色々なIF集   作:超人類DX

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な、ナンテコッタイ!

ヤミたそー!


進化の扉

 宇宙人の殺し屋を色々なタイミングが重なって消し損ねたリトだが、結局はその時点で殺し屋少女こと金色の闇に関心が無くなっていた。

 

 

「最近のリトは結構喋る様になってきたと思うぜ?」

 

「は?」

 

 

 背後から狙われようとも片手間に対応し、適当に蹴り飛ばす。

 飛ばすではなく蹴り殺さないのは、偶々なのかそれとも狙っているのか、美柑やララが一緒に居る場での襲撃な為だ。

 いくら何でも非力な妹の目の前で人間に酷似した宇宙人の解体ショーなんて始めてしまったら嫌われるどころか完全に恐れられる。

 ララが来る前までは殆どがぎこちない会話しか無いのにも関わらずそれなりに慕ってくれる以上、その誠意にはそれなりに応えなければならない。

 

 良くも悪くも恩も恨みも忘れない性質であるリトらしいのだ。

 

 

「ほら、ララちゃんが来てから特にそうだと思うぜ俺は」

 

「別に何も変わらないと思うが……」

 

「そりゃあ自分じゃあ気付かないもんだからな」

 

 

 その性質が浮き彫りになり始めてきたのは、リトの友人である猿山も察しており、昼間休みのご飯タイム時に最近のリトの様子についての客観的な感想を言っている。

 

 

「折角の高校生活なんだし、この調子でちったぁ楽しんでみても良いんじゃねーか? 聞けば貧血で倒れた西連寺を保健室まで運んでやったんだろ?」

 

「………何でお前が知ってるんだ」

 

「いや、何人かお前が西連寺抱えてララちゃんと歩いてる所を目撃してるし……」

 

「…………」

 

「おいおい、そんな嫌そうな顔すんなって。

少なくとも西連寺はお前に感謝してる筈なんだしさぁ?」

 

「どうだかな、ベタベタと触れられて嫌悪しかないかもしれないだろ」

 

「何でそんなネガティブに考えるんだよお前……」

 

 

 あまりにも助けられ甲斐の無さすぎる台詞に春菜の胸の内を知る猿山は苦笑いだ。

 何とかならないものか……無関心にリトの妹が作ったらしい出来映え最高の弁当を黙々と食べる友人と、離れた場所でそんなリトをチラチラ伺う春菜とララに勿体無さすぎると思うのだった。

 

 

 さて、そんな猿山ケンイチは兵藤イッセーの本来の性格に似ている。

 故に根にまだその性格が残る今のリトとこんな調子ながら友人としてやっていけている訳なのだが、正味な話、本人はそれだけでは無いものをリトの中に感じている。

 

 しかしそれがまだわからない。

 偶然にも自分と同じ疑問を持つ春菜という少女とリトの背を見続けたけど、やはりそれでも正体がわからない。

 

 けれど解らないからと猿山は諦めてはいない。

 同じ何かを持っているのかもしれないという確証は無い不確かなものだとしても、自分なりに探している。

 

 ある意味での自分探しの旅的なものだが、割りとそれは正解なのかもしれない。

 例えばまず、猿山はリトの背を追う過程で他人を視るという眼が養われていった。

 

 どういうタイプで、どういう人間性なのか……大まかながらも時折見える様になってきた気がした。

 その結果、リトは『外国飛び回る母親が預かってきた』と言っているララについて、只の可愛らしい子――では無いのかもしれない事に薄々気付き始めた。

 

 

「ひゃ、百メートル走のタイム……5.5」

 

「リトー! 一生懸命走ったよ! 次はリトと競争したい!」

 

「………」

 

 

 勿論、明らかに人間離れした運動能力を体育の授業で見たからでは無いし、もっと言えばリトを間近で見てきたつもりである猿山にしてみれば『スゲェなあの子』程度の認識だった。

 というのもだ……中学の頃の話なのだが、一度だけ当時の先輩から目をつけられ、リトが煽られた際にほんの少しだけイラっとしたのか、当時陸上部のレギュラーで全国出場までしていたその先輩と徒競走をしたのだが……。

 

 

「お前、学校では全部加減しろ」

 

「え? い、今の駄目だったの? ご、ごめんね?」

 

「言わなかった俺に落ち度アリだから別に謝る必要は――」

 

「ごめんね? リトの迷惑だったんだね? もうやらないから、リトの言うとおりにするから……! イヤ、見捨てないで……!」

 

「だから別に――」

 

「テメェ結城!! なにララちゃん泣かしてんだ!!」

 

「ぶっとばすぞ!!」

 

「ちょ、落ち着けお前等!!」

 

 

 あの光景は今でも忘れられない。

 誰しもが異常すぎる結果を不機嫌顔で叩き出したリトを恐れる中、自分と春菜だけには感じた光――というべきものを。

 中学が違う者達は、何やらリトに耳打ちされてオロオロしだし、遂には涙目になってるララを見て泣かせたと食って掛かろうとしているのを止める訳だが、恐らくリトは逆にララへ気を利かせたつもりなのだ。

 

 誰しもが異常すぎる結果に羨望を抱く訳じゃないのだから……。

 

 

「よーっしゃ! 次は俺と走れ! もし勝ったらララちゃんは貰うぜ!!」

 

「勝手に貰いたきゃ本人に言えば良いだろに、馬鹿馬鹿しい」

 

「っの……!」

 

 

 基本的に体育は隣のクラスと合同であり、今リトに絡むのはそのとなりのクラスのララと親しいことを嫉妬する男子達。

 運が良いのか悪いのか、その日は体力測定により男女までもが合同であった。

 

 そんな中をリトに徒競走で勝ってララの関心を買おうというチャレンジャーが現れた。

 

 

「次は結城が走るんだってさぁ、しかもララさんを巡ってのバトルって奴?」

 

「おお、ちょっと面白そう」

 

「………」

 

 

 嫌でもララ関連にされてしまってるせいで女子にまで注目されていく中、猿山は春菜と目が合い、無言で頷くと、全くやる気の無い腑抜け顔のリトの元へと近づく。

 

 

「リト」

 

「あ?」

 

 

 気の抜けた返答をするのを見て一瞬で『あ、コイツあの時みたいな走りは絶対しないな……』と察知した猿山は勝手に張り切ってるけど、ララの視線がずーっとリトに向けられてる男子達を気の毒に思いながらも言う。

 

 

「わざと負けるのは流石に可哀想だと思うぞ?」

 

「…………………」

 

 

 コイツ、何でわかった? という顔をするリトに猿山は内心ため息を洩らしながら続ける。

 

 

「お前なぁ……。

そもそもララちゃんはお前に褒めて貰いたいから頑張ったんだと思うんだぜ? それを無下にするのかよ?」

 

「無下にも何も、別にさっきアイツに言ったのは……」

 

「わかってるわかってる、お前も中学の頃似た様なもんだし、少し加減しろとか言ったんだろ? そんなつもりは無いけどキツい感じに」

 

「……。たまに思うけど、お前は何で俺の思ってる事が――」

 

「親友のつもりだからな。んで話を戻すが、取り敢えず不安にさせたのは事実だからそれなりにフォローはしてやれ。ましてやあんな連中にわざとだろうが負けるリトなんて俺()は見たくねぇ」

 

「俺達?」

 

 

 美柑に対して以外がどうにもサバサバし過ぎているリトの背をとにかく押した猿山は、位置に着けという教師の声を聞いてスタートラインに立つ親友を見届ける。

 

 

「次走る奴は位置につけー!」

 

「とにかくそういう事だから、頼むぜリト」

 

「………」

 

 

 微妙な顔を猿山に向けるリトが押される形でスタート位置に付く。

 

 

「位置について、よーい――」

 

「………」

 

 

 教師がスターターピストルを空へと向け、リトに挑む男子達が目を血走らせながら構える中、本人だけは気だるげに――されど首の関節を鳴らす。

 

 そして教師が空砲を撃ったその瞬間――

 

 

「え……?」

 

 

 その姿が消えると同時に立っていた箇所には巨大な穴が開けられ、リトは他の者が唖然としてしまう中、悠々とゴールのテープを切った。

 

 

『…………』

 

 

 

 教師も、リトの事をよく知らない多くの生徒達の誰もが、その異常な結果を叩き出した本人に言葉を失う。

 

 

「い、一瞬で、というか、ララさんより速くなかった?」

 

「速とかいう次元じゃなくて、完全に瞬間移動したようにしか見えなかった気がするんだけど……」

 

 

 終始やる気の無い顔をしながら小走りで戻ってきたリトからほぼ本能的に後退しながらヒソヒソと異常過ぎる結果に対して話し込む一同。

 その空気間はやはり微妙なものへと変わっており、先程まで息巻いていた男子数人達も、化け物を見るような目でリトを見ている。

 

 

「こういう微妙な空気になるから、次はやめた方が良いぞララ」

 

 

 そんな教師を含めた人々の視線を四方八方から受けていたリトはといえば、一切気にする様子もなく不安げな表情のままだったララにそれだけを言うと、一人勝手に興奮している猿山を一瞥し、まだ授業は終わっていないのに校舎の方へと歩く。

 

 

「あぁ、申し訳ありませんが先生、走ったらめちゃくちゃ目眩がしたので保健室にでも行ってきます」

 

「あ、は、はい……気をつけて……」

 

 

 どう見ても具合なんて悪そうに見えないが、教師は頷く他は無かった。

 

 

(あーぁ……)

 

『残念がるのは良いが、もう少し周りを見てみろ?』

 

(何を見れってんだ? 変わり者の猿山以外はどいつもこいつも化け物を見るような目で固定されてるだろうが。見なくてもわからぁ)

 

 

 ただ独り。リトとしての肉親ですら理解できない領域に立つが故に……。

 

 

「せんせー、リトの付き添い行ってきまーす」

 

「あ、じゃ、じゃあ私も……!」

 

 

 でもないかもしれないけど。

 

 

 

 

 

 自分と一般地球人との間に明確な地力の差があるという事をあらゆる意味で本人に認識させる事に成功した代償として、リトが明らかに異常者であるという認識をされてしまった。

 

 その事に気が付いたのは、自分の時とは違い、リトが走った後に向けられる周りからの恐れの視線を見た時だった。

 

 

「ごめんねリト……。リトが言いたかった事がやっとわかった……」

 

「まだ言ってるのか……。言ったろう? これに関しては何も言わなかった俺の問題だと」

 

「で、でもリトが走った後、皆リトを怖がってた……」

 

「別にどうだって良いぜ。

他人の視線ばっかり気にしてたまるか」

 

 

 気付くのが遅かったと謝るララに対して、リトは他人からの視線は気にしないと素っ気ない。

 

 

「リトの言うとおりだぜララちゃん、そこは謝るじゃなくて『ありがとう』と言った方がリトも喜ぶぜ?」

 

「礼も要らねーよ」

 

 

 元々猿山に乗せられてしまっただけの話だし、結果がどうなるかなんて自分自身が一番良く知っているし、これこそ予定調和なのだ。

 自分が異常者であり、また異常者である事を望んだのだ……寧ろ自分自身のアイデンティティが失われてないという確固たる確信を持てるのだから、謝られ様が礼を言われようが知ったことでは無いのだから。

 

 

「謝られる事も、礼を言われる様な真似も俺はしちゃいないんだ」

 

 

 しかしリトが示した異常性のお陰で、ララの宇宙人としての規格外さについてのインパクトが上手い具合に薄らいだが、その代わりにリトへの印象は完全に180°変化している事は確かだ。

 

 

「俺の事は良いから戻れよ。適当にサボるかそのまま帰るから」

 

「水くさいぜ親友? サボるって聞かされちゃあそのまま見送る訳がねーぜ」

 

「私もリトと一緒に居たいし……」

 

 

 リアス達にのみ向けられていた情の欠片がそうさせたのか、それは本人にもわからない。

 だが少なくとも猿山やララ、そしてもう一人リトの異常性に恐怖では無く羨望を抱いた春菜はそんなリトの背をまっすぐ見ている。

 

 

「取り敢えず保健室で適当にサボろうぜ? ほら、保険医さんってかなり美人じゃん?」

 

「それが目的かお前……」

 

「ほけんい?」

 

 

 立場上、春菜は今この場に居ないが、そんな不思議な面子達は二時間分を使った体育の授業の残りをサボる為に保健室へと足を踏み入れる。

 リトによって秘密裏に踏み潰された宇宙人の件の際に人質にされた春菜を連れていった時以来来ることも無かった場所であり、その時は保険医なる存在も居なかったので実の所、猿山が言う美人な保険医とはララ共々初対面だったりする。

 

 というのも全校集会の時等でもその保険医の姿は無かったのだ。

 

 

「ベッド貸してください。寝るんで」

 

「一応聞くけど、具合が悪いからかしら?」

 

「そういう事にしてください」

 

 

 まあ、その黒髪で猿山の言った通り確かに顔もスタイルも良い女保険医と会った所で変なTo LOVEるに遭遇する訳も無くサボりタイムに突入する訳なのだが。

 

 

「な、俺の言った通りかなり美人だろ?」

 

「え、リトってああいう人がタイプなの……? ど、どうしよ……そうだったら私悲しい……」

 

「あ? ……………………あー、まぁまぁじゃねーの? 俺は別にどうとも思わねぇ」

 

「……………。そういう話は本人の聞こえない所でやって貰えるかしら?」

 

 

 寧ろ見た所でリアスという絶対的な比較相手がいるせいで失礼極まりない台詞をポンポン言われて微妙な事になるだけだった。

 

 

終わり

 

 

 

 

 

 

 

 

オマケ・絶対的な壁

 

 

 ターゲットにより依頼人を消し飛ばされ、結果そのターゲットを狙う理由を失った例の金色の闇なる少女は地球に滞在していた。

 理由はそう、理由を失っても絶対に仕留めるという宣言をしたターゲットに勝利する為に。

 

 

「しつこい奴だな」

 

「ぐぅ……!」

 

 

 だが結果は変わらない。

 宇宙の中でも随一の殺し屋とまで唄われていた少女の今は、地球という小さな星に住む一人の少年に敗北を重ね続けていた。

 

 

「この際だからハッキリ言ってやろうか? 無駄なんだよ無駄、全身を細胞変化させて武器にしようがな」

 

 

 あらゆる宇宙人を仕留めてきた変身能力(トランス)が一切通じない。

 いくら息を殺して背後から首を狙おうが、見透かされてるかの如く避けられる。

 果てには人差し指一本……つまり凸ピンひとつに負ける。

 

 積み重ねてきた全てを嘲笑うかの如く粉々にする結城リトという地球人とは思えない地球人に、最近の金色の闇は最早必死だった。

 

 

「く……ハァッ!!」

 

「懲りない小娘だ……」

 

 

 全身をフル稼働させ、持ちうる手札を使いきり、あらゆる角度から攻め立てようとするヤミに対して、リトはその場から動かず、人差し指ひとつで捌ききると、その隙をついてヤミの額に向かって今回二度目となるデコピンを放つ。

 

 

「あつ……っ!?」

 

 

 まるで銃弾の様な鋭い破裂音と共にヤミの首が上を向き、地面を何バウンドもしながら吹き飛ばされる。

 

 

「っう……!」

 

 

 鈍い痛みが額を襲い、片手で抑えながら立ち上がろうとするヤミに、先程から腕時計に刻まれる時間を確認しながら相手をしていたリトは口を開く。

 

 

「大体わかってきたが、お前は相手を目で追おうとするな」

 

「あ、当たり前、でしょう……相手を仕留める為なんですから……!」

 

 

 そろそろ美柑との約束の時間だなと小さく呟いてから不意に話をするリトにヤミは悔しさで睨みながら当たり前だと返す。

 

 

「まあ、それが通用してきた連中だったんだろうな。……………だから駄目なんだよ」

 

 

 するとリトはヤミの眼前から文字通り消えると、目を見開く彼女の背後へと回り込み、手刀でヤミの首に触れた。

 

 

「!?」

 

「はい死んだ」

 

 

 リトの手が首に触れたその瞬間、反撃しようとする意思を削がれたヤミは全身を駆け巡る寒気に身を震わせ、硬直してしまった。

 

 

「重要なのは気配の強さや動きを掴むことだ。

お前は目で追うから俺の動きについてこれないんだ」

 

「そ、そんな事ぐらい私だって……」

 

「やってるのか? なら何で今俺に背後を取られたのだろうな?」

 

「そ、それは……」

 

 

 それ以上何も言い返せず、俯いてしまうヤミ。

 

 

「わざわざ俺が一人の時を狙うその根性だけは評価してやる、だがそれ以外は所詮ガキだお前は」

 

「………」

 

 強大な壁、遥か天から見下ろされる程の絶対的な差。

 

 

「まあ、何時だったかあの子が無理矢理結婚させられそうになったその相手レベルではあるんだけどな。

フフフ、じゃあな」

 

 

 普通ならこの時点で完全に心をへし折るだろう。

 

 

「ま、まだです……!」

 

「あ?」

 

 

 だが折る訳にはいかない。

 ここで認めてしまえば自分が自分じゃ無くなってしまう……だから認めてなるものか。

 感情に乏しい筈のヤミが生まれて始めて小さく灯った意思の火はリトという絶対的な壁からの無意識な施しにより大きくなり始めていた。

 

 

「まだ終わっていません……!」

 

 

 最初から今まで腹の立つ地球人にこれ以上後れを取って堪るか。

 トランスが通用しなければこの身で、それでも通用しなければ噛みつけ、それすらも通用しなければ睨み尽くせ。

 

 

「死を懇願した時、勝負は決まる。だから私は死を懇願しない……! あなたを仕留めるまで決して……!」

 

 

 とにかくこの地球人に敗北を認めるな……! 何度も何度も負け続けた結果ヤミは決して開ける必要も無かった扉の前に今降り立つ。

 

 

「………!」

 

『小娘の様子が変わった……』

 

 

 そのわずかな変化の兆はリトにも……そしてその姿を誰よりも近くで見ていたドライグを起こす事になった。

 

 

「……」

 

『成る程な、やはりそういう事か』

 

「何がだドライグ?」

 

 

 リトに自覚はない。

 何故ならリトは他人に対して壁を作ろうと努めるから。

 しかしそんなリトを見ていられなかったが為に時折口を挟んでいたドライグは直ぐに気付いた。

 

 

「…………!」

 

 

 自分の両手を見つめながら不思議がるヤミという少女の放つ『此方側』への片鱗の切っ掛けがこのリトによるものだということを。

 

 

(この感覚……確証なんて無いのに、何故か出来るという気がしてならない……)

 

 

 結城リトの持つ―――否、兵藤イッセーとして持っていた異常性・無神臓(インフィニットヒーロー)は、限界という概念無く無限にその力を進化させる事が可能な異常性だ。

 そしてその異常性は自ら『敵』では無いと判断した相手にも作用させ、進化を促す事ができる。

 

 

「急になんだ小娘……」

 

「わからない。けど、突然今ならアナタの足元に食い付ける気がしてきました……」

 

「へぇ……さっきまで心をへし折ろうとしてたのにか? 頭がおかしくなっちまったか?」

『小娘の言っている事はハッタリじゃないぞイッセー』

 

 

 本来ならかつてイッセー自身が心底信頼し合う仲間達や、愛したリアスにのみ適応されていた条件だった。

 だが結城リトとして生き、ララと出会い、美柑という妹とのぎこちなさが解消され、猿山という本来そうだったかもしれない自分との交流により無意識に他人に向ける壁の厚さが薄くなった事が、このヤミに対して集大成として送られたのだろう。

 故に……。

 

 

「!」

 

「身体が今までにないくらいに軽い……!」

 

『開けかけているな』

 

 

 暇さえあれば与えられ続けた敗北と、その僅かな交流が金色の闇を次のステージへとリト自身が引き上げたの

だ。

 

 

「……っ」

 

「人差し指では無く腕で防ぎましたね?」

『イッセー! 上だ!!』

「!?」

 

 

 その証拠に、先程まで風前の灯火だったヤミから毛色の違う覇気が放たれ、その速力も力も今までに無い程に強くなっていて、驚異にも感じなかったトランス能力を今始めて防いだのでは無く躱したのだ。

 

 

「や、やった……初めて結城リトに攻撃できた……!」

 

「………」

 

 

 咄嗟に突き飛ばし、後方へと飛び退いた事でダメージにはならなかったが、ヤミが思わず喜ぶ様に、たった今初めて、短い期間ながら暇さえあれば挑んだ結果100は越えてる戦闘の結果、リトの腕に小さな傷をつける事に成功したのだ。

 

 

「…………」

『進化したな小娘は。

そのつもりが無かったにせよ、お前の煽りに対して見事に応えたのだ』

 

 

 右腕から少しだけ流れ出る血を見つめるリトに、何故だか少し喜んでる声色で話すドライグ。

 それはまるで友達の居ない息子にやっと友達が出来たと喜ぶオカンの様だ。

 

 

(頭が冴える、力がみなぎる……。

何故だかわからないけど、全く捉えられなかった結城リトが見える……)

 

 

 その進化はヤミ自身にも何なのかはわからない。

 だが突然にしろ何にせよ、今なら結城リトに追い付けるという自信はあった。

 いや、そればかりでは無い。

 

 ヤミの頭の中には初めて結城リトと邂逅した際に彼が見せた赤い閃光が何なのかが今理解(ワカ)った。

 そしてその使い方も。

 

 

(確か全身から赤いオーラみたいなのを放って……手に集束させてて――こんな感じ?)

 

「……!?」

 

『何だと……!?』

 

 

 鮮明に覚えているあの時の結城リトの姿。

 依頼人を消した後、自分に向けられた謎の力。

 何故かはわからないけど、今なら自分も出来そうな気がしたから試したけど……大当たりだった。

 

 

「滅びの……魔力……」

 

 

 使える、自分も。

 ちょっと疲れるけど、自分も真似できた。

 結城リトがショックを受けている辺り、これは間違いなくそうなのだろう。

 金色の髪を手の形に変化させ、自分の両手の掌の上に生成したこの不思議な力を補助の目的で抑えるヤミを見てドライグは予想外に驚いてしまった。

 

 

『あ、あれはリアスの正心翔銘(オールコンプリート)……』

 

 

 かつてイッセーが愛した悪魔が開きし扉と同じであった事に。

 

 

「…………………………………」

 

『よせイッセー!! あの小娘が悪い訳じゃない!!』

 

 

 そして地雷である事に……。

 

 

終わり




補足

ドライグさんがオカンになって内から宥めまくってるというね……。
別の意味で大変だ。

その2
超戦者だとおもってた? 残念! 正心翔銘でしたー!!

……やばい、F-1カーの如くぶちぬいてる。地雷だけども。


その3

ヤミたそー!



ちなみに、無神臓と正心翔銘は相性という意味では互いの欠点を補えるという意味で気味悪いレベルに良すぎるらしい。

それを踏まえてイヴたそー! ……じゃなくてヤミたそー!

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