朱乃ねーちゃん勝利モード
ド変態と言われてる兵藤一誠は、双子の姉の様に悪魔に転生したという秘密も無ければ、神器を持ってるという事もない。
しかしながら、リアス・グレモリーは一誠を悪魔に転生させる事が実質的に不可能だった。
単純に駒の数が足りないというのもあるのだが、何よりも兵藤一誠という少年は、種族として純粋な人間であるにも拘わらずその中身にある異常性が人間の枠を外れていた。
その正体が何なのかは、見ていてもリアスには分からないし、一誠に一番近い場所に居る兵藤凛も一誠と別々に暮らしているとの事で解らず、何故か代わりに知ってるといった様子なのが幼馴染みらしい姫島朱乃だった。
「えー? 何で俺がそちらさんの『部活動』の手伝いをしなくちゃいけないんすか?」
幼馴染み……それは即ち幼少期から女王として朱乃を右腕にしたリアスもある程度一誠とは顔馴染みであるのだが、正直に言うと本当に顔見知り程度だった。
「そもそも俺も俺で委員会やってるしねぇ。手伝えと言われても困るっていうか。変にそちらさんに肩入れしてるだなんて誤解されて女の子にますます嫌われたくもありませんし?」
「誤解? 何の事だか分からないけど、元々女の子からは嫌われてるから問題なんてないでしょう?」
「それ言っちゃうんだ? うっわ、俺今物凄く傷ついた」
しかしこうして改めて見ると、ちょっと朱乃は一誠に対して異様に執着してる気がする。
暴れはしないものの、嫌そうな顔をしながら抗議している一誠を捕まえて連れていこうとする光景を見てると、そう思えて仕方なかった。
いや、別に人の交遊関係にケチはつけないが、だからと言ってほっとく事はリアスには出来なかった。
「一誠……」
というのも、今もこうして朱乃提案の下一誠への協力要請をしている最中も、旧校舎に配置したリアス率いるオカルト研究部の部室から退散しようとする一誠と、逃がしはせんと後ろから思いきり羽交い締めにする朱乃の子供みたいなやり取りを自分と一緒に少し離れた場所から、本気で羨ましそうに眺めている一人の少女が原因だった。
「あ、あの一誠……?
その、お菓子を作ってみたんだけど――」
「え? あぁ、わざわざどうも。じゃあ貰います、 アザっーっす」
「………」
一誠の双子の姉……そしてリアスが悪魔として抱える眷属にて兵士の駒を持つ兵藤凛が後ろから思いきり一誠の身体を羽交い締めにしてる朱乃を見ながら物凄く複雑そうに見ているので、リアスとしても放置して眺めるという訳にはいかないのだ。
何せこの兵藤姉弟の仲は複雑な意味で仲が良くない。
いや、寧ろ見てるだけだと一誠は姉の凜に対して刺が無いものの他人の様な口調なのだ。
「なんすかこれ? ビスケット? んー普通に美味いんじゃないすか?」
「う……」
ちょっと引くレベルでのブラコンでもある凛にとって何よりも一誠からのこの対応は辛いものであり、今も彼女の目尻には涙が浮かんでいた。
しかしそれでも一誠は全く気にしてない。
泣きたければ勝手にしてろ、俺は関係ないとばかりに凜から貰ったクッキーを租借して飲み込み、物凄く素っ気ない感想を告げてから再び朱乃とじゃれついている。
「一体何故姉弟なのにこんな感じなのかしら? 凛も『自分が悪いから』としか言わないし……」
姉弟仲までは深く事情を知らないリアスとしては、何故彼があそこまで拒絶しているのかわからない。
決して凛も悪い子じゃないはずなのにだ……。
「大丈夫かい兵藤さん?」
「う、うん……」
「やっぱり冷たい人ですねあの人……」
「………」
同じ眷属仲間である祐斗と小猫が、凛を慰めるのを横目に、扉の前では何とか逃げようとのらりくらりな一誠と、協力要請なんか建前で本当は単に一誠とそうしてたいのでは? と思わせる程に楽しげな朱乃のやり合いが何時まで続くのかと、リアスは小さくため息を吐くのであった。
昔、といっても小さい頃の朱乃――ねーちゃんは今よりも大人びてた気がしたのに、ある時から異様にベタベタしてきたというか……。
まあ、原因は朱乃ねーちゃんの父親であるバラキエルのオッサンが元凶のあの事件のせいだと思う。
俺が『無力でちっぽけなガキ』である事を嫌と云うほど突き付けられた忌まわしい事件……。
「そもそもあの時俺が安易に約束しちゃったからなんだよな……」
外灯だけが照らす夜の公園。
昼間は子連れのヤングな人妻とか、ムチムチしてそうな子連れの熟女のトーク場となっているこの公園も、夜となれば虫の鳴き声だけが聞こえる淋しい空間と化す。
そんな場所に何故俺が居るのか……? 答えは単純で、さっき言った餓鬼の頃に約束した事を守る為に、そして壁を乗り越えてもの凄く気持ち良くなりたいが為に、こうして身体を鍛えているのさ。
が、今日はどうにも集中できないっつーか、昔の事を何でか今になって思い出してしまう。
「朱乃ねーちゃんはまだバラキエルのオッサンを許しちゃいない……」
あの自称姉がどうしても受け入れられず、餓鬼の浅知恵で家出した時に偶然厄介になったのが、朱乃ねーちゃんの家だったんだけど、その朱乃ねーちゃんの父親が今言ったバラキエル……人ならざる者・堕天使だ。
姫島朱璃さんっていうビックリするくらい美人な人間の女性と一緒になり、その間に生まれたのがあの朱乃ねーちゃんな訳だが、どうにもあのバラキエルのおっさんは堕天使の中でもかなり上の存在で、当時おっさんを恨んだりしてる連中も同時にわんさか居た。
俺からしてみれば妻と子供が大好きなってだけの気の良いオッサンにしか見えなかったが、人も堕天使もその他も大なり小なり後ろめたいと思う過去はあるらしく、朱乃ねーちゃんやバラキエルのおっさんや朱璃さんとかなり親しくなった頃に……おっさんが持ってたツケが回ってきた。
「…………」
思い出しただけでおぞましい。
あの自称姉の影響を受けてない人達との繋がりをやっと得られたってのに、それをぶち壊すかの如く現れた空気を読まねぇバカ共が、不在だったバラキエルのおっさんの隙を突いて……小さかった朱乃ねーちゃんと……朱璃さんを――
「っ……寒いな」
何にも知らなかった只の餓鬼……。
あって無いような力擬きしか無かった俺が、何時ものように遊びに行って見てしまった当時の光景は今でも脳に焼き付いている。
血の海に沈む朱璃さんと………朱乃ねーちゃんが……。
「チッ……頭がいてぇ」
人が死んでる姿を見たのはアレが初めてだったな。
何かに背中を貫かれて血塗れで倒れていた朱璃さんとねーちゃん。
そうだ、ねーちゃんはあの時1度死んでいたんだ……。
バラキエルのおっさんの不在を狙うしか出来ねぇゴミ共のせいで。
鮮明すぎて自分の記憶力を今でも呪いたくなる。
何かの冗談かと思って二人に触れたときの手に伝わる冷たさの全部覚えてる。
そして、その瞬間抱いた強烈な気持ちも――
『嫌だ……嫌だ! こんなの認めない……! こんなの……こんな現実……俺は否定してやる!!!』
怨念にも似た。呪詛にも似た強烈な
力が無いから。
無能だから。
弱いから。
なにも出来ないから二人は死んだ……そんな
それこそが、後に師匠となるあの人から聞かされ、教えられる事になる能力の片割れで
「
誰も得をしない、決して幸せになれない。
それが
どんな過程であれ、結果的に朱乃ねーちゃんと朱璃さんが死んだ現実を否定し、生きていたって幻想へと行き着けたんだから。
そして二人が……ねーちゃんが生きてるからこそ、マイナスだからと諦めず
『決めた。俺、朱乃ねーちゃんをどんな奴からでも守れる男になるぜ!』
『本当……? 私とお母さんを守ってくれるの……?』
『おう! バラキエルのおっさん以上に強くなって、二人を助けられる奴になるよ!!』
不安そうに怯える朱乃ねーちゃんを安心させるつもりで、そして無力な自分を変えたくてした約束をしてから、俺は俺の持つ力に詳しい師匠の弟子となり、それこそ死に物狂いで『負ける人生』をねじ曲げる為に小さなことから自分を高めた。
その結果――
『あーらこれは予想外。
僕の知ってる限りじゃあ、キミは過負荷か異常のどちらか一つしか得られなかったのに、その両方を獲たんだな……。
いやいや、また一つ可能性の道が開けて僕は満足だ』
鍛えて鍛えて鍛え続け、やがてそれすらを快感に感じる様になってきた頃、俺は負ける運命をねじ曲げる力を引きずり出した。
己の限界値を破壊し、無限に進化する俺だけの
「
マイナスとプラス。
この二つを獲た俺はこの時から師匠がよく言われる人外へと成り果てる。
人でありながら人でなしと呼ばれたあの領域の入口に、俺は今立っている。
常に鍛え、壁を乗り越えた時に感じる快楽の為……そして何よりも彼女との約束を果たすため。
化け物と言われても構わないし、寧ろ上等だ。
自ら挑んで突き進んだ道に後悔なんてありはしない。
「やっぱり此処に居たわね一誠くん」
「げ、朱乃ねーちゃんか……。
あんまりこういう所を見られたくなかったのに見つかっちまったか……」
それが俺の存在意義なんだもの。後悔なんてするわけねぇってんだ。
勿論同情なんて要らないし、だからこそ自分がこうして鍛えてる所をねーちゃんに見て欲しくない――余計な心配をかけさせたくないんだ。
姫島朱乃は1度この世を去っている。
その原因は堕天使の父を恨む暴漢達によるとばっちりであり、母の命が目の前で消えた事が彼女にとっては今でも忘れられないトラウマだった。
だが、それを救ったのが当時自分より年下の家出少年の一誠だった。
死んだ筈の自分と母を『死んだ現実を否定して』この世に呼び戻したと聞いた時は、何かと冗談だと思いたかったが、現に自分の目の前で死んだ筈の母親が今も元気でやっているのを見てれば信じるし、何よりもあの時は頼りにもならない少年が、心に傷を負っていた自分を励まし、守ると約束した時に感じた気持ちがそれまで友達としての感情しか無かった朱乃を変えた。
『はっはっはっ、
色々と知ってる僕としては、キミの言ってることは実に滑稽だね』
『う……そ、それでも約束したんだ!
見てろよ師匠、俺は絶対この気質を塗り替えてやるんだ!!』
母と自分の命を救った際に現れた一人の人外に弟子入りし、
『へぶ!? い、ててて……』
『だ、大丈夫? 血がでてる……』
『ぬ……へ、へへん、こんなもんヘーキヘーキ! 心配するなよねーちゃん!』
自分は愚か、堕天使である父すら豆粒扱いする人外に何度も叩き潰されては立ち上がり、決してめげずに『自分を絶対守れる男になる』という目標の為にがむしゃらに鍛えてる姿を見て段々と牽かれるなんて、傍から見れば子供故の安易な考えだと失笑するかもしれない。
何処まで行っても他人でしか無い彼にすがる時点で話にもならないと嘲笑われるだろう。
『へへ……バラキエルのおっさんには全然敵わなかったぜ……。
あ、あはは……』
『なんで……そんな事しなくても、私は一誠くんが居たらそれで良いのに……!』
『はは、それだけじゃあまた『あの時』みたいになっちゃうだろう? 俺はそんなの嫌だ。
俺にとって朱璃さんもねーちゃんも初めて出来た大切な人なんだ。
だからあの時みたいに、何も出来なかったなんて事が無いように俺は強くなるんだ……。
へへ……っ!? い、ててて……あ、ちなみにバラキエルのおっさんはねーちゃんと朱璃さんの次に大事かもね……おっさんだけどな、にっひひひ!』
けれど朱乃はそれでも構わなかった。
友達もロクに作りもせず、同年代の子供の様な遊びもせず、アホだ馬鹿だとからかわれてても曲がらず、自分を守るという約束の為に高め続ける姿を見て来た以上、朱乃にとっては一誠以外に異性として意識する存在は永遠に無いのだから。
だからこそ互いに思春期が来る頃まで成長した頃には、自分以外の異性に鼻の下を伸ばし始めるのを見るのがとてつもなく悲しくて苦痛だった。
「母が今晩の夕飯をウチで食べないかって」
「朱璃さんが? 良いの?」
「良いのって、そんなの当たり前よ。寧ろどうして家を出て一人暮らしをしたのかが解らないわ」
「だってこれ以上居たら邪魔かなって思って……」
それが例え嘘であろうともだ。
「邪魔にだなんて思うわけないじゃない、私も母も……」
「言い方を間違えたな。そうじゃなくて、二人にそう言われると甘えっぱなしになっちゃうからだな。うん」
だから一誠好みの女になろうと努力もした。
鬱陶しいと思われるくらいに常に近くに居るように心掛け、兵藤一誠には姫島朱乃という女が居ると周囲に見せ付けたりもした。
「それに二人の前でだとエロ本も読めないだろ?」
今だって嘘みたいな理由を言いながらヘラヘラ笑い、自分が怒るのを待ってる。
朱乃も知ってるのだ、彼が不安に思うからわざと自分の気を引くためにこんな事を言っているのを。
「ばか……」
今更言ったって全部お見通しだ……。その気持ちを小さな言葉と共に口に出した朱乃は太極拳の様な構えをしている一誠の背中に抱きつく。
「っ……と? いきなり何だよ?」
突然背中に掛かる負荷に驚きはしたものの潰されずに踏ん張った一誠が、背中に張り付いて表情が見えない朱乃に抗議の声を挙げる。
しかし朱乃は答えることはせず、かわりに腕を首に回して離れようとしない。
「…………」
「なんだなんだ? よくわかんねぇけど……まぁ良いや」
ぎゅーっと首元に腕を回し、離れようとしないまま黙っている朱乃に首を傾げた一誠は、何かマズイ事でも言ったのか? とちょっと不安になりつつもそのまま彼女の両足を支えておんぶの様に乗せ、修行を止めて歩き出す。
「学園二大お姉様がおんぶされてるって、何も知らん連中に見られたら石でも投げ付けられそうだぜ……俺が」
「………」
「まあ、騒いでる連中が知らん様な事を沢山知ってるってのはちょっとした優越感ではあるがな……ふふん」
「……………」
朱乃を背負って歩く間、一誠は確かに朱乃はちゃんと生きているという実感を温もりで感じながら一人で喋る。
その声に朱乃からの返事は全く無く、一誠は気まずげな声へと変わっていく。
「あー……エロ本云々は冗談だからね? そんなに怒らないでよ?」
というか知らん女の素っ裸見ても面白くないんだけど本当は……と、内心思いながら謝る一誠に、肩辺りに顔を埋めていた朱乃が小さく呟く。
「ちゅーしてくれたら許す……」
「おっと……思いの外効果があったのかい」
キスしろと言われてちょっとテンションが上がった一誠。
どれだけ大人ぶろうとも、根が繊細で傷付きやすい女の子で自分にとっては初めての大事な人。
イザとなれば本気で……それこそ己の命すら投げて守り通す。
それが彼の朱乃に対する想いだった。
「ってな事考えてるからねーちゃんがこうなったんだよな。正直すまん……」
「謝る理由が分からないもん」
「口調が素に戻ってるぜねーちゃん……」
しかし、その一誠の想いこそが、朱乃が一誠を縛り付けるように一誠も朱乃自身を縛り付けている。
大事だから……大切だから守ると無責任な事を言い、自分に執着させてしまったのは紛れもなく一誠のせいだ。
そのせいで朱乃は母親である朱璃と一誠の二人だけには妙に甘えた……いや幼い頃の性格に退行してしまうのだ。
「嘘でも言って欲しくない……」
「あー……うん、まあ確かに言う必要は無かったよな。でも変に詮索されたくなかったっつーか」
「別に詮索されても良い。他の人が何と言おうが関係ない」
「そっか……なら俺がヘタレたせいだな」
おんぶをしてもらっている一誠の背中に強く抱き着き、普段の彼女が消えてしまったような口調で駄々をこねる朱乃に、一誠は複雑な気持ちにしかならない。
「なぁひとつ聞いて良い? 俺ってめんどくさくないのねーちゃんにとって?」
「全然、他の女の人にデレデレしないのなら何でも良い!」
「そ、そっか……」
背中に抱き着いたまま、落ち着かせる方便で頷いた一誠の言葉が余程嬉しいのか、何時もの『二大お姉様』が嘘のような、ただただ子供のように純粋な笑顔をニコニコと浮かべてる朱乃に、疎遠ではあるものの娘大好きな彼女の父親に殴り飛ばされる未来が浮かんでしまう。
「バラキエルのおっさんは何て言うかな……」
「あの人の許可なんて要らない」
「………」
勿論、何れはバラキエルを越えて見せるつもりではいるが、今の『致命的過ぎる弱点』を克服してない状態では、戦いを挑んでも刹那でデコピンを喰らってやられてしまう。
だからこそ朱乃との約束の為と平行して普段からトレーニングを積む一誠なのだが、その致命的な弱点はずっと克服出来てないままなのが現状だった。
「一誠くんのお嫁さん……うふふ♪」
「そこに至るには俺は弱すぎるよ、まだまだね」
けれど克服しなければならない。
約束の為に……何より自分が掲げたしょうもない願望の為に。
悪魔だろうが天使だろうが神だろうと堕天使だろうと、誰もが文句を言えない程に強くなって、2度と朱乃と朱璃が目の前で死んだあの時を再現させない為に。
「どんな奴からでも二人を守れる強さを持つまで、俺はねーちゃんの傍に要られる資格は無いからな……」
改めて決心を固めた一誠は、朱璃が待っているだろう姫島家を目指し、嬉しそうにおんぶをされている朱乃を背負いながら複雑な気分で向かうのだった。
終わり
オマケ・違い
転生者の自称姉についても憎悪とか嫌悪は一周回って消え、最早無関心の領域まで昇華してる為、ある程度軟化した対応もできるし、その自称姉を好く取り巻き達についてもぶっちゃけどうだって良かった。
「生徒会に風紀委員の仕事の大半を取られたせいでぶっちゃけめっちゃ暇になっちまいまして……」
「去年まで物凄い勢力だったのにねぇ……」
「引き継いだのが俺一人で後は皆卒業しちゃいましたから。
はぁ……この状況を冥ちゃんセンパイに知られたらシバき倒されそうだぜ」
「雲仙先輩の事はよーく知ってるわ。私も可愛がられたし」
例えば風紀委員会の仕事が無さすぎて暇になってしまったので、朱乃に誘われてオカルト研究部にお邪魔している時なんかも、部員である兵藤凜を前にしても平然としているし、もっと言えば対応も普通だった。
「雲仙冥利さんだよね……先代の風紀委員長って?」
「へ? ……あ、うんそうだよ」
「わ、私あんまり知らないというか……その、怖い先輩だったイメージしか無いというか……」
「おっかないのは否定できないが面倒見は良かったぜ? チビロリだったけど」
何とかして一誠と話そうとわざとらしく口を挟んできた凜に対して普通に受け答えはする一誠。
それに対して凜は嬉しげな顔だが、その取り巻きは微妙な顔だった。
……。いや、正確に云うと一誠にばかり意識を向けてる凜を見て面白くないといった様子か。
「んじゃそろそろ戻ります。お茶ごちそうさまでした」
その一誠からは道端に這えた雑草よりも価値の無い何かと見なされてるとは知らずに……だ。
違いその2・わりとイチャイチャ
余計な詮索をされたくない……そんな理由で朱乃とは学園内では距離を離そうと一年は努めた一誠。
だがやはり高校生になってから始めた独り暮らしの影響か、段々その我慢も出来なくなっていた。
「勉強を教えて欲しいと言うから来たけど……」
「うん、まぁ全部建前だよそんなのは」
その日一誠は密かに朱乃を、自分だけが立ち入る事の出来る風紀委員室に勉強を教えて欲しいと云う建前で呼び寄せると、あっさりそれが嘘と白状しながらソファーに座らせた朱乃の膝に頭を乗せて寝っころがっていた。
「此処なら誰も入って来ないし、邪魔も無い。
いやー久々にねーちゃんとのんびりしてみようかなと思ってさ~」
「普通に呼べば良いのに……」
「変に探られても嫌だからな。
それにもしねーちゃんにこういう真似して貰ってるとバレたら袋叩きじゃ済まされないし」
心地よさそうな顔で朱乃の膝枕を堪能する一誠に呼び出された本人は微妙な顔だが、膝枕自体に不満は無く寧ろ楽しげだ。
「ねーちゃんはやわっこくて良いぜ、安心して眠くなるっていうの? 良い匂いだし」
「褒めてると受け取っても?」
「勿論だぜ。変な話、これを他の男がしてもらったら、考えるだけでも気が狂いそうだもの」
「しないわよ……」
ヘラヘラと笑う一誠の額付近を撫でる朱乃が、少しだけ心外だと頬を膨らませる。
彼女の『ファン』が見たら卒倒するだろう光景は暫く続くのだが。
「あ……♪」
「お、また少し大きくなったんじゃね?」
「も、もう……一誠くんのエッチ……」
「ごめんごめん、目の前にあったからついね。あははは!」
これをもしファンや自称姉が見たら朱乃に嫉妬したりする事態に発展するのはどうなのか……。
「一誠くん、何だか私のお腹が熱いの……」
「どうして欲しい?」
「いじわる……わかってるくせに……」
似た世界とは違い入り込める余地すら無い。
それは似た世界と違って例え態度が軟化されてて話が出来たとしても辛い現実なのだろう。
身体を起こし、抱き合い、互いの額をくっつけながら影が重なる……なんて現実はきっと。
「? 妙にご機嫌ね朱乃、何かあった?」
「いえ何も……うふふ♪」
「そう……? 心なしか肌が艶々してる気がするのも?」
「ええ、気のせいですわ……ふふ、ふふふっ!」
終わり
そんな関係だからこそ、似た世界以上に彼女を大切に想うからこそ、もしも彼女の身に何かが起これば……。
「……………。もう一度言って貰えます? 多分冷静に聞きますので」
「そ、その……この度私達はレーティングゲームをする事になって。もし勝てば私に掛けられた婚約は破棄。
も、もしも負けたら私は結婚し、け、眷属達は相手の男の預かりに……な、なる、のよ……」
「……それってつまりアレですか? アンタもろとも朱乃ねーちゃんまでその男とやらに何かされちまう可能性があると?」
「ざ、残念ながら相手の男は眷属を女性のみで構成する……アレだから……」
「……………」
「舐めてんのかテメー……あ?」
爆発する可能性は大いにある。
「テメー等がそんな野郎にどうされちまおうがどうでも良いが、ねーちゃんを巻き込むだと? おいおいおいおい、他に対する抑止力になるからって約束でねーちゃんを女王にする事に頷いたのに、何だそのふざけたオチは? ぶっ殺されたいの? ねぇ?」
破壊の英雄の魂を持つ少年は、殺意を爆発させる。
「リアス・グレモリーの事などどうでも良い。だがその女の女王である彼女は返して貰おうか? あぁ、無理なら良いよ――――
―――――――――――皆殺しにしてやるからさぁっ!!!!」
鬼を思わせる風体となり、全てを破壊する技術を引っ提げて……。
「げげげげ、儂を引っ張り出すとは、余程一誠は貴様等に腹を立ててるらしいぞ? まぁどちらにせよ一誠の敵は儂の敵でもあるわけだし、悪魔と戦える事は実に新しいからなぁ! げーげっげっげっ!!」
破壊の風紀委員長はひた走っていく。
※嘘ですたい
補足
自称姉に対しては嫌悪通り越して最早無関心の領域なので、ある意味で普通に受け答えができます。
会話だってするし、貰い物は食う。…………ただ、認識が道端の雑草よりもどうでも良いという印象なだけで。
その2
一誠くんと深くなりすぎてるので、最早負ける要素が無さすぎる。
ずーっと暇さえあればイチャイチャしてます。
その3
なんでもし朱乃ねーちゃんに狼藉働こうもんなら、既に和解し、意識の中に宿っていた人外すら一億回以上敗北した英雄男と共鳴した改神モードならぬ壊神モードが発動されちまう……