色々と怪しいデュノア君(仮)を更衣室に案内してその場でわざと着替えてみたら、やっぱり挙動が怪しかった。
そもそも三人目の男性起動者が本当ならどんなに黙秘してようがバレてしまうという自分の経験を考えたら怪しいと思ってしまう訳で。
もっとも、例えどっちが本当なのだろうが直接箒やイチ兄やリアス姉の害にならなければどうでも良いと思うし、色々と事情もあるんだろう。
深く知ろうとは思わんが、ここは気付かないフリでもしてあげようと思う、それが人情って奴だしな。
ちなみに、俺に張り手かましたボーデヴィッヒさんは案の定春人とも知り合いだったらしく、それはもう授業中も楽しそうに会話してたよ。俺には終始ガン飛ばしてきたけど。
「おー、山田先生ってスゲーんだな、IS乗ると」
「流石だ」
「おお、やまやったらやるぅ」
イチ兄と接してる時のテンパり方を見てる先入観を良い意味で壊す山田先生のIS操縦技術を地上から箒と並んで眺める俺。
千冬姉さんに何かを言われて唆されたオルコットさんと凰さん各国代表候補生二人を同時に相手取ってるのだけど、見事なまでに翻弄しながら一撃を与えている。
「あーもうなんなのよ!」
「鈴さん! なにをいいようにされてますの!?」
「そっちこそ一回も当ててないじゃないの!!」
チームワークも糞も無い二人を相手にしてるってのもあるけど、それにしても動きが素人目に見ても違うのがわかる。
もっとも、イチ兄とリアス姉の『速さ』を見てきたせいで目が肥えてしまってるせいか、遅く見えてしまうのだが。
「……………」
「っ! 先程から山田先生が私達ではなく周りを伺っていますが、なんでしょうか?」
「単純に私達を嘗めてるのか、それとも何か仕掛けがあるのかしら……? どちらにせよこれ以上春人に無様な姿を見せる訳にはいかないわ!」
そんな山田先生が何やら周囲を気にしてるのは何故なのか。
「さっきから大袈裟に二人の攻撃を回避しながら旋回しつつ探し物をしてる様に見えるのだが、どうしたのだろうか?」
箒も気付いた様で、山田先生がなにかを探している様子を見せてるので、周りを見渡すと……。
「あ、あの姿はもしかしていっせ――もが!?」
「しっ、のほほんさん!」
「なるほどな、そういう事か……」
牛乳瓶の底みたいな分厚いレンズの伊達眼鏡にマスクと帽子を目深く被ったつなぎ姿を発見し、俺と箒は思わず名前を言おうとしていたのほほんさんの口を抑えながら理由を察した。
山田先生が授業時間ギリギリまで来なかったのもそういう訳だったんだってね。
「…………………」
『童顔教師小娘がお前に気付いたぞ?』
「みたいだな」
幸い皆の視線は全員空へと向けられてるのであの完全武装したイチ兄に気づいてない。
いや、元々イチ兄とリアス姉の気配の消し方は凄まじいので誰も気づく訳もないんだが、要するに山田先生に見て欲しいとか何とか言われて、何だかんだ律儀なイチ兄が応じてあげたんだろうな。
イチ兄が見てる事に気付いた瞬間、山田先生の動きが一段階上がってあっという間に二人を落としたし……。
「そこまでだ、山田先生お疲れ様でした」
「久々にまともに乗ったので少し緊張してしまいました……」
「寧ろ調子が良いように見えましたが……。
それよりもいいか諸君、これが教員の実力だ。以降は敬意をもって接するように!」
「くっまさかこのわたくしが……!」
「いいようにしてやられたわ……」
ホント、イチ兄って人を引き上げるのが上手だぜ。
バレない様に遠くの方に居るイチ兄を見つめる先生といい、更識先輩といい……そして俺と箒といいな。
シャルル・デュノアとしては、専用機を持つ織斑春人に近づかなければならない。
その為にわざわざこの学園に転校したのだから。
しかしそんな状況とは裏腹に、シャルル自身は春人に接触するのに躊躇を覚えていた。
というのも、朝聞いてしまった二番目の男性操縦者で専用機を持ってない春人の兄である一夏が言った事が心に引っ掛かってしまっているからだ。
「デュノア君、もしよかったら、お昼を皆で食べるんだけど……キミもどう?」
「えっと……」
昼休みになり、昼をどうしようかと考えていたシャルルに話し掛ける千冬をそのまま小さくしたかのような、女と見紛う容姿の春人からの誘いに、シャルルは若干言葉を詰まらせてしまう。
(向こうから接触してくれたのなら乗らない手は無いんだけどなぁ……)
実家とは到底思いたくはない場所から命令された事を考えたら此処は乗らない手はない。
しかしシャルル個人の心情としてはあまり乗り気にはなれない。
「是非、ご一緒させてもらうよ」
しかしシャルルは受けた。
そうで無ければ自分の会社の利益しか頭に無い父親とその正妻に何を言われるかわかったものじゃないから。
「よかった、それじゃあ屋上にいこ」
「うん……」
シャルル・デュノアとしての仮面を付ける。
聞けば聞くほど織斑春人が――いや、どちらかといえば織斑千冬が歴とした弟である筈の一夏に色々と押し付けて春人ばかり贔屓するという話を本人では無くクラスの一部女子が話していたのを聞いて心情が良くなくても、命令は命令なのだから……。
「おーっし、準備もできたし、行こうぜ箒にのほほんさん」
「ああ」
「後でやまやの事聞かないとねー……多分本人もちゃっかり居るんだろうけど」
教室を出る際に聞こえた一夏の声を背に、シャルルは少しだけ後ろ髪を引っ張られる思いで春人に着いていくのだった。
そんなシャルルの引っ掛かりに気付きもしてない一夏はといえば、昼休みになったら間違いなく向かう用務員室に箒・本音の三人で訪ねると、案の定既に楯無や本音の姉である虚―――そして真耶が居た。
「イッセーさんイッセーさん、実は私おっぱいが成長したんですよ!」
「ふーん」
「だ・か・らぁ……触ります?」
「触る」
「ちぇ、やっぱり触るんですか―――って、うぇ!? あ……え……さ、触るんですか?」
「ああ、キミが言ったからな」
「ちょ、ちょっと待ってください! い、イザ言われると緊張しちゃう……し、深呼吸を――」
「なんてな、嘘だよ」
「ひ、ひどーい!! お、乙女の純情を弄んだぁ!」
吹っ切れて以降、ますますグイグイとイッセーに迫り始めた楯無が軽くからかわれてる姿が用務員室に入って最初に飛び込んだ光景だった三人は、酷いとか言いながら顔が赤い楯無に苦笑いだ。
「く、くぅ……! イッセーさんに翻弄されっぱなしよ」
「お嬢様も懲りませんね……」
「ちーっす、またイチ兄に一蹴されたんすか?」
「そーなのよ一夏くん! あー身体が熱い……」
「少なくとも冗談を言う程度にはイッセー兄さんも貴方を個人として認識してることにはなりますが……」
「そ、そう思うかしら箒ちゃん!? …………え、えへへ、どうしよ、頬が緩んで仕方ないわ」
黙々とリアスが作ったお弁当を食してるイッセーに視線を送り、箒の推察を聞いてニヨニヨしてる楯無。
背負った枷の一つに区切りを付けられたせいか、より伝え方がストレートになってる気がしないでもないが、今来た三人の分のお茶を入れてくれたリアスはやはり余裕があった。
「あの子と同じで昔も私はイッセーに支えて貰ったから、気持ちはわかるわ」
全てから見捨てられた中助けてくれて以降、ずっと共に生きてきたからこそ、楯無の気持ちが分かると話すリアスの表情はとても慈愛的だったそうな。
それを見るなり本音が懐いてリアスに抱き着くのは最早お決まりになっていた。
「グレモリー先生はかっこいいなぁ~」
「ほらほら、そうしてたらご飯食べる時間が無くなるわよ?」
「もうちょっとこのままが良い……」
「あらら、まったく仕方ないわね」
「こら本音! グレモリー先生にご迷惑でしょう!? わ、私だってそんな事して貰った事無いのに……」
「………………………………」
布仏姉妹はリアスに懐いてる。
だから決まって姉妹でこんなやり取りが行われる訳だが、それまで黙々と食べていたイッセーの端の手が一瞬止まった事は―――まあ、これもお約束だった。
「そうそう、やまや~ 最初の授業の時に兵藤さんが第二グラウンドに来てたけどさぁ、あれってやまやが呼んだの?」
「だから先生に向かってその言い方は――」
「ちょっと待った! それはどういう事ですか山田先生!? イッセーさんが授業を見に来たんですか!?」
「え、えっとその……」
リアスに膝枕されてる体勢での爆弾投下に、案の定本音の話を聞いた楯無がクワッと目を見開きながら真耶に詰め寄る。
「自信が付けられるからってお願いしたらしいのよ先生は、今日が初の実践授業で先生が乗ってる姿を生徒達に見せなければならないからって」
「そ、そうです。別に他意は――」
「はい嘘ですね! 去年から私と同じようにイッセーさんとお話しようと此所に来てるの知ってますし!」
「…………」
勿論知ってるリアスがしどろもどろな真耶のフォローをするも、女の予感が働いてる楯無は完全にそれが嘘なんだと見抜いており、図星なのか知らん顔でお茶を飲んでたイッセーの方をチラチラとうかがっている真耶。
「イッセー、何か言ってあげなさいよ?」
「え? 何かって?」
「もう、先生がISに乗ってた姿にどう思ったのかとかの感想よ」
「感想……? 感想ねぇ……」
「………」
相変わらずリアス馬鹿過ぎる態度のイッセーにリアス本人が呆れる中、言われて初めて緊張した面持ちの真耶をジーっと見つめると。
「素人なんでさっぱりわかりませんが、良かったんじゃないでしょうか?」
ロマンスの欠片もない感想をぶちまけた。
しかしそんな淡白な返しも本人的には嬉しいのか、途端に真耶の顔は明るくなる。
「あ、ありがとうございます!」
「むー……」
喜ぶ真耶から目を逸らして再びお茶に口を付けるイッセーを楯無が頬を膨らませながら見ている。
「なに?」
「なんでもないですよーっだ」
平たく言えば嫉妬なのだが、生憎好意を向けられられ慣れてないイッセーは気付く努力をおろそかにしてるので気付かない。
その空気を従者の虚が察したのか、話題を変えるために箒と暖かい目をしながら見ていた一夏に話を振り始めた。
「ところで一夏くんは、本日転校してきた生徒の一人にいきなり叩かれたと聞きましたが……」
「確かにいきなり叩かれはしましたけど、別にそれから何をされた訳じゃないんで平気っすよ」
「それはアレか? 今朝山田先生がネガティブになった理由の話か?」
虚からの問いに寧ろ言われるまで完全に記憶から消えてた一夏はヘラヘラと手を振りながら答えると、イッセーが急に空の湯飲みを起きながら聞いてきたので箒が答える。
「ドイツだったかの代表候補生に初対面でいきなり叩かれたんだ。
一夏も下手に避けたり反撃したりしたらトラブルになると思って敢えて受けたんだけど……」
「名前はラウラ・ボーデヴィッヒ。以前織斑千冬が教官を努めたドイツのとある部隊に所属する軍人です」
「………………。なるほどね、俺もローテンションの山田先生に大体は聞いたが……」
「あ、あのごめんなさい一夏君、先生なのに止められなくて……」
「あぁ良いっす良いっす、別に痛くも痒くもどうでも良いですし」
「中学くらいの時に半年程家に泊まらせて貰った事があるだろ? あの時に姉と春人が知り合ったんじゃねーかと思うんだ、めっちゃ春人と仲良かったし」
「……。あぁ、家族のお前一人置いて二人で海外旅行に行った胸くそ悪い話か。
なるほどな……」
吐き捨てる様に嫌悪感を丸出しな顔をするイッセー。
リアスがかつて最大の味方になるべき筈の肉親に見捨てられてるのを知ってるせいか、その手の話は嫌悪しか感じない。
リアスも本音の頭を撫でながら軽く視線を落としている。
「そ、そんな話があったのですか? な、なんで一夏くんだけ……」
「知りませんね、大方イチ坊の弟の身体が弱いからって理由で弟の方だけ連れていったんでしょうが、どちらにせよ聞いてて気分なんか良いもんじゃありませんよ」
完全に吐き捨てる言い方に楯無が質問する。
「前々から思ってましたけど、イッセーさんって織斑先生の事結構嫌いですよね? 口調からして」
「碌に話もしたことない相手にそんな感情は無いよ俺は。
そもそもイチ坊には悪いが、あの先生が世界最強だと言われてようとも、俺には一山いくらのそこら辺の女にしか思えねぇ」
二束三文レベルの女とこのご時世にハッキリ言い切ってしまうイッセーに一夏が苦笑いする。
「イチ兄なら例え目の前に居たとしても言っちゃうだろうなぁ。
ホント、あの人にそこまで言えるのってイチ兄ぐらいだろ」
「心配しなくても言わんよ。どうせ顔を合わせる機会なんざほぼ無いしな。
あ、でも山田先生、頼むから告げ口は勘弁してくださいね?」
「い、いやいやいや言いませんよ! 後が怖いですし!」
ブンブンと首を横に振る真耶。
千冬をある意味この中で一番近くで見てる者としての予感なのだろう、確実にイッセーと千冬は根本的に性格が合わないと理解していた。
「そ、そもそも織斑先生って弟君が体調を崩したりしても決して保健室に連れていこうとしませんから」
何せその千冬がまず保健医のリアスの美貌に嫉妬と危機感を抱いてるのだから。
「そういえば一度も保健室に来たことが無いわね。前にその理由をチラッとは聞いたけど……」
「多分ですけど、もし弟君を保健室につれて行って、グレモリー先生と引き合わせたらと考えてる様で」
「あー、じゃあその被害者とも言える私の意見としてはそのまま連れてこない事を祈った方が良いですね。
下手したら不慮の事故でグレモリー先生の嫉妬しちゃうお胸に被害が……」
「事故だろうがそんな真似してみろ……………俺は自分で何をしでかすかわからなくなる自信がある」
「大丈夫だぜ、そうなる前に俺と箒が回避させる」
「あぁ、私だってそんな現場見たら頭に血が昇るだろうしな」
「勿論私も協力するよ! グレモリー先生のおっぱいを弟君に触らせるなんて嫌だもん」
「あ……もう、布仏さんったら、恥ずかしいからやめてなさいよ」
「ほ、本音!!」
とはいえ、話を聞いた途端目に見えてマジになった本音達も居るので鉄壁にも程があるので千冬の要らない危機感とやらは杞憂も良いところなのだが。
まあ、その本音に今どこぞのスケベ亀の仙人よろしくにパフられてる訳だが……。
「えへへ~ グレモリー先生って何時も優しい匂いがして好き~」
「………」
「のほほんさんに悪意は無いからな?」
「そんなもん分かってるよ。
別にそんな意味じゃないし」
「ぐ、ぐぬぬ……本音め、あんなに簡単にグレモリー先生に近付けるなんて……」
「貴女も大概更識先輩の事を言えないですね……」
「………………」
「山田先生、自分の胸元確認してますけど、ひょっとして変な事考えてません?」
「!? べ、べべべ、別に!? お、大きさなら負けてないなとか思ってませんよ!?」
どちらにせよ、そうなってしまったら確実に大人気なさ全開の殺意度MAXの龍神越えの龍帝が出張ったら終わりなのは間違いないので是非千冬には頑張って貰いたい……。
ちなみに、春人に誘われて昼を一緒にしてるシャルルは同じ転校生のラウラや楯無の妹の簪やらセシリアやら鈴音やら千冬やらの面子が春人を巡って水面下の争いをしてる嫌な空気の中、肩身が狭い思いをしているのだとか。
(あぁ、専用機さえ持ってなくて対象じゃなかったらこんな空気に関わりたくなんて無かったのに……帰りたいよ)
空気が重くてご飯は喉に通らず、ただただ抜け出したい気持ちしかないシャルルの明日に光はあるのか……それはわからない。
補足
まだ関心が0なのと、用務員室でお昼な為誘われなかったら弟に誘われた。
本人も転校した理由もあって取り敢えず乗ったけど……正直後悔しかなかった。
……空気的に。
その2
たっちゃんが相も変わらずグイグイ行こうとするけど、その通りに返されるとビックリしてテンパるのは変わらない。
いや、寧ろ信じられなくなるくらいしおらしくなる。
その3
千冬はリーアたんの美貌に嫉妬と危機感を抱いてるので、何がなんでも保健室には行かせず自分が面倒を見てる。
もっとも、もし行ってリーアたんがその日担当だったらヤバイですけど――いろんな意味で。