色々なIF集   作:超人類DX

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乗せられて調子に乗る悪い癖ががが……


嘘っぱち3弾・献身(悪癖)

 間違いなく歴代でも異質な宿主、それがイッセーという人間で、皮肉にもその異質さがかつて目を付けられた原因だった。

 人から恐れられ、肉親から捨てられ、それでも人間が大好きだと笑いながら俺に言った時の顔は今でも忘れられない。

 

 そして人ならざる存在共に一時的に無理矢理支配された事で抱いた途方もない憎悪も……。

 その憎悪を俺は一度たりとも否定したことは無かったが、それは間違いだったのかもしれない。

 否定をしない事でイッセーは爆発的な速度の進化をし続け、同志はそれに付いていけずに死に別れ、残ったのはイッセーを利用した悪魔の眷属の一人にて、その歪んだ情によりイッセーと同等以上にまで進化してしまった猫の小娘。

 

 だからイッセーは自分を越えてしまった猫又の手で殺される事を選んだのだろう。

 生きる意味を見失い、自然では永久に朽ちない身体へと進化してしまった以上、それを越えた力を持つ者でなければ当時のイッセーは殺せなかった。

 

 それを俺に止める権利なんてありはしない。

 だから俺はイッセーと共に消滅する覚悟を決め、何も語らずわざと猫又の腕に心臓を貫かせたイッセーの最後を見届けながら薄れゆく意識を手放した。

 

 だがイッセーは――そして宿る俺は死ねなかった。

 何があったのかは俺にも分からないが、全く異なる異界へと転送され、今をこうして生きている。

 

 しかも……ある意味更に厄介な連中がそこら辺に居る世界に。

 平行世界とは違う……俺達が生きた世界とは根本的に歴史の成り立ちが異なる妙な世界。

 

 生きる気力を失ってほぼ封じられてしまったイッセーのスキルと、この不思議な転移のお陰か肉体的にも全盛期からかなり力を落としてしまっている今、恐らく探せば俺達を殺せる神は居るのかもしれない。

 

 

「よし、どっちも寝たな?」

 

 

 とある小僧の祖父――ていうか俺もイッセーも気付いた上で敢えて触れなかった命の借りのある一人の神との約束を守るまではイッセーも死ぬ気は無い様だが、俺は思う。

 この世界でどうか生きる意味を掴んで欲しいと……。

 

 

「おいってば、どうしたんだよドライグ?」

 

『いや……何でもない』

 

 

 ベルの小僧の行く先を見届けた後、コイツは死ぬつもりなのだから。

 歴代の中で最も長い付き合いのせいか、情を持ってしまった俺は陽炎の様に燻ったイッセーの心を隣にただ願った。

 

 

 

 

 ベルの祖父の正体は知っている。

 だがしかしイッセーはどうしても手に掛けたくなかった。

 命の借りがあるからというのもあるが、それ以上に一度でもかつての様にしてしまえば関係ないベルを巻き込んでこの世界を破壊してしまうという自分の心への恐れがあるからだ。

 無論、その胸の内を知るのはドライグだけでベルやヘスティアは知らない。

 

 溢れ出る人ならざる者への殺戮衝動を消す事は自分自身にも最早不可能であり、手としては死ぬしかない。

 だがベルの祖父は――ゼウスは言ったのだ。

 

 

『普通じゃないがどうした? ワシにとってお前はハーレム王を語り合える同志よ。

異界の龍帝を宿すだけの、ベルの道標になってくれたな』

 

 

 異界とはいえ、同属を殺しまくった異常な人間で自分に危害を加えるかもしれない男を前にケタケタ笑いながら恐れた様子もなく言いきったベルの祖父にイッセーは何も返せなかった。

 

 

『人生の先輩として是非ともベルにハーレム道を教えてくれぃ! ワシの同志――いや、友よ!』

 

 

 狂った笑顔を向けられる事しか無かったイッセーに向けられた久々の悪意の無い笑みは、命の借り以上の気持ちをイッセーに持たせた。そして惜しんでしまった。

 こんな神が一人でも元の世界に居たら――

 

 

『ワシは暫くしたらこの場所を離れる。

その時は……勝手な事を言ってるのはわかってるが、ベルを頼む』

 

 

 この日からイッセーはベル・クラネルのサポート役を決意する。

 あらゆる災害を蹴散らし、悪意を壊し、もし彼に手を出すなら殺す。

 ベルが立派になるまで……。

 

 

「チッ……あの猫ガキに殺されたせいか、この世界に飛ばされた影響か、力の殆どが落ちてる」

 

『無神臓は全盛期の1%、俺と至った境地は封印状態、せいぜい出来て禁手化くらいだが――今はまだ十分だろ』

 

「……まぁな」

 

 

 見届け、今度こそ死ぬまで。

 自分という災害は存在してはならない。生きてはいけない……。

 ほんの少しの陽炎の様な生きる意味を今だけ持つイッセーは掌にあらゆる存在を壊した力をボールサイズの赤い球体の様な形に具現化させながら、誰も居ない路地裏の様な場所で燻らせるのだった。

 

 

「戻るぞドライグ、何やかんやで今まで掛かってしまった」

 

『日が一周してしまったからな。あの女神と小僧が怒るぞ?』

 

「ヘスティアはどうでも良いが、ベル坊に臍を曲げられるとちょっと困るな……超特急だ」

 

 

 薄暗い路地を抜け、大通りへと入ったイッセーは一日の終わりを示すかの様に沈みかけた太陽と、様々な人種が行き交う通りとを見ながら根城になった廃教会へと帰る。

 

 

「このくらいの時間になるとポン引きみたいなのが出てきて昼間とは違う感じになるな」

 

『折角だから酒でも買って飲んだらどうだ? 小僧の祖父と飲んで以降は手をつけてないだろ?』

 

「楽しく酔えそうもないからな」

 

 

 ダンジョンで稼いだ資金でも使って飲み開かそうと仲間と楽しげに店に入っていく冒険者や、イッセーの言うポン引きみたいな露出多しな格好をした客引きの声をBGMにしながらドライグの提案を断るイッセー。

 見た目はかつて悪魔の束縛から愛した二人によって解放された時の頃から一切変ってない。

 

 勿論酒の味も知ってるが、今のイッセーに酔いたい気分は無いらしい。

 人間の客引き――では無く、最早呪いの類いなのかもしれないレベルで人間以外を惹き付けてしまう裏特性の様なもので純人間では無い客引きに何度も声を掛けられる。

 

 

「そこの俯き気味のお兄さん♪ お兄さんを見てるとキュンとしちゃったから是非ウチで――」

 

「失せな、その尖った耳を引きちぎられたくなければな」

 

 

 悪魔、そしてあの忌々しい猫――白音が魅入られた様に、本人は否定したい他種族を惹き付けてしまう特性に舌打ちしながら客引きに殺気を向けて黙らせながらさっさとこの歓楽街みたいなエリアを抜けようと歩みのスピードを上げたその時だった。

 

 

『おいイッセー、小僧が向こうに居る』

 

「は? …………マジだ。けど何で?」

 

 

 斜め下を向きながら歩いてたせいで先にドライグが気付いたベルの姿にイッセーは足を止めて何やら挙動不審の様に辺りを見回すベルを見てると、ベルも気付いたのか、朝起きたら今の今まで居なかったのをやっと見つけたという安堵の表情と若干の怒りの籠った表情を浮かべながら走ってきた。

 

 

「イッセー! 何処に行ってたの!? 僕もヘスティア様も心配したんだから!」

 

 

 普段は滅多に怒らないベルが怒りながらイッセーの手を取る。

 基本的にベルはイッセーを慕う。だからこそその感情を100%に近い状態で向ける訳で、この怒りもイッセーを慕うからこそだ。

 

 

「あ、あぁ……ちょっと力の具合を確かめてて。ほら、俺まだ登録できないから」

 

「だったら一言言ってよ! お祖父ちゃんみたいに居なくなったと僕は……」

 

「わ、悪かった悪かった! な、泣くなよ……」

 

 

 ベルの祖父の失踪がトラウマであるせいか、最後の拠り所でもあるイッセーまで居なくなったらと目に涙を貯めるベルに慌てて謝るイッセー

 どうも自分はベルに甘くなってるらしいと、そう遠くない別れの前には何とか激しい反抗期にさせてやろうと軽く心で誓いつつ、話逸らしの為に何故此処に居たのかを問う。

 

 

「豊饒の女主人って名前なんだけど、イッセーは知らない?」

 

 

 どうやらベルの話を聞いてみると、その店に用があり、詳しく聞いてみると色々あってそこの店員だかに親切にして貰ったからどうのこうの――らしい。

 しかしながらその過程――というのかは不明だが、ヘスティアと軽く喧嘩を……いや、拗ねられたらしい。

 

 

「イマイチわかんねーな……。しょうがない、取り敢えずここで待ってろ、神サマから話を代わりに聞いてきてやるから」

 

「う、うん……」

 

 

 理由がワケわからないので、取り敢えずヘスティアから直接聞こうとベルをこの場に待機させて人の波を縫う様にして走り出すイッセー。

 

 

「居た、オイコラ」

 

 

 気配の感覚は既に覚えていたので直ぐにでもヘスティアは発見出来た。

 街から離れた侘しい丘の様な所でポツンと座っていたヘスティアに対して無神経気味に声を掛け――

 

 

「………………。え、マジでどうした?」

 

 

 街を見下ろしていたヘスティアが此方を向き、赤く腫らした目を見てイッセーはほんの少しだけふざけた感じじゃない事を悟る。

 

 

「昨日の夜中から今まで一人でどこ行ってたの?」

 

「今在る力の感覚を確かめてただけだ。

んな事よりお前こそどうした? ベル坊に会って話聞いたが、拗ねたとか何とか……」

 

 

 別に気を使うつもりなんて無かったが、シリアスなオーラを醸し出してるので取り敢えず聞く体になるイッセーにヘスティアは体育座りしながら鼻を啜る。

 

 

「ベル君にレアスキルが発現したんだ。

そのスキルはほらベル君が一目惚れした剣士が理由で発現してね……効果は想えば想うほど――つまり惚れるだけ強くなるんだ」

 

「へー? ……………無神臓に似て非なるものだな。

だけど別に良いじゃねぇか、寧ろベル坊の成長に大いに役立つんだぞ?」

 

「……。わかってるよ、だからこそ僕は嫉妬しちゃったんだよ。

僕が導けず、他所の眷属によって目覚めただなんて……」

 

 

 灯りで輝くオラリオを見下ろしながらポツリポツリと、要するに嫉妬からきた感情だった事を明かすヘスティアにイッセーは、それこそベルのレアスキルばりなレア行動である『話を聞いている』を発動し、体育座りしてるヘスティアの隣に座る。

 

 

「僕ね、二人が来るまで独りでね。

やっと出来た家族なせいか、どうも執着心が強いみたい。だからロキの眷属のお陰でベル君が強くなったのを知った時、つい……」

 

「わからんでもないな。

確かにムカつく相手の下僕のおかげで自分が大事にしてる奴が強くなったってのは、軽く取られた気分にはなる」

 

 

 尤も、俺の場合はその相手を本当に――

 と、微妙に似た経験のあるイッセーはヘスティアに同意する様に頷きつつ、意外そうな顔をしてこっちを見てる彼女に言う。

 

 

「が、あんまりそういう事が多いと本当に嫌われるぜ?

確かに気に入らないのはわかるけど、束縛して嫌気を持たれたらそれこそ本末転倒だろ? ………俺はそれに気付くのが遅すぎてね。気づいたらぜーんぶ無くしたよ。―――ドライグ以外の全てをな」

 

 

 左腕に呼び出した相棒の籠手を撫でながらイッセーは苦い過去を語る。

 復讐の進化、愛した者達との永遠のための進化――その行きつく先は喪失。

 ドライグという親友が居るだけまだマシなのだろうが、それでも失った事で確実に自分の精神は弱体化した。

 

 

「ここに失敗した負け犬っていう丁度良いサンプルが居るんだ。

反面教師にでもしてみろよ?」

 

「…………」

 

 

 別にヘスティアの為に言ったつもりは無い。

 彼女は人間じゃないし、優しくしたつもりも自覚も無い。

 しかしベルが世話になってるのであるなら、ゼウスの時の様に――

 

 

「はぁ……何で俺がお前なんぞフォローしないといけないんだか」

 

「なっ!? ちょ、ちょっとは見直したのに!」

 

「30代後半から50までの淑女に見直されるならまだしも、お前みたいなちんちくりんにどう思われ様が知らんね」

 

 

 兵藤一誠という本質は現れる。

 センチな空気を一瞬でぶち壊してヘラヘラ笑ったイッセーにヘスティアはそれまでの気持ちを忘れて怒り出す。

 

 

「おら、こんな所でセンチになってないでとっととベル坊と合流でもして仲直りしろアホ」

 

「う、うっさいな! 言われなくてもわかってるよ!! 大体キミは―――ぅ!?」

 

 

 そんなヘスティアの頭に手を置き、驚く彼女に笑う。

 自覚も無いし否定するけど、ドライグだけが知る一誠の本質。

 

 

「行くぞヘスティア。お前探してたら腹減っちまったよ。俺の貯金でベル坊と合流してたらふく食い散らかそうぜ? な?」

 

「ぅ……うん……今僕の名前……。

それに手……」

 

「は? ………げっ!? 何やってんだ俺」

 

 

 懐に入れた相手に対し、その命を以て守り通す。

 それが一誠という男であり、例えるならそう――

 

 

『献身一途』

 

 自分が認めたその者を引き上げる。

 例えそれが神であろうと次の領域へと引き上げ、その者の為ならという意思の強さに比例した『奇跡』を呼び寄せる。

 

 

 この世界で目覚め始めたスキルなのかもしれない。

 無意識にヘスティアの頭を撫でた事に気付き、近くにあった岩に掌を擦り付けてる今はまだまだ使えそうも無いが。

 

 

「ありがとう……」

 

「ア? 別にお前の為じゃねーし。やめてくれ、礼とか言われるとめっちゃ鳥肌立つわ」

 

「……………。イッセー君の性格が何となくわかってきたかも僕。

それにしてもイタタタ……ずっと体勢変えないで座ってたから足が痺れちゃった……」

 

「はぁ? …………はぁ、ベル坊待たせる訳にはいかないし、あーもうしょうがねぇ! オラ!」

 

「え、なに?」

 

「乗れって意味だよ。早くしろ、でないと置いていくぞ」

 

 

 足が痺れて立てないヘスティアにため息を漏らしながら渋々と背を向けてしゃがみ、おんぶをしてやると言い出す辺り、そう遠くないのかもしれない。

 

 

「こんなの後にも先にも一回きりだぜ、ったく!」

 

「………」

 

 

終わり

 

 

 

 一度でも懐に入れれば云々は端から聞けば良いのかもしれない。

 が、それは同時にイッセーの抱える悪癖でもある。

 

 

「ねぇねぇ、僕思うんだけど……」

 

「は? どうしたベル坊? 例の惚れた女に突撃する算段か?」

 

 

 取り敢えず仲直りしてから約一週間。

 あのやり取り以降、ベルは気付いた。

 

 

「イタタタ、転んで膝が……」

 

「あ!? テメーはホント間抜けだな! チィ! 治療道具はどこじゃあ!!」

 

 

 イッセーってもしかして割りと認めた相手にだけは物凄く甘やかしてしまうのでは……自分含めてと。

 起きて早々と転んで膝を怪我したヘスティアを見るなり治療道具を引っ張り出してあれこれと過剰に手当てする姿をみながら、そういえば自分もこんな事を毎回されていたと客観的に見て初めて気付いたベルはそんな過保護にしなくてもと言うが……。

 

 

「おいおいベル坊よ、俺がこんなのに気を割くと思うか? ありえねぇありえねぇ―――よし、こんなもんか? ――ってちょっと待て、その手は何だ?」

 

「え? あ、これ昨日酔っぱらった人にお尻触られてビックリしてビンタした時に多分咄嗟に反撃された時の――」

 

「はぁ!? おい何処でだ!? いや言わなくて良いクソが、そこら界隈を粉々にしてやらぁ!! ドライグ! 禁手化じゃあ!」

 

『そんな事で力を貸すわけないだろ』

 

「そ、そうだよ! そんな大袈裟な……」

 

「クソが、意味無くイライラしやがる……!!」

 

 

 

「……。もっとしっかりしてイッセーに心配されないようにならないと」

 

 

 あれだけぞんざいに扱ってたヘスティアに対して異様に甘やかすイッセーを見てベルきゅんは密かな精神成長の兆しをみせるのだった。

 

 

「バイトに行くんだろ? おら乗れ。ベル坊も」

 

「あ、うん……ありがとう」

 

「わ、わざわざおんぶして送るって変じゃない?」

 

「駄目だ。不安だ」

 

『今までの反動がでかすぎてアホになってる……』

 

 

終了




補足

孤独感度合いがどこぞの駄女神さんルートより激しいせいか、コミュニケーションに餓えてるせいか、甘やかし度が半端無くなる。


その2
全盛期と比べたらネオ白音たんと最終決戦した時点で笑えないレベルで落ちてました。
とはいえ、爆弾なのには変わりありませんが。

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