ある日を境に、桐生藍華は何故か無性に気になって仕方ない二人組の仲間になった。
クラスメートにて物凄く無口―――――というよりは個性的な男子の中では埋もれがちな男子で友人らしい友人も居ないといったイメージが常に回って見える様な男子と、ひとつ上の先輩で牛乳瓶の底という今時本当にそんな眼鏡を掛けるのかよと思いたくなる丸眼鏡と、絶対下ろした方が良い赤い髪をお団子状に結んだ見た目が地味な先輩。
唯一その男子が親しくしてて、道の真ん中を避けて隅っこを歩く風変わりな二人組。
それが兵藤一誠とリアス・グレモリーであり、何故か桐生藍華はその二人が気になって仕方なかった。
友人にするならもっと他に良い者が居た筈なのに何故藍華はイッセーとリアスに惹かれたのか?
それはきっと藍華自身が幼少期から抱えていた周囲に対する違和感と感じていた溝が理由なのかもしれない。
いくら取り繕っても拭えぬ周囲との差異。
自分だけがおかしいのかもしれないとう疑問。
それが何かまでは分からなかった――だからこそ惹かれたのだ。
自ら陰に隠れようとする風変わりな二人組から感じ取った自分と同じなにかに。
そしてその答えを確かにイッセーとリアスは持ち得ていたし、藍華は知る事ができた。
「本当なら似もなく記憶消して普通の生活に戻すつもりだったけど、キミが抱える何かを知る必要があるのと――まあ、キミ自身がリアスちゃんに親切だったから仲間になるのを同意することにした訳だが、これだけは覚えておけよ桐生藍華? ……………仲間になった以上、リアスちゃんを裏切ったら確実に俺はキミを殺す。
泣こうが喚こうが、俺は手を緩めず裏切った事を後悔させた上で殺してやる。わかった?」
「ん、わかってるし、トモダチは裏切らない主義よ私って? 第一二人に命の借りがあるのに裏切るだなんて、私はそこまで図々しくないから安心してよ」
抱える何かを、その意味と使い方を。そして二人が人で無い事を。
その上で、桐生藍華はイッセーとリアスの
「こうなった以上、私達三人が行動を共にしても違和感を持たれない場が必要になるわ。
それで考えた結果、部活――いえ、三人しか居ないから同好会を作ろうかと思うのだけど、どうかしら?」
「あ、良いですねそれ、当然グレモリー先輩が部長ですね?」
「同好会ね……実戦研究同好会とか?」
「そんな物騒な同好会なんか作ったって受理される訳がないでしょう? もっと学生らしいテーマを考えなさいよ」
桐生藍華
人間ベースの転生悪魔(戦車)
備考・イッセーとリアスの抱える同じ何かに自然と惹かれた○○候補。
リアスの提案により、藍華――アイカが自分達と、行動を共にしても違和感を持たれぬ様に同好会を発足する事となった。
三人で話し合った結果、如何にも同好会らしいという事でかつてリアスが元仲間達との隠れ蓑に使ってた部活であるオカルト研究部に酷似した内容の同好会を作り上げた。
緩い教師達を口の上手いアイカが言いくるめ、あれよあれよと同好会が発足され、放課後はもっぱら同好会の為に用意させた空き教室を使ってアイカに悪魔や他の種族についてと――自衛手段を叩き込んでいた。
「ひょ、兵藤ったらとんだ鬼畜だったのね。あ、あははは……お、お尻と腰が痛い……」
「せめて自衛の手段だけは持ってて貰わないと色々困るんでね、これだけは悪いけど加減とかお優しくする気は無いぜ?」
「わ、わかってるって。折角トモダチになれたのにこんな所でつまずいたら意味無いものね……いたたた」
経験上のせいか、戦う手段を叩き込む時のみ異常に厳しく、戦車の駒を使って転生した事によってある程度頑丈になったとはいえアイカは毎日が擦り傷だらけで、眼鏡っ娘相手にイッセーも一切容赦しなかった。
「言っておくけど、人質として拐って無理矢理犯してくるバカなんてザラにある世界だからな、キミがそれで興奮できる性癖なら別に良いけど、リアスちゃんの足手まといになられたら困るんだ」
「それは確かに嫌だわ、どっちの意味でも」
「だからだ、そら、早く俺を吹っ飛ばしてみろ」
「わ、私を椅子にしながら物凄い涼しい顔して言わないでよ……。
やっぱり兵藤ってドSね……くぬっ!」
倒れ伏すアイカの背中に椅子代わりとばかりに腰を下ろし、焚き付けながら涼しい顔をして週刊誌を読む姿は誤解されまくりな絵面だが、本人達は自衛手段の為の修行のつもりでやってる事なので、そこに如何わしいものは一切無い。
背中に座るイッセーから逃れようと身体を捩りながら時折喘いだ様な声が出てても決してやましいものは無いったら無いのだ。
「お茶入れたから休憩しましょう?」
「ん、わかったぜリアスちゃん。
ほら聞いた通りだから休憩タイムだぜ桐生さん」
「……はーい」
自分はどっちかといえばソフトなSだと思ってたが、とんでもない……この男は特技で計測した数値に裏打ちされたレベルのハードSだった。
「あ、おいしい」
「そこの駄菓子屋でめっちゃ大人買いしてきたから好きなだけ食ってくれ」
「あら、懐かしいわねこのひもQってお菓子」
とはいえ、修行以外だと存外親切だし、リアスに対しては最早忠誠を通り越した過保護さを発揮する辺りは単に鬼畜って訳ではない事をアイカは知っている。
丸い眼鏡にお団子ヘアーなリアスに餌付けするかの如くラムネを与えるイッセーはやはり面白い――アイカは改めてこの二人のトモダチになれて良かったと思いながらわたがむなるお菓子に手を伸ばし、ふと気づいた。
「そういや思ったことが一つあるのだけど、言っても良いかしら?」
「? 何かしら桐生さん?」
「内容にもよるけど、まぁどうぞ?」
リアスとイッセーが此方を見る。
そう、トモダチになれたとアイカはクラスで見せるようなキャラとは思えない程妙な純粋さを発揮してる訳だが、そのトモダチになれたのに何時までも互いに苗字で呼び合うのは違うのでないかと思ったのだ。
「折角こうしてのんびり出きる仲になれたと少なくとも私は本気で思ってるのよ―――実際問題殆ど二人に対して無理矢理押し掛けてる感は否めないにしても」
「はぁ……」
「それで?」
「いえ、兵藤と先輩は互いに名前で呼んでるのに私だけ何時まで経っても苗字呼びなのかなー……とか?」
言ってて気恥ずかしくでもなったのか、ジーっと見てくる二人から目を逸らし、誤魔化す様に笑いながら話したアイカにイッセーとリアスは目を合わせる。
「つまりアナタの事を名前で呼んでも良いの?」
「えっと……はい、先輩さえ良かったら本当に是非」
「変な所に拘るねキミって。てかキミだって俺やリアスちゃんを名前で呼んでねーじゃん」
「いやだって……いきなり呼んで嫌な顔とかされたらと思うと不安だったもんで……」
変に気にしいな面を見せるアイカ。
のらりくらりの中立めいた立場から他人を眺める様なタイプだからこそ、やっと見つけた友人に対しては割りと素直というべきなのかもしれない。
「えーっと、じゃあ改めてアイカ? 私の事はリアスで構わないわ」
「えーっと、リアスちゃんに続いて俺も好きに呼んでくれて良いぜ?」
「あ、ありがとう……」
初めて見つけた同類だからこそ余計に。
そんな訳で三人の間での呼び方は親しみを込めた名前呼びへと変更されたのだが、そういう変化こそこのくらいの年の頃の者達にとっては大袈裟に騒ぎ立てるものである。
例えば同好会発足から数日後、すっかり放課後が楽しみになっていたアイカは同じクラスであるイッセーに放課後の活動について待ちきれず聞いてしまった時なんかがそうだった。
「ねぇねぇイッセー、今日の放課後は何するの?」
「今日はリアスちゃんとアイカと俺で―――えーっと、どうすっかな。リアスちゃんに聞いた方が良いな」
「そっか。うーん、早く放課後にならないかしらねー」
『……』
思わずクラスの全員が妙に影の薄い男子とイマイチ不明瞭な所がある女子がいつの間にか異様な距離感を感じる会話してる二人に注目する。
「え、えっ? 桐生と兵藤が会話してんぞ?」
「しかも今ナチュラルに下の名前で呼びあってたよな? ま、マジでなにがあった!?」
誰かが大袈裟に騒ぎ立てる。
しかし本人達はそんな声をスルーしていた。
「前から疑問だったんだけど、何でリアス先輩はあんな眼鏡掛けてるのよ? 目は悪くないんでしょう? 外してあの髪型もやめたら絶対例の姫島先輩並みの――」
「うぉいっ!」
「きゃっ!?」
それどころか、事情まではまだ知らないので、うっかりあの変装が無ければ確実に男共から騒がれるだろうリアスの容姿について話そうとしたアイカに割りと大きめの声を出して止めたかと思えば肩に腕を回し、グイッと引き寄せるという、またしても驚愕の行動をイッセーはそういう意味一切無しでやってしまう。
「良いか? リアスちゃんの本来の姿が凄まじく可愛いのはわかってる。
けどリアスちゃんはそういう事で目立ちたくないし、俺だってリアスちゃんを見て騒ぐ連中なんざ嫌だ。特にこの学校の男子なんかもろに思春期入ってんだ――もしそういう目でリアスちゃんを見てたら無意識に目玉を抉り取ってしまうかもしれねぇ…………わかるよなアイカなら?」
一部女子が肩に腕を回して物凄く顔を近づかせて何やら話してる二人を見てキャーキャー言ってるし、男子辺りはビンタすらされずにそのまま桐生を抱いてる様に見えるイッセーに対して何だか負けた気持ちな顔をされてるのもスルーし続けている。
「あー……なるほど、確かに私も本来の先輩の姿を見て手の平返されるのは嫌だし、それのせいで折角私だけのトモダチになれた二人が注目されるもの気に入らないかもね。
わかった、私もリアス先輩が目立たないように改めて協力するわ。なんてたって私は二人のトモダチですもの……ふふん」
「おう、助かるぜ」
本人達は単にリアスに対する変な独占欲という共通点による共謀の話し合いだったりするが、結局これのせいでクラスでは兵藤と桐生は怪しい関係という変な噂が立ってしまうのだった。
が、それでもリアスとイッセーが生きた元の時代に比べたら、不安要素はあれどかなり平和な世界であり、その程度の事実にもなりはしない噂を立てられた所で動じる事は無い。
「………………。リアス部長がオカルト研究同好会を作ったみたいです」
「ええ、そうね……」
「同好会ということはまだ部になるだけの人数は集まっていない様です。
……あの赤龍帝と、何故か部長の駒で悪魔に転生した赤龍帝のクラスメートの女子の三人で……」
例えばそう、この時代では眷属で無い以上この学園に通ってる筈が無い元眷属達とかがそうだ。
厄介な事に、イッセーとリアスの生きた元の時代の記憶を持っていて、その記憶があったからこそ自分達のやってしまった事を後悔し、今度こそリアスの眷属として―――と記憶と経験を頼りに降り注ぐ不幸を回避して集結したのだ。
「あの桐生って人は私がなっていた戦車の駒らしいです……」
「そして女王――男性の場合は大臣か将軍の位置はあの赤龍帝が……」
「騎士は居ないけど……あの赤龍帝と桐生さんのせいで部長に近づけない……」
全てから覚めて後悔し、今度こそと意気込む元眷属達は、それぞれ自分達の位置に今居るばかりか信用すらされてるイッセーとアイカ――元からリアスと一緒だったイッセーというよりはポッと出にしか思えないアイカに、嫉妬めいたものを抱いていた。
「戦車は私だったのに……」
「まだ小猫ちゃんと祐斗くんは良いわよ、戦車の駒なら一つ残ってるし騎士に至っては一人も居ないし……。
私なんか赤龍帝に……」
今更全てが遅すぎるというのに諦めきれなかった者達は空き教室で楽しそうにイッセーとアイカに笑顔を向けるリアスをストーカーの如く追い回して眺め――二人に嫉妬する。
転生者の男に好意を持ち、リアスを裏切った後悔をし続けながら。
「………またあの人達が向こう側から見てきてるんですけど」
「な、何でかしらね……」
「チッ、鬱陶しい」
既にリアスは二度と関わりたくないと思ってるというのに――そしてその後ろにはずっと守り続けた龍帝がキレ掛かってるのに。
「あの三人と何かあったとか?」
「ある程度は教えとくけど、あの三人にもし絡まれたらすぐにでも俺に教えろ。
リアスちゃんはあの三人とは絶対に関わりたくないし、俺達の仲間になった以上、確実に目を付けられてる筈だからな」
「アンタと先輩に話し掛けてた頃からあの三人は見てたけど……」
「えーっと……顔を知ってるだけで関わりは無い筈なのよ。だから何であの三人がああなのか分からないというか……」
「なるほど。あの、ひょっとして私ってあの三人みたいだった………よね?」
「キミをあの三人と比較するのは失礼になる程度には違うって俺とリアスちゃんは思ってるから安心しても良いぜ?」
「ほっ……よかった。何分初めて二人を見た時はあまりにも惹かれるものがあって無我夢中だったから……」
続く?
補足
何度も言うか、最早桐生さんじゃねーぞ……という理由は、潜在的に能力保持者候補で、その素養の影響により本当のトモダチを密かに欲してたが故に、やっと見つけたイッセーくんとリアスさん相手だとめっちゃデレるって感じです。
ので、他を相手にするといつも通りの桐生さんになる筈。
その2
自衛手段を叩き込む時のイッセーくんはまさに鬼であり、へばって倒れたら椅子にしてくるし、ぐずれば背中だの尻だの踏み踏みされるし……。
……決して桐生さんは調教されてません。
その3
仲間となった事で距離感が狭まり、互いに名前呼びだったり鬼畜修行の影響でボディタッチが多くなったりと、誤解されまくりな行動を互いにしてしまうらしいが……。