転生者に対しての警戒が比率的には強いせいで、かつてリアスの仲間達に関しては裏切ってはいない裏切り者共という認識程度であった。
対策としても眷属にはしていない、関わってすらいない、友達にもならない等々、とにかく避けまくる事で余計な繋がりを作らない方向に対策を施していたので、その者達の内面を見ていないのだ。
故にまだ気付いていない。
数多の世界のもしもから同じ様に時を遡った者が居る事も、またその内包する力が自分達に近い事も……。
「リアスちゃん。流石に気付いた事がひとつあるんだけど、言って良いかな?」
「………うん」
否――いくら潔癖なまでにかつてリアスを裏切った者達を避けて中身を見ようとしなかった二人もそろそろ気づいていた。
「俺達が持つ
「多分気のせいじゃないと思う。
私もその……感じたから」
「………」
うじゃうじゃ居すぎる転生者相手に暗殺だのなんだのに力を入れすぎていたせいで後手に回りすぎた。
今になってその事に後悔するイッセーとリアスは、己の間抜けさを恥ながら暗い調子で話し合う。
「何も知らず覚醒させたのかまでは知らないけど、前みたいに一筋縄にはいかないかもしれないな……」
あまり知りたくはなかった現実についてを……。
事の始まりは何時もの様にリアスと楽しく登校し、放課後にまたという挨拶を交わして別れた時の事だった。
(~♪ 昨日はリアスちゃんの事を我儘だの俺を主体性のない変態野郎だなんてほざいたボケを処理できたし、今日の放課後はリアスちゃんとのんびり過ごすぜ!)
イッセーは自分が所属するクラスの教室がある階を目指して階段を上っていた。
これから始まる授業を楽しみに――だ等という真面目君では無いし、考えていることは放課後リアスと楽しくほのぼのとした時間を過ごす事への所謂妄想。
毎日毎日転生者だの元裏切り者の動向に気を割いていれば疲れるだけだし、流石にそこまで集中力も持続しない。
しかしこの一瞬の油断ともいうべきココロのスキマを縫うようにしてソレは突然やって来たのだ。
「あ、ごめんなさい」
自分の教室がある階層に到着し、生徒達が時間までの暇潰しとして廊下で話をあちらこちらでしている声を耳に曲がり角へ入ったイッセーの身体に軽い衝撃が走ると同時に謝罪の声が聞こえた。
どうやら何かの拍子で誰かとぶつかってしまったらしい。
リアスと楽しく過ごすという妄想に浸りすぎて少々注意力が低下してしまっていたと少しの反省を挟みつつイッセーの視線はそのぶつかった者へと向けられ……。
「…………」
「…………」
そして固まった。
そのぶつかった者の姿を目にして。
「…………」
「…………」
明るい白髪。
少し小柄な体型だがそれがマイナスにはならない可愛らしい容姿。
無論イッセーが固まった理由は見惚れた訳ではない。
二学年の教室があるこの階で出くわしてしまったという現実に一瞬思考が止まってしまったのだ。
「えっと、お怪我は……」
「……………」
かつてリアスに命を救われた癖に、後に現れた男を選んで裏切った者の一人。
戦車の駒によって悪魔へと転生した猫妖怪……。
「いや別に……」
「そうですか、良かったです」
名前は確かそう……塔城小猫。
この世界においてはリアスも一切関わりを持っていない筈なのに、人間界であるこの地の学園に入学してきた猫の妖怪にイッセーは内心大いに焦りながらも平静を装ってぶつかる箇所を嫌に気にしてくる猫妖怪に向かって大丈夫だと返した。
(ゆ、油断した……! いや待て、この世界の猫餓鬼とは全く接点は無いんだ。落ち着け、ただ
どういうつもりなのか、平気だと言ってるにも拘わらず行こうとしない小猫を前に冷めた表情を作りつつ内心テンパるイッセーは、さっさとこの場を収めようと躍起になる。
冷静に考えればこの世界ではこれが不本意ながら初対面であるのだから、適当に謝ればそれで済むだけの話なのだ。
しかしそういう時に限り、皮肉にも普段理不尽なレベルで変態三人組の一人と周囲の女子から嫌われてるネームバリューが邪魔をしてしまう。
「変態兵藤! 小猫ちゃんに何してるのよ!!」
「近すぎよ! 小猫ちゃんが汚れるわ!!」
女子の一人が目敏く小猫と向かい合っている姿を見つけ、大騒ぎした途端、それまで各々勝手に時間を潰していた者達が挙ってイッセーを批判する。
「イッセーテメー! 小猫ちゃんにまで変な事をするつもりか!?」
「リアスお姉様にストーカーしてる上で、ゆるせん!!」
リアスと仲が良い事をついでにとばかりに文句をつける生徒達に囲まれ、完全に逃げ道を塞がれたイッセーは舌打ちをする。
「はぁ? やめてくれないか? 俺は単にこの――誰かもわからない子と偶々ぶつかっただけだ」
「嘘よ、どうせアンタの事だからわざとぶつかったんでしょう!?」
「そーだそーだ! この変態野郎!」
「………………」
何時もの事なのと、これまで相手にもしなかったツケがここに来て回ってきやがったとイッセーは後悔する。
まったく此方の言い分を聞かず、取り憑かれたかの如く次々と生徒達がイッセーが悪と罵声を浴びせていく。
「あの……先輩の言った事は本当――」
「こっちに来なさい小猫ちゃん! 兵藤菌が付くわ!」
「だから――」
「小猫ちゃんを守るぞぉぉっ!!」
今にもイッセーに集団リンチを始めそうな生徒達の興奮度に小猫も困惑している……様に少なくともイッセーには見えた。
(………………。何なのこの人達? まるで亡霊にでも取り憑かれてるみたいに先輩に攻撃的……)
では無く、リアスと登校してからのイッセーの行動パターンを逆算して実は待ち構え、わざと接触したという経緯があったりする小猫――否、リアスとイッセーのありえない仲の良さを前に悠長に構えてられなくなって遂に行動を起こした悪魔をを越えたネオである白音は、はっきり言ってクソが付くレベルに邪魔な有象無象に内心舌打ちをしていた。
「離れなさい!」
「ってぇな!! 辞書なんか投げて危ないだろ!?」
「問答無用!」
「うわっ!?」
元々何故か変態三人組の一人だと呼ばれているのは知っていたが、白音が直接見てきた限りではリアスと何故か仲良くしているだけで粗相を働く事は残りの二人を含めて一度もなかった。
それなのに、今イッセーは生徒達から虐めとすら感じるレベルで攻撃されている。
(身のこなし方はやっぱり『先輩』……)
もっとも、周りは気付いていないが、投げつけられる凶器に対して最小の動きで避けつつわざと当たってもノーダメージであり、横から見ていた白音はかつて
「死ね変態!」
「チィ!」
「ちょっと皆さん――」
多分イッセーの事だから人外以外……つまり人間にはどんな悪意を向けられても手を出さないのだろうと、別に実はそうでも無いのだが、白音の知るイッセーがそうだった事を思い出して手助けしてみようと先程よりも強めの声を出そうとしたその時だった。
「大丈夫か?」
「は?」
イッセーを目の前に……中身が少し違うけど変わらない匂いを前に白音もまた気が抜けていたらしい。
まるで狂った暴徒の如くイッセーに暴力を振るおうとする生徒達に向かって声を出しかけた白音の手首が掴まれ、声を止めてしまった。
(あ゛?)
基本的に白音は姉の黒歌かイッセー以外に触れられることを本気で嫌う。
やっと目の前まで近づけたイッセーを前にして気が抜けていたのは己の落ち度かもしれない。
けれどだからといって果てしなくどうでも良い者に触れられるのは嫌だし、ましてやそれが異性ともなれば殺意すら沸く。
―――――という
「イッセーなら大丈夫だし、送るから教室に行きなよ?」
「…………」
如何にも人が良いですという笑みを浮かべた銀髪の男子生徒、この世界の木場祐斗と合わせて二大王子様だとか呼ばれていて白音的には欠片の関心も沸かなかった男子……。
「あ、才牙くん!」
「本当だ! 才牙くんよ!」
「げっ! イケメン野郎の一人が小猫ちゃんの手を!?」
現れた途端女子達から黄色い声援を、男子達からは嫉妬の声を独り占めする須賀才牙なる男だった。
「廊下が騒がしいと思って見に来たんだが……この子は一年生だろう? 何してたんだよ?」
「それが聞いてよ才牙くん! 兵藤の変態が小猫ちゃんにスケベな事をしようとしてたのよ!」
「は? 兵藤………あぁ」
「あ?」
女子達が媚びた様子で状況を説明し、それを聞いた才牙なる男は辞書やらコンパスやらカッター等を投げつけられて若干傷が顔についているイッセーと目が合う。
その目はどこか見下しているものが隠れて感じられ、面倒なのが次々と来たせいでイッセーも少しイラついた様子でにらみ返す。
「何だよ?」
「いや、あのさ、そういうのやめたら? そうやって関心を得ようとするのってよくないと思うんだが」
「………」
人当たり良さげに、さっきから白音の手を握りながら諭すようにイッセーに話す才牙に女子達が同意するが、言われた本人は呆れて何も言えなかった。
それを見て口論に勝ったと勘違いでもしたのか、実はバカを見る様な目をしていたイッセーからさっきから俯いて黙っていた白音へと、顔立ち整った容姿映えした笑みを浮かべて話し掛ける。
「塔城さんだっけ? 教室まで送るよ、ほら行こう」
男子が嫉妬、女子が羨む台詞を吐きながら白音の手を引く才牙。
その容姿の裏に潜む欲を覆い隠して。
「………………な」
「?」
しかし相手が悪かった。
事前知識によりこの少女がどんなキャラクターなのかを知ったつもりだったのがそもそもの間違いだった。
死して神から己の好きな能力を貰って転生し、
彼等が知識なんぞクソの役にも立たなくなる存在だった――ということに。
「何時まで私の手を触ってんだよテメェはぁ……!」
「―――――は?」
「!」
この時期になる前に探してなるべく仲を深めたかった白音――それから何れ探し出すつもりのその姉に漸く近づけたと思っていた才牙の耳に聞こえる、大人しそうな少女の声とは思えないドスの利いたチンピラボイスに唖然とする間も無く、才牙の脇腹に重い一撃がめり込む。
「どわっ!?」
「きゃあ!?」
何かが砕けた嫌な音と共に才牙の身体が木偶人形の如く吹っ飛び、イッセーを囲んでいた生徒達が反射的に避けた事で廊下の窓際の壁に激突する。
「……」
「え……さ、才牙くん?」
激しい衝突音と共にズルズルと壁を背に崩れ落ちる才牙に生徒達は衝撃的なあまり口をパクパクさせるだけで声が出ない。
そんな中、その才牙の脇腹をぶち抜いてぶっ飛ばした白音はといえば……。
「何なんだテメェ等は
『!?』
そんな者達の受けた衝撃に更に追い討ちをかけるかの様な、可愛らしい少女だからこそ余計に恐ろしい形相とドス声を放っていた。
(こ、コイツ……)
その変貌にある意味一番驚愕したのはイッセーなのかもしれない。
崩れ落ちる才牙へと近づき、変貌にビビって生徒達が道を開ける様はかつて始末したリアスの裏切り者の一人ととても合致できない迫力を感じさせられたのだから。
「ガタガタとどいつもこいつも人の話も聞かねぇで勝手にほざきやがって。挙げ句何勝手に私の身体に触れてんだよ? あァ?」
「あ……ぐ……」
『…………』
崩れ落ちる才牙の髪を掴みながらチンピラ丸出しな事を言う白音のせいで空気が完全に凍りついている。
そこには癒し系マスコットだ等と呼ばれる美少女は居らず、美少女は美少女でもチンピラ美少女だった。
「や、やばくないか? 止めた方が……」
「じゃ、じゃあお前行けよ?」
「さ、才牙くんの髪が……」
完全に勢を削がれた生徒達は誰か止めろと擦り付け合う。
それほどまでに今の白音からは得体の知れない恐怖を感じるし、さっきから才牙の頭頂部の髪をむしり出す白音のせいで将来がとても危険な事になりかねない。
誰しもがそう思っていた時、これにより完全に意識の外へと追いやられていたイッセーが、才牙の髪をむしりまくる白音に向かって声を掛けた。
「おい、そこまでにしておけよ……」
別に才牙を庇うつもりなんて無かったが、あんまりにも唐突過ぎて取り敢えず止めないと先に進まない気がしたのと、あまりにも以前の世界の白音とは違いすぎたので話し掛けてみた。
すると、ブチブチと大量に髪をむしりとっては才牙の制服で手についた髪を払っていた白音が瞳孔開きまくりな金色の瞳で振り向き……。
「あは♪ なんですか先輩?」
「……………」
二面性が半端無さすぎる可愛らしい笑顔で返事をしたではないか。
これにはイッセーも余計困惑してしまう。
「いや、そいつ気ィ失ってるし……」
「へ? あぁごめんなさい。勝手に私に触れてきたのでつい……」
ゴミを見るような目で人工河童状態になっている才牙見下してからサッと離れる白音。
白音が離れたその瞬間に女子の一部が才牙に駆け寄って大騒ぎになるが、最早どうでも良さげにニコニコとイッセーと向かう合う。
「私って私が好きだと思う人以外に――ましてや気色悪い物を腹に抱えたのに触られるのが嫌いなんですよ。
だからついつい……まぁでも先輩に対して状況も知らない癖にガタガタ言ったり、他の連中も先輩に物を投げ付けたりしたしお互い様でしょう?」
「……」
ニコニコニコニコと心底何を考えてるのかわからない笑顔で、嫌にベラベラと話てくる白音にイッセーは別の意味でこの目の前の少女に対する評価を変えていく。
無論、警戒すべき相手からもっと警戒しないとヤバイ相手――という意味で。
「ねぇ……せーんぱい♪」
他の連中が才牙の憐れな姿に気を取られている間に向かい合う白音とイッセー。
片方は心底嬉しそうに、片方はこれでもかと苦虫を噛み潰したかの様に。
「今そこでおねんねしてるカスと騒ぐ馬鹿連中にはある意味感謝でしたね。
ふふ……これでやっと確かめられる」
「お前……何なんだ? 何で『持って』る?」
自分やリアスや仲間達しか持ち得なかった筈のソレと同質のものを、この世界に居る少女が持っているということに今更気づいてしまったが故に……。
「教えてあげる前にお互いに――リアス部長と共に確認し合わないといけないですね。
ふふ……ハァ……先輩の匂い……あぁ、やっとここまで近づけたぁ」
「………」
単なる元裏切り者ではないと心の底で認識してしまったが故にイッセーは苦虫を噛み潰した顔のままなのだ。
「えへ、えへへ……先輩の手だ……先輩の……んっ……ちゅ……ちゅる……!」
「!? な、何をしやがる!! やめろ!!」
「ん……♪ 失礼……ふふ、違うけど私の知るイッセー先輩と同じ味……。
まいったなぁ……お腹の奥が先輩を欲しがって我慢できなくなる……」
「違う、だと? ま、まさかとは思いたくないが……」
「ぁ……んんっ!?
はぁ……はぁ……久々にこんなに近くに先輩がいるからつい……。
下着が大変な事になっちゃいました……」
「へ、変態……」
「チッ、タイミングを図って華麗に参上しようとしたのに、やるわね塔城さん……」
歯車は徐々に絡み出す。
補足
ネオ白音たんだもの。見てるだけで我慢なんてできないさ。
ただ、貞操危険度が一気に跳ね上がりましたがね。
その2
軽い紹介。
塔城小猫(D×S)
悪魔に縛られた事で人外を基本憎悪する兵藤一誠に仲間もろとも一度肉塊にされたが、当時無理矢理身体を重ねた事で狂気ともいえる想いを一誠に抱き、それがピークに達した事でスキルを覚醒。
肉塊にされた他の仲間を出し抜き、ただ一人一誠を追い掛け続けた悪魔を越えたネオ。
一誠や一誠と共に生きた二人の悪魔祓いの前に何度も姿を現し、その都度異様な進化をすることで晩年は遂に一誠を完全に越えたのだが……。
戦闘力においては今回の世界でも最強といえる存在であり、厄介なのが概念だろうが喰い尽くして糧にしてしまうスキルだろう。
他にも夢に出てきたおじいさんにより六道仙術は使えるわ、その力を全解放すれば額に兎ママンみたいな輪廻の目は開眼するし。
一誠と無理矢理交わってた時に残った無限進化のスキルやら等々――一誠に対する狂気の想いが具現化したともいえる存在だ。
ちなみに見た目は成長させなかったらしく、理由は『この姿の方が先輩がより
この世界において彼女は果たしてどうなるのか……。