うーん……何で修羅場っぽくなるかなぁ。
美少女大好き校長のお蔭で上手いこと転校という形で学校に通えてしまうことになったララ。
当然ながらその事自体にリトは快く思ってないのだが、今更うだうだ言おうが覆る訳もなく、仕方なく猿山に手伝って貰う形で空き教室から椅子と机を持ち出し、リトと猿山と同じクラスへと連れ込んだ。
「おい来たぞ」
「やっぱり本当だったんだ……」
既にララの顔は学校中に知れ渡っており、リトと猿山が机と椅子を運ぶ後ろをちょこちょこと着いてきたララを見たクラスメート達がヒソヒソと話している。
「どこにするよリト? 窓際か?」
「俺に聞かないで彼女に聞いたらどうだ?」
「それもそうか……ええっと、ララちゃんはどこに座りたい?」
「……………リトの隣」
しかし元から他人の目を気にしないタイプのリトと猿山とララはそんなクラスメート達の半分困惑した視線を物ともせずララの座る場所を決めており、クラスで一番スケベな猿山とクラスで一番死んだ目をしているリトの二人は机と椅子を設置する。
「俺の隣は無理だな。おい猿山、お前隣になってやれよ?」
「マジで良いの!? …………と、言いたいけどそれは流石に悪いからやめるわ」
「は? お前的に美少女なんだから役得なんじゃねーの?」
「いやぁ、そりゃフリーの美少女なら役得だけどさぁ。
なんつーかリトって中学の頃から所々辛辣だよなぁ。
お前の席なんか窓際から数えて二列目だし隣居ないんだから良いじゃん」
リトの隣が良いと言うララの希望を歯牙にもかけず一蹴する言い方に、思春期爆発な猿山はリトの後ろで目に見えて落ち込むララを見て普段のドスケベさが嘘の様に気を遣う発言をする。
美少女は大好きだが、どう見ても他に好いてる相手がいる美少女相手に粗相を働こうとは思えないのだ。
「チッ……」
「あ、私別にリトが嫌なら……」
「へいへい気にするなってララちゃん、リトは昔からこんなんだからな。本当に嫌ならもっと強めに拒否るし、大丈夫大丈夫」
リトの態度を見てこれ以上無理言ったらまずいと察して隣じゃなくても良いと言おうとしたララに猿山がリトの背中を叩きながら大丈夫だとフォロー。
本来なら他の男子達と共にリトに冗談めいた嫉妬を発動させる筈なのだが、ララとリトを――比率的にリトの方を多く困惑気味に見ている西蓮寺春菜の事もあってか、気遣いできるところは出来る男になっていたのだ。
「はぁ……あの校長め。
なんでもかんでも受け入れやがって。少しは疑えってんだ」
「お願いしたら『可愛いからオーケー!』って言われたよ」
「あっそ、良かったね」
春菜から不安そうな眼差しをもらってる事なぞ全く気付かず頬杖付きながらララの話に悪態をつくリトは、この世界ではまず不必要だと思っていたのに持たされた、リト―――というよりイッセーとしての認識ではかなり型の古い二つ折の携帯を使って美柑にメールを打ってララの顛末についてを送っておく。
(アザゼルさん印の超高性能端末に慣れきってたせいで、この二つ折の携帯の使いづらさよ)
嘗ての同志の一人が用意して渡されていた携帯端末とのスペック差に辟易しながらも無事メール送信を完了させたリトはそのまま携帯を畳んでポケットにねじ込む。
その間ずっと春菜やララにじーっと挟まれる様に見られていたのだが、本人はやはり気付く事なくめんどくさそうに姿勢悪く座るのだった。
「おはようございます」
そうこうしている内にチャイムが鳴り、何時あの世に召されても不思議ではない担任がやってくる。
「えー……突然ですが転校生を紹介します。
と言っても、もう既にそこに座っておりますが……」
担任の視線辿るまでも無くその転校生が誰なのかは生徒達はわかっており、一斉にララへと注目される。
「ララ・サタリン・デビルークさんです。みんな仲良くするように」
(サタリン・デビルーク……ね)
『リアスやサーゼクスやミリキャスの種族である悪魔とは近いようで異なる様だな』
サタリン・デビルークというネームにリトは内心皮肉っぽく笑いながら、注目されていたララが笑顔を振り撒きながら『よろしくね』と挨拶し、それによって沸き立つ生徒達のハシャギ様を聞き流す……鬱陶しそうに。
「よっ、よろしく!」
「ラっ、ララちゃんって呼んでいい?」
「お、俺モブ田って言うんだ!」
「どこに住んでんの?」
「カワイイね〜ララちゃん」
案の定1限目の授業が終わるや否や、クラスの生徒達はこぞってララのもとへと集まり、あらゆる質問をぶつけている。
その隣に嫌々居るリトはその時点で鬱陶しくなり、猿山の席へと避難している。
「チィ、出遅れたぜ」
「だから隣の席は嫌だったんだ」
「まぁでもしゃーねーだろ、あれだけの美少女だぜ? 注目されない訳がない」
リトに関して以外は何時ものララであり、皆からのがっつく様な質問に対してもイヤな顔せず答えていくのを見ながらリトの心底本音だろう悪態に苦笑いする。
「あ、あの……!」
そんなララの様子を遠巻きに眺めていた時だった、2時限目って何だったっけ? という会話をしていた二人に向かって緊張した声色で話しかけてくる者が一人。
「あ?」
「っ!?」
ララの事があって多少かったるくなっていたリトは何時にも増して悪い目付きを眠たそうにさせながら振り向くと、緊張した声で話しかけてきた女子――西蓮寺春菜はビクッと身体を震わせた。
「どうしたんだ西蓮寺?」
「え、えっと、結城君今日が日直初めてだと思ったから説明とか要らないかなって……」
リトの対応を見て即座に色々察知した猿山が自然な感じでフォローに入ろうと春菜に話しかける。
眠たそうな半目になってるリトの後ろからウィンクする猿山にホッとした春菜は緊張したまま当直になっている事を話すと、リトは『あー……』と自分が日直になっている事を思い出し、忘れていた事を取り敢えず謝った。
「あー……ごめんごめん、朝猿山に言われたばっかなのに忘れていたわ。
えーっと、日直ってなにすんだ?」
中学の頃から一応クラスメートだったものの、この他人を寄せ付けない態度のせいで碌に話せなかった春菜は、かなり久々に成立した会話に内心かなり歓喜しながらリトの質問に答える。
「学級日誌とか書いたり、授業毎に黒板の文字を消したり……」
「日誌なんて書くのか……。
まぁ、後でそこら辺は教えて貰うにして、取り敢えず黒板の字でも消すか」
そんな少女の淡い想いなんて知りもしないリトはといえば、先程まで使われてチョークで汚れている黒板へとのっそりした足取りで向かい、黒板消しを使って消し始める。
「あ、私も手伝うよ結城君!」
同じ日に日直になったこのチャンスは逃がしてはいけない……と、春菜もこっそりフォローしてくれた猿山に軽く頭を下げて礼をしながらリトを手伝う。
二人並んで黒板消しで消していくその姿を見て猿山は一人満足そうにうんうんと頷き、やはり言葉では言い表せないが、リトの中にある『ナニか』に惹かれた者同士というのもあって、春菜の背では届かない場所をリトが消してあげたりという光景は良いものだと思っている。
「アレ無いの? 黒板消しについた粉吸い取る機械」
「あったんだけど昨日壊れちゃったみたいで……」
「て事はあれか、昔ながらのパンパン作業か。
じゃあ良いや、キミ――じゃあなくて西蓮寺さんは此処まで良いよ。後の作業俺がやるから」
「え、でも……」
「良いって良いって、こんなん一人で出来るし、キミの制服汚れんだろ?」
「えっと、それじゃあ……あ、ありがとう……」
後の作業は一人でやるというリトに、本当はもう少し手伝うのを装って話とか――特に然り気無くララの事について聞きたかった春菜はちょっと名残惜しそうに黒板消しをリトに渡す。
「ぁ……」
渡した際、その拍子でリトと手が触れあって一瞬固まったりもした。
しかしまるで気にしてないリトは二つの黒板消しを持って、開けた窓の外に腕を出して叩き出していたのでこの動揺に気付かれる事が無くホッとするのと同時にちょっと残念に思いつつ、接触した箇所に触れながらジーッとその背中を見つめるのだった。
「………………」
ララがその様子を質問責めしてくる生徒達に答えながらじーっと見てる事に気付かず。
「す、好きな人とか、いるの……?」
「好きな人はー……うん、居るよ?」
この質問の答えでまたしても教室が大騒ぎになったりしだが、ララの視線は『直感』で察知した春菜に向けられていた。
西蓮寺春菜にとって、結城リトは恐らく好きだと思える相手だ。
その出会いは中学生の頃にまで遡る。
当時から春菜は真面目な少女であり、クラスでもそれほど目立つ様なタイプではなかった。
いや、どちらかと云えば周りに合わせることがとても上手な平和的な少女というべきなのか……。
何か……何かが他の人とは違うという自覚があり、それを表に出したらどうなるかを本能的に察知していたからこそ、うまくそれを隠していたのだ。
そんな時にクラスメートとして出会った少年・結城リトは真面目一辺倒な春菜に衝撃を与えた。
出で立ち、雰囲気は春菜としても親しくなれそうにないタイプ。
だがその中身はどこか……何故か同じと感じたのだ。
性別はおろか性格までまるで違う、ただのクラスメートである筈の男子にだ。
そしてその勘は大当たりだった。
ある日の事だ、何時もの様に学校を終え、帰宅している時、たまには違うルートから帰ってみようという春菜らしくない冒険心により、遠回りとなる道を歩いていた。
そのルートは途中大きめの公園を経て小さな神社の中を突っ切る訳だが、その公園と一体化している神社の中を通った時、春菜は見たのだ。
『Boost!!』
「チッ、実戦の勘だけ錆びついてしまう……」
普段からお世辞にも人通りの良くない木々に囲まれて少し薄暗い公園のど真ん中に立つ一人の男。
それが結城リトである事は普段から何かを感じて自然と目で追っていた春菜にはすぐにわかり、咄嗟に物陰に隠れて一人ブツブツ良いながら、空を切り裂く様なパンチや蹴りを演舞の様に繰り出すその姿に目を奪われた。
暴力的な事は嫌いな春菜だったが、リトの動きは野生的ながらもどこか堂に入っていて、更に云えば彼の左腕全体を覆う様につけられている赤い鎧の籠手のようなものにも目を奪われた。
「…………」
多分今にして思えば自分がコソコソしながら見ていた事はバレていたのだろうと思う。
確証はないがリトの放つ形容し難い凄味はそう思ってしまうだけの説得力があった。
けどそのまま逃げる事はできなかった。
その動き、その雰囲気……そして見た瞬間直感で同じと感じた――
「!」
その性質を。
限りなく膨張し続ける宇宙を思わせる様な圧倒的なナニか。
自分の中にある形容し難いナニに近いけど、更に深くて強大な、普通の人間にはない特質めいたもの。
あの赤い籠手のようなものもそうだが、春菜にとって一番惹かれたのはリト自身が放ったその異様なナニかだった。
思えばそれが『鍵』だったのかもしれない。
開け方も使い方も知らなかった自分が、既に扉を開いているリトを見ることで鍵の在処と開け方を知ってしまった。
「結城君……」
リトが帰って、物陰から出てきた春菜はリトが居た場所まで歩き、今尚感じるナニかを身体の中で復唱し、鍵を作り出す。
そして作り上げた鍵を使い、存在は知っても開けることが出来なかった扉を胸に手を当てながら春菜は開けてしまった。
「……」
開けた瞬間、それまでわからなかったものが全て理解できた様な全能感が全身を駆け巡るのと同時に同じ気質でもリトは既にそれを更に超越した領域に立つ事を理解した。
恐らくはこれがリトに感じた同類意識なのだろう…―それは間違いないと確信する春菜は、他の人達には持ち得ないものを持つリトに対して同類以上の感情を完全に自覚する。
「そっか……同じだからってだけじゃなかったんだね私……」
同じだから気になったのは間違いない。けれどそれだけではない。
扉を開け放つ事で完全に『自分』を理解した春菜は暖かい笑みを溢した。
これが恋なのだという自覚と共に……。
西蓮寺春菜
備考・使い方はわかってないけど、扉を開けてしまった少女。
終わり
補足
素っ気なさすぎて意識して、他の女の子となんか普通に話してるのを見たらズキズキして……。
あっれー……どうしてこうなったんだろー?
その2
実は扉は開けてしまってた。しかし使い方だけはままだわからない。
もし完全に覚醒したらララさんにとって脅威度が爆上がり。