タイトル通り、最初からエンジン全開のシトリーさんのお話。
放置してた没話・燃え尽きイッセーとシトリーさん
所詮幻だったのかもしれない。
勝つも負けるも愛すも愛されるも何もかも、所詮俺が手に入れる事なんて無理だったんだ。
その事に気付くのに俺は少し時間を掛けすぎた。
ならばどうすれば良い? 記憶も自我を手離す事すら叶わず生きながら殺される思いしかしないこのクソッタレな人生すら自分で終わらせる事すら出来ない搾りカス同然の俺に何が残っている?
戦いの経験か? それとも敵を殺す技術? そんなものは最早役に立たないだろう。
だって俺には守るべき者なんて居ないのだからさ……。
そしてもう作りたくなんかない……。
だからもう、頼むから俺を見ないでくれ……外様から放り込まれて未だに生き恥を晒してるだけの俺なんか。
覇気も気力も無い。
友人に囲まれては居ないし、常に一人で地面の小石を摘まんでは適当に投げている。
そんな少年だからこそ目立つ訳も無いし、名前は知っているけどそれだけの認識という印象しか持たれないのだ。
「……………………………」
そんな少年を両親は既に諦めている。
まともに溶け込む積極性も協調性も無い息子はこういうタイプなのだろうと、口を挟まなくなった。
少年としてもその方が有りがたかったし、期待に添えられる息子になれずに申し訳なく思っていた。
「………………」
それ故少年は学校ではほぼ一人だ。
意味は無いけど心配する両親に申し訳が立たないので早起きして学校に行き、こうして独り屋上から部活の朝練をしていたり登校している生徒を何の感慨もなく見下ろす事で無心――早い話が頭の中を空っぽにしている。
その方が彼にとってとても都合が良いから。
「思った通り」
「…………」
頭を空っぽにして余計な事の全てを考えないようにする。
それが空っぽになった少年が心を軽くできる儀式であり、無表情で無感情で無関心丸出しな顔で屋上から見える景色を見下ろしている訳だが、そんな彼に対してどこで何があってそうなったのか全く本人にも身に覚えの無いのにも拘わらずわざわざ近寄ってくる者が居た。
しかもそれは肉親やワケあって居候中の従姉弟では無い他人――つまりこの学園の生徒であり、しかも少年のひとつ上の学年の謂わば先輩。
「…………」
そんなセンパイが――しかも女子がわざわざ屋上まで来て声を掛けてくれたというのに、少年は一瞥もくれる事もなく無視をしている。
後輩としては最低に失礼な態度なのだが、そのセンパイさんは慣れているのか、それとも頭のネジでも抜けているのか、特に気分を害した様子もなく軽く笑みを浮かべている。
「おはよう、今日も早いわねイッセーくん」
「……」
黒髪と眼鏡という見た通りな感じの雰囲気を持つ人、支取蒼那という名前の少女は、無感情に屋上からの景色を眺めている少年――イッセーに挨拶をすると、さも当たり前の様に隣に寄り、一緒になって景色を眺める。
「…………」
「まだ少し冷えるわね、寒くない?」
現在二学年のイッセー少年と彼女が顔を合わせたのは入学してすぐだった。
ある理由があってこの学園への進学を目指し、同い年の従姉弟に着いていく形で入学した際に当時は偶々出会しただけだった。
無論、いくら黒髪で頭の良さそうな美少女だろうが、関心が無い――いや、とある理由で寧ろ軽く殺意しか持たなかった少女なんかどうでも良く、イッセーはこの学園に入学した最大の理由である、彼女とは違う同学年少女にて既に学園の中で人気者だった少女を探した。
その結果は今のこの腑抜けきった状態を見てお察しの通り、イッセーが探した少女はイッセーにとってやはり『別物』だった。
半ば予想した通りだったので仕方ないと本人は何度も自分の中で納得した。
しかしそれ以降、更に腑抜けたのは云うまでもなく、皮肉な事にその少女は自分の存在すら認識はしていないだろうというのに、代わりに寧ろ嫌いかもしれないとすら思っている黒髪の少女に目を付けられてしまった。
「生徒会室に来ない? 今なら誰も居ないわよ?」
「結構です」
何故わざわざ構ってくれる少女を――しかも美少女に寧ろ軽く殺意を抱いているのか? それはイッセーの抱える秘密というべき過去によるものが大きい。
「その顔見てると粉々にしてしまいそうになるんで」
「あら……」
兵藤イッセーには謂わば前世というものの記憶がある。
その記憶は別世界の自分自身が辿った一生の記憶であり、前世においてこの少女は謂わば不倶戴天の敵だった。
無論、この世界に於いて彼女は裏切り者なんかでは無いし、逆に前世では本気で心を寄せた――先程述べたこの学園にわざわざ入る理由だった赤髪の少女だってイッセーにとってはまるで『別物』なのだ。
故にわざわざ邪険にする理由だって無いのだけど、やはり敵だった者と仲良く出来る程、今の燃え尽きたとも言えるイッセーには無かったのだ。
「粉々にされるのは困るわね。
あ、いやでもアナタの手で好き勝手弄ばれるが嫌とかではないし、寧ろ良いけど……」
「…………」
なのにも拘わらず――というか、以前一度その理由全てを自身の記憶を見せ付ける形で見せたにも拘わらず、この少女の頭のネジは見た目にそぐわぬ抜け落ちっぷりのせいか、恐れる様子も何も無く毎日毎日暇さえあれば近寄ってくる。
何故なのか? それはイッセーもそうである様に、この少女もまたそうなのだ。
「というか、前に一度バラバラにされちゃったし」
「…………」
ゾッとする程に綺麗に微笑む少女。
外面だけは完璧にしているせいで誰も気付いてないから余計に質が悪いのだけど、イッセーにしてみれば彼女の目は綺麗に腐っていた。
「そのまま肉片になってしまってもよかったけど、やっぱり惜しいじゃない? やっと見つけられたのだから」
きっとこの側面の彼女を知る者は居ないのかもしれない。
そうで無ければ生徒会長なんてやってられる訳が無いし、そもそも支持率なんか集まる訳もない。
それほどまでに今の彼女から放たれる雰囲気はおぞましく、吐き気すら催す程に最低なものだった。
「あぁそう。ウザいよアンタ」
だからという理由では無いにせよ、イッセーは明確な拒絶の姿勢を送りつけるが、恐らく言った所で『はい、そうでございますか』と聞くような性質では無いだろうと内心毒づく。
これもまた皮肉な事であり、ひょっとしたら反逆をして数えるのすら面倒な数の殺生を行った罰としか思えない。
かつて欠片の才能すら無く、一人の男を巡って醜い争いをしてきただけの裏切り者でしかなかった者が、この世界ではその気質を所有しているのだ。
しかも、誰も得なんかしないマイナスの方向に。
「俺に何を感じているのかは知らないけど、悪いが迷惑でしかない」
「今日もツンが冴え渡るわね」
それだけなら、イッセーにしてみればどうでも良い話だった。
けれど彼女は――これもまた皮肉な事に『同じ』であるイッセーを見付けてしまった挙げ句、いくら迷惑だと言ってやろうが、誰に吹き込まれる訳でもなく『持っている』少女は近付くのをやめようとしない。
一度完全にバラバラの肉片にしてやったにも拘わらず、イッセーの前では制御する気が欠片もない性質を駆使して何度も何度も……。
「あら、リアスが登校して来たわ」
「……!」
此方の気持ちを見透かした上で嫌がらせの如く……。
「相変わらずの人気者ねぇ……?」
「………」
「アナタの従姉弟も一緒じゃない。たしか兵士になったのよね?」
「………………」
「でも悲しいわ、あのリアスはアナタの知るリアスじゃあ無いのが」
「黙れ……」
「辛いわよね? アナタが心底惚れ込んだリアスでは無いリアスが、アナタに救われなくても幸せなのが?」
「うるせぇ……!」
ニコニコと、囁く様な声でイッセーの傷口を抉る生徒会長にて本性は悪魔であるソーナ・シトリーに抑えられない殺意が膨れる。
だがソーナの口が止まることは無かった。とても楽しげに、とても嬉しそうに、多くの生徒達から好意の意味で迎えられているリアスはその裏切り者ではない仲間達の姿から目を逸らすイッセーに今の状況を的確に心の隙間を縫うかの如く囁き続けていく。
「そうよ、リアスは裏切られやしない。
そしてアナタが居なくてもリアスは生きていける、だから――」
それがトリガーとなり、いよいよ線が切れたイッセーの拳が微笑むソーナの頬を貫き、反対側の手摺まで殴り飛ばされた。
「横でガタガタとうるせぇんだよボケが……!」
「あ……ぁ……も、もーれつぅ♪」
シミひとつとて無い綺麗なソーナの頬が殴り抜けられる事で腫れ上がり、奥歯の何本かがへし折られ、その破片により口の中を切ったのか血が流れ出ている。
しかしそれだけの事をされてるにも拘わらず、手摺を背に崩れ落ちているソーナはとても楽しげに冗談を口にしていた。
「奥歯が折れちゃったわ。あぁ、バイ菌でも入って顔の形が崩れちゃうのかしら? 痛みが無くなってきたから壊死しちゃった? あははは、どっちでも良いわね」
「…………」
誰にも制御の方法を教えられなかったせいか、ソーナの精神は壊れている。
よろよろと立ち上がり、今まさに殴った相手であるイッセーに頬が腫れた顔で変わらず微笑むし、殴られた衝撃で吹っ飛んだ眼鏡はレンズが割れた状態で近くに落ちている。
それが余計にソーナの本質がまともでは無いことを如実に著していた。
「私を殴ることで気が収まるならそれで良いわ。
ふふ、でもさっき言った現実はどう足掻こうとも覆らない。
リアスはアナタ抜きに幸せに生きる……」
「っ……!」
そんなまともじゃない悪魔の世迷い言にイッセーは血が滲み出る程に固く握った拳に力が抜けてしまう。
そう、ある意味ソーナの言っている事は正論なのだ。
自分が居なくとも彼女は幸せ……そこに入る余地なんてありはしない。
「だから逃げちゃえば良いのよ? 辛い現実から目を背けてもアナタを責める者なんて居ないわ。
居たとしてもそれは事情を知らない連中ってだけだし、私はそんなアナタを否定しない」
拳に込めた力が抜けると同時に、立ち上がったソーナは殴られた箇所の傷が『嘘みたいに』消え、割れたレンズの眼鏡を拾い、身体を震わせて俯くイッセーへとゆっくり近付きながら、悪魔らしい甘言を囁く。
「アナタの辛さはこの世で私だけが知る。そしてその捌け口になれるのも私だけで、同類なのも私とアナタだけ。
だからその辛さを私に少し分け与えましょう? そうすればアナタの抱く嫌な事やストレスはみーんな私が何とかしてあげるから……」
何時か自分や仲間達を導いた人外は言っていた。
純粋な過負荷はかなり惚れやすい――いや、シンパシーを抱いた相手に対する執着と依存が強い。
誰にも己の本来の気質を理解してもらえなかったソーナにとって、イッセーとは隠す必要と遠慮する必要も無い同じ気質の存在。
だから彼の抱くストレスの原因を知った時から、彼女は忘れさせ様とする。全ては己が彼の全てを享受したいが為に。
「悲しいわよね? 良いわ、その悲しみを私にぶつけてちょうだい? まぁ、リアスと違って体型はそれなりに貧相だからアレだけど……」
優しく包み、腐らせる。
「空き教室の鍵を持ってるから……行きましょう?」
「…………」
唯一の同類にて本来の自分を恐れない惚れた男の子の持つ愛情を奪う事こそ、今のソーナの生きる意味なのだから。
「リアスは別にしても、アナタの従姉弟が見たらどんな顔になるのかしらね? いっそ言ってやりたいわ、おたくの従姉弟とは何度か寝たって……ふふふ」
ソーナ・シトリー
備考・天然のマイナス。
「ちくしょう……」
補足
若干風紀委員ネタ要因も入ってます。
なので転生従姉弟さんも居ますが、違いとしてはこのイッセーは全部がどうでも良くなりすぎてその方とは可もなく不可も無い仲です。
向こうがどうにせよ……。
その2
コンセプトとしては廃れた繋がりという感じですかね。
彼女を忘れられないからこそ蓄積されまくるストレスを比喩無しで身体を張って受け止めようとするソーたんみたいな。