色々なIF集   作:超人類DX

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あくまで匙きゅんの行動理由がカテレアさん。

それだけだぜ。

※ちと直したぜ


真実

 聖剣があったから僕は大切な人達を失った。

 けれど、聖剣があったから僕は大切な人達との思い出を持っていられた。

 

 だから聖剣は憎いかもしれないけど、そこまで拘りは無い。

 それ以上に憎むのは……僕達を人形の様に扱い、僕たちの親代わりでもあったおじいさまを奪い取った奴等なのだから。

 

 

「はぁ……」

 

 

 仇を探しても影すら掴めない現状に、僕はため息を漏らしながらこの前の事を思い返していた。

 

 思い返す内容は、教会から聖剣使いの二人が来たあの雨の日の夜の事。

 部長や今の仲間達に内緒にしていた繋がりと、アルジェントさんを巡ったイザコザ以来の再会をした仲間の事。

 

 僕の代よりも更に前の……最も危険な施術を施したと言われる雛形の聖剣計画被検体であるフリード・セルゼンは、アルジェントさんとのイザコザでわざとイッセー君に殴り飛ばされた時の雰囲気では無く、本来のオーラを放ちながら僕の前へと現れ、その手に僕達をバラバラにした元凶の一つである聖剣の一つが握られていた。

 

 僕は叫んだ。何故キミがそれを持っているのかと。

 するとフリードは嗤いながら言った。

 

 『ゴミ共との清算の時が来たんだぜ』

 

 それはつまり……僕達の生き方をメチャクチャにした者達への復讐。

 僕は言った、僕もその復讐を手伝うと。

 

 けれどフリードは……。

 

 『悪魔になって鎧もまともに呼び出せないお前は足手まといだぜ。

 だからテメーは精々今のお仲間共と仲良く生きていけや』

 

 悪魔嫌いのフリードの言葉が僕の心を抉る。

 あの時、フリードと共におじいさまを守れず僕だけ一人生き残ってしまい、その時今の部長に転生させられる事で生き延びられた。

 しかし代償は、その時持っていた力のほぼ全てを失うというものであり、フリードと切磋琢磨して磨いた銀の鎧も使えない今の僕では話にならない。

 

 フリードはそう言って僕の前から姿を消した。

 

 当然、そんな事を言われて僕は納得が出来なかった。

 確かに力の殆どは失われ、もしかしたら悪魔になったことで二度と取り戻せないのかもしれない。

 けど……けれど、仇が近くに居るかもしれないと知って、黙っていられる訳が無いんだ。

 

 だから僕は、部長や今の仲間達の制止を振り切り、一人で探す為に動いた。

 途中、イッセーくんからメールで聖剣を一つ破壊しても良いと許可を貰ったから一緒に探そうと言われたけど、僕にとって聖剣よりも先ずはおじいさまを嵌めて命を奪った奴等への復讐だったので、悪いと思いつつも僕は応じなかった。

 

 まあ、僕も僕でこのザマなんだけどさ……。

 

 

「皆の力を無くし、復讐も儘ならない。

僕って、何の為に生きているんだろう……」

 

 

 フリードに見捨てられるのも無理無いよね……これじゃあさ。

 

 

 例え、おじい様が生きていた事を突き止めても合わせる顔なんて……。

 

 

 

 

 七つに別れた聖剣を一つに戻す。

 それこそが私達の本来の計画の最重要目的だ。

 

 勿論、一つにした聖剣を使って良からぬ事を……なんて真似はしない。

 というか、それを目的にするならガブリエルやミカエルが密かにコカビエルのバックアップをする訳が無い。

 

 一つへと戻す目的……それは分割された『ソレ』を無理矢理元に戻し、引き摺り出す事で、更に言えば人間界のこの町を儀式の場へと選んだ理由は『悪魔の管理地』であったからだ。

 

 聖剣は文字通り聖なる剣。

 その剣を人間界……しかも悪魔という真逆の種族が多く紛れているこの街で復活させれば、『ソレ』の抱える多大な陰我が一気に爆発し、聖剣を苗床にする事叶わず弾き出されるだろう。

 

 故に私達は悪魔をわざわざ挑発する様な真似をして集結させ、その場所で聖剣を復活させる必要がある。

 

 陰我にまみれた聖なる剣を解き放つ為に。

 

 

「そろそろ行くぞフリード、バルパー、ルフェイ。

まずは悪魔を挑発して儀式の場へと誘導させる」

 

「まっかせろボス、見事に引っ掛けてやるぜ」

 

「子供達と同年代の悪魔の子供を騙すのは少々忍びないがな」

 

「でも、バルパーさんの罪を晴らせる為ですから……!」

 

 

 何よりも、祐斗を復讐の念から解放させる為に。

 私は、老い先短いこの命を今一度燃やすのだ。

 

 

 

 ……。落ち着かない。

 家で待ってるのが今は物凄く落ち着かない。

 まさかこの町で騒動を起こしているのがあのコカビエルだなんて……。

 元士郎が心配で仕方ない……。

 

 

「行くべきなのかしら……?

でも私の存在がバレたら……」

 

 

 コカビエルの力は強大。

 恐らく今の元士郎では勝てるなんて不可能。

 だからこそ彼の目的によっては元士郎を助けに行かないと殺される可能性が高い。

 

 

「………。行くわ」

 

 

 散々家の中で一人ウロウロしながら迷った私だが、元士郎のもとへと行く決意を固めた。

 

 セラフォルーへの復讐も大事なのかもしれないけど、それ以上にあの子を失うのは嫌だ。

 そう思った私は、かつてセラフォルーとの戦闘の際に着ていたドレスに袖を通し、強い気配が集まる駒王学園へと向かう。

 

 ふふ、カテレア・レヴィアタンもヤキが回ったものよね。たった一人の人間の為にわざわざこんな真似をするなんて……。

 けど……。

 

 

「元士郎、もうその時は来たわ」

 

 

 コソコソするのはもう飽きたわ……!

 

 

 

 俺達は木場の行方が解らないまま、コカビエルの『挨拶』に乗る形で駒王学園へとやってきた。

 その理由は、リアス部長の根城である学園を使って聖剣の復活儀式を行うとの事で、それを阻止したくば来て止めてみろと言われたからだ。

 

 聖剣が復活させる時点で、ボランティア目的では無いと部長達と学園にやってきた訳だが、どうやらシトリー先輩達にもコカビエルは挨拶をしていたらしく、学園の門の前に俺達こと悪魔達は集結した。

 

 

「運動場を儀式に使うなんて、やってくれるわねコカビエル……!」

 

「で、でかい魔方陣っすね……」

 

 

 圧倒させられる巨大な魔方陣が門から見えた俺が思わず呟く中、シトリー先輩が悔しそうに歯噛みしてるリアス部長に話しかける。

 

 

「話は既に聞いてます。

今私達で結界を現在駒王学園一帯に張りましたが、コカビエルの攻撃に耐えられるだけの力はないでしょう。

もしもコカビエルが本気を出せばこの学園だけでなくこの町自体が吹き飛ぶ可能性すらあります―――いえ、日本全土が世界地図から消える」

 

「それは分かってるわ。

かつてたった一人で四大魔王挑んだ程の堕天使。

けれど、私たちがやらないといけないの。ここは私の土地だから」

 

 

 何故か別の方向の空を見ながら、何故か困惑した顔をしてる匙に気付いたが、リアス部長とシトリー先輩の話し合いの方が重要だ。

 

 

「今からでもサーゼクス様を呼びましょう。私達では歯が立ちません」

 

「あなたこそセラフォルー様を呼んでないじゃないの。それに、お兄様は呼ば無くても……」

 

「言いたいことは解りますが、そうは言っていられませんでしょう?」

 

 

 魔王様を呼ぶか呼ばないかで揉める二人だけど、呼んだ方が百人力だし良いんじゃないのか……?

 何か二人して呼びたくないみたいな顔をしてるけど――っ!?

 

 

「来たか悪魔の若者達よ」

 

「バ、バルパー・ガリレイ!?」

 

 

 呼ぶか呼ばないかで揉めて時間が過ぎようとしたその時、正門学園の正門から小太りの神父服を着た老人が俺達の前に姿を現し、俺達は一気に警戒心を上げて睨み付ける。

 木場の人生を狂わせた皆殺しの大司教……そう呼ばれてる男だ。油断してはいけない――筈なのだけど。

 

 

「そう殺気立たれるとこの老体には堪える。

コカビエルがお待ちかねだ。案内しよう」

 

 

 バルパーは、とても皆殺しの大司教なんて呼ばれる狂人とは思えない笑みを浮かべ、俺達に堂々と背を向けてコカビエルが待っていると言うと、案内するつもりなのか学園の中へと戻っていく。

 

 

「……。あれ、何か予想してたのと違う」

 

「油断しないでイッセー。それこそが罠である可能性があるんだから」

 

 

 その態度に俺達全員は違和感を覚えたけど、バルパーよりも遥かに厄介なコカビエルが待ち構えているとなれば行くしかない訳で……。

 

 

「コカビエル、連れてきたぞ」

 

「ご苦労バルパー。

魔王の妹二人とその仲間達よ今宵の余興に集まってくれて、先ずは礼を言おう」

 

「コカビエル……!!」

 

 

 巨大な魔方陣が展開されている運動場へと行くと、そこには剣を持ったフリードと捜索中にフリードと一緒に居た美少女とそしてコカビエルが待ち構えており、そのコカビエルの足元には……。

 

 

「ゼノヴィア! イリナァ!!」

 

 

 俺達と聖剣を一緒に捜索した仲のゼノヴィアとイリナが倒れ伏していた。

 

 

「二人に何したんだ!!」

 

 

 俺は思わず赤龍帝の籠手を呼び出しながら、コカビエルへと激昂した。

 するとコカビエルはコキンと首を鳴らすと倒れている二人に視線を一度向けつつ口を開く。

 

 

「持っていた残りの聖剣を奪わせて貰ったのさ。

安心しろ……別に殺してはいない」

 

 

 そう言いながら倒れる二人にクイッと顎で差したコカビエルに三角帽子を被った美少女が小さく頷き、持っていた筆の穂先を二人に向けて迸る閃光を当てる。

 

 

「今、二人を治療する。

どうやら悪魔祓いなのにお前らと仲がよろしい様だしな。

ただし、事が終わるまでこのルフェイの作った結界に閉じ込めさせて貰うが」

 

「ふざけんな、そんなの信用――いや、そこの美少女ちゃんのやることだし信じてやるよ!」

 

 

 二人の身体に淡い光が包み込み、その周囲に小さな結界が覆われるのを見つつ、一度は信用できないと思ったけど、あの三角帽子の美少女ちゃんがやるなら信用できるので言葉を飲み込む。

 その際、リアス部長達から呆れられた視線を向けられたけど、美少女は正義だから曲げねぇ。

 

 

「凄いなルフェイよ。

あの小僧にかなり信用されてるみたいだぞ?」

 

「さっすがルフェイたんだねぇ?」

 

「え、あ、あははは……微妙な気分です」

 

 

 そんな事より、何だこの緊張感の無さは、

 俺のせいってのもあるけど、さっきからコカビエル達に殺気の類いがまるで感じられない。

 俺達を殺す価値も無い奴等と思ってるからこそなのかもしれないけど……それにしてもわざわざ儀式のやるこの場に案内までするなんておかしいよな。

 

 何かフリードは匙と戦いたがってる顔してるけど――

 

 

 随分と派手な事をおやりになってるみたいですね……。

 

 

 そんな時だったか。

 上空から突如聞こえた、聞き覚えの無い女性の声と気配に俺達の意識が真上へと向けられる。

 

 

「む……? この気配は……」

 

「あんだぁ? コイツ等より強ェ悪魔の気配が……」

 

 

 どうやらコカビエル達も覚えの無い気配らしいく、上空に出現した新たな眉を潜めている。

 

 

「あ、あれはレヴィアタンの魔方陣……!?」

 

「それも、セラフォルー様のじゃない!」

 

「え!?」

 

 

 まさか、部長達が魔王様を呼んでくれたのか? ……と思ったら違うらしく、動揺した顔でレヴィアタンのらしい魔方陣を見つめていると……。

 

 

「お陰で心配になって来てしまいましたよ」

 

 

 陣の中から現れたのは、胸元が大きく開かれ、スリットも入ったドレスに身を包んだ褐色肌の女性だった。

 

 

「っ!?」

 

「うお、なんて大胆な……!?」

 

 

 知的な容貌の美女の出現に俺は思わず格好に見とれてしまうが、部長やシトリー先輩達の表情は驚愕に染まって居た。

 

 

「あ、あの部長? あの人誰なんですか?」

 

 

 そんな意外な人物だったのかと、俺はイマイチよく解らないまま目を見開く部長に質問するが、部長はゆっくりと地へ降り立つ褐色美人を見つめているだけで答えてはくれない。

 すると、そんな部長達の代わりに答えたのが、腕を組んで見ていたコカビエルだった。

 

 

「ほう、直接会うのは初めてだが、貴様は確か先代レヴィアタンの血族者だな?」

 

「ええっ!?」

 

 

 せ、先代!? 確か会長のお姉さんが今のレヴィアタンなんだよな? あ、あれ? 訳が解らなく……。

 

 

「そういうアナタはコカビエルで間違いなさそうですね」

 

 

 困惑する俺達を無視して、褐色美人のレヴィアタンがコカビエルへと向き話をしている。

 

 

「冥界の端に追いやられた後、行方不明となっていたらしいが……まさか人間界に潜んでいたとはな。

俺も全く気付かなかったぞ」

 

「時が来るまで身を潜める必要がありましたからね」

 

「ほう? ならこうして姿を現したということは……」

 

「ええ……少し予定とは違いますが、隠れるのは止めることにしました」

 

 

 不敵な笑みを浮かべながら丁寧な口調で話す褐色美人のレヴィアタンの言葉を聞いた部長とシトリー先輩がショックを受ける。

 

 

「ひ、潜んでいた? こ、この町に?」

 

「き、気づかなかった……」

 

 

 魔王の血族者なんて絶対強い訳で……。

 そんな大物の存在に一ミリも気付けなかった事にかなりショックを受けた様子の二人に、漸く褐色美人レヴィアタンが此方に振り向く。

 

 

「サーゼクスの妹にセラフォルーの妹……それとその仲間達。

ごきげんよう、そして初めまして。私がカテレア・レヴィアタンです」

 

 

 そして優雅に一礼し、舐めたくなる程の生足をドレスの隙間から覗かせるカテレア・レヴィアタンの挨拶に俺達はどう返して良いのか分からず困惑してしまう。

 

 

「姉に破れてから行方が掴めないと聞いてましたが……」

 

「ええ、セラフォルーの妹さん。私は敗北後をこの人間界でずっと過ごしていました。

力を蓄えるためにね」

 

「な、何の為に? まさかセラフォルー様やお兄様と戦争でも……」

 

「それに近い目的ではあります。が、今日はそんな理由でこの場所に赴いた訳ではありません」

 

 

 シトリー先輩と部長の問いに微笑しながら答えるカテレア・レヴィアタンだけど、俺は意味が分からなかった。

 

 

「ちょ、ちょっと待ってくださいよ。何で悪魔同士なのに戦争だとか戦うだとかって話なんですか?」

 

 

 そう……俺はこの時まだ全然悪魔の事情を知らず、つい思った事を口に出してしまう。

 するとカテレア・レヴィアタンが俺に視線を向けて口を開く。

 

 

「現魔王政権も一枚岩では無い。

彼等の魔王政権を認めない勢力もある……という訳で、私はその中の一人だったのですよ」

 

「な、なんだって!?」

 

 

 つまり、今の冥界の政権に不満があって従わない勢力の一人がカテレア・レヴィアタン。

 だから皆して警戒心を剥き出しにしていたって訳か…なるほど。

 あれ、でも今日来たのはそんな現政権に所属してる部長とシトリー会長に用があるからって訳じゃないんだろ? なら何で……。

 

 

「今日この場に来たのは……私の大事な者を回収しに来ただけ。

故にコカビエルが聖剣で何をしようが私は関与するつもりもなければ、アナタ方と今事を構えるつもりもない」

 

「む、大事な者だと?」

 

「ええ、そうですコカビエル。

アナタに殺されてはたまりませんからね……」

 

 

 そう言ってクイッと眼鏡のズレを直したカテレア・レヴィアタンはフッと優しげな笑みを浮かべながら何故か俺を見る。

 

 

「え?」

 

「ちょ、ちょっと、何でウチのイッセーを見つめてるのよ!」

 

 

 思わずドキッとする笑みと、大きく開いた胸元から溢れんばかりにおっぱいにクラクラしちまいそうな気分になる俺を、部長が威嚇しながら俺の前に立つ。

 ま、まさか俺一目惚れされた? マジで? だとしたらかなり嬉し――

 

 

「元士郎……来なさい」

 

 

 ……。なんてある訳も無く、俺……じゃなくてその元士郎って奴に向けられたものだったらしくてガッカリだ。

 ったく、元士郎って野郎め……なんて羨まし―――――え?

 

 

「え?」

 

「……………」

 

 

 ちょっと待て、元士郎って聞き覚えあるぞ。

 その名前はシトリー先輩の下僕で……俺と同じ兵士で――

 

 

「さ、さじ……?」

 

 

 匙の名前なんだから……。

 

 

「ちょ、ちょっと待て! 匙、お前っ!」

 

「どういう事よ匙! 何故アナタがカテレア・レヴィアタンと――っ!?」

 

 

 俺達は多分今日どころかここ数年一番ものの驚愕よ事実に、思わず無言の匙に問い詰めようとした。

 だけど、俺はおろかシトリー先輩や他の仲間の声の悉くを無視し、スタスタと笑みを浮かべて待つカテレア・レヴィアタンの傍まで近づくと。

 

 

「色々とどうしたんすか? 俺も俺でかなりビックリなんですけど」

 

「いや、アナタが危ないと思って……」

 

 

 まるでそれが普通の様に、カテレア・レヴィアタン相手に会話をする匙の姿に、俺は……皆はショックが隠せなかった。

 

 

「あらら? まさかの離反?」

 

「ほう、あの小僧……」

 

 

 フリードとコカビエルが静かに呟くその言葉が耳に入らない。

 だって、それ以上に俺達が目にしてる光景がショックなのだから。

 

 

「コソコソ隠れるのも飽きちゃったのよ」

 

「まあ、カテレアさんがそう言うなら俺は何も言いませんよ」

 

「付いて来てくれる?」

 

「当然」

 

 

 特にシトリー先輩達のショックは相当だろう。

 だって、仲間だと思ってた奴が敵と繋がってたなんて……。

 

 

「匙、何で……何時から……!!」

 

 

 シトリー先輩の絞り出すような悲痛な言葉に匙はゾッとする様な無表情で振り向いた。

 

 

「最初から。

そもそも俺が転生悪魔になったのは、駒システムを使えないカテレアさんの代わりに会長の駒で寿命を伸ばしたかったからですからね」

 

「なっ……!」

 

「それに、アンタの姉はカテレアさんのリベンジ相手。

その妹の近くに居れば色々と情報が得られるでしょう?」

 

 石像のような顔で淡々と会長の下僕になっていた理由を聞かされた俺は、シトリー先輩のショックで悲しそうな表情に怒りが込み上げる。

 

 

「お前、お前……! シトリー先輩達を悲しませてんじゃねぇよ!」

 

「あ? あー……まあ確かに悪いことはした自覚はあるぜ? だから雑用だって文句言わずにやったしな」

 

 

 俺の声に匙は淡々とした態度を崩さないまま言葉を続ける。

 

 

「でも、俺が本当に慕うのはカテレアさんだ。

カテレアさんに死ねと言われたら即首を切り落として死ねるし、カテレアさんの邪魔になる輩は全部喰らい尽くしてやる」

 

 

 あくまでも全てがカテレア・レヴィアタンの為だけに……ある意味狂った考えをそのままぶちまけた匙に俺は――俺達は言葉に詰まってしまった。

 でも、それ以上に。

 

 

「ふふ、そういう事よセラフォルーの妹。

元士郎は最初からアナタに興味なんて無い」

 

「!?」

 

「うおっ!? さ、匙テメ……羨ましいぞゴラ!!」

 

 

 匙がカテレア・レヴィアタンに抱き着かれて顔面パフパフ状態なのがクソ羨ましくて殴りたかった。

 

 

「匙ィ! おっぱい顔面に受けてんじゃねぇよ! 羨ましいんだよバカ!」

 

 

 あんなムチムチボディが密着とか匙の癖にふざけんな! と激昂してる俺だが……。

 

 

「お前の主にでも頼めば良いだろ? ちなみにだが、もしカテレアさんにテメーが良からぬ真似をしくさったら……ぶち殺す」

 

「うっ……!?」

 

 

 ぶち殺すって所でマジの殺意を向けられた俺はこれ以上言葉が出せなかった。

 

 

「聞いていた通りの性格ですね赤龍帝。

しかし一つセラフォルーの妹達に対してにも言うとするなら、ふふ……元士郎とは既に『そういう関係』になっているとだけ言っておきますよ」

 

「は!?」

 

「………………う、うそよ……匙が、そんなの……」

 

 

 ショックが色々と大きすぎて。

 

 

 

 

 匙が旧政権派であるカテレア・レヴィアタンと繋がっていたなんて……。

 

 

「と、いう訳ですコカビエル。

私としてはアナタと戦うなんて事は避けて通りたいのですが、どうやらセラフォルーの妹とその仲間達がすんなりと帰してくれそうも無い。

従って、状況的にアナタの加勢をする事にします」

 

「あ、うむ。殺すつもりは無いよな?」

 

「それは私の元士郎のさじ加減ですね……あ、洒落のつもりじゃなくですよ?」

 

 

 普段から付き合いが悪い理由がこれで漸くわかったのと同時に、絶望を突きつけられた気分だ。

 忠実に職務を全うする姿は、私だけじゃなく眷属達も好ましく、更に言えば他の男性と違って下心を持たなかったからこそ……と思っていた。

 

 

「俺としてはこのままはぐれ悪魔でもなんでもしてくれたら穏便ですがね」

 

 

 なのにそれが全て、私達なんて最初から見る気も無く、姉と争った女の為だけだったなんて……。

 

 

「……。アナタを逃がす訳にはいかない。

カテレア・レヴィアタン共々……!」

 

『……』

 

 

 ……。解らないけどそれが堪らなく苦しい。辛い……そして憎い。

 私達を騙していた事よりも、カテレア・レヴィアタンしか初めから見ていなかった事実が……憎い。

 

 

「逃がさないと来ましたか。なら……仕方ありませんね」

 

 

 だから逃がす訳にはいかないと、オロオロしているリアス達に先んじて匙を捕らえようと眷属達と共に構えると、ハァとため息を一つ吐いた匙はいつの間にか手にしていた細身の剣を黒い鞘から抜くと、切っ先を私達に向け、禍々しく嗤うと……。

 

 

「悪い子になりきらせて貰うぜ、ソーナ・シトリー共」

 

 

 今までのが全て虚構だったんだと理解させられる程の強烈な重圧と殺意を剥き出しに、私達へと斬りかかってきた。

 

 

『Boost!』

 

 

 真っ直ぐ私に標的を絞って肉薄してきた匙に対抗して手に魔力を溜め込んだ私だったが、耳に入る倍加の掛け声と共に横から匙に襲いかかる人影にあっと声が出てしまう。

 

 

「匙ィィィ!!」

 

 

 人影の正体は、リアスの兵士である赤龍帝の兵藤君だった。

 神器の力で倍加を行い、私達よりも先に匙を攻撃しようと怒声と共に殴り掛かったのだが。

 

 

「おっと」

 

「っ!?」

 

 

 兵藤君の攻撃は、咄嗟に匙が己にブレーキを掛けた事で空を切り、兵藤君は匙の目の前を通過していく。

 

 

「んなろ!!」

 

『Boost!!』

 

 

 しかし兵藤君は体勢を変えて再び倍加を掛けると、右足を軸に大きく身体を捻りながら匙の顔面めがけて体重の乗ったフックを撃ち込む。

 

「女の子悲しませやがって! 天誅だこの野郎!!」

 

「………」

 

 

 頬を打つ激しい打撃の音が木霊し、匙の身体は大きく吹き飛ばされて地面に薙ぎ倒されると、兵藤君は倒れた匙を睨みながら怒気の声を響かせた。

 

 

「立てよ……匙!」

 

「………………。よくわからねぇ奴だな。俺が消えた方が、ハーレムハーレムと喧しいお前にとって都合が良いんじゃないのか?」

 

 

 倒れた匙が頬を擦りつつ、大して効いてない様子でムクリと起き上がるのを確認した私は確信した。

 やはり今までの匙の実力はダミーだったんだと……。

 

 

「それとこれとは別だ!

嘘なんてついて……お前何とも思わないのかよ!!」

 

「そうだな、思わないと言えば嘘になる。

どうであれお世話になった方々だからな」

 

 

 兵藤君の怒りに匙は膝に付いた汚れを払いながら立ち上がり、私達を一瞥する。

 

 

「なら何で……!」

 

「それよりも遥かに俺はカテレアさんの所有物だからだよ」

 

「っ……!」

 

 

 兵藤君の言葉にそれが当たり前だと云わんばかりの顔で即答する匙に私は胸の中がズキリと痛み出す。

 

 

「化け物と罵られ続けた俺を必要と言ってくれた。

ガキでしか無かった俺を今日まで見捨てずに置いてくれた、安心をくれた、好きになる感情をくれた!! カテレアさんから貰ったものこそが全て! そしてその恩に応えるのが俺の生きる理由!」

 

 

 全てがカテレア・レヴィアタンの為にと執着している様な心境を暴露する匙の言葉を聞く度に胸が引き裂かれる。

 けれど匙は止まらない……カテレア・レヴィアタンへの強い想いを口にするのを止めない。

 

 

「だから俺は寿命が欲しかったんだよ。

もっとカテレアさんを守れる様になる為になぁ……!」

 

 

 あぁ、やめて。

 それ以上言われたら私は……私は……!

 

 

「文句があるなら俺をぶちのめしてみろや兵藤。

言っておくが、カテレアさんとの繋がりが明るみに出た以上、隠す必要は無くなった」

 

「な、何を……言われなくてもお前は――っ!?」

 

 

 匙が何時も首に掛けていたペンダントの鎖を千切った。

 そして、装飾の部分に軽く息を吹き掛けてから鎖の部分を持って頭上に翳し、円を描く様に一回転させる。

 

 

「あの小僧……」

 

「ビンゴだぜ……くけけけ!」

 

 

 その行動の意味が私にはわからない。

 だってそんな行動をした匙を私は知らないから。

 

 

「元士郎……」

 

 

 カテレア・レヴィアタンは分かってるって顔なのに、主の私は知らない。

 それが堪らなく私の胸の中を切り裂いて行く。

 

 

「な、何だよそれ……?」

 

「兵藤、お前確かフェニックス家だったかとのイザコザで禁手化してたよなぁ?」

 

 

 ペンダントを回した匙の頭上に紅い光を照らす円陣が出現し、その身を照らす。

 

 

「死にたくなければとっとと禁手化――いや、更に上を持ってこないと俺には勝てないぜ?」

 

 

 その光はやがて一瞬の閃光を走らせると、匙の全身は覆われた。

 

 

「な、何よ、それ……?」

 

 

 禍々しい装飾を施された黒い狼の鎧。

 それは私達が全く知らない匙の真の実力の一つだった。

 

 

『俺はカテレア・レヴィアタンの下僕……匙元士郎』

 

 

 黒い狼の鎧越しに掠れた様な声を放つ匙の……。

 

 

『またの名を、呀――暗黒騎士!!』

 

 

 全てを喰らい尽くす暗黒の騎士に、私達は呆然とする他無かった。

 

 

 

 

終わり

 

 

 

オマケ・???

 

 

 こんなの考慮できねぇよ。

 カテレアのワガママボディが匙少年に密着されてる姿を目にして嫉妬しまくりな一誠少年とそっくりな一誠青年は、目の前で展開されてる状況に現実逃避したくて堪らなかった。

 

 

「別の次元に勝手にフラフラ行こうが、私は追い掛けますよ一誠。

アナタに掛けられた呪いを解く為に、ね」

 

 

 匙少年の抱えていた真実に絶望する少女を少し成長させた眼鏡の女性の存在に……。

 一誠青年はただただ呆れ混じりに驚くしか出来ない。

 

 

「アンタ、どうやって来たわけ?」

 

「どうやって? 簡単な事ですよ。

アナタがやったのと同じく、私も強引に次元をこじ開けてやったまで」

 

 

 居るわけ無い存在の不敵な笑みに対して一誠青年は内心『えぇ……?』と呟く。

 

 

「途中、グレートレッドと鉢合わせして大変でしたけど、アナタを逃がしたくないという執念が勝ちました。

さぁ、観念して私とレーティングゲームで対戦が出来る程の子供を作りましょうよ一誠?

ふふ、あはははははは!! やっと縮まった! あはははははは! さぁ、久々にヤりましょう! アナタを目の前にするだけで何処がとは言わないけど疼いて疼いて……ビショビショになっちゃうのよ? あはははははははっ♪」

 

「………………」

 

 

 少女から大人へ、大人から女へ、女から喪女手前まで拗らせてしまった、貧乳の悪魔からの頬を染めながらの一言に一誠青年の顔は何とも言えないしょっぱい顔であり、我慢して聞いていたロリロリ龍神は、遂に敵意剥き出しな顔で眼鏡の悪魔に言う。

 

 

「黙れ雌悪魔。一誠は我と子作りする。お前じゃない」

 

 

 鬱陶しいと思ってる相手だからこその言葉に、眼鏡の悪魔は不敵な笑みだ。

 

 

「へぇ、その割りには一誠から何もされないようだけど? まあ、アナタも大概しつこいですから私の事は言えませんよねぇ?」

 

「お前よりマシ。言っても聞かない奴よりは」

 

「仕方ありませんよ。だって、一誠は私の胸を揉むわ、押し倒すわ、お風呂で鉢合わせてするわと、私にアプローチしまくりですから」

 

「いやしてねーから」

 

「我だって同じ。しかもお前より回数は上」

 

「いやそれもねーよ」

 

 

 旅行中の人外は、現れるストーカーにただただうんざりだった。

 

 

 ソーナ・シトリー

 種族・悪魔

 能力・婚厄者(メビウスオブフィアンセ)

    悪循完(バッドエンド)

 

 備考・人外にセクハラされてから始まり、今では周囲が家庭を持ってるにも拘わらず、人外に拘ってストーカー予備軍化している喪女手前にて、別次元のソーナ・シトリー。

 

 

「元の場所に送り返してやる。お前は邪魔だ」

 

「やってみますか? 昔みたいに簡単には行かないことをそろそろ教えてやりますよ」

 

「家壊したら流石にキレるぞ俺も」

 

 

終了




補足

次元をぶち開けて平行世界に行きました。

さて問題、それだけで拗らせたひんぬーさんが諦めますか?

寧ろ拗らせるだけさ。

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