色々なIF集   作:超人類DX

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たまにはさ……普通にね?


たまにはそれっぽく
過保護な龍


 宿命を押し付けてしまった責任は己にある。

 故にその宿命を背負ってくれた相棒を今度こそ守り通す。

 

 極当たり前の幸福すら得られずに死なせてしまったケジメとして……。

 

 その為にはまず徹底して周囲にバレない様にと諭しながら力を持たせる。

 

 完全に消滅した筈の俺が何の因果か、記憶は無いし人格は多少違えど、それでも再び同じ相棒に巡り会えたのは運に恵まれているのだから、同じ間違いだけは繰り返させやしない。

 

 それが今の俺の生きる意味なのだ。

 

 けれど、俺がそうだった様に、運命というものは余程アイツを平穏に生きさせる事を嫌がるらしい……。

 たった一つの出会いが、まさか奴等と関わりを持つ事になってしまうなんて……。

 

 そして皮肉にもその出会いが、かつてのアイツと同じ領域へと進ませてしまう進化の片鱗を芽生えさせてしまうだなんて……。

 

 全く以て笑えやしない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 リアス・グレモリー達が街外れの古びた廃教会へと到着した時に目にしたものは、まさに地獄絵図だった。

 

 

「これは……」

 

 

 噎せる様な血の匂い。

 息絶える無数のはぐれ悪魔祓いと思われる者達。

 リアスやリアスの配下達はその光景を前に絶句していた。

 

 

「一体誰がこんな真似を……?」

 

 

 配下の一人である姫島朱乃が吐き気すら催す血の香りに口元を押さえながら呟くが、誰も答える事はできない。

 元々リアス達は、自分達が管理するこの街で良からぬ真似をしようとしているとある堕天使一派の調査をするつもりで来た筈だったのだ。

 それがまさかこれ程の死体の山を見せられるとは思ってもいなかったし、恐らくこのはぐれ悪魔祓い達はその堕天使一派の手駒達で侵入者である何者かに殺られたのだろう。

 

 

「! 部長、奥にまだ気配があります」

 

 

 配下の一人である木場祐斗が廃教会の奥にまだ人の気配を感じ取り、リアス達もまたそれを察知するのと同時に何か物音が聞こえる。

 

 

「…………。何かを思いきり叩いてる音が聞こえます」

 

「そうね。どちらにせよこんな光景を見せられては無視して帰るなんて出来ないわ。

気を引き締めて行くわよ皆」

 

 

 規則的に聞こえる何かを叩き潰す音を耳に、リアス達は礼拝堂へと続く大きな扉を開け放つ。

 そしてそこでリアス達は目にした……。

 

 

「…………」

 

 

 何度も振り下ろしたであろう血にまみれた拳で、既にくず切れの様に横たわる堕天使の頭部を……。

 

 

『Boost!』

 

 

 砕く瞬間だった。

 

 

「………………」

 

 

 あまりの光景にリアス達は言葉を失い、ゆっくりと立ち上がるその者の背中を見つめた。

 

 

「アーシア……喜ばないかもしれないけど、仇は取ったよ」

 

 

 返り血に染まるそのシルエットから特定はしづらかったが、着ている服が自分達の通う高校の男子の制服だった事だけはかろうじて理解できた。

 

 

「ほら、取り返したんだよアーシア……だから……」

 

 

 左腕が赤い籠手の様なものに覆われている少年が、祭壇の上に眠るように横たわる金髪の少女へと近づき、右手に持った輝くものを少女な中へと戻す。

 それが何なのかはリアス達も理解出来たし、少女が何をされたのかも直ぐに察知できた。

 

 そう、少女はきっと殺されたのだ……頭部を失って息絶える堕天使に……。

 そしてその仇を取ったのがこの血塗れの少年である事を……。

 

 

「アナタは……」

 

 

 取り返したものを少女へと返しても、少女は息をしない。

 その現実を前に絶望する様に身を震わせる少年の背に声を掛けたリアス。

 

 すると少年はゆっくりと此方へ振り向き……返り血と涙でより絶望の感情が伺える状態を見せた。

 

 

「き、キミは僕の隣のクラスの兵藤君じゃあ……」

 

 

 そのおぞましき姿に一瞬気圧されたリアス達だが、配下の一人たる木場祐斗が即座に少年の顔を見て誰なのかを理解し、名を呼ぶ。

 

 

「兵藤……? って、確か学園内で有名な変態三人組の一人……」

 

「そ、そうだけど、何で兵藤君が……? それにその左腕は……」

 

 

 兵藤という名前に仲間の一人の塔城小猫も誰の事なのかを理解し、祐斗が頷きながら学園で見せる様子とは真逆の絶望に染まった虚ろな目と表情をする少年に左腕の事を含めて何があったのかを問い掛けようとすると、リアスが片手をあげながらそれを制止させつつ口を開く。

 

 

「その話が本当なら、アナタはうちの学園の生徒らしいわね? そんな一般人がここで何をしていたの?」

 

「……………」

 

「ま、待ってください部長、彼はまだ僕達が何なのを分かってませんし、その質問は……」

 

「そんな悠長な事を言ってる場合じゃないわ。

多数のはぐれ悪魔祓いや、堕天使が数人彼に殺されてるのよ? このまま帰す訳にはいかないわ」

 

 

 リアスの厳格な意見に祐斗は声を詰まらせた。

 確かにどう見ても、先程の瞬間の現場を見ても彼がこの地獄絵図を作ったのは間違いないし、恐らくあの左腕は神器の類いで間違いない。

 となれば当然このままだまって帰す訳にはいかないというリアスの意見は尤もなのだ。

 

 

「もう一度聞くわ。どうして此処でこんな事をしたの?」

 

 

 答えるまで帰さないという意思が込められた眼力で見据えながら軽く殺気を放ったリアスに、少年は血に染まった自身の両手へと視線を落としながら口を開いた。

 

 

「コイツ等がアーシアから全部を奪ったから」

 

「アーシア……? そこで死んでいる子の事? さっき見てたけど、どうやら堕天使達に神器を抜かれて死んでしまったみたいだけど……」

 

「そうだ……コイツ等は……コイツ等は俺の友達を奪ったんだ。

だから許せなかったんだ」

 

 

 そう言いながら涙を再び流す少年にリアスは快楽殺人鬼の類いでは無さそうだと少しだけ警戒を緩めるのと同時に、人の身でありながら既に神器を自覚して使いこなしているに加え、下級集団とはいえ堕天使一派を一人で殲滅させるその力を仲間として加えてみたいという欲が動いた。

 

 それに死んでいる彼女もまた神器使いであり今ならまだ間に合う……。

 等と頭の中で計算したリアスは妙に慈悲深そうな表情を浮かべながら俯いた少年に言った。

 

 

「私ならその子を何とか出来る可能性があるわ」

 

「!」

 

 

 その言葉にそれまで虚ろだった少年の目に光が僅かに灯る。

 

 

「なんとかできる……? 」

 

「ええ、この悪魔の駒(イービルピース)を使うことでその子を我々と同じ悪魔として転生させれば、彼女は再び息を吹き返すわ」

 

「悪魔……」

 

「そう、悪魔。私達は悪魔なのよ。

けど転生させるには条件がある……」

 

 

 訝しげな顔をする少年にリアスは続けた。

 

 

「アナタも悪魔に転生する事。これが条件よ」

 

「なんだって……?」

 

「でなければこれだけの騒ぎを起こしたアナタを我々は捕らえなければならなくなるし、そうでなくてもそこで死んでいる堕天使の仲間達がきっとアナタを狙う。

そうなればアナタだけの問題ではなくなり、アナタのご両親も危険に晒されるわ」

 

「………………」

 

 

 両親が危険に晒されるという脅しにも取れる言葉に少年の目が僅かに揺らぐ。

 

 

「けれど私の眷属として加わればそういった手合いから必ず守るわ。

どうするの? あまり返答に時間を掛けていたらその子の転生が間に合わなくなるわ」

 

「……! 道なんかあって無いようなものじゃないか……」

 

 

 アーシアの転生が間に合わなくなるという言葉が最後の一押しになったのか、少年は少し悔しげに下唇を噛みながら頷いた。

 

 

「契約成立ね……では始めるわ」

 

 

 こうしてリアス・グレモリーは神器使い二人を一気に獲得する事になる。

 

 

「あ、あれ……私は……」

 

「アーシア!」

 

「は、はぇ? イッセーさん? そ、そのお姿は……」

 

「よ、よかった……よかった……!」

 

 

 そう、少年にとって余程大切な友人を生き返らせる事で恩を売れたと確信したこの時までは。

 

 

「ではアナタには兵士として転生を――あら?」

 

「……?」

 

「む、なら二個使って……あ、あれ、これでも? じゃあ三個……」

 

「そ、それにしてもこれは一体何が……」

 

「大量のケチャップが暴発しちゃってな……」

 

「くっ、4! チィ! ならば5……!!!」

 

 

 完全にアーシアが甦った安堵からなのか、さっきから目の前でリアスが焦った様子で次々と転生の駒を増やしている事などには目もくれずに周囲の地獄絵図についての嘘をアーシアに吹き込んで誤魔化してるイッセー。

 

 

「は、八個全部でもダメなの!? 一体どういう事よ!?」

 

 

 そして結局手持ちの兵士の駒すべてを消費してもイッセーを悪魔に転生させる事が出来なかったリアス。

 

 

「……。終わったんですか?」

 

「い、いえ……ちょ、ちょっと調子が悪くてアナタの転生が……」

 

「……?」

 

「あの人、リアス部長より力量が上なんでしょうか?」

 

「部長が八個も使っても転生に失敗するって事は多分そうなんだと思うけど……」

 

 

 さっきまで神器使い二人を仲間に出来ると喜んでたリアスも想定外な展開に困り果てる。

 何も知らないのは返り血をケチャップだの、横たわる死骸を精巧に作られたマネキン人形だと宣うイッセーと、それを馬鹿正直に信じてしまってるアーシアの二人だけ。

 

 そんな時だった。

 

 

『おい』

 

 

 イッセーの左腕を覆っていた赤い籠手から渋い声が聞こえたのは。

 

 

「!? 誰……!?」

 

 

 突然の声に辺りを見回すリアス達に声の主はここだとイッセーの左腕から声を放つ。

 

 

『イッセーの左腕だ』

 

「! 神器に意思が……!?」

 

「……。もしかして相当強力な神器なのでしょうか」

 

 

 驚くリアス達を前に、イッセーがキョトンとした顔をする。

 

 

「急にどうしたんだよドライグ?」

 

「お声を出すなんて珍しいですね……」

 

 

 どうやら本人は声を出すことを――意思があることを既に知っていたらしい。

 極々当たり前のように会話をしているイッセーと、知っていたのかそれに加わるアーシア。

 

 

『この悪魔共に教えてやろうと思っただけだ。

おい、そこの小娘』

 

「こ、小娘……? な、なによ?」

 

 

 小娘呼ばわりされて少しカチンとするリアス。

 

 

『先程からイッセーを悪魔に出来ん事を疑問に思ってる様だから一つ教えてやろうと思ってな。

お前程度の小娘の力量ごときに俺を―――この赤い龍を御せる訳がない』

 

 

 だが放たれた言葉はリアスをより驚愕させるものだった。

 

 

「赤い……龍ですって?」

 

 

 まさかこんな場所でその言葉を聞かされるとは思わなかったせいか、少し面を喰らった顔をしていた。

 

 

「で、では彼の神器は赤龍帝の籠手……という事なの?」

 

『そうだ。理解したか? 今の所コイツ自身の力量は俺が援護しなければ話にもならん脆弱さだが……』

 

「そんなハッキリ言わなくても……」

 

「げ、元気出してくださいイッセーさん!」

 

『潜在能力は俺の相棒である資格を持つに値する高さだ。

故に魔王ですらない貴様程度の小娘ごときではコイツを同族に転生させる事なぞ不可能なのだ』

 

「そ、そんな……」

 

『そうで無くても俺は()()貴様等悪魔を好かんから調度良かった』

 

「え、そうなのかドライグ? 俺聞いてないけど……しかも悪魔なんて今初めて知ったし」

 

『わざわざお前に教える程の脅威では無いと判断したからだ。

だがお前はそこの小娘の事で頭に血が昇って突っ走ったせいで見事にバレて早速利用させかけた始末だ―――まったく』

 

「利用って……。

アーシアがこうして無事なのはこの人達のお陰でもあるし……」

 

『甘い! お前は何度言っても甘い! 悪魔がそんな単純な親切心で動く連中ではないのだ!』

 

 

 神滅具のひとつとされる赤龍帝の籠手の意思である赤い龍がイッセーゆ怒るはいいとして、妙に悪魔に対して敵意を向ける理由は何なのだろうか? リアスにしてみれば思いがけないデカい獲物を目の前に手も足も出せない歯痒さもあって悔しそうに睨む事しかできない。

 

 

『その小娘の事もだ! 今更責めるつもりはないが、お前が甘いからこんな状況になるのだ』

 

「だ、だってよぉ……言葉もわからず道に迷ってる可愛い女の子を前にしたら助けたくなるだろ?」

 

「か、可愛いだなんて、そんな……えへへ」

 

『俺が力を小娘に送り込んでリンクさせなければ、お前だって言葉が伝わらなかった分際で何を言ってる?』

 

「だからドライグが居てくれて助かったんじゃんか! なぁアーシア?」

 

「ドライグさんのお陰でイッセーさんとだけは普通にお話できましたし、お友だちにもなれたし、本当に感謝しかありません」

 

『……。チッ、あの時は全く素養がなかった小娘にイッセーと同じ素養があったからだ。

無かったら無視するつもりで感謝される謂れはない』

 

「す、素直じゃないなぁドライグは……」

 

 

 兵藤イッセーに宿る龍のおかげで仲間にするのは一筋縄ではいかなそうだ。

 リアス達は目の前で話し込んでる三人を前をただただ見つめるしかできなかった。

 

 

 赤い龍

 二天龍の片割れ通称・ドライグ

 

 

 

備考・数奇な人生を送り、清算すら叶わず死んだ()()()の相棒の二の舞は避けようと、今度こそ守り通す事に固執し過ぎて小姑みたいになってる龍の頂点へと一度は到達した龍帝。

 

 

 兵藤イッセー

 備考・物心がついた時から話せたドラゴンに頑固親父の如く叩き込まれたスケベな赤龍帝。

 

 

 アーシア・アルジェント

 その奥底にある気質と神器によって迫害されたけど、イッセーとドライグと出会って幸福を手に入れられた少女。

 

 

 

「と、取り敢えず詳しい話は明日ウチの部室で話すからちゃんと来なさいよね!」

 

「はぁ、そりゃもうアーシアの事でお世話になりましたし――あれ? よく考えたら学園二大お姉様に癒し系マスコット美少女とこんなに近くでお話出来てるんだよな俺? お、おお……? なんというおっぱい……じゃなくて感激――ひとり余計なイケメンいるけど」

 

「あ、あはは……」

 

「むぅ……デレデレしてるイッセーさんを見るとモヤモヤします」

 

 

 これは守れなかった相棒を失ったドラゴンが今度こそ守る為の奮闘劇。

 

 

「すっげー、なんやかんやでアーシアは無事だし、明日はあのオカルト研究部の部室に入れるのかぁ。

うへへ……良い匂いとかしそうだなぁ」

 

『バカ! 向こうは利用するつもりなんだぞ!? 雌の色香に騙されるんじゃあない!!』

 

「私はどうやらあの方々に助けられたので何も言えませんけど……あんまりデレデレするのは良くないと思います」

 

「わ、わかったよ……デレデレしなきゃ良いんだろ? 任せろって」

 

『……………。チィ、ダメだな。確実にあんな雌共にコイツは鼻の下を伸ばすと顔に書いてある。

おい小娘、いっその事奴等の言いなりになる前にお前がイッセーとまぐわりでもして首輪を着けろ』

 

「うぇ!? わ、私がい、イッセーさんと……!? あ、あぅ……ま、まだ恥ずかしいですよ……」

 

『じゃあお前はイッセーが連中に鼻の下伸ばしてるのを見て我慢できるのか? 最悪先んじて首輪を掛けられてまぐわられる可能性だって……』

 

「い、嫌です! そ、それは絶対にさせませんから!」

 

「おーい? さっきから二人で何をこそこそと……」

 

 

終わり




補足

原作イッセーとあんまり変わりませんが、一度頭に血が昇ると某トレバー・フィリップスばりに――某ゴンさんばりにバーサーカー化しちゃうのが違いかな。

あと『とある気質』。


後は基本美少女には鼻の下伸ばすし、同志二人としょっちゅうやらかしては顰蹙買うわです。


その2
一度龍としての頂点には到達してるので、原作よりある程度自由が利いてるドライグですが、かつてがかつてなせいか、周りに対しての警戒心とイッセーに対する過保護さが半端ないです。


その3
アーシアたんも基本あんまり変わ―――らないと見せかけて、イッセーと出会ってからは割りとアグレッシブになる予定。

主にドライグ教育のおかげで後方だろうが前線だろうが関係なく動き回れるアグレッシブ元シスター見習いちゃんになる意味で。

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