色々なIF集   作:超人類DX

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何か期待されたので、続けた。
それだけ


使い魔とは

 学院に無事着地し、その際私達をバカにした連中よりも遥かに早く到着した事に驚かれるという出来事を挟みつつ、取り敢えず使い魔となる三人に色々と聞いたり、逆に教えたりしなければならないので、私の部屋へと三人を連れ行く。

 

 

「はぁ……何だか色々とありすぎて疲れちゃったけど、取り敢えずアンタ達に使い魔について説明しないとね」

 

「おいーっす」

 

「魔導師だからもっと変なのを想像してたが、案外普通の部屋だな」

 

「あぁ、イッセーの家より広いぞ」

 

 

 茶髪、黒髪、銀髪。

 それぞれイッセー、曹操、ヴァーリという名前らしいこの使い魔達は、特に何を不満に言うまでも無くベッドに腰かける私の前にそのまま腰を下ろし、ジロジロと不躾に部屋を見渡している。

 異世界から召喚されたというのは既にミスタ・コルベールと私だけが知った事実だけど、どうやらこの平民達はそこまで貧困していたという事も無い様で、部屋を見渡しても然程驚いた様子が無い。

 

 

「あまりジロジロ見ないで貰える?」

 

 

 とはいえ、ジロジロと見られるのも何だか嫌なので三人にそう命じて私に注目させる。

 ………。こうして見ると、個人的な評価だけど三人とも中々顔立ちは整ってるわね……。

 

 

「まず一つ、使い魔は主人の目と耳となること」

 

 

 さて、そんな訳で異世界で右も左もわからない平民三人に使い魔の何たるかを説明し始めたのだけど、私は此処でハッとしてしまう。

 

 

「そ、そうだったわ。目と耳になるも何も使い魔の契約をしていないから見える訳が無かったわ」

 

「? 何の事だ?」

 

「よくは知らんが、俺達はこの主に召喚されただけで、正式には契約していないんだろ」

 

「あぁ、そういえばそういうプロセスは無視してたな」

 

 

 なんてこと……でも、ミスタ・コルベールが、この異世界の平民と契約をして良いとは言ってなかったし……。

 

 

「なぁなぁ、ご主人様よ? 契約ってのはどうするんだ? しないと留年なんだろ?」

 

「うっ……」

 

 

 今からミスタ・コルベールに相談しようと思ったけど私の場合はあまりにも前代未聞だし、形式だけでも使い魔にはなってくれてるし、何より色々と疲れていた。

 だからこの件だけは明日に持ち越し、取り敢えず次の説明に無理矢理気味に移る事にする。

 

 

「ま、まぁ、使い魔を……それもアンタ達平民三人をどうであれ召喚したのだし、留年にはならないわ。

取り敢えず二つ目の説明をするわね……えっと、二つ目は主の望むものを探してくる事!」

 

「望むもの?」

 

「例えば何だ?」

 

「そうね、魔法媒体になる秘薬とか……かしら?」

 

「ほほう、そこは魔導師らしい。

だが俺達はこの世界の勝手を知らんし、何よりさっきお前も見た筈だ……俺達はこの世界の文字は読めん」

 

「あ……そ、そうだったわね」

 

 

 二つ目の説明についても、三人の出身を考えると絶望的だった。

 そうだ、この三人は子供が読む絵本の文字すら読めない……つまり秘薬を探せも何も無いのだ。

 

 けどここで一つ疑問が浮かぶ。

 

 

「今思ったんだけど、それなら何でアンタ達の言葉は私に伝わるのかしら? ミスタ・コルベールとも通じあってたし」

 

 

 そう、矛盾している。

 文字の読み書きは出来ないと言ってるにも関わらず、三人の言葉はキチンと、それも何の訛りも無くネイティブに私に伝わっている。

 色々とありすぎで今まで疑問にすら思わなかったけど、こうして改めるとおかしい話だ。

 

 

「そういえばそうだな。もしかして文字だけが違うだけで話す言葉だけは俺達の世界と共通しているとか?」

 

「もしくは、召喚の際に浴びた光が原因で自動的に翻訳されているとか」

 

「なによそれ、サモン・サーヴァントの儀式にそんな魔法は無いわよ」

 

「それなら濃厚なのはイッセーの推測だろうな。

文字だけが違って、話す言葉は共通している……とね」

 

 

 ソウソウ……とか言った男の言葉にイッセーとヴァーリという男がうんうんと頷く。

 おいてけぼりを喰らわされた気分だけど、考えても確かにしょうがない事ではあるし、何より伝わるだけまだマシだわ。

 

 

「……何だか微妙に納得出来ないけど、そういう事にしてあげるわ」

 

「ん、どーもご主人様」

 

 

 まあ、文字くらいなら私でも教えられるし、この事に関してはそこまで悲観するものでは無い。

 寧ろ私にとって重要なのはこの後だ……。

 

 

「三つ目……使い魔は命を賭けて主の命を守る。

これが一番重要よ」

 

 

 これこそが使い魔たる由縁。

 見た目や技能も確かに重要だけど、結局はそこに行き着くが使い魔というもの。

 

 けれど……うーん。

 

 

「さっき飛んで見せたってだけじゃねぇ……」

 

「「「………」」」

 

 

 うん、三人ともどうも頼りなさそう。

 大ジャンプしてみせたり、飛んだりしたのは驚いたけど、それだけじゃ強いとはとてもじゃないけど……ねぇ?

 

 

「くく、ご主人様はどうやら俺達が弱いと思ってるらしいぜヴァーリに曹操?」

 

「みたいだな……ふふ」

 

「久し振りに貰った評価だな……くくく」

 

「な、何よ……」

 

 

 そんな私の評価に対して、三人は面白そうにクスクスと笑い始めた。

 その顔がちょっとムカつき、思わず怒鳴ってやろうと思ったのだけど、そういえば最初の時に向けられたあの異様な重圧感はコイツ等から放たれていた事を思い出す。

 あの、大袈裟かもしれないけど一国の大軍すらひれ伏させるとすら錯覚した強大な圧力の事を……。

 

 

「この世界のレベルを知らないし、一概には言えないが折角出来た縁だ。この使命だけはちゃんと守らせて貰うよ」

 

「イッセーに続き」

 

「ヴァーリに続き……以下同文」

 

「………」

 

 

 でもやっぱり何処か頼りないわよねぇ。

 

 

 

 異世界に召喚された悪童三人。

 元の世界では堕天使のアザゼルしか手綱が握れないとすら言われてる程の、極悪な戦闘能力を有し、更なる進化を続けていたので、ルイズという魔法使いの少女に頼りないと言われた時は思わず笑ってしまった。

 

 

「月が二つか……やはり俺達の知る人間界とは違うみたいだな」

 

「というかさ、コンビニって無いのご主人様?」

 

「こんびに? なによそれ?」

 

「主のこの反応からして無いみたいだぞ、諦めろイッセー」

 

 

 正直、使い魔なんてなるつもりなんて無かった。

 というか魔導師自体、前に小規模の魔導師で構成されたテロ組織との小競り合いがあったので、あんまり好きにはなれなかった。

 故に次元を無理矢理力でこじ開けて帰るつもりだったのだが、このルイズなる少女や世界の一部を見聞し、考えを気まぐれに変えた。

 

 

「ふぁ……本当は今からアンタ達の事を聞こうと思ったけど、眠いから明日にするわ……」

 

「あ、そう。

でも寝る前に教えてくれご主人様、俺達は何処で寝るんだ?」

 

 

 見知らぬ世界。魔法というものが世の中心となる世界。

 そんな世界なぞ聞いたこともない三人は、一つの野望を秘めていた。

 

 

「取り敢えず今日は床で勘弁してちょうだい……その事も含めてまた明日……すぴー……」

 

「あらら、寝付きのお早い子だ……」

 

「しかし都合は良いだろ」

 

「あぁ、これでやっとこれからの事を話し合える」

 

 

 コテンとベッドの上でスヤスヤと眠り始めるルイズに、三人の表情が一斉に変化し、そのまま床に座り込みながら互いの顔を見合わせる。

 

 

「さてと、テメー等がプリンを盗み食いしただけでまさかこんな事になるとはな……」

 

「正直後悔しかしてない」

 

「予想外にも程がある」

 

「すぴー……」

 

 

 ルイズの寝息をBMGに、窓から射す二つの月明かりを明かりの変わりに、三人はこの世界でどうすべきかを話し合っている様だ。

 

 

「この世界の魔術のプロセスを盗み、帰ってアザゼルに話せば褒めてくれると俺は何となく思うぞ?」

 

「お、良いなそれ。

アザゼルさんにお小遣いも貰えそうだ」

 

「それに、この世界の魔術が魔術なら俺達も進化できるかもしれない」

 

 

 何処と無く気楽な会話に聞こえるのは、彼等の力がその異常性……そして内に宿る『神を滅する器』があるが故か……。

 

 

「ドライグはどうだ? 何か意見とかあるなら参考にするぜ?」

 

『いや、俺は特に無いな。ただ一つ言えるのは、この世界にスキル持ちも神器持ちも存在しないという事ぐらいか』

 

「アルビオンは?」

 

『赤いのと同じくだ。

お前達の事はもうほぼ心配しても無い』

 

「ふむ、神器使いとスキル持ちが存在しないか。やはり異世界だな」

 

 

 三人はどこかワクワクしていた。

 

 

 

 イッセー

 AGE16

 skill 赤龍帝 無神臓(インフィニットヒーロー)

 

 その才故に肉親からも拒絶され、堕天使に拾われた悪童の一人。

 

 

 ヴァーリ

 AGE15

 skill 白龍皇 超戦者(ライズオブダークヒーロー)

 

 複雑な生まれ故に捨てられ、堕天使拾われた悪童その2

 

 

 曹操

 AGE17

 skill 黄昏の聖槍 復讐神(リベンジェンスヒーロー)

 

 英雄の魂を継いでるが故に独りに、そして堕天使に拾われた悪童その3

 

 

備考……アザゼルの義子であり義兄弟。

 

 

 

 そして三人はまだ知らなかった。

 ルイズという少女が何故異世界の自分達を呼び出せたのか。

 そして、その器に成り得る程の、魔法を代わりにした大きな才があることを……。

 

 

 

 

 

 さて、床で寝ろと言われた悪童三人だが、特に不満も無かったりする。

 それは其々の抱える出生の事情が、慣れとして三人の中での常識として成り立っているから故、寧ろ雨風が凌げる空間で寝られるだけ、三人からしたら天国であった。

 とはいえ、そんな劣悪な環境で眠る事自体は久々なのだが。

 

 

「やっぱり夢でした……なんて甘いオチじゃねーか」

 

「おいヴァーリ、起きろ」

 

「ふみゅ……」

 

「ふみゅじゃない、シャキっとしろ」

 

 

 文字通りの見知らぬ天井を目に、昨晩の話し合いの後さっさと眠りに付いたイッセー、曹操、ヴァーリの三人は、起きても尚異世界だという現実を改めて噛み締めながら、取り敢えず早く起きすぎて暇をもて余していた。

 

 

「どうするよ? つーかシャワー浴びたい……」

 

「まだ外に動きの気配も無いし、主を起こす訳にもいかんか……」

 

「眠い……」

 

 

 生まれた順番という意味では末っ子であるヴァーリがイッセーにもたれ掛かりながら、寝惚けているのを適当に支えながら、一応年長者の曹操と相談する。

 

 

「すぴー……」

 

 

 主であるルイズは実に幸せそうにまだ寝ていて、部屋の外はまだ他の人間達が活動している気配も無い。

 イッセーとしてはシャワーを浴びたくて仕方ないのだが、ルイズから聞いた話から推測するに、この学院とやらに頼んだ所で風呂場に当たる施設をこの世界では単なる平民でしかない自分達に貸してくれる気もしない。

 

 

「…………。ドラム缶ってこの世界にあると思うか?」

 

「果てしなく微妙だな。この世界の情勢は話を聞いてる限りだと中世の人間社会に酷似しているしな」

 

「だよなぁ。でも風呂入らんと気持ち悪いぜ」

 

「それは同感だ。

ふむ、それならイッセー……いっそ今の時間を使って探しに行くか? 風呂の代わりになりそうなものを」

 

 

 結果、まだ寝惚けてるヴァーリを横にイッセーと曹操はお風呂を探しに行く事に決め、主を起こさない様にこっそりと部屋を出ていく。

 

 

「ちっ、このガキは何時まで寝てるんだ」

 

「くー……」

 

「低血圧だからなヴァーリは……」

 

 

 イッセーがヴァーリを背負い、取り敢えず寮に当たる場所を抜けて外へと飛び出す。

 自分達の居た世界とは肌の違う空気と景色……悪く言えばド田舎な景色は、改めて自分達が異世界にねじ込まれた事を自覚させる。

 

 

「さて……見つかる気がしねぇ……」

 

「同感だな、殺風景極まりない」

 

「む……ここどこだ?」

 

 

 太陽がのぼる前なのか、少し薄暗い外を適当に歩きながら風呂の代わりになりそうな物品探しをしていたが、あまりにも環境に優しい景色が現代っ子 イッセーと曹操の心を諦めに傾かせている。

 ヴァーリもようやく起きて一緒に探させるが、やはり田舎故に見つかるものは見つからなかった。

 

 

「ダウンジングでもして源泉の水脈を探し当てる方が早い気がするぜ」

 

「そんなに風呂に入りたいなら、貴族とやらが使ってる大浴場でも借りれば良いだろ。

認識阻害の障壁でも張って」

 

「………それしかないな」

 

 

 探すこと40分後。

 結局無理だという結論に達したイッセーと曹操は、ヴァーリの悪びれない一言に同意し、学院の生徒が使ってるだろう大浴場を探して盗み湯をする事にし、それらしき場所を求めて足を動かすのだった。

 

 

「……。アンタ達から薔薇の香りがするのだけど」

 

「気のせいだろ」

 

「気のせい気のせい」

 

「そんな事より主よ、朝食の時間だが早く着替えないのか?」

 

 

 首尾良く大浴場を見つけ出したイッセー達は、セキュリティガバガバの扉を開けて周囲に認識阻害の結界を張り巡らせてから堂々と盗み湯をした。

 そして気分も身体もリフレッシュしてから何食わぬ顔して部屋に戻ると、他の人間達の活動を見計らってからルイズを起こす。

 

 最初ルイズは召喚をしておきながら自分達を見るなり『だ、誰!?』とビックリしていたが、完全に目を覚ます頃には昨日と同じく勝ち気気味な雰囲気漂わせた少女に戻っていた。

 そして、三人から香るバラ湯に怪訝そうな表情を向けるが、イッセーもヴァーリも曹操もシレっと惚けた。

 

 

「まあ良いけど、取り敢えず着替えるわ」

 

「おう、それなら俺達は外で――」

 

 

 とはいえ、追求する暇も朝食の時間が圧してるのでそんなに無く、ルイズもルイズで別に気にする必要もなかった。

 なので取り敢えず朝食を済ませてしまおうと、三人に着替える事を口にする。

 

 それを聞いた三人は、例え相手が小娘であろうと一応は異性とも言えなくもないと思ったので、当然着替えると聞いて部屋の外に出ようとしたのだが……。

 

 

「服」

 

 

 パジャマというか、ネグリジェに似たそれを適当に脱いで下着姿になったルイズは、出ていこうとした三人に向かってただ一言、両手を真横に広げながら当たり前の様に告げる。

 

 

「は?」

 

 

 そんなルイズの態度に三人な表情をしかめる。

 

 

「そこのクローゼットの一番下にあるから、さっさと着せて頂戴」

 

 

 そんな三人にルイズは全然気にしてませんな態度で着せろと言った。

 

 

「貴族……あぁ、貴族だわこりゃ」

 

「堕天使の連中ですらこんな奴は居ないから、ある意味新鮮だな」

 

「なるほど、まさにTHE・使い魔だな」

 

 

 どうやらとことん自分達の持つ価値観と常識の逆をこの世界の住人達はお持ちの様だと、三人は自分達より『年下だろう』少女に服を着せろと言われ、何ともいえない顔をしながら、取り敢えず言われた通りにクローゼットの一番下から制服っぽい服を取り出す。

 

 

「これで良いのか?」

 

「んー……着せて」

 

 

 と、クローゼットから服を取り出したイッセーに向かってルイズが命じる。

 

 

「おいおい、よりにもイッセーに命じたぞ主は」

 

 

 そんなルイズに、無知とは恐ろしいとばかりに苦笑いする曹操。

 三人の中で一番年相応に女の子好きな面が強い性格をしているというのがイッセーという思春期丸出し少年だったりする訳で、下着姿の美少女と評して差し支えないルイズに服を着せてあげますなぞ、イッセーにしてみれば喜ぶべきお仕事なのかもしれない。

 

 だが……。

 

 

「いや良く見ろ曹操。イッセーの顔は『チッ、何でこんなチビガキの……どうせならボインなお姉さんだったら喜んでやったのに』って顔だ」

 

「あぁ……」

 

 

 イッセーは心底めんどくさそうに、そして興奮も何も無い顔でとっととルイズに服を着せていた。

 運の良い事に今の二人の会話はルイズに聞こえては無かった様だが、仕事人みたいな能面顔で自分に服を着せてるイッセーを見て若干『思ってた反応と何か違う』といった、ある種の敗北した気分にさせられていたとか。

 

 

「はい終わり」

 

「ん……何でしょうね、この妙な敗北感は」

 

「服を着せるだけで負けた気分ってのは俺にもよくわかりませんわご主人様」

 

「そりゃそうね……じゃあ早速食堂に行くからちゃんと着いてきなさい」

 

「へーい」

 

 

 背の小さいルイズを先頭にして四人は部屋の扉を開けて廊下へと出る。

 するとちょうど同じタイミングだったのか、ルイズの隣の部屋の扉が開かれ、そこから真っ赤な髪をした女子生徒と思われる女が現れた。

 

 

「うひょ!?」

 

「やめろイッセー」

 

「お前の悪い癖をここで発揮するな」

 

 

 その女性の姿を見るや否や、先頭に居たルイズの顔が露骨に嫌そうなソレになる――というのに気づかず、後ろに居たイッセーは目を爛々輝かせながら、ルイズを見てニヤリとする女性のソレをガン見する。

 

 

「おはようルイズ」

 

「……。おはようとキュルケ」

 

 

 後ろでイッセーがヒャッハーしてるのに気付いているのか居ないのか、ルイズとは真逆過ぎるプロポーションをした赤髪の女性は、三人を指差しながら楽しそうに言う。

 

 

「それがアナタの使い魔かしら?」

 

「………そうよ」

 

「あっはは! 本当に人間……それも三人もだなんて凄いじゃないのルイズ!」

 

 

 小馬鹿にしてるとしか思えない態度でケタケタと笑うキュルケなる少女にルイズは悔しそうに睨むだけしか出来ない。

 

 

「サモン・サーヴァントで平民三人を召喚するなんて、ゼロのルイズらしいわねぇ?」

 

「う、うるさいわね……!」

 

 

「軽くバカにされてるな俺達……」

 

「まあ、この世界じゃ俺達は平民だしな」

 

「俺は良いがな、ボインの人なら何言われても許せるぜ……ぐへへへ」

 

 

 ルイズが悔しがってる後ろでは、顔をしかめる二人と、キュルケのスタイルの良さに一撃でだらしない顔になってるイッセーが居るのだが、キュルケはどうやらルイズに自慢したい様なので、そんな三人の反応に気づいてやるつもりが無いらしい。

 

 

「アタシも昨日儀式に成功したのよ、誰かさんと違って一発成功」

 

「あっそ……!」

 

「どうせ使い魔にするならこういうのが良いわよねぇフレイム~」

 

 

 勝ち誇った顔で使い魔を呼ぶキュルケに呼応して、部屋から尻尾に炎を灯した真っ赤な蜥蜴が姿を見せる。

 

 

「む……」

 

「蜥蜴か……?」

 

 

 そのフレイムなる使い魔を見てヴァーリとイッセーの目元がピクリと動く。

 

 

「これってもしかしてサラマンダー?」

 

「ええそうよ、火竜のサラマンダー……ふふん、私にピッタリだと思わない?」

 

「アンタって火属性だもんね」

 

 

 

「火竜? あぁ……やっぱり蜥蜴だ」

 

「修行する為に何体がぶちのめした奴だな」

 

「というか、その目の前に二天龍宿してる男が二人居るって……まぁ、そんな価値なぞ知るわけ無いか」

 

 

 自慢してるキュルケの後ろで、イッセーとヴァーリと曹操は小さい頃を思い出していた。

 

 

「アナタ達、お名前は?」

 

「「「む?」」」

 

 

 ぶちのめしては食ったっけ……と三人がしみじみほんわかとしていたその時だった。

 それまでルイズに自慢しまくりだったキュルケが、三人に向かって名前を尋ねて来たのだ。

 

 

「ヴァーリ……」

 

「曹操」

 

「イッセーでーっす!」

 

 

 そんなキュルケにヴァーリと曹操は妙な苦手意識を感じて簡潔に答え、イッセーだけは妙にハキハキしながら名前を名乗る。

 そんな三人の態度を特に気にしてないのか、キュルケはしげしげと顔を眺めると……。

 

 

「中々男前じゃない。特に銀髪のアナタは可愛い顔で嫌いじゃないわよ?」

 

「は……?」

 

「む!?」

 

 

「チッ、またヴァーリか」

 

「諦めろ、アイツは昔から妙にあの手の女に好かれやすい」

 

 

 前向き評価をされたヴァーリにイッセーが軽く毒づくのを曹操が宥める。

 

 

「私の使い魔に変な事言わないで!! ほらさっさとどっか行きなさい!」

 

「あらら、自分が貧相だからって妬かないでよ。じゃあお先に」

 

 

 特にヴァーリはどうとも思ってない反応だったが、キュルケが使い魔に色目を使ったと憤慨したルイズが、犬を追っ払うかのようにシッシッとしぐさをする。

 しかしキュルケは寧ろ楽しそうにルイズを見ると、颯爽と去っていった。

 

 

「キィィッ!! サラマンダーを召喚したからって何よ!!」

 

「落ち着けよご主人様。貧相をバカにされたかってヒス起こすなや」

 

「うるさい! メイジの実力を量るには使い魔を見ろと言われてるのよ! 何であのバカ女がサラマンダーで私がアンタ等平民三人なのよ!」

 

「それはまぁ運が悪かったとしか言えんだろ。進級できただけマシじゃん」

 

「そうだな、俺達がもし昨日あのまま使い魔にならんと言ったら、主は留年だったんだぞ?」

 

「うっ……そ、それはそうだけど……」

 

 

 憤慨しまくりなルイズをどうどうと宥めるイッセー達。

 神をもぶっ飛ばせる悪童三人がこんなの呼ばわりするなど、元の世界ならまず考えられないくらいだ。

 

 

「大丈夫だって、少なくともあの火蜥蜴よりマシだから」

 

「火蜥蜴って……アンタ等サラマンダーを知ってるの?」

 

「元の世界で修行した時は晩飯にすらしたぐらいだ」

 

「硬くて不味かったがな」

 

「はぁ……?」

 

 

 だがルイズからしたら、所詮は平民という地位の三人だ。

 火蜥蜴呼ばわりして食った事もあるなんて言ってるが、どうにも胡散臭い。

 

 

「嘘を言うならもう少しマシな嘘を言いなさいよ……」

 

 

 が、憤慨する自分を宥める為に出した方便なのだと考えると、一応主である自分に気を使ったのだと、ちょっとだけルイズの気分は晴れた。

 

「ふん、さっさと行くわよ」

 

「「「へーい」」」

 

 

 単なる平民じゃなくて変な平民。

 ルイズの評価は昨日から徐々に上がっていったとか。

 

 

 

 トリステイン魔法学院の食堂。

 使い魔を手にして初めての朝食となるルイズだが、入るや否やジロジロと見られる感覚だけは何時でも良いものでは無かった。

 

 

『おい、ゼロのルイズが平民三人を連れてるって本当だったんだな』

 

『サモン・サーヴァントの儀式が成功しないから適当に連れてきたらしいぜ?』

 

 

 

「何キミ、もしかして軽くいじめられてる?」

 

「………」

 

 

 陰口を向けられるルイズに、イッセーが質問する。

 しかしルイズが若干視線を下に向けたままイッセーの質問に答える事は無く、自分の席まで足早に歩いていく。

 

 

「無視されちったよ」

 

「図星なんだろ……」

 

「あんまり触れてやるな」

 

 

 そんなルイズにイッセーは口を3の字にし、ヴァーリと曹操が軽く諌める。

 ゼロという意味は知らないが、聞いてる限りじゃネガティブな呼び名である事は間違いないし、キュルケの使い魔を見て判断するに自分達は完全なイレギュラー。

 故に色々とあること無いことで陰口を叩かれるというのは容易に想像できる。

 

 

「なーるほど」

 

 

 イッセーもそれは分かってるのか、ジッと耐えてる様に見える小さな少女の後を追い、それなら一つ勝手な事を言っとるボンボン共に使い魔らしい事でも見せてやろうと、席に座ろうとするルイズよりも早く椅子を引いてあげる。

 

 

「お座りください、ご主人様」

 

「な、何よ急に……?」

 

 

 無駄にカッコつけた声で椅子を引いて座りやすくするイッセーにルイズが面を食らった顔をする。

 

 

「いえ、これも仕事でしょう?」

 

「………」

 

 

 急に何だコイツ……とは思ったものの、周囲の生徒からの声が若干驚いたものに……特に女子生徒からは妬みの入るものへと変化しているのを感じたルイズは、取り敢えず言われた通り引いて貰った椅子に座る。

 

 

「失礼します主よ」

 

「!?」

 

「後ろ失礼」

 

 

 すると今度はヴァーリと曹操がサッとルイズに前掛けを施し、空だったグラスに近くにあった水を注ぐ。

 妙に手慣れてる気がしないでも無いその一連の動作は、顔だけは良いのもあって様になっている。

 

 

「ではご主人様」

 

「朝食をお楽しみくださいませ」

 

「以下同文」

 

「え、えぇ……」

 

 

『…………』

 

 

 最後は三人揃って微笑み、そこからは直立不動でルイズの後ろに佇む。

 まるで召し使いだと、使い魔で文句あんのかボケ野郎とアピールしている様にしか見えないが、近くで見ていた生徒……特に女子達には効果が絶大だった様で、ある意味でルイズは羨ましがられ始めたのだという。

 

 

(わ、私の使い魔ってやっぱり変……)

 

 

 ただ、ルイズもルイズで悪い気分では無かったらしく、三人の為に用意させていた質素な食事のランクを少し上げてあげる事を決めるのだったとか。

 

 

終わり

 

 

 

 いくら召し使いな真似をしても、所詮は平民。

 故に使い魔としてはみすぼらしいという評価は変わらない。

 

 

「洗い物……洗い物、水場は何処なのか……」

 

「あの、何かお困りでしょうか?」

 

 

 とはいえ、力を示したら今度はルイズが化け物呼ばわりされるかもしれない。

 だからその時が来るまでは様子を見ておこうと、取り敢えず雑用に励む三バカの一人曹操は、その日ジャンケンに負けてルイズの洗濯物を洗う事になった。

 

 

「あの、アナタはもしかしてミス・ヴァリエールの使い魔のお一人では……」

 

「む、如何にも俺は主の使い魔の一人である曹操だが……ふむ、何故俺を?」

 

「いえ、学院内ではかなり有名ですから……。『ミス・ヴァリエールが平民の使い魔を三人も召喚した』と……」

 

「ほう」

 

 

 そして出会う一人のメイド。

 この地では珍しい黒髪同士というのもあるせいなのか、妙に話し込んでいる内に互いの名前くらいは交換し……。

 

 

「ぬわっ!?」

 

「きゃっ!?」

 

 

 た……ばかりなのに、足を滑らせた曹操はやらかした。

 

 

「あ、あの……」

 

「む……? げっ!? す、すまん! わざとじゃないんだ!!」

 

 

 滑らせた拍子に思いきりそのメイドさんを押し倒してやらかした。

 そう、曹操は妙な運がカンストで備わっていたのだ。

 

 

 そして残りの二人は二人で……。

 

 

「火蜥蜴に引っ張られたかと思えば、お前の仕業か? えっと、確か…ツェルプストーだったか?」

 

「扉、閉めてくださる?」

 

「? お前何で半裸なんだ?」

 

「それを私に言わせるなんて……意地悪な人」

 

 

 ヴァーリは変にロックオンされてしまい……。

 

 

「くぅ! ヴァーリも曹操も何よ!!」

 

「チッ、全くだ……あんなボインに好かれてなんてうらやましい……」

 

 

 それが気に入らない余り物二人は悔しがる。

 

 

「取り敢えずご主人様は身体能力を強化すべきだぜ。

例えばこの木をこんな感じにぶん殴ってへし折るとか」

 

「む、無理に決まってるじゃない! アンタのやってることが非常識なのよ!」

 

「成せばなる。もし出来たら、ご主人様にとっては不服かもしれないが、俺達三人が持つ精神依存のスキルのノウハウを教えるぜ」

 

「!? それって、アンタ達が言ってた……でもそれってそういう才能が無いと無理って……」

 

「と、思うだろ? ご主人様は実は俺達寄りなんだなこれが。つまり、刺激さえすればご主人様は覚醒する」

 

「わ、私が……そんな才能を……」

 

 

 

 

 

 木の影

 

「じー………」

 

 

 紆余曲折あって始まるルイズの才能開花の修行。

 それは自分達の側に引き込む人外の修行だった。

 

 魔法という概念を見下せる圧倒的な力。

 その一端をとある事件で共闘した際に垣間見た眼鏡の少女は自分の求める力の像と一致してしまい、何よりも欲しがった。

 

 だからこそ大人しい少女は懇願した……。

 

 

「聞いていた。私にもスキルについて教えて欲しい」

 

「あんた、タバサじゃない」

 

「あぁ、この前の盗人の件の地味眼鏡さんか。

スキルを教えて欲しいって言われてもなぁ……キミにはその才能は無いよ。

というか、この才能はご主人様以外この世界の人間には無い」

 

 

 しかし呆気なくイッセーは眼鏡の少女を突っぱねた。

 理由は一つ……。

 

 

「それになぁ……キュルケちゃんならともかく、キミみたいな寸胴はなぁ……」

 

「…………」

 

「い、イッセー! アンタって奴は何でそんな事を……!」

 

 

 対象外だから。その一点だった。

 魔法に関しては優秀なのに、求める力については劣等以下のゼロとまで言われた挙げ句寸胴呼ばわり。

 少女は色々とグサグサだった。

 

 しかし、イッセーという男はヴァーリと曹操と同じく『変な運』を持っていた。

 そう、それは……。

 

 

「よしご主人様! それがキミのスキルだ! ふはは、予想以上のスキルだぜオイ!」

 

「これが……私の? そう……そうなのね、今やっとアンタ達の事が理解できた気がするけど」

 

「そりゃそうだろ、ルイズはもう俺達側だ。げげげげ……ようこそ俺達の側へルイズ?」

 

「……………」

 

 

 自分の好みとは正反対のちっさいのに好かれる変な運が……。

 

 

「またキミか……いい加減にしつこいな。ヴァーリか曹操にでも頼めよ」

 

「そうよ、何でイッセーに拘ってるのよタバサは?」

 

「……。イッセーじゃないと嫌だから」

 

「あ?」

 

「わからない。けど、イッセーに教えられてるルイズが羨ましい」

 

「……………。アンタまさか」

 

 

 そして

 

 

 

 

「げげげ、久々にやるか二人とも」

 

「ま、主の使い魔として良いとこくらい見せてやるさ」

 

「オーバーキルだがな……」

 

 

 

 

禁手化(バランスブレイク)!!』

 

 

三バカはこの世界でも悪童と化す。

 

 

「三バカが使い魔」……続かない。




補足

ツンデレする前に三バカのキャラの濃さに当てられて原作よりもかなりマイルドにならざるを得ないルイズさん。

その2
三バカの戦闘能力……その気になればこの世界を1時間足らずで落とせる程度。
しかし三バカはそこら辺の興味ゼロなので問題なし。

現時点、手綱を握れるのはルイズさんただ一人。


その3
自分達の同類を見付けるとかなり面倒見が良くなるが、そうでも無い相手にはそれなりの態度しかしない。

そんな素っ気ない態度が眼鏡の子を刺激しちゃったとかそんな噂があるらしい。

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