色々なIF集   作:超人類DX

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前回の続き……かな。


悪食

 何も見えない。

 何も感じない。

 何も抱けない。

 

 それが少年が最初に悟った事だった。

 

 肉親からの愛情を奪われ、ただそういう特性を持って生まれただけの少年はこの先約80年の人生全ては灰色のまま終わり、朽ち果てるだけだと思っていた。

 

 だから無力である事を受け入れ、生きる事を放棄すらした。

 

 けどそれに待ったを掛けたのがたった二つだけ居た。

 

 それは生まれた時から少年の中に宿るドラゴン。

 そして―――

 

 

「やぁ、だんご虫って焼いても美味しくないと思うよ?」

 

 

 ただの人外である彼女。

 その二つによって少年は徐々に灰色に見える全てに色が付き……貪欲なまでの食欲と、貪欲なまでの進化を欲した。

 

 全ては歴代最強の赤龍帝となると交わしたドラゴンとの約束と……。

 

 

「アンタをぶち抜いて、ただの友達になってやる」

 

「………」

 

 

 色を与えてくれた女の為に……。

 世に蔓延る人ならざる存在全てを超越したただの人外と縁側で西瓜でも食いながら駄弁られるだけの力と資格を手に入れる為に……。

 

 

「委員会と生徒会が変な派閥を作ったらしい。と、いう訳で俺は二人に言いたい……俺等も真似しないっすか?」

 

「断る理由が無いぜ」

 

「さんせー!」

 

 

 過去の女に嫌がらせするのが楽しくて仕方ない少年は、普通で普通な少年を進化する道へと誘う。

 

 

「それと、何時までかはわかりませんけど、俺は暫く『箱庭学園の三学年』として編入させて貰いました。

いやー不知火さんのお陰ですんなり行っちゃって、俺はもう憧れの箱庭学園の生徒になれてテンション上がりっぱなしっすぜ!」

 

 

 そして、己自身に刺激を与えて進化する為に。

 

 

「そっか、一誠って俺たちより一個上なんだよな。

あれか、やっぱり先輩って呼んだ方が……」

 

「や~め~て~よ~善吉さ~ん、俺って一応未来人ですし、今まで通り良いっす~? ていうか俺なんかが善吉さんに先輩呼ばわりなんて烏滸がましいっすよ~」

 

 

 少年は自ら人でなしの道を突き進む。

 

 

 兵藤一誠。

 箱庭学園臨時転校生。

 

 備考・未来の安心院なじみを追い掛けるだけの人外にて、例えるなら善吉ポジション。

 

 

 

 

 

 黒神めだかにとってみても、善吉の進化は途方もなく大きすぎた。

 あの日の劇的な進化を引っ提げてやってきた善吉に負けて以降、めだかは周囲の制止を圧して毎日善吉に勝負を挑むのだが……。

 

 

「敢えて言葉を選ぶとするなら……『もうちっと強いのかと思ったのだがな。俺に出させてくれよ本気を』って所だな」

 

 

 善吉の成長は最早表現できないレベルにまで達しており、黒神めだかとしての全戦力を傾けても傷ひとつ負わせるのが精一杯なまでに達し、腕なんか組ながら膝を付くめだかを見下ろしながら某ポタラの合体戦士みたいな台詞まで言える余裕すらできていた。

 

 

「ま、待て善吉!

私はまだ膝を付いただけでまだ負けと認めた訳じゃ――」

 

「じゃあ俺の敗けで良いからこれで終わりだ。

これから不知火と一誠とラーメン屋をはしごしに行くんでな。

まったく、あの果てしない食欲を持つ二人と並ぶ為に腹を空かせたかったからお前と遊んでやったんだ。これ以上は時間の無駄だ」

 

「くっ……」

 

 

 以前のオリエンテーションでめだかが見せた冷たいそれを彷彿とさせる冷酷な目に気圧されためだか。

 

 

「もっと強く。更に上へと挑戦し続ける。

その結果どうなろうとも俺は後悔しやしない……完成や完璧に満足はしない。じゃあな」

 

 

 善吉が更に遠くへ行ってしまう。

 これまで善吉は後ろを付いてきてくれたというだけに、それを失っためだかは初めて『当たり前と思いすぎていた』事を自覚し項垂れる。

 

 

「遠くに……善吉が遠くに……」

 

 

 黒神めだかが迷い込んでしまったトンネルは、まだまだ抜け出せない。

 

 

 

 暴因暴喰(ネオ)と名付けられたそのスキルは、言ってしまえば『喰らう』スキル。

 不知火半袖の正喰者(リアルイーター)に似てるかもしれないが実在は全く異なる。

 

 まずひとつ、正喰者は喰い改めるスキルに対し、暴因暴喰は喰らい尽くすスキルである事であり、まだ救いの芽がある様に取れる正喰者とは逆に、喰った全てをイッセー本人の糧として奪われ、何をしようが二度と復元不可能な力だ。

 

 なので例えば……。

 

 

「地球に存在する生物が活動をするのに必要な空気……これを全部しゃくしゃくしたら多分凄いまずい事になる」

 

「マジかよ……空気ってお前……」

 

「まあ、そんな無意味な事しませんけどね俺は。結構時間掛かるし」

 

「人間兵器だね☆」

 

 

 その気になれば星レベルの災害すら引き起こせるという、イッセーの持つ中でも一番危険で取り返しの付かないスキルが暴因暴喰であり、喰い改めるスキルとはやはり違うものであった。

 

 もしイッセーが抱える無限にも近い食欲の全てを星に向けたとしたら、人類……いや星に存在するすべての生物は喰い滅ぼされるだろう。

 

 ラーメン屋にて既に不知火と合わせて225杯目のラーメンを食べ終えながらの、カミングアウトに善吉は一瞬息を飲んだが、不思議と本人が軽い性格をしているせいか恐怖は無かった。

 

 それは恐らく一種の信頼関係というものを構築したからかもしれない。

 

 

「第一そんな事したらおっぱいボインなおんにゃのこと熱い一時が送れませんしー」

 

「そればっかだなお前……」

 

「それが俺ですからねぇ……ひぇひぇひぇ!」

 

 

 ドスケベという性格もある意味プラスであり、1におっぱい2におっぱいと煩悩だらけの一誠に善吉はただ苦笑いするのだった。

 

 

 

 

 

 

「兵藤一誠が箱庭学園に『転校』してきた」

 

 

 と、いう現実を叩きつけられたのは、めだかがまたしても善吉に負け、安心院なじみによって運ばれながら彼女によってそう告げられた瞬間、生徒会、善吉の味方パーティーになりそこねた面子……そして、黒神めだかが敗北した事で自然と集まった全委員会の委員長と副委員長は各々神妙な面持ちとなっていた。

 

 

「多分不知火ちゃん辺りが手を回したんだと思うけど、これで奴は大手を振って人吉君を化け物に進化させる様になった訳だ。

いやぁ……むかつくわぁ」

 

「『………』『善吉ちゃんを彼はどうするつもりなんだい安心院さん?』」

 

 

 黒神めだかに関わりの強いメンツであり、だからこそ大なり小なり善吉の事も知るこのメンツ達は、善吉がおかしな方向へと進む事を、そして進んだことで黒神めだかが負け続ける姿を見せられて納得できてない様子であり、そのめだかに負けた球磨川が代表して身体を休めるめだかの隣に居た安心院なじみに質問する。

 

 

「僕への嫌がらせらしいが……最近感じるのは人吉君を僕以上の人外にして僕を黙らせる事なのかもしれない」

 

「あの人吉がかぁ? いくら黒神に連勝中だからってそりゃまた随分と無謀な話だな」

 

 

 安心院なじみの見解に対して風紀委員長の雲仙冥利が馬鹿馬鹿しそうな顔をする。

 だが決して馬鹿馬鹿しいと思うだけで無理とは思っていないらしく、嫌そうに舌打ちを噛ましていた。

 それは他のメンツ達もそうだった。

 

 

「このメンツを総動員させて人吉君から兵藤一誠を引き剥がす方が良いのでしょうか?」

 

「出来たらとっくにやってるさ江迎ちゃん。

本来ならキミを加えて僕が直接人吉君に主人公(めだか)に勝つ方法を進呈しようとしたのに、あの野郎のせいで全部グチャグチャにされちまった」

 

「不知火さんだけスカウトしたってのがまた厄介ですね……」

 

 

 本当は別にスカウトしたつもりも、ましてや徒党を組んでるつもりもない善吉チームだが、各勢力にとってはそう見えるらしい。

 特に不知火半袖という予想できない動きをちょこまかする人材がよりにもよって一誠に引っこ抜かれたのは大きすぎた。

 

 お陰で何時の間にやら一誠は箱庭学園に転校してきたのだから。

 

 

「加えてあの無尽蔵に涌き出る変態性。どうやって未来の僕はあんなのを手懐けたのか知りたいもんだよ」

 

 

 はぁとため息を吐く安心院なじみに、この場の多くの女子達はうなずく。

 

 

「私なんか顔見る度にナンパされるし……」

 

「私もされたわね。胸ガン見されながら」

 

「私も……」

 

「あ、私も」

 

 

 喜界島を始め、次々と上がる胸の大きめの女性達な被害の声。

 しかし逆もまたしかりだった。

 

 

「……。私はありませんね」

 

「私もないな~」

 

「そういえば私もない」

 

「同意」

 

 

 逆に無いと主張する女子達。

 特徴は勿論……少ない方々だった。

 

 

「見事に胸の大きな子と少ない子で割れてるな」

 

「『性癖が実に正直で僕ちょっと友達になりたいかも』」

 

 

 Cカップ以上、妥協してB以上では無い女子には一切何もしてないという露骨で分かりやすぎる事実にされてない側は微妙にムカついており、球磨川はそんな正直過ぎるオープンさにちょっと詳しくお話してみたい願望をボソッと呟いていた。

 

 

「とにかくだ、これも予定外だけど、そろそろ奴には退場して貰わないと困る。

なので此処は小さないがみ合いを捨てて、このメンツでどうにかして奴に帰って貰おうと思うのだけど、そこの所どうだい?」

 

『…………』

 

 

 安心院なじみの提案に全員が沈黙するものの、それは恐らく全員が肯定の意味を持った沈黙だろう。

 それほどまでに一誠の存在は強大なのだから。

 

 悪平等、生徒会、全委員会+αと、奇しくも同じ目的を持ったからこそ生まれた奇跡的過ぎる結成。

 一誠という存在故に皮肉にも最高峰に一つとなったメンツ達はこれより善吉から一誠を引き剥がす為に行動を開始した――――

 

 

 

 

 

 

「面白いメンツと状況だね。()の時代にはこんな事は無かったんだけどなー?」

 

 

 その時だった。

 安心院なじみが突然、それまでとは違ったのほほんとした声色を出し、全員がキョトンとしたその瞬間、螺子だらけの紅白衣装を着る彼女の後ろから、不知火半纏の間を縫うかの如く『安心院なじみ』とそっくりそのままの姿をした女が現れたのだ。

 

 

『!?』

 

 

 当然驚く面々。

 それは安心院なじみも、それまで無言に徹していた不知火半纏すらをも驚かせるに十分なものであり、全ての目がその女へと向けられた。

 

 

「おやおや、これはこれは懐かしい顔ぶればっかりだね」

 

「お前は……」

 

 

 紅白衣装でまだ封印された状態の安心院なじみとは違い、髪は若々しい茶がかった黒髪。

 そして着ている服装はどこかの見知らぬ学校の……言うなれば一誠が本来通う駒王学園の女子の制服。

 

 

「やぁ昔の僕? 随分と僕の一誠に苦労してるみたいだね? まあ、昔の僕に手こずってる様なら首でも締めて落としてやるつもりだったし、少しホッとしたよ」

 

 

 それは紛れもなく安心院なじみ本人だった。

 ただし、平行世界へと渡り、一誠という少年を手に入れた未来の安心院なじみだが。

 

 

「未来の僕が直接何の用だい?」

 

「別にキミというかキミ達に用は無いから安心しろよ過去の僕。

僕はただキミに自慢する為に送り込んだ一誠とちょろっとお話する為に顔を出しただけさ。

という訳でこの部屋借りるよ」

 

『………』

 

 

 まったくの封印がされてない未来人外の出現に誰もが固まる中、未来のなじみはマイペースにこの時代ではまだ微妙に浸透してないスマートフォンを取り出すと、ササッと操作し、端末を耳に当てる。

 

 どうやら誰かに電話をしている様だが……。

 

 

「あ、僕僕――いや、僕僕詐欺師じゃねーから。うんそう……ちょっと話すことがあるから箱庭学園の会議室に来てくれる? え、僕が来れば良い? あっそー、なら行っても良いけどプロレス技に付き合え―――そうそう、初めから素直にそう言えば良いんだよ。早く来たらご褒美あげるから待ってるぜ?」

 

 

 会話の内容からしてそれが誰かなのかは容易に想像出来た。

 そして電話を切ってからわずか10秒もしない内に。

 

 

「な、な、ななっ! 何でお前が居るんだよ!?」

 

 

 今まで見たことが無いレベルに狼狽えた兵藤一誠が、会議室の扉を蹴破る勢いで姿を現した。

 

 

「お前来ないって言ったろーが!? 何で来てんだよ!?」

 

「だって暇なんだもーん♪」

 

「暇なんだもーん♪ じゃねぇぇ!!」

 

『……………』

 

 

 信じられない取り乱しっぷりで口を3の字にして惚けるなじみのに詰め寄る一誠。

 それこそ周囲の視線なんかどうでも良さそうに。

 

 

「せ、せっかく今善吉さんと不知火さんと楽しくカラオケってたのに……」

 

「ああ、だから10秒掛かったのか。まったく、僕が呼んだら0.2秒以内に来いって言ってるだろ?」

 

「急に来るからだろうが!  ……ったくもう!」

 

 

 本人にしてみても来られたら困るのか、舌打ちしながらも一旦矛を納めた一誠は、ふと会議室に集まるメンツに今更ながら気づく。

 

 

「え、何この豪華な方々……?」

 

『………』

 

 

 お前を追っ払う為に自然と集まっちゃったんだよ! と内心突っ込む対一誠連合。

 すると繁々と見ていた一誠は突然……。

 

 

「あー! 十二町ちゃんだ! ひゃほー! 何で居るか知らんけど今日こそ……いや明日こそ俺とデートしてくださぁぁぃ!!!!」

 

 

 図書委員長である十二町矢文を見た瞬間、まるで本来の彼が紅髪の悪魔の胸見て鼻の下を伸ばす様なアホ丸出しな顔をすると、まるで某怪盗三世がダイブするかの如き跳躍力で、ビクッとした彼女へと飛びかかろうとしたのだが……。

 

 

「ダメだな」

 

「ひでぶっ!?!?」

 

 

 某怪盗三世ダイブをしようと飛んだその瞬間、後ろに居たなじみがその足首を掴み、一誠のダイブは虚しくも大失敗、そのまま重力に従う様に床へと顔面から叩きつけられた。

 

 

「何で来たかだって? 決まってんだろ、呆れるくらいに予想通りな真似をしてるお前に改めて首輪を付け直しに来たんだよ」

 

「お、おごぉ……は、鼻が……」

 

 

 十二町矢文の貞操は守られた訳だが、その代わり嫌にニコニコしてるなじみに後ろから見下ろされる形で半泣きで鼻を擦る一誠自身がピンチだった。

 

 

「僕は言ったよな? 他の女に余計な真似さえしなければ適当に吸収しても構わないって? それなのに僕を裏切ったな? あっさり反故にしたな?」

 

「う……う、うるせー! 素晴らしいおっぱいを前になにもしない奴は男じゃねーぜ!!」

 

 

 どうしたら良いのか分からない面々の前で言い争いが始まる一誠となじみ。

 その言い争いから両者の関係の深さが伺える。

 

 

「大体お前な何で駒王の女の子が着る制服なんざ着てんだ!?」

 

「この制服着てる女子が好みって言ってたから?」

 

「年を考えろや!」

 

 

 ヘラヘラしてばっかの一誠が完全に圧されているという現象に、過去の安心院なじみは今の自分と何が違うんだと割りと本気で疑問に思う。

 

 

「おい過去のなじみ。お前からも一言言ってしまえよ未来のお前に!」

 

「え、何で僕が……」

 

「おいおい、過去の僕に頼るなんて可愛かった頃に戻ってくれて嬉しいぜ一誠? けど残念ながらこの時期の僕じゃあ戦力になれないな」

 

『(シュールだ……)』

 

 

 螺子だらけの方の安心院なじみを盾に、一誠が未来のなじみと言い争いをする光景は端から見ても普通にシュールであり、さしもの過去の安心院なじみも普通に戸惑ってしまうだけだった。

 

 

「良いからこっちに来なさい一誠。もう何もしないから」

 

「やだ! 絶対何かする!」

 

「あのさ、僕を盾にしないでくれる?」

 

 

 嫌だ嫌だとだだっ子みたいに喚く一誠と、盾にされて若干鬱陶しく感じる過去のなじみにしてみれば、ぶっちゃけこのまま未来の自分がこの厄介男を連れて消えてくれた方が良いと思っていたので、出きることならこのまま引き渡したい気持ちで沢山だった。

 

 ほんの少しだけ『手綱を握れたらそれはそれでアリかもだけど』と思いつつ結局捕まった一誠はバタバタと未来のなじみの元へ暴れている。

 

 

「離せよ! は~な~せ~!!!」

 

「僕の一誠が騒がしくて申し訳ないね。

結局の所、僕が何で一誠をここに飛ばしたのかってのも、過去の僕にちゃっかり自慢したかっただけなんだよ。

まあ、人吉君を進化させるのは何と無く予想はできたけど」

 

「そのお陰で僕は相当な迷惑を被ったんだけどな? 勿論この先はソイツを止めるんだろ?」

 

「いやいや、僕は基本的に放任主義だからね。止めたくば自分で何とかするんだね過去の僕?」

 

「離せぇ!!」

 

 

 ニヤニヤと未来の自分自身に言われて若干腹の立つ安心院なじみ。

 こんな聞き分けの無い奴の何処を気に入ってるのか……未来の自分の趣味がわからない。

 

 

「こ、の、離せって……!」

 

「もう、しょうがないなぁ。暴れる程欲しいなら最初から言えよな?」

 

「はぁ? 何のこと―――んむぅ!?」

 

『……!』

 

 

 挙げ句の果てに、会議室でかなりのメンツが見てる中で暴れる一誠に思い切り……こう、手足を絡み付かせながら密着したかと思えば明らかに普通じゃないキスを始める始末。

 

 

「ひゃ、ひゃめ……! んみゅ……!?」

 

「え、もっと? しょうがないなぁ……」

 

 

 

「う、うわぁ……あ、あれ犯されてるみたいにしか見えない」

 

「『トラウマにでもなりそうなだねあれ』」

 

「というか、あの人があんなされるがままって……」

 

 

 しがみつき、床に押し倒し、尚止めずに居る未来の安心院なじみの昇天しかねない激しさに初タイプの中学生やら女子達は恥ずかしそうに頬を染め、男子達は普通に引き、寧ろバタバタもがき、やがて力が抜けた様に落ちた一誠に初めて同情した。

 

 

「ふへ……えは……へ……」

 

 

 目を渦巻きにしながら真っ赤な顔で昇天した一誠の口から漸く離れたなじみは満足そうに、そして自信満々に宣言する。

 

 

「わかってるとは思うけど、僕のキスを受けた一誠はもう他の女のキスでは満足不可能だぜ?」

 

 

 それは誰だろうと負けやしないという絶対的自信であり、過去のなじみもそれは同意した。

 

 

「だろうね。見りゃわかるけど……僕も引くわ」

 

「そう言うなよ過去の僕? わかるぜ、今キミは一誠を邪魔に思う反面『欲しがってる』だろ? 僕自身だからわかるんだよ……」

 

「……」

 

 

 未来の自分の言葉に過去のなじみは何も返さない。

 

 

「もしこの時点で一誠が居たら、言彦だろうが対抗できるし、フラスコ計画も完全に終わらせられる。

それこそ、作り上げた目的を失っても生きる気力も削がれない……一誠はそういう男だ」

 

「ならくれるのかよ僕に?」

 

「あげる? そんな訳ないじゃないか過去の僕。

コイツは髪の先から足の爪先までこの僕のモノだ。

欲しがる輩は沢山いたが、全て弾き飛ばしてやったくらいだしね。ふふ、ほしければ自分で探すんだ……まあ、見付からないと思うけど」

 

 

 未来の自分が意識が飛んでる一誠を自分の胸元に抱き締めながら過去のなじみ――そしてこの場にいる全てのメンツに向かって宣言しながら薄く微笑む。

 

 

「先に言う。僕が一誠を得られたのは偶然だ。それも針の穴よりも小さい確率が重なった奇跡だ。

だから今のキミがどうやろうともこの先の未来一誠を手に入れることはできない。

だからこそ、僕は今の僕に対して自慢してやりたいのさ『退屈なんて絶対にしない毎日をくれる一誠という男が常に傍らにいる』ってね」

 

 

 与えた事で逆に与えてくれた唯一の男。それは過去のなじみにとっては何とも魅力的な響きであるのと同時に、この先絶対に手にする事は不可能という宣言が、疎ましく思う感情を逆転させる。

 

 

「その為だけに僕の邪魔をしてくれた詫びくらいは欲しいもんだね」

 

「良いぜ? 一誠以外ならな」

 

 

 未来の己を出し抜き、この男を得てやると。

 

 

終わり




補足

勝手に対一誠チームが大規模に結成されてるという現実。

そのターゲットの三人は呑気に修行したり食べ歩きしてるだけという温度差。


その2
未来の安心院さんにはほぼされるがままという現実と公開羞恥プレイ。
これで彼女の傍から本当の意味で離れないってんだから、マゾなのかもしれない。

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