要望でもあれば本編を更に進めてクライマックスした後にでも。
結構加筆しました。
『今もそんなに変わらない』と皆は口を揃えるけど、私からすれば今と比べるまでも無く、昔のいーちゃんは尖りに尖っていた。
どれくらい尖っていたかといえば、顔を合わせた途端死ぬか生きるかの瀬戸際に立たされる程の殺意を浴びせられていたくらい。
「またテメーか。
両手両足をへし折ってから捨ててやったのに、そろそろ比喩無しで壊してやるか?」
当時からだけど、ある意味いーちゃんは差別をしない。
私が悪魔だというのが大きいのだろうけど、いーちゃんは容赦無く私や女の子の悪魔をぶちのめす。
私に至っては鼻の骨を折られたとか、歯を折られたとか、内臓をズタズタにされたとか……数えたらキリが無い程にボコボコにされたっけ。
「……。じゃあ、私が勝ったら私の仲間になってよ」
「…………あ? 今テメーなんつった?」
「だから、私の仲間になって!」
それでも当時の尖りいーちゃんに近付いてた理由。
「図に乗ったな? げげげげ……殺す」
「っ……し、死なないよ私は! アナタに参ったって言わせるまで!」
いーちゃんという個人が寝ても覚めても頭から離れられなくなっちゃったから……かな。
つまり好きになっちゃった……そういう事。
やるべき仕事は一応果たしたつもりだ。
グレモリーのガキ共を申し訳程度に鍛え、ゼノヴィアと過去の俺にはそれとなく贔屓して、あの白髪のクソガキには割りと意地悪気味にしてと……まあ、それなりに教えたよ。
「ではこれまで。10日間お疲れ様でした」
それなりに、ね。
「ありがとうございました!」
ガキ共がわざわざ口を揃えて俺に礼をほざく。
ふん、何時見ても全く以て違和感だらけだ。俺が悪魔に礼を言われるのがな。
「ギルバ君。今日で娘達の修行は終わり、明日一日休暇を取ってからシトリー家へと向かう段取りと聞いているが」
「はい、そのつもりですよジオティクス様」
これでグレモリーともおさらばだな。と別に感慨に感じる事なぞ微塵も無く思ってセラフォルー・レヴィアタンと共に城を去るつもりで居た俺に、現当主のジオティクス・グレモリーが馴れ馴れしく話しかけてきた。
どうやらこのまま帰るつもりの俺とセラフォルー・レヴィアタンを呼び止めて、最後に風呂でも入らんかという誘いらしいのだが……。
「明日一日はお休みだし、私もおばさまやグレイフィアちゃん達とお話したいから良いと思うよ?」
「…………。だ、そうです。お付き合い致しますよジオティクス様」
表面上立場が上のセラフォルー・レヴィアタンがこう言ってしまった以上、一応は従わないとならないので、俺はジオティクス・グレモリー――そういえば俺の時代の時はさっさとぶっ壊してやったおっさんに付き合う事にした。
風呂でくっちゃべるだけというな……。
ジオティクス様の計らいで、最終日はギルバさんと修行ではない個人的な触れ合いをする事になり、現存する俺を含めた男達はグレモリー家の所有する超豪華なお風呂で身体を癒していた。
「はぁ……」
ギルバさんの修行は想定していたよりも容赦無かった。
特にリアス部長――いや、女の子に対してはゼノヴィア以外結構泣きに入るレベルでキツく、またギルバさんの氷点下を思わせるオーラのせいで音を上げられる暇も無かった。
なので誰一人リタイアする事もなく修行は完了さはたのだけど、ギルバさん自身と親しくなれた訳じゃない。
だからジオティクス様の計らいは実の所地味にありがたかった。
「あのお前が悪魔の修行を結局最後まで見るとはな」
「仕事ですからね」
然り気無く混ざってたアザゼルさんとギルバさんが隣同士で脱力した面持ちで語り合うのを俺達は聞き耳を立てる。
10日の間にジオティクス様やサーゼクス様達の昔を知る悪魔の人達から聞いたギルバさんの人となりは、俺達新参にしてみればかなり驚いた。
何度も悪魔をズタボロに追い込み、絶滅させる勢いで毛嫌いしていたというのは、今のギルバさんしか知らない俺達からすれば違和感しか感じないのだ。
何せ、ギルバさんの態度は俺達みたいな子供にですら丁寧なのだから。
「ギルバ君は結婚は考えてないのかね?」
「は?」
こうして風呂入って語らう方が自然にしか思えない。
そうボケーっとしていたギルバさんに、今回の主催者であるリアス部長のお父さん、ジオティクス様が急にギルバさんに対して結婚の話を振りだした。
「ちょ、ち、父上……。ギルバにその話は……」
「いきなりだなオイ。だが気にはなるぜ俺も?」
サーゼクス様がオロオロしてるけど、逆にアザゼルさんは興味ありげにギルバさんを見ている。無論俺達もな。
「イッセーくんとそっくりだが、血の繋がりは無いのは知ってる、何せキミは独身だからね」
「ええ、それはまぁ……」
「しかしキミもそろそろ良い年だ。伴侶を見付ける予定はあるのかな?」
俺がもう少し大きくなったらギルバさんみたいな見た目になるのか――というレベルにソックリなもんだから、ついつい俺も自分の事の様に思えてしまう。
ま、俺の場合はハーレム王になる訳だけどな。
「サーゼクス様の奥方にもこの場所に来た初日に言われましたが……そんな予定も相手も私にはありませんよ」
『………』
何の躊躇も無く淡々と無いと答えるギルバさんに、思わず全員が沈黙してしまった。
「そう、か……。いやその、気分を害してしまうかもしれないから先に謝るが、ほら……セラフォルーちゃんとかは――」
「それもそこで縮こまってるアナタ様の息子の嫁に言われましたね」
「あ、ごめんね? またグレイフィアが余計な事を……」
スッと見透かす様な目をサーゼクス様に向けながら、若干砕け始めた口調で同じ事をグレイフィア様に言われたと返すギルバさん。
何でセラフォルー様なのかと言われたら、最早説明不要だったりするが、うん……見てて誰でも分かるというかさ……。
「ギルバさんは前にもセラフォルー様は無いと言ってましたけど……駄目なんですか?」
見ててセラフォルー様が不憫に思える程ギルバさんがかわしてるんだよね……。セラフォルー様の色々を。
「駄目という以前に、そもそもそんな対象として見たことが私には無いんですよ」
すっげー淡々とした言い方。
いや、まあ、これこそ個人の話だから仕方ないのかもしれないけど、これじゃあ曰く何百年も想っているらしいセラフォルー様が不憫すぎる。
ギルバさんの返しに黙ってしまう皆も恐らく俺と同じ事を思ってるのだろう、微妙そうな顔だ。
(……。キスマークは付けたのにか)
(キスマークは付けてたのにか)
(キスマークは思いきり刻んでるのにか)
ジオティクス様、アザゼルさん、サーゼクス様が何とも言えない渋い顔で何やら考えてる顔をしてギルバさんを見つめており、まだ子供でしか無い俺と木場には口の挟めない話だが、それでもやっぱりセラフォルー様に同情してしまう。
「ところで兵藤様。実はあそこの壁にちと細工をしましてね。
そこから隣の女風呂が……」
「え、マジっすか!?」
「ええ、バレる確率は10%未満ですね……この方々が告げ口しなければですが」
その癖、覗きとかの悪戯には寧ろノリノリ。
……ほんと、他人の気がしないよギルバさんは。
ギルバという悪魔に世話になり早10日。
全ての行程を終え、残りの10日はギルバ無しで修行するという流れのまま、最後の最後で皆で風呂に入ることになった。
少し前まで悪魔を滅していた立場の私が悪魔達と風呂に入るなんておかしな話だが、既に今の私はその悪魔に転生した身なので、まあしょうがないのかもしれない。
「結局最後までギルバ様はよそよそしかったですね……」
「ええ、少しは私達の顔を覚えて頂けた筈だけど……」
「返しが全部機械的でしたから微妙ですわ」
さて、そんな豪勢なグレモリーの浴室では、我々リアス眷属やグレイフィア……おっと、グレイフィア様やリアスの母であるヴェネラナ様……そしてセラフォルー様と共に浸かっており、今頃男子風呂でイッセーと共に居るだろうギルバについて何やら語り合ってる。
とはいえ、内容は聞く限り察しが付くものだがな。
「彼は昔からそうですよ、所謂人見知りという奴です。
そうでしたよねセラフォルー様?」
「そうだねー……いーちゃんは基本親しくない相手には当たり障りがない態度かなぁ。
アレでも昔の尖っていた頃と比べたら全然マイルドだけどねー」
「尖っていた……ですか?」
「うん、対面したら思いきり殺意ぶつけられて罵られるとか」
「……。イッセー先輩とソックリだから結構違和感ありますねそれは」
「ということは初日に私が受けたのはまだ全然マシでしたのね」
「うん、昔のいーちゃんだったら多分『じゃあ死んでろ』って言った同時に途端首と胴体をおさらばさせてたかも……☆」
天真爛漫そうな表情とは裏腹に、言ってる事が普通に物騒なセラフォルー・レヴィアタンに、ギルバから修行を受けたリアス達の顔は何とも言えないそれだった。
「確かに昔のギルバなら十二分にありえますね」
「ありましたわねぇ。よく息子がボッコボコにされて帰ってくるのを何度治療したか」
「お、お兄様が?」
「あのサーゼクス様がボコボコって……」
「そこまでの方だったのですか……」
当時を思い返すかの様に、笑ってるお三方にリアス達は引いている。
言われてみれば修行期間中のギルバにそんな素養が見え隠れしていた気がしないでも無いけど、私はどうもそうは思えない。
「私とイッセーの感想としては親切な方という意見しか無いのだがな」
「それはイッセー君とゼノヴィアちゃんだからだよ。
ほら、イッセー君はいーちゃんとそっくりだからだし、ゼノヴィアちゃんの場合は……うん……」
私の呟きに対してセラフォルー様が微妙に複雑な眼差しを向けながらゴニョゴニョと言っている。
? 何だ? 私の場合はなんだというのだ? そう思ってると、ギルバの昔を同じく知るグレイフィア様が何処か察した様に……されど意外だといった表情を浮かべている。
「まさか、彼の好みのタイプなんて言い出しはしないですよね?」
「当たらずも遠からずかな。ゼノヴィアちゃんはいーちゃんが人だった頃に居た仲間に雰囲気が似てるみたいだしね。
あ、でも本人は異性としての感情じゃないとは言ってたよ、うん」
「それを聞いて安心しましたわ。アナタに何年もギルバの事で相談された甲斐がそれではあまりにもありませんからね」
「あははは……」
似てる……そうセラフォルー様は言いながら少し辛そうに笑っている。
……。言われてみれば確かにギルバは妙に私とイッセーに詳しい気がする。
デュランダルを振るう私の癖を予め知っているように指導したり、イッセーの赤龍帝の籠手の使い方にしても、遠回しながら真理を突くような……。
……。気になるな。
風呂で心身を清めたギルバは、そのままグレモリー家に別れを告げ、セラフォルーに続いて城を後にする。
最後までセラフォルーの事についてうざいくらい言われたが、それでも癇癪を起こさなかっただけ、今のギルバとしての一誠は相当にマイルドになったと言えるだろう。
まあ、それで調子に乗れば大惨事は免れないが。
「徒歩? お前、シトリーの領土までどれくらいあると思ってるんだよ?」
「い、いやー……お散歩がね? いーちゃんとさ……」
「……はぁ」
てっきり転移魔法でシトリーの城までジャンプすると思ってたが、何を思ったのかまた徒歩で移動すると言い出したセラフォルーにギルバはげんなりとしてしまう。
確かに徒歩で移動しても全然苦でも無い距離だが、わざわざ一瞬で移動できる手段を使わないと知ってるとなれば、面倒に思うのも致し方ない。
しかしそれでもセラフォルーはすがる様な顔して一緒に歩きたいと言うもんだから、ギルバはいっそ一発脳天に喰らわせて気絶させてやろうかと考え始める。
「わーったよ。契約してる内は極力テメーの意向に従う話だしな」
「やった……! ありがとういーちゃん☆」
だが契約をした以上は、余程の理由でも無ければ自分から破る訳にもいかず、渋々付き合う事にした。
『……』
(なんだよドライグ?)
『いや別に……』
そんなギルバの様子を、内に宿る龍が何かを見極めようとした様子だった。
セラフォルー相手に情を持ち始めている事を、本人よりも先に見抜いているドライグには隠し事は不可能に近い。
(完全に情を持った一誠は逆の意味でヤバイからな。
小娘……精々気を付けることだ)
ドライグは知っている。
一誠が情を持った相手に全てを与えることを。
「いーちゃん、ジュースでも飲む?」
「イラネ」
ドライグは知っている。
かつてその情の全てを受けていた二人の存在を。
「いーちゃん、手……繋ぎたいな?」
「やだ」
ドライグは知っている……。
「むー……」
「むーじゃねぇよ。やなもんは嫌だ。
……で、付けちまった痕は全部消えたのか?」
「へ? あ、うん……誤魔化すのにかなり苦労したけど、もう全部無くなってるよ」
完全に情を持った一誠は、その相手を奪おうとする輩を見境無く破壊する事を。
「そうか……へ、俺も落ちぶれちまったもんだ。テメーにバカみてーな真似をするなんてな」
「私は嬉しかったよ? だっていーちゃんだもん」
「俺は即座に黒歴史に刻みたいね」
ドライグはかつてその情を勝ち取った二人の少女の事を思い出しながら、セラフォルーという悪魔の女をギルバの中から見つめるのだった。
「でもいーちゃん、寝言で私を抱きながら良い匂いって嬉しそうだったよ?」
「っ……あれは、何かの間違いだ」
「えー?」
「えー? じゃねーよ。テメェそれで勝ったつもりか?」
「そんなつもりじゃ無いよ……もぅ」
さて、何やかんやで散歩がてらにシトリー家……つまりセラフォルーの実家に到着した。
正直ギルバとしては近寄りたくは無い場所なのだが、指導抽選をソーナが当ててしまったので、仕事上そういう訳にもいかず、のんべんだらりと半日歩いて到着したシトリー家の城の門を警備兵に命じてセラフォルーが開けさせるのを眺めながら、ぼんやり考えていたギルバを待っていたのは……。
「息子よ、よく来てくれたな息子よ!」
「………」
「ご飯はギルバさんの好きなものにしましょう!
何かリクエストは?」
「………………」
「も、もう! お父様もお母様もやめてよ!」
案の定ウザかった。
というか、何故家族扱いしてるんだコイツ等は……。
自分の顔を見るなり当主とその嫁の癖して飛び込んできたセラフォルーの両親に嫌そうな顔をするギルバだが、二人は最早勝手に義理の息子扱いだった。
「よ、ようこそギルバ様。
えっと、ここはお帰りなさいと言えば宜しいのですか?」
「アナタまでそう言いますか……?」
「い、いえ……やっぱり両親が暴走してるとしか」
それまで両親を見てたのだろう、申し訳無さそうな顔のソーナとその眷属にまともな出迎えをされたギルバは、嘗てわざと見捨てて変態の玩具にされた末路を辿った相手にホッとしてしまう事に痛烈な皮肉を覚えてしまう。
「明日から十日……どうか私を含めてよろしくお願いいたします」
「はい……こちらこそ『まとも』な出迎えをありがとうございますソーナ様」
結局奴等はあの白猫に喰われて終わったのだっけ? と、頭を下げるこの世界の無事なソーナ達を見つめながら返事を返すギルバは、ウザいシトリー当主夫婦に引っ張られながら城内へと入り、セラフォルーと共に食事を取る事になったのだが……。
「娘はどうかね?」
「どう? どうと申されましても普通じゃないでしょうか?」
「いえそうでは無く、一人の女としてですよ」
「ちょ、本当にやめてよ二人とも! いい加減にしないといーちゃんだって怒るよ!」
飯の席ではしきりにセラフォルーの事についてどうだどうだと喧しいし、そんなに押し付けたいのか……とセラフォルーの懸念を外して逆に呆れてしまうギルバ。
妹のソーナも、そんなギルバに対して何度も目が合っては申し訳なさそうにしているし、眷属に至ってはもはや居心地の悪さすら感じてる様子。
「…………………。嫌いじゃありませんよ」
だからギルバはとっとと終わらせる為、適当に誤魔化して納得してもらう事にした。
そう、どうだどうだと喧しい親共に対してアンタの娘は別に嫌いじゃありませんよという意思表示を向ける事で。
「へ? い、いーちゃん?」
てっきりテーブルをひっくり返すと思ってたのか、ギルバからの言葉にセラフォルーが目を丸くしてしまう。
「おお……嫌いじゃないと?」
「それはつまり脈はあると?」
「まあ、他の有象無象に比べればですがね。
この方は結局今まで折れもしないですしね」
方便だがな。と内心せせら笑いながらセラフォルーについて肯定的に答えるギルバに、実は姉大好きなソーナも、若干嬉しそうな顔をしてギルバを見つめ始めている。
無論、恋愛事に騒ぐ年頃の眷属達も。
「公に出て気付きましたが、どうやら彼女は自分が昔皆様にした事を伝えつつも恨みを持たないよう配慮してくれた様ですし、何だかんだそういう感情を向けていただけてるみたいですし、好きか嫌いかで答えれば嫌いではありませんよ」
『………』
「い、いーちゃん……」
まあ、無いがな。
と内心は冷徹に呟いてるのを知らずにギルバの言葉に勝手に感激してる連中にそう締めたギルバは、手元にあったサラダをむしゃむしゃと食べる。
「そうか……ふふ、そうかぁ!」
それが悪手であった事に気付くのは三時間後。
いーちゃんから嫌いじゃないと言われた。
その言葉が例えいーちゃんがめんどくさがって言った方便に過ぎないとしても、こうして声に出されるだけでこんなに嬉しい。
「何なのお前の親父とお袋は? 本当に何なの?」
「いーちゃんの事をずっと話してたから、かな……ごめんね?」
「純血ですら無い俺にテメーを押し付けるとか正気の沙汰じゃねーぜ」
お父様とお母様の計らいで、いーちゃんとお部屋が一緒になり、ぶつくさ文句を言いながらソファにごろ寝してるいーちゃんに私は謝りながら着替える。
その際、普通にいーちゃんに裸を見られてたりするけど、いーちゃんは相変わらず無関心顔でちょっと複雑。
「純血の悪魔よりいーちゃんの方が良いってずっと言ってたから……」
「で、親としては娘の意思を尊重してってか? クソ迷惑だな」
「うん……ごめんねいーちゃん」
普通のパジャマに着替え終え、何故か一つだけのベッドに腰掛ける私を離れたソファからかったるそうな顔で迷惑と言い切るいーちゃん。
うん、やっぱりそうだよね……ご飯の時お父さんとお母さんに言ったのは只の方便。
めんどくさい空気を黙らせるだけの……。
「いーちゃんがこっち使って良いよ。私がソファで……」
「別に俺はソファで構わねーよ」
嬉しかった反面、やっぱり寂しいな。
どう足掻いても悪魔である私にいーちゃんにとっての一番になれない事が。
「……。この前みたいに並んで寝る? ほ、ほら、お父さんとお母さんにああ言っちゃった以上、そしてベッドが一つにされてる時点で別々だと何か言われちゃうよ?」
「絡まれるってか? そりゃあ確かにうぜーな」
でも―――それでも私はいーちゃんが……。
『おっと、乗り気だな一誠? お前らしくねーな?』
「うっせドライグ。
突き飛ばすのとあの煩いバカ共に何かほざかれるのを天秤に掛けたら、偽装してた方がマシだって判断しただけだ」
『ほーん? まあ、俺は何でも構わんがな……』
好き。
どうしようも無く、いーちゃんという寂しそうな人が大好き。
だから――
「Zzz……」
「ん……いーちゃん?」
寝ているいーちゃんの無意識な行動だけは……。
『あーぁ、やっぱりな。コイツ、多分別々に寝てても寝惚けて人肌求めて動くまでにはなったぞ』
「えっと、つまり?」
『ゼノヴィアとイリナを失ってからのコイツは見てられん程に気丈にしてたが、内心は生きてるだけの屍状態だった。
そもそも一誠はその異常性により肉親から愛を与えられずに捨てられ、イリナとゼノヴィアに与えられた愛情しか知らない。
だからこそ、お前の愛情から逃げて誤魔化して来たコイツは無意識状態だとすがってしまう。そうやって人肌求める行為でな』
私が今貰いたい。
眠るいーちゃんが、アレだけ私に近寄るなよと言って置きながら、自分から私を抱き寄せる理由をドライグちゃんから聞いた私は、そのままいーちゃんの身体を抱き締める。
「Zzz」
「いーちゃん……」
いーちゃんの体温、心臓の鼓動の全てが私の身体に伝わり、胸の中がじんわりと暖まり、幸せと感じる。
「ん……ぅ……い、い……におい……」
「あっ……もういーちゃんったら、また痕になっちゃうのに……。
何時もは口が悪いのにこんな時だけ狡い……でも、嬉しいよ☆」
何時か本物になれたら良いな……。
終わり
かつて悪魔を壊した男が居た。
その男は生き続ける事が目標であり、その目標に賛同してくれた二人の大切な仲間と共に走り続けた。
けれど、走り続けられたのは男一人。
仲間の少女二人は男の進化に着いていけず、残念に思いつつも男と過ごした時間を幸せに思いながらこの世から去った。
そして生き飽いた男は自らを破壊してこの世から消え、男の歩んだ世界とは似て非なる過去へと遡り……かつては破壊した悪魔の女と出会う。
当然男は壊そうとした。しかし似て非なる過去の世界は、男の知る悪魔の実態すら違っており、男は興味を持ってしまった。
あくまでも悪魔は嫌いだが、似て非なる悪魔を知ろうと思ってかつては壊した悪魔の女の近くでそれを見定めようとした。
名を変え、あれだけ憎悪した悪魔へ再び転身し、そのあり方を眺め、新しさに心を震わせてやろうとする。
皮肉にも、壊してやった悪魔の女は男に新しさを与え続けた。
男に惹かれてしまった女はとてつもなく一途だった。
だから男は……名をギルバと変えた一誠は。
「無限の龍神か。
げげげ、今更貴様に興味は無い。消えな」
「龍殺し? くくく、げげげげげげ!!!! バカが、最早その程度で兵藤イッセーは止まらねぇよ! 奴とゼノヴィアという子は俺の持つ殆どを叩き込んでやったんだからなぁ!!」
「契約上、テメーは守るよセラフォルー・レヴィアタン。
だから見てろ……これが俺の最終形態だ」
ギルバとなりし悪魔としての進化。
そして過去に培った全て。
その二つが交差した時、全ては広まる。
「起きろドライグ、暴れる時間だぜ」
『ふん、随分待たせてくれたおかげで力が有り余ってしまったぞ』
ギルバ……いや平行世界の未来の兵藤一誠のなれの果て。
自分の持ち得ない可能性を示してくれた過去の優しき龍帝の未来を守る為……。
「雑魚共よ、都合により
破壊の龍帝は数百年を越えて再臨する。
そして……。
「デキタって、ナニが?」
「えっと……その、赤ちゃん……」
「ダレガ?」
「わ、私の……」
「ダレノ?」
「言わなくてもわかるでしょ? いーちゃんなら……」
未来は変わる。
以上、最後の嘘予告
補足
所詮似非予告なんで嘘です。
ちなみに、時系列はそんな遠くないよ。
似非だから詳しくいうと、ただ何となくしけこんだらガチ化しちゃったというだけよ。