精々頑張ってシリーズ『恋心』
デザートのタダ券が賞品のクラス対抗戦についてなのだが―――結果だけを言うと中止になってしまった。
俺達は出場選手じゃなく、応援席からクラス代表となった春人の応援をしてた訳だけど、一回戦が春人の旧友で、俺はほぼ関わりが無かった凰さんとかいう中国人の女子との試合中に、所属不明のISが侵入して暴れた出して試合どころじゃなくなったからだ……てのが、避難した俺達の耳に入った情報だ。
その後そのISは春人と凰さんと避難しなかったオルコットさんによって何とか始末されたらしいけど、正直な所、他の女子達は知らないが、俺達的に気にするのはその暴れた事によってボロボロになったアリーナの後始末についてだ。
「これで飯食ってるし、修復できる所はするさ。
まぁ、無理な所は業者に発注かけて貰うだけだし楽なもんだ」
そのボロボロになったアリーナの後始末を用務員であるイチ兄がするのは仕事なので仕方ないのはわかる。
しかしどうしても無理な所は業者の人に頼むにせよ、瓦礫の後片付けやら何やらを一人でするのは大丈夫なのかと思ってしまう訳で。
いや、イチ兄のスペックを考えたら体力的な意味では問題ないのは重々承知してるんだけどさ、一人でやると聞かされて『はいそうですか』と思うには、余りにも俺達はイチ兄とリアス姉に助けられて来すぎた訳で……。
「と、いう訳で今日は社会勉強を予て用務員ことイッセーさんのお仕事のお手伝いをしようと思いまーす」
なので、どっから洩れたのか、アリーナを壊した所属不明機を倒したのが春人だと、ヒーロー扱いされてる空気の教室に彗星の如く現れて俺と箒とのほほんさんを呼び出した会長さんによる提案の下、俺達は休日返上上等でイチ兄のお手伝いをする事になりました。
「手伝う事なんて無いから大丈夫だって言ってるのに……」
会長さんが教室に来た瞬間、何でか春人が動揺してて、俺と箒とのほほんさんの名前を呼んだ瞬間、これでもかと睨まれたりもしたけど、この提案を前にすれば気にするものでは無く、皆してイチ兄と同じ色のつなぎを着ている。
「単なる片付けなんだし、君達学生が手伝うなんて時間が勿体ないだろ……」
「その学生である私達が利用してる場所なんですから、掃除くらいするのは当たり前だと思いますけど?」
「それをされたら俺の飯の種が無くなるんだよ」
「一人でやるより効率は良いと思うぜ? それにボランティア気分だし」
「どうせ部屋に居てもTV見てるだけですからね」
会長さん……つまり更識先輩の本当の目的は何となく察してるものの、ここは敢えて触れずにイチ兄の手伝いをする。
最初は渋ってたイチ兄も、先輩が言っても聞かないとわかってたのか、大きなため息を吐くと……。
「瓦礫やら割れたガラスとかも片付けるから軍手だけはしっかりしてくれ。
ただでさえ生徒を手伝わせているなんて知られたら怒られそうなのに、怪我でもされたらクビにされちまう」
「ふっふーん、勿論ですよ!」
手伝う事を了承してくれた。
こうして俺と箒と現生徒会の皆さん――つまり更識先輩と布仏姉妹を交えたアリーナ後片付けが開始された。
「ガラスの破片や瓦礫は目視出来るものはなるべく拾ってこの手押し車の上に置いてくれ。
こっちが瓦礫でこっちがガラスな」
「はぁーい♪」
「露骨にお嬢様が楽しそう」
「前は一人で気負ってましたが、今はああやって兵藤さんを前にすると年相応なお姿を見せてくれます」
せっせと片付けをする中、本当に楽しそうにイチ兄と作業をしてる更識先輩を見て、古くからの馴染みの布仏姉妹さんは感慨深そうに見ながら手を動かす。
俺と箒には知らない苦悩を持ってるって事なんだろう……大変だなと思う。
「イチ兄ー、多分ISの装甲の一部だと思うんだけど、これはどうしたら良いんだ?」
「瓦礫に混ぜとけ、どうせ破壊されたらしい本体はもう回収されてるんだろうしな」
俺も箒も二人と会えて本当に良かったと思う。
もし会えなかった今の自分なんて存在すらしちゃいないんだろうしな。
こうしてアリーナの後片付けに一日を使い、目に見える瓦礫や割れたガラスの破片の回収と地面のある程度の整備を終える事に成功した。
「こんなもんだな、後は専門業者が修復するだろう。
さて、皆お疲れ様です……終わってみると誰も飽きずに割りと予定より早く終われたので助かりました」
パンパンと手袋越しに手を叩いたイチ兄が俺達を集め、終了と言いながら頭を下げる。
もうそんな時間かと、何だかんだ普通に充実した気持ちだ……なんて思ってると、端の方に置かれた簡易ベンチに一旦戻ったイチ兄が鞄から財布を取って戻ってくると、並んで立っていた俺達に一万円ずつ渡し始めた。
「これバイト料な」
「え、そんな……私そんなつもりでお手伝いをしようとだなんて」
「私もです、このお金は受け取れません」
「私も」
「そうだぜイチ兄、金目的じゃないし」
「好きでやらせて貰った事ですから」
当然俺達はそのお金を直ぐ様イチ兄に返還した訳だが、イチ兄は納得してない顔だ。
「子供に手伝わせておきながらタダなんて駄目だろ、とにかく貰っておけ――」
「じゃあ今日のお夕飯をご一緒させて頂けたらそれでいいです!」
「奢れってのか? 悪いけど今日はリアスちゃんが作ってくれてるから外食はしないぞ」
「寧ろそれでいいでーす」
「グレモリー先生の料理が食べられる方が大金よりも価値がありますので」
「だってさ、俺もそれが良いぜ」
「同じく。リアス姉さんのご飯は美味しいからな」
「…………」
そう言われてしまったら無理に渡せなくなったのか、渋々金を財布にしまったイチ兄は、俺達を寝泊まりにも使っている用務員室へと連れていく。
俺と箒には慣れてるけど、やっぱり他の人からの悪意の無い態度には終始戸惑っているのが印象的だった。
更識楯無の楯無は謂わば渡世名だ。
だから本名もあるが、その名を知るものは極一部であり、また本人も余程親しい者にしか教えることは無い。
そんな彼女が自分の本当の名を教えた相手が、去年現れた用務員の男性……兵藤一誠だった。
「へぇ、皆が手伝ってくれたの」
「あぁ、学生が休日を無駄にするなって言ったんだけどな」
「でも立派な社会勉強だと思いますよ?」
「ならもっと良い勉強の方法があると思うんすけどねぇ」
単なる用務員だし、関わる事なんて殆ど有り得ないし、出会すまで存在すら知らなかった楯無だったが、会ってその容姿を見てみたらかなり若く、それでいてその仕事っぷりは異常な程に早い。
それこそ暗部の仕事に通ずる仕事人っぷりであり、またその身体能力も裏を感じさせる凄まじさがあった。
「ふふん、グレモリー先生が居ない間に私とイッセーさんは息が合った夫婦の様に仲良くお仕事したんだから」
「あらそうなの? 良かったわね、イッセーって誤解されそうだけど、ちゃんと見てくれて私も嬉しいわ」
「む……」
そんな用務員を発見していく内に気になり、偶然を装って話し掛けていく内に用務員室へ入り浸る様になり、この歳で当主となった苦悩等を相談していく内に、ぶっきらぼうながらもちゃんと聞いてくれる人だと分かって、それがいつの頃からか大人の男の人という憧れから、リアスをライバル視する様になった。
もっとも、同じ時期にイッセーを知った真耶も居るのでライバルは今のところ二人だ。
「ぐ、ぐぬぬ……全然乗ってこない」
「お嬢様が子供なんですよ」
「グレモリー先生は大人だもんねー?」
リアスが
以前一度だけリアスに挑んで軽く返り討ちにあった楯無はそれを嫌という程知っているし、恐らくその敗北が初めての壁だ。
とはいえ、楯無はリアスを憎んでる訳では無いのだけは間違いない。
確かにこんな小競り合いを仕掛ける事はあるけど、ある意味で楯無にとってリアスは理想の女性ともいえるのだから。
「こうなったらやけ酒――あいた!?」
「餓鬼が酒なんか飲むんじゃねぇ、これは山田先生のだ」
「うー!」
「うーじゃねーよ。三年経ったら出直せ小娘」
イッセーの前なら気負いせずに居られて自分になれる。
だから惹かれていく。
「叩かれた所が痛いよぉ……」
「軽く叩いただけだろ? それにキミが悪い」
「痛いったら痛いの! 叩いた所を撫でたら直るかは撫でてください!」
「嫌だよ」
ガードがすっごく固いというか、リアスしか見えてない人だってのは解っているけど……。
「撫でてあげたら? 涙目で見てるわよ?」
「えぇ? そうやって甘い顔するから駄目なんだと思うんだけど」
「ですが、撫でて貰うまで多分帰りませんよお嬢様は?」
「こうなると梃子でも動かないのが楯無お嬢様だもんね」
「リアス姉もそう言ってんだから良いんじゃね?」
「そう言いつつ私を撫でるのは恥ずかしいぞ一夏……」
少し乱暴な所があるとしても……。
「はぁ、これで良いの?」
「ぁ……」
イッセーの前なら刀奈に戻れる。
嫌々な顔をしてるけど、優しい手付きで頭を撫でられた楯無は今この瞬間少女に戻っていく。
「はい終わり」
「………………」
用務員室での食事の席順でイッセーの隣をがっつり取っていたので撫でて貰えた楯無は、手を離したイッセーが食事に戻るのをぽーっと見つめている。
「…………なに? まだ何か言う気か?」
その視線に対してリアスがどこか暖かい目で見て、その横に座る真耶が自分の頭に手を置きながら羨ましそうに見ているのに気付いてから見てくる楯無にぶっきらぼうな口調で訊ねる訳だが……。
「! あ、い、いえ……!
な、なんでもないです……」
イッセーと目が合った瞬間、普段の楯無とは思えないくらいに、これでもかと真っ赤になるとそのまま消え入りそうな声と共に俯いてしまう。
「? 何だ急に」
「そこは察してあげないといけないわよイッセー?」
「何を? 体調でも崩したのか?」
「にゃ、にゃんでもありません! ちょ、ちょっと今イッセーさんを直視できなくて……う、ううっ……!」
要求はバンバンするけど、いざされると初心が刺激されてしまう楯無は、リアス馬鹿のせいで理解すらしてないイッセーの隣で、その後は借りてきた猫みたいに大人しくなってしまう。
「多分お部屋に戻ったら、ベッドに顔を埋めてバタバタしますよ」
「あんなお嬢様見たことないや」
「俺達的にはあんな感じの人ってイメージだけどな」
「イッセー兄さんに物凄く懐いてる人という感じだな」
頭に残るイッセーの手の感触と、胸の打つ心臓の鼓動が全身を熱く火照らせて。
終わり
間違いなくマジで真剣な恋心なんだと自覚した楯無だけど、彼女は彼女なりの苦悩がある。
それは先日の所属不明機を織斑春人が破壊して以降、そんな彼とどんな理由があったのかは定かではないが、親しげに話をしている妹についてだった。
「完全に知らなかった。かんちゃんが織斑君と仲良しになってたのなんて」
織斑春人と仲良くなる事に対して思うところは無いが、それでもあまり良くない話を耳にする楯無は心配してしまう。
だから勇気を出して妹に訪ねてみた――しかし。
「今更何の用?」
「いや、最近どうなのかなって……ごめん、確かに今更かもしれないけどさ」
「別に、貴女とは関係の無い所で凡人らしくやってるつもりだよ」
「そ、そう。えっとさ、最近織斑君の弟と仲良く――」
「………………。そういう事? 私が春人と仲良くしてるから、色々と探らせようとしたいんだ? 貴女だって兄の方と知り合いな癖に」
「違う! そんな事は言ってない! ただ私は――」
「冗談じゃない。私に春人を裏切れと言うのなら、私は貴女を死ぬまで恨んでやる」
誤解され、裏目に出てしまい、ますます妹から嫌われてしまった。
「余計な事、だったのかもしれません……」
「聞き方を間違えたな。緊張してテンパってたとはいえな」
「馬鹿でしたね私……。病弱でしょっちゅう織斑先生の庇護下に置かれているから、あの子も巻き込まれちゃうんじゃないかと思って聞いたのですけど……」
「……。まぁ、心配なのはわかるけど、本人の意思が彼と親しくなりたいってのなら、そのままにしてやったら良いんじゃないか?」
「そうなんですかね……」
「ただ、これは個人的な意見だが、もしそれでその妹さんがその彼から逃げてキミに泣きついてきたとしたら―――あくまで個人的な意見だからな? 俺がキミの立場ならぶっ飛ばしてるな。
散々デカい口叩いて都合が悪くなったら泣き付く程度の覚悟の分際で……ってね」
「………」
「もっとも、キミが一年の頃からしょっちゅう妹さんの話は聞いてるし、よっぽど大切で、その為の覚悟も決めたのも知ってる訳だけどさ。
まぁ……なんだ、イチ坊と箒とのほほんさんが彼と同じクラスなんだし、様子を見て貰う様に頼んどこう」
イッセーも春人の中身が何なのかを知ってるので、普段よりもかなり親身に聞く。
「大丈夫だ。もし織斑君とやらに何かされたり言われたりしたら即俺かリアスちゃんに言え。
用務員と保険医に出来る事なんてたかが知れてるかもしれないけど、それでも――」
「…………」
「? どした?」
「何時もより優しいなって……」
「はぁ? 普通だろ」
「いえ、絶対に倍は優しいです。だから――あ、あれ……か、顔が熱いです」
「……。キミってさ、稀に見るチョロさだな。
そんなんで本当に暗部だかの当主やれるのか? 将来が地味に心配なんだけど」
「ち、違いますぅ!! これはイッセーさんだからです! というかイッセーさんのせいなんですぅ~!!」
「はぁ?」
だからそのギャップでテレテレしてしまって。
色々と前途多難なたっちゃんなのだった。
……嘘だよん
補足
基本的にたっちゃんはイッセーとリーアたんの前だとめっちゃ子供っぽくなります。
んで、いざ要求した事をイッセーにされると、めっちゃドキドキしてます。
その2
数多の小説では時折かんちゃんの味方でたっちゃんがアンチされる―――かくいう私もそういうものをやってましたが、こうなると真逆になります。
といっても別にアンチではありませんけど。……いや、アンチっつーより転生者に惚れちゃっただけです。
そろそろ全体的に整理するつもりです。
主に消したりするだけですけど。