色々なIF集   作:超人類DX
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巷で弱体化が噂される昨今。

先に説明するなら答えは『NO』です。
いえ寧ろ肉体的には生前世界の最期より別次元に進化してます。
そう、肉体的には……。




女神とコミュ障と……無限進化

 何故イッセーがすっぴんなのか。
 その理由は彼の中に宿る赤い龍が関係しているのかもしれない。

 しかし、それと同等にイッセーは絶望の果てに得た『異常なまでの力の欲求』という精神力と共に得た異常の中でもとりわけ変態じみた異常性が関係しているのかもしれない。


「ドーラーゴーンー―――――」

『explosion!』

「波ァァァァァッ!!!!!」


 今よりもっと先の力を。今の領域から更に上の領域へ。歴代の誰もが成し遂げられなかった絶対なる赤龍帝に。人間であることを忘れずに、蔓延る有象無象生物をぶちのめせる最強の生命体へ。


「と、まあ……体内の精神エネルギーを倍加して爆発させる感じかな。これならカズマも簡単だろ?」

「無茶言うなよ!? つーか山が消し飛んじまったじゃねーか!!」

「あ、やっべー……まあ、何の気配も無かったし、地図を描き直すだけで済むし大丈夫っしょ?」

「あるかそんな事! めぐみん以上にそれは禁止にすべきだ!」

「えー……?」


 つまり何が言いたいのかというと……。


「アイツ、この前より別次元の強さになってる……」

「ド、ドラゴン波なんて魔法は聞いた事がありません! け、けど凄い……凄すぎる!」


 イッセーは既に『弱体化した分のパワー』を取り戻し、そこから更なる進化を開始していた。
 本人曰く『完全な名前負け』らしい宇宙を思わせる異常性。同じ『性質』を持ち、転生者に与したとある龍神を食い殺す事で奪い取り、異常性として取り込む事で獲た理不尽な力。

 そしてその自念に基づいた強烈無比なエゴ。


「良いか、これは勝手な持論だし、ドライグの受け売りでしか無いけどこれだけは言っておく。
『男は喧嘩に敗けた奴が敗者になるんじゃない。最後まで張り続けられなかった奴が敗ける』」

「お、おう……」

「ま、要するに生き残ったもん勝ちで、ゾンビの如く這い上がってソイツの頸動脈を掻き切れって事だな」

「さ、流石修羅で生きた男だな……」

「腕もがれたら蹴り殺せ。脚をちぎられたら噛み殺せ。歯を砕かれたら睨み殺せ。目を喪ったら呪い殺せ。とにかく何があっても心を折るな。虚勢だって何だって構わないから『張り続ける』事が大事なんだぜ」


 それが例え理解されない信念であろうとも、イッセーはカズマに伝える。


「負けても相手が二度と自分と戦いたくないと思わせたら勝ちだ……聞き分けの無いガキの様に我儘になるのだー!」


 自分が打ち立てた精神を……。




 イッセーの強さの根底にあるのは、相手に対する勝利への異常な執着心と殺意にある。
 全てを一度失い、そこから地獄の様な仕打ちを受けても尚這い上がった際に完成されたその精神が、アイツを押し上げたといっても過言ではない。


『………』

「イッセーさん! ドラゴン波と爆裂魔法のコラボレーションはどうですか!?」

「要らねーよ、一発撃ってぶっ倒れる奴となんて足手まといなだけだ」

『……………』


 しかし、妙な経験を経てこの妙に緩い世界で生活する様になってから、イッセーは自覚をしていないがその精神が塗り替えら始めている事に気付いていない。
 

「えー……そんなぁ……」

「へ、くだらねぇ」


 イッセーをガキの頃から見てきた俺はそれが不安でならない。
 カズマという小僧とアクアとかいう女神の力を今は失ってる小娘の二人に影響されたコイツは確かに肉体的には進化し続けてはいる。


「ええぃ鬱陶しい! 寄るなクソガキァッ!!」

「へぶ!?」


 この紅魔族とかいった種族の小娘にしたってそうだ。
 以前のイッセーならもうとっくに殺してる筈なのに……。


「あーめんどくせぇ……!」

「い、痛い……拳骨なんて酷い……」


 なぁ、気付いているかイッセー? お前は――




 おんぶに抱っこという訳には何時までもいかない。
 という訳で、本日はイッセーに悪いと思いつつ、俺とアクアとめぐみんの三人でとある洞窟に住み着いてしまった火竜の退治を行いたいと思う。
 

「イッセーが居ないと果てしなく不安というか、何でわざわざイッセーを抜けさせるのよ……」

「爆裂魔法を見てもらえないし、やる気が……」

「ばか野郎! めぐみんはともかくとして、オメーは何時までもイッセーにおんぶに抱っこで恥ずかしくねーのかよ!」

「えぇ…? 何この人……ヒキニートの癖に熱いんですけど」


 少し肌寒いと感じる洞窟に隠れ住むとされる火竜。
 そいつはどうやらかなり狂暴な性格をしているらしく、時折外に出ては人を襲ったり家畜を食い荒らし、その強さも今まで何人かの冒険者を返り討ちにしているレベルらしい。

 だからこそ、少し無理があるかもしれないが、何時までもイッセーに頼りっぱなしは駄目と、めんどくさがるアクアやらやる気が全然無くなってるめぐみんを引っ張って、火竜を探している。

 これでも俺は『戦い方』をイッセーに教えられてはいる……最初の時とは違って足がすくむということも無くなってきた。
 後は、アイツに頼りっぱなしでは無いという証さえ手に出来たら俺は……。


『WRYYYYYYYYYーー!!!!』

「「「ギャース!」」」


 ………。ふっ、まぁそんな世の中上手くいかないくはい分かってたさ……あははは。


「グルルル……」

「あ、あっれー? おかしいな……聞いてたのと強さが違い過ぎね?」

「多分、産卵間近で気が立ってるのでしょう。
確か繁殖期の雌の火竜は雄を食べちゃうくらい狂暴になるとか。いやー報酬が割高だから変だなーとは思ってましてけど、こんなカラクリがあったなんてビックリです」

「だからイッセーに見て貰うべきだったのよバカー!! どうするのよ!? あの火竜確実に私達を食い殺してやるって様子じゃない!」

「い、いやめぐみんの魔法で牽制しつつ、急所を突けば俺達だって――」

『無ゥ駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァッ!!!』

「「「キェェェェアァァァァッ!?? シャベッタァァァァッ!?!?」」」


 くぅ、こんな事なら囮役にダクネスとか、翻弄させる役にクリスとかも連れてくれば良かった……。
 何故か喋りながら火の塊を口から乱射しまくる火竜から全力で逃走しながら、つくづく俺は駄目だなと思うのだった。



 カズマ達から『おんぶに抱っこ過ぎるのも悪いし、たまには俺達だけでクエストやって来るぜ』と言われ、渋々街に残る事にしたイッセーはというと、ナンパもする気が全く起こらず、腑抜け顔でギルド場の隅っこでボーッとしていた。


『お前は本当変わったなこの世界に来てから。以前なら暇になっててもギラギラしていたのに』

「おう」

『というか、小僧共だって子供じゃないんだ。一々心配してたらキリがないだろ?』

「おう」

『………。こりゃあ駄目だ』


 顔見知りの冒険者に声を掛けられても返答が上の空丸出し。
 ドライグに話しかけられても同じく上の空。
 とにかく全部に対して心此処に在らずであるイッセーは、すっぴん故に他のクエストを単独で受注する事も出来ないので、こうしてカズマ達が無事に戻ってくるのをまるで忠犬ハチ公の如く待っているのだ。

 来る日も来る日も転生者を自称する男に与したあらゆる種族の生物を殺しまくり、悪と罵倒されてもそれを自覚した上で女だろうが子供だろうがその手に掛けた男が、人間の小僧と力を失った女神……そして最近は小娘を相手に温くなっている。

 ドライグはそれを決して悪いことだとは思っていないが、それにしたって一人になった途端腑抜けになるイッセーを見たくは無かったので結構複雑だった。


『たまには掲示板に張られてるパーティ出撃のクエストでもやってみたらどうだ? その方が暇潰しになるだろう』

「えー……?」

『えー? じゃない。
ハッキリ言って今のお前はあのアクアとそんな変わらんぞ? 方向性は違えどな』

「はぁ? おいおい、俺をあの堕落しまくりの雌と一緒にすんなし、俺別に堕落なんてしてねーし」

『だから方向性が違うと言っただろ。
俺やカズマからすればお前等のやってる事は一緒なんだよ……ったく、自覚してない分質が悪いったらありゃしねぇ』

「むぅ……」


 気付け代わりに提案された見知らぬ者とのクエストについて、当初アクアばりにやる気の無い顔で嫌がるイッセーだったが、ドライグに指摘されて一緒にされるのが嫌だったのか、ノソノソとその場から立ち上がると、受け付けの隣に大きく設置されている掲示板の前に立つ。


『そうそう、折角前の塵共との鬱陶しい因縁も無くなったんだ。ボーッとしてるだけじゃ損だぞ?』

「んな事言ったってよ……ええっと、大量発生した肉食魚の討伐は……パス、この前やったばかりだ」


 まるで父親みたいにアレコレと言ってくるドライグにイッセーは鬱陶しいとは思わずとも、かったるそうな態度を崩さず、多くのパーティメンバーとして張り出されてる項目を端からチェックしていく。
 ソロで受けられたら一々こんなチェックなんてしなくて済むのだが、生憎イッセーの職業柄、ソロ受注というのが不可能だった。


『これなんかどうだ? 猪モンスターの狩り』

「狩って毛皮のコートでも作れってか? 微妙過ぎるぜ」


 めぐみんやらアクアやらカズマと組んでた為、今までその様な弊害に不便を感じなかったが、改めて『すっぴん』という事実上『冒険者として終わってる』職業に若干の鬱陶しさを感じるイッセーは、内に宿るドライグがお父さんの如く『あれはどうだ?』だの『これはどうだ?』だのと語りかける中、ふと一つの張り紙……それも掲示板の端に小さく張り出されていた紙を見る。


「んだこれ? 何々……『パーティ募集。当方、パーティ経験無し。職業はアークウィザードで、お話ししたりクエストをやってみたいです』―――なんだこの友達募集みたいな感じ」

『他と比べて確かに変わってるな。募集するわりにはかなり目立たん場所に貼ってるし』



 何のクエストをやるから募集という訳じゃなく、単純にパーティだけを募集しているといった載せかたに妙なものを感じたイッセーは、貼ってあったその紙を何となく手に取ってジーッと読む。


「うーん……」

『いっそそれにしたらどうだ? 他のはどうもパッとしないしな』

「いや、そもそも俺見るだけのつもりだったんだけど――まあ、良いか、どうせこの募集主とも一回きりの付き合いなんだろうし」


 結果、一回きりの話だからとイッセーはこの募集主を探す事にした。
 所詮自分にとってはカズマ達が帰ってくるまでの暇潰しだし、あのクリスとかいう雌と鉢合わせしない確率を上げられるのであればそれに越した事は無い。


「あの騙し雌野郎と鉢合わせしないのであれば、それに越した事はねぇ……」

『あぁ、あの銀髪か……』

「あぁ、俺はハッキリと奴が存在ごと嫌いだよ。
というか、神だなんだと、テメーが何でも出来ると思ってる奴は全部ぶっ殺してやりてぇ」

『……。そういう輩に昔は散々殺されかけたからな……お前の言わんとしてる事は解るぞイッセー
だが――』

「わかってるよ。俺達が今まで殺してやったゴミ共と、アクアやあの……エリスとか言った神は違うんだろ? 解ってはやるよ、でも嫌いなもんは嫌いなんだよ」

『………』


 張り紙に記載された場所に向かい、キョロキョロと書いた本人を探しながら、イッセーはドライグに神という存在の全てが気に入らない内をぶちまける。






 あの日、ダクネスと一緒に居たクリスという盗賊の女が一人で夜の町にてナンパしてる所を邪魔するばかりか、勝手に人気の無いところで見せられた真の姿と正体。


『エリス……これが私の本当の姿です。
初めまして兵藤一誠さん、そして二天龍ア・ドライグ・ゴッホ』

『………』

『コイツ、俺の名前を……』


 クリスとは正反対とも言える女神エリスとしての姿を見せられた時、いの一番にイッセーが感じたのは……。


『女神エリス……ねぇ?』


 かつて殺した神共と同じく……殺意だった。


『私の役割はこの世界に散らばった神器の回収と、事情によって不在になった先輩女神のお仕事です。
えっと、誤解ないように言って置きますけど、神器と言っても貴方の神器(セイクリッドギア)とは関係な――』

『オーケー大体わかった……だから死ね』

『っ!?』


 そしてせっかちな男は、エリスの言葉を待たずしてエリスを街の外まで殴り飛ばす。


『くっ……!? い、いきなり何を……!?』


 神の席に着くだけあり、牽制気味に貰った右ストレート……食らえば即死級のパンチを咄嗟に両腕でガードしたエリスは、衝撃と威力を殺せず街の外まで吹っ飛ばされ、クレーターを作りながら着地する。


『くくくっ! おいドライグ? アクアの時は自分の状況に混乱してて沸かなかったが、こうして落ち着いて相対してみると、やっぱりぶっ殺したくなるぜ……神って名乗るボケは』

『殺るのか?』

『当たり前だ』


 いきなりの先制パンチに怯みながらも、殺意に満ち溢れた形相で嗤うイッセーは、この時点で目の前の女神を本気で存在ごと消そうと決めていた。


『う、噂に違わぬ力ですね。
で、ですが待ってください! 私は貴方に何かをするつもりは――』

『言い訳は死んでからするんだな。もっとも、そんな声なぞ俺は聞かんがね』


 一撃で片腕をへし折られたのか、右腕がひしゃげながらも必死に敵対意思が無いことを訴えようとするエリス。
 しかしイッセーはその言葉を全てはね除け、禁手化を発動して鎧を全身に纏う。


『くっ……! 人外の中でも取り分け神を憎悪しているのは知ってましたが、話くらい聞いてくれたって良いじゃないですか……!』

『嘘吐きの話なんて聞くだけ無駄だ……死ねぃ!!』

『Boost! Boost! Boost!!!』


 折れた腕を咄嗟に回復させ、隕石を思わせる速度で襲ってきたイッセーに対抗して目の前に障壁を張るエリスは、人外嫌いの度合いが此処まで酷いのかと若干正体を明かした事を後悔していた。


『そんな薄皮一枚張って凌いだ気になってんなよボケが!!』

『きゃあ!?』


 そして何よりも殺意を剥き出しにする修羅の世界でも最強レベルの少年は、恐ろしく強かった。
 並みの生物では突破不可能なバリアーを紙屑の様に殴り破る様はまさに殺意に取り付かれた修羅そのものだ。


『地獄の九所封じその一……大雪山落としー!!!』

『がっ!? せ、背中の感覚が――!?』

『その二、その三! スピン・ダブルアームソルト!!』

『がはっ!? ほ、ほんとに待っ――』

『その四とその五、ダブル・ニー・クラッシャー!!』


 それは最早ギャグテイストすら感じる程に清々しい容赦の無さだった。
 それこそ、今この場でもしダクネスが見てたらハァハァしちゃうくらいに……イッセーはエリスの両肩やら背中から両脚を封じながら尚も攻撃の手を緩めなかった。


『その六、兜割りぃぃ!!』

『ひぎぃ!? は、話を聞いてぇ……ひっく……』


 それでも生きてる辺り、流石は女神だけあるエリスだが、ここまで一方的にボコボコにされても尚、話を聞いてくれと半泣きで懇願する辺りが結構シュールだ。


『その七、ストマッククラッシュ!!』

『げふ!?』


 でもイッセーは止めない。
 それはそれは覆った鎧の下でドSな笑み全快で、兜割りなる技でエリスを地面に叩きつけた後続けざまに飛び上がり、そのまま頭部から落下してエリスの腹部に頭突きを噛ます。


『ひっく……酷い……』

『おっと? まだ生きてるのか……まあ、カミサマなんて名乗るんだ……そう来なくちゃ面白くない』


 七の時点で漸く攻撃の手を止めたイッセーは、クレーターになった地面のど真ん中で土に汚れて泣いているエリスに久々に耐久性に優れた木偶である事を喜びながら、急にエリスの手を掴んで無理矢理気味に立たせる。


『その八握手……といっても今の俺には幻実逃否は無いのでそのままの意味での握手だがね。
さて、どんな気分だ女神様よぉ?』

『だ、だから……はなしを……聞いて……う、うぅ……ふぇぇん……』

『………。おいイッセー……小娘が泣いてるんだが』

『へっ、知るか、泣きたきゃ泣いたまま死ね』


 握手の体勢で泣き出したエリスに、ドライグが若干怪訝そうな声でイッセーに語りかけるが、イッセーはそれを無視する。
 所詮、女神は女神……人間じゃない生物に慈悲なぞくれてやるものか。

 そう言い聞かせる様に己の中で繰り返したイッセーは、そのままエリスをスピン・ダブルアームの体勢に固めると、最も得意で最も気に入っていた技を発動させる。


『じゃあなクソ神。地獄の九所封じのラストワン!!』

『っ……ううっ!?』


 グルグル勢いよくエリスを固めたまま回転し、そのまま上空に投げ飛ばす。
 そして自分も飛び上がり、逆さになっていたエリスの首に自分の膝を引っ掛けると……。


『地獄の断頭台ーっっ!!!!』


 ニードロップの要領でそのまま地面に激しく激突させるのだった。
 この時点でイッセーは確実にエリスの首をへし折って殺したと確信していた。
 何せこのフルコースは、人外の女が自分によくわからない理由で貸してくれた漫画のキャラが使ってた地獄のフルコースであり、イッセーが最初に全力で完全コピーし、あらゆる生物を撃破した技なのだ。
 なのでエリスも例外無くこれで仕留めた……と思っていたのだ。


『話を……聞いて……ごほ……!』

『なっ!?』
『生きてる……だと?』


 そう、虫の息とはいえ、生きてるエリスをその目で見るまでは……。


『あ、貴方が人外を憎悪する理由は……わかって……る、つもりです。
け、けど……は、話くらい聞いたって、良いじゃ……ありませんか』

『コイツ……!』


 淡い光をその身に纏い、受けたダメージを瞬く間に回復させるエリスが、徐々にイッセーに近寄る。


『こ、これでも一応女神を名乗ってるんです……聞いて貰うまで死んでやりませんからね……!!』


 そしてエリスはちょっとだけ狼狽えるイッセーにそう啖呵を切ると……。


『ぐぅ……』

『っ!?』


 限界だったのか、そのまま力尽きる様にイッセーにもたれかかる様にして意識を手放した。
 当然イッセーは受け止めるなんて真似はせず、そのまま前のめりに倒れたエリスと自分の掌を交互に見合わせながら信じられない様な表情を浮かべてる。


『な、何でだ? もうとっくにアクアのせいで弱体化した力も鍛え直して取り戻したし、寧ろ進化すらしてるのに……何で殺せない……!?』


 それは困惑だった。
 イッセーがドライグと共に特に求めてもない最強という存在になった一因でもある無限進化の異常性によりとっくに全盛期を取り戻したどころか、そこから更なる進化まで果たしていた。
 なのに何だこの結果は……? イッセーはすかさず倒れていたエリスにトドメを刺そうと拳を振り上げようとしたが……。


『チッ……!』


 やらなかった。いや『出来なかった』。

 
『……。殺さないのか?』

『!』


 禁手化を解除し、忌々しげに倒れているエリスを睨むイッセーにドライグが少し穏やかな声で問い掛ける。


『俺はどうしたんだろドライグ? 何で、殺せないんだ?』


 まるで親にすがり付く様にイッセーは内に宿る唯一の親友であるドライグに問う。
 肉体的には強くなっているのに、何故かエリスを殺せない……その理由が全くわからない。

 子供の様に困惑するイッセーにドライグは言った……。


『さてな、だが、知って受け入れればお前は更に強くなれると思うとだけは言っておく』


 答えを教えないではぐらかしたドライグにイッセーは無言で自分の掌を見つめる。
 昔からの暗黙の了解……答えを直接教えられない時は己で見つける。

 親友であり相棒であるドラゴンの言葉を受けたイッセーはその曖昧な返事に怒る事は無く、されど不満そうに舌打ちをすると、アクアの後輩と自称していたエリスを乱暴に担ぎ……そのまま街へと戻る。


『ほう、生かすのか? お前にしては珍しいじゃないかイッセー? もう答えがわかったのか?』

『わかる訳無いだろ。だが、この女神を修行に付き合わせれば、俺はもっと強くなれるかもしれない……そう思っただけだよ』

『フッ、そうか……俺には『アクアの後輩だから殺すのを躊躇った』という風に感じるがな』

『冗談じゃない。何で俺がそんなくだらねぇ理由で殺すのを躊躇うんだよ……アホらしい、そんな訳あるか』

『そうか……。
ま、精々悩むんだな……くくく』

『チッ、何時にも増して意地の悪いドライグだぜ……』


 これがクリスを嫌う真相であり、未だ掴めない理由。

 エリスの姿は何と無く隠さないといけない気がすると思い、意識を戻すまで町外れの小汚い小屋で何と一晩共に過ごすという展開もあり、クリスとしての姿に戻ったエリスに散々キレられ、逆ギレして胸を盛ってる事を指摘して口喧嘩に発展し、挙げ句互いに小学生レベルの小競り合いをやる関係になり……と、たった数日で意味不明な関係になってしまったイッセーとクリス。


「あのクソアマ……俺がシカトすると持ち物パクるわ、足は踏むわでマジ害虫だぜ」

『その程度に留めてる辺り、寧ろあの女神とやらは相当に器のデカい奴だと思うが……』

「ケッ、冗談じゃねぇ。
あのアマ……カズマ達が見てる前でそれをやってくるんだぜ? 全部計算の上でやって来るんだならそれはねーわ」


 挑発して来ては楽しそうに逃げるクリスに最初はもう殺すと、追いかけ回して捕まえたりもした。
 だが厄介な事に捕まえて頭潰そうとすると痴漢呼ばわりしてわざとらしい悲鳴をあげるせいで、最近じゃ何故か自分がクリスに迫ってる残念男というふざけた風評が広まってしまってる。


「チッ、何処に居るんだよ? ガセか?」


 故にイッセーはクリスに極力近付かず、エリスになれば今度こそ殺してやると息巻き、普段は顔を合わせるのを避け、この時も只待っててクリスと鉢合わせしてしまうのを防ごうと、わざわざ顔もしらない相手と適当なクエストと小遣い稼ぎに勤しむつもりなのだった。


「おいマジでガセなんじゃねーかこれ? うわ、それはそれで腹立つなオイ」

 と、エリスとの妙な因縁はさておき、先程から気紛れで手にした募集の張り紙を手にギルド場の中を募集主を探していたイッセーは、探しても探してもそれらしき人物が居ない事にガセの予感を感じて若干イライラし始めていた。


『もしくは既に先客がこの募集主と組んでクエストにでも行ったとかな』

「あー……」


 ドライグの言葉にイッセーはイライラを引っ込め、少し納得した様な声を出す。
 考えてみれば掲示板に貼ってるという事は他の冒険者も見ている訳であり、既にその誰かがこの募集主と共にパーティ組んでクエストに出向いた可能性がある……いや寧ろこれだけ探してもそれらしき人物が見当たらない辺りそう考えた方が妥当だ。


「なんでぇ、変な募集だったからどんな奴だと見てやろうと思ったのにつまんねーの」

『何だ、結局やめるのか?』

「だって今のでやる気失せたし」


 大方隅っこ過ぎて職員も回収し忘れたのだろう……とか何とか適当に納得して持っていた紙を適当に放り捨てようとしながら、アクア達を待ってるだけに留めようと元の場所に戻ろうと考え始めたイッセーが、踵を返そうとしたその時だった……。


『む? おいイッセー、あの隅っこで体育座りしてる奴、お前の弟子になりたがる小娘と同じ波動を感じるのだが、アレじゃないか?』

「は?」


 イッセーが見たものはドライグにも伝わる。
 デフォルトで感覚まで共有しているお陰で注意力の足らないイッセーのアシストにもなっていたりする便利特性が此処に来て効果を発揮したのか、ドライグが募集主らしき人物はアレじゃないかと、イッセーに対して促す。


「何だよあのガキと同じ波動って……嫌な予感しかしねぇよ」

『そう言うな、ほらアレだ……』

「あー?」


 めぐみんと同じ波動……という言葉のせいか、若干――いやかなり嫌そうな顔を一瞬浮かべたものの、ドライグに言われて仕方なく賑やかなギルド場の隅っこ……掃除する時以外留まる理由がなさそうなヵ所を見てみると、確かに一人でポツンと体育座りなんかしてるウィザードっぽい格好の人物がいる。


「………。何してんのあれ? 女か?」

『だな……心なしかあの小娘と似てる格好に見えるぞ』

「えぇ……?」


 めぐみんと格好が似てるというドライグの言葉にイッセーはいよいよ嫌な予感しかしなかったのと同時に、この時点で掲示板では何も見なかった事にしてこのまま去ろうとすら考えていた。


『……あ、すれ違う奴を募集してきた奴と勘違いしたのか、違うとわかってまた俯いたぞ』

「…………。おい、まさかこの妙ちくりんな募集の理由って、パーティを組むコミュニケーション能力が死んでるからとかじゃねぇよな?」

『大体そんなもんだろ。あの姿を見ればな』

「えぇ……?」


 めぐみんと同じ波動というドライグの言葉で既に嫌な予感しかしてないイッセーはどうしようかと考えた。
 見なかった。見つけられなかった……という事にしてこの紙を元あった場所にそっと戻してカズマ達を待つべきか、それともドライグの言うとおりたまには見知らぬ誰かとのクエストを経験しておくべきか……。

 割りと迷った結果、イッセーはゆっくり歩みだした……。


「…………。ねぇ、キミがこの募集した人?」

「え……?」


 そう、地雷臭予感ぷんぷんな募集主の元へ……。


「えっとこれ……」


 めぐみんと同じ波動を感じるというドライグに言われた通り、顔をあげた少女の瞳はめぐみんに似た色をしていた。
 が、めぐみんとは決定的な違いがあった……。


(と、特盛……だと?)

『そこかよ……』


 呆れた声のドライグを横に、イッセーは目を泳がせる少女の胸元を見てびっくりした。
 何せこの少女……歳はわからないが、デカいのだ……胸が。


(特盛だけど……何だろ、あんまりそんな気になれないな)

『あ、そ』


 しかしイッセーは不思議と少女に対して食指が動かず、何時ものような掌返しも発動しなければ、下手くそなナンパ台詞も口から出ることはなかった。

 一瞬性癖がおかしくなったのか? と不安になるが、頭の中でダクネスの胸を妄想すればちゃんと心が踊る為、それは無かったと安心しつつ、さっきから目を合わせようともしないで『あの……』だの『その……』だのしか言わない少女にイッセーから仕方なく話を振る事にした。


「あー……あのね? 俺って『すっぴん』な訳よ? だからさ、誰かとパーティ組んでその人に受注して貰わないとクエストに行けないんだよね。で、困ったことに何時も組んで貰ってる人達は今別のクエストに行っちゃっててさぁ? もう暇で暇で仕方ないというか………まあ、キミの思った通りの奴じゃなくて実に悪いというか……」

「す、すっぴん? は、初めてすっぴんで冒険者をやってる人を見ました……」

「あ、うん……ちょっと事情があってというか、それでもやってみたかったというか。まぁ色々あってね……で、やっぱりすっぴんなんて嫌だ?」


 …………。何でこんな下手に喋ってるんだろうか俺は。と、内心この前から妙におかしくなってる自分に困惑しつつ、先程から顔や姿は見えないものの、それでも分かる『生温い視線』を中から向けるドライグに居心地の悪さを覚えつつ、すっぴんでも冒険者をやっている事に驚く少女に話を振るイッセー

 どうもこの少女は『それなりに』よくも悪くも『顔が割れてる』自分を知らない様で、ものの見事に市民の格好をしているイッセーにちょっと驚いている様子だったが、嫌だよね? という振りにハッとしたのか、途端に……首がぶっ飛ぶんじゃ無かろうかと思う勢いで横に振りだす。


「い、いえいえ! や、やっと募集してくれた方に断るなんてそんな……! あ、ありがとうございます! ありがとうございます!」

「…………。おう」

『変わった娘だな……コミュ障って奴か?』


 ドライグが中から少女には聞こえない声を出す通り、どうもこの少女は他人とのコミュニケーションに馴れてないのか、一々反応が大袈裟というかテンパってる。

 それはある意味イッセーにしてみれば新鮮な気分にさせるものであり、如何に今まで顔馴染みになった連中の自己主張が激しかったのかを再認識できる程、わたわたする目の前の少女の態度は『新しかった』。


「名前教えとくよ。俺はイッセー……職はすっぴん、キミは?」


 取り敢えずそのまま帰る気も無くしたイッセーは、自分の名前と悲しき職を教え、少女の名前を聞いてみる。
 コミュ障相手にどう立ち回るかなんて未経験な為知らないが、そこはもう他種族の敵を殺す際に培った無駄な煽りと、潜在的に高いコミュ力のアドリブでゴリ押しする事にする。


「えっと……えっと……その、変かもしれないですけど……」

「?」


 そんはイッセーに少女はまた目をあちこち泳がせながら、かなり言い辛そうな表情となる。
 名前を言いたくないのか? と一瞬勘ぐったイッセーだが、どうやらそうでは無いらしく……。


「わ、我が名はゆんゆん。アークウィザードにして上級魔法を操る者。そして紅魔族の長となる者……!」


 死ぬほど恥ずかしいと誰が見てもわかるくらいに顔を真っ赤にしながら、めぐみんと同じ種族らしい少女はその名前……ゆんゆんと名乗るのであった。


「あ、あの……やっぱり変ですよね? で、でも私の故郷だとこういう名乗りをしないと逆に変人扱いされるから……」

「あー……いや、うん、別に変とは思わないよ」


 恥ずかしいそうに俯くゆんゆんの名乗り文句にて出てきた紅魔族という言葉を耳にした瞬間、イッセーの中で『やっぱりあのガキの同族か……』と確信するのと同時に何で食指が動かないのかも納得した。

 要するに、そういう対象じゃ無いという事だった。


「人種の違いなんて其々だしね。まあ、それを主張して他人に押し付けようとするんだったら嫌だけど」

「そ、そんな事はしません! ぜ、ぜったいに……」


 しかしそれでもめぐみんと対応が真逆なのは、ゆんゆんという少女の気性がイッセーにとって新鮮に感じるのと、見た目だけなら合格ラインをぶっちぎっていたからという最低な理由である。


「アークウィザードなら割りと上位のクエスト受注できるだろ?」

「は、た、多分……」

「取り敢えず何かやろうぜ? さっきも言った通り連れが戻るまでもう暇で暇で……内容は任せるよ」

「あ、は、はい!」


 スタスタと受け付けに行こうとするイッセーに慌てて返事をしながら追い掛けるゆんゆん。
 実はライバルが彼の弟子になりたがって騒いでたとは知らずに……運命とは中々よくできているものである。





 色々な理由でボッチ気質が高い紅魔族のゆんゆんは、正直すっぴんで冒険者をやる存在が居る事じたいに驚きを隠せないでいたし、また彼が『そこそこ顔が割れてる』冒険者である事も知らなかった。

 なので最初は『例えすっぴんでも、パーティ組んで行けるだけ大きな前進』だと割りと素直にイッセーからの募集に喜び、そして張り切ってそれなりのクエストを受注してみた。


「マンティコアとグリフォンの討伐って……これ二人体制じゃヤバイんじゃねーの?」

「うっ……ご、ごめんなさい。初めてパーティを組めたと舞い上がってしまって……」


 その内容はマンティコアとグリフォンの討伐・捕獲という上位どころか二人体制じゃよほどの高レベルじゃなければ難しいとされるクエストを、舞い上がってたゆんゆんは受けてしまったのだ。


「いや別に良いけどさ……」

「あ、あの本当にごめんなさい……い、いざとなったら私が囮になりますから、その間に逃げてください……」


 舞い上がって受注してからはたと気付いたゆんゆんは最初即にキャンセルをしようと受け付けのお姉さんに頭を下げに戻った。
 が、何故か受け付けのお姉さんは自分を……いや、その後ろに居たイッセーを見るなり妙に納得した顔をすると……。


『この前みたいに地図を描き直す嵌めになる真似はしないでくださいね? 偽装工作も楽じゃありませんので』

『ひゅう、さっすがお姉さん。できたらその優しさを夜のベッドの中で教えて――』

『ハイハイ行った行った』

『おう、ツレないお姉さんも素敵!』


 あっさりと許可し、送り出されてしまった。
 

「砂漠ってやっぱりあっちーな」

「は、はい……あ、あのお水は大丈夫ですか?」

「大丈夫大丈夫、寧ろやるよこの水。俺要らねーし」


 間違いなく自分のレベルを確認したからとかではなく、すっぴんであるイッセーを見て大丈夫という判断を受け付けのお姉さんはしていた。
 とすれば、高レベルモンスターが生息し、砂漠地帯という過酷な環境のど真ん中でも自分より平然と二体のモンスターを探してるイッセーに『なにかがある』とゆんゆんは勘ぐっていた。


(……。すっぴんという時点でおかしいし、何があるんだろうこの人は……?)

(……。居た……四時の方向5㎞先に生物同士のぶつかり合いがある)


 日が容赦無く照らす過酷な空間でも平然としていて、自分を気遣う余裕すら見せている。
 しかも今も何のつもりか、その場にしゃがんで軽く拳で砂の地面を叩き、目を閉じている。
 まさか熱中症……? と思ったゆんゆんは先程無理矢理渡された水筒を返そうとするが、静かに目を開けたイッセーに体調の変化は微塵も感じられなかった。


「見つけたよ。図鑑の通りならマンティコアもグリフォンもこの先で運良く互いに潰しあってる」

「え!? この先って……何も見えないんですけど……」

「行けばわかる……さて、早いとこ済ませんとキミがへばってしまう」


 何も見えずに目を凝らすゆんゆんに、イッセーは素っ気なさげにそう返すと、ちょっと顔色がすぐれなくなっているゆんゆんを無遠慮に抱える。


「っ!?!?!? な、ななな、何を!?」

「一人にする訳にはいかないだろ? あ、あとあんまり喋ると舌噛むから気を付けろよ?」

「な、なんのこ――――とぉ!?」


 そしてそのままジェット機の如くその場からジャンプし、互いに争う二体のモンスター目掛けて一直線に突撃する。


「な、なにがぁぁぁっ!?!?!?」


 強烈な速度だが、不思議な事に空気の抵抗を感じないゆんゆんが、びっくりパワーを発揮して飛んでるイッセーに困惑全開で叫ぶ。
 すっぴんで何のスキルも覚えられない筈なのに、この男の人はそれがどうしたんだとばかりに平然とこの速度を維持して飛んでいる。
 というか、何の原理でこんな状況なのかもわかりゃしない……とパニックにすらなるゆんゆんだが、イッセーはその全てに答える事は無く……。


「みーっけ、金づるぅぅぅぅ!!!!」

「きゃぁぁぁっ!!」


 お目当てのモンスター二匹が争う間に突っ込んでいくのだった。


『グルァァァァッ!!!』

『シャァァァァッ!!!』


「良いねぇ良いねぇ……くくく、やる気十分って訳かい」

「も、物凄く怒ってますね……」


 二体のモンスターは争っていた。
 しかしその間に邪魔者が割って入ってきた。

 となれば二体のやることはまず、その邪魔者を排除する事であり、それまで威嚇しあっていた幻想の獣……グリフォンとマンティコアは、小さくか弱い生物二匹に獣の雄叫びをあげる。


「っ!? や、やっぱりやめた方が良かったかも……ご、ごめんなさい私のせいで」


 その内一匹は明らかに怯えた表情を浮かべた。
 だが、もう一匹は……。


「うるせぇぞ、獣如きが」

『ギッ!?』


 その背に巨大な赤い龍の幻影が二匹の目に映る程の凶悪な殺意をむき出しに、自分達を睨んでいた。


『が……っ!』

『じ……!』


 その瞬間、二匹の王者は本能的に悟った。
 目の前のちっぽけな身体をした奴には勝てないと。

 そして逃げなければ自分達が殺されると。


『ギャォォォォッ!!!』

『ジャァァァァッ!!!』


 悟った瞬間、二匹の王者は形振り構わず逃走を選択し、その場から全力で背を向けて走る。
 勝てない、殺される……それは王者の獣二匹が感じなかった明確な恐怖。

 しかしその恐怖の主は、自分達を逃がしてはくれなかった。


「おいおい、逃げんなよ犬ころ? そりゃねーだろ?」

『『!?』』

「は、速っ!?」


 並んで逃走をした獣二匹はあっさりと回り込まれた。
 そして尚尽きない恐怖を振り撒くちっぽけな人間は、動かない――いや動けないグリフォンとマンティコア二匹の頭を殴り付ける。


『『ギャイン!?』』


 それはまさしく犬ころの様な鳴き声だった。
 あの幻獣種が犬の様な鳴き声と共に砂漠の海に頭から突っ込み、辛うじて命を繋いだものの、たったその一撃でピクピク痙攣して動かなくなってしまった。


「え、え……?」


 その様子を見ていたゆんゆんはといえば、援護のつもりで構えた杖を落としそうにしながら、ポカーンと犬神家よろしくに頭から地面にめり込んでる幻獣2匹を眺めていた。

 

「…………。あ、しまった。この子の目的果たしてねーし」

「い、いえ……それよりも一体全体何が何だか……」


 自分の見せ場が無いなんてどうでも良いとすら感じていたゆんゆんは、二匹の幻獣を軽々と足を掴んで引き摺りながら戻ってきたイッセーにただただ困惑した表情を浮かべる。

 すっぴんな筈なのに、異常な速度で飛ぶは、幻獣2匹を拳骨で地面にめり込ませてあっさり捕獲するわ……今も死にかけてる幻獣を平然と引き摺りながら、自分に対してちょっと申し訳なさそうにしてるわ。

 ゆんゆんは取り敢えず訳がわからなかった。


「す、凄い……ですね……」

「あ、うん……」


 が、良くはわからないが、目の前の男の人が普通に凄いのだけは理解できたのか、やがて困惑の表情から妙にキラキラと……羨望じみた眼差しに変化させるゆんゆんにイッセーは内心『ちっ、余計な真似だったか』と舌打ちをする。


「あ、あの……! す、凄いです! な、何でとか良くわかりませんけど、と、とと、とにかく凄いです!」

「あ、うん……」


 さっきから『あ、うん……』としか返さないイッセーだが、それでも興奮の方が勝ってるのか、ゆんゆんは妙にハイテンションだった。


「あ、ご、ごめんなさい……その、変な意味じゃなくて常識外の光景を見てつい……」

「あ、うん……別に良いよ。でもあんまり言い触らしては欲しくないかも……」

「そ、それは……わかってます! せ、折角これからも仲間として一緒に働くのですから、それはもう当然私の胸の中に……」

「え?」

「え?」


 互いに微妙な食い違いが浮上し、ある意味そこからが本番だとしても、ゆんゆんは久し振りにテンションが上がっていた。






 仲間? 何仲間って……? そう真顔で言われた時、私は何かに心臓をひと突きされた気持ちでした。


「え、だ、だって……募集内容に毎日楽しくクエストやったりご飯食べたりって……」

「え? は? ………………あ、ホントだ」

「え、み、見て無かったんですか?」

「いやほら……そのツレが戻ってくるまでの暇潰しのつもりだったというか」


 この方――イッセーさんが目を逸らしながら言う。
 どうやらイッセーさん的には一度きりのパーティのつもりだったらしいです。


「そ、そうですよね……ふふ、碌に他人とお話も出来ない人となんて毎日居たくありませんよね。あははは、何はしゃいでるんだろ私って……あははは」

「うっ!?」


 そうですよね、イッセーさんは既にお仲間も居るし、私みたいなぼっちなんてどうでも良いですよね。
 ええ、わかってますよ……あはは、あれ、なんだろ……涙が出てきちゃう。


「ご、ごめんなさい……私なんかと仲間になっても楽しくないですよね? 変な事言ってごめんなさぃぃ……!」

「え、あ、いや……あ、あれぇ?」


 挙げ句の果てには勝手に泣いてイッセーさんを困らせる始末。
 ふふ、私なんてそこら辺の雑草に生まれればよかったんだ……。


「あ、わ、わかった……わーったよ。キミの見せ場奪ってはしゃいだのは俺だし、その……あれだ、連れと組んでくれるなら……」

「え? い、いいんですか?」

「連れ三人の内二人がバカとガキだけど……それで良ければ……」


 だけど、ちょっと言い淀みつつも、私なんてしょうもない生物を誘ってくれたイッセーさんに私はフワァとした気分になった。


「ふ、ふつつかものですが、す、末永くお願いします!」


 これしかチャンスはもうない! そう思った私は自分でもびっくりするくらいの勢いでその言葉に飛び付いた。
 一人はもう嫌だ……惨めな気分で楽しそうにパーティを組む人達を眺めるだけの自分は嫌だ。そんな気持ちを抱きながら、私はイッセーさんの仲間にして欲しいとただ懇願した。


「……。やっべーなんて説明すりゃ良いんだろ……」

「あは、仲間……あはははは!」

「何か、ラリってるし……あぁ、めんどくせー……」


 そう……。



「め、めぐみん!? な、何でアナタが!?」

「それはこっちの台詞ですよ! 何でゆんゆんがイッセーさんとグリフォンとマンティコアの捕獲のクエストしてるんですか!」


 知り合いがその中に居た事にびっくりと世間の狭さを感じたけど。


「おま、グリフォンとマンティコアの捕獲なんてスゲーな……いや、今更か?」

「あ、おう……お前ら戻ってくるまで暇だったからつい……つーか、知り合いだったんだな、あのガキとゆんゆんって子は」

「彼女も紅魔族みたいだけど……それにしても凄い額ねぇ……。ね、ね、私に色々買ってくれるんでしょ?」

「あ? …………あ、うん……良いよべつに」

「っしゃあ! セレブ気分で買い物よ!!!」


終わり


おまけ・嬉しくない修羅場。


 本人は正直かなりうんざりしてたのだが、やっと出来た仲間ないし師匠の取り合いに同族の少女は互いに揉めに揉めていた。


「イッセーさんは私の師匠です! ゆんゆんには渡しませんよ!」

「なっ……! わ、私はイッセーさんの仲間になって、ゆくゆくはお友だちになるのよ! アナタに邪魔される訳にはいかないわ!」


「おい、勝手に修羅場になってるけど良いのか?」

「知らね……あのガキの知り合いならガキに任せて――」

「ねぇイッセーさん! ゆんゆんより私の方を優先してくれますよね!? 私の方が付き合い長いし!」

「あ、あの……わ、私じゃダメ……ですか?」

「……………………」

「お、良かったな。お望みのハーレムだぜ? そんな苦虫噛み潰した顔しないで喜べよ?」

「下手な罰ゲームより最悪だわこんなの! えぇぃ、どっちも離れろ!」


 ガキに好かれても全然嬉しくない。
 心の底からそう思ったイッセーは、寄ってきたゆんゆんとめぐみんをひっ剥がしたのだが……。


「そ、そうですよね……こんな私よりめぐみんの方が良いですよね………」

「う……!」


 自己主張が控えめに加え、すぐ卑屈になるゆんゆんに対し、イッセーは怒鳴り散らすというめぐみんに対する対応が使えず言葉に詰まってしまう。


「いや……あ、わかった……うん、どっちとかそんなのべつに無いから……ほ、ほら……言ってた通り買い物いこうぜ? な?」

「(パァ!)は、はい! ふふふ……♪」

「むっ……!」


 なのでつい激レアで、めぐみんとは全然違う対応をゆんゆんにしたイッセーに見ていた本人は、妙に嬉しそうにはにかむゆんゆんを見て面白くない気分になる。


「い、イッセーさん、わ、私は!? 私には何か一言ありますか!?」


 だからこそ、やばい弟子ポジが取られると危惧して詰め寄るめぐみんに、イッセーは疲れた様に……。


「なぁ、頼むからさ……」

「ぁ……」


 そっと、本気でげんなりした表情で何を思ったのかめぐみんの頬を軽く撫でながら言うのだ。


「一々騒ぐなよ……な?」


 頼むから、本当に頼むから俺の事で一々騒ぐなと。
 イッセーにしてみればこの行為自体に意味も無く、怒鳴り付けるのもめんどくさいからといった理由だったに過ぎない。
 しかし、毎日突撃しては拳骨か怒鳴られていためぐみんにしては寧ろべつの効果があった様で……。


「あ、あうあう……は、はいです」


 ポーッとした表情のまま、コクコクと頷くのだったとか。


「ハァ……めんどくせぇ。受け付けのお姉さんだったら騒いでもテンション上がるのに……」

「……。絶対逆効果だろ……あれ」

「は? 何が……?」

「いや……アメと鞭的な意味で」




 そう……。


「えへ、えへへへへ……」


 撫でられた箇所に触れ、異様に幸福を全面に出した笑みを浮かべてるという辺り、多分イッセーの対応は合ってるけど間違ってしまったかもしれない。


「ふふーん、見ました今の? イッセーさんに撫でられちゃいました~ えへ、えへへへ」

「…………。ふ、ふん、う、羨ましくなんかない……う、羨ましくなんか……」





「ほら、ドライグ的にはどうよ?」

『大爆死だ。コイツは他人の扱い方を知らんからな』

「どうでも良いけど早く私を背負いなさいよ」

「は? 何急に怒ってんだテメーは?」

「知らないわよ、ただ急にムカムカするだけよ……ほら早く!」

「……。意味わかんねーなどいつもこいつも……」


 そういう星の下の本来は生きる男は異世界にてその無駄な性質が開花したのだ。







補足

エリス様に罰当たり極まりないというか、ぶち殺されても何の文句も言えない真似をするイッセー。

元ネタは勿論将軍様。

意気込みは某久瀬の兄貴。

ほ、ほら……カズマって名前的にね?

その2
んな事があって、エリス様は嫌いなのですが、エリス様……というかクリスさんは意地もあってか一々喧嘩売ってくる真似をし始めるのだった。


その3
フライングゆんゆん。

そしてフライング高位クエスト。
気づけば妙に懐かれ、嬉しくない修羅場を作り……そして意外な事にイッセーの言うことを割りと聞かせられるかもしれない潜在能力が……。


その4
めぐみん……この歳でアメと鞭に嵌まってしまう。

IF世界のロリ達の呪いというべきか、徐々におかしな方向に行ってしまったとしても、それはもう彼の対応が悉く失敗したせいということで、諦めてロリコンでも目覚めてしまえば良いと他人事の様に応援してあげましょう。