色々なIF集   作:超人類DX

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ないわー展開ゴー


思い出と……

 唐突ながらもこの日が来た。

 兵藤誠として今を生きるかつての日之影一誠がグレモリー家へ来訪する日が。

 

 

「準備は良い?」

 

「……おう」

 

 

 二度と立ち入る事は無いだろうと思っていた。

 だがマコトはセラフォルー・レヴィアタンの将軍として再び足を踏み入れる。

 燕尾服に袖を通し、ヴェネラナ・グレモリーに無理矢理セットされる事の多かった軽めのオールバックの髪型にセットし、セラフォルーの問いに小さく答えながらその後ろを歩く。

 

 

「移動の車の手配を……」

 

「必要ないよ、いーちゃんと二人で歩いていくから」

 

「ですがここからではグレモリー家までかなりの距離が……」

 

「歩いてへばる程ヤワじゃないから大丈夫」

 

 

 徒歩で、己の足で……。

 日之影一誠としての過去に区切りを着ける為に、兵藤マコトはセラフォルーが周囲の悪魔達へ断りの言葉を向けるその後ろで一歩を踏み出した。

 

 

「お手を、セラフォルーお嬢様」

 

「! ふふ、うん☆」

 

 

 

 

 

 

 朝からグレモリー家の使用人達が嫌に慌ただしい。

 何かあるのだろうか? なんて気になりながらも朝食をご馳走になっていたその席でリアス部長のお父さんが唐突に俺達に言った。

 

 

「今日の予定なのだが、魔王・レヴィアタンとその眷属をこの城に招待した」

 

『は!?』

 

 

 レヴィアタン……つまりセラフォルーさんとその眷属――勿論マコトがここに来る。

 まるでコンビニでアイスでも買うかの様なお手軽感覚で言ったリアス部長のお父さんに、俺は勿論――そしてリアス部長のお母さん達までもが面食らった表情をしていた。

 

 

「どういう事ですかアナタ? 何故その様な事を、しかも私達に黙って?」

 

「突然閃いたからだよヴェネラナ」

 

「だから朝から使用人達が忙しそうに……」

 

 

 突然の事で少し怒った様子で詰め寄る部長のお母さんに対して、本人はケロッとした顔でなんて事無いといった感じで答えた。

 だがそれで済まされる訳は無く、顰蹙めいたものを買う事態にまで発展してしまったのだが、結局この部長のお父さんは最後までケロッとしていた。

 

 

「マコトが来るのか……。やっぱりアイツも冥界に……」

 

「しかしまた急だな……何故そんな」

 

「そういえば昨日もイッセーさんに弟さんの事を聞いてましたね」

 

 

 部長の眷属組の俺達もこの話を聞かされて当然びっくりだ。

 けど確かにアーシアやゼノヴィアの言うとおり突然過ぎる……。

 やっぱり何かマコトに対して企んでいるのだろうか、部長のお父さんは。

 もしそうだとして、マコトに悪意を持ってるとするなら俺は……。

 

 

 

 ―――なんてモヤモヤした気分のまま、あっという間に時間は来た。

 

 

「お父様は何でこんな急に……」

 

 

 入り口の門で出迎えをしながらリアス部長が終始ブツブツとこの唐突な話に納得できてない様子で文句を言っている。

 無論、部長だけじゃなく今回のこの突然の話には部長のお母さんも言葉にはしてないものの良い顔はしてない。

 相談も無しにいきなり招待だから当然だし、ましてや相手はあのセラフォルーさんだしな。

 

 そりゃあ怒るのも無理はないか――なんて思いながら待っていると、城門が開かれた。

 

 

「…………」

 

 

 静かだった。

 部長の帰省とは違い、使用人の人達もどこか緊張した面持ちだ。

 そんな空気の中小さく開いた門から姿を見せたのは、授業参観の時みたいな格好をしたセラフォルーさんと……。

 

 

「……………………」

 

 

 その後ろをただ静かに付き従うかの様にして歩く、執事服に今度はオールバック姿の俺の弟だった。

 

 

「何で執事服なんですかね……?」

 

「そこの所は俺もよくわからないんだ……」

 

 

 見る度に執事度的な数値が上がっていってる気がするマコトの出で立ちは、そもそも何でなのかという疑問が先行してしまう。

 確かに無意味に喋るタイプじゃないという意味では合ってるのかもしれないけど、それにしたって何で執事なのか……。

 妙に静かになる場の中をセラフォルーさんと共に堂々と――いや、少しだけ下を向きながら歩くマコトを見ていると、リアス部長のお父さんがにこやかな表情で二人の前へと移動した。

 

 

「よく来てくれた。昨日の今日で大変失礼かと思ったのだが……」

 

「別に構わないよジオティクスおじ様。

びっくりはしたけど今日は揃って暇だったからね☆」

 

「…………………」

 

 

 挨拶を返すセラフォルーさんと握手している部長のお父さん……てかジオティクスさんの視線が若干下を向いてたマコトへと向けられている。

 

 

「彼がキミの初めての眷属か……」

 

「そーだけど、驚いちゃったな? 差出人は書いてないからまだわからないけど、このいーちゃんを招待したいだなんて手紙を寄越したのは?」

 

「差出人は私だよ。

書かなかったのは……ちょっとしたサプライズさ」

 

「……………………………………………」

 

 

 少しだけセラフォルーさんから警戒心に近い雰囲気を感じる。

 どうやら俺と同じくマコトに対して何故か気にするジオティクスさんが解せない様だ。

 

 

「立ち話もなんだから、中へ案内しよう。皆の者、二人を丁重にもてなす準備を」

 

『はっ……!』

 

 

 サーゼクスさん達をも含めた俺達が置いてけぼりにされてる気がする中、命じられた使用人の人達が一斉に散り、セラフォルーさんとマコトはジオティクスさんに続いて城の中へと入っていく。

 

 

「………………………。私達が全くの無視なのだけど」

 

「言いたいことは解りますが落ち着きなさいリアス」

 

「よくわからないな父の考えが……」

 

 

 部長や部長のお母さんがそんな状況に対して多少の不満を抱きつつも後を追うようにサーゼクスさんと共に中へと戻る。

 無論眷属の俺達も……。

 あぁ、マコトが心配だ……。

 

 

 

 

 内装が完全に同じだ。

 まずマコトが思ったのはそれだった。

 

 

「単刀直入に聞くけど、どうして私の眷属をそこまで気にするの?」

 

「深い意味は無いよ。

子供の頃からキミを知る身としては、頑なに眷属を持たなかったキミがどうして今になって――しかも娘のリアスの兵士の双子の兄弟を……と思ったまでさ」

 

「…………………」

 

 

 この無駄にデカい窓を毎日毎日、グレイフィアに怒られながら拭いてたっけか……。

 と、嫌でも当時の記憶を甦らせながらも、懐かしい気持ちになるマコトはジオティクスの話を全く聞いちゃい無い。

 

 

「…………………………………………………………………………………………」

 

「何故彼は使用人の様な格好なのかしら?」

 

「それは私達にもわかりませんが、会談の時に初めて彼を見ましたが、身のこなし方は殆ど完璧でした」

 

「ふむ、イッセーさん? アナタの弟さんはどこかでそういった技術を学ばれたのですか?」

 

「い、いや、俺もわからないんです。

いったい何時覚えてきたのかも……」

 

 

 後ろにはサーゼクス、グレイフィア、ヴェネラナが自分の背に向かって懐疑的な視線を送って小声で話している。

 やはりセラフォルーの言う通り、違う存在なのはこれで間違いがなくなった――そう思いながら少しだけ後ろを向くと、かつては『一々喧しい若作りババァ』だ等と反抗期のガキみたいな態度ばかりを向けていた相手、ヴェネラナ・グレモリーと目が合ってしまった。

 

 

「? なにか?」

 

「うひっ!?」

 

(うひ……?)

 

 

 まさか目が合うとは思わなかったのもあり、マコトは慌てて前を向いて目を逸らした。

 変な声まで出してしまったせいか妙に恥ずかしい。

 

 ヴェネラナが後ろから不思議そうに自分を見てるその視線を感じながらマコトは身を縮こませていくのだった。

 

 

 

 懐かしき場所ではあるが、この場所に住むグレモリー家の人々は自分の知るグレモリー家の者とは違う。

 その中でも驚いたのが、ミリキャスがサーゼクスとグレイフィアの娘ではなく息子だという事。

 

 

「初めまして! アナタがセラフォルー様の将軍の方で、赤龍帝さんの弟さんですね! 僕はミリキャス・グレモリーといいます!」

 

 

 顔立ち等の差異は性別の差による変化はあるもものの、然程変化は無い。

 あるとすれば男故か髪の長さ等が違うのと声の微妙な高さの違い……それと骨格の作りぐらいか。

 

 

「…………………」

 

 

 今イッセーの背中に隠れ、完全に怯えた様子でマコトの事をを伺っているギャスパーなんかも容姿の変化は無いが完全に男として存在しているというのもあるし、最初からセラフォルーに前情報は渡されていたのもあるので別段ギャップは感じない。

 と、思うことにしていたマコトだが、実際こうして向かい合ってみると戸惑いの感情がやはりある。

 

 

「? えっと……?」

 

 

 仕方無い。ここは外様の己が不用意に掻き回すべき場所では無いのだから違いがあって当然。

 第一、セラフォルーだけでも自分と同じ世界を生きた記憶と力を持っているというだけでも奇跡だ……。

 過度な期待なぞしてはいけないのだ……。

 

 

「え……」

 

『!?』

 

 

 けど、それでも少しは重ねてしまう。

 自分を――血の繋がりなんて欠片もなければ種族さえも違った自分の事を『一誠にいさま』と呼んではグレモリー家にいた頃は後ろをちょこちょこと付いてきていたミリキャスと……。

 だからなのだろう、マコトは無意識に……そして自然に膝を折ると、この世界のミリキャスと同じ目線になって彼の頭に手を置いてしまうのは。

 

 

「あの……?」

 

「っ!? 失礼しました……」

 

 

 もっと優しくしてあげれば良かったという遅すぎる後悔がマコトをこの様な行動に移らせてしまったのだろう。

 何も知らない周囲はマコトの行動に驚き、ミリキャス本人もポカンとした顔をしている。

 真意を知るのはセラフォルーだけ……。

 

 

「ふむ、子供も扱い方の心得もある様だね?」

 

「……。いえ……」

 

 他とは少し違う反応のジオティクスから話し掛けられ、マコトは小さく返答しながらも目は決して合わさない。

 覚悟はしていたが、その覚悟以上にこの場所とここで生きる者達を前にすると強烈な後悔の念が強すぎるのだ。

 

 

「それでおじ様、この後私達は何をしたら良いの?」

 

「何もする必要はない。招待したのは此方なのだからね。

食事の時間まで寛いでくれると嬉しい」

 

「ふーん? なら折角だし明日の事についてサーゼクスちゃんと軽い打ち合わせでもしようかな? どうサーゼクスちゃん? 時間はある?」

 

「え? あ、あぁうん……」

 

 

 自分の殻に閉じ込もって酔っぱらい、周囲からの優しさすら信じずに当たり散らしてしまっていた馬鹿な己の所業を……。

 

 

 

 食事の時間までは自由時間だとジオティクスに言われ、当初明日の若手悪魔の会合についての軽い打ち合わせをしようとサーゼクスへ言ったセラフォルーに付いていこうとしたのだが、セラフォルー本人が『いーちゃんがわざわざ付き合う事でも無いからのんびりしててよ?』と言われてポツンと大広間の隅っこに隠れるようにマコトは小さくなっていた。

 

 

(セラの奴め、わざと俺を置いていきやがったな……)

 

 

 誰にも気付かれないようにとご丁寧に極限まで気配を消しながら、ひっそりと高そうな壺の置かれた台座の後ろに隠れるマコトは、セラフォルーがウインクしていたのを思い出して一人毒づいている。

 

 

(中庭の隅にあった俺のトレーニングスペースも当然無かったな……って、当たり前かそんなもん)

 

 

 無理にでも付いていくべきだったと思いつつも、かつて過ごした場所を思い返してしまい、微妙な気持ちにさせられるのと同時に、思いの外女々しい性格なんだなと改めて自分抱いていた理想の自分とはかけ離れてた事に自嘲する。

 

 

(ま、これで今度こそ二度とこの場所に近づく事も無くなるんだし、最後と思えば悪くは無いのかもしれない。シトリー家がまだ残ってるが……まぁ、多分大丈夫だろう)

 

 

 だがなるべく前向きにとマコトは今の気持ちをポジティブに捉えようとする。

 最早自分は一誠では無い、一誠は兄であり赤龍帝なのだ。

 

 幸いどうやら兄はそこそこグレモリー家から気に入られてる様だし、そこに横槍を入れる無粋な真似はしたくは無い。

 そう、だからもう関係ない……グレモリー家もシトリー家も――いや、シトリー家の場合はこの先も微妙に関係があるのかもしれないけど。

 

 そう思いながら、使用人の一人が自分に気付かず目の前を通りすぎるのを目で追っていたその時だったか……。

 

 

「むむむ、そこに居ましたか。

そんなに気配を隠されては、探すのも苦労します」

 

「は?」

 

 

 その使用人が通りすぎて行こうとしたその瞬間、ハッとした顔で此方に向き、苦労したぞこの野郎的なジト目でマコトをしっかり捉えたのだ。

 

 

「こっちです」

 

「な……な、なにを……」

 

 

 まさかバレるとは思っていなかった矢先の不意討ちだった為にマコトも狼狽えてしまう。

 しかし眼鏡を掛けた少しつり目気味な長い茶髪を後ろで結んでいた使用人ことメイドは、びっくりするぐらいに強引に狼狽えていたマコトの手を逃すかとばかりに掴むと、実はさっきから小猫やゼノヴィアや祐斗やアーシアを無理矢理付き合わせてマコトを探して城内を歩き回っていたイッセーのマコトを呼ぶ声とは反対の方向へとグイグイ連れていこうとする。

 

 

「チッ、彼等に見つかって付いて来られても厄介ですからこっちへ……」

 

「お、お待ちください、私に一体何の用があって……」

 

 

 イッセーの迷惑を省みなさすぎるマコト連呼に対して、謎メイドがめんどくさそうに舌打ちをするし、そもそもマコトの記憶の中にこんな使用人は居なかった。

 意外な事に、渋々とはいえ最終的にはかつてグレモリー家においてグレイフィアに次ぐ使用人としての地位を確立していたマコトは、シトリー家も含めた全使用人の顔を覚えていた。

 

 故にこんなというのもアレだが、見た目からして美人に見えるも婚期を逃してしまってそうなメイドは記憶に無いし、逆にグレモリー家へのスパイか何かかと疑ってしまう。

 

 

「詳しくは場所を変えてちゃんと話します、だから大人しく付いてきていたください――――イッセー副長」

 

「なっ!?」

 

 

 だがその一言が、マコト……いや、日之影一誠としての自分を知っているという事に他ならない決定的なものとなり、目を見開いてこれでもかと驚愕している内にマコトは美人でよく見たらスタイルも中々なちょっと婚期逃してそうなメイドに拉致されてしまうのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 妙なメイドに拉致られ、連れてこられたのはグレモリー家の地下にある薄暗い物置みたいな部屋だった。

 

 

「此処なら誰も来ませんので、気兼ね無くお話できます」

 

「………………」

 

 

 古めかしいランプに火を灯し、少し埃の被った机の上に設置した謎のメイドによって近くにあった椅子に座らされたマコトは、先程言われた言葉に驚いたものの逆に警戒心を深めながら、自分も座りだした謎メイドをジーっと見据える。

 

 

(歳は俺より絶対に上……セラと同世代? いや、それよりも少し上か? けど、誰だこの女?)

 

「厨房からお菓子と飲み物を失敬してきましたのでどうぞ」

 

 

 記憶に無い相手が何故か自分の事を知った様な態度で接してきてる。

 それが逆に警戒心を持つのも当然であるのだが、そんな怪訝そうな眼差しを向けられてる当の本人は悪びれた様子も無しに厨房から失敬してきたお茶とお菓子をマコトに振る舞い始める。

 

 

「アナタの場合は飾った食事よりも簡素なものが好みですからお口に合うと思いますよ?」

 

「そんな事は正直どうでも良い。

アンタは一体誰だ?」

 

 

 自分の事を知ってるとなれば、最早取り繕う必要は無い。

 最悪、敵ならば消す……そんな殺意を久々に放ちながらお茶にもお菓子にも手をつけずにメイドを睨み付けると、そのメイドはまがいなりにもそれなりにマジなマコトの殺意を前に平然と――それどころかどこか楽しそうに受けていた。

 

 

「あら懐かしい。昔の反抗期全盛期のアナタの殺気ね?」

 

「………」

 

 

 寧ろニコニコしてるメイドに、何だコイツ? とちょっと引いてしまうマコト。

 反抗期全盛期と言ってるが、それはつまりまだグレモリー家に馴染む前――サーゼクスに連れてこられたばかりの時の事を言ってる訳だが、少なくとも彼女はどうやらその頃からのマコトを知っているらしい。

 

 

「……。アンタはどうやらそれなりに俺の事を知ってる様だが、生憎俺の記憶にアンタの事は無いんだよ。

事と次第によっては敵と認識してアンタを消さないとならねぇんだが――お互いそんな後味の良くない結末を避ける為にも、どうか真面目に答えてくれると助かるんだが?」

 

「せっかちなのは相変わらずね……。言われなくてもちゃんと答えるわ。

けれど……当然とはいえちょっと残念だわ」

 

 

 そう言いながら確かに少し残念そうに微笑む謎のメイド。

 そういえば妙に口調が馴れ馴れしくなっているなとマコトは此処で気づくが、どう見ても目の前のメイドに関しての記憶は蘇らない。

 

 

「セラフォルーちゃんが()()だった時は驚いたのと同時に希望を抱いたわ。

もしかしたら貴方もそうなのかもしれないって。

けど初めてこの世界の一誠を見た時は貴方とは全然違った。

貴方はあの時赤龍帝では無かったし、彼はスキル保持者でも無かったから」

 

「………………気味悪いくらい詳しいなアンタ、マジで誰だよ」

 

 

 にも関わらず、このメイドは本当に、それこそかつての世界でも本当に近くに居なければわからない事まで平然と当たり前の様に話している。

 その内殺意よりも気味悪さの方が勝り始めたマコトは、それを悟られないようにと誤魔化しでメイドの淹れたお茶を口にする。

 

 

「でもそんなセラフォルーちゃんが眷属を持ったと聞いた時はもしやと思ったわ。

赤龍帝の兵士の双子の弟とわかった時なんて勝手に小躍りしちゃうくらいにね?」

 

「わかった……オーケーわかりました、本当に誰なんですか貴女は? 正直言うと寒気が……」

 

 

 ダメだ、昔主に金髪ばっかにストーカーされてた頃があったが、それ以上に今は寒気が止まらない。

 なので思わず敬語になって誰なんだと言うマコトだが、色々と乗ってしまってるのか、謎のメイドはそれはそれは嬉しそうにこれまでの事を話続けていた。

 

 

「上手いことこの世界のジオティクスに貴方への興味を持たせる様に誘導し、成功した時はもう………ね?」

 

「いや、『ね?』じゃないんだが。

というか、さっきからセラフォルーやジオティクスのおっさんを馴れ馴れしく呼んでるけど……」

 

 

 本人というか周囲の煩いだけの連中に聞かれたまずいだろ……と思ったマコトだったが、そこで彼の言葉はピタリと止まった。

 

 セラフォルーちゃん? ジオティクス?

 

 

「………………………………。い、いや待て。待て待て待て待て、いやいやいや、無い。無い無い無い、あり得ないって」

 

 

 よーく思い返してみたらそんな呼び方をして許されたのがかつての記憶の中で居たことを思い出したマコトは、これでもかと冷や汗をダラダラ流しながら明らかに動揺し始めた。

 既にこの世界のグレモリー家の面子を前に後悔の念というものがある意味消し飛んでいるのは恐らく動揺しているからだろう。

 それほどまでにマコトの中で組み上がったロジックは有り得ない程の衝撃なのだから。

 

 

「仕方無いと思うわ? だって姿も年齢も立場も昔と違うのだから」

 

 

 でもその動揺を前に気付いたのだと見抜いてより一層嬉しそうに笑みを深めた謎メイドは楽しげに、かつてと同じように彼を呼んだ。

 

 

「でもこうして漸く、しかも私が理想とするしっかりした格好をしてくれているだけでチャラにしてあげるわ――ね、一誠?」

 

 

 容姿は違えど……いや、よくよく観察したら眼鏡を外して髪をほどけば面影ある気がしないでもない――

 

 

「ヴェ、ヴェネラナのババァ……?」

 

 

 中身は確実にマコトの知るヴェネラナ・グレモリーなのだから……。

 

 

「正解……と、言いたい所ですが、ババァとはなんですかババァとは!」

 

「ま、待て!! 整理がつかないんだよ! この世界のババァが普通に居るのに何でババァがメイドやって……訳がわからねぇよ!?」

 

 

 ババァと言った瞬間、ペシッとひっぱたかれたマコトは混乱の極みみたいな表情だ。

 

 

「その事はセラフォルーちゃんも交えてちゃんとお話するけど、まずはひとつ……」

「え? ………あ……」

 

 

 まさか過ぎる展開に動揺どころか完全に取り乱していたマコトだったが、不意に抱き締められて思考が停止してしまう。

 

 

「漸くこうする事が出来た。

何年も母を待たせるなんて親不孝者……!」

 

「ご……ごめん」

 

「ふふ、嘘よ。アナタがアナタで良かったわ……」

 

 

 血の繋がりは無いのかもしれないけど、それでも母であってくれた者からの包容に勝るものは恐らく無い。

 それこそ狂犬じみたマコトですらも大人しくなってしまうくらいに……。

 

「セラは知らないんだよな……ババァの事」

 

「立場がまるで違うから……。先に言うと私は先々代バアルの不倫で生まれた者だから……」

 

「そうなんだ……じゃあ苦労したんだな……」

 

「それなりにね、でもアナタと会えたこの瞬間に全て報われたわ」

 

「それは何よりというか……」

 

「それにしても、セラと呼んでるのかしら? うーん、ということは相当深い関係になってると見て間違いないわね。

チッ、あまり自由には動けなかったせいでこうまで先を越されるとは……」

 

「……は? 何を言って――」

 

「私、この世界では独身だから……」

 

 

 若干拗らせてるのかもだけど。




補足

はい、ヴェネラナさんでした。
ただし、セラフォルーさんや双子で容姿がほぼ変化なしのマコトと違って立場から全く違う存在になっていたので流石にセラフォルーさんも気付かなかったらしいです。

とはいえ、眼鏡外して髪をほどけばこの世界のヴェネラナさんの影武者になれるかもしれない程度の面影はあらしいですけど。

その2
+少し拗らせてしまってます。
何がって? ……お察しで。

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