色々なIF集   作:超人類DX

219 / 1033
運が良かった……それだけ


修羅

 好かれる真似をしたつもりも無いので、寧ろ妥当だとも云える状況だし悲観もしちゃいない。

 それが例え誰かの作為であろうとも、自分の種族の未来がどうなろうとも――それこそ絶滅の道を辿ろうとも知ったことではない。

 

 求めるのはひとつ――力も無く食い殺される未来しかし無かった私を助けてくれた人との安心。

 

 その為なら障害となるものは全て壊す。

 

 修羅を宿し、森羅万象を破壊した先が『無』であろうとも。

 奪われる恐怖に比べたら怖くなんてない。

 

 

 

 

 

 その圧倒的な力を前に、女王を連れて相対させられたライザーは自身の持つ『常識』を踏み潰された思いであり、グレモリーの出来損ないと揶揄していた観戦者達はただ戦慄した。

 

 

「自分の意思を貫く。誰かの言いなりにはならない……。

だからこそこの私、リアス・グレモリーはライザー・フェニックスに対して全力で応えましょう――」

 

 

 ――誰が仕組んだのも考える必要が無意味になるという事を。

 

 

 傍らに居るアイカは巻き込まず、暴風の如くリアスの身体から放たれた魔力が旧校舎を破壊する。

 

 

「この、完成体・アスラで」

 

 

 吹き荒れる魔力がやがて山を思わせる程の巨大な人の形へと変わる。

 それは奇しくも超越者と吟われるサーゼクスが本気を見せる時に作り上げる魔力自体が人の形となる力と酷似して――いや、この異質過ぎる程の巨大さはそれをも越えており、見る者全てを圧倒していた。

 

 

「せ、先輩……」

 

 

 それは味方である筈のアイカですら戦慄させる程の強大過ぎる力であり、眼鏡を外し、下ろした紅い髪を靡かせながら尚も巨大な魔力を放ち続けるリアスの背中をただ呆然と見ていることしかできず、また相対していたライザーも同じだった。

 

 

「なんだ……よ……これ……?」

 

 

 最早魔力で作られた巨人としか思えない何かを前にライザーは嫌でも自分がちっぽけな虫でしかないことを自覚させられる中、旧校舎を破壊して君臨した巨人の額辺りへとアイカを傍に立ったリアスは疲労の色も無く更にその力を安定させんと拳を握りしめながら小さく呟く。

 

 

「まだよ――――定まれ……!」

 

 

 グッと握られたその拳に呼応するかの如く、魔力で作られた巨人は更なる変質を開始する。

 

 

「で、デカブツの魔力が更に安定しやがった……!」

 

 

 天狗の仮面をつけた四腕の鎧武者の姿となった巨人の頭部から自分達を見下ろすリアスを見上げるライザーは既に震えて戦意を完全に失った女王を無意識に庇いながら顔を歪める。

 

 

「お、大きい……」

 

 

 リアスの傍らに居たアイカはその大きさにただただ呆然とし、作り上げた本人は小さく見えるライザーを見下ろしながら腕を組み、静かに口を開く。

 

 

「私を止められるのは『本当の仲間』だけ」

 

 

 森羅万象を司る力に対して、力の大半を失った人外から教えられたどこかの世界の力。

 イッセーとサーゼクス――そして自分がかつての仲間達の中で宿した境地であり、破壊という概念そのもの。

 

 

「けど、その一人であるイッセーが今の私を止める事はしない」

 

 

 失った自分が手に入れた繋がりの証ともいえる力の一つはリアスの意思通りに動き、悪魔である自分には似つかわしくない鎧武者の様な姿をした四腕の巨人は、その手に持った巨大な太刀の柄を掴む。

 

 

「それもアナタ達にとってはかえって良かったと言えるのかもしれない……」

 

「! に、逃げっ――」

 

 

 

 何故なら……。

 

 地震の様な揺れが起こり、ライザーが慌てて逃げようとするのと同時に、校舎……いや、山よりも高い巨人が鞘から太刀の刃を半分ほど見せた瞬間、勢いよく抜刀する。

 その瞬間、ゲーム盤であった駒王学園のレプリカ空間は文字通り運動場から手前全てが――消し飛んだ。

 

 

「ぐおぉっ!?」

 

「きゃあ!?」

 

 

 リアスの作り出した巨人の行った動作は只の抜刀……。

 言ってしまえばそれだけの行動だが、巨人の起こしたそれはそんな生易しいものでは無かった。

 レーティングゲームの為に作り上げた駒王学園のレプリカ空間の運動場にて出現させた巨人の抜刀は、運動場の地形を破壊し、その余波で校舎までも粉々に粉砕する。

 当然その衝撃は凄まじく、人形の様に吹き飛んだライザー達が体勢を何とか建て直して目にしたのは……。

 

 

「なぁっ!?」

 

「私一人分なら、この空間が消え去る程度で済みそうだからね」

 

 

 見事なまでに再現されていた駒王学園のレプリカ空間の校舎が消し飛び、土台となった空間になっていたという理不尽なものだった。

 

 

「な、なんだ……よ……これ……」

 

「ひ、ら、ライザー様……く、空間が消し飛んでます……!」

 

 

 腕を組み、巨人の額の部分からオロオロしているアイカを傍らに此方を見下ろす眼鏡を外して髪も下ろしたリアスを前にライザーはこれで確信するのと同時に力量の見誤りに後悔し、そして激昂した

 

 

「俺を当て馬にしやがったなァァッ!!!!」

 

「ライザー様!

に、逃げないと……む、無理です、アレには勝てません……!」

 

「そんな事はわかってる!! クソが! 最初からわかってたが、何処の誰が……ちくしょうめ!!」

 

 

 誰かの作為を感じていたこのゲーム。

 公開処刑の様なこのゲームをしなくてはならないリアスを少し同情したが、それは間違いで、自分が当て馬にされただけに過ぎなかった。

 きっとこのゲームはリアスの力を知る誰かによるもの。

 

 リアスの家族が? いや、あの様子から察するにリアスのこの力を見るのは恐らく初めてだろう。

 ならば誰が――と、当て馬にしてくれたその誰かに対して悔しげに顔を歪めるライザーは自身の女王の怯えた表情に気付き、彼女を抱えてその場を飛ぶ。

 

 

「リアス! 俺はリザインなんかしないぞ!!」

 

「なっ!? ら、ライザー様!?」

 

「………」

 

 

 背に炎の翼を広げ、巨人の額の中にアイカを連れて腕を組みながら立つリアスと同じ目線に立ったライザーが女王のギョッとした顔を他所にリザインはしないと宣言する。

 

 無謀だ! と女王のユーベルーナが血相変えた顔で言うが、誰かに当て馬として利用されたのがどうしても気に入らなかったライザーは果敢に自身のルーツである炎と風の力を撃ち込むが、巨人はおろかリアスとアイカに傷一つ負わす事は出来ない。

 

 

「ええぃ! どうせ効かないって予想はしてた! だがこれはもうプライドの問題だ!」

 

「ら、ライザー様……」

 

 

 豪炎を生み出しながらぶつけ続けるライザーの咆哮。

 半ば自暴自棄になってる様にしか見えなかったが、その怒りの理由が何なのかだけはリアスには解った気がした。

 

 

「アテが外れたみたいよソーナ達? 当て馬にするにはね」

 

 

 ライザーを利用して自分達に近寄ろうとしてきたかつての仲間達を嘲笑いながら太刀を持った巨人を使って炎を撒き散らすライザーを斬り伏せさせる。

 

 

「がぁっ!? ………お……あぁ……!!」

 

 

 その一太刀が空間を再び破壊し、ライザーは咄嗟に抱えていたユーベルーナを離しながらその太刀を受けて一刀両断されるが、不死の特性が彼を復活させる。

 

 

「俺を――フェニックスを嘗めるな!!」

 

「い、意外と熱血ですねあの人……普通に向かって来ますよ?」

 

「どうにもやり難いわ。

私が()()()()ライザー・フェニックスとは少しだけ違うみたいで」

 

「へ?」

 

「……いえ、何でも無いわアイカ。

うん、そろそろ終わらせましょう」

 

 

 ライザーの気迫に思う所があったのか、ほんの少しだけ笑みを浮かべたリアスの横顔にアイカは見惚れる中、王の気迫に呼応し、恐怖を圧し殺して参戦した女王のユーベルーナ共々終わらせると宣言したリアスは四腕の巨人が持っていたもうひとつの太刀を抜くと……。

 

 

「これで終わり」

 

「ク……ソォォォッ!!!」

 

 

 その空間ごと全てを無に帰した。

 

 

 

 

 

 

 ゲーム盤ごと破壊するという荒業で強引に勝利に持ち込んだリアスのお陰でギリギリの寸前で八つ裂きにされるのをレイヴェル・フェニックスは回避出来たが、だからどうだと云われた別になにが変化する訳でも無く、勝者を知らせるアナウンスと共にほぼ全壊したゲーム盤から転移したリアスは、合流したイッセーと共に待ち構えていた両親と兄の前へと立つ。

 

 

「レーティングゲームっぽくはありませんが、勝ちは勝ちで宜しいですね?」

 

「そうだね、ライザーの眷属達の殆どは重症だけど元々フェアとはとても思えないゲームだったんだ。どんな形にせよ勝ちは勝ち。

約束通り婚約の話は全て破棄させる―――それで宜しいですね父上に母上?」

 

「う……うむ、それは勿論わかってはいるが……」

 

「……。リアス、アナタは何時あの様な力を?」

 

 

 優しく微笑みながら出迎えてくれたサーゼクス以外が実に渋い顔をする中、同意を求めるサーゼクスに頷く他無いジオティクス・グレモリーは改めて娘がますます理解できなくなった様子であり、母であるヴェネラナ・グレモリーは異常とも云うべき強大な力を見せたリアスに対してどこか厳しい表情で問う。

 

 

「はて? 自衛目的として自分なりに鍛えていただけですから何時と言われてもわかりません」

 

「……」

 

 

 どう見ても良好とは思えないやり取りに新人であるアイカは居たたまれない気分でイッセーの後ろに隠れ、イッセーはイッセーでリアスの両親の態度を訝しげに眺めている。

 

 

「いやぁ、流石サーゼクス様の妹様! 圧倒的不利にも関わらず勝利して見せた此度のゲームは実に楽しめましたぞ!」

 

「これは将来が実に楽しみですな!」

 

 

 やはりどこかがおかしい……。

 最後に会った時と比べても明らかにリアスを見る目が――今回力を見せたという意味を考えてもおかしいと、ヴェネラナとジオティクスのリアスに対する疎んじる様な態度に内心引っ掛かりを覚えていたイッセーは、横から口を挟んだ名前すら覚える気にもなれないどこぞと貴族の悪魔の声に意識を現実に戻される。

 

 

「………チッ」

 

 

 人の良さそうな笑みを浮かべながら変装を解いてるリアスを絶賛する悪魔達に対して内心イッセーは笑えるくらいに予想通り過ぎる手のひら返しっぷりに腕の一本でもへし折ってやろうかという衝動に駆られる中、確かに今その悪魔達に対して露骨にサーゼクスが舌打ちをしたのを聞いて思いとどまる。

 

 

「将来が楽しみですか……。

ゲーム前は散々リアスを出涸らしだのと揶揄していた筈だが?」

 

「はて、何の事だか私にはわかりかねますな」

 

「サーゼクス様の妹様に対してその様な無礼を口にする訳が無いというものよ」

 

「まったくだ」

 

 

 あくまで惚けるつもりの悪魔達にサーゼクスの表情は厳しいものになり、思わず何かを言いかけようとしたが、それを止めるかの様にリアスが口を挟む。

 

 

「とにかく今回のお話はこれで破棄になるのであるなら、我等は戻らせていただきますが」

 

「! あ、うんそうだね……ライザーのご両親――シュラウドさんとエシルさんがよろしく伝えてくれと言っていたけど……」

 

「そうですか……では此方からも今回の茶番にご子息を巻き込んで申し訳ございませんとお伝えください」

 

「わかった、確かに伝えるよ」

 

 

 どうでも良い悪魔連中なぞ眼中にすら無いという無機質な顔で淡々とサーゼクスと話すリアスは傍らに控えるイッセーとアイカを連れて転移の魔方陣を作り出す。

 

 

「ではまた……」

 

 

 両親とその他が何か言いたい様だが、そんなものに付き合うつもりも無かったリアスは、サーゼクスにだけ笑みを見せて頭を下げ、自分達の帰る場所へと転移して去る。

 

 

「……何だあの態度は」

 

「観戦者の我等には一言も無しか」

 

「力が強いだけで礼儀も無いのか?」

 

 

 その態度に対して気にでも触った悪魔達が何やら言ったが、リアスに届く事などありえなかった。

 何せやることがこの後にもあるのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 元の学園へと戻ったリアス達のやることはまず、この茶番を仕組んだ者への布告だった。

 

 

「時間が無かったから放置していたけど、アナタが今回の茶番を仕組んだのは知ってるわ。

まぁそのことについては敢えて言わないけど、ひとつ言わせて貰って良いかしら? …………いい加減つきまとうのはやめて」

 

『………』

 

「以前はともかく、今の私とアナタは縁も所縁も無い只の他人同士だし、これから先その仲を深める事は絶対にありえない。

だから私達の周りをチョロチョロするのはこれっきりにして」

 

 

 実はこっそり観戦し、その力を目の当たりにして軽くトラウマを抉られたソーナや元眷属達が戻ってきたタイミングを計って敢えて接近したリアスはハッキリ冷たく言い放った。

 

 

「アナタ達の事はもう憎んでは無い、ただもう何も思えないのよ。

だからもうやめて」

 

「そ、そんな……」

 

「私達が全部悪い! だ、だからやり直したいって……」

 

「やり直せば良いわ。私の関係の無いところで、私を気にせずやり直したら良い」

 

 

 改めて面切って言われると堪えるものがあるらしく、元仲間達は絶望した様に膝を折る。

 そんな裏切り者達をイッセーは静かにくつくつと嘲笑う訳だが、ある意味でこういう反応よりもリアスの態度の方がダメージがデカい。

 

 

「ど、どうして……」

 

「馬が合いそうに無い相手と友人になれると思う? ただそれだけの事よ。

アナタも、アナタ達も私にとっては友人になれそうもないと判断しただけよ」

 

 

 何の感慨も無い、何の思い入れも無い。

 ただの他人でこれからもずっと多少顔を知ってるだけの関係のまま。

 リアスにとっては彼女達はその程度の認識でしかないのだ。

 

 

「今回の事は敢えて黙っていてあげる。

けど次また同じ様な真似をしたら……許さない」

 

 

 だからこれは決別では無く、ただの忠告。

 決別する程の関係では無いからこその言葉。

 最後まで抑揚無く言い切ったリアスが膝を付く面々に踵を返して去り、それに続いたアイカ。

 そしてイッセーは……。

 

 

「ザマァ見ろバーカ。謝るから元の関係に戻りましょう~ で済む訳ねーんだよ間抜けが」

 

 

 絶望する連中を更に叩き落とし、最後まで嘲笑ってやるのだった。

 

 

 

 

 完全なまでの拒絶を示し、そのまま人間界で借りてる家へと帰ったリアスは、一度解散して自宅に戻ってから訪ねて来たイッセーを部屋に招き入れながら、多分これだけ言っても聞き分けなんか無いだろう今更な連中に対してため息を吐いていた。

 

 

「一応言うだけ言ってあげたけど、これまでの行動を考えてもこれで関わって来なくなるとは思えないわね……」

 

「まあ、十中八九間違いなくまた余計な真似でもするだろう。

いっそのこと、また生皮でも剥いでドブ川に晒してやるべきだと思うぜ俺は?」

 

「………」

 

 

 アイカには悪いとは思うが、二人の時で無いと出来ない話もあった為にイッセーのみを呼び出した。

 前の世界での記憶を持つ連中についてのこれからについてと、何よりこの世界に生きる様になってから減った二人だけの時間を過ごすために。

 

 

「その話は後にしましょう? それよりもイッセー……」

 

 

 ソファーに寝っころがっているイッセーに飛び付く様にして乗るリアスが久しく無かったせいか、甘える様な声で何かを求める様に手を取り、自分の胸を掴ませる様に押し付ける。

 

 

「久しぶりに……ダメ?」

 

 

 それは合図であり、かつてを生きた頃から行っていた事。

 この世界に来てからイッセーの両親やアイカ等いう者達の手前控えていた行為を求めたリアスの甘えるような懇願にイッセーは身体を起こし、背中に手を回して抱き寄せる。

 

 

「ダメな訳が無いだろう? 寧ろご無沙汰な分寝かせるつもりが全然無いぜ?」

 

「ぁ……」

 

 

 ニヒルに笑いながら言うのと同時に唇を重ね、そのままゆっくりと倒れるとリアスが嬉しそうに頬を紅潮させる。

 

 

「ねぇイッセー? 今度はちゃんと本当の家族になれるかしら?」

「できるさ……いや、今度こそしてみる」

 

 

 終わった繋がりもあれば、変わらない繋がりもある。

 互いの身体を絡ませる様に密着させ、額をくっつけながら囁き合うイッセーとリアスはそのまま部屋の明かりを消すと同時に重なる。

 

 この瞬間だけは誰にも邪魔はさせないと……。

 




補足

イッセーはリアスの両親の態度に対して違和感を感じてますが、本人は既に見限りだしてしまってます。
ただし、サーゼクスさんとミリキャスくん以外。


その2
生かした理由は、今の立場で下手に殺ると色々と怠いからという理由で、次また余計な事したら死体ごと消え去る可能性もなきにしもあらず。


その3
多分朝までずっとやってました(笑)

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。