色々なIF集   作:超人類DX

327 / 1033
先に言っとくけど、シャルロットさん……つまり元ヴェネラナさんには『親子だったから』という理性は残ってます。

大丈夫、妙に年上キラー化してる今の元執事一誠にもちゃんと母としてだね……。


無神臓(インフィニットヒーロー)の名の下に

 『越えるべき壁だったサーゼクスを永遠に越えることは不可能になった』という現実を受け入れてしまって以降、生きる意味を見失いつつあった日之影一誠は、セラフォルーに続き、シャルロット・バアルというかなり複雑な出生を抱えて生きてきたヴェネラナと再会する事により、徐々にその異常性を復活させつつあった。

 

 

「他の者から聞いたのだが、うちの使用人であるシャルロットと仲良く話をしていたというのは本当かね?」

 

「…………………」

 

 

 違う存在として生きていようとも関係ない。

 セラフォルーと同じようにシャルロットとして生きてきたヴェネラナもまた己の異常性を知った上で一人の人間として見てくれる。

 かつてはその愛を信じずに我儘な子供のように拒絶し続けたが、もう二度と間違えはしない。

 

 

「シャルロット……? それは本当なのですか?」

 

 

 やってみせる。

 日之影一誠から兵藤マコトとして今を生きる以上、兄となった己自身の人生の邪魔をせず、シャルロット・バアルとして複雑な人生を送ってきたヴェネラナを無理にでも連れ出す。

 かつてサーゼクスを超える事を執念の様に抱いてきた頃を彷彿とさせる『意思』を復活させつつあったマコトは、夕食の席にてグレモリー家やイッセー達を前にジオティクスから問いかけられたその質問に対し、ハッキリと答えた。

 

 

「少し()が合いましたので、掃除談義をしていました」

 

「掃除……?」

 

「シャルロットとですか……?」

 

「ええ……まあ」

 

 

 何時もの様に目を逸らす訳では無く、堂々と……シャルロットという悪魔を知るグレモリー家の面々が驚いた表情を浮かべてるのを無視したマコトはハッキリと答える。

 

 

「そう……か。しかし彼女相手に掃除の話題でどう盛り上がるのだ? 差し支えなければ教えて欲しいのだが……」

 

「アナタ?」

 

 

 現在シャルロットは居ない。

 使用人として城内の警備と清掃をしている様だが、どうやらシャルロット本人が言っていた通り、彼女の存在はグレモリー家でも浮いている様だ。

 

 

「どんな方法で彼女と盛り上がれた事を聞いてアナタはどうしたいのですか?」

 

「い、いや別に……。単純に気になっただけで……」

 

 その証拠に、シャルロットの名前がジオティクスから出た瞬間、主にこの世界のヴェネラナからピリピリしたような雰囲気が放たれているし、この世界のサーゼクスも複雑そうな表情を浮かべている。

 下の世代――つまりリアスやミリキャスからはそういった雰囲気は感じないあたり、もしかしたら二人はシャルロットの出生についてを知らないのかもしれない……。

 

(バアルから嫁いできたヴェネラナ・グレモリーがシャルロットの名前を聞いた瞬間雰囲気を変えた……か。

サーゼクスも色々と知ってる様な面してるし、反対にリアスとミリキャスの反応は特に無し……)

 

 

 シャルロットを気にするジオティクスを冷たい声で睨むヴェネラナのやり取りを見ながらマコトは、彼女がこの家に措かれてる状況を推測していく。

 

 

(特にヴェネラナ・グレモリーの反応が如実だ。

……違うとはいえ、ババァのこんな姿を見るのは辛いな)

 

 シャルロットの名前が出た途端ひりついた空気を放つヴェネラナを見て、大体彼女がどう思われてるのかを理解していくマコトは、少し残念な気持ちを抱きながら、ふとこちらをじーっと見ていたセラフォルーと目が合う。

 

 

「…………」

 

(『どういう事?』って顔してんなセラ。

どうやら本当にシャルロットがババァであった事は知らなかったみたいだな。

くくく、教えたら驚くだろうなぁ……)

 

 

 『何を他の女の人と楽しくやってたのさ?』的なジト目で見てくるセラフォルーに内心苦笑いするマコトは、誤解だという事を目で訴える。

 

 

「…………」

 

(伝わったか……。

まあ、俺以上に想定できる事じゃあないからな、後でちゃんと教えて協力を頼まないとな。

見た感じこの世界のおっさんは別にしても、サーゼクスとヴェネラナはシャルロットに対してあまり良い印象は持ってない様だし、大方このおっさんの態度から察するに、使用人として抱えようと言ったっぽいしな)

 

 

 少し口論になり始めていたこの世界のジオティクスとヴェネラナをリアスやイッセー達眷属が気まずそうにしながらも伺っているのを横目に、マコトは直ぐにでもセラフォルーとシャルロットを引き合わせると決意する。

 

 

「何かにつけてアナタは彼女に便宜を図ろうとしますけど、何か特別なご事情でもおありなのでしょうか?

 

「私はただ彼女が気の毒に思ったから……」

「ふん、どうでしょうか、私にはどうも別の思惑をアナタから感じますが?」

 

「バカな、それこそ誤解だヴェネラナ」

 

「落ち着いてください母上、子供達の前です」

 

「ふん……!」

 

(俺と同じく、アンタなりに邪魔をしないように努めていたんだなババァ……)

 

 

 そのストレスから解放する為に、何より返しきれない大きな恩を少しでも返す為に。

 そんな決意を固めたマコトの瞳は以前セラフォルーとの再会の際に感じた進化の時の様に銀に輝いていた。

 

 

 

 

 マコトと楽しげに話をしていたメイドの名前はシャルロットというらしく、どうやらジオティクスとヴェネラナとサーゼクスの反応を見るに、単なる使用人の一人では無さそうだ……。

 と、何時になく頭が冴えていたイッセーはその夜リアスにシャルロットという使用人について聞いてみることにした。

 

 

「あのー部長、夕飯の時に話題に上がったシャルロットという人はどんな人なんでしょうか?」

 

「それが私もわからないのよ。我が家に遣える古参の使用人であるのは間違いないのだけど……」

 

「じゃあその人の名前がジオティクス様から出た瞬間にヴェネラナ様がピリピリし始めたのは……?」

 

「それもイマイチわからないのよね。

お母様はどうもシャルロットに対して良い印象を持ってないみたいで……」

 

 

 グレモリー家に遣える古参の使用人。

 ヴェネラナがどうやら彼女に対してあまり良い印象を持っていない。

 リアス自身もあまり知らないシャルロットに関する情報を手に入れたイッセーはもう少し調べた方が良いのかもしれないと考えていると、リアスが夕食時の事を思い返しているのか、少しだけ意外そうな様子を見せていた。

 

 

「それにしてもアナタの弟君が普通に初対面の相手とお話出来たなんてね……。

大体無表情で声が小さいから、夕食の時にお父様から聞いた時は驚いちゃったわ」

 

「…………」

 

 

 そのシャルロットさんがマコトに何か言われて赤面していたんですけどね――――と、言うのは色々とマコトに面倒が降りかかりそうだったので黙っている事にしたイッセー。

 

 一応一緒にその現場を見ていた小猫達にも口止めしておこう……。

 マコトの事になると異様に察しがよろしくなるイッセーがそんな事を考えていると、リアスが少し考える様な素振りを見せながら口を開いた。

 

 

「イッセー、アナタが前々から言っていた『弟君をオカルト研究部』に入部させるという話なのだけど、今回で色々の彼の事を知ることも出来たし、入れてあげても良いと思ってるわ」

 

「へ!?」

 

 

 突然の話にビックリと歓喜半々な顔をするイッセーにリアスは頷きつつ続ける。

 

 

「本音を言うと、アナタの弟君が悪い人ではないとは思ってたけど、何を考えているのかが解らなくて、慎重に見ていたのよ。

けど正式にセラフォルー様の将軍として私たちの同胞となった今なら良いかもしれないと思ってね」

 

「ほ、本当ですか? や、やったぞ……! やっと部長もマコトの良さを理解してくれたんだ! やったー!!」

 

「………………」

 

 

 リアスの部屋のど真ん中で万歳までしながら喜びを表現するイッセーをベッドに腰掛けながら微笑むリアスだが、内心少しだけ罪悪感を抱いていた。

 

 

(ごめんなさいイッセー、アナタが思うような意味じゃないの。

アナタの弟でしかも魔王の眷属というネームバリューが後々有益をもたらしてくれると考えたからよ。

アナタの言うことなら彼も聞くだろうし……)

 

 

 その立場の大きさを利用するが故に今のうちに抱え込む。

 リアスが考えていたのはそういう事であり、ただただ目の前ではしゃぎながら『チラシ配りも一緒にできるぜマコト!』と、オカルト研究部の活動を兄弟仲良くしている光景を夢想したり、共に冥界の美少女悪魔を肩を組ながらナンパしに行く妄想をしたりしている……まぁまぁ純粋なイッセーにリアスは少し胸を痛めるのだった。

 

 

 が、前提をまずこの二人は忘れていた。

 そう……マコト本人は一度たりとも『オカルト研究部に入りたい』とは言ってないという事を……。

 

 

 

 

 

 まぁあり得ないだろうし……なんて思って暫く一人にさせていたのが間違いだったとセラフォルーは後悔した。

 考えてみたら、反抗期が終わってとてつもなく素直になってきてるマコトと仮に誰かが会話に成功したらこうはなりそうなものだったのだ。

 

 そうセラフォルーはマコトを一人にさせた事を激しく後悔しながら、グレモリー家の裏門から出てすぐの森林地帯に連れ込まれていた。

 

 

「どこに行くのいーちゃん? 夜のデートの場所としては悪くないけど……」

 

「セラに会わせたい人が居て、その人とこの先で待ち合わせしているんだ」

 

「ふーん、それってもしかしてシャルロット・バアルさん?」

 

 

 驚くべきことに、連れ出されてからずっとマコトから繋いできたその手を離さないままテクテクと夜鳥の鳴き声をBGMに進んでいく中で、夕食の時に出た名であるシャルロット・バアルについて触れると、マコトは前を向きながら頷いた。

 

「そうだ。てかセラは知ってるのか?」

 

「ま~ね~? 結構複雑な人だってくらいだけど」

 

「そこまでは知ってる訳だな? ……ククッ」

 

「むー……」

 

 

 手を繋いで貰ってる事は嬉しいが、他の女について話してるのは頂けないとセラフォルーは頬を膨らませる。

 シャルロット・バアルと一体全体何があってこんな夜更けに待ち合わせなんてしてるのだろうか……。

 少々の嫉妬をしながらマコトに連れられること数分……森林の先の少し開けた場所へと出た二人は、少し大きな木に背を預けながら夜空を見ていたシャルロット・バアルを発見する。

 

 

「よっ、待たせたな」

 

 

 まるで友人相手にするような気安い声を掛けたマコトにセラフォルーは訝しんでいると、マコトの声に反応したシャルロットが此方へと向く。

 

 

「私も今来た所だから――あら?」

 

 

 マコトに微笑み返す眼鏡を掛けた女性……シャルロットが凄く警戒心を剥き出しにしていたセラフォルーに気付く。

 

 

「こんばんはレヴィアタン様」

 

「……どーも。それで一体全体うちのいーちゃんと何がどうなってこんな場所で密会みたいな真似をしてるのかな?」

 

 

 名前だけは知ってたが、向かい合う事なんてまず無かったセラフォルーが内心『む……よく見たら美人だしスタイルも良いかも……』と違う意味で警戒しながらちょっと冷たく問うと、横に居たマコトが口を開く。

 

 

「やっぱしセラでもわからないか。

まぁ俺も言われるまで気付かなかったからな」

 

「なにがよ? 浮気を?」

 

「浮気て……。

勿体ぶるつもりはねーから言うが、この人は――」

 

「待ちなさい()()。この子には自分で打ち明けるわ」

 

「…! 今いーちゃんの事をなんて……!?」

 

 

 あまりにも自然に呼ぶものだから、完全にスルーしかけたセラフォルーがハッとなりながらマコトを一誠と呼んだシャルロットに目を見開いて驚くと、シャルロットは掛けていた眼鏡を外し、後ろで結んでいた髪紐をほどく。

 

 

「違う存在とはいえ、こうすれば少しはヴェネラナ・グレモリーの面影を感じるかしら?」

 

「遠目から見たらだな。俺にしてみれば今のアンタとヴェネラナ・グレモリーはそこまで似てるとは思わないし」

 

「ヴェネラナ……? え? ……ええっ!? ま、まさか……!!」

 

 

 まさかと口をあんぐりと開けたセラフォルーが二人の会話から彼女が何者なのかを察した様だ。

 そんなセラフォルーのリアクションを前に満足したかの様に微笑んだシャルロットは言う。

 

 

「お久しぶりですねセラフォルーちゃん。

小さい頃の一誠にしょっちゅう服だけを吹き飛ばされて泣かされてた時から随分仲良くなれたようで……」

 

「お、おば様……?」

 

 

 彼女がかつてのヴェネラナである事を理解したのは、まさにこの一言がトリガーだったとセラフォルーは後に語ったとか。

 

 

 

 

 

 それからセラフォルーは今はシャルロット・バアルとして生きるかつてのヴェネラナに対して半泣きになりながらひたすら謝り続けた。

 

 

「ご、ごめんなさいおば様! わ、私……おば様だって気付かなくて……!」

 

「良いのよ、出生も立場も容姿も違うのだし、昔と違って接点すら無くて会う機会も無かったのだから仕方ないわ。だから謝らないで……」

 

 

 一誠が居た事でかつてはシトリーとグレモリーの関係は親戚関係レベルで繋がっていたので、セラフォルーにとってヴェネラナはある意味もう一人の母の様なものだった。

 だから目の前の女性がヴェネラナであると知った途端、セラフォルーは何度も気付けなかった自分を責めていた。

 そんなセラフォルーに対してシャルロットはただただ優しく微笑み、肩を抱いて気にしないでと許す。

 

 

「うんうん……」

 

 

 そんな二人を見て、妙な充実感を持ったマコトが満足そうに頷いている。

 

 

「アナタが一誠を昼間自由にさせてくれたお陰で接触できて打ち明けられたわ、こちらこそありがとう」

 

「う、うん……偶然だけどね」

 

「その偶然がこういう結果になったんだから、所謂結果オーライだぜ」

 

 

 こうして秘密を共有できる相手が一人から二人になった訳だが、一先ずの問題は此処からであった。

 

 

「セラ、俺はババァ――じゃなくてこのシャルロットをお前の眷属に加えさせた方が良いと思うんだ。

さわり程度だが、どうも色々とシャルロットとしての人生は複雑みたいだからな」

 

「それは私も聞いた事がある。

その……不倫の結果生まれたのが今のおば様だって」

 

「気を使わなくて良いわ、事実ですもの。

お世辞にも楽な人生では無かったけど、アナタ達にこうしてまた会えただけでも生きてきた意味はあったわ」

 

「だから俺はババァを自由にしてやりたい。

手っ取り早く難癖つける連中を消してやるのは簡単だが、そうなるとセラやイッセー達に迷惑がかかる」

 

「だから私がおば様を眷属にするって事? それは勿論おば様を自由にしてあげられるなら全然構わないよ☆」

 

「二人とも、私の為にそこまでしなくても……。それに多分バアル家とこの世界のジオティクスに反対されると思うし……」

 

「? どうして? 夕食の時におば様の事が話題に出たけど、その時この世界のおば様――というか、ヴェネラナさんがとても……えーっと、嫌そうな顔してたし、反対なんかされないんじゃ……?」

 

 

 抜けてる様で観察眼はそれなりにあるセラフォルーは既にシャルロットが特にヴェネラナからの当たりがキツイ事を見抜いている。

 それはマコトも感じてた事であり、それなら寧ろ青々して貰えるのではないのか? という疑問にシャルロットはバアルとしての己の立ち位置と何故グレモリー家で使用人をしていたのかを静かに語り始めた。

 

 

「まず私は不倫の末生まれた存在なのは既に二人も知ってる事だけど、そんな私がかつての頃には扱えなかった滅びの魔力を使えるのよ」

 

「うそ……おば様が滅びの魔力を?」

 

「ええ……こんな風に」

 

 

 不倫で生まれて、バアルとしての血が薄ければ逆に問題は無かった。精々出来損ないと罵られる程度で済んだだろう。

 だが皮肉な事にシャルロットとして生まれた彼女にはかつての頃とこの世界のヴェネラナには無かった滅びの魔力を宿していた。

 

 マコトとセラフォルーの前で掌に作り出した魔力の球体には確かにマコトも体得した滅びの力が感じられる。

 

 

「なるほど、正統な家系に属する者には発現しなかった滅びの魔力が不倫の結果生まれたババァに宿った……だからバアル家はババァを手放さないってのか?」

 

「この世界の私がサーゼクスとリアスを産み、二人が宿している事で前ほど縛られる事は無くなったけど、二人はバアルではなくグレモリーだからやっぱり完全には自由とは言えないわ」

 

「でもそんな今のおば様が何でグレモリー家でメイドさんをしてるの?」

 

「それは…………」

 

 

 今の彼女の非常に厄介な立場を聞いた所でこの二人が『はいそうですか、なら諦めます』等という言葉を吐く訳もなく、寧ろ俄然『上等だ……』と燃え始める中、セラフォルーの質問にシャルロットは困った様な笑みを浮かべながらポツポツと答えた。

 

 

「元々この世界の私がグレモリー家に嫁ぐだけだったのだけど、この世界のジオティクスが私を使用人として雇うと言い始めたのよ」

 

「おっさんが? 何で?」

 

「最初は単に私の境遇を知った上で憐れんだからと思ってたのだけど……」

 

「けど?」

 

 

 妙に言いづらそうに話すシャルロットに揃って首を傾げる。

 確かに世界は違えど慈愛のグレモリーを冠してる当主のジオティクスなら縛り付けられてるシャルロットを少しでも自由にしてあげようと思って行動すると思える。

 マコトがかつてそうだった様に……。

 

 けれどどうもそれとは別の理由があるらしい……。

 それもあまり聞いたら良くなさそうな爆弾めいた理由が……。

 

 

「えっと……自惚れる訳じゃないけど、この世界のジオティクスはどうも私にそういう気があるみたいで……」

 

「………は?」

 

「………え?」

 

 

 多分この世界のヴェネラナに対して非常に申し訳なく思ってるのだろう、シャルロットはとても気まずそうな表情で複雑な出生による人生を更に複雑にさせていた理由を話した。

 

 

「えっと……じゃあこの世界のヴェネラナがババァを煙たがる理由ってもしかして」

 

「間違いなくそういう事。

よりにもよって歳も下で、不倫で生まれた存在がバアルの血を濃く受け継いでしまった上、自分の旦那様ですら奪ってるって思ってる筈よ……」

 

「ひ、昼メロドラマよりドロドロしてるのね……」

 

 

 要するに嫉妬されてる。

 無論この世界のヴェネラナからしてみれば寧ろ被害者ですらある事実にマコトとセラフォルーはシャルロットと共にとても複雑そうな顔をしている。

 

 

「よくこの世界のヴェネラナに追い出されなかったな……」

 

「バアル本家からもグレモリー家に貸しを作ったり色々と探りを入れられるからと言われてるし、この世界の私の幸せを壊したくないから追い出してくれるならそのまま逃げてしまおうと何度も考えたわ」

 

「聞いてた以上に苦労してたんだおば様……」

 

「アナタ達との幸せだった頃を思い出して糧にしてなかったらとっくに死んでしまってたわ……」

 

 

 挙げ句の果てにこの世界のジオティクスから気を持たれてすら居て、それを理由に縫い付けられてすらいる。

 恐らくシャルロットの『何度も逃げ出そうと考えた』という言葉通りに実行しようとしたのだろう。

 

 

「それを聞いて俄然アンタを連れ出す気になったよ俺は。

何ならこの世界のバアルとグレモリーを敵に回しても良い」

 

「だね。誰が悪いって訳じゃないけど、おば様を悲しませるのなら誰だろうと許さない……」

 

 

 だからこそ余計にシャルロットとして生きるヴェネラナを連れ出そうという決意がより強くなる。

 

 

「例えイッセー――この世界の兄貴を裏切った挙げ句迷惑にすらなる事になろうとも、アンタの立場をぶち壊せるんだったら構わねぇ。

元々善人気取ってるつもりなんか欠片もねぇんだからよ」

 

 

 銀色に輝く両目に呼応するかの様に、マコトの全身から白銀色のオーラが静かに放たれると、セラフォルーとシャルロットの二人に向かって宣言する。

 

 

「サーゼクスを超える為だけに進化を続けたけど、それももう終わりだ。

………俺は二人の為にこれからも進化を続ける」

 

「一誠……」

 

「いーちゃん……」

 

 

 それが自分に出来る最大の恩返し。

 周囲を信じる事を怖がり続けた少年がその枷を外した時、彼の宿す異常性は別方向の進化を与える。

 

 

「何だったらこの世界から抜け出して、誰も知らない場所でダラダラしながら生きるってのが良いかもな?」

 

 

 それが、終わりの無い進化をもたらす異常性――無神臓(インフィニット・ヒーロー)

 

 

「リアスとソーナちゃんが聞いたら喜んだでしょうね……」

 

「そうだね……」

 

「……。あの二人にも悪いことをした、フッ……贅沢な糞バカ野郎だったよ俺は」

 

 

 歳も距離も近かった、今は亡き幼馴染みと呼べた二人を思い返し、バカだったと自分を責めるマコト。

 優しさを否定し、それでも優しくしてくれた者達を失ってやっと気付いた間抜けな自分……だからこそこの世界で奇跡的に再会できたセラフォルーとヴェネラナだけは――

 

 

「だからせめて、また会えたセラとババァだけは絶対に放さない、寧ろ奪うやつが出てきたらそいつをぶちのめしてやる」

 

 

 何があっても守る。

 燕尾服のネクタイを緩めてワイシャツの第二ボタンを外し、髪を下ろして風に靡かせながら宣言したマコトちセラフォルーとシャルロットはお互いに顔を見合わせながらパタパタと自身の顔を手で煽る。

 

 

「顔が熱い……。ずっと反抗期だった一誠があんな真面目な顔して言われると、とてもイケナイ気持ちになってしまうのだけど……」

 

「え……! おば様もしかして……」

 

「だ、だってやっと再会できたと思ったら嘘みたいに反抗期が無くなってるし、『アンタを拐ってまででも連れ出す』なんて言うから……」

 

「あー……それはしょうがないかも。私だってそれに似た様な事言われたし」

 

 

 ましてや終始鬱陶しいババァだと言われて来たし、セラフォルーはセラフォルーで雑な扱いばかりだったので、絶対に離さないとこれまたプロポーズにすら聞こえる台詞を真面目こいた顔で宣言されたらドギマギもしてしまう。

 

 

「今はシャルロットだろうけど、アンタは間違いなくヴェネラナのババァだよ。

ほら、しょっちゅう抱き締められてた俺が言うんだから間違いない」

 

「ちょ!? い、一誠!? な、なにを……!」

 

「え……いや、昔しょっちゅうババァが俺をガキ扱いして抱いたから良いのかなって……。

えっと……ダメだったのか?」

 

「い、いえいえ! それは全然構わないけど、ちょ、ちょっと今は違う意味になるというか……えっと……ど、どうしましょうセラフォルーちゃん? 私、本当に……!」

 

「大丈夫大丈夫、その内馴れるよおば様? 今のいーちゃんは反動でとても甘えん坊さんだからさ☆」

 

 

 かつては手の掛かる子に対する意味で躊躇いなんてなかったのに、今はマコトから突然抱かれるだけで生娘の様に心臓が早鐘してしまう。

 反抗期を過ぎたら今度は反動で甘えん坊になるというセラフォルーの言葉はどうやら本当らしい。

 

 セラフォルーも加わり、結局三人で抱き合う事になったが、シャルロットは確かに今幸福だった。




補足

結構ハードな身の上の上に、皮肉な事にこの世界の自分自身には嫌われてるし、この世界の旦那には気を持たれて縛られてるし、挙げ句の果てに滅びの魔力すら覚醒させてるのでバアル本家からも縛られてる。

 ちなみにサイラオーグはシャルロットさんの事を知ってて、彼なりに彼女の境遇を何とかしようと奮闘してるのですが……。

そこまで書くかわからんのでネタバレしますけど、実はサイラオーグ君は幼少期に一度彼女と会っており、その時から彼女を忘れられず…………。


結果、そんな彼女を解放したマコトに対して色んな意味での嫉妬を抱き、決闘フラグが……。


その3
以上の事でわりとモテてしまってるシャルロットさん。
が、マコトが全部番犬の如く守るせいで余計惹かれはじめて……。


その4
無意識に避け、無意識に反撃に転じ、その力は常に進化し続ける。

某身勝手の極意はきっとマコトにとっての理想の力なのかもしれない。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。