗れていた真名を知っているので、あそこまでの機嫌の良さはイッセー関連を越えた何かしらの幸福を知ったのかと思う訳で……。
「まさかイッセーさんと何かあったんじゃあ……」
「最近のイッセーさんは顔色が悪いですし、しきりに『なんか身体が重い』と言ってましたし……」
「いやー……多分なんもあらへんと思うで?」
「ええ、あのイッセーさんが急に優しくなるとも思えないし……」
しかし、流石にイッセーとの間の拗れに拗れた関係性を知るかるこそ、そこまでには至らなかったらしく、こんな日もあるだろうと言う結論に落ち着く中学生達なのだった。
そしてあれよあれよと時は過ぎて放課後。
何時も通りのどか達は用務員室で仕事をしているだろうイッセーのもとを訪ね、何時もの通りののほほんとした時間を過ごしていると……。
「っと、そろそろ時間だな……」
「? どうしたんイッセー君?」
「ちょっと学園長に呼ばれててな……」
時計の時間を確認しながら唐突に野暮用があるとだけ言うと、勝手に膝に乗って居た夕映を下ろしながら席を立つ。
「もう少ししたらリアスちゃんが帰ってくるだろうから、まあ居たければ居ても良いが少し待ってろ」
「?? リアス先生と一緒に呼ばれたのではないのですか師匠?」
「まぁな……とにかく大人しく待ってろよな」
やけにここに居ろというニュアンスと共に用務員室を出て行くイッセーを見送る女子中学生達。
「…………怪しい。
おじーちゃんがイッセー君を呼ぶ時は決まってリアスおねーちゃんと一緒に呼ぶ筈やのに」
「ええ……それに師匠は私達に『ここから動くな』と言っているようでした」
「な、何か危険なお仕事でもするのかな……?」
「例の裏のお仕事って奴?」
「可能性はある。
でもイッセーさんが危険になるってあるかな?」
当然少女達は何時もなら『早く帰れ』と言う筈のイッセーが『ここから動くな』とでも言うべき台詞を吐いた事が怪しく感じてしまう訳で……。
「………どうする皆? イッセー君にはドライグも居るし、半端な追跡やと速攻バレてしまうけど……」
「そろそろ気配を殺す修行の成果も試したいですし、私は賛成ですお嬢様」
「ちょ、ちょうど寮にイッセーさんに読んでほしい新作の本を忘れてきちゃったから……」
「突然喉も乾いたし……」
「着替えとか取りに行こうかなと……」
こうして少女達は各々の理由をでっち上げる様な形でこっそりとイッセーの行動を追うのであった。
『私の寮の部屋ならば、鍵さえ閉めてしまえば誰も来ない……が、桜咲がルームメイトなんだ。
だから、用務員室に上手いこと誘導してくれないか?』
なんて事を言われたイッセーは、一応言われた通りに刹那達を自分の仕事部屋に押し込んだ後に、真名が居る寮部屋へと向かう事になったのだが……。
「冷静に考えたらこのまま寮に入ったら速攻通報されないか…」
『……』
『うぅ……せっかくお話出来る人と出会えたのに……』
勝手にしくしく泣いている相坂さよをガン無視し、学園の女子寮近くまでやって来たイッセーが、ここに来て常識的な事を呟きつつ建物を見上げる。
『確か刹那の小娘と同じ部屋なのだろう?』
「ああ、一応部屋の場所はわかるんだが……」
『だったら外側の窓から入れば見られないだろう』
「……それしかないか」
なるべく通報されるリスクを回避する為、ドライグの意見を採用することになったイッセーは、以前聞いてもないのに懐いた犬みてーに自分の部屋の場所を教えてきた刹那の事を思い出しながら寮の裏手側に回り、二人の部屋であろう窓を発見する。
「あそこだな」
そして事もなく地上10数メートルはある高さを軽い調子で跳び、真名と刹那の部屋の窓枠に手を伸ばして掴まると、そのまま窓の中を覗くと……。
「……………」
「………………………」
『………………………………………』
『うぅ、まだ消えたくないよぅ……』
着替えの途中であっただろう、ほぼ全裸の真名とばっちりガッツリ目が合ってしまい、お互い数十秒程固まってしまう。
「あ、え……? あぇ?」
「……………………。すまん。終わったら言ってくれ」
流石に素で謝ったイッセーは窓からそのまま飛び降りるのであった。
「そ、その……別に気にしなくて良いからな……!?」
「いや、流石に普通に悪かった」
数分後、何故か巫女さんの服に着替えた真名が窓から手を出して合図を送り、今度こそ部屋へと入ったイッセーは、何故か目を渦巻きのようにグルグルと回しながらテンパっている真名に対してそれなりに気まずい気分になって謝る。
興味のない小娘とはいえ、着替えの最中を見るのはマナー違反だろうし、リアスに知られたら怒られてしまう。
「や、やめてくれ! 寧ろ何時ものアナタなら冷めた目で鼻で笑うだろう!?」
「……そんな状況じゃないくらいいくらなんでもわかる」
てか、なんで巫女の服なんだ? という疑問を持ちつつも余計にあたふたする真名に取り敢えず謝るイッセーは、真名自身が落ち着くのを待つのであった。
「で、では早速アナタに取り憑く霊を徐霊する」
「…………」
こうして更に10分後になって漸く落ち着きを取り戻した真名による徐霊作業が開始されることになる。
「徐霊といっても、簡単に言ってしまえば私の力とアナタの力を混ぜ合わせる必要がある。
そうすればアナタの力は霊を捉える事が出来るからな」
「つまり、このうざい幽霊を直接ぶちのめせるって訳か?」
「あぁ、私が直接成仏させても良いが、アナタ自身でケリを着けた方が良いだろう?」
「そりゃあな。で、どうすれば良い?」
あれだけうざったいと思っていた小娘によもや借りを作ることになるとはな……と、少々複雑な気分になりながらも、今はとにかく幽霊風情から解放されることが先決だと割りきったイッセーは、この場においては真名に主導権があると理解した上で訊ねる。
「そ、その方法は……まず私とアナタの力をこう、混ぜるといいますか……」
「?」
「た、例えば私がアナタに密着すればそれだけで霊が見えるだろうというか……」
恐らく真名をよく知るクラスメート達が今の真名を見たら声を揃えて『誰あの子?』となる程度には実にしおらしい物言いに、特にそこら辺の知識がゼロなイッセーは―――
「………チッ、仕方ねーか」
割りと単純に信じてしまっていた。
(う、嘘……ほ、本当に信じた? じ、実は案外騙されやすいのか……?)
言った当人である真名ですら、気味悪いレベルで素直に聞いているイッセーに内心驚きつつも、言ってしまったからには後には退けないと、恐る恐る床に座っていたイッセーの頭に手を伸ばし…………触れる。
「(ふ、触れられた……)ど、どうだ?」
「…………おう。よ~~く見えるな。クソガキ女幽霊がなァ……!!」
『ぴいっ!?』
案外ふわふわした髪質であること以上に、思った以上に普通の人間と変わらないのだと内心ドキドキな真名を他所に、漸く忌々しい幽霊の実体を捉えたイッセーは、途端に凶暴な形相と共に左右の指を鳴らしながら立ち上がる。
「っ!? 消えただと……?」
『お前が突然立つから小娘が触れていた手がお前から離れたせいだろう』
「む、そうか。
てことはブラフじゃなかったって訳か。
おい、悪いがもう少し触れててくれるか? すぐにでもこの世から消し飛ばしてやるから」
「う、うん……」
やばい、死ぬ。
きっと自分は死んでしまうんだ。
だって少し前――というか4日前までゴミ以下の認識しかされてこなかった自分が、話が出来るどころかこうして触れる事も出来るだなんて……。
こう、少女漫画の主人公にでもなった様な気持ちを爆発させまくる真名は、触れるどころかつい本能的にイッセーの背中に凭れるように身体を預け始めた。
「あ?」
「こ、こうした方が確実に触れていられると思って……」
「…………。こんな件が無ければ蹴り跳ばしてやったが、今だけは不問にしてやらぁ。
さぁてとクソ幽霊……漸くテメーを粉々にしてやる時間だぜゴラ?」
『ひぃぃ!? ど、どうしてそこまで嫌なんですかぁ!?』
「俺はギャーギャー耳元で騒がれんのが嫌いなんだよォ!!!」
思っていたより逞しい背中。
そして襟元の下に見える無数の傷跡。
そして何より、以前失敬したタオルに残っていたのと同じ――安心する匂い。
「ウォラ!!」
『ぎゃぴ!?』
「クハハハハ! おい小娘ぇ!! 振り落とされんなよォ!!!」
「は、はい……! ど、どこまでもついていきます………」
嫌いではある。
『や、やめ――』
「俺を本気にさせたのはテメーだクソ幽霊……!!」
大嫌いだ。
「行くぜ……!」
『Boost!!』
けれど、同時に―――
「龍拳ーーーッ!!!!」
好きになってしまった……かもしれない。
「はっはっはっー! スゲー爽やかな気分だぜー! リアスちゃんの膝枕で眠った時みてーによー!!」
「………………」
「突然イッセーの気配が爆発的に強くなったから何事かと思ったけど……」
「た、たた、龍宮ーー!!! 貴様! 人の師匠に何をしているーー!!!」
「うう……イッセーさんがぁ」
「た、たつみーの奴、いつのまにあんな……」
「普通にムカつく……」
「なるほどなぁ……複雑やこれは」
テンション上がりまくって単体奥義というオーバーキルかましたせいで普通に大バレ噛ました事にはまだ気づかず、イッセーは真名を背負いながら腕を振り上げた体勢のまま高らかに笑うのだった。
(こ、こんな近くで、楽しそうに笑ってる………)
その表情が余計に拗れた少女を更なる奈落の沼に沈めている事に気づかずに。
徐霊という点において一気にそれまでの関係に変化が訪れたたつみー
結果、本屋ちゃん達と同じ様な沼に沈んでしまった感は否めない。
その2
幽霊さん相手に割りとマジの単体奥義で成仏させた模様。
オーバーキル