色々なIF集   作:超人類DX

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ビビる程の感想の多さについ……。

申し訳ねぇ。


白猫を探して……

 実は妖怪しか在籍していない学校に一応人間をまだ自称している月音が入り込んだ理由はただひとつ。

 

 

「皆さんご存じの通り、ここ陽海学園は妖怪の為の学校で~す」

 

 兵藤一誠として生きた世界にて約束を交わした大嫌いた白猫を探す為。

 当時完全に種族としての力を超越していたとはいえ、あの白音は猫妖怪の類。

 

 

(…………)

 

 

 だから妖怪が一ヶ所にある程度集まる陽海学園ならもしかしたら居るのかもしれない。

 とにかく白音を探し出して借りをまとめてぶち返してやりたいイッセーこと月音は、担任と名乗る眼鏡を掛けた女性担任の言葉を聞き流しながらもジーっとガン見していた。

 

 

「ですので、ここの存在を知ってしまった人間にはもれなく死んで貰ってまーす♪」

 

(あの担任は白ガキと似た種族か?)

 

『大まかに言えば多分そうなるだろう。とはいえ、あの小娘は最早猫妖怪といえる存在では無くなっていたがな』

 

 

 気の弱い人間が聞いたら顔を真っ青にするだろう、物騒な台詞を笑顔で言っている担任をずっと見つめながら月音はイッセー時代から変わらぬ相棒である赤い龍と精神間の会話をしていると、ちょうど隣に座っていた不良っぽう見た目の男子が世紀末に蔓延るモヒカンみたいな笑い声を出しながら言う。

 

 

「人間なんて食えばいいじゃないか、美女なら襲えばいいしなぁ?」

 

 

 顰蹙でも買いそうなものだが、妖怪たる他の生徒の殆どが同意している時点で人間の味方は誰も居ない。

 

 

「…………」

 

 

 そんな種族的には敵だらけの学校にわざわざ入り込むのも全ては白音の捜索の為。

 自分が別人に生まれ変わった様に、白音ももしかしたら別の存在に生まれ変わっている筈というのが彼の考えなのだ。

 

 勿論学生らしい青春を送る気等更々無い。

 

 

「赤夜萌香です!」

 

『おおっ……』

 

『おや? 正門まで一緒だったあの小娘が居るぞイッセー?』

 

(そうみたいだな、どうでも良いけど)

 

 

 寧ろかつては人間以外の生物を絶対殺すマンとまで揶揄され、天災扱いまでされてきた男なのだ。

 青野月音として生まれ変わって両親から愛情を貰った影響でかなりその嫌悪感情が薄れたとはいえ、進んで友好的になる気は無かった。

 

 

『お前はそう思ってる様だが、あの小娘はそうでもないみたいだぞ?』

 

(あ?)

 

「あ、月音!」

 

 

 だから、周囲の男子妖怪共が笑顔を振り撒いてる吸血鬼らしき妖怪を見て目の色を変えてる中、月音だけは白音に近い種族の担任をガン見してる姿を発見した萌香が、早速とばかりに月音の名前を呼ぶものだから、一斉に妖怪達の注目を浴びてしまう。

 

 

「何だアイツ?」

 

「赤夜さんの知り合いか? 弱そうな見た目の分際で……」

 

「…………」

 

『あーあ、お疲れだな』

 

 

 そんな親切のお陰で早速男子達から目を付けられたのは云うまでもなかった。

 しかも運の悪いことに、イベント好きな担任が最初の授業でいきなり席替えをすると言い出し、クジを引いた結果……。

 

 

「よろしくね月音!」

 

「…………」

 

『お前、そういう運は凄まじいよな』

 

 

 最悪に目立つ生徒の隣にさせられたのだった。

 

 

「………」

 

 

 とはいえ、ドライグに言われるまでもなくそういう運が良すぎて碌でもない目に合ってきたのは本人である月音が一番よく知っているし、別に萌香と隣同士の席になろうが関わらなければ問題など無いのだ。

 ましてや暫くは休み時間や放課後は学園内の教師含めた妖怪達を見て回る作業に没頭するつもりなのだから。

 

 

「月音、折角だから校内を見て回――あれ、待ってよ月音!」

 

 

 席替えによる結果の男子共の視線をガン無視し続け、昼休みに入った月音は早速とばかりに昼も食べずに席を立って教室を出ようとする。

 まずは他クラスの生徒を見て回り、時間が余ったら上の学年―――というプランを立てて。

 だが、何故なのかさっぱり理由がわからないのだが、朝学園近くで出会しただけの、言ってしまえば単なる顔見知り程度の関係でしか無い筈の萌香が無言で教室を出ていこうとする月音に付いてくるのだ。

 

 

『おい、小娘が付いてきてるぞ?』

 

「チッ……。

えっと、赤夜さんだったかな? 何のつもりかな?」

 

 

 萌香が付いてきてると言うドライグに、月音は小さく舌打ちをすると、まるで某913の装着者の様なイントネーションで何故付いてくるのかと問う。

 

 

「萌香で良いよ、えっと、学校の中見て回るんでしょう? 私も見たいし一緒にと思って……」

 

 

 ダメ? とまともな男なら完全に堕ちるだろう可愛らしさで言う萌香だが、生憎目の前に居るのは色々と枯れてるというか、シビアになりすぎたというか、本来なら寧ろ鼻の下でも伸ばして二つ返事で了承する筈だった男だ。

 萌香のそんな仕草にもかなり冷めた顔を崩すことは無かった。

 

 

「……。期待した所で血は吸わせないよ」

 

「う……!? あ、あははは、嫌だなぁ、そんなつもりは無いよ!」

 

『図星だなこの吸血小娘』

 

 

 何故自分に付いてくるのかを出会した状況から考えたら、吸い損ねた自分の血が目的なのを的確に見抜き、それが図星である事も態度を見ればすぐに解る。

 

 

「メリット無しと分かって残念だね、それじゃあ」

 

「そ、そんな警戒しなくても校内を見て回りたいのは本当よ?」

 

「それなら一人で見たら良いんじゃないかな? 正直キミに絡まれてるせいで要らない恨みを現在進行形で買ってるし」

 

 

 そう言いながら周りを見ろと視線を誘導させれば、萌香を見てる多くの妖怪共が軽く殺気立って月音を見てる。

 

 

「?」

 

『わかってないみたいだぞこの小娘』

 

 しかし意図がそんなに理解できてないらしく、注目されてる事すら今気付いた様子で首をかしげている萌香。

 この時点で既に面倒になりそうな予感がぷんぷんしていた月音だったが、意外にもそんな萌香が付いてくる事を拒否まではしなかった。

 

 

「大きな学校だね」

 

「………」

 

 

 言葉で言っても無駄なら、恐怖を植え付けてしまえば良いと。

 元々この学園に入り込んだ月音は自らの足で探すのもそうだが、白音に波長を感じ取って貰えるか試す事も考えていたのだから。

 

 

「そこに居る奴より俺と遊ぼうぜ?」

 

「えっと今月音と遊んでるから、ごめんなさい!」

 

「…………」

 

 

 朝の時点で一応隣の席に座っていた不良男子に絡まれ、それを突っぱねた萌香に手を引っ張られて走ったりする最中月音はずっとそれだけの事を考えている。

 

 

「はぁ、びっくりした」

 

「………」

 

 

 そしてその機会は訪れる。

 学園の屋上という絶好すぎる場所にて。

 

 

「ごめんね月音? 急に走ったりして」

 

「…………いや、寧ろ好都合だった」

 

「へ?」

 

 

 自分の手を掴んだままの萌香から離れ、屋上の真ん中へと移動した月音は、首を傾げている彼女に背を向ける。

 

 

「月音?」

 

 

 一体何が好都合なのだろうか? 当然月音の言葉の意図が読めない萌香は、やっぱり美味しそうな血の香りがするなぁとぼんやり思いながらその背を見ていたのだが……。

 

 

「行くぞドライグ」

 

 

 そう言葉を放った月音は解放した。

 

 

 

 

 

 

 爆発、暴風、それをどう表現すればいいのだろうか。まるで竜巻の様な空気の流れが月音を中心に発生し、全身から放出される淡い赤きオーラは黒く厚い雲を貫くかの如く天へと昇る。

 

 

「つ……月音……?」

 

『な、なんだ!? 地震か!?』

 

『うわぁ!? ま、窓ガラスが!?』

 

 

 破壊的な力の奔流は星全体を揺らし、その下で普通に過ごしていた妖怪達や校舎にも影響与える中、直接目撃していた萌香は月音から放たれる説明出来ない力を前に、唖然とする。

 

 

『first!』

 

 

 だがその力はいつの間にか月音の左腕全体を覆っていた赤い謎のナニかから聞こえる声により淡い赤色のオーラをより強靭なものへと変えていく。

 

 

「きゃ!?」

 

 

 淡い赤色が掛け声と共に金色へと変わり、より激しさを増す事で近くに居た萌香は、身体が吹き飛ばされそうになるのを手摺に掴まる事で何とか踏ん張る。

 

 

『second!』

 

 

 そんな萌香を余所に、月音は更に力を上昇させていく。

 既に立っている箇所を中心にコンクリートにヒビが入り、嫌な音と共に広がっているのだが、そんなことはお構いなしに金色のオーラに青白いスパークが伴う。

 しかしそれが月音の限界では無い。

 

 

『third!』

 

 

 生きる為に爆発させた異常性は貪欲なまでに進化を促し続けた。

 この世界に生きる生物に彼が持つ精神性を理解出来る者はまだ居ないし、端から見なくとも月音は異常だ。

 

 

(もっと、もっと強く……! 誰の指図もぶち壊せる進化を……! 白ガキをぶちのめせるパワーを!)

 

 

 ただ生き残る為に、悪魔に利用された不甲斐なさを払拭する為に。

 二度と弄ばれ無いために――生まれ変わっても残り続けた彼の自我は今尚進化を与え続ける。

 

 

『force!』

 

 

 その結果、兵藤一誠と赤い龍は共に神の領域へと侵入する事になった。

 そして、一度は復讐で殺したと思った悪魔達の中に一人だけ自身の予想を完全に越えた覚醒を果たした悪魔を越えた悪魔(ネオ)が先んじて到達した領域へ……。

 

 

『Ultra Instinct!』

 

 

 神という概念を越えた先の領域へ…。

 孤独である事への覚悟と何時しか完全に追い越された白い猫に必ず勝利する誓いと云う名の異常な狂気が、青野月音として生まれ変わった今、再臨した。

 

 

「……………」

 

 

 校舎全体を破壊する殺人的なオーラが突然、現時点で最新の領域に入り込んだ月音から消え失せ、ギリギリ屋上から投げ出されなかった萌香はホッとするのと同時に視界に入った月音の状態に息を飲む。

 

 

「月音……?」

 

 

 背を向けている為に表情は伺い知ることが出来ない。

 だが立ち上るオーラは周囲を破壊する荒々しさが全く感じることが出来ない。

 全身が青みがかった白銀色のオーラに包まれるのもそうだが、何より目を惹いたのは黒い筈の頭髪だった。

 

 

「銀……色……?」

 

 

 オーラの輝きと同じ銀色の髪に目を奪われてしまう。

 萌香にとってすれば珍しい色でも無いが、それでも何故か惹かれていくものがあった。

 しかし……ゆっくりと振り向いた月音を見たその瞬間……。

 

 

「ひっ!?」

 

 

 全てを見下す様な銀の瞳と目が合ったその瞬間、萌香の持つ感情は完全な恐怖へと変わる。

 

 

「あ、あ……あぁ……!」

 

「…………………」

 

 

 種族としての本能がそうさせるのか、妖怪と分類させられる萌香にとって今の月音が立つ領域は完全に対となる場所。

 それ故に萌香は恐怖を抱いてしまい、その場に崩れるかの如く腰を落としてしまう。

 

 

「何だ、居たのか……」

 

「っ!?」

 

 

 しかしそんな萌香を前に月音は全く興味が無い様な表情を向けると、空を見上げながら目を閉じる。

 

 

「………………来ない。いや、近づく白音の気配も無いか」

 

 

 ガタガタと震える萌香なんぞどうでも良い月音は解放することで白音にしかわからないだろう波長を察知して近づく者が居ない事を知ると、残念そうに顔を伏せる。

 

 

「チッ、わざと隠れているのか、それとも本当に居ないのか。

クソが、散々しつこく付きまとっておいて……」

 

 

 少し苛立ちを感じる声を放つ月音の立つ場所の直ぐ下では大量に倒れた妖怪達で大騒ぎになっているが、その事に罪の意識などは皆無だった。

 

 

「無駄足だったよドライグ」

 

『やはり存在して居ないのではないのか?』

 

 

 それよりも徒労に終わった結果にただただ残念な気持ちで一杯であり、オーラを引っ込めて通常の状態に戻った月音は、目の前で吸血鬼の少女が怯えているのも無視して相棒と話し合っている。

 

 

「だがまだ諦めるには早いからな。必ずあのガキは見つけてやる」

 

『昔は嫌って程付きまとわれてきたお前にしてはかなり皮肉な事だが、それよりもその小娘はどうするつもりだ?』

 

「あ?」

 

「ぅ!?」

 

 

 白音を炙り出せなかった結果に終わり、取り敢えずこの場から離れようとする月音にドライグがすかさず萌香について話す。

 

 

『お前の力を間近で感知して完全に怯えてしまっているぞ?』

 

「あのガキは炙り出せなかったけど、代わりにこの吸血鬼との関わりが無くなりそうだと考えたらまるっきり無駄に終わった訳じゃないみたいだぜ? ……なぁ、赤夜さんよ?」

 

「ぁ……」

 

 

 表情を見ても明らかに恐怖を抱いている事は丸分かりであり、これにより血を目的にわざわざ寄ってくる事は無くなったと思った月音は白音の件はダメだったにせよ満足そうに笑う。

 

 

「ほーら、早く行っちまいなよ?」

 

「う、ううっ……!」

 

 

 端から見たらいたいけな美少女を襲う暴漢みたいな絵面に見えるが、中身はそんな生易しいものでは無い。

 学園に入り込んでから表情の変化が少なかった月音がニヤニヤしながら逃げちまえと煽る姿は本来がドスケベな性格だった頃から考えられない変化だ。

 

 

「なぁに、心配しなくてもキミごときなんかに関心なんか無いから何もしないぜ俺は? ほら、腰が抜けて立てないってんなら俺が出ていくし―――って、何だ?」

 

「え?」

 

 

 だから敢えて煽るだけに留め、萌香に『目の前の奴は何をしでかすか解らない』という恐怖をより明確に植え付けようとする中、それまでニヤニヤしていた月音の表情が訝しげなものへと変化する。

 

 その理由は、萌香の首元にあるロザリオが独りでに動いているのだ。

 

 

「キミの首にしてるアクセサリーは自我でも持ってるのか?」

 

「アクセサリー……? ロザリオの事? え、あれ? 何で……?」

 

 

 萌香もよくわからないのか、力の大妖としての力を封じるロザリオが激しく鼓動しながら動いているのに驚いていると、普通なら――いや、本当なら萌香自ら外す事は不可能なそのロザリオが……。

 

 

「あ」

 

「ろ、ロザリオが外れた……?」

 

 

 まるで意思があるかの様に外れてしまったのだ。

 ポロっと外れた十字架がひび割れた地面に落ちていくのを目で追う月音は、まぁ、それだけの話だったなと再び萌香に恐怖を植え付ける作業に戻ろうと視線を上げたその時だった。

 

 

「……………」

 

「…………………いや、誰?」

 

 

 萌香の容姿がガラッと変化していた。

 胸は一回り大きくなり、髪は銀に染め上がり、瞳は赤くなっているのだからそんなリアクションなのはしょうがないのだが、そんな見た目の変化と共に放たれる雰囲気は自身を吸血鬼と名乗っただけの力を感じた。

 

 

「まさか、お前の力を間近で感じ取った瞬間、ある程度の自由が効く様になるとはな……驚きだよ色々と」

 

「は?」

 

 

 さっきまでの弱々しい萌香とは思えない堂々とした口調に月音は何の事だか解らず首を傾げる。

 

 

「この状態で会うのは初めてだな青野月音。

私はそこに落ちたロザリオに封じられた私本来の力とでも言っておこうか?」

 

「あ、うん」

 

 

 要するに落ちたロザリオによって力を封じられた状態がさっきまでの萌香で、今の萌香は吸血鬼としてのパワーを完全解放させた状態の姿であると月音は納得する。

 

 

「さてと、わざわざ出てきたからには聞かせて貰おうか? ………………お前は何だ?」

 

 

 言ってしまえば別の人格で、この状態の萌香は怖がらないタイプらしい。

 赤い瞳で鋭く見据えながらいきなり踏み込んでくる言葉に内心月音は『割りとダルい事になってきた』と思う。

 

 

「名前だの種族を聞いてる訳では無い……。お前が先程まで放っていた力は並の妖怪を超越していた。

しかも、その力を浴びた影響なのか、これまで私の意思で表の私と入れ替われなかったのがこの通りある程度可能にまでなった。

気にならん訳が無いだろう?」

 

「……」

 

『知らなかったな、あの領域のオーラを浴びるとそんな効果があるのか。

まるでお前の異常性の副産物みたいな―――いや、あの領域とお前の異常性が噛み合ったからこそのものなのか?』

 

 

 無限に進化する異常性は、副産物として己の信頼する者すら進化させるという効力があるのだが、信頼すらしてない萌香がその異常性の恩恵を受けられる訳が無い。

 

 しかし今、所謂裏萌香が言った様に、神越領域から放たれたオーラを一番近くで浴びたせいでそうなったと言われたら否定はできない。

 何せ試した事なんて無かったのだから。

 

 

「表の私を怯えさせたのだから答えるだろう?」

 

「キミは怖くないってのか?」

 

「驚きはしたが、この私が恐怖する訳ないだろう?」

 

 

 どちらにせよ、裏萌香が出てきた理由は月音がどんな存在なのかを知るためで、恐怖は無いと微妙にドヤっている。

 

 

「という訳で教えろ」

 

「ただの高校生。それじゃあ」

 

 

 とはいえ、実は微妙に震えてるので、月音とドライグはそれがちょっとした強がりなのを見抜いており、相手にする気も無かったのでそのままいい加減に返しておいとましようとする。

 

 

「おい」

 

「知った所で何もならないだろ? さっきまでのキミは完全に俺に恐怖を抱いたし、それによってこれからは一切話すこともなくなる単なるクラスメートに無事なれた訳なんだからさ」

 

 

 教えた所で理解なぞ無理だし、説明するだけ時間の無駄だと思ってる月音の素っ気ない言い方に、裏萌香は若干ムッとする。

 

 

「この私が教えろとわざわざ出てきてまで言ってるのに聞かないつもりか?」

 

「キミがどれだけ偉いか知らないし、興味なんてないね。

ましてや――――た か が 吸血鬼一匹なんてさ」

 

 

 仮にもこの世界では力の大妖と呼ばれるヴァンパイアに向かって、平然とたかがと宣う月音に、カチンと来た裏萌香。

 

 

「ほう、この私をたかがヴァンパイアだと? 良い度胸だな貴様……」

 

 

 尋常では無い巨大な力を感じはしたが、戦えば勝てなくは無いとまだ思っていた裏萌香は口の端をヒクヒクさせながら封印が解かれたその力を解放する。

 

 

「少し身の程を教えてや――」

 

 

 力の強大さ=戦闘力では無い。

 いくら巨大な力を持とうが戦い方を知らなければ意味は無い……と、裏萌香は身の程を教えんと戦闘体勢に入ったその瞬間だった。

 

 

「戦闘体勢に入るまで1秒って所か? へっ、百は殺せるな」

 

「っ!?」

 

 

 目の前で背を向けていた筈の月音がの声が真後ろから聞こえた。

 

 

(なっ!? わ、私が見失うだと……!?)

 

 

 即座に振り返り、脱力感半端無い立ち方をしていた月音から距離を取ろうと後ろに飛んだ。

 

 

「貴様……」

 

「この時点で悟ってないか。余程吸血鬼ってのは強い種族らしいな」

 

 

 その気になれば後ろから心臓を握りつぶせる速度を見せたのに戦意が削げていない裏萌香を見て、この世界の吸血鬼がかなり強い部類なのを改めて認識する。

 

 とはいえ――

 

 

「!!」

 

「はいまた死んだ」

 

 

 月音にしてみればそれだけの事だった。

 

 

「その気だったら首と胴体がおさらばしてたぜキミ?」

 

「こ、の……!!」

 

 

 再び肉薄されたばかりか、からかうようにトンと手刀で軽く首を叩かれた裏萌香が激昂しながら月音に拳と脚の連打を開始するが。

 

 

「がっ!?」

 

 

 強い衝撃と鋭い痛みがいっぺんに額に襲い掛かり、裏萌香の身体は縦に乱回転しながら端の手摺まで吹き飛ばされ、しこたま身体を打ち付けた。

 

 

「良かったなキミ、俺が両親のお陰で腑抜けになってて。

あの白ガキだったら食い殺されて終わってたぜ?」

 

「う……く……!」

 

 

 何をされたのか分からなかった裏萌香が揺れる視界のまま見たのは、人差し指を弾く――デコピンの動作をしている月音の姿。

 

 

「気は済んだろ? それじゃあ、今度からは単なるクラスメートとしてお互い過ごそうぜ?」

 

「ま、待て……!」

 

 

 人差し指ひとつで叩きのめされた裏萌香は今度こそ去ろうとする月音を引き留めようとするが、軽い脳震盪でフラフラになってる今の彼女に引き留められる力は残ってはおらず。

 

 

「お相手は無神臓・青野月音でした~」

 

 

 ただその背を見ている事しか出来なかった。

 それはきっと初めてだろう完璧なまでの挫折だったのかもしれない。

 力の大妖たる己を文字通り子供扱いした化け物。

 

 

「……………覚えていろよ」

 

 

 それが悔しい。

 だから裏萌香は、一度は表の自分と入れ替わり、シレッと教室に戻っていた月音と上手く話ができないまま、放課後、一人でさっさと帰っていった月音をロザリオ越しに見据えながら考えた。

 

 そして考えた結果……。

 

 

「おい」

 

「……なに? またそっちになったの?」

 

 

 取り敢えず授業以外は裏状態になって、かなり嫌そうな顔をする月音の正体掴みをすることになった。

 

 

「授業は表に任せてその他の時間は基本的にこっちにする事に表の私との意思疏通が可能になったので、話し合った結果なった。

理由はわかるだろう?」

 

「あんまり分かりたくは無いけど、何となく。

でも正直迷惑っつーか……」

 

「黙れ、この私に恥をかかせた借りは絶対に返してやる。

そら、さっさと登校の準備をしろ,こののろま」

 

「…………………。良い度胸してるねキミって子は」

 

 

 普通ならまずそんな簡単に入れ替われなかった。

 しかし偶然にも白音探しの副産物で可能になってしまったが故に頻繁に出てくるようになってしまった。

 

 

「だ、誰だあの子?」

 

「す、すげぇ美人……? ま、まさかヴァンパイア!?」

 

「あ、あの力の大妖の!? じゃ、じゃあその隣を怠そうに歩いている冴えないツラの男は……?」

 

 

 

 

「ねぇ、ピンク状態に戻ってくんね? 余計目立つんだけど」

 

「学校に到着したらな」

 

「そもそも妖怪の正体を教えるのはダメなんじゃないの?」

 

「知らんな。私は自分がどんな種族なのかは話してはいないから違反にはならん」

 

 

 余計目立つオマケ付きで。

 ちなみにこの日の授業は先日の謎の地震で大多数の生徒がダウンしてしまったせいで学級閉鎖となって無くなってしまったらしい。

 

 

 

 そして始まるは、白い猫を尚も探す龍帝と、とにかくギャフンと言わせたくてしょうがない吸血鬼の話。

 

 

「大切なのは気配の動きを掴むことだといったろ。

キミは俺の言うことを聞いてなかったのか?」

 

「う、うるさい! ちゃんとやってる!」

 

 

 ギャフンと言わせたくてだんだんカリスマブレイクしていく裏萌香さん。

 

 

「フッ、俺の夢っすか? 人間の美少女のおっぱいハーレム王っす!!」

 

「人間なのはよーわからんが、ええ夢やないか!」

 

 

 月音本来の性格に近い上級生と意気投合しちゃったりと、人外絶対殺すマンだったとは思えないほど穏やかになっていたとか。

 

 

「またサキュバスと楽しくやってたみたいだな? え?」

 

「はい? いや、教科書忘れたから貸してくれって言ってきたから貸しただけだぜ俺は?」

 

「ふん、どうだかな!」

 

「なに怒ってんだよ?」

 

「知らん! それにあの雪女とも何かやってただろう!?」

 

「あの子にゃ菓子やっただけなんだけど」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして――

 

 

「…………………」

 

「約束、守ろうと思ったけどごめんなさい先輩、やっぱり破ります。

だって、あれだけ人間以外を嫌悪してきた先輩が、そんな連中と仲良くなってるのを見せられたんですよ? だから私は悪くない。」

 

「つ、月音!? しっかりしろ!! お前は――」

 

「おい、今私が先輩と話してるんだろうが? 外様がガタガタ抜かすなボケが!!」

 

 

 吸血鬼は――

 

 

「っ!? て、テメェ……先輩の血を!」

 

「月音がどれだけ貴様を探したのかわからんだろうな。

それなのに貴様は裏切った―――――身の程を知れ!」

 

 

 龍帝の血を取り込んで到達する。

 

 

「しっかりしろ月音! お前は私が認めた男だろう!!」

 

「…………。へ、言うようになったじゃんか。

けど、あぁ……ありがとう」

 

 

 真祖を超越した領域へ。

 

 

(こ、これは……神と戦った時の!?)

 

「私を投げ飛ばせ月音!」

 

「! わかった!!」

 

 

 

 そして選択を間違えた猫は……。

 

 

「ハァァァッー!!!!」

 

「ふざけるな! 先輩は私が――」

 

「ウォラァァァァッ!!!!」

 

「せ、先輩―――」

 

 

 

 

 

 

 

(こ、こんな……私が、私がその場所に―――)

 

「「ハァァァァッ!!!!」」

 

 

 世界を越えた奇跡の一撃。

 

 

 続けない。




補足

基本的に授業以外は気合いで出てきて絡んでいくスタンス。

でもカリスマが激しくブレイクしまくる。


その2

まあ、ネオ白音が存在してるかは不明にしてますけど、仮に居たらやっぱり拗れてしまい、結果……皮肉にも一度は和解しかけた位置に完全進化した萌香さんに取られてしまったというね。

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