色々なIF集   作:超人類DX

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続きです。

引き続きわけわからん。


解き放つ元・赤龍帝

 

 

 

 兵藤一誠は赤龍帝だった。

 

 兵藤一誠は神器使いであった。

 

 兵藤一誠は神器の中でも最高ランクと評される神滅具の使い手であった。

 

 

 自由を奪い返す為に駆け上がり続けた日々には必要不可欠であった力。

 だが今やその力のほぼ全ては一誠の中から、最後まで戦ってくれたドラゴンの意思と共に失われてしまっている。

 

 残されているのは嫌でも磨き続けた『相手を殺すだけの術』と燃えカスの様に残り続けている『己自身の精神』。

 

 そして、生まれ変わろうとも戻る事は無かった、遮二無二駆け上がり続けた結果とされる『進化のなれの果て』となる肉体強度だけだ。

 

 

 もはや不必要だと思っていた。

 戦うことも、自由の邪魔をする気にくわない奴等をぶちのめす事もないと思っていた。

 

 だが、異世界という非日常へと引き摺り落とされた現在―――彼は再び封じ続けた『己』を解き放つ事になる。

 

 

 

 

 

 

 トータスなるよくわからない異世界に飛ばされ、勇者が云々と抜かす怪しい連中の戯言を間に受けた一般社会を生きる若き学生達も、二週間という時間を異世界で過ごしてきた事で少しずつ戦う意思を――――言ってしまえば、耳心地の良い台詞を吐いていた連中達の戦争の駒にさせられていく今日この頃。

 

 所謂基礎的な訓練を終えた彼等はついに生身の魔物を相手に戦う為の訓練という事で、オルクスなる名の迷宮へと入ることになった。

 

 

「……………」

 

 

 こうして人間というのは、知らず知らずの内に先導――いいや、洗脳されていくのだろうな。

 そんな事を考えながら、既にこの世界の住人達にとっても違和感を感じない服装に身を包んで、遠足気分ではしゃいでいる一学年の生徒達を眺めながら、イッセーだけはこの世界の服屋にクローニングさせた学生服姿でぼんやりと考えていた。

 

 

「いよいよですね先輩……」

 

 

 人間が何で豚や牛といった家畜を罪悪感も感じずに喰えるのかが解ってきた気がしたなと考えていたイッセーの傍にやって来て緊張の面持ちで話しかけてくる後輩。

 

 名前は南雲ハジメであり、異世界に召喚されてから初めてまともに話をするようになった少年だ。

 

 

 

「結局、僕の能力は一般人程度から殆ど変わっていませんし、かといってサポートに徹しようにも天職である錬成師のスキルを生かせるだけの魔力もありませんし……。

こんなダメダメな状態で生き残れるか……」

 

 

 初迷宮を前に少し気後れしている様子のハジメに対して、イッセーはまあまあぶっきらぼうに口を開く。

 

 

「大丈夫だろ。

あの騎士団長のおっさんが言うには、危険な生物が出てくる階層までは降りないらしいからな」

 

「あはは、それはそうなんですけど……」

 

「それに本当にヤバイってんなら―――」

 

「私が南雲君を守るから……!」

 

 

 手ぐらいは貸せる――そう言い掛けた所で、背後から女子の声が聞こえたハジメとイッセーがその方向へと振り向く。

 するとそこに居たのは笑みを溢す香織と、先日の件からまあまあ不機嫌な雫が居た。

 

 

「し、白崎さん? それに八重樫さんまで……。

天之河君達ならもっと前の方の列に居る筈だけど……」

 

「うん。でもその前に南雲君と兵藤先輩に挨拶しておきたくて、雫ちゃんと来ちゃったんだ? ね、雫ちゃん?」

 

「…………ええ、そうね」

 

「?」

 

 

 香織に振られ、頷きはしたものの完全にイッセーからそっぽを向く雫。

 完全に私は拗ねてます的な態度をしている状況にハジメは先日の件を半分盗み聞きしてしまっていたのもあるので、ちょっとだけハラハラする。

 

 

「もう、機嫌直そうよ雫ちゃん?」

 

「別に機嫌は悪くないわよ。

ちょっとだけ今はイッセーをみたくないだけだもの」

 

「またそんな事言って……。

ごめんなさい先輩、全然機嫌が直らなくて……」

 

「別に良いが……」

 

 

 相変わらず相手にする気のないイッセーの態度に、更にムッとする雫。

 

 

「へぇ? モテモテなイッセーからすれば私みたいな木っ端小娘のことなんてどうでも良いのね?」

 

「前からそう言ってんだろ。

なんだ? 今更やっと幻滅でもしてくれたのか? よっしゃあ、それなら俺に二度と近寄るんじゃあ――」

 

「わー! わー!!」

「ストップ! ストップです先輩!!」

 

 

 本当に呆気なく雫に対して失せろとでも言い掛けるイッセーに、打ち合わせをするでもなく香織とハジメが同時に大声を出しながらイッセーを止めつつ、二人してイッセーの腕を引っ張って雫から少し離れる。

 

 

「し、雫ちゃんの態度は私が代わりに謝りますから、それ以上は勘弁してあげてください……!」

 

「別にキミが謝る必要なんて無いだろ。

アイツが勝手に機嫌悪いだけだし、なんならそのまま離れてくれる方が俺的には――」

 

「ほ、本当に噂と事実が正反対であるのはわかりました。

だ、だけどそれを言ったら多分八重樫さんが立ち直れなくなりますから……! げ、現にほら!」

 

 

 

 そう言って香織とハジメが後ろに居た雫を指すので振り向いてみると、着ていた服の袖を掴みながらプルプルと震えて涙を我慢している雫の姿があった。

 彼女のファンの生徒達からすれば超激レア光景なのだが、相手は生憎の『寧ろあれが素で見慣れてる』イッセーだったので、逆にかったるそうだった。

 

 

「よくある事だろ。

あれは暫く放置してても勝手に近寄ってくるしな」

 

「い、一応学校やクラス内では凛とした美少女というイメージだったんですけど……」

 

「ああ、そんな触れ込みだったっけ? 前から思ってたけど、見る目がねぇよなそいつ等」

 

「や、雫ちゃんのああいう所って先輩にしかみせないですし……」

 

 

 

 しまいには幼子のように『うーうー』と言い出している雫に対して、相変わらず雑な対応であるイッセーに、香織とハジメはなんとか宥めながら、それなら何時もと違う対応をしてあげたらどうかと提案する。

 

 

「違う対応って言われてもな……。なんだ? 謝れってか?」

 

「まあその、雫ちゃん的には頑張って先輩のお部屋を訪ねたら、先生と居たって状況に大分ショックだったから……」

 

「僕も正直驚きましたよ。

先生と先輩が結構仲が良いことに」

 

「まあ、一年の頃の担任があの人で、目ェつけられちまったからな。

ったく……わかったわかった、要は機嫌を直させりゃあ良いんだろ? なんで俺が一々……」

 

 

 ぶつくさ言いながら、何故か期待しているような眼差しを送るハジメと香織を背に、プルプルしていた雫の前に立つイッセー。

 

 

「グスッ……な、なによ?」

 

「………………」

 

 

 め、めんどくせぇ。

 既に涙目で此方を見上げるような見てくる雫に対して普通にひどい事を考えたイッセーは、いっそ『失せろバカ』とでも言いたくなるのだが、後ろをチラッと見ると、揃ってワクワクしているような目でこっちを見てくるハジメと香織の謎の威圧感に負ける形で、はぁとひとつ息を吐いてから口を開く。

 

 

「オメーが何で機嫌が悪いのかは、何と無くわかったわ。

あー……なんだ、悪かったよ」

 

「……。二人に言われて仕方なくでしょ?」

 

「半分はな。

もう半分は、まあ、オメー泣いてるからちょっとは悪いかなー……と」

「………………。嘘でも後半だけ言ってよ、ばか」

 

「…………。わーったわーった!! 悪かったよ! だから泣くな!」

 

 

 ついに根負けする形で謝ったイッセーの手がそのまま雫の頭に置かれる。

 

 

「今度ゼリーでも奢ってやる。それで許せ」

 

「……………………うん」

 

「ったく、これじゃあまともに女も作れやしねぇじゃねぇか俺は……」

 

「私がなるわよ。というか既になってるわよ……」

 

「へっ、その台詞は俺以外の野郎にいうんだな。

多分泣いて喜ばれるだろうぜ?」

 

「いわないわよ。

私は浮気なんてしない主義だもの……」

 

「………。ちっ、本当に『アイツ』みたいな奴だなオメーは」

 

 

 まだ目尻に涙は残っているが、既に泣き止み、笑みを浮かべる雫にイッセーはやれやれとため息を吐きながら、とことんかつての親友に色々な意味でそっくりだと思いつつ、機嫌は直ったなと少しホッとする。

 

 その後ろでハジメと香織が無意識にハイタッチをしてから、ハッとなってお互いに恥ずかしそうに背を向け合っているのだが、そんな光景を見ていた『誰かの悪意ある視線』には気付くことはなかったのだという。

 

 

 

 

 

 そんな『嫉妬のような視線』に気付くことなく入る事になった迷宮の一階層目。

 この世界の者達にとっては上異世界の人間たる勇者組達にのっては割りと楽勝だった――ハジメ以外は。

 

 

「………」

 

 

 それはイッセーも同じであり、寧ろ浮き足立つ勇者組とは正反対に、なんの躊躇いもなく、呼吸をするように魔物達を殺していく姿に偶々見ていた生徒達の何人かに恐怖を抱かせる程度であった。

 

 

「お前は確か兵藤だったな?」

 

「………はい」

 

「ふむ、まだ低階層とはいえ魔物を素手で一撃で仕留めているばかりか、返り血の一滴も浴びないか」

 

「どうも……」

 

 

 実はうやむやにしてまだステータスプレートの登録をしていないイッセーからすれば、騎士団長にて監督役のメルドに絡まれるのはあまり歓迎できるものではないので、内心舌打ちをする。

 

 

「そういえば貴様のステータスプレートを見た覚えが無いんだが、確認の為に見せてくれるか?」

 

「…………………」

 

 

 案の定、何時までもうやむやに出きるものでは無かったらしく、メルドからプレートを見せてくれと言われたイッセーは盛大な舌打ちを心の中でしながら考える。

 

 

(さてどうするか、このおっさんの頭に拳を叩き込んで強引に前後の記憶をシェイクしちまうか?)

 

 

 意地でも(カス)の恩恵とやらが絡んでくるプレート登録をする気は無いイッセーが無意識に拳に力を込めていると……。

 

 

「メルドさん、少し聞きたいことが……」

 

「? なんだ八重樫?」

 

「ええ、実はさっきの魔物を倒した時の事なのですけど……」

 

 

 二人を別の場所から見ていた雫が、メルドの気を逸らしてくれたお陰で、メルドの頭の形が変形するといった惨事は回避されることになった。

 

 

「………」

 

「! ……貸しひとつってか? ちゃっかりしやがって」

 

 

 まんまと騙されたメルドが雫のもとへと移動すると、ちらりと此方を見た雫に小さくウィンクをされたので、イッセーは悪態をつきつつも内心はほっとしつつ、瀕死の魔物をなんとかナイフで倒していたハジメの方へと移動する。

 

 

「ふぅ……なんとか倒せた」

 

「なんだ、ちゃんと殺れるじゃないか」

 

「あ、先輩。

いやその、倒したといっても騎士団の人達が既に瀕死にしていたので、殆どトドメだけで……」

 

「最初はそれで良い。

あっちで技的なもんぶっぱなして殺った気になってるよりは、直接相手を『殺した』という認識を持てるようになる」

 

「は、はあ……」

 

「だからそれで良い。

最初に必要なのは、敵を殺る力でも、魔力でも無く……自分の手で殺したという認識だからな。

どうだ? 自分の手で獣とはいえ殺した気分は?」

 

「………。正直気持ちの良いものではないです。

それに、魔物だからまだなんとも言えないですけど、これが人だと思うと怖いです……」

 

「なら、その気持ちを忘れるな。

決して正当化なんてするな、愛だの平和の為だと御大層な台詞を抜かしながら殺ることは殺っている奴等と今の俺達がやっていることは変わらないってことをな」

 

「……はい」

 

 

 かつての相棒にて、父の様な存在だったドラゴンに教わった『戦う』という行為についての持論をハジメに教えるイッセー

 

 

「先輩って不思議ですね。

まるでずっと昔から戦ってきたような言葉に思えるし……」

 

「……。色々あるんだよ」

 

「色々、ですか」

 

「ああ……」

 

 

 そう言いながら朽ち果てた獣からメルドに言われた通り魔石を取り出し、自分が殺した際に回収していた魔石をハジメに渡しながら、イッセーは遠い目をする。

 

 

「そうだな。ついでに言っておく事があるとするなら、この先生きたかったら少し自分の手を汚す程度にオタオタするなよ。

少しでも手を汚す事に躊躇えば最後、自分が地獄に落ちる事になる」

 

「それもまるで『経験している』様に聞こえますけど……」

 

「まあ、あるっちゃああるからな。

詳しくは言いたくねぇけど」

 

 

 

 魔法や剣の技で魔物を殺すことも、直接刃物や武器で魔物を殺すのも同じである。

 最大の違いは、自分で直接『殺した』という認識が濃いか薄いかだ。

 

 現に精神的には一般人でしかない他の生徒達は覚えたての魔法やら技で次々と魔物を狩っているが、恐らく直接の自分の手で殺すよりは遥かに『他を殺す』ということへの罪悪感は薄い。

 一々その事を指摘してやる程親切でもなければ暇でもないイッセーは、そんな彼等を見ているだけに留めるが、あらゆる技能やステータスが低いからこそ直接その手で殺すしか戦う術を持たない今のハジメには、かつて歩んだ自分の感覚の一端を教えておく。

 

 

「結局殺す殺されるの話なんて、突き詰めたら『ムカつくから』に他ならないんだよ。

そこに一々理由を求めてる奴は、理由を作ってテメーの抱える罪悪感を誤魔化しているだけだ」

 

「…………」

 

「だから、殺すと決めたその瞬間に躊躇いは持つな」

 

 

 これから先、ハジメが生きて帰れるかはハジメ次第だ。

 だが、少なくとも今のイッセーはこの面々――まあ、雫や愛子を抜かせば一番に『生きてては欲しい』と思うのだから。

 

 こうして密かにイッセーから『殺す際の精神について』を教わりながら、20階層まで降りたハジメは、途中の階層からはイッセーが横から保持する形となりながらなんとか少しずつ強くなる魔物達を撃退していったのだが、ここに来て最悪の災難が全員を襲う。

 

 

 切っ掛けは、天之河光輝が放つ謎の大技についてメルドに注意された事から始まった。

 メルドの注意通り、洞窟のようなフロアの岩肌が崩れて出てきたグランツ鉱石なる、香織が小さく『綺麗……』通り呟く程には輝いている鉱石を発見したことから始まった。

 

 異世界に来てからイッセーのせいで色々とケチが付き始めていた檜山が、得意になって鉱石を取って来ようと壁をメルドの制止を無視してよじ登り、グランツ鉱石を掴んだ事で、何かしらのスイッチが入ってしまったかのように罠が発動。

 騎士団達とクラスメート達は大規模な魔方陣に包囲され、何階層かもわからない巨大な橋のある階層へと飛ばされてしまったのだ。

 

 

 それだけでならばまだ良かった。

 問題があるとするならば、黒い魔方陣と共に現れた魔物と、逃げ道を塞ぐように反対側から出現した骸の化け物が襲い掛かって来たことだろう。

 

 メルド曰く、巨大な獣のようは魔物は65階層まで到達した冒険者でも勝てなかったベヒモス。

 骸の化け物は38階層に出現するトラウム・ソルジャーであることだろう。

 

 訓練をしたとはいえ、二週間そこらの戦闘経験しかない少年・少女達には強大な敵であることには間違いないし、ベヒモスに至っては騎士団達が居ても逃げの選択を強制させる程の魔物だ。

 

 それでも生き残るために陣形を作ってトラウム・ソルジャーの群れと対峙する生徒達の先頭には雫が居る。

 

 そして後方には逃げろと言われても退かなかった光輝とメルドがベヒモス相手に時間を稼ごうとしている中ハジメは、光輝に混乱しているクラスメート達を纏めてくれと懇願する。

 

 ………己が時間を稼ぐと宣言しながら。

 

 

 本来ならば、ここで南雲ハジメの『運命』が変わる事になる。

 

 だが、その運命にはある『異物』が混ざっている。

 彼という異物が……。

 

 

「…………………」

 

「い、イッセー……!」

 

 

 自由の為に全てを捨ててでも一度は頂に到達した『人外(ビースト)』が。

 

 多くの生徒達は檜山達よりもタチの悪いチンピラで、雫のストーカーという認識しかなかった二学年の男。

 そんな男が、危うくトラウム・ソルジャーに斬られ掛けた雫を庇うように立ちはだかり、その一体をただの手刀の一撃でバラバラに粉砕したのだ。

 

 謎に強そうなオーラは檜山達をボコボコにしたのを見たので察してはいた。

 だが足を怪我をして動けない雫を雑に抱えながらというハンデ丸出しの状態にも関わらず、右手だけで次々と現れては襲い掛かるトラウム・ソルジャーの群れを破壊していくのだ。

 

 無表情で、何の躊躇いもなく、いっそ恐ろしいまでに冷えきった目で。

 

 

「う、嘘だろあの先輩。

オレ達が複数人掛かりでも倒せない骸の化け物を八重樫を抱えた状態で簡単に……」

 

「………くそっ!」

 

「龍太郎……?」

 

 

 どんどんと速度を上げながら雫を抱えたままトラウム・ソルジャーを屠るイッセーに呆気に取られる生徒達。

 その中には、自分と似た戦闘スタイルであるが故に、嫌でもその差を突き付けられてしまって歯を喰い縛りながら睨むように見ている生徒も居たとか。

 

 

「あ、あのイッセー? もっとこう、漫画やアニメであるようなお姫様抱っこで抱えて欲しいなぁなんて……」

 

「両手が塞がるだろうが、我慢してろ」

 

「や、イッセーなら足だけで倒せそうな気が……」

 

「確証がねぇんだよ。

こちとら大分『衰えて』るからな」

 

「衰えてる……?」

 

 

 そんな様々な視線や恐怖心を抱かれている事に対してかなりどうでも良いイッセーはと言えば、雑に抱えられている事にちょっとした不満とお願いをする雫の言葉を一蹴しながら、トラウム・ソルジャーの頭を踏み砕きながらそれを足場にしてから、まるで某髭の配管工のおっさんのようにトラウム・ソルジャーの頭部を踏みつけて破壊していく。

 

 

(チッ、ドライグが居ないから純粋に身体能力だけでやってるが、まどろっこしいな。

本当ならこんなのドラゴン波の一発で一瞬で消せるんだがよ……)

 

 

 端から見ればまさに無双の状態なのだが、イッセー本人からすれば全盛期の頃の力の半分は失われたことで、ドライグと共に編み出した必殺技も使えなくなっている事に少しの歯痒さを感じている。

 

 

「死ねやこのボケ!!」

 

「ひでぶっ!?」

 

「あべしっ!?」

 

「…………。何ででしょうね、さっきから骸の化け物の断末魔がコミカルに聞こえてくるわ」

 

 

 

 そんな歯痒さとは裏腹に、無尽蔵に出てくると思われていた群れを本当に一人で殲滅させて見せたイッセーは、横で抱えられた状態の雫に妙な既視感を抱かせたとか。

 

 

「…………今の最後だな」

 

「ええ、その、ありがとう――いたっ!?」

 

 

 唖然とするクラスメート達を背に、最後のトラウム・ソルジャーを蹴り壊したイッセーは、これ以上出て来ない事を確認すると、息切れひとつ無く雫を降ろそうとするが、緊張が解けて安心したのか、忘れかけていた痛みを思い出す様に雫が苦悶の表情を浮かべる。

 

 

「く、不覚だったわ。

けど何とか歩けそうだから…」

 

「………」

 

「? どうしたのイッセー――きゃあ!?」

 

 

 それを見ていたイッセーは、暫くじーっと怪我の部分である足首を抑えて小さく蹲る雫を見つめると、突然雫の身体をひょいと――それも先程本人からのリクエストだった横抱き……つまりお姫様抱っこという形で抱え上げたのだ。

 

 

「え? えっ!??? ま、待ってイッセー! た、確かにこういう風に抱えて欲しいなぁとは言ったかもしれないけど、流石に恥ずかし――」

 

「うるせぇ、白崎さんのとこに運ぶだけだ。

あの子ならオメーの怪我を回復させられるだろうし」

 

「あ、ああそういう……。

だ、だったらさっきみたいに雑に持てば良いのに……」

 

「オメーが畜生に殺られかけてるのを止めるのが少し遅かったのは俺の落ち度だ。

……悪かったな、遅くなってよ」

 

「…………………………………」

 

「…………なんだよ?」

 

「えと、これってもしかしなくてもプロポーズって奴なのかしらと思って」

 

「ちげーわ馬鹿。やっぱりオメーはアホだな」

 

 

 何時もの調子である雫の様子に、小さな怪我程度で済んでるなと内心ちょっぴり安心しながらも、何時も通り突っぱねながらテクテクと、固まってしまっているクラスメート達に『退いて』と言って道を開けさせながら、心配そうな顔をしていた香織のもとへと連れていく。

 

 

「悪いな白崎さん、少し反応が遅れて軽く怪我させちまった。

回復頼めるか?」

 

「は、はい……! で、でも向こうの方でまだ南雲君達が……」

 

「分かっている。

保証なんかできないけど、南雲君とあの騎士団のおっさんはなんとかする。

だからキミはこの子を頼む」

 

 

 そう言って、今になってこっちに走ってきている光輝―――ではなくて、地面に向かって錬成の魔法を発動して動きを止めようとしているハジメを見据えたイッセーは、自分の左胸に右手の親指の先を当てながら少しだけ目を閉じる。

 

 

(久々に畜生共をぶち殺してやった。

ふふ、やっぱり俺は『壊れたまんま』だったぜドライグ、ゼノヴィア)

 

 

 

 思い返すは過去の己。

 全てに対して中指を立てながらがむしゃらに走り続けた過去の自分。

 

 過去の己とは違い、戦ってくれる相棒や親友は今はもう居ない。

 力の半分を失っている現状、あの魔物を一撃で消し飛ばせるだけの火力も無い。

 

 

(さて、『俺』に戻った時、こいつ等はどんなツラになるかな?)

 

 

 ならば今に至るまで封じ込めてきた『真の自我』へと『戻す』しかない。

 そうでなければ、このクソッタレな世界を超越者気取りで見下ろす(カス)に中指は立てられないから。

 

 だからこそイッセーは一度は強引に閉じた扉を―――

 

 

「っ……」

 

「イッセー……?」

 

「………………………………」

 

 

 破壊し、解き放つように静かに目を開けた。

 

 その寒気すら感じとる静かな解放に、一番近くに居た香織と雫だけがその変化に気付いた。

 

 説明なんかできない。だが今確実にそれまでのイッセーとは違う何かがイッセーにはあると。

 

 

「……………」

 

 

 それはまず目にあった。

 何時もは常に死んだ魚のような目をしていたというのに、今のイッセーの目はどうだ。

 まるで獲物を狩る獣を彷彿させる―――言うなれば『生きた目』へと変質している。

 

 同時に放たれる雰囲気は容量が計れなくなるほどに強大で――

 

 

「え、な、なん……だ……?」

 

「さ、寒くないのに震えが……と、止まらない……」

 

「んぶっ!? おえぇっ!?」

 

 

 周りにすら影響を与えるほどで……。

 

 

 

「……………」

 

 

 そんな彼等を一瞥だけした『ギラギラとした目』をしたイッセーは、チラリと香織……そして雫を見据える。

 

 

「…………」

 

「イッセー……」

 

(怯えはない、か。

まさかこの白崎って子まで俺に怯えないとはな。

ったくただの人間だってのに変なのばっかりだぜホント……)

 

 

 他の生徒達と違って怯えることなくイッセーと目を合わせている事に、ほんの少しだけ笑みを溢したイッセーは、暴れ倒しているベヒモス――に必死に抗うハジメを強く見据えながら口を開く。

 

 

「すぐに南雲君……と、ついでにあのおっさんを連れて戻る」

 

 

 そう宣言しながら一歩踏み出そうとするイッセーを雫が呼び止める。

 

 

 

「役立たずな私の言葉なんて必要ないけと思うけど、これだけは言わせてイッセー―――――――頑張って!」

 

 

 雫からの送り出す様な言葉にイッセーは二人に背を向ける。

 

 

 

「…………………承知」

 

 

 久々の悪意なき声援を受けたイッセーの精神が更なる高揚感へと誘い、雫の言葉に小さく返したイッセーは、トラウム・ソルジャーの時とは更に次元の違う脚力で駆け出すのであった。

 

 

「み、皆大丈――ぶばっ!?」

 

『光輝!?』

 

 

 その際、戻ってきた光輝と激突事故宜しくに衝突してぶっ飛ばしてしまったが、イッセーは気にせず、今まさに巨大な爪を突き立てられそうになっているハジメを助ける為―――

 

 

 

「良い音聞かせろやァァァァァッ!!!!!」

 

 

 ベヒモスの顔面をぶち抜くのだ。

 

 

 

 

 

 ハジメはまさに『ヒーロー』を見た気がした。

 才能から何からどうしようもない自分が、囮役を買ったのに結局それすらもまともに果たせそうになかったと独白したその刹那に自分の目の前を走る閃光。

 

 それは先程までとは明らかに……根本から様子が違う先輩ことイッセーだった。

 

 

「お、お前は兵藤。

何故お前が……」

 

「向こうの畜生は黙らせた。

白崎さんと八重樫に頼まれてな。彼を助けに来たんだよ」

 

 

 派手に吹き飛ばされたベヒモスが顔面から夥しい量の血を流しながら、突然現れた『敵』に怒りの咆哮をあげている。

 その咆哮だけで周囲の空気を振動させ、瓦礫を破壊するものだったが、真正面から受けているイッセーは全く意にも返さない様子で、ボロボロのメルドに説明をする。

 

 

「おっさんはとっとと戻れ。普通に邪魔だ」

 

「じゃ、邪魔だと。お前こそ―――」

 

「邪魔だって二度も言わすなよ? じゃねぇとあの畜生の餌にすんぞボケ」

 

「うっ……」

 

 

 明らかに迷宮に入る前のイッセーの放つ殺意に、一瞬で戦意を破壊されたメルド。

 

 明らかに異質ななにかを放っているが、その正体がわからない。

 

 

「おーおーおー、少しは壊れにくい畜生で結構だわ。

こちとらテメー……いや、あの半チクコゾーのせいで仕舞ってたもんを引きずり出す事になっちまったんだ。

簡単にはぶち殺さねぇぞォ!!!!」

 

 

 異常な速度。

 ベヒモスを吹き飛ばせる異常な膂力。

 そのどれもが、それこそ勇者である光輝すらも霞む程に見えてしまう。

 

 

 

「ぎゃ……ヒッ……!」

 

「なんだ、もう終わりか? つまらねぇ畜生だなオメーは?」

 

 

 

 

「あ、あのベヒモスが、明らかにただ一人の人間に怯えているだと……?」

 

「す、凄い……!」

 

 

 あまりにも異常な光景。

 たった一人の人間がベヒモスを瀕死まで追い込んでいる事が。

 

 しかもその手段が全て素手であることが。

 

 角を折られ、爪を砕かれ、歯を粉々にされ、最早戦意すらないベヒモスに対してイッセーはベヒモス以上のギラギラとした目をしながらトドメを刺さんとその顎を蹴り上げた。

 

 

「あばよ畜生」

 

 

 勢い良く空中へと蹴り上げられたベヒモスに対してそう呟いたイッセーは、重力の法則の通りに落下してくるベヒモス目掛けて跳躍すると、その心臓があるであろう部分に向かって拳を突き上げ……身体ごと貫通させ、絶命させるのだった。

 

 

「あーきったねー……」

 

「…………」

「…………」

「…………」

 

『………………………』

 

 

 誰もがイッセーの行った所業に言葉が出ない。

 何も知らないのは、イッセーと衝突してぶっ飛ばされて気絶している光輝だけだろう。

 

 

「おっさん、ハンカチか何か持ってねぇか?」

 

「い、いや無い……が」

 

「あ、僕持ってます。ハンカチじゃなくて布ですけど……」

 

「んぉ? そうか、じゃあ貸してくんね?

手が腸臭くてよ」

 

 

 まさに異常。

 そんなイッセーの異常性に空気も言葉も止まる状況の中、ハジメだけは早くに復帰し、イッセーにフェイスタオルサイズの布を渡す。

 

 

「イッセー! 南雲君!」

 

「二人とも大丈夫!?」

 

 

 もっとも、ハジメ以外に雫と香織もなのだが……。

 

 

終わり。

 

 

 

 

 

 

 これはほんの少しだけその後の運命を、異物によって変える事になる少年のお話。

 

 

「別に恩なんざ売ったつもりはないんだが、あのガキ共の誰かがオモクソ仇にしやがったな」

 

「間違いなくあの時誰かが僕達に向かって魔法を撃ってきましたからね……」

 

「まあ、お陰で行方不明扱いになれたし、割りとその方が俺的には都合は良いけど……」

 

 

 

 

 

 

「二人とも、ご飯できたわよ」

 

「今日は雫ちゃんと一緒に戦って勝った魔物のお肉のソテーだよ!」

 

 

 

 

 

 

 

「まさかあの子達まで追って落ちてくるとはな」

 

「多分、天之河君達が絶望してるかもしれませんね……」

 

 

 片手と片目を失ってもその性格までは変わらなかった少年。

 孤独ではなく、寧ろ孤独とは正反対の、場所はアレなのになぜかほのぼのとした空気感。

 

 

「ふふふ、これは確実に先生に勝ったわ。

何故ならこれは異世界を舞台に私とイッセーの新婚旅行なのだから!!」

 

「寝惚けんなアホが」

 

「アホで結構よ! 何故ならこれは揺るぎ無い現実なのよ!」

 

 

 

「雫ちゃんがとても楽しそう……」

 

「だね。

ベヒモスの件から余計先輩に遠慮しなくなってるしね」

 

 

 仕方無く追ってきた二人にも『生きる術』を教えたり。

 

 

「それでねハジメくん、まだその義手だと食べる時に大変でしょう? だ、だから私が食べさせてあげるからね?」

 

「あ、う、うん……ありがと香織さん」

 

 

 最初から一緒のせいか、仲の深まりかたがすげぇスピードだったりするハジメと香織だったり。

 

 

「むむ、香織とハジメくんの方が進んでいるわね。

これは私達も負けてはいられないわ―――ということで私達は取り敢えず軽く裸でプロレスごっこを……」

 

「一人でやってろ」

 

「ふふん、もう既に何回かしてるけど? イッセーに稽古を付けられた夜に眠れず、こう、イッセーにされていることを想像しながら――」

 

「……………」

 

 

 遠慮の無さが悪い方向へと爆走していたり。

 

 

 だけど、そんな事ばかりではなく――

 

 

 

「こ、この剣って……」

 

「そうか……ゼノヴィアの奴、こんなものを俺に仕込んでたのか」

 

 

 ある戦いの際に目覚めし剣。

 その剣が青年から少女へと伝わった時、少女は後継者となる。

 

 

「この剣を――デュランダルを手にした瞬間、ゼノヴィアさんの記憶が私の中に入ってきたわ。

だからイッセー、アナタの事も知ることができた」

 

「…………そうかい」

 

「そうね。こんな生き方をしてきたのなら、私の事なんて見る気にもなれなかったのも納得だわ」

 

「それなら――」

 

「けど、余計燃えてきたわ。

イッセーにどんな過去があったとしても、私にとってイッセーは今のイッセーよ。

過去なんて関係ない。私はイッセーが大好きよ」

 

 

「………」

 

 

 後継者となっても変わらない精神。

 そして過去に留まり続けた青年は―――

 

 

 

「ふ、ふっはははは。

そうかい、そうだったのか……! なるほどな」

 

「む、何じゃ? 妾の夫に何かあるのか?」

 

「夫……ねぇ? くくくく、おいおいおい、結構羨ましいじゃねぇか、こんなスイカねーちゃんが嫁だなんてよぉ――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――なぁドライグ?」

 

 

 

 己ではなく、誰かの為にその力を注ぎ込む。

 

 

 

『久し振りのお前との実戦だ。

腕は錆びてないだろうな?』

 

「当然だ。

ドライグこそ、スイカねーちゃんとシケ込み過ぎてサボってんじゃねーよなぁ?」

 

『アレはアイツが勝手に言ってる事だ。

オレは単にアイツの一族に言われて面倒を見てただけだからな』

 

「本人はそう思ってねーみたいだぜ? あーぁ、ドライグも女泣かせだねぇ?」

 

『その台詞に関してはお前にだけは言われたくないんだが……』

 

 

 

 頂から見下ろすのではなく、誰かの歩む道を守る為に。

 

 

「さぁて、赤龍帝の復活だ!! 派手に行くぜドライグ!!!」

 

『Boost!』

 

 

 再び青年の情熱は業火となりて燃え上がるのだ。

 

 

「ウルトラビッグバン――――ドラゴン波ァァァァァッ!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

「のうイッセーよ。

ドライグが言うには、お主は息子のようなものだと言っておった」

 

「? ああ、そうだな」

 

「つまりそれは自動的に妾の息子のようなものとも言えるとは思わぬか?」

 

「は? ああ………え、そうなる――のか?」

 

「そうじゃ! そうなるのじゃ!! という訳から今日から妾のことは母と呼んで欲しいのじゃ!!」

 

「ええっと――」

 

「じゃあつまり、自動的に私のお義母様ということにもなるわね!」

 

「うむ、二人は既に婚姻の約束をしているということなので、そうなるな」

 

「してねーわ!!」

 

「してるわ!! というか、私の初めてを奪っておいてしてないわダメよ!!」

「何も奪ってすらねーわ!」

 

 

 

 

 

「…………」

 

「ド、ドライグさんも大変ですね?」

 

「義理のつもりでアイツの面倒を見てただけで、何故こうなったのかはオレにもわからん。

だが、ハジメよ、お前の方が寧ろ厄介ではないのか? 向こうで香織とユエとシアがまたやり合っているぞ?」

 

「あ、あははは……」

 

 

 

終了




補足

基本的になんやかんや雫さんのことは気にかけては居るので、本当に危ないと助けようとはします。

その後知らん顔して逃げようとはしますけど
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