色々なIF集   作:超人類DX

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タイトルに深い意味はないのだ。


孤独な魔女っ娘に赤龍帝の祝福を!

 仙童紫なる少女に揃って告白されたという大体の理由により、遂にイッセー時代からの悪癖をやらかしてしまった月音。

 他人の前で眠くなる事自体が殆ど無かったのもそうだが、一番ショックだったのは、朝起きたら目と鼻の先に萌香が寝ていたという、不覚と言い訳に出来ぬ現実だった。

 

 

「……………………」

 

 

 お陰でその日は朝から放課後までノンストップにテンションが低かった。

 普段から白音捜索以外は極力周囲と関わらぬ様に努めてたのでテンションは低めだが、この日の月音はそれに輪を掛けて低すぎた。

 

 

「え、えーっと、今日も元気に部活を始めよか……」

 

「……………………」

 

 

 その低さは端から見ればかなり不機嫌に見える様で、先日月音に危うく消し飛ばされ掛けてトラウマになった新聞部の部長たる森丘銀影や、萌香以上に月音がヤバすぎると恐怖を決定的にした黒乃胡夢は、死んだ魚みたいな目の無口を極めた状態の月音を見てビクビクしていた。

 

 

「ほら月音? 部活が始まるよ?」

 

 

 唯一そんな月音に対して、平然と肩を揺さぶりながら声を掛けるのが萌香だった。

 

 

「………」

 

「もう、何時までも落ち込んでいるんだから……! しゃんとしなさい!」

 

「…………………うん」

 

 

 月音の中に宿る龍を名乗るドライグとの邂逅以降、力の大妖としての人格であるもう一人の自分を相棒(パートナー)という認識をする様になった表萌香が、そのパートナーたる別人格――つまり裏萌香との件でまだテンションの低い月音を一喝している。

 

 

「人生って儘ならないよな……」

 

「またそんな事を言って……」

 

 

 最初は月音から放たれた異常過ぎる力に恐怖を抱いて接し方に悩んでいたとは思えず、寧ろ最初から強がり半分で普通に接してきた裏萌香が今回の件でギクシャクしてしまっているのだから世の中というものは何があるかわからない。

 

 

「今日はどんな事をするんですか?」

 

「へ? せ、せやなぁ……」

 

 

 そんな萌香の接し方にちょっとヒヤヒヤしながら銀影は活動内容の発表をしようとした時だった。

 

 

「こんにちは~!」

 

 

 現状4人だけの新聞部が活動に使う教室の扉が勢いよく開けられ、訪問者が入ってきた。

 

 

「萌香さんと月音さんがこの場所に居ると聞いて遊びにきました~」

 

「紫ちゃん?」

 

「…………」

 

 

 その訪問者というのは魔女っ娘こと紫であり、所属してる訳でもないのに平然と入ってくると、目を丸くする銀影と胡夢をスルーして萌香と月音のもとへと近寄る。

 

 

「? 月音さんの元気がありませんが……」

 

「あ、うん、色々あってだけど大丈夫。それよりどうしたの?」

 

「遊びに来ました、お友達ですから~」

 

 

 その姿を見て同学年の胡夢は誰なのかすぐに察するのだが、それ以上にあの鬼畜コンビにどう見ても懐いてる様にしか見えない紫に驚く。

 

 

「えーっと、どちらさんか知らんけど今から部活をやるんや。だから部外者は出てって貰えるか?」

 

 

 銀影も同じくであるものの、取り敢えず部活中である事もあるので、萌香抱き着く紫に出ていってくれないかと言う。

 しかし……。

 

 

「邪魔するなですぅ……!」

 

 

 今さっきまで実に子供らしく萌香に懐いていた紫の態度が豹変し、銀影を睨み付けたかと思ったら持っていたステッキ的なものを振りかざす。

 

 

「あだ!? な、なんやねん!?」

 

「今私は萌香さんと月音さんと楽しくしてるんです、邪魔する奴は誰だろうと容赦しません!」

 

 

 そう言いながらステッキから放たれた魔力的な力に呼応して宙を舞っていた机や椅子が一斉に銀影に向かって発射される。

 幸いウェアウルフとしての地力もあるので大した怪我にもなってないが、いきなり正論かましたらキレられたというのもあって、流石の銀影もカチンとくる。

 

 

「いきなり何やこのアホォ!」

 

 

 拳骨のひとつでもしてやろうと飛び掛かった銀影。

 しかし即座に紫が月音と萌香の後ろに隠れてしまう。

 

 

「怖いですぅ~」

 

「ぐ、ぐぬぬぬ! ひ、卑怯やでジブン! 二人の後ろに隠れるなんて!」

 

 

 萌香はともかく、さっきから不機嫌にしか見えない月音を無視して紫に拳骨したら頭蓋骨陥没コースという嫌すぎる未来が待っているかもしれないという恐怖に足を止めて歯軋りをする銀影。

 

 

「モカさん! その子は部外者なんやから出て行けと説得してくれや!」

 

「えっと……紫ちゃん? 私と月音は見ての通り部活をしてるから、終わるまで待っててくれないかな?」

 

「じゃあお二人の部活姿を見たいのでここに居ます」

 

 

 月音に頼むのはちょっと怖いので、話が通じるだろう萌香になんとかしてくれと頼むも、紫本人はそんな説得に対して斜め上の回答をしながらちょこんと月音と萌香が座る席の真ん中に椅子を置いて座り出す。

 その時点で、後ろに座る胡夢は『マジか』といった驚き顔をする訳で……。

 

 

「キミは部活に行かなくていいのか?」

 

「そ、そや! あ、青野クンの言うとおりや! 自分の部活に行かなアカンでお嬢ちゃん!」

 

 

 普通に……とはいえ、かったるそうな態度はしてるものの、紫に対して話し掛けてた月音に同意するように出てけという意味を込めて便乗する銀影。

 しかしそんな月音の質問に対して紫はアッサリと返した。

 

 

「レベルの低い連中が集まる部活なんて入ってすぐ辞めてやりました」

 

 

 そう言いながら月音の膝の上におくびも無く座り出す紫に胡夢と銀影はギョッとする。

 

 

「ちょ、ちょい待ちお嬢ちゃん!? そ、それはマズイんやないか……?」

 

「は? 何がですか?」

 

「な、何がって……それは……」

 

 

 あの得たいしれない化け物そのものともいえる月音の膝に座ったら絞め殺されるかもしれない――という意味でおっかなビックリ気味に忠告する胡夢と銀影だが、紫本人は全く気にする様子もないし、膝に乗られてる本人も鬱陶しいという顔はするものの、特に投げ飛ばすという様子は無い。

 

 

「えへへ~」

 

「……………。椅子に座れよ」

 

「最初はそうしようと思ってたけど、月音さんの膝の上も中々アリですぅ」

 

「……………」

 

「そんな苦虫を噛んだ顔しなくても良いじゃない?」

 

「よく分からないから余計そうなるんだよ……何でだし」

 

 

 結局そのままにしてるというレア演出を前に呆然となる銀影と胡夢。

 ひょっとして普通に接したら案外こんな感じなのかもしれない……? そう思うが、紫や萌香の様に接しようと思う勇気は結局沸く事はしなかった。

 

 そしてそんな空気の中始まる部活なのだが……。

 

 

「えーっと、名前は知りませんけど、その字間違ってますよ?」

 

「森丘銀影や! ええんや、多少の誤字があるくらいがネタにできる!」

 

「自分の頭の悪さをネタで誤魔化すのって駄目だと思いますけど?」

 

「やかましい! 部外者が口を挟むなや!!」

 

 

 地頭が良いせいか、新聞作成時の誤字を余計な一言込みで指摘するせいで余計空気が悪くなってしまう。

 

 

「仙童さんだったかしら? 見てるだけならもう少し大人しくしてくれると助かるのだけど」

 

 

 流石に胡夢も見かねて注意をするのだが……。

 

 

「……?? ねぇ月音さんと萌香さん? この方は一体何時から居たのでしょうか?」

 

「最初から居たわよ!!」

 

 

 そもそも胡夢に関しては視界にすら入って居なかったらしく、指を差しながら『アレ誰?』的な事を二人に質問する紫に胡夢は激怒する。

 

 

「聞いてた通りの子ねアナタは! そんなんだから二組の人達に嫌われてるのよ!!」

 

 

 只でさえ先日の件で月音と萌香が怖くて仕方ないのに、こんなチビっ子は何の関係もなく近寄れるに加えて本人達も普通に受け入れてる様に見える。

 そんな度胸を持つ紫に対して半分嫉妬も入ったせいか、つい言ってしまう胡夢に対し、紫が一瞬ビクッと震える。

 

 

「へ、平気です~ 私は天才ですし、レベルの低い連中なんてこっちから願い下げですから」

 

 

 そう言うが、明らかに図星を突かれて傷ついてるのを虚勢でごまかして強がる紫。

 

 

「元々独りだし……」

 

「紫ちゃん……」

 

「な、何よ……私が悪いっていうの?」

 

 

 明らかに傷ついた顔をする紫に、やっぱり根は良い子な胡夢は内心言い過ぎたかもしれないと思って言葉を詰まらせる。

 

 

「……………。会話内容は抜きにしても、仙童だったか? お前のやってる事は単なるガキの我儘だ」

 

「っ!? 月音さん、なんで……」

 

 

 そんな胡夢の罪悪感にフォローを入れるつもりなのかは定かでは無いが、ここまで無言を貫いていた月音が膝の上に乗る紫を下ろしながら、冷たい目で見据える。

 一目惚れした一人に否定されるような言葉を向けられた紫は先程よりも大きくショックを受けた顔をするのだが、今の月音はそれに罪悪感を感じる様子は全く見受けられない。

 

 

「赤夜さんと友達になりたい……実に結構だ。

彼女も彼女で、決して悪いタイプじゃないのに友達が居ないし良いとは思う。

だがな、友達だからと言って周りの迷惑も省みずに好き勝手するのは止めろ」

 

「………」

 

「月音言い過ぎ――」

 

「黙ってろ。そもそもこの事に関しては確かに俺も悪い。部活中ってのに部外者を入れて、好き勝手にやらせてたんだからな。だから言う、これ以上ごちゃごちゃさせるなら、窓から叩き落とすぞ?」

 

 

 静かだが、どこか威圧感のある言葉にすっかり紫は閉口してしまう。

 

 

「お前が俺にどんな幻想を抱いてるかなんて知ったことじゃないが、俺はお前みたいな餓鬼に友情なんざ感じねぇんだよ、残念ながな」

 

「っ!」

 

 

 そしてどこまでも冷たい拒絶の言葉に耐えきれなくなった紫は教室を飛び出してしまう。

 

 

「月音!」

 

「キミも俺に幻滅でもしたか? 俺は結構だぜ? 元々俺は他人とつるむ資格なんてありはしないんだからな」

 

 

 そのいくらなんでもな言い種に温厚な萌香が激昂しようとするも、月音は冷たい雰囲気を変えること無く淡々とした口調で返すと、オロオロとしていた銀影と胡夢に其々謝罪する。

 

 

「部長さんに――えーっと、黒乃さんだったかな? 申し訳ありませんでした」

 

「い、いやいや……」

 

「あの子の事は良いの……? そ、その……私もちょっと言い過ぎたかもしれないし」

 

「キミの言った事は正論だよ、気に病む事は無いさ」

 

「でも、私の一言が原因だと思うし。多分あの子、魔女だから」

 

「? 種族が魔女なら何か関係でもあるのか?」

 

「知らないの? 魔女って嫌われてる種族なのよ」

 

「嫌われている種族?」

 

「ほら魔女って、妖怪か人間かよく分からない存在でしょ?

大昔は妖と人を結ぶ『境界の者』って呼ばれてたらしいけど、今じゃ半端妖(はんぱもの)とか言って差別されたりする種族なのよ。

しかも人間側からも嫌われ者らしくて、中世時代には『魔女狩り』とか言って大勢の魔女が人間に殺されたらしいよ」

 

「魔女狩り……ね」

 

(い、嫌だ私ったら、普通に謝って来たから会話しちゃったわ……。けどコイツ、割りと普通に話せば会話は成立するのね……)

 

 

 何気に月音と会話が成立出来てる事に途中からハッと気付く胡夢を知らずに、魔女という種族の複雑さを知る月音。

 同じく話を聞いていた萌香が堪らずに紫を追いかけようと席を立ち上がった。

 

 

「私……紫ちゃんを探しにいく」

 

「探してどうするんだ? 甘やかして終わりか?」

 

「そうじゃない。けど、あの子は昔の私と似てるから……独りぼっちだったって……」

 

 

 月音と出会う前は友と呼べるものに巡り会えなかった萌香が、だからこそ紫の孤独さを理解できると教室を出ようとする。

 だがそれを止めたのは月音の言葉だった。

 

 

「くだらねぇ。安い同情心でも買ったつもりなのか? 馬鹿馬鹿しい」

 

「!」

 

 

 心底くだらないと言った声で言い放つ身も蓋も無い言葉に萌香堪らず月音の頬を叩いた。

 

 

「月音のそういう所が、私は嫌い……」

 

「嫌いね。実に結構だぜ? キミに嫌われた所で俺には痛くも痒くも後の人生にも何の影響だってねぇよ」

 

「っ! ど、どうしてそんな事が言えるの!?」

 

「元からこういう気質だからさ。言ったろ? 俺に何を思った所でメリットなんてありゃしねぇってな。誤解が解けた様で何よりだよ」

 

 

 軽く修羅場になってる二人を、銀影と胡夢はまたしてもオロオロしながら見てる中、涙目になって睨む萌香に月音は非情すぎる言葉をぶつけまくる。

 

 

「も、もう月音なんて知らない!」

 

 

 得体の知れない力を持っているけど、然り気無い優しさがあると思ってたのに……とショックと失望が混ざった悲しみを抱く萌香がそのまま教室を飛び出そうとする。

 しかしまたしても――今度は手を月音に掴まれて止められてしまう。

 

 

「離して!! 離してよっ!」

 

「嫌だね。人の横っ面に張り手かましておきながらそのまま逃げられると思ったか?」

 

 

 そう言いながら無理矢理椅子に座らせた月音。

 

 

「………」

 

「あ、あの……」

 

 

 修羅場な空気に胡夢がおずおずと声を掛けるも、月音と萌香互いを見下ろすか睨む様に見上げてるので返答が無い。

 

 

「部長さん、腹痛いんで便所行ってきます」

 

 

 このまま嫌な雰囲気が続くのか……そう思っていた時だった。

 睨む萌香から視線を切った月音が突然銀影にトイレなた行ってくると言うと、そのまま返答を待たずして教室を出ていってしまう。

 

 

「月音のバカ……」

 

「い、行ってもうた……」

 

「ど、どうするのよこの空気……」

 

 

 残された二人にしてみれば、不機嫌そのものとも言える萌香に対してどう接して良いのかわからず、変わることの無い微妙な空気に居たたまれない気持ちになるし、萌香は出ていった月音に対して怒っている。

 

 

「本当は優しいと思ってたのに……」

 

 

 勝手に自分が解釈していたに過ぎないとはいえ、裏切られた気持ちになっていた萌香は怒り半分と悲しさ半分の気持ちで一杯で泣きたくなっていた。

 だがそんな時だ。首元のロザリオに封じられているもう一人の萌香が声を放ったのは。

 

 

『意外と面倒な奴だな月音は』

 

「知らない……月音なんて」

 

『何だ、本当にわかってないのかお前は?』

 

「……え?」

 

 

 『ど、どないする?』『私に言われても……』

 と、銀影と胡夢がヒソヒソと部活どころじゃなくなってる空気について相談し合ってる中、二人には聞こえない裏萌香の言葉に萌香はキョトンとしてしまう。

 

 

「わかってないって……」

 

『月音が言った事は本心だろうが、恐らく今出ていった理由はトイレ等ではないという事だ。まだわからないか?』

 

「………………………それって!」

 

『そういう事だ。まったくアイツめ、自分で言っておきながら恐らく内心では言いすぎたかもしれないと思ってるんだろう』

 

「そ、そうなの?」

 

『ドライグが言っていただろう? 他人を信用できなくなる程の過去があって、つい他人には警戒して攻撃的になってしまうと』

 

「じゃ、じゃあもしかして今出ていったのは紫ちゃんを探しに……?」

 

『ほぼそうだろう。まったく面倒な性格な男だ、私達ぐらいだろう、そんな面倒な性格に付き合えるのは?』

 

「………………」

 

 

 裏萌香の推察に萌香勢いよく席を立った。

 

 

「すいません! お、女の子の日が重いのでちょっと保健室に行ってきますー!」

 

「お、女の子の日やて!? ちょ、そこんところ詳しく!」

 

「行っちゃった……」

 

 

 追いかけなければ……そして謝らなければ。

 真意を裏萌香のお陰で掴めた萌香は急いで月音の後を追い掛けた。

 その遠回しで七めんどくさいやり方を察せないことを謝る為に。

 

 

 

 

 最近、自分が何をやっているのかが解らなくなる。

 あれだけ人という種以外の全ての生物を嫌悪し、その手に何度も掛けてきたのに、今己は一体何をしている? 白音という一個下の憎い猫との交わした約束を果たさせる為にわざわざこんな場所に潜伏し、その白音が居ないのならとっとと消えてしまえば良いのに、萌香という吸血鬼の少女と関わり、あまつさえ人でもなければ妖怪でもない生物にカテゴリーされている少女を探しに来ている。

 

 追い出したのは自分なのに。

 

 

「チッ……」

 

『イラつくなよイッセー』

 

「別にイラついてない」

 

『そうか? なら良いが、さっき追い出した小娘はこの先――』

 

「違う。俺は便所に行くだけだ」

 

『………そうか』

 

 

 既に見抜かれているけど、それでも月音は単に便所を探してるだけだと言い張り、校舎の外にある森の中を歩き回る。

 理由は勿論、先程追い出した紫を探す為に……。

 

 

「馬鹿馬鹿しい……俺は一体何をしてるんだ」

 

 

 だがそんな矛盾した行為に対して月音は自らに対して苛立ちを感じている。

 自分で追い出したのだからそのまま放っておけば良いのに、トイレに行くだなんて嘘まで言って探してしまっている。

 それが酷く苛立たせてしまう。

 

 

「白音が居ないと解った時点でこんな場所に用なんて無いのに、何で俺は……」

 

『………』

 

 

 端から見れば一人自問自答を繰り返す変人に見えるが、この霧の立ち上る薄暗い森の中なら見られる心配も無い。

 そんな中をぶつぶつと自分の矛盾した行為にイライラしながら歩き続ける月音に、生まれ変わっても彼の相棒である事に感謝している赤い龍は、敢えてその答えを教えずに彼の中から見守っている。

 

 その異常過ぎる異常性が理由で捨てられた兵藤一誠である頃とは違い、青野月音としてちゃんと両親に愛されたからこそ、他種族に対しての憎悪が薄れている事を。

 

 ……もっとも、その決定打になりそうな二人の萌香がどっちも変わり者だからというのもあるのだろうが。

 

 

「……」

 

『さて、どうやら見つけられたな』

 

 

 そんな月音の葛藤の中身を敢えて教えず、自分で気付いてくれる事を願うドライグの親心に似た気持ちを知らない月音は、紫の気配を辿って歩いた結果発見する事が出来た訳だが、ふとその場に足を止めてしまう。

 

 

『追い込みを掛けられてるのか?』

 

 

 ドライグの言う通り、複数の学園の生徒に紫が追い込みを掛けられていたからであり、あの怯えた顔を見る限りは間違いないだろう。

 

 

『さぁどうするイッセー?』

 

「……………」

 

 

 ドライグの思わせ振りな声に月音は無言でポケットに手を突っ込み、ガラの悪いヤンキーみたいな不貞腐れた足取りで再び歩き始める……。

 

 

「よぉ、楽しそうな事してるじゃん」

 

「!? 貴方は……」

 

「つ、月音さん……?」

 

 

 矛盾を抱えたまま。

 

 

 

 

 

 

 嫌われた。

 その現実が紫を酷く傷つけた。

 月音達と同学年とはいえ、飛び級で進級した彼女はまだ11歳の少女なのだ。

 裏萌香にやらかした事で多少イラついていた月音から向けられた言葉は十二分に――その種族故の孤独感も相俟って彼女の心を傷つけた。

 

 

「汚らわしい汚らわしい! 魔女とは何て汚らわしい存在なんでしょう!」

 

 

 だから教室を飛び出た紫はその目に涙を溜めながら走ったのだが、それが彼女に不幸を呼び込む事になってしまった。

 そう……常日頃から紫をやっかんでいた委員長一派と出会してしまうという不運(ハードラック)が。

 人気の無い森へと連れ込まれ、委員長とその取り巻きに追い込まれた紫は当然反撃に転じようと魔法を発動するステッキを振りかざそうとするも、蜥蜴を思わせる姿へと正体を現した委員長により噛み砕かれてしまう。

 

 媒体させるステッキが無ければ魔法を使えない紫は文字通りのピンチになっていた。

 

 

「いいですか?君みたいな娘はウチのクラスには要らないんです」

 

「な……」

 

「こいつ……どうしてやりましょうか」

 

「食べちゃおうよ! 霧も深いし誰にもバレないって」

 

「ひっ!?」

 

 

 普段から委員長共々やっかんでいる者達故に、紫はこれが冗談では無いと悟り、恐怖の悲鳴をあげる。

 

 

「そうですね。食べてしまうのもいいですねぇ」

 

 

 自衛の手札も無い今、まさに紫は将棋やチェスでいうところの詰み(チェックメイト)だった。

 だがしかし……。

 

 

「よぉ、楽しそうな事してるじゃん」

 

 

 矛盾に苛立つ最悪の赤龍帝が現れた。

 

 

「!? 貴方は……」

 

「つ、月音さん……?」

 

 

 動きを止めた委員長と取り巻きと共に声のする方へと向くと、両手をポケットに突っ込み、ガラ悪そうに立っている月音がそこには居た。

 月音は変化する委員長と取り巻き達を目を動かして一瞥しつつ、平然と近づいてくる。

 

 

『数体程度。ふん、それにしても蜥蜴とはな』

 

 

 ドライグを介して数を確認する意味での一瞥だが、どちらにせよ1000万体居ようが脅威にもならない相手であるのは気配からしてわかりきっている。

 

 

「確か貴方は赤夜萌香さんの周りをうろちょろする腰巾着さんでし―――」

 

「邪魔」

 

 

 だからとりあえずその委員長を押し退けると、戸惑いの目をしながら尻餅をついてる紫の前に立ち、目線を合わせる為に腰を下ろす。

 

 

「ど、どうして……私……月音さんに嫌われたのに……」

 

「便所探してたら迷い混んだだけだ。別に助けに来た訳じゃねぇよ」

 

 

 あくまでトイレ探ししてただけと言い張る月音に紫は少しだけ視線を落とす。

 

 

「そ、そうですよね……あ、あははは……」

 

 

 助けに来るわけが無いと紫はズキンと胸の中が痛む。

 

 

「助けに来た訳じゃないですか。それならそれで良いですが、見られたからには黙って帰すわけにはいきませんねぇ?」

 

 

 押し退けられて軽く不機嫌になった委員長が後ろからニヤニヤした口調でそう言い、取り巻き達が囲む。

 だが、それを完全に無視してる月音は視線を落としてる紫に問う。

 

 

「お前、歳いくつ?」

 

「え? あ、えっと、11です。

飛び級で入学したので……」

 

「そうか……」

 

 

 歳をいきなり聞かれ、戸惑いながらも返す紫に今度は月音が軽く視線を落とす。

 

 

「11か……そうか、じゃあしょうがねぇか」

 

「な、何が?」

 

「……。まだ子供のお前にガキみたいな真似するなって言った俺の方が間違いだったんだよ。

ガキは寧ろガキらしくしてた方が健全だってのにな……」

 

 

 そう言いながら困惑する紫の被る帽子を取った月音は、直接頭に手を乗せながら言う。

 

 

「ごめん」

 

「ぁ……」

 

 

 矛盾した行動と謝罪を。

 

 

「あぁ、まただ。また俺はこんな事をしている……意味がわからねぇ。何がしたいのかがわからねぇ……」

 

「つ、月音さん……」

 

「なぁドライグ? 俺はどうしたんだろうな? さっきまでやってた事と今やってる事が違いすぎて訳がわからなくなる」

 

『さぁな、だがお前は変わり始めてるのかもしれない。

憎悪にまみれて進化が止まってしまったあの頃からな』

 

「え、だ、誰の声……?」

 

 

 紫の頭を撫でつつ、空いてる手で前髪を掴みながら悩む月音に謎の声が優しげに語り掛ける。

 その誰とも知らない声が聞こえた紫はキョロキョロと辺りを見渡すが、姿は見えない……。

 

 

「さっきから一人で何言ってるんですか!? 

私達をシカトするとはナメてるんですかッ!!」

 

「あ、危ない!!」

 

 

 どうやら委員長達にはこの声が聞こえないらしく、独り言を言ってると感じたらしく、また無視をされてキレたのか、委員長が後ろから襲いかかる。

 思わず叫ぶ紫…………だが。

 

 

「ゴブァ!?」

 

『っ!?』

 

 

 飛び掛かった委員長は身体をくの字に折り曲げながら水平に勢いよく吹き飛ばされ、大木に背中をしこたま打ち付けた。

 

 

「い、委員長!?」

 

「げ、げほぉ!? ごほっ!? おぇっ!!」

 

「な、血、血を吐いてる……」

 

 

 勢い自体はそれほどまででは無かったが、噎せた委員長の口からはどす黒い大量の血が吐き出されており、一撃で内臓を破壊したのがうかがえる。

 だが、流石は妖怪。それなりの耐久性を誇っており、よろよろと取り巻きから手助けされながら立ち上がった委員長は怒りに目を血走らせながら月音に吠えた。

 

 

「お、おのれぇ!! 腰巾着風情がァァッ!!」

 

 

 最早完全に殺意に溺れた委員長が吠える。

 しかしやはり月音は振り向きもせず、キレた委員長を月音越しに見て震える紫と話をしている。

 

 

「一応、俺も赤夜さんも部活に入っててな。そこで他の部員に迷惑をかけるのだけは控えて欲しいんだ。

それ以外だったら、ある程度話し相手にもなれるし」

 

「え、えっと、わかりましたけど、その、後ろで委員長達が物凄く殺意を……」

 

「あ? あぁ、あんなのほっとけ――所詮単なる蜥蜴の群れだ」

 

「誰が蜥蜴の群れだゴラァ!!」

 

 

 完全に相手にもしないスタンスの月音に紫はオロオロする。

 考えてみたら、手から巨大破壊ビームを出せる月音が彼等に遅れを取る訳も無かった訳で……。

 

 

「二人もろとも食い殺せ――」

 

「楽しそうな事をしてるな月音よ?」

 

 

 遅れてやって来た強大な妖力を迸らせている銀髪赤目の美少女も来れば最早怖い訳も無かった。

 

 

「なっ!? こ、この強大な力……ま、まさかバンパイア!? な、何故こんな場所に……!?」

 

「月音の匂いを辿って来ただけだ」

 

 

 若干残念臭がする気はしたものの。

 

 

「キミは犬か……」

 

「ふん、あれだけ居れば覚えるさお前の匂いくらいは。

それよりやはりその小娘を助けに行ったな? ふふ、表の私が謝りたいと言ってるぞ?」

 

「………ちげーよ、トイレ探してたらたまたま出会しただけで……」

 

「へー? トイレを探しにこんな場所までなぁ?」

 

「チッ……」

 

 

 力の大妖に腰巾着にしては妙にヤバイ雰囲気を纏っている男を前に取り巻き達が引き腰になる。

 

 

「い、委員長……」

 

「数ではこちらが有利です! こうなれば全員食い殺すのです!」

 

 

 ゴフッと血を吐きながらそう叫ぶ委員長に命じられ、取り巻き達が三人を囲む。

 

 

「数で掛かればどうにかなると思ってるらしい。ふふふ、なぁ月音? コイツ等に教えてやらないか? 一体誰を相手にしているのかをな」

 

「チッ、いちゃもん付けて俺一人でサンドバッグにしてストレス解消してやろうと思ったのに」

 

 

 そんな者達を前に不敵に笑う裏萌香に言われ、舌打ちをした月音は左腕に籠手を纏う。

 

 

「蜥蜴程度が本物の赤い龍(ウェルシュドラゴン)にどれだけもってくれるか見物だな」

 

「言ってやるなよ。……だが確かに身の程を知れ、だな」

 

 

 そして肩を合わせた二人は地を共に蹴り、蜥蜴妖怪達を蹂躙する。

 その戦いかたはとても……不思議なことに息がぴったりだった。

 

 

 

 

 

 あっという間に委員長一派をぶちのめした月音と裏萌香。

 一応半殺し程度に済ませているが、今回の事が完全にトラウマになってしまった委員長一派は翌日そのまま学園に退学届けを出し、その後引きこもりの人生を送る事になるらしいのだが、裏萌香も月音もそれを聞いたところで罪悪感は沸かないだろう。

 

 

「ご、ごめんなさい! わ、私月音の気持ちを察する事ができなくてあんな酷いことを……」

 

「だから俺はトイレを探してただけで別に助けに来た訳じゃないんだってば……」

 

 

 そんな月音は学園に戻ると、表萌香から思いきり謝られていた。

 

 

「えへへ、月音さんも萌香さんもかっこよかったですぅ……」

 

 

 怖い思いをしたからと、紫も共に居るのだが、先程の戦闘にすっかり骨抜きにされでもしたのか、萌香と月音の両方に熱烈ラブアイを送っている。

 

 

『素直じゃない奴め、私が見抜けないとでも思ったのか?』

 

「逆にそこまで見抜けるキミの方が気味悪い――あ、やべっ」

 

「ほらやっぱりそうだったんだね? それなのに私ったら何も考えずに月音の事を……」

 

「良いよ別に、半分はマジで思ってたし……」

 

 

 寧ろ探しに行く矛盾した行為を自分でもわかってないのだから……と内心思いながらめっちゃベタベタしてくる紫を適当に相手しながら、萌香に言うと何故かいきなり裏萌香に変化し始めた。

 

 

「このままだと永遠とお前に謝り続けると思って代わったのだが……」

 

「?」

 

「あ、例のもう一人の萌香さん」

 

 

 どうやら気を使って変わったと本人は言うが、その裏萌香の視線はナチュラルに月音の膝に乗って甘えまくる紫に向けられていた。

 

 

「…………。お前はいつまでそうしてるつもりだ?」

 

「? 月音さんが降りろというまでですけど?」

 

「……………。じゃあ月音は何時までそいつを膝に乗せてるつもりだ?」

 

「さぁ? この子が飽きるまで?」

 

 

 子供の特権といえばそれまでだが、月音の今じゃ半数以上が萌香の私物が置かれてる部屋で、膝に乗って甘えまくる紫が若干気に入らないらしく、飽きるまでと宣う月音に、段々残念な子な面が出てくる。

 

 

「飽きるまでだと? 素っ気ないお前なら既に下ろしてる筈だろう? 何でしない?」

 

「何でって、この子まだ11なんだろ? 部活の時はガキみたいにすんなって言ったけど、普通に子供のなんだから子供らしくすべきだろ。正直あの時言ったのは俺が間違えてたわ」

 

「やっぱり月音さんの匂いは優しい匂いですぅ……」

 

 

 純粋な人間ではないにせよ、妖怪でも無いのもあり、しかも子供相手だとかなり軟化するらしい月音の胸元に顔をうずめて勝手にグリグリとしてる紫と、それを勝手にさせてる月音にカチンときた裏萌香。

 

 

「いくら子供であろうともこれはダメだろう!? だってそうじゃないと私は何なんだ!?」

 

「何なんだってと言われてもな。………さぁ?」

 

「さぁ? さぁって言ったなお前!? よく見ろ、どう見ても子供らしからぬくっつき方だろコイツは!」

 

「しょうがないだろ、魔女で一人だったんだし。だろ?」

 

「はい……寂しかったですぅ」

 

「ほら、だったらしょうがねーじゃん?」

 

「んが!? な、納得できるか! それを言ったら私だって同じだろう!?」

 

「まぁそうかもだけど、キミは別に誰かに甘えたがる性格じゃないだろ?」

 

 

 若干素直になれずに居る裏萌香を淡々と返していく月音。

 とうとうカリスマ吸血鬼の仮面がぶち壊れ始める。

 

 

「ダメだダメだ! そ、そもそもお前は昨日寝ぼけて私に――」

 

「二度とそんな事は起きねぇ!」

 

「? 何かあったのですか?」

 

「何でもないぞ、飴いるか?」

 

「わーいですぅ」

 

「聞け!! 二度とだろうが何だろうが、お前が私にした事は紛れもない事実だ! 別にそれを盾にする訳ではないが、す、少しはそいつの様に私をだなぁ……」

 

「表のキミだったら考えても良いぞ」

 

「何故だ!?」

 

 

 ガーンとショックを受ける裏萌香さんに月音は思わず吹き出す。

 

 

「キミって割りとアホの子だよなやっぱ……くくく」

 

「あ、アホって言うな! こ、このぉ!」

 

「おっと、この子も居るんだから危ないだろ」

 

「う、うるさい! アホって言う月音が悪いんだ!」

 

 

 思わず鋭い蹴りが飛んでくるが、それを涼しげな顔でコーラ飴をコロコロしてる紫を抱えたまま、右足で簡単に防ぐ月音。

 

 

『どっちもガキだな……』

 

『あはは、だから話が合うのかも。

でも羨ましいな……もう一人の私の方がやっぱり月音の事を解ってるんだって』

 

『慰めにはならんかもしれないが、お前もよく恐怖心を抱いた時から立ち直ったと思う。

アイツはそういう存在とは巡り会えなかったからな……』

 

『うふふ、ありがとねドライグ君?』

 

『ドライグくん……か』

 

 

 そんなドタバタ劇を、既に入れ替わりでロザリオの中に居る表の萌香と月音の中に居るドライグが互いに触れ合う事で意思疏通を行いながら見守る。

 

 

『ドライグくんは封印されたドラゴンなんでしょう? 封印から抜け出したいとは思わないの?』

 

『大分昔は何度も思ってきたさ。けど、実はもう俺は神器としての封印を解かれてる。月音の無限に進化する異常性により俺自身が封印を越えた力を得たからな』

 

『そうなの?』

 

『あぁ、でも俺はこのままで良いと思っている。アイツの行く末を最期まで見ていたい……それが今の俺の生きる意味でな、アイツが生を終わらせれば俺は自らこの命を絶つつもりだ』

 

『………………そっか。月音が大好きなんだね』

 

『よせよ気色悪い、アイツが二度と現れぬ最強の宿主だからだ……他意なんか無い』

 

『そうかな、私は時折月音と話をしてるドライグくんがお父さんみたいに感じるよ?』

 

『………へっ』

 

 

 それぞれ保護者的な気分で。

 

 

「このぉ!!」

 

「チッ、ちょっと落ち着けって、この部屋なんだから」

 

「うるさいうるさい! そんな小娘ばっかり構うから――」

 

「っと、落ち着けっての」

 

「ぅ……」

 

 

 

『あ、もう一人の私が紫ちゃんの時みたいに月音に撫でられた』

 

『アイツ、だからそうなると自覚してるのか? いや、してないだろうな……』

 

 

 

 

「はぁ、疲れる」

 

「ぁ……う……え、えっと……」

 

「なに? まだ暴れるつもりか?」

 

「ち、違う……も、もう暴れない……」

 

「あ、そう。それなら――」

 

「ま、待て!! も、もう少しこのままで……」

 

 

 続く?




補足

自分のやってる事が矛盾だらけでわからなくなってイライラしてる月音。

ドライグは答えを既に知ってるけど、自力で気付く事に意味があると教えてません。


その2
マジ子供ならしょうがないと謝りに行ったら裏萌香さんがドヤァしながら現れ、タッグでぶちのめしましたとさ。

が、懐き度が凄まじくなった紫たんが月音にベタベタするのはやっぱりムカムカするので、カリスマブレイクして喚いていたら頭ポンポンされて借りてきた猫みたいに大人しくなりましたとさ。


それを見守りながら会話するドライグと表萌香さんはまさに保護者よ。

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