色々なIF集   作:超人類DX

288 / 1033
ソーたんがガチり出したが……まあ、そうは問屋も卸さねぇ訳で……。





ストレス爆破

 身体に力が入らない。

 体調が悪い訳では無いのに、動かそうという気力が無いせいなのか、全く動きたくない。

 

 抜け出せない泥沼に首まで浸かり、もがいた所で全てが無駄になると理解してしまっているからだとするなら否定も出来ない。

 

 同じであるという現実が続く限り。

 

 

 

 

 

 

 イッセーがメンタル的に死にかけていた頃、兵藤凛は本来の兵藤一誠の代わりに幼馴染みであり天界陣営所属の紫藤イリナと再会し、その相棒であるゼノヴィアと知り合いになり、その際仲間である木場祐斗が聖剣への復讐で失踪したのでアーシアと小猫の三人で祐斗を聖剣騒動にノータッチと決めたリアスに内緒で捜索していた。

 

 

「まずはイリナちゃんとゼノヴィアさんの二人を探そう。

それで聖剣探しを手伝うの。そうすれば同じく独自で探してるだろう木場君と会える筈だから」

 

 

 その為にイッセーが実は一晩家に帰らなかった事に不覚にも気付いていない。

 いや、或いはそのまま気付かない方が良いのかもしれない――まさか全く消えないまま噂だけが広まり、結局どうなのかもイマイチわからない例のソーナと寝ていただなんて知ったら泣きわめく可能性の方が高いのだ。

 

 

「イリナって人は凛先輩の幼馴染みの人ですよね?」

 

「そうだよ小猫ちゃん。勿論イッセーもね?」

 

 

 

 悪魔に転生したアーシアの事を堕ちた聖女と揶揄し、一騒動あったものの、アーシア自体は気にしない事にしており、イリナとゼノヴィアの二人と接触する事に抵抗は無い様子。

 無論祐斗を探すという意味では小猫も異論は無い。

 なので先ず最初は先日部室で会合した教会二人組を探す事にした訳だが、割りとアッサリと見つかった。

 

 というのも道端で布教活動をして金を貰おうとして声を張り上げていたからだ。

 

 

「迷える子羊に天の恵みを~」

 

「天の父に代わって哀れなわれわれに慈悲を~」

 

 

 

 

 

「何をしているのでしょうかあの人達は?」

 

「見た限りでは布教活動をしてますけど……」

 

「さ、さぁ……?」

 

 

 道行く一般人に慈悲という名の金を要求している二人に小猫とアーシアが呟く中、何かの理由で金が無くなったからあぁしてると知る凛は誤魔化しながらも、取り敢えず見付かった二人にご飯を食べさせてあげて警戒心を解こうと声を掛けるまさにその時だった。

 

 

「あ……い、イッセー!?」

 

 

 ちょうど近づきながら声を掛けようとしたその時、フラフラと心此処に非ずといった顔をしながら一円すら入ってない空の箱を抱えたイリナとゼノヴィアの前を通りすぎようとしていたのを発見、思わず慌てて元居た陰に隠れた凛は、アーシアと小猫の二人で呼び止められてるイッセーをじーっと観察する。

 

 

「弟さんですよね……」

 

「そうだけど……イリナちゃんは気づくかなぁ」

 

「あ、声を掛けられました」

 

 

 三人の視線の先には、お慈悲をを連呼しながら空箱を差し出す二人に通せんぼされているイッセー。

 誰も知らない事だが、またしてもソーナに逃げた事と転生者と同じ穴の狢という今の現実というダブルコンボでメンタルが死んでいて、簡単に死ねそうな手段と場所がないか無意味に探し回って徘徊しているという背景があるのだが、当然誰もその事は知らないし、案の定眺めていると、最初は慈悲を連呼しまくっていたイリナが、虚ろな目をしているイッセーの顔をまじまじと見つめる事で彼がイッセーである事に気が付いて驚いていた。

 

 

「も、もしかしてイッセーくん!?」

 

「む、知り合いかイリナ?」

 

「え、ええ……昨日凛ちゃんという幼馴染みが居たでしょう? 彼はその凛ちゃんの弟で……」

 

「……………………………」

 

「何? ということは―――って、さっきからこの男に生気を感じないが大丈夫か?」

 

「昔からクールだったから……でも確かに顔色も悪そうね、大丈夫?」

 

「…………………………………」

 

 

 

 イリナとゼノヴィアがイッセーの様子がおかしいと気付く中、イッセー本人はというと、死んだ後のカブト虫みたいな生気を失った目で目の前の二人組に対して思った。

 当然の事ながら、かつての世界にもイリナもゼノヴィアは存在し、転生者に与した者なのだが、いかんせん当時のイッセーはキレッキレの極端思考だったが為に、あっさりとバラバラにして殺してしまった事すら記憶に残ってなかった。

 なのでこの二人が何なのかも殆ど初見だし、凛と親しくしていた男の子みたいな女の子だってことすら覚えていない。

 

 

「大丈夫イッセーくん? 顔色が……」

 

「待てイリナ、兵藤凛の弟という事ならもしかしたら悪魔かもしれんぞ?」

 

「た、確かに……でも気配なんて無いわよ?」

 

 

 立場上、イッセーが転生悪魔かもしれないので慈悲を与えるべきではないと主張するゼノヴィアにハッとするイリナだが、さっきから勝手にフラフラと行ってしまおうとするイッセーを取り敢えず止めながら悪魔の気配は全く感じないと返す。

 当然の事ながらイッセーは転生悪魔ではないので一応慈悲とやらを与えても異端にはならないが、慈悲とやららを与える以前に腹が減りすぎてそれどころではない。

 

 

「ふむ、気分が悪いならどこかで休むか? ちょうどあそこにご飯が食べられる店があるが……」

 

「……。ゼノヴィア、貴方まさかイッセー君からタカるつもり?」

 

「違うな、彼の具合が悪いなら何とかするし、その為には落ち着ける場所が必要なだけだ」

 

「…………」

 

 

 やっぱりタカるつもりなんじゃないの……と内心思うイリナだが、確かに空腹は辛い。

 見たところお金を無駄遣いするような感じはしてないし、ほんの少し借りれば大丈夫だろうと、空腹に負けたイリナがゼノヴィアの指したファミレスに行かないかとイッセーに話しかけようとしたその時だった……。

 

 

「ま、待った!」

 

 

 それに待ったを掛けたのは、我慢できずに思わず飛び出してきた凛とその後ろをトコトコ着いてくる小猫とアーシア。

 

 

「り、凛ちゃん!? え、えっとその……!」

 

「キミ達か。何の用だ? 見ての通り今我々は具合の悪そうな彼に慈悲を与えようとそこの飯屋に……」

 

「タカるつもりでしょう? 道行く人々にせびってたし」

 

「タカるとは失礼だなキミは? 慈悲を乞うただけだよ」

 

「…………」

 

 

 小猫の突っ込みに対してシレッとしながら違うと言い張るゼノヴィアだが、腹の虫は何か食わせろと煩いので全然説得力は無い。

 

 

「ち、違うのよ凛ちゃん? い、イッセーくんとお話がしたいなぁ……って」

 

「…………。お金がないの?」

 

「うっ!? ちゃ、ちゃんと支給されてたんだけど、不慮の事故というか……あ、あははは」

 

 

 そして反対にイリナは、昔通りならまず間違いなくイッセーにたかろうとした事がバレたら凛が怒ると思い、必死に笑って誤魔化そうとしている。

 結局イリナとゼノヴィアは凛の奢りでファミレスに行ける事になる訳だが、今にも死にそうな目をしているイッセーを放置する等出来る訳が無く、さっきから一言も声を出さない彼も同席させる事となった。

 

 

「うまい!」

 

「これが故郷の味よ!」 

 

 

 注文してから料理が来るまでは周囲の他のお客さんのほのぼのとした空気とは真逆の微妙に気まずい何かが流れていたが、料理が来て食べ始める頃にはそんな空気は霧散していた。

 

 

「何か食べる? お金なら私が出すから……」

 

「いい……要らない……」

 

 

 イリナとゼノヴィアは取り敢えず食わせとけば暫く大丈夫だろうと放置し、凛はしきりに水すら口に入れず疲れた様に天井をボーッと見ているイッセーを構いまくる。

 まさかこの状況でイッセーと出会すとは思わなかったし、よくよく考えたら一般人のままであるイッセーを同席させるのはまずいかもしれないとも思ったけど、イッセーとファミレスに行くなんてそれこそ両親に無理矢理連れていかれる事以外無かったので、若干テンションが上がってしまっている。

 

 

「………………」

 

「イッセー……」

 

 

 とはいえ、この様子は一体どうしたのか。

 生きる気力というものがまるで感じられないし、流石にテンションは上がれど心配になってしまう。

 しかしイッセーは何も語らずボーッと思い詰める様な表情を見せる。

 

 

「っ……」

 

 

 とっくの昔にこのイッセーが原作とはかけ離れた性格である事を受け入れているが、逆にこうも憂いに満ちた表情は、同い年の男子には感じない妙な色気も相俟ってどぎまぎさせられる。

 

 

「う……ゎ……」

 

「お、おぉ……」

 

 

 ちょうど凛と同じ様に見てしまったのか、アーシアと何故かイリナが同じようなリアクションをしている。

 これも皮肉な話だが、かつての愛した者達以外からの受けが良くなってしまっているのかもしれない。

 

 

「…………」

 

 

 

 まあ、この世界では敵対もしてなければズケズケと踏み込んできたソーナ以外に殺意を抱いてないからなのかもしれないし、逆に小猫なんかは微妙に面白くなさそに凛に構われてても無反応なイッセーを見て食べてる訳だが。

 

 

「ふぅ、腹も膨れて満足だ」

 

「ありがとう凛ちゃん、お世話になっちゃって……」

 

「ううん、大丈夫。それより二人に提案があるんだけど……」

 

 

 何だかんだとあったが、取り敢えず上手く二人に接触できた凛はこの腹が膨れて機嫌が良い所を見計らって話を切り出そうとするが、横にイッセーがまだボーッとしてる状態で居る事に気付いて上手く話せない。

 

 それを察したのか、それとも偶々なのか、徐に席を立ったイッセーは一切注文してないのに財布から一万円札を出して無言でテーブルの上に置いた。

 

 

「あ、ま、待って! こ、このお金は?」

 

「……………………。それくらいあれば全員分くらいにはなるだろ? 釣りは要らねぇ……」

 

 

 どうやら自分は食べていないのに、全員の料金を払うつもりらしく、やっと声をだしたイッセーがそれだけを言うとそのまま帰ろうとする。

 しかし当然何も注文していないイッセーに金を出させる訳にはいかないと凛は止めようとする。

 

 その際、然り気無くゼノヴィアが全員の視線から外れた一万円札に手を伸ばそうとし、それに気付いたイリナに手を叩かれて怒られるというやり取りがあった。

 

 

「何か込み入った話でもあるんだろ? 俺は帰るよ……」

 

「で、でも具合悪そうだし……」

 

「別にどこも悪くないさ……どこもな」

 

 

 メンタルがズタズタなだけで至って超健康体だと返したイッセーに凛は食い下がりたかったが、イリナとゼノヴィアに提案しなければならない話をイッセーに聞かれる訳にもいかなかったので、後ろ髪を引かれる思いはするが、そのまま見送る事にした。

 

 

「あ、待ってイッセーくん、その……ありがとうね?」

 

 

 その際、イリナが少し罰の悪そうな顔で礼を言う。

 

 

「別に。(…………。さっきから思ったが、あの二人は何だ?)」

 

 

 しかし悲しいかな、かつての世界含めて一切記憶に無いイッセーは、イリナもゼノヴィアを全く知らないし関心も無かったので礼を言われても微妙な反応しか返せない。

 すると今度は少し遠慮しがちにアーシアが小さく挙手し始める。

 

 

「あ、あのー……私が居ても役に立ちませんし、このまま一旦イッセーさんとお家に帰ります。やっぱりお一人にするのは凄く心配ですし……」

 

「え、アーシアちゃんが……?」

 

「……」

 

 

 思いがけない提案に凛は驚き、何気に小さく挙手しかけていた小猫は誰にも気付かれないままその挙げかけた手を降ろし、やっぱりつまらそうにオレンジジュースの入ったグラスに指したストローを咥える。

 

 

「……。ちょっと待ちなさい、アーシア・アルジェント? アナタ今一緒に帰ると言ったけど、まさか凛ちゃんとイッセーくんの家に住んでるわけ?」

 

「は、はい……お世話になってますが」

 

「…………はぁ!? 何でアナタが!? 意味がわからないんだけど!?」

 

「そ、それはその……」

 

 

 その際急にイリナが喚き出し、アーシアはオロオロしてしまう。

 何気に話がまとまるまでこの場に居とかないと面倒かもしれないとイッセーは律儀にどうするのかと待ってる訳だが、正直一人の方が良いのでこのまま残れと思ってたりする。

 

 

「お、落ち着いてよイリナちゃん。

と、取り敢えずアーシアちゃんにお願いするよ、イッセーもそれで良い?」

 

「………………………………。どっちでも良いよ」

 

 

 内心『チッ』と思うイッセーだったが、わざわざその本音を言って空気を悪くするのもアレだしと、ぶっきらぼうに返すと、まだ何か言いたそうなイリナから逃がされるかの様に凛によって外まで見送られた後、かつても現在も一切まともに喋った事が無いアーシアと帰宅する事になるのだった。

 

 

「………………」

 

「あ……」

 

「…………………」

 

「うぅ……」

 

 

 当然、親しい者相手だと本来のイッセーに近い楽しい性格になるが、アーシア相手にそんな面が出るわけも無く、またメンタルもズタズタな為、無言に無言を重ねた気まずい空気の中、家を目指してテクテク歩く事になった。

 

(な、何か! 何かお話をしないと……!)

 

 

 そんなイッセーの無愛想通り越して単に嫌な奴にしか見えない態度にも拘わらず、アーシアは何とか会話の糸口を掴もうと必死だった。

 凛に救われ、その上家に住まわせてくれた際に、知り合った当初から聞かされてきたイッセーと初めて出会い、今に至るが、二人になるのはこれが初めてだった。

 

 凛か最近では藍華を介してなら何度か話をした事はあるが、多分それはまともな会話とは呼べない。

 だからこそアーシアは無言過ぎて寧ろ逆に気になって仕方ないイッセーと話をできたら良いなと今回の行動に出た訳だが、結果はご覧の通りイッセーから話を振られる訳も無く、ただただ家までのチャンスの時間を浪費していた。

 

 

「あ、あの!」

 

 

 だからアーシアは思いきった。

 同じ家に居て全くお話が出来ないのは嫌だと、アーシアは勇気を出した。

 

 

「お、お星様が綺麗ですね!?」

 

「まだ陽が出てるんだから星なんかないだろ」

 

「あぅ!」

 

 

 糸口を掴む為に必死でベタな事を言ってみたが、意外な事に返ってきたイッセーの言葉通り星なんか見えなかった。

 途端に恥ずかしくなり、真っ赤になって下を向いてしまうアーシア。

 

 

「そ、そうでしたね……ごめんなさい

 

 

 恥ずかしくて消え入る様な声になるアーシアの勇気はそこで完全に途切れてしまう。

 結局チャンスを獲ても自分じゃダメなのか……そう思い、諦めかけたその時だった。

 

 

「気持ち悪い悪魔の臭いがすると思ったら、なんてこったい! お久しぶりのアーシアたんじゃあありませんかぁ!!」

 

 

 アーシアにとっては恐怖の対象となる存在が奇声まじりの声と共に襲撃してきたのだ。

 

 

「ふ、フリード神父……!?」

 

「はいはーい、フリード様ですよーん? おやおやぁ? 俺っちをムカつかせた雌悪魔は居ないのかぁ?」

 

「っ……!」

 

 

 白髪に正気とは思えない狂った表情で嗤って言うフリードにアーシアは内心しまったと思う。

 自分はまともに戦えず、相手はあのフリードでしかも一般人のイッセーが居る。

 

 ニタニタするフリードとは反対に、唐突すぎて反応できてない様子で棒立ちするイッセーを危険に晒す訳にはいかないとアーシアは必死に声を出す。

 

 

「こ、この方は偶々道を訪ねてきた方です! 何の関係もありません!!」

 

「へぇ? 随分必死じゃなぁい? 何か怪しいなァ? まあ、クソ悪魔と関わる時点で冒涜野郎確定ですから? スパッと浄化しちゃうけどねぇぇっ!!!」

 

 

 話が通じる相手ではなく、ケタケタと笑いながらどこからともなく剣を取り出したフリードにアーシアはその剣から発せられる聖なる力に転生悪魔になった事で招じた聖なるものへの本能的恐怖を刺激される。

 

 

「そ、それはまさか……!」

「へぇ~? アーシアたんもわかっちゃう? さっすが元聖女……いや、悪魔になっちまったからかな? お察しの通りこれは正義の聖剣サマだよーん!!」

 

 

 そう言いながら辺りのものを切り刻むフリードにアーシアは危機を感じ、イッセーは……。

 

 

(あんな棒切れの為にこんな小さい事したのかよ、おっさん……!)

 

 

 ソーナから獲た情報と照らし合わせ、あの人物がこの世界のコカビエルの手の者と判断し、絶望中だった。

 

 

「とにかく俺っちもかつてのお仲間をバラバラにすんのは心苦しいんだけど、この聖剣サマの錆にしてやんよ?」

 

「っ!? い、イッセーさん! 逃げてください!」

 

「……………」

 

「おおっと、健気だねぇ? 逃がすわけねーじゃん?」

 

 

 この世界のコカビエルはまだ直接見ていない。

 だがこんなしょうもないナマクラなんか使おうとする時点で、自分の知るコカビエルからかけ離れていると思ってしまう。

 

 

「………」

 

「おお? 逃げずに出てきた?」

 

「なっ!? 何をしてるんですか! 早く逃げて!!」

 

 

 もう良い。もううんざりだ。

 小娘に逃げろと言われるし、声が喧しいどこの誰とも知らない小僧は勝手にハイテンション。

 どいつもこいつも勝手に自分は簡単に死ねる人間と思ってるのがどうしようもなく腹が立つ。

 

 こっちは限界までレベルを下げても死ねないというのに……。

 その現実に腑抜けていたイッセーの身体から抜けた気力が怒りによって充填されていく。

 

 

「おいおい、何だその目はァ? まさか俺っちと戦うつもりかよ? バカかお前?」

 

「た、戦うって! や、やめてください! あの人は普通の人じゃないんです! だから――」

 

 

 善意でアーシアが逃げろと言ってるのは流石にわかるし、自分を一般人と思ってるからこそなのも理解する。

 しかし、気にくわない……かつて殺してやった雌犬共とは違うとはいえ、庇われてたまるか。

 

 

「嘗めんなよ……!」

 

 

 そんな一時的な怒りが、爆発する時、封じてきたイッセーの力は全身を纏う赤きオーラとして放出する。

 

 

「は……?」

 

「え……」

 

 

 イッセー全身から放出されるバーナーの様な赤いオーラはその色に呼応するかの如く瞳と髪の色をも赤色へと変化する。

 心なしか容姿が若返って幼く見える気がするその姿にフリードは当然としてアーシアも唖然としてしまう。

 

 

 

「下がれ」

 

「あ、あの……イッセーさん……?」

 

「良いから下がれ!」

 

「っ!? は、はい……!」

 

 

 初めて怒鳴られたアーシアがビクッとしながらも、イッセーの全身から放たれる神々しい赤きオーラに一種の頼もしさを感じ、言われた通り下がり、思考が飛んでるフリードと向かい合うイッセーの背をみつめる。

 

 

「はっ!? お、おいおい? 急に意味わかんねー事になってるけど、それで俺に勝つのか?」

 

「…………」

 

 

 唐突すぎて動揺したものの、オーラから()()()()()()見かけ倒しだと判断したフリードは聖剣を構える。

 するとその瞬間、煌めく赤きオーラを纏ったイッセーの姿がフリードの視界から完全に消え、一瞬で目の前に立たれた。

 

 

「なっ!? テメッ!!」

 

 

 あまりの速力に面を食らったフリードだが、咄嗟に持っていた剣を横に凪ぎ払う様に振るうが、その刃は再び姿を消したイッセーを捉える事は出来ずに空を切る。

 

 

「く、クソっ!!」

 

「な、何が……イッセーさんの姿がフリード神父の周囲で現れたり消えたり……」

 

 

 フリードの周囲を現れては消えてと、超高速で移動

して撹乱する姿にアーシアはただただそう思うことしかできないし、何よりフリードが完全に翻弄されているという事実が信じられない。

 

 

「いい加減にしろクソがァ!!」

 

「…………」

 

 

 フリードもおちょくられていると思い、完全に剣を振り回す。

 するとそれまでフリードの周りを移動していたイッセーが下がれと言われて下がっていたアーシアの横に出現……。

 

 

「弟子でもなんでもねぇ小僧が……」

 

「わっ……!?」

 

 

 小さく呟いた後、赤いオーラをより巨大化させながら地を抉る様に真っ直ぐフリードへと肉薄すると、反応できないその顔面を貫く一閃を直撃させた。

 

 

「ガバッ!?」

 

 

 あまりの勢いによりフリードの身体は周りの物を破壊しながら何百メートルと吹き飛ばされ、持っていた聖剣を手離してしまう。

 

 

「…………」

 

「う、嘘……」

 

 

 地面を転がる聖剣を足下に、イッセーから赤いオーラが消え、頭髪も元の色に戻る。

 本当ならこんな力をわざわざ出す事は無かったが、苛立ちとコカビエルの手の者なら一応強いだろうと判断して引き出した訳だが、そんな必要もなかったらしい。

 呆然とするアーシアを背に元の姿へと戻ったイッセーは再び無言となると、ゆっくり振り返り……。

 

 

「逃げるぞ」

 

「へ!? ぁ……!」

 

 

 壊した壁の責任問題から逃げる為、アーシアを横抱きに抱えて開き直ったかのごとき本来の身体能力でその場から去ったのだった。

 

 

 

 

 アーシアにしてみれば当然、一般人であるイッセーが凛ですら知らないだろう謎の力を使ったという場面は未だに驚く案件であり、暫く横抱きの状態でさも普通に空を走ってる状況よりも、初めてこんなに近くでイッセーの顔が見えるという状況にちょっとドキドキしていた。

 

 やがて現場から結構離れた空き地へと降りたイッセーに降ろされたアーシアは暫くその場に座り込んでしまい、近くの自販機で飲み物を買ってきたイッセーに渡されるまで先程見て少しだけ触れたあの神々しい赤いオーラを思い返していた。

 

 

「それ、口止め料の前金」

 

「へ? あ、は、はい……い、いただきます」

 

 

 驚いたが、それ以上にあのオーラはどういう訳か今でも捨てきれない主の様な――いや、直接触れた事は無いが直感的にそう思ってしまったアーシアは、前金と言って寄越してきたマスカットジュースをチビチビ飲みながら、空き地の土管に腰掛けたイッセーの隣に座る。

 

 

「その、ありがとうございます……助けてくれて」

 

「べつに……。それより聞かないのか? あんな事をした俺に」

 

「それは……」

 

 

 言い方からして、イッセーが自分の放った力が普通じゃない事はわかっているらしい。

 確かにアーシアは気になった……荒々しい見た目とは反対にとても落ち着く神々しい力を放てるその理由を知れるものなら知りたい。

 けれど、アーシアは首を横に振った。

 

 

「聞きません。確かにびっくりしちゃいましたけど、助けて頂いた上にそんな図々しい事は聞けません。

イッセーさんもきっと聞いて欲しく無い筈ですから……」

 

「………」

 

「あはは、でも確かに気にはなりますけどね?」

 

 

 どっちにせよ恩がある相手にそこまで踏み込んだら失礼だと、ちょっと恥ずかしげに微笑むアーシアにイッセーは無言で飲み物に口を付けた。

 

 

「普通気色悪がるか、パニクる筈なんだけど、キミは結構変わってるな」

 

「似たような事が私にもあったので、少しだけ解るんですよ」

 

「似たような事?」

 

「えっと、私が何でイッセーさんと凛さんのお家でご厄介になっているか知りませんよね?」

 

「いつの間にか居た印象だったからな」

 

「あはは……や、やっぱりそう思ってましたか」

 

 

 確かにいきなり家に住み着いた奴と思われても仕方ない、だってイッセーは事情を知らないのだから。

 初めて自分に対してどんな事を思っているのか知れたアーシアはちょっと申し訳なさそうに笑うと、かつて自分がシスターの見習いをしていて、色々あって追放された話をする。

 

 

「~~と、いう訳がありまして、凛さんがご両親に頼み込んで頂いた訳です」

 

「ふーん?」

 

「本当はイッセーさんにも認めて頂くべきなのに、それも無しに勝手に住み着いちゃって本当にごめんなさい……」

 

「いや、親父とお袋が良いって言ってるんならべつに。何時も仲良さそうにしてるし……」

 

 

 先程の事があってか、自然と話が出来ているアーシア。

 

 

「今日イッセーさんはとても具合が悪そうにしてましたけど、大丈夫ですか?」

 

「アレは具合が悪いとかじゃなくてだな。

とにかく何の問題もない……うん」

 

「そうですか? 凛さんも心配してましたから……」

 

「あー……うん」

 

 

 暫くそんな話をする二人。

 皮肉にもストレスの限界で半分キレ始めた際に見せてしまった力が理由で怯えられる事もなく話が出来るようになったのだ。

 飲み物も空になり、土管から降りた今のアーシアは極自然にイッセーと話をしながら歩いていた。

 

 

「後で何か出来る限りの事はするから、とにかく今日見た事は黙っててくれ」

 

「わかりました、所謂私とイッセーさんだけの秘密ですね?」

 

「それでも良いから頼むわ……」

 

「はい! えへへ、イッセーとだけの秘密かぁ、ちょっとドキドキしちゃいます」

 

「あ、あぁそう……。テンション高いねキミ……」

 

 

 今まで関われる事が無かったというのもあり、妙に喜んでるアーシアの意図が全然わからず、若干引いてるイッセーのキミ呼ばわりに、アーシアは閃いた。

 

 

「あの、出来れば名前で呼んでくれますか? そうしたら後日何もしなくて良いですから」

 

「は? それで良いなら良いけど、何だっけ? アルジェントさん?」

 

「違いますよ、アーシアの方で呼んでください!」

 

「え? ………。アーシアさん?」

 

「さんなんて付けなくて良いのに……」

 

「馴れ馴れしいだろいきなりは……」

 

 

 何気に名前呼びまで確約させる事まで成功し、アーシアはますますご機嫌だったのだという。

 

 




補足

みんなで称えよう……アーシアたーん! と。

シリーズ中殆ど出番が無くて、MORE DEBAN!化してたというね。
でも平気さ! 負がソーたんなら正はアーシアたんだと信じればきっと……!

その2
イッセー自身の力量はメンタル面以外だと化け物です。
敢えて肉体レベルを下げて相手に怪我させない為に殴られたりはするけどね。


 その3

『一撃必殺の拳』

 赤きオーラを放つイッセーのシンプルなる一撃。

 描写下手なんで上手く書けないけど、元ネタはド◯カンバトルのフェス限ブルー悟空の必殺技である『恨みっこなしの一発』です。




ちなみに、今回放った力は安心院師匠が持ち込んで仲間達全員がかつて修得した某野菜ゴッド第一形態だったり。
だからアーシアたんが『あれ?』ってなりました。

更にちなみにですが、リーアたんとサーゼクスさんとミリキャスたんとイッセーは赤から蒼オーラに。

コカビエルさんとガブリエルさんとアザゼルさんは薔薇色オーラへ。

 そしてヴァーリきゅんは白銀の極意レベルまでになってたとか何とか。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。