凸凹三人組の裏進化録
獣たちの闘いが世に終わりをもたらす時、冥き空より天人と悪鬼が舞い降りる。
光と闇の翼を広げ、至福へと導く「贈り物」と共に。
何故そうなったのか、どうしてこうなったのか……。
あらゆる考察は無駄となれど、三人の気持ちは同じだった。
『これは間違いなく貧乏クジなんだ』と……。
「どうしよう……携帯が繋がらない」
「くそっ、こっちもだ! どうなってんだ!」
「…………………」
おおよそ近代の文明をまるで感じない平地にて、学生服着た少年二人と燕尾服を着た少年一人は間違いなく途方にくれていた。
「会長達の気配も全く感じない……木場は?」
「同じくだよ匙くん……一誠君は?」
「…………。お嬢様達どころか人間以外の気配がまったく感じられない……ですね……」
金髪で線の細い美少年木場祐斗。
薄いベージュに近い髪を持つ活発そうな少年匙元士郎。
茶髪に燕尾服姿の少年……日之影一誠。
互いに知り合いである三人組は、普段は無口で無愛想な態度の一誠を含めてかなり狼狽えていた。
それは会話にあった通り、今自分達が立つこの場所がどこなのか、三人にとっては仲間ともいうべき存在達の気配が無い事――――そして何よりもこの地に『何故居るのか』。
何もかもが分からない事だらけで、尚且つド田舎とも言うべき謎の土地に居るという不安が三人を何時もより焦らせていた。
「携帯が圏外って……相当田舎か、もしくば全く見知らぬ土地って事になるのか?」
「多分、僕としては前者である事を信じたいんだけど……」
「………しっ、誰かが近づいてます」
現代っ子である三人にとって携帯の電波が届かない土地に放り出されたというだけで怪訝に思う。
そんな中、それまで口数が三人の中で少なかった燕尾服姿の少年、日之影一誠が眉尻を下げて会話する祐斗と元士郎に向かって人差し指を口に持っていって立てながら声を出さぬ様にと話すと、意識が戻ったこの平地の近くにあった腰くらいまで伸びた草むらへと飛び込む。
「…………大きな足音が集団で近づいています。聞こえますか?」
「……あ、あぁ……確かに聞こえるがこれ一人じゃないよな?」
「ざっと数十人以上……だね」
常人なら聞こえない微かな物音を頼りに此方へと近づいてくる何者かの判別を当たり前の様にする三人は文字通り常人ではない。
特に執事姿の少年以外の二人はとある手順を経て人間から悪魔へと転生した存在であり、一般人を遥に超越した力を持っている。
「馬に乗ってる集団……だな」
「うん……それもかなり統率が取れてるみたいだ。
けど何だろ、あのリーダーとそれに準じただろう人達以外の格好が古い兵士みたいな格好なのが気になるね」
「………………」
祐斗の怪訝そうな顔と共に呟かれた言葉に元士郎が頷き、一誠は無言で目を凝らして自分達が意識を取り戻した際に気付いたクレーターの周りを調べてる妙な団体を観察する。
「な、なぁ、あの人達に此処は何処なのかとか聞いてみるか?」
「それは良いけど、あの団体の人達が何者かわからない以上は迂闊にできないよ。
だって見てみなよ、あの団体達武装してる……しかも僕達が意識を失ってた場所をしきりに探ってるし……もしかしたらあの団体の人達が敵かもしれないって線が消えない以上は警戒した方が良い」
「けどよ、どう見ても人間だろ? イザとなったら逃げちまえば良いような……日之影はどう思う?」
「…………。敵なら殲滅し、奴等の中の誰かを生かして此処がどこなのか等の情報を吐かせるべきですが、木場様の言うとおり、奴等の背後が何なのかを知るまでは迂闊にすべきでは無いと思います」
抑揚の無い調子で淡々と話す一誠に元士郎は小さく頷き、身を縮める。
このメンツの中では間違いなく最強である一誠が言うのだから下手な真似をして邪魔すべきではない……そう考えたのだ。
が……。
「そこに草影に居るわね? 出てきなさい」
「「「……………」」」
そうは問屋が下ろさず、団体がクレーターの調査をしてる中一人だけ馬から降りずに見てるだけの人間が明らかに自分達三人が居るのをわかってる視線を寄越しながら声を放つ。
その瞬間、団体の全員の視線が草に隠れる三人へと向けられ、武器を構える。
「出てこい! 我が主の目は誤魔化されんぞ!!」
「大人しく出てくれば身の安全を保証しよう」
「……。何故バレた?」
「本気で隠れたつもりだったのに……どうする一誠くん?」
「……。仕方ありません、姿を晒しましょう。
言葉はどうやら通じる様ですしね」
このまま出なければ襲い掛かってきそうな威圧を感じながら、仕方なく草むらから無抵抗ですと両手を上げながら姿を晒す三人。
両手を上げてるとはいえ、この三人にとってすれば何の問題も無い。
「三人? 四人じゃないのかしら?」
「あの怪しい占い師は確かに四人と言ってましたが……」
「まさかこの期に及んでまだ隠れてるのか?」
「いえ、確か天人と悪魔が舞い降りるという占いだったわ。
ということはこの三人が天人か悪魔のどちらかと解釈した方が自然ね」
姿を晒した瞬間、何故か団体のリーダー格と思われる女性達に怪訝そうな顔をされる。
何の事だ? と思わず三人は無言で顔を見合わせる中、リーダー格の中でもトップと思われる馬上の少女が口を開く。
「アナタ達は天人? それとも悪鬼?」
「「「? ? ?」」」
「貴様等! 質問に答えろ!!」
金髪碧眼の小柄な少女からの質問に本気で何の事だかわからずに首を傾げてると、性格が普段から短気なのか黒髪の女性が得物に手を添えながら怒鳴る。
「………。あの、いきなり過ぎてサッパリわかりませんけど……」
代表してこの中では最も穏やかな性格をした祐斗が下手に出ながらわからないと返す。
すると金髪の小柄な少女と青髪の少女は眉をひそめ、短気そうな黒髪の女性は完全に得物を抜いた。
「貴様! 嘘をいうな! 調べはとっくについているのだ!! 早く答えろ!! 天人なのか悪鬼なのかを!」
「いえですから、何ですかそれ? 僕達は気づいたら此処に居たのでそもそも此処が何処なのかもわからないといいますか……」
「はぁ!? わからない!? ええぃ! またしても戯けたことを!」
「まぁ待て姉者、そんな調子では話もできないだろ?」
今にも斬りかかって来そうな調子の黒髪女性を宥めるは面影が似てる青髪の女性。
「私達はとある流れ者の占い師に天の御使いが此方に降り立つと聞いたのだ。
そして占い師は天の御使いを獲た者は天下を手に出来ると言っていた。なので聞いたんだ……お前達が天から来た天人なのか、それとも天を砕く悪鬼なのかを」
「「「………………」」」
いよいよ訳のわからなさが頂点に達する三人。
いきなり知らぬ土地で目を覚ましたと思ったら、前時代も甚だしい武装集団に天人だか悪鬼だかを問われ……。
そりゃどちらかといえば悪魔だったり悪魔に今のところ与してるので解釈的には多分悪鬼にカテゴライズされるのだろうが、それにしても意味がわからない。
「天人一人に悪鬼は三人らしいから多分お前達は悪鬼の方なのだろうが、意外と姿は我等とそう変わらんのだな」
「は、はぁ……」
「ど、どうも……」
「……………」
褒められてるのかイマイチわからないので、取り敢えず適当に返す祐斗と元士郎。
一誠は相も変わらず無愛想で無口で無表情だが。
「悪鬼ね……私としては天人の方が響きが良いからそっちの方が良かったけど、まぁ良いわ。取り敢えずアナタ達から話を聞きたいから街へ移動したいのだけど、来てくれるかしら?」
「……ど、どうする木場? 多分敵ではないとは思うけど、変な単語が出まくってワケわからねーよ」
「う、うーん……どうしよ一誠くん」
「私に振らないでください。吐きそうなんです今……」
訂正、とある経験がトラウマでコミュ障化してしまった一誠はただ今見知らぬ存在からの探られる様な視線に気分を悪くしてしまったらしく、振られた瞬間真っ青な顔で口許を抑えていた。
「? 体調でも悪いのかしら?」
吐きそうだという一誠の声を拾った金髪の小柄な少女が声を出す。
しかし一誠は視線すら合わせず、祐斗に耳打ちする。
「あの……彼は人見知りが激しくて、その、あんまり見られると体調が崩れます。
着いてこいというのならついていきますので、できれば彼の事はそっとしてあげて欲しい………と、言いますか」
「悪気は無いんです本当に、色々とあるんですこっちにも」
「??? よくはわからないけど付いてくるなら構わないわ」
今にもリバースしそうな一誠の背中をさすってあげながら祐斗と元士郎の説明に少女は特に気分を害した様子は無くホッとする。
事情を知らないとまず嫌われやすいのがこの一誠なのだから。
「あの、ひょっとして時代劇の撮影ですか?」
「じだいげき? 何の事だ?」
「あ、いえ……なんというかその……随分とレトロな街並みといいますか……」
「……うっぷ」
なんやかんやと流される様に妙な集団に連れてこられた街を見た瞬間、祐斗と元士郎はある種の信じられなさを覚えた。
なんというか……文明がまるで感じないというか、時代劇のセット村にやって来た感が半端なかった。
しかも話が妙に噛み合わないまま、言われるがままに付いててたどり着いた場所は時代劇みたいな飲食店だった。
「名前は?」
「木場祐斗です……」
「匙元士郎……で、こいつは日之影一誠……」
「……………うぶっ」
「木場祐斗? 匙元士郎? 日之影一誠? 変わった名前ね……」
え、普通じゃね? と心の中で突っ込む祐斗と元士郎だが、向こうの情報を引き抜く為に敢えてスルーする。
「天の御使いという言葉に身に覚えは?」
「いえ、無いです」
「ついでに天人と悪鬼というのにも覚えはない……です」
「…………」
「華琳様、やはり間違いだったのでは? どいつもこいつも冴えない顔ですし」
華琳と名を様付けで呼ぶ黒髪の女性の胡散臭そうな顔に祐斗は苦笑いし、元士郎は『最初は何言っても嘘言うなって言ってたじゃねーかよ』と内心毒づき……。
「………」
一誠は完全にグロッキー状態だった。
「真実か虚構かはこれからわかることよ。
さて質問を続けるわよ? アナタ達は何処から来たの?」
「日本、駒王町」
「同じく、あと日之影も同じっす」
流石に日本は知ってるだろ的なノリで答えたが、予想を裏切る形で聞いてた華琳なる少女の反応は疑問にみちたものだった。
「…………。何だその地は? 聞いた事がない」
「やはり貴様等ただの賊か!? 華琳様をだましおって!」
青髪の女性も知らないと呟く中、やはり短気なのか黒髪の女性がまたしても得物を抜き、今度こそ斬るとグロッキーになってた一誠の首に一閃する。
「待ちなさい春蘭!斬っては駄目よ!」
華琳なる少女の声が飛ぶが遅い。黒髪の女性の刃はお手本の様に顔色最悪な一誠の首を捕らえてまい、そのまま噴水の様な鮮血と共に胴体と首がおさらば――――
「危害は加えないんじゃないのかい?」
「話が違うんじゃねーか?」
「き、気持ち悪い……」
せず、それよりも早く祐斗と元士郎が女性の刃をテーブルにあったお盆で防いだ。
「む、貴様等……!」
「やめなさいと言ったわよね春蘭、私に恥をかかせる気?」
「う、も、申し訳ありません華琳様……!」
一番小柄な少女の少々怒りの孕んだ威圧に、春蘭と呼ばれた黒髪の女性な一気に小さくなり、すごすごと得物をしまって引き下がる。
そのやり取りと少女の放ったに祐斗と元士郎は内心感心するが、それよりも気になったのは春蘭と呼ばれた人間の女性の力だった。
「悪かったわね、私の部下が」
「いえ……」
「べつに……」
「…………」
まるで自分達が急に弱くなったと錯覚してしまう程に春蘭と呼ばれた女性の力は強かったのだ。
「なるほど、未来から……ね」
「ええ、ですがその、驚きました。この場所が昔の中国で、アナタがかの有名な曹操だなんて……」
「…………。俺達の『知る』曹操は男でしたので」
「……」
そして自分達が居るこの時代が群雄割拠の時代だということに、目の前の小柄な少女が、元の時代でも何度か会った曹操の大元……とは微妙に言えない存在とその部下達である事に。
「単刀直入に言うわ。アナタ達三人、私の下で働きなさい」
「「「…………」」」
そして、自分達の持つ力の億分の一が封じられている事に。
三人はただ……困惑した。一人はリバース寸前で。
これは、力を取り戻す為の奇妙な物語……。
「スキルが消えてる。いえ、消えているというよりは、封じられているといった方が正しい」
「うん、僕の神器も剣がギリギリ1つ呼び出せるが精一杯だし……」
「俺は鎧も使えない」
相当なる弱体化に、無理矢理の力技で帰還する芽がつぶれて一誠ですら凹み。
「…………………」
「いい加減喋ってもらいたいわね。私の部下になった以上は」
「……………………………………」
我が道をいく古代人に辟易したり。
「表に出ろ。華琳様に無礼を働く貴様の性根を叩き直してやる!」
「…………」
やっぱり側近に絡まれる執事。
「ぐはっ!?」
「………チッ、上手く力が出せない」
そんな相手に相当手こずってしまい、イライラが止まらない執事。
「アンタ達みたいな汚ならしい男共が華琳様に近づくなんてあってはならないのよ!!」
「「「………」」」
男嫌いの策士タイプに目の敵にされ……。
「どいつもこいつも……………ぶっ殺すぞブサイク共がぁぁぁっ!!!!」
「なっ!?」
ストレスが極限に溜まりすぎてマジギレする執事がいたり……。
「お、落ち着けって!」
「これじゃあますます一誠くんが悪者だよ!」
「離せぇ!! あのボケどもが、黙ってりゃあ付け上がりやがって、皆殺しにしてやらぁぁぁっ!!」
「な、なんなのよ」
「ど、どうやら溜まりに溜まった鬱憤が爆発したらしいです……」
キレた事で瞬間風速的に全盛期に戻って暴れる執事。
しかしそれでも元の時代に戻れる目処はない。
「リアスやソーナ達が悪魔だけど天使に見えるくらいだ……クソが」
「りあす? そーな? 誰よそれ?」
「あぁ? テメーの知らない奴等だよ」
「知らないから聞いてるんじゃないのよ。誰よ?」
「誰でも良いだろ、関係ない時は失せろボケ」
「貴様! 華琳様に――」
「消えろってんだぁぁぁっ!! ぶっ殺すぞぉぉぉっ!!!!」
「そればっかね一誠は、祐斗と元士郎が一番強いのがアナタと言ったから色々と頼もうと思ったのに……」
全然恐れない女版三国武将達にストレス性胃潰瘍待ったなしな執事。
「お、お前達ひょっとして俺と同じ様に未来から来たんだろ!?」
「ということはアナタが四人目の?」
「蜀に居たとはね」
「そういうお前達は魏なんだな……ところで何でアイツは執事服なんだ?」
「ほら、あの男が本物の天のなんとかだ、ほら勧誘して俺達をとっととクビにしろ」
「嫌よ、アナタ達の方が使いやすいし、今更どうでも良いわ」
「うむ、一誠の推奨した鍛練法で私達を含めて我々の兵達は戦死者を出さずに敵を殲滅できるようになったしな!」
「桂花の様な文官すらも敵の兵とやりあえる様になったのは間違いなく一誠達のお陰だしな。今更お前達が天の御使いだろうがそうでなかろうがどうでも良い」
「ふん! べつに私は感謝なんてしたくないけど!」
引き上げる才が何かここでも出てしまって、魏軍だけ異常者の集まりみたいな軍になってしまったりしたせいで、多分きっとモノホンの天の御使いに曹操達が興味を持たなくなったり……。
「ひとつ良いかしら? 何故未だに私を真名で呼ばないの?」
「心を許した者に与えるのが真名って聞いたんだが、俺はテメーなんぞに許した覚えも無いし、許される覚えもない」
「そう……ここまで私に逆らう者はアナタが初めてよ一誠。
だから……もし私が勝ったら死ぬまで遣えなさい、この私に」
「やってみろよ……」
進化により手にした英雄は取り戻した人外と喧嘩する。
「
「!?」
「華琳様が神々しい光を……!」
「あ、あれが神器というものなのか!?」
「そ、そうだけど、あ、そっか……曹操だもんねうん……」
「いやでも意外というか、日之影もびっくりしてるぜありゃあ」
「一誠が教えてくれたんじゃない、アナタ達の時代に居る男の私が持つ力って。
だから当然私に宿ってても不思議じゃないでしょう? だって私よ?」
「横文字使ってまで再現しやがって……来やがれ英雄が!!」
「そんなものは私に必要ない! 私が必要なのはアナタよ!!」
凸凹三人組の裏進化録……始まりません。
補足
当たり前だけど弱体化してます。
じゃないとお話になりませんので。
そしてとことん執事は真名で呼ぼうとしませんし、寧ろ嫌われてクビにでもしろと粗暴な面が目立ちまくり。
けど、裏目裏目に出て……。
その2
まあ、曹操やし……うん、いや神器宿る条件としては全然関係ないけど。