少しおまけを追加
リアスと堕天使の話しは事の他早く終わった。
というのも堕天使の方が街から消えるとリアスに言ったからだ。
「計画は全部おじゃんよ。
本当はアーシアの持つ神器を抜き取って私が使おうと思ってたんだけど、この領地の主や赤龍帝にバレてしまってはどうしようも出来ないわ。
だからおとなしく消えてやる……一応これでも馬鹿じゃ無いつもりよ」
「神器を抜き取るのは貴女達のボス……アザゼルの命令なの?」
「まさか……アザゼル様は私達みたいな下部も下部な存在の事まで把握して無いわ。
全て自分達の独断。こうすれば少しは認識してくれるのかと思っただけよ。大失敗したけどね」
「レイナーレ様……」
「ふん、自分を殺そうとした相手にそんな顔をしないでアーシア。
もう様付けも必要ないし信じないでしょうが、貴女の言ってた人殺しをしたあの神父は勝手に動いて好き勝手やらかしてからどっか行ったわよ」
そう言いながら、結局最後まで罰の悪そうな顔をしている堕天使に何とも言えない表情を見せるアーシアと呼ばれたシスターとリアス。
そんな彼女達のやり取りを見てる最中、俺は俺で別件作業を行おうか否かを迷っていた。
「兄貴の精神が不安定になったのは俺の存在のせいなのか?」
「気に病む理由はイッセーくんには無いよ。
元々この兵藤誠八というのは存在しない筈の……謂わば僕とは別ベクトルのイレギュラーみたいなものでね。
本来ならイッセーくんが赤龍帝でリアス・グレモリーの眷属になるのを、彼が取ったのさ」
今起きられると実にややこしい事態になってしまうので、なじみのスキルで兄貴の肉体と意識とをスッパリ切り離したお陰で起きる心配を消した。
故に事が終わるまで起きることは無くなった兄貴の寝ている姿を二人して見下ろしながら、どうするかを考える。
このまま起きたら、まずあのシスターとレイナーレと呼ばれた堕天使……そして俺と俺とツルるんでしまってるリアスに下手すれば襲い掛かって来る可能性がある。
いや、こちとらそうなれば全力で抵抗するし、なじみも居るから何とでもなるだろうが…………困ったな。
「俺が赤龍帝……ねぇ?」
「想像できないかい?」
「まぁな。神をも殺せる神器を持ってヒャッハーする姿なぞ想像できん。
結局俺は、自ら覚えて磨きあげる作業しか出来ん男だからな」
所持者の力を時間経過と共に倍加させるという力はある意味俺が手にし、なじみに名を貰った
俺は結局自分を虐めぬいて得られる結果に快感を覚える変態属性持ちなだけだからな。
「取り敢えずに激情してた所の記憶を消しておくよ。
起きていきなりの修羅場は見たくねーからな」
「…………」
気を失ってる兄貴の頭に手を翳しているなじみの言葉に、俺は『あぁ、すまん』としか言えなかった。
兄貴には悪いが、こうでもしないとまた暴走してしまうのは目に見えている。
…………。なんて建前を無理矢理捻り出してるが、本音の俺は…………ああ、やはりなじみの言うような
俺はまだ12年前のあの日を引きずりっぱなしだ。
「で、貴様等は結局どうする?」
意識を失いっぱなしの兄貴を取り敢えず実家に連れて行ってから戻ってきた俺は、大体の話が纏まって来たリアス達の話に加わり、金髪のシスターと女堕天使の今後を問う。
「目的も無くなったし、適当に生きて飽きたらのたれ死ぬわ」
「私は……」
案外ケロッとしてる女堕天使とは真逆に、シスターの方は行き場を失ったままと言った顔付きだった。
「元々私は悪魔を治療してしまい、教会から追い出されてしまった身ですので、帰る場所が……」
「治療? ああ、神器とやらでか?」
「……はい」
信仰心なんて皆無な俺には神がどうたらこうたらはよくは分からない。
しかし、悪魔を治療してしまうと教会から追い出されてしまうという事だけは今日学習できた……なんてのは今はどうでも良く、どうやらシスターは堕天使と同じく行く宛が無いらしい。
「良いわよねぇ……
俯くシスターと、その横で口を3の形にしながらブツブツ言ってる女堕天使。
神器って物理的に引っこ抜けるもんなのか?
「人間に宿り命とも言える
ホント、事前に阻止できて良かったわ」
と、ブツブツ言ってる女堕天使の言葉が聞こえたのか、ビクッと身体を震わせるシスターを庇うように、リアスが鋭い視線を送ると、女堕天使は観念した様に両手を上げて黙る。
偶然でも阻止できたのは真面目によかったと内心ホッとするが……うむ。
「なじみの
俺はシスターの持つ神器の効力から、なじみの持つスキルの中一京分の一……五本の病爪を思い出す。
五本の爪がニョキニョキ伸びる様は見ててグロいが、効力はガチで危険でもあり使い方によっては人助けにもなるスキルだったりするが、横で俺に奢らせたホットレモンを飲んでホンワカしてるなじみはと言えば、苦笑いしてた。
「おいおい、確かに僕の持つ1京分の1のスキル、
「それもまた使い方によってだろ。少なくとも俺は
何度もそのスキルに……なじみに助けられたし」
そもそも異常も過負荷も見方によったらどっちにもなるだろ。
だから俺はプラスだのマイナスだのと拘った事は無い。
前に聞かせれた
スキルがどうだからプラスだのマイナスだのでは無く、要は使い手の
スキルはそれを象徴させるだけの、謂わば副産物でしかない……なんて俺は勝手にそう思ってる。
まあ、殺人衝動は…………俺にもわからんが。
「……。あの、さっきから二人は何を言ってるのかしら? 国一つを壊すとか……」
おっと、ついつい神器を見てしまったせいで話が逸れてしまった。
リアス……それにシスターと女堕天使がキョトンとしてるぜ。
「あ、済まん。いや、神器というのはどうも俺達の謂うスキルにやっぱり似てるなぁと……」
「スキル?」
「何よそれ? 今言ってた……ふぁ、ファイブなんとかってのがそうな訳?」
「………?」
リアス、女堕天使、シスターの順に首を傾げるのは見ててちょっと面白い。
其々立場が違うのにやってる事が一緒だからなのか……。
「スキルってのは……………まあ、シスターの持つ神器みたいなものとちょっと似てるものだよ。簡単に言えばな」
「私の力と……ですか?」
「その口振りだとイッセー……二人ともそのスキルというのを持ってるのね?」
「え、まぁ……一応」
本当に一応な……と横目で笑ってるなじみを見ながら肯定する。
俺のは平和な日本在住であるが故にあんまり重宝しないスキルだしな、あんま自慢できるもんじゃねぇ。
「何が一応だよ。その気になれば何だって吸収して無限成長させるスキルなのにねー」
ねーって言われても、まるで説得力が無いんだよ。
「7932兆1354億4152万3222個の異常性と、4925兆9165億2611万643個の過負荷。
合わせて1京2858兆519億6763万3865個って意味のわからん数のスキルを持ってるお前に言われてもな……」
「「「……」」」
スキルを覚醒させたあの日に教えられたなじみの人外と言わしめる根拠の一つ。
そらお前……悪魔だの堕天使だのその他だのの存在を知らされても動揺しないよ。
だってそれ以上に人外だもんよ、この安心院なじみは。
ほれ見ろ、リアス達もポカンだぜ。
「い、1け……えぇ……?」
「そんな反応になるよな。大丈夫だ、俺もそうだった。
まあでもわかったろ? 俺の師匠が師匠な理由をよ。
ほぼ何でも可能なんだよこの女は」
いきなし神器と似たり寄ったり力ですよと前振りしてからの、算数の時ですら出てこない桁数のスキルを持ってますぜこの女は……とか言われりゃあ誰でもそうなるわ。
ポカーンとせざる負えない顔をするリアスの肩をポンと叩きながら俺もだ俺もだと、同じ反応をしてくれたまえ仲間に出会えた気分に浸ってると、同じくポカンとしてた女堕天使とシスター……特にシスターが絶望の表情から一変して希望を得たような顔で『やれやれだね……』と首を横に振ってるなじみの足下まで近付き、何でか知らないけど膝付いた。
「か、神様……!」
「はい?」
珍しく目を丸くするなじみはレアだった……じゃねぇよ。
何を勘違いしてんだよこのシスターは?
「私の力も神様が与えてくださったのですね!」
「いや、話聞いてた? 僕と神器は関係が一切無いっての。
第一、スキルの貸し出しはもうやってないし」
「それでも……!」
「でももヘチマも無いよ。僕をあんな程度で自爆死するような輩と一緒にしないでくれ。
僕は単なる平等主義ーーーーじゃあ最近無くなっただけの人外なんだからな」
めんどくさそうに対処するなじみと、どうにも話を聞いてなさそうなシスター。
さっきまでの空気は一体何処へである。
「1京って……」
「世の中ってのは広いんだよ、狭いようでな。
さて……」
受け入れがたいぜって顔のリアスはちょっと置いて、俺はどうしたら良いのかわからんって顔をしていた女堕天使に顔を向ける。
「なによ? 訳の分からない連中なのはわかったけど、だからと言ってヘーコラとするつもりは無いわよ?」
「フッ、それだけ言えるなら充分だぞ堕天使よ」
「チッ、偉そうに……」
キッと睨み付けてくる女堕天使の悪態。
まあ、人間に偉そうにされるのは腹立つ話なのだろう、彼女達にとってはな。
だから怒りはしない……しないが。
「教えといてやるよ堕天使。
余り人間を見くびらない方が良いぞ? 貴様が今までどんな人間を見てきたのかは知らんがな」
「ふん、どいつもこいつも弱い癖に数だけは多い連中を? ふざけないで!」
……。ま、そんな反応だろうね。
人間に人間を見くびるなとか言われても嘗められてるとしか思えんのはしょうがない。
「只の忠告だ……忘れても構わん」
「チッ……」
「が、これだけはちゃんとして貰う」
「なにを……!」
苛々した顔と唸るような声を向けてくる堕天使の殺気を受け流す俺は、彼女の目的を聞いた時から決めていた締めをさせる為、懐から取り出していた畳んだ扇子の先を向けて、ハッキリと言った。
「お前、未遂とはいえあのシスターを死なせようとした事に対して『ごめんなさい』をしてないよな? すべきだとは思わんか?」
「……………………は?」
つまり、そういうことだ。
円滑な解決に最も必要なのはこれだ。
悪いことをしたらごめんなさい……普通の事だし俺もやる。
言われて最初はポカンとしていた堕天使が段々と怒りの形相を浮かべ始めているから察するに、ふざけるなと言いたいのは分かる。
わかるが……。
「ふ、ふざけるな! 何でわた――「貴様も幼少の頃は純粋に悪いことをして怒られたら謝っていた筈だ」
「んなわけな――「それが何かが切っ掛けで挫折し、性格が少し卑屈となってしまったせいで素直になれず」
「ちが――「そのまますくすくと育って現在に至ってしまったに違いない」
「は、話を……「だから言ってやる。思い出させてやる。分からせてやる」
人間とこうして話が出来ると分かった以上、話が通じてくれるなら教えるしかないのだよ。
「治してやる。修正してやる。改造してやる。正してやる。
俺が教えられた経験を元に、俺なりのやり方で貴様に分からせてやるよ……」
「な、何なんのよアンタ!」
何なの? フッ……最初に言っただろう?
俺は……。
「駒王学園生徒会長、兵藤一誠だ!!
覚悟しろよ堕天使レイナーレ! 今日を境に貴様を素直な女の子にしてやる!!」
依頼外の話だが、俺の中で決めてしまった事に対して覆りは無い。
今一度の自己紹介で面を食らって固まる堕天使の首をしっかり掴む。
「な、離せ! 薄汚い人間ごときが私に触れるなど……くぅ!(な、何なのよこの男……人間の癖に私が振りほどけない……!?)」
「良いぞ、活きの良い奴ほど教え甲斐があるってもんだなフハハハ!
リアス、なじみぃ!!」
「な、なに?」
「なんだい?」
「安心院さん……安心院さん……!」
ジタバタと暴れる堕天使を抑えながら、先程辺りからオロオロし始めていたリアスと、ビックリするくらいの短時間で金髪のシスターに懐かれているなじみにちょっとテンションが上がってる状態で、今からこの堕天使に分かって貰う為に頑張るという主の説明をする。
「明日にはそこのシスターにちゃんとごめんなさい出来るように今から頑張ってくる」
「離せ! 離しなさい!!」
「え……あ、はい」
「また? 好きだねぇそういうの。
そうしたいなら僕は何にも言わんさ……ま、精々がんばれ。僕は先に帰る」
言付け完了。
ふ、ふふ……さて、頑張りますかぁ!
今日は色々と知り過ぎたせいで心の整理が追い付かないわ……。
「さーて僕はこの辺で……」
「あの、私はどうすれば良いのでしょうか
「あー……うーん……グレモリーさんの家に泊めて貰うとかどうかな?」
「………」
スキル……
イッセーとこの安心院なじみという女は確かにそう言っていた。
「何で私がなのよ、アナタが引き取れば良いでしょう?
私は悪魔だし、その子に信用されて無いだろうし……」
このアーシアって子が安心院なじみに懐いてるのは誰が見ても明らかだし、彼女も悪魔な私と一緒なんて嫌だろう。
ほら、アーシアって子が貴女に対して捨てられた仔犬みたいな顔を向けてるわよ?
「引き取るってもねぇ……別に良いっちゃ良いんだけどさ……。
今日はイッセーくんの家に寝泊まりする予定なんだよね」
「……。なんですって?」
それが当たり前だといった口調の安心院なじみに、私の頬はヒクヒクと痙攣する。
イッセーは今、あの堕天使を引っ張ってどっか行ってしまったので家には帰ってない筈。
にも関わらずこの女はヘラヘラしながらイッセーの家に寝泊まりすると宣ってる。
どうにも最近イッセーが気になってしょうがない私は、どうしてか苛々してしまう。
「家主の許可なしに上がり込むのかしら、貴女は?」
「うん、そうだよ? というか、イッセーくんと僕って一々許可を得てから何かをする関係じゃねーもん」
「…………」
関係じゃねーもん……関係じゃねーもん……。
へぇ……へぇ……?
「なんだい、キミには兵藤誠八くんが居るじゃないか。
ほら、あの赤龍帝の」
「………。セーヤは眷属よ。見た時から精神的に不安定、そして自分を赤龍帝と自称してたという事を考えて危険と判断したから監視を目的に転生させただけよ……それだけ」
セーヤはそう……そうなのよ。
特別な感情は無い。
眷属である以上、大切なのは変わり無いが……それ以上の感情は無い。
「セーヤさん……ですか」
アーシアって子も恐らくそうだったのだろう。
まさかセーヤの精神が不安定で、激情型だったと知った時の恐怖とショックは本来計り知れないと私は思ってる。
まあ、イッセーとこの女が何とかしてくれたから今回は事なきを得たが……。
「報われねぇな……あの赤龍帝くんは。
ま……似非でしかない存在が、折れずに居た本来の存在に勝てる事は決して無かった……少年ジ〇ンプによくありそうな話だぜ……。
はは、しかたねーな……キミ等も来る? イッセーくんの家に」
「あ、安心院さん! 良いんですか!?」
「うん、昔ならほったらかしにしてたんだが……ククッ、どうやらイッセーくんを育てる内に変な影響を受けちまったみてーだぜ」
「や、やったー!」
喜び、そして安心院なじみに抱きついてるアーシアって子を横目に私はどうすべきか考える。
気になるといえば気になるのだ、イッセーがどんな生活を……プライベートを送っているのか。
年相応な部屋なのか……………なんて思ってみたけど、彼って色仕掛けの類いがあんまり通用しなさそうかもしれない……。
多分この女が原因――
「おっと、帰りに女師匠にイロイロ教えられるってシチュの師弟物のエロ本を買って枕元に仕込んどくか……。
そろそろ師として大人の階段を登らせないといけないだろうしー」
「行くわ。暇だもの……ええ、行ってやるわ!」
うん行こう。
そんな限定的な性癖なんてナンセンスよ。
ここは……うん、王道に先輩にイロイロ教えて貰う後輩ってシチュの方がまだ健全よ。
「ふーん? 行くんだ? へー?」
「な、何よ? アナタがイッセーに余計な性癖を埋め込まない為に行くのよ私は。友達としてね」
「ほーん? へー? 男の子の性癖まで心配してくれるとは、なんて友達想いなんだキミは。彼の師として嬉しい限りだぜ」
そう……うん。友達として、健全な性癖を持って貰う為に、この女の仕込みとやらを全部消し飛ばすだけよ!
決して先輩系のエッチな本をどさくさに紛れて仕込むとか考えてないわ!!
補足
ちなみに、イッセーくんはああ言ってましたが、割りと敵を好んでしまう傾向があるのかもしれないし、そうでもないかもしれない。
ちなみに彼の性癖は…………です。
つまり、迫られればビックリしたり顔を逸らすくらいはします。