だからこれで本当にラスト。
取り戻す、いや進化してみなさい。
初めて出会った時に言われたこの言葉は今でも忘れない。
漫画みたいな力を持ってて、リアルでドラゴン波も撃てて、何でも魔法使いみたいな女にチビガキでしか無かった俺と同じ目線に合わせて言った言葉こそが俺の人生のターニングポイントであり、本当の意味でのルーツでもあった。
それは恐らく俺の中に宿る相棒の価値観すらも変えたと思う。
だって俺達は、今もこうして生きているのだから。
「ところで鍋島先輩、ひとつ聞かせてください―――
―――貴様は誰だ」
「……。あれ? 何でバレたん?」
異世界だけど。
「そして貴様も誰だ」
「俺は只の野次馬でーっす」
「…………! 僕が気付かなかっただと……?」
俺の人生観を変えた女の過去の世界だけども……。
この日箱庭学園の生徒会は、黒神めだかがプレゼンするオリエンテーションに、先日体験入学を果たした五人の女子中学生達と行っていた。
その五人は悪平等であったりする訳だけど、球磨川禊とのやり取りを経て微妙に関係が軟化したみたいな事になってたりする訳だけど、説明会以降姿を現さなかった、自称平行世界未来人である兵藤一誠が、鍋島猫美に化けた安心院なじみを見抜いたのとほぼ同時に姿を現した事で、オリエンテーションを開始した生徒会メンバーと五人の中学生とは別に不穏な空気を放り出していた。
「貴様は先日の説明会の選定をクリアした際、その後の面談をせず帰ってしまった男だな? ある意味で待っていたぞ」
「え、本当っすか? 俺てっきり『帰ったなら失格で良いだろ』とか思われてましたわ。ほら、あの五人の中学生達も居るしね? そこん所どう思うよネジだらけちゃん」
「然り気無く僕が何かしてますって感じにしないで貰えるか?」
生徒会と五人の中学生がこの学園にそびえ立つ時計塔へと行ってしまう中、生徒会長・黒神めだか、悪平等・安心院なじみと不知火半纏、住所不定で所属不明・兵藤一誠という何が起きてもおかしくない面子が対面している。
だがそんな雰囲気とは裏腹に、アホなのか楽観的なのか、それとも単純に上から見下してるからなのか、黒神めだかにも安心院なじみにもヘラヘラした態度を一誠は崩さない。
「聞くところによると、異世界の未来人を自称しているようだが……」
「あ、はい。細かい説明すんの面倒なんで言いませんけど、駒王学園3年A組兵藤一誠! 夢はハーレム王です!」
めだかの質問に対してもヘラヘラと嘘にしか思えない回答をするし、此方の安心院なじみに対してに到っては……。
「ついでに聞かせてくれるか? この前キミが口にだしたスキルは未来の僕がキミに与えたのか?」
「一々説明するのも面倒だ、自分で勝手に想像しろ」
どこぞの野菜人王子みたいな対応という、仮にもめだか達にとっては警戒している相手だというのに、まるで家族に対する気安さというか、少し雑な対応だった。
「……。ふむ、此処で立ち往生しててもしかたないし、私は一足早くこのオリエンテーションのゴール地点に居なければならない。
なので此処は互いに腹を割って話し合うというのはどうだ?」
安心院なじみに刺さる球磨川の却本作りの螺子を然り気無く『取っては刺して』と遊んでる一誠と、封印状態から戻ったかと思えばまた封印されたりた遊ばれて平等主義でもイラッとする安心院なじみにそう提案するめだかは既に体操着姿から生徒会制服へとチェンジしている。
「これがアイツの言ってた却本作りねぇ? へー、簡単に抜き差し出来るんだね……っと、話し合いは大歓迎っすよ。ただし、後でサインしてくれたらですけど」
「おい、僕で遊ぶな。未来の僕はどうだか知らないが、僕はキミの知る僕じゃないんだぞ。割りと僕でもイラッとするぜ? ………っと、僕も別に良いよ。めだかちゃんには少し言っておく事があるし」
「…………」
微妙に緩い空気の中で始まるサミット。
それがどうなるかは、時計塔地下にある温泉施設…………
「俺の目的はね、過去のなじみの邪魔をすること。
理由? うん、この時代でのコイツのやってる事も考えてる事も大体は把握できててそれは間違ってる―――――なんて事は無く、コイツの困り顔を見たいから」
「とんだ迷惑だな。
未来の僕とやらの根性が何年経ってそうなったのかは知らんけど、かなり悪いぜ」
「なるほどな、未来が本当だと仮定するなら兵藤は未来の悪平等という事か?」
な、訳は無く、何故かサッカーユニフォームに着替えてボール遊びを時計塔の地下十二階にある競技場で行いながら、器用に雑談していた。
「あぁ、それよく言われるけど俺は別に悪平等じゃないっすよ。
第一アレってこの時代のなじみが異常者やら過負荷に合わせて名乗ってるだけだし」
「なに?」
「そうで無くてもアイツは俺をそういう位置には置かないしね」
「未来の僕の考えというのも興味深いが、何故だい?」
誰も彼も彼女も無数のボールを重力法則無視で弄びながら、平然とトークを繰り広げる様は一種の変態集団に見えなくもない中、悪平等じゃないし悪平等に未来のなじみがさせないだろうという言葉にめだかと現代のなじみは少しだけ目を細める。
「『所有物』らしい……俺はアイツの」
そんな二人に一誠は若干遠い目をしつつ、十個近いサッカーボールを苦もなく蹴り上げつつ自分は未来の安心院なじみの所有物という、色々とアレな事を言い出す。
「それが俺がアイツと交わした契約だからしょうがないけど、所有物ってのは無いだろと思うだろ? 黒神さんもアンタも思うだろ?」
「まあ、うむ……」
「未来の僕ってなんなの?」
「俺が知りたいわそんなの」
足下へと落ちてきたサッカーボールを空気の破裂音と共に蹴り割りながら、微妙な顔をする二人に対して一誠も微妙な顔をする。
二人は……いや不知火半纏含めて三人は知らないが、その所有物扱いのせいで彼女も出来てないし、この時代には存在する七億の悪平等も存在してない為、色々なお仕事を全部一誠が引き受けてるのだ。
「まあですから? 過去のコイツの嫌がらせして少しは気分も良くなろうかなーって。あ、あとこの学園の可愛こちゃんとかとも是非お近づきになれたらなーって……げへへへ!」
「ふむ」
「良い迷惑ここに極まりだな」
結局の所、安心院なじみに嫌がらせしたいだけなのかと、バカ正直に信じるめだかとは裏腹に檄レアとも言うべき嫌そうな顔をする安心院なじみ。
「なんで早速なんですけど黒神さん、知り合いにいません? かわいい子」
どんな状況だろうともマイペースを崩さない。
そういう意味ではめだかにとっても安心院なじみにとっても『厄介』なのだから。
だが厄介というだけならまだ良い。
厄介というのならそれをはね除けるまでなのだから。
しかしこの男は――異世界の未来人を自称する兵藤一誠という男はそれだけでは無いのだ。
「話は変わるけどめだかちゃん。キミは僕が二百年くらい前に冗談で考えてみた凶化合宿を最後までやったの?」
「む、やったよ。つい一昨日にな」
例えばそうだ、黒神めだかがつい一昨日に対球磨川の為に打ち込んだ合宿の完走という話が出ても……。
「ああ、アレか。小一前に完走させられたわ俺も。しないと風呂で背中流せだの、風呂上がりのマッサージしろだの言われて必死だったなぁ」
「なに? そんな前に――」
「ちょっとお前は黙れ。話を戻すけど、これでめだかちゃんはマイナス対策も万全になった訳だ。
アレになるめだかちゃんを見てみたいもんだ――」
「あぁ、廃神モードだろ? アレでマイナスのスキル使うと色々とノリノリになれるよな?」
「…………。あのさ、僕今めだかちゃんと話してるの。だからネタバレとかするなよ、それジャンプ漫画じゃやっちゃいけないからな?」
得意顔で話したい安心院なじみに一々口を挟み、ちょっとイライラしはじめるその顔を見てニヤニヤしたり。
「こほん、話は戻るけど。そんな凶化合宿を完走しためだかちゃんは確かに凄い。
けれどある意味必然だとも思ってる。困難をただ乗り越える、キミ本質はそれだけなんだよ」
「…………」
哲学的な事を言う安心院なじみだけど、さっきからチラチラと何時口を挟んで邪魔してやろうかとニヤニヤしてる一誠が気になってるせいで、若干間抜けだ。
その顔がまた安心院なじみをピンポイントでイラッとさせるツボを押さえてるのが憎たらしい。
「その上で聞くけど、以前めだかちゃんは『完璧な人間なんて作れっこない』と僕のフラスコ計画を否定したそうじゃないか」
「………」
「ニヤニヤ」
「……………………。うん、それはもしかしたら事実かもしれない。完璧な人間というものは例え一京のスキルを持つ僕でも作れないからね」
思わず近くにあったボールをニヤ付いてるその顔面目掛けて蹴りつけてやりたい衝動を我慢しながら安心院なじみはにこやかに続けようとしたのだが……。
「フラスコ計画ねぇ……」
それまでニヤニヤしていた一誠が不意に安心院なじみの口にしたフラスコ計画という言葉に対して鼻で笑う様な態度を取る。
「何だよ? フラスコ計画くらい凶化合宿を知ってるんだから聞いてるだろ? 未来の僕に」
「あぁ聞いたよ。無駄金掛けて、無駄に人集めて、無駄に大真面目にバカやってた『旧』フラスコ計画は特にね」
「旧だと?」
今のフラスコ計画を旧型と言う一誠に安心院なじみもめだかもピクリと反応する。
何せ未来人を自称しているということは、今のフラスコ計画が旧となる……新と提唱するフラスコ計画が存在している事を彼だけが知っている可能性があるのだから。
「兵藤一誠。旧フラスコ計画と言ったという事は貴様はその後のフラスコ計画の事を知っているな?」
「ちょーっとそれには興味あるぜ僕は?」
めだかとなじみの二人の視線がボール遊びに飽きたのかその場に座る一誠へと向けられる。
「知ってるも何もアイツ曰く、今まで何度か改変したフラスコ計画の歴史を『終わらせた』のが俺だからな」
「!」
「……。それはどういう意味だ? 終らせた?」
未来の安心院なじみの実態を先日一誠の口から聞いた今の安心院なじみにはある種思い浮かぶ事は何個かある。
一億回以上も敗北した不知火の闇をも超越しているという事は、ある種フラスコ計画に劇的な何かが……この目の前の見事なまでに自分のイラッとするツボを押してくる男に関係している事を。
だがしかし『終らせた』というのは一体どういう訳なのか……それまでのおちょくる態度から一変、どこか不思議な雰囲気と目をする一誠がゆっくりと立ち上がるや否や……。
「俺の特性は進化だ。
それも無限に進化し続ける事ができて、その進化を『他の誰か』にも与える事が出来る。
つまりだ、今俺がその気になれば、半日でこの世界にいる全人類――――いや、全生物のレベルを
「!?」
何もかもを根底から覆すだろう事実を暴露した。
それはめだかも、なじみも、静観を決め込んでいた半纏すらをも言葉を失わせた。
「だから終らせたと言ったんだ。
さぁてと今ひとつ秘密を言ったわけだけど、なぁ、この時代のなじみ? 今俺が此処でお前以外……いや、10人に一人の悪平等以外を
「………」
それは全てを安心院なじみの期待に応える為だけに死ぬことが普通とも言える地獄から這い出てきた男の圧倒的なオーラ。
「まあ、やる訳ないけどね。
だって碌に何もしない馬鹿なんか進化させたらこの星は三日も持たず滅ぶだろうし」
「………。とんだ拾いものをしたんだな、未来の僕は」
「まあ、最初からそういう訳じゃないんだけどねー? あと黒神さん、俺は別にそういう事はしないからね? あくまでこの女の困り顔を見たいために嫌がらせするだけだから安心していいぜ?」
「………。あぁ」
喰う事で奪い取るスキル。時間の流れを弄くるスキル。強制的に同じ道を繰り返させるスキル。夢と現実を入れ換えるスキル。その全てをすり抜けるスキル。時間と共に倍加させるドラゴンの力。破壊の技術……………そして自分、そして自分が好きと思える相手を永遠に進化させ続けるスキル。
「小うるさい女が居ない今がチャンスだしね、俺は適度にソイツの邪魔しながら、可愛いいおんにゃのことチュッチュするから是非とも安心してよ」
兵藤一誠。
悪魔やその他生物が滅んだ後の駒王学園所属。
備考……安心院なじみと人三脚で生き続けるだけの破壊の龍帝。
「あ、ところで黒神さん。サインくれます?」
「む……」
「おい、もう少し詳しく――」
「うるせぇこのベージュ下着!! 何で未来も過去もお前はおっぱいが小さいんだよ! スキルで盛っても小さいからガッカリなんだよ!!」
「……………。え、何で僕ディスられたの……?」
――一より更なる進化をした安心院なじみに囲い込まれて逃げられない男。
おわり
オマケ
平行世界の過去へと吹っ飛ばされた一誠は、取り敢えずこの時代の安心院なじみにめっちゃ嫌がらせをする事にはなったのだが、眠る時間となるとそうはいかない。
「で、どうだった過去の僕って?」
「正直に言っていい? 今のお前の数百倍色んな意味で可愛いわ」
夢の中、どこかの教室という空間の中で対面するは、螺子も刺さってない全盛期を越えた仕様の安心院なじみと、その所有物扱いされる一誠。
どうやらこの世界に飛ばされて初めて安心院なじみに会った日の夜の話らしいが、本人には言ってない評価を未来の彼女へと話していた。
此処では嘘は通用しないのだ。
「ふーん? なんで?」
「なんでって、今のお前より刺々してるけど何か見てて微笑ましいというか……。
アレだな、めっちゃ苛めてやりてぇ……」
この時代の安心院なじみが聞いてないのを良いことにめっちゃゲスな事を言う一誠。
どうやら彼的にこの時代の彼女は嫌いじゃないらしい。まあ、勿論今目の前に居る方のなじみも嫌いじゃないのだが。
「うーん、元々過去の僕への自慢目的だったんだけどな。まさか此処では好感度が上がるとはちょっと得したかも」
「いやお前じゃないからな? お前に対する好感度なんて上がりもしないし下がりもしねーわ」
「えー? なんでよー?」
この時代の安心院なじみと比べると、相手が相手なのか、微妙に子供っぽいなじみの態度だ。
「いやだってさ、おっぱいは少ないし、パンツはなんかアレだし……つーかさ、教壇の上に座って立て膝立てるなよ。見えてるからな?」
「アレってなんだよ? 第一こうしてもギリギリ見えないように僕は計算して――」
「してても俺は見えんだよ! お前絶対わざとだろ!?」
「あれ、何でバレたん?」
「スカートヒラヒラさせるバカ居るか! てかお前何で駒王の女子制服着てるんだっつーの!」
「なるほどー、それは盲点だった。一誠も大きくなったねー?」
「むかつく、めっちゃムカつく……!」
この世界では誰に対してもヘラヘラしてる一誠がムキになってるというのは、やはり未来のなじみには色んな意味で敵わないという意味合いがあるのだろう。
現に悪態を付いた瞬間、一誠でも反応が遅れる程の速度で文字通り目と鼻の先に迫られたかと思ったら、その勢いで机やら椅子やらを盛大に倒しながら一誠は床の上に押し倒されていた。
「いてて!? な、なにすんだよ……!」
勿論空間内の椅子と机が大惨事状態となる中押し倒された一誠が抗議の意味で声を出したのだが、馬乗りとなったなじみは小さく微笑む。
「最初はまあ過去の僕だし良いかなーとか思ってたんだけどさ、お前の口からまさか可愛いなんて言葉が出るとは思わなかったのと、思っていた以上に気分が悪くなっちゃったんだ。
だから今言うぞ? おちょくるのは構わないけど、過去の僕を口説いたら怒るよ?」
「はぁ? 何だその罰ゲームは? それはねーよ、てか降りろ…………っ!? お、お前、ど、どこグリグリしてやが……!?」
「あー、僕の事を地味パンツババァって言ってる癖にココこんなにしてるー。エロい~ 一誠エロい~」
「お前が今何か俺に仕込んだんだろ!? 良いから降りろバカ女!」
「えー、一誠のがお尻に当たって降りれない~ 本当にスケベなんだから困るなぁ?」
「黙れ! 良いから降り――イヤァァァッ!!?」
夢の中だからノーカン。
それが一誠の持論らしい。
おわり
補足
割りと過去安心院さんは嫌いじゃないというか、多分アレ、男子小学生がクラスの女の子をいじめるのと同じアレ。
その2
過去の自分ですら『あ、やっぱりやだ』となっちゃった未来なじみさん。
というのも、何でそこまで拘るかというのも、実の所一誠って出会ってから今までずっと愚痴りはせよ、本当に安心院さんの傍で支えてましたというのが大きいです。
しかも与えるどころか与えられるまでに成長してくれちゃったし。