兄キャラ属性が追加されてるのか、まともになるところのギャップが割かし強いらしい。
兄弟……それも同じ日に生まれた双子という強い繋がりを持つ自分よりも弟との繋がりが強く見えてしまう。
セラフォルーという魔王に――ましてや女性に対して嫉妬という感情を初めて抱いたイッセーは、学園が夏休みに突入するのと同時に、リアスの故郷である冥界のグレモリー家へと滞在する事になった。
所謂合宿という奴である訳だが、セラフォルーへの嫉妬を自覚したイッセーは少しだけそれまでのなるようにやって来た様々なピンチについて深く考える様になっていた。
それは冥界へと続く特殊列車の中でもだった。
(これまで俺は
偶然リアス部長に命を救われ、偶然俺が赤龍帝を宿していたからアーシアを助けられて、コカビエルの時も偶然があったから生き延びられた。
それじゃあ駄目だ。ヴァーリとの事もあるし、このままだと今度こそ俺は……)
これまでの奇跡に助けられて来た事を回想しながら、このままでは駄目だと考えるイッセーは何時もの元気さの欠片も無く、ただただ列車の窓から覗くなんともいえない景色を眺めながら憂いを帯びた表情を浮かべている。
(何時から出会っていたのか、何であそこまで親しいのか――もうそんな事なんてどうでも良い。
これからマコトがどうなろうと、例え皆から嫌われようと、俺は絶対にアイツの味方になる。
それが例えボインの美女に味方になれと言われようとも俺は――)
セラフォルーとマコトの知らない間に、その異様な仲を見せられる事によってほんの少しだけイッセーの中で何かが変わろうとしている。
それは列車に共に乗る仲間達も、何時もはこういう事に大袈裟に驚くイッセーがかなり大人しく、また妙に儚げな表情を浮かべているので様子が違うと気になっているくらいだ。
「先輩、何かあったのですか? 何時もなら五月蝿いくらい騒ぐのに……」
そんなイッセーに隣に座っていた小猫が話しかけると、イッセーは少しハッとする。
「ん……おう、ちょっと考え事をしててね。
別に大した事じゃないんだけど」
「……………。もしかして例の弟さんの事ですか?」
妙に大人しい返答をされて微妙にテンポを崩される気持ちになる小猫だが、例の弟――つまりマコトについて考えていたのかと問うと、イッセーははてと首を傾げてた。
「何でわかったんだ? もしかして小猫ちゃんはエスパー……」
「では無いし、別に人の心を読める訳でもありません。
先輩が大人しい時は大体あの人絡みが多いからと思っただけなので」
そうなのか……。と、マコトの事に関して考える時の自分を客観的に評価されて気付いたイッセーは、別に隠す事でも無いかと、小猫にマコトの事を話してみた。
「ちょっと悔しいというかさ……。
ちょっとシャイで人と話すのがほんの少し苦手なマコトとあの人――あぁ、レヴィアタン様があんな話せたりできるなんてさ……って」
「ちょっとシャイってレベルじゃないと思いますけど……」
この人、やっぱりブラコンだったんだ……。
でもこういう時に真面目な顔をするもんだから微妙にしてやられた気分になる……と、マコトの事を話す時だけは凄まじくカッコよく見えた小猫は無表情を貫きつつも相槌を打つ。
「でもこの前はレヴィアタン様に膝枕されてた訳だろ?」
「アレは驚きましたね」
「そう、驚きなんだよ。マコトならまず膝枕をさせてとどんな美少女に言われようが無視か、しつこいようなら養豚場の豚を見るような目で『黙れ』と突き放す筈なのに、それが無かったって事は余程あの人を信頼してるって事になるんだよ。
それが悔しくてさ……正直美女に嫉妬する気分になる日が来るとは思わなかったぜ」
「は、はぁ……」
こ、これは本気だ。
と、美女より弟を取る言動をしているイッセーに少なからず驚くのと同時に、先日見てしまったセラフォルーに対して全く笑ってない目をしていたのもマジだったのだと悟る小猫。
「だからというかさ、レヴィアタン様にはあんまり負けたくないというか……。
今まで俺って偶然に助けられてばっかで自分の力じゃ何一つやれてないってのに気付いてさ……」
「そんな事は……」
「そう言ってくれるのは嬉しいけど、本当の事だからな……」
みょ、妙に格好いいぞこの人……。
美少女を前に鼻の下を伸ばしまくりなだらしない笑みとは正反対の、自嘲したものとはいえ儚げに笑みを浮かべるイッセーを目の前に少しだけドキッとする小猫。
幸い同車する他の仲間達はイッセーが小猫と話始めた時点で各々到着までの時間潰しを楽しんでいるので見られる事はなかったが、これを見たら間違いなくイッセーへのイメージが変化してしまうかもしれない……と、小猫は妙な焦りを覚えた。
「だから、マコトの兄貴として、皆の仲間として守れる強さを持とうかなー……なんて考えてみたりするんだよね。
先の長そうな話だけどよ?」
「………」
どうしよう何時ものイッセーじゃないから緊張してきたと、小猫は内心焦る。
実は小猫も小猫で個人的な悩みを抱えていて、列車に乗ってる今もずっとその事を考えていた。
………。もしかしたら、今のイッセーになら話せるのかもしれない。
緊張する気持ちを落ち着かせながら小猫が再び窓の外へと視線を戻そうとするイッセーに話した。
「あまり大きな声では言えないのですが、その……私にも兄弟が居ますので、何と無く先輩の気持ちがわかると言いますか……」
「え? 小猫ちゃんにも双子の兄弟が……?」
「違います、歳は離れてれます。姉が一人……」
「へー? それは驚いたけど……あまり大きな声じゃ話せないんだっけ? そんな話を俺にして大丈夫なのか?」
「何だか今の先輩になら話しても良いかなって思ったので……」
「おお、少し小猫ちゃんと仲良くなれた気がして嬉しいぞ……?」
何故自分は話してしまっているのだろう……窓と外へと戻そうとした視線を再び自分に向けるイッセーに小猫は自分の言動に疑問を感じながらも、自分の兄弟についてを話していく。
「今どこで何をしてるのかもわからなくて、生きてるのかも……」
「そうなのか……。探しに行けない理由があるんだろうけど、死んでると考えるのはダメだと思う」
「……」
どうしてこんな事まで自分は……。
そう疑問に感じてはいるけど、イッセーに姉についてを語ってしまう小猫。
「小猫ちゃんのお姉ちゃんかぁ……。あのさ、ちなみになんだけど、可愛いの? 胸のサイズとか……」
「…………」
もっとも、直後その姉の成りを聞いてきたせいで微妙にカッコよさが半減してしまったのだが……。
「……。当時の時点でムカつくくらい胸はあった気がしないでもないですけど」
「マジか!? へー、そうなんだー……へっへっへっ!」
「……。何時もの先輩に戻ったみたいで、話した甲斐がありましたよ……ふん」
「いやいや、小猫ちゃんだってもっと大きくなったら成長の可能性があると思うぜ? お姉さんがそうなんだから、それに可愛いしさ?」
「おべんちゃらなんて要りません」
「いやおべんちゃらじゃなくて、本心だって! ホントもう小猫ちゃんは可愛い――」
「それ以上言うなら殴りますよ?」
「すんません!!」
だけど、褒められたらやっぱりドキドキしてしまう。
殴ると脅して止めなければ色々と大変だった……。
綺麗に謝罪するイッセーに顔を見られないように頑張りながら小猫は思った。
そんなやり取りがイッセーと小猫との間であった頃、別の列車では死ぬほど気まずい空気が流れていたらしい。
「……………………………………………………………………………………………………………」
「な、何か喋れよお前! 会長の挨拶も無視しやがって!」
「よしなさいサジ!」
「ですが会長! コイツは――」
「良いのよ……。
彼の人となりはお兄さんのイッセー君から聞いてますから」
「…………………………………」
リアス達とは別の、冥界へと続く列車に乗車したソーナ御一行は、どういう訳か先に乗車していたマコトにまず驚いた。
最初はイッセーが間違えたのかと思ったのだが、一瞥すらくれる事無く、死ぬほど死んだ目で一切喋らないという時点で彼がマコトなのはすぐに察した。
だから姉のセラフォルーにソーナが確認の連絡を取って説明を代わりにさせたのだが、どうやらマコトをセラフォルーの将軍として色々と学ぶために冥界に呼んだらしい。
一番日が浅い事を考えたら納得の行く話だけど、同車してみれば漂う空気は死ぬほど冷たいものだったのは云うまでもなかった。
「……………………」
「ちょっと待てお前! どこに行くつもりだ!」
そんな態度が元々気に入らない匙が何かにつけて突っ掛かり、実はソーナ達と鉢合わせした時点で別の車両に移動しようとしたマコトを無理矢理同車させ、ソーナへの態度の悪さについて文句ばかり聞かされていた。
(チッ……)
そんな匙や色眼鏡でこっちを見てる眷属や、探るようや眼差しを向けてくるソーナに対してマコトは一瞥もくれずに窓の外を、奇しくも別の列車に乗ってるイッセーと同じ体勢で眺めてつつ内心毒づいていた。
(余計な接触を避けるつもりが、何でか知らないけど絡まれるしでツイてないにも程がある。
セラフォルーのバカ……冥界に今更行く気なんて無かったのに、どうしても来て欲しいなんて言いやがって……。今の俺が断れる訳がねーだろってんだ)
この世界のソーナ達――リアス達もそうだが、ここ最近セラフォルーとの再会を経てからある程度踏ん切りがついたせいか、自分とセラフォルーにとって
故に口を開けば余計な事言って怒らせてしまうからと、黙っていた訳だが……。
「折角の皆さんの旅路の邪魔になるし……俺のせいで空気が悪くなってるのも自覚してます。
それについては本当に申し訳ありません……けど、俺は他人と話すのが本当に苦手なんです……余計な事を言って怒らせてしまうかもしれないと考えたら声が出なくなる……今だって吐きそうだ。
だから………すいません」
「ぅ……」
もういい加減俺に絡むな。
その一言をかなりオブラートに包みまくった言葉を一息で告げたマコトは、ここに来て急に喋りだした事に面食らったソーナ達に背を向け、さっさと別の車両へと移動しようとしたのだが……。
「ごめんごめん! お仕事が忙しくて迎えに行けそうになかったんだけど、刹那で終わらせられたから迎えにきたゾ☆」
セラフォルーが車内にいきなり概念を無視して転移してきたせいで割りとめんどくさい方向に流れてしまう。
「ありゃりゃ? いーちゃんとソーたん達が一緒? なして?」
驚くソーナ達と呆れた顔をするマコトを交互に見ながらいきなり登場のセラフォルーが首を傾げる。
「なして――じゃねーよアホ。来れんだったら最初から俺を家に待機させとけよ。
俺のせいでこの人達に不快な思いをさせちまったんだぞ」
「は? …………不快ってなに?」
『っ!?』
マコト本人は単純にソーナ達に申し訳ないから言ったつもりだったが、親しい言動のせいか言葉を間違えたのかもしれない。
それまでマコトにさっさと甘える様に抱き着いていたセラフォルーの声が少し低くなり、これまた少しマジな顔でソーナ達を見据え始めた。
「いーちゃんに不快な思いって何? 何かいーちゃんがアナタ達にしたの?」
「い、いやそんな事は……」
「彼はずっと黙っていたままでしたが、別に不快とは思ってませんよ」
ヤバイ……と、咄嗟に目を逸らしてしまった匙に気付いたセラフォルーがもう一度聞くと、ソーナがそれを庇う様に姉に言う。
「……。げっ、しまった、また俺は余計な事を。
あ、あ、あのごめんなさい、俺別にそういうつもりで言ったんじゃ……」
「流石にわかってますよ兵藤君。
私達の方こそ、色々と詮索が過ぎたみたいでごめんなさい……」
「い、いえ……!
こんな薄気味悪い奴を警戒するのは当然というか、ましてや貴女のお姉さんの眷属になってしまった事ですし……」
やっぱりソーナだけどソーナじゃない奴を相手にしてる気分でやりにくい……と内心思いつつテンパるマコトにソーナはフッと笑みを浮かべた。
後ろで匙が何か言いたげな顔をしながらこっちを見ていたが、流石に言える空気じゃないのを読んでだまっている。
「へー? でも今ソーたんの後ろで兵士の男の子が何か言いたそうな顔を――あいた!?」
「もう良いだろう?
これ以上こねくりまわす意味もねんだよ、ったく、お前最近おかしいんじゃねーか? あ、すいません、我が王が……」
「…………。いえ、今のやり取りを見れただけでも信頼し合っているのが良くわかりましたから。
それにしても――ふふ、セラフォルーお姉様を小突いて叱るなんて……ふふふっ!」
どうやら結果的にはセラフォルーのストッパーになれそうだと思わせる事に成功したのか、少しだけソーナの雰囲気が軟化し、それまでの微妙すぎた空気も少しはマシになったのかもしれない。
「本当に不思議。
眷属は一人たりとも持たないとずっと言い続けてきた姉なのに……」
「ぐ、偶然といいますか……」
「違うね、いーちゃんとは運命の赤い糸で結ばれてるのさ☆」
「少し黙れ!」
「姉の言った事に同調するつもりではありませんが、私には確かに運命的な何かをお二人に感じますよ?」
「……。それは喜んで良いのか悪いのか……彼女は魔王であり純血ではありませんか……」
「おや、色々とご存じの様ですが、それは流石に古い慣わしですよ兵藤君? 確かに現在もそういった考えは残ってるし、純血自体も少ないですが、少なくとも両親は泣いて喜ぶと思いますよ? 何せこういう人ですから姉は……」
「は、はは……何でそういう関係って断定されてんだ俺は……」
「誰が見てもそうでしょうよ? あきらかに甘える様に今姉を膝枕してあげてるし、こうして話してる最中もずっと頭を撫でてるし、姉は姉で心底幸せそうな顔ですもの?」
「さっすがソーたんだぜ! わかってるぅー☆」
当初の頃とは考えられないくらいに盛り上がる旅路。
結局そのまま同車したセラフォルーに膝枕をしてあげながら、少し態度が変わったソーナと話すマコトは苦笑している。
「シトリー家には来ますか? きっと私達の両親も歓迎しますよ?」
「………それは」
「連れていくよもちろん! 仮に反対されたとしても駆け落ちするって言うつもりだし!☆」
「…………………な、納得できねぇ。急にベラベラ喋るとか。
さっきまで散々無視してた癖に」
「レヴィアタン様が居るからだよきっと!」
「そうだよ、何でそこまで兵藤君を目の敵にするのよ? 別に悪いことしてないじゃん?」
「何と無く気に入らねぇ! 会長ともいつの間にか楽しそうに話しやがって!」
「いや、微妙に顔とかひきつってるし、目も結局一回も会長と合わせてないじゃない……」
まだまだ色々な弊害が残っているけど……。
補足
ブラコンモード入ると逆にカッコ良さ増しになるらしい。
で、小猫たんはついつい話してしまったようで……。
その2
所謂主人公補正に助けられてきた事を偶然という形で自覚し、それに頼らない強さを持とうと決意するイッセー
スキルは無いけど、ある意味かつてのイッセーことマコトと似た道を歩み始めてるのかもしれない。
その3
かつてと今の線引きがマコトよりはっきりしてる分、例えかつての仲間の今であろうともマコトを敵視するなら割りと容赦なくなりつつあるセラフォルーさん。
ストッパーのマコトによって緩くなってるけど、居なかったらマズイのかもしれない。
膝枕してあげて落ち着かせよ。
その4
本人は冥界に行きたくは無かった。
理由は、嫌でも昔を思い出してセンチな気分になるから。
それと、グレモリー家とシトリー家の面子に会いたくは無かったから。
特にこの世界のヴェネラナさんを見たら凄まじい後悔の念が発祥しそうだから余計に。
多分今の彼なら元の世界のヴェネラナさん達にたいしてもっと素直になれるかもしれない……皮肉にも。