いわゆる箸休め
関係ない嘘予告・生き続ける事を選んだ場合
もしも仲間に出会えなかったら。
もしも反逆をしなかったら。
もしも死を覚悟した復讐よりも共に生きる事を選んだら。
これは少女と出会う事で何をしてでも生きる事を選んだ者のお話。
奪われたのなら取り返すまで――無論、ソイツの命で。
だから死ぬほど鍛え、復讐する機会を伺った。
そんな時に出会ったのがあの子……。
俺の全てを奪ったクソ野郎に陥れられ、肉親も仲間も友人も何もかもを奪われ、道具の様に扱われそうになったあの子と出会い、共に行動し、共に復讐の牙を研いだ。
でも……俺はその子と一緒に居る内に、復讐による死に恐怖を抱いてしまった。
そしてその子と共に、誰にも追われない場所でただ生きたいという欲求が芽生えてしまった。
それはあの子も同じであり、ただクソ野郎やそれに与した裏切り者共すら知らない遠くの場所で静かに生きたいと言ってくれた。
だから俺はその子を連れて逃げた。
誰も自分達を知らない場所を求め――時には追手やクソ野郎によって死にかけもしたけど、俺達はただひたすら逃げた。
生きる為に、ただその子と一緒に生きたいが為に。
これが弱腰とされる行動なら俺は弱腰で構わない。
どんな罵倒をされても構わない。
あの子と一緒に生きていけるのであるならそれで……。
リアス・グレモリーにとって、肉親や仲間という概念には恐怖とトラウマでしかなかった。
ウィルスの様にとある男の出現により肉親や仲間が変わり果て、その男の好みと合致しない者はとことん排除され、その男に与した者達はそれが正しいと信じきる。
その光景を目の前で見せられたからこそリアスは逃げ出し、出会ったのだ。
同じトラウマを抱える少年と。
同じように奪われ、殺させかけたその少年に助けられ、一緒に居る内に愛し、共に逃げ出す。
互いを失うかもしれない恐怖よりも共に居たいという気持ちが勝ったからこそ二人はひたすら逃げながら互いを慰め合い、そして現在に至る。
生きる為に逃げた果てにたどり着いた異なる世界で。
「…………」
何もかもを捨てて逃げ、たどり着いたこの居場所は多少貧しいのかもしれない。
けれどリアスは確かに幸せだった。
「イッセー……朝よ」
「んぁ……? おはよ――リアスちゃん」
全てが狂った世界の中に居た、自分を受け入れてくれた少年と共に居れるのなら、貧しさだろうが何だろうがリアスには関係ないのだから。
一緒に生きたい。
その気持ちをお互いに抱いていた結果、私とイッセーは誰も自分達を知らない場所を求めて宛もなく逃げた。
勿論、そんな都合の良い場所が見つかる訳もなく、何度も死にかけたりしたけど、私とイッセーはちゃんと生きている。
……何度目になるかもわからない追撃で今度こそ死を覚悟した瞬間に広がる光によってたどり着いた、奴等が存在しないこの世界に。
「朝ご飯は何が良い? 今日は私が作るわ」
「んー……簡単なもので良いぜ? 確か半額で買った食パンがあったろ?」
何がどうなってこの場所にたどり着けたのかは私もイッセーもイッセーの相棒である龍にもわからない。
けれど私達は今に至るまで、深く考える事はしていない。
だってどうであれこの世界には奴等は居ないし、隠れながら逃げる必要が無いのだから。
こうして狭くて古ぼけたアパートにも暮らせるし、外に出る度にビクビクする必要もない。
まさに私とイッセーが求めた居場所というだけで一々考える必要なんてないのだ。
私をあの男の口車に乗って無理矢理結婚させようと追ってくる悪魔達も居ない。
あの男の言うことを全肯定し、私を捕まえようとしてくるかつての仲間だった者達もいない。
あるのは一緒に生きる事を選んでくれたイッセーとのこの生活に、これ以上の幸福はない。
復讐の為に進化し続けた結果、人の理から外れて寿命も老化も殆ど無くしてしまったイッセーと、元々が純血の悪魔であるに加えて、イッセーの足手まといにならないようにと進化の道を選んだ結果同等の寿命を持ってしまってる私は文字通りずっと一緒に居られる。
他に求める物なんて無いし、贅沢だってしない。
その日その日を大切にイッセーと、連中から追われる心配なく生きていられる時点である意味で奴等に勝ったのだから。
けどしかし、理由も原理もわからないまま、悪魔も神器も神も何もかもが空想と言われているこの世界にも、かつての私達と
「イッセー兄、リアス姉……お腹へった」
「朝早くにごめんなさい……」
前とは違い、狭くて賃貸なものの家で生活可能になった私とイッセーが先日の夕方にスーパーの特売で手に入れたパンで朝食を取っていると、カメラ機能もなにもない只の呼び出しベルが鳴る。
何だろう? とイッセーと顔を見合わせながらも出てみると、そこにはまだ幼い男の子と女の子が……。
「こんな朝からどうしたの?」
男の子が助けを求める様に空腹を訴え、女の子は遠慮しがちに謝るので、私は顔見知りであるのもあって取り敢えず中へと招き入れながら事情を――――ある程度察しているものの聞く。
すると男の子と女の子は互いに顔を見合わせ、少し俯くと絞り出す様な声で言った。
「家に居づらい……」
「私もその……同じく」
「「………」」
まだ小学校に上がったばかりの子達が家に居づらいと言っているのを聞いた私とイッセーは、二人に軽い朝食を振る舞いながら無言で目を合わせる。
この二人の子は友達同士であり、私もイッセーも偶然知り合ったのだけど、その時からどうもお互いの家に居辛く、何時も外が真っ暗になるまで公園に居ることが多かった。
流石にそれでは危ない気がしたので家に送ったり、居づらいならとウチに招待したりしてる内に懐かれたみたいで、今ではそれなりに仲良くなってると思う。
「それで来たのか。家の人は?」
「皆、春人に構ってるから何にも……」
「言わずに来たの?」
「はい……」
そんな経緯があってこの二人と知り合いになった訳だけど、正直な所、私もイッセーもただ単に仲良くなった訳では無い。
今男の子が疲れた様に口にした名前春人なる存在。
聞けばこの男の子の二卵性の双子の弟との事だけど、どうも話を聞いていると私とイッセーが散々逃げ回った理由となるあの男と被るものが多かった。
というのも、ある朝突然――兄弟は姉しか居なかった筈なのにそれが当たり前だとばかりに双子の弟として出現し、周りもそれが最初からそうだったように振る舞っている。
いくら弟なんて居ないはずだと訴えても、何て事を言うんだと逆にこの子が責められる。
それだけならまだしも、唯一の肉親であるこの子の姉もその日を境に弟の方ばかり構い、その姉の友人――つまり今男の子のとなりに座る女の子の姉もまた弟に対してばかり構う。
この女の子はその中でも唯一男の子と同じく双子の弟なんて存在していなかった筈だと理解していて、弟の存在を不気味に思って味方になってくれているのだけど、そのせいかその弟という存在に少しやっかまれている様だ。
「春人身体が弱いからって千冬姉も束さんも箒のお父さんお母さんも皆俺と箒を……」
「私は別に良いけど、一夏にとって家族は千冬さんだけだし、このまま居ても辛いからお二人のところに……」
「そう……」
「……」
普通に聞けば荒唐無稽な話だけど、似た経験を嫌でもしてきた私とイッセーはその弟とやらが完全に地雷である事を直ぐに察した。
違いといえば、身内として出現したぐらいは後は殆ど同じだ。
「学校も無いのならウチに居ても良いわ」
「! ほ、ホントに!?」
「おう、俺も今日仕事無いし、ゲームでもすっか?」
だからその……同情というか自分達に重ねてしまい、つい二人に対して手を差しのべてしまう。
この子――一夏君の弟である春人なる者は既に確認しているし、その周りからの態度についてもわかっている。
性別は男ながら女に間違えられそうな――つまり一夏君のお姉さんに似た容姿。
それだから余計に可愛がられる様だけど、お陰で割りを喰わされているのは一夏くんだし、この箒ちゃんだって家ぐるみの付き合いがあるせいで一夏くんの弟に対して他に向ける無関心さが嘘みたいに構い倒す。
それが箒ちゃんには納得できないけど、何を言っても無駄だとこんなまだ幼い子なのに思っている様だった。
「あ、あの……ご、ご飯の作り方を教えて欲しいのですが」
「あらどうして?」
「えっと、最近の一夏は家でも私の家でも何も食べようとしなくて……」
「それは―――わかったわ、アナタが作るものなら食べてもらえるでしょうし、喜んで教えさせてもらうわ」
そんな中でも箒ちゃんだけが一夏くんにとってまともであってくれた事はきっと精神的にも救われていると思う。
家ではまるで笑わなくなったらしい一夏くんも今はイッセーと楽しそうにゲームをし、そんな彼の助けになりたいと幼いながら頑張ろうとしている箒ちゃんを見ているとやはり自分と重なってしまう。
だから出来るだけの事はしてあげたいと思う……。
「い、一夏、私もご飯つくってみたけど――た、食べるか?」
「!? び、ビックリした。一瞬リアスちゃんが言ったのかと思ったぜ。
だってさイチ坊、食べてやれよ?」
「箒が作ったのなら食べられるから……ありがとう」
「れ、礼なんか言わなくてもいい、こんな事しかできないし私は……」
イッセー曰く、私と箒ちゃんの声ってかなり似てるらしいし。
何となく他人事とは思えないのよね。
終了
かつて復讐よりも共に生きる事を選んだ少年と少女は異世界にて平和に暮らした。
しかしそんな異世界でも似たような事に陥る者は居てしまうらしく、偶然出会った少年とそれを支えようとする少女に二人は生きる為の技術を教えた。
その結果、とある物の開発により女尊男卑となった世界において、そんな概念を真正面からぶち壊すペアへと成長した。
「っしゃあ、転職できたぁ!! これで少しはグレードアップできるぞ生活が!」
「やったなイチ兄!」
「リアス姉さんと同じ職場でしたっけ?」
「ええ、非常勤講師だけどIS学園の保健医。イッセーは用務員よ」
「いやぁ、あそこの学園長とは知らず偶々飲み屋で意気投合したら誘われちゃってさぁ。
今の仕事より給料倍は出してくれるってんだから受けないわけないだろ? しかも専用の寮付きだぜ?」
「へぇ、俺も箒も春からその学園に入る事になっちまったんだけど、これからはもっと会えるな?」
「そうだな……。アレも入学することになってるけど―
「あら、彼も動かしたの? 女性しか動かせないとかいうパワードスーツを」
リアスとの生活の為に文字通りなんでもする男は用務員に。そんなイッセーの負担を減らそうとリアスは保健医に。
例の転生者に会ってしまう可能性とか面倒さもあったけど、既にそんな存在については生きる技術を叩き込んで見事に成長した一夏と箒ですら最早関心が消えていたのでどうでも良かった。
寧ろある意味その者のお陰で厄介事から何から全部押し付けられるのだ。
「モテモテだねぇ春人さんは」
「何だ、羨ましくないのか一夏は?」
「羨む要素がゼロ過ぎてな。イチ兄とリアス姉を見てるならわかるだろ?」
「確かにな」
女子だらけの学園の中で知り合う女子が取り合いしてるのを見て他人事の様に呟く一夏だったり。
「春人に専用機が与えられる。織斑、お前は――」
「あー、無いんでしょう? わかってますわかってます、適正レベルも彼が上ですからねぇ、いや頑張ってね?」
「……」
例えば専用機フラグがへし折れて寧ろ楽になったり。
「うめーうめー」
「こらっ! 行儀が悪いぞ!」
「だって箒の作る飯がうめーんだもん」
『……』
独り身には入れない空気を放出し、平和に楽しげに、何のトラブルもなく幼馴染みと過ごせたり。
「ねぇねぇ、しののんとおりむーはグレモリー先生と兵藤さんの知り合いなのー?」
「は、何でそんな事を……」
「いやさぁ、何時も放課後になると用務員室に行って兵藤さんとグレモリー先生と楽しそうにしてるのを見て良いなぁって思ったり……」
メインヒロインの殆どの絡み全てを転生者が奪ってるおかげで他の子と親睦を深めたり。
「グレモリーせんせ~!」
「あら布仏さんじゃないの、どうしたの?」
「えへへ~ 先生いい匂いがして好き~」
「………………………………………………………………………………………………………」
「いやイチ兄、単に懐いてるだけだし……な?」
「その目はちょっと怖いぞ兄さん」
「いや別に? 俺別に怒って無いけど? 全然怒ってねーけど?」
妙にクラスメートの一人の女子にリアスが懐かれて若干アレな用務員だったり……。
「…………」
その二人の姿を見て絶句する転生者だったり。
「箒ちゃんにプレゼント! 専用機の紅椿――」
「あぁ、申し訳ありませんが姉さん、私は整備科志望ですので専用機とかは要りません」
「え!? な、なんで? 紅椿があればハル君ともっと……」
「専用機を使いこなせる技量に自信もありませんし、第一持っていたら余計誰かに狙われますので、辞退します。それは他の求めてる誰かにでも与えてやってください。それでは」
姉に対するコンプレックスから何から全部吹っ飛ばしてるので専用機は要らんと突っ返し、一夏とのほのぼのに専念したり……。
「生徒会さん達に目をつけられてるんだ、カァ~、大変だなぁ春人くんも?」
「最近それのせいか話し掛けられるんだけどさぁ。他の子達に睨まれるからちょっと勘弁してほしいかなって……」
「そうか、のほほさんは生徒会に入ってたのか。
大変だな……彼に惚れたら色々と」
「えぇ? 正直好みじゃないというか……もっと男らしい人が良いと思うからな私……」
概ね押し付けられたお蔭で平和だった。
「ねぇねぇ用務員さん? お仕事終わったらお話してみたいのだけど――」
「リアスちゃんとデートすっから無理。
つか作業の邪魔、退いて」
「あん♪ もう、いけず……」
色々と……。
終わり
補足
生きる事を選択して逃げたとありますが、力に関してはオーバーキルレベルです二人とも。
その2
直接二人に叩き込まれたので余計なフラグが立つ前に誰かに振るか逃げる技術は二人して一級品です。
その3
今では寧ろ嫌味じゃなく転生弟に感謝してるらしい一夏くん。
理由? 面倒な事は全部やってくれるから。
その4
用務員は基本目立たず、黙々と作業着着て仕事してるので教師陣も生徒達も殆ど顔も見てないらしい。
何人か以外は