色々なIF集   作:超人類DX

196 / 1033
蹂躙話ってむずいね…


不可逆

 言彦の存在を自覚したのは、スキルという概念を覚えたのと同時期だ。

 傲慢・自分勝手・思い込み激しい……と、話をしてみるだけで碌でもない奴なのは何と無く理解したけど、不思議と馬が合った。

 

 俺にスキルという概念を教えた師曰く、最悪な存在との事らしいが、そんな最悪さを以て有り余るレベルの力を持っている時点で、力を求める俺としては一種の憧れを抱く存在だ。

 

 

「う~ん、やはり一誠の肉体は素晴らしい。

過去何度となく様々な憑り代に移ったが、これ程までにしっくり来る事は無かった……げげげ」

 

 

 土地を守り民の盾になり

 

 悪を正し弱きを助け

 

 仲間と共にあり女を愛し戦い続けた五千年前の御伽噺の英雄の成の果て。

 

 

 オマケに四千年前には勇気ある少年に、三千年前には優しき策略家に、二千年前には老獪な魔女に、千年前には二刀流の義賊にそれぞれ勝利し、肉体が朽ちてもその魂は憑り代を経てこの世にとどまり続けているのだから、正真正銘の化け物だ。

 

 そんな男が何故俺の中に宿ったのかは、言彦本人にも分からないらしい。

 師と同じ世界にてその世界の憑り代となる者とその親友による友情とやらにより消え去ったらしいが、詳しい話は俺にもわからない。

 ただ一つ分かるのは、言彦が師の安心院なじみが恐れ……そして俺と――

 

 

「さて、儂一人で楽しむのは些か忍びない。一誠よ……共鳴するぞ」

 

『折角身体を貸してやったのに良いのか?』

 

「以前の儂なら問答無用で身体を乗っ取ったが、お前の場合は違うのでな……げっげっげっ」

 

 

 共鳴し、互いが持つ力を合わせて進化し続けるという事。

 俺にとっての獅子目言彦は相棒なのだ。

 

 

「「完全共鳴・開始」」 

 

 

 

 

 

 これは果たして本当に人間なのか。

 悪魔の住まう領域に不躾にも現れ、不敬を働いた人間の子供の禍々しき変化を前にこの場に居た全ての悪魔達は戦慄を覚えた。

 

 

「くくくっ! げげげげげ! この状態になるのは何時でも気分が良い。

10年程前に初めてなった時もそうだが、こんなにも頭の中が晴々とし、身体が羽の様に軽くなるほどの絶好調さは他では味わえない。

そう、こういうのを言葉で表すなら最高に『ハイ』って奴だなぁ! アハハハハハ!! げーっげげげげ!!!!」

 

 

 右半身はこの場に乗り込んできた際の少年そのままの姿。

 そして左半身は瞳の色がどす黒く反転し、米神から天を目指すように角が生え、肘から先は猛禽類を思わせる鋭く禍々しい手へと変質。

 

 

「ねーちゃん、下がってろ……すぐ終わらせる」

 

「待って、どうする気なの? 殺すの……?」

 

(オレ)の気分としては皆殺しにしてやりたいが、一応ねーちゃんも悪魔所属になってはいるからな。殺しはしないさ………殺しはな」

 

 

 その姿はまさに鬼。

 人間と名乗るにはあまりにもおぞましき化け物。

 

 地に堕ちた天使ルシファーよりも更に地へと堕ちた怨念の集合体。

 

 

「貴様……人間風情が嘗めるな!!!」

 

「!? ま、待て!!」

 

 

 その発せられる言葉は傲慢であり、朱乃に対して殺しはしないが只では済まさないというニュアンスを感じ取った一人の悪魔が激怒し、背後から襲いかかる。

 正面に居たサーゼクス・ルシファーが思わず焦りを見せながら制止の声をあげた。

 

 

「ん~~?」

 

「な……!?」

 

 

 悪魔の魔力の塊が一誠の背中に確かに直撃した。

 しかしその直撃にも拘わらず一誠の身体には傷一つついておらず、ゆっくりとその悪魔へと振り返った。

 

 

「何だ今のは? 蚊か?」

 

「うっ!?」

 

 

 確かな殺意と共に手加減したつもりのない渾身の一撃を蚊と表現する一誠に悪魔はたじろぐ。

 

 

「ふーむ、純粋悪魔の力は新しいが……つまらんな。バラキエルの一撃の方が遥かに強い」

 

「ギャアッ!?」

 

 

 そしてその瞬間、一誠がデコピンの様な仕草をすると、攻撃をしてきた悪魔の右肩からごっそりと抉られる様に血と肉片を撒き散らしながら消し飛んだ。

 

 

「む……空気玉を飛ばしただけでその様だと? やはり悪魔ではなく単なる蚊だったのか」

 

「い、言彦!!」

 

「な、なによ……これ……」

 

 

 血に床を染めながら倒れる悪魔を見下ろし、つまらなそうに呟く一誠を見た瞬間、言彦の人格の方が強く出ている事を察した朱乃が強く咎める様な怒声を出す。

 

 

「殺さないと言ったじゃない!! 何で……!」

 

「ん? いやスマン……(オレ)的には只の挨拶のつもりだったのだが、見ての通りあの蚊が思っていた以上に脆くてな。

心配するな……一応殺してはいないぞ」

 

「だ、だからって……」

 

「わかってる。そこの蚊とは少々異なる悪魔だけを相手にすれば良いのだろう?」

 

 

 朱乃に言われて取り敢えず戦意喪失気味の他の悪魔達には手は出さないと約束した言彦・イッセーは悪人顔で嗤いながらサーゼクスへと視線を向ける。

 

 

「本当は皆殺しにしてやりたかったが、朱乃の望むものでは無いらしいからな……貴様一人で勘弁してやる」

 

「……。それはどうも……」

 

 

 げげげ……と変な声で嗤う不気味な存在を前に冷や汗を流しながらサーゼクスは不敵に笑う。

 

 

「キミの事は知ってたし、僕の妹がライザーと結婚する事になれば姫島朱乃さんをキミ達の元へと返すつもりだった。

こればかりは僕の配慮が足らなかったね……済まなかった」

 

「それこそ今更だったな。俺が儂を引っ張り出してしまった時点で全てが遅い。

最早貴様等から新しさを貰わん限り(オレ)達は止まらん」

 

 

 死刑宣告にも等しき言彦・イッセーの言葉に、人外の半身でもあるサーゼクス・ルシファーはその身に宿す超越者足る魔力を全解放する。

 

 

「ほう? ……げげげげ!! やはり貴様、平等主義者安心院(あじむ)の手の者だったかぁ! 俺もあの女に概念を教えられた事で会得したが……げげげ、悪魔で安心院の手の者とは新しい!!」

 

「僕としては最早悪夢だよ……。キミに許してもらうまで死なないだなんて無理に近い状況なのだから」

 

 

 オーラが人の形となるのを目撃した言彦・イッセーのテンションは言彦に引っ張られ気味なせいか最高潮となっており、これでもかというほどに嗤っている。

 

 

「行くぞ!!」

 

「げげげ!!! 新しいぃぃぃっ!!!」

 

 

 超越者と化け物がぶつかり合う。

 後に兵藤一誠というたった一人の人間の名前がが悪魔住まう冥界全土に広がり、恐れられた理由となる個人同士の戦争となる。

 

 だがそれは戦争と呼ぶにはあまりにも―――

 

 

「ぐぅ!?」

 

「さ、サーゼクス様ぁ!!」

 

「お兄様!!」

 

「……………」

 

 

 一方的な蹂躙だった。

 

 

「止血しろ、そして戦闘を続行しろ」

 

 

 互いが肉薄し、無数の火花が散る程の速さで何かがあったとしか多くの者は認識出来なかった。

 しかし、その結果は……。

 

 

「さ、サーゼクス様の脚が……」

 

 

 若き王の片足がもがれて床に転がり、その付いた鮮血を手を降って落としながら佇む人間の子供というありえない光景。

 

 

「くっ……き、聞いた以上にやるじゃないか……だけどキミの望み通り勝負はこれからだ!」

 

 

 騒然とする悪魔達を安心させるかの様にもがれた片足から流れる血を無理矢理止めたサーゼクスからは戦意の衰えは見えず、周囲を巻き込む勢いの重苦しい魔力を放出した。

 

 

「だろうな。でなければわざわざ加減してやった意味は無い。

げげげ、ならば次は左腕を貰おうか」

 

 

 そんなサーゼクスに対して言彦と共鳴した一誠は不敵に嗤ってサーゼクスを指差しながら宣言すると、先程よりも更に速く肉薄し――

 

 

「新しい」

 

「!?」

 

 

 宣言通り、左腕を切り裂いた。

 

 

「み、見えなかった……!」

 

 

 それは誰が見ても勝者が誰なのかがわかってしまう光景だった。

 片や嗤いながらその場に座り込む人間。

 片や左腕と右脚を失った魔王。

 

 

「まだ踊れるだろう? もっと(オレ)を楽しませろ魔王。バラキエル――あのおっさんより貴様が弱いのはもう分かったが、これでは(オレ)の気が済まん」

 

 

 有利がどちらかなど一目瞭然だ。

 

 

「は、はは……キミの様な年の子供がこれほどの力を持ってるなんて――お、恐ろしいよ心底」

 

「おべんちゃらを抜かす暇があるならさっさと止血して戦え。

朱乃に狼藉を働いた時点で(オレ)は貴様等を見限っているのだからな……このまま皆殺しにしてやっても構わんぞ? なぁ? 悪魔共?」

『う!?』

 

 

 鬼の様な形相の一誠に睨まれ、その場から動けなくなる悪魔達の誰もが挑もうと言う気持ちを削がれる。

 

 

「ふん、情けない。自分達の長が戦っているというのに誰も挑まぬとはな。やはり朱乃をリアス・グレモリーに託したのは間違いだったか?」

 

「そ、それは……」

 

「まあ、お前は朱乃の友である以上何もしないから安心しろ。処でそこでくたばっている貴様の婚約者とやらはこの状況になっても貴様を守ろうと立ち上がらんのだが、そんな奴と本気で結婚するのか?」

 

「あ、アナタが半殺しにしたせいなのだけど……」

 

 

 悪魔以上におぞましい何かを持つ人間一人に何もできない。

 一誠に半殺しにされたライザーは痙攣したまま起き上がろうとする気配も無い。

 

 

「さぁ魔王……止血は終わったか? おお、どうせなら貴様の下僕全員と一斉に掛かって来い。

その方が儂はより新しさを感じ取れる」

 

 

 開けてはならないパンドラの箱から飛び出した鬼の気はまだ済んでいない。

 

 

終わり

 

 

 

 

 

 これ以上新しさを手に入れられないと悟ったのか、飽きた言彦が引っ込み、一誠へと戻った。

 そしてそのまま朱乃を連れて冥界から堂々と帰還し、先に逃げていた自称姉達と一旦合流させた。

 

 

「さ、サーゼクス様の腕と脚を切り落としたって……」

 

「信じられないのはわかるわ。けど事実よ……これから一体どうなるのかもわからない……」

 

「そ、それって冥界の悪魔達から敵と思われてるんですか……?」

 

「そうなるわ……きっと私も彼に付いていった時点で実家から勘当されるわ」

 

「そ、そんな……」

 

 

 思いの外暴れまくったらしい一誠のせいで冥界からほぼ追放されるのが確定していると聞かされた自称姉達。

 そんな元凶の一誠はといえば……。

 

 

「ねーちゃん、俺ねーちゃんの家に戻るよ。

此処から先はねーちゃんと朱璃さんから離れる訳にはいかないからな」

 

「うん……でも私のせいで」

 

「あぁ、そこは気にしなくて良いぜ。元々悪魔(ヤツラ)を信用してなかったし、いくら師の半身だろうと信じられない奴は結局信じられなかっただけだ」

 

 

 朱乃の為にやってるだけで、リアス達が追放された事に関してはかなりどうでも良かった。

 

 

「アナタが相当暴れたせいで部長が冥界から追放されてしまうかもしれないんですけど」

 

「副部長を取り戻す為だけじゃなかったのかい? 部長を巻き込んでしまうなんて……」

 

「は? ……あぁ、俺はねーちゃんを連れて帰ろうとしただけだぜ? この人は知らんけど勝手に付いてきただけだ」

 

「いや……うん、確かに私は勝手に付いてきただけだわね」

 

「そ、それにしたってもっと他にやり方があったのでは……」

 

「他? 何だ? まさかお話合いとかお花畑みたいな事でもしろっていうのかい? キミって第一印象から思ってたけど、そのイラつかせる甘さは何とかならないの?」

 

「………」

 

「そ、そんなアーシアちゃんは――」

 

「それと貴女は何がしたいの? 温い友情ごっこに浸りたいなら朱乃ねーちゃんが巻き込まれない処で勝手にやってくれません?」

 

「………」

 

 

 朱乃を連れ戻した以外については心底どうでも良い一誠の辛辣な言葉が突き刺さる。

 

 

「…………と、いう訳で勝手だけど今後はねーちゃんと朱璃さんを守る為に家に戻ります……」

 

「そんな事が……わかったわ。

寧ろ帰って来てくれて嬉しいわ。この子も寂しがってたから」

 

「それとお母さん……リアスの事も……」

 

「ええ、何だかごめんなさいね?」

 

「い、いえいえ! 私は寧ろドサクサ紛れに婚約が無くなったのでこんな状況でも寧ろアリかもしれないとか思ってます……はい!」

 

 

 最強のボディガードの帰還。

 本来は他の眷属達も朱乃の家に暫く住むつもりだったのだが……。

 

 

「私はこの人と一緒には無理です……」

 

「僕も……すいません……」

 

「ま、待ってよ! 私はこういう時こそひとつになるべきで――」

 

「でもイザとなったらこの人はきっと朱乃副部長以外を見捨てます……信用できない」

 

「………………」

 

 

 と、言われて残りの四人は別行動に。

 

 まあ、それはほぼ大当たりであるし、恐らく目の前で敵に襲われても一誠はポテチ食べながら見てるだけだろう。

 

 それに――

 

 

「朱乃とイッセーくんが同じ部屋で寝てるのは……まあ、分かったわ。

けどその……私その隣の部屋でね? えっとその……聞こえるのよね毎晩」

 

「はぁ……それで?」

 

「いえね? 聞かされるとね? 流石にムラッとするのよ……色々と毒なのよ……」

 

「じゃあ一人で処理すれば宜しいのでは? それか例の婚約者の所にでも行けば」

 

「…………………。朱乃が心底羨ましいわホント。ここまで想われてるなんて」

 

「ふふふ♪」

 

 

 毎晩のせいでムラムラしまくりな目に合わされるのだから。

 

 

 そして――

 

 

 

「匙、冥界の動きは?」

 

「変わらねーよ。どいつもこいつもお前という存在に恐怖して下手に動けないんだと。

まあ、あれだけ派手にやらかしゃあな」

 

「そうか……お前の主は?」

 

「動き無し。というか同じく動けないだな。副会長もお前を心配してるよ」

 

「そうか……適当に謝っといてくれ」

 

「はいよ、姫島先輩ばかりだと副会長が拗ねてるけどな」

 

「そんな事を言われてもな……」

 

 

 似た世界とは違う繋がり――

 

 

「あーすんません、俺どっちかというとイッセーの味方なんですわ」

 

「私もです……どちらかを選べと問われれば私と匙君は彼を選びます」

 

 

 似た世界とは違う関係。

 

 

「駒王学園・風紀委員副委員長、匙元士郎! またの名を暗黒騎士・呀!」

 

「同じく風紀委員副委員長、真羅椿姫!」

 

 

 満を持して結成された今代の風紀委員。

 

 

「……………って、別にそこまで俺に合わせなくても良かったんだけど」

 

「いやだってお前が悪魔達から狙われてるらしいし……ねぇ副会長?」

 

「ええ、ならもうどちらに付くかをハッキリさせないと」

 

「……変な奴等」

 

 

 

 

「えーっと何々? 俺はライザー・フェニックスとやらから婚約者を寝取った不届きもの――らしい。

何時俺が寝たんだ?」

 

「ご、ごめんなさい、向こうがそう解釈したらしくて……」

 

「イッセーを知ってるから俺たちはあり得ないとわかるけど……これは中々に難儀だなオイ」

 

「大丈夫姫島さん?」

 

「まあ嘘だと分かってるから平気だわ」

 

 

 似た世界とは違う道……。

 

 

以上、似非




補足

まず前提としてまともな戦いにはなれない。


その2
似た世界ではスプーンだったけど……似非ではあるけどなんと――

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。