色々なIF集   作:超人類DX

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良いかこれだけは言う。

前回のは嘘なんだってば。



白猫と黒猫

 話半分しか聞いて居なかった為に知らなかったのだが、どうやら近々リアスとソーナがレーティング・ゲームをするらしい。

 

 詳しく聞いてみれば、提案者はサーゼクスらしく、どうもソーナの夢を笑った悪魔達に未来を担う若者達の力を見て貰う思惑があるらしい。

 

 会合後、滞在に使っていた家へと戻り、セラフォルーからその話をされたマコトの反応は……特に興味の無いものだった。

 

 

「聞いた所でどっちの応援もするつもりもないし、別に関わる事もない」

 

 

 セラフォルーと交わって以降、よりこの世界のソーナとリアスとの関わりを避けようとするマコトにしてみれば、二人がゲームをしようが関係なかったし、邪魔をする気もなかった。

 

 

(この世界のリアスにはイッセーと仲間が、ソーナには匙元士郎と仲間が居るんだし、俺がでしゃばる意味も理由も無いからな)

 

 

 それは偏に、二人と仲間達の人生の邪魔になるからという考えからであり、既に中途半端に関わってしまった以上、これからは何が何でも関わることは避けるという決意であった。

 

 

「セラの傍に居る以上は、特にソーナと関わりを完全に避けるのは難しいのかもしれないけど、それでも避けられる面はきちんと避ける。

余計な真似をして人生を壊したくはないからな」

 

 

 この世界のソーナとリアス達は違うのだ。

 だからこそマコトは彼女達のコミュニティを壊す訳にはいかない。

 そして望みはただひとつ……。

 

 

「再会できたセラとババァの為に……」

 

 

 セラフォルーとシャルロットの為に生きる。

 それが今のマコトの生きる意味なのだ。

 

 

「その結果恨まれようとも……」

 

 

 いや、訂正しよう。

 シャルロットを自由にした結果、グレモリーやバアルと敵対してしまおうとも構わないという覚悟は、全盛期の頃の狂犬さが復活しつつあるのかもしれない……。

 

 

 

 

 

 

 リアスとソーナのレーティングゲームを明日に控えるこの日、冥界にてパーティーが行われていた。

 

 

「え、セラフォルーさんとマコトが欠席……」

 

「主催者のお兄様が二人も招待したのだけど、用事があるからと辞退したらしいのよ……」

 

「用事? どんな用事なんですか?」

 

「それは私もわからないわ。(意外な程接触できる機会が無くて、今日みたいな日をチャンスだと考えていたのに、これでは予定が狂うわ……)」

 

 

 

 様々な悪魔達が会場を賑わせる中、対戦する悪魔の肉親でもある魔王のセラフォルーが欠席していると聞いたイッセーは、会合以降、全く会えてない弟とまた会えないと知り、あからさまにがっかりしていた。

 

 

「マコトに学校の宿題の進み具合とか聞きたかったのに……。

それでもしあまり終わってないって言ったら一緒にやろうと誘うつもりだったのによ……」

 

「…………」

 

 

 単純に弟のマコトと仲良く兄弟らしくやりたいと思っているイッセーがひとり呟きながら落ち込む姿を見てリアスもまた、マコトという人材をこれまで放置してしまっていた事を内心後悔していた。

 

 

(あの時会合で感じた強い覇気の様なもの。

気のせいかもしれなかったけど、本気になったお兄様の様だった……。

放たれた魔力も転生悪魔のものとは思えないほどの強さを感じたし、神器を持たない分、イッセーとは逆に魔力の扱いに長ける才能を秘めているとみて間違いない……。

くっ、扱いにくそうな人格だからとイッセーのお願いを断ってきた自分の節穴さが怨めしいわ……。

セラフォルー様の眷属である分、もしソーナが私と同じ考えを持ってたとしたら先を越されてしまう……)

 

 

 夢を語った際に放つマコトの強い覚悟とそれに見合うだけの強大な潜在能力の気配。

 余程セラフォルーに懐いてる様子なのはあの時放った彼の言葉と覇気から伺えるが、それだけに彼をもしイッセーと同じ様に抱えていたらさぞ凄まじい忠誠を示してくれたのだろうと考えると、扱いにくそうという安易な考えでイッセーの願いを断ってきた自分こ行為に後悔してしまう。

 

 

(でもまだ時間はあるわ。

眷属は不可能にしても、イッセーの弟である以上はきっと……)

 

 

 マコトの考えとは裏腹に、完全に関心を買わせてしまったらしい……。

 色々とズレてしまっている関心を……。

 

 

 

 

 パーティーにより浮き足立っているというチャンスを見逃す筈の無いマコトとセラフォルーは今、華やかなパーティーの裏に隠れてシャルロットと密会していた。

 

 

「シトリー家に行った時に色々と探ってみたけど、ババァの様に別人に生まれ変わった奴は居なかったぞ」

 

「そう都合の良い事は続かないものよ」

 

「というか、それでもしそうだったとしたら私がどれだけ間抜けなのかって話だし」

 

 

 ヴェネラナがシャルロットという存在に生まれ変わった以上、もしかしたらと先日セラフォルーの眷属としてシトリー家に挨拶がてらの訪問に行った際の行動を話すマコトに、シャルロットとセラフォルーは苦笑いをする。

 

 

「この世界のソーナちゃんとお話はしたの?」

 

「え? あぁ、何度かは。

まあ話をする程度で別に関心は無かったし、何より、どうにも勘違いされてるのか、この世界の匙に睨まれるからそんな頻繁にベラベラとは話しちゃいないぜ」

 

「? 彼が何故アナタを睨むの」

 

「意外な事なんだけどねおば様? どうもこの世界の匙君はこの世界のソーナちゃんが好きみたい。

だからソーナちゃんがいーちゃんと話をすると嫉妬しちゃうんだって」

 

「あんまりにも過剰に気にするもんだから、思いきって『別にアナタが懸念してる様な事は間違いなく有り得ませんからご安心ください』と言ったら、顔を真っ赤にしながら殴りかかってきてよ。

イマイチこの世界の彼の考えが読めんよ」

 

「………それは多分アナタが悪いと思うわよ一誠?」

 

「やっぱり、おば様も思うでしょう? そこはもっと空気を読んだ発言をしないとダメよいーちゃん」

 

 

 匙からしてみたら、気にくわない相手から完全に見透かされてると思ってしまう訳で、しかも言い方も機械的というか、軽く見下した言い方にも取れるのだから仕方ないと言うシャルロットとセラフォルーに、マコトは理解していないのか、解せないといわんばかりの顔で肩をすくめている。

 

 

「だって彼はこの世界のソーナが好きなんだろう? だったら安心させてやるべきだろ。

第一、俺だって別にこの世界のソーナに思う所なんて無いんだからよ」

 

「「……」」

 

 

 こういう他人の繊細な部分をまるで考慮しようとしない所は変わってないなと、悪びれる様子を全く見せないマコトにセラフォルーとシャルロットはため息を吐く。

 

 

「アナタはもう少し身内以外の者への配慮を心掛けるべきです。

作らなくて良い敵を作る事になりますよ?」

 

「配慮ね。俺の性格的に最も向いてない事だな」

 

「そこは昔と変わらない辺りがいーちゃんらしいといえばらしいんだけどね」

「根付いたものは簡単に変わらないって事だな。

良いさ別に。誰に嫌われようが、二人が傍に居てくれるんだったら」

 

「「……」」

 

 

 セラフォルーとシャルロットを再会させた森林地帯を密会場所にしていたマコトが大木に背を預けながらシレッとした顔で言うと、二人は嬉しい様な複雑な気分だった。

 

 

「俺の事よりも問題はババァだ。

何かされてるって訳ではなさそうにしても、今のところまだ飼い殺しの状態が続いてる訳だろ? 俺としてはさっさと連れ出してやりたいんだが……」

 

「あれから何か変わった事はあるおば様?」

 

「いえ特には―――いや、ちょうどアナタ達が帰った直後にこの世界のジオティクスから呼び出されて色々聞かれたくらいはあったわね」

 

「色々? 何を聞かれたんだよ?」

 

「アナタと一緒にお掃除をしてたのは何故なのかとか、何か言われてはしないかとか、彼に何か思ってないかとか――かしら?」

 

「やけにいーちゃんと楽しくしてたのを気にする辺り、やっぱりこの世界のおじ様って……」

 

 

 使用人として目立たぬ様に地味な姿をしていた時とは違い、今のシャルロットはどちらかといえばヴェネラナの面影を感じさせる――まぁつまり美人である容姿を隠さずに出している。

 

 故にだが、ジオティクスはきっとこのシャルロットに惹かれているのかもしれない。

 だからこの世界の自分自身からの当たりがその出生も相俟ってキツいのだろう。

 

 

「自分自身に否定される程精神的に来るものはねーよな」

 

「最初の内は本当に何度も心が折れそうになったわ。

けど、理由があるだけに……ね」

 

「まぁな、お互い本来は存在してない筈の者だからなぁ」

 

「私は私自身だったからそういう経験はなかったけど、複雑よね……」

 

 

 なまじこの世界のヴェネラナの気持ちを理解できてしまう三人は寧ろ申し訳ない気持ちであり、彼女の為にも早くこの柵から抜け出さないといけない。

 

 

「……! 隠れろ、誰かこっちに来る……!」

 

 

 そして解放した先の夢へと進む。

 誰も自分達を知らない場所でやり直すという夢へ……。

 

 

 

 

 マコトと会えないと残念がるイッセーは、正味微妙な気分でパーティー会場に佇んでいた訳だが、気掛かりな事はもうひとつあった。

 

 

(小猫ちゃんがさっきからソワソワしながら周りをうかがってる……?)

 

 

 自身の仲間であり、兄弟を持つという意味では最近余計にシンパシーを感じる小猫の様子がおかしいという所だった。

 

 

(部長達は気付いてない様だけど、どうしたんだろうか……)

 

 

 最近になって妙にマコトに対して寛大な態度を見せ始めるリアスは小猫の変化に気付いてない様だが、明らかに今の小猫はまるで誰かに見られてやしないかという挙動不審さが目立っており、イッセーも気付いてないフリをしながら注意深く小猫を見ていた。

 

 すると小猫は突然意を決した様な顔をすると、会場の外へと飛び出していったのだ。

 

 

(! 何処へ行くつもりだ?)

 

 

 コソコソしながら外へと出ていってしまった小猫が気になったイッセーも直ぐ様後を尾けようとするが……。

 

 

「失礼、兵藤一誠君だったかな?」

 

 

 タイミング悪く話し掛けられてしまった。

 

 

「アナタは確か部長の従兄弟の……」

 

「サイラオーグだ。リアスからキミの事は色々と聞いている」

 

「はぁ……」

 

「ところでなんだが、キミの弟――セラフォルー様の将軍である兵藤誠君が何処に居るかわかるか……?」

 

「このパーティーには出席してませんが……」

 

「なに? ……どおりで探しても見つからなかった訳だ……」

 

 

 リアスの従兄弟であるサイラオーグにタイミング悪く話し掛けられたイッセーは、これまたリアスの様に妙にマコトに対して気にするサイラオーグに対して居ないことを簡潔に説明すると、さっさと別れて小猫の後を追い掛ける為に外へと飛び出した。

 

 

「確かこっちの方に……」

 

 

 広大な森林地帯の中へと入っていくのだけは何とか見ていたイッセーは、妙な胸騒ぎを覚えながら走ると、程なくして小猫を発見できた。

 

 

(むっ……!)

 

 

 それほど遠くには行ってなかったとホッとしたイッセーだったが、その小猫が女性らしき人影と対面しているのに気が付いて咄嗟に物陰に隠れる。

 

 

(誰だあの人? パーティー会場では見なかったが――)

 

「そこに居る人、わざわざ隠れなくても良いよ。別に何もしないから」

「!」

 

「え?」

 

 

 小猫の前に居るのは誰なのかと観察しようとする間も無くその女性に見抜かれてしまったイッセーは、女性の声に驚いて後ろを振り向く小猫と目が合ってしまう。

 

 

「イッセー先輩……? ど、どうしてここに……」

 

「パーティーの時ずっとソワソワしてただろ? だから気になって……」

 

 

 尾けられてたとは知らなかったのか、驚いて動揺している小猫に対して少しバツが悪くなったイッセーは観念した様に両手を上げながら白状しつつ黒髪の女性と恐らく仲間だと思われる男性を見据える。

 

 

「………。そこの二人は誰だ? 小猫ちゃんの知り合いか?」

 

「この人は私の姉です、そしてもう一人は、多分仲間の方か何かかと……」

 

「美猴ってんだ。お前がヴァーリの宿敵っつー赤龍帝だな? ま、よろしくー」

 

「ヴァーリ……? ヴァーリの仲間かお前達は……」

 

「まーそんなとこだが、安心しろよ? 別に今日はなんもしねーよ。

この黒歌が妹の顔を見に来ただけだからな」

 

 

 身構えたイッセーに美猴と名乗る青年は小競り合いはしないと返す。

 それをそっくりそのまま信じるつもりは無いが、確かに殺気等のものは感じない為、矛を収めつつこの女性が小猫の姉ということに驚く。

 

 

「小猫ちゃんのお姉さん……?」

 

「そうです先輩。

先輩なら誰にも言わないと信じた上で話しますが、この人が前に話した姉の黒歌です」

 

「……。どうもよろしく」

 

「ご、ご丁寧にこちらこそ……!」

 

 

 どうやら一定以上の信用はされてるようで、小猫に紹介して貰えたイッセーはクールと言うか、見透かす様な不思議な眼差しを向けてくる黒歌なる女性に慌てて頭を下げつつ確かに小猫の面影を感じる女性を見て……。

 

 

「で、デカい……!」

 

 

 その脅威的な胸部に圧倒されてしまった。

 

 

「す、すげー、部長より大きいんじゃなかろうか……!」

 

「先輩……」

 

「だってよ黒歌? くく、ヴァーリから聞いた通りの性格だな?」

 

「……………」

 

 おっぱいマイスターを自称するイッセーにとって黒歌の胸はそれはそれはドリームたっぷり詰まってそうな程のものだったらしく、それはそれはだらしのない顔でのガン見だった。

 

 

「ドスケベ」

 

「いてっ!?」

 

 

 それを見て案の定な反応だったと思ってただけに余計にムッとなった小猫がイッセーの向こう脛を軽く蹴っ飛ばしながらむくれた顔をする。

 

 

「こほん、それで姉様はどうしてここに?」

「…………。やっぱり違う……か。そうだよね、そんな都合の良い話がある訳がなかった……」

 

「姉様?」

 

 気を取り直して、何故はぐれ認定されてる黒歌が来たのかと問う小猫だったが、黒歌から返事は無く、ただどういう訳かイッセーを見つめながら心底落ち込んでいた。

 

 

「こっちの話。

来た理由だったね? 別に深い意味はないよ白音、アナタがちゃんと私なんて居なくても幸せに生きているのかを一目見たかっただけ。

心配しなくても、これを最後に二度とアナタの前には現れないから」

 

「な……! 何故そんな……」

 

「私ははぐれ悪魔だから……」

 

 

 小猫を白音と呼ぶ黒歌の言葉にショックを受けている中、淡々と言葉は続く。

 

 

「この子から少しは私の事を聞いているでしょう? 私はこの子とは一緒に居ることはできない。

だからアナタがこの子を――白音の傍に居てあげて? どうやらキミに懐いてるみたいだし」

 

「待てよ、白音って名前はどうやら小猫ちゃんの本名なのは今知ったし、キミの事も聞いてはいる。

けどだからって二度と会わないなんて……」

 

「私が居るからこの子は不幸になった、だから私は居ない方が良い。

そうじゃないとこの子も狙われる――」

 

 

 だから二度と会わない。そう告げようとした黒歌だが、突然それまで静観していた美猴という青年が少し怒った様な表情で口を開いた。

 

 

「待て待て! ヴァーリにはお前の妹を連れてくるから冥界に侵入するって言ったじゃねーか!」

 

「え……」

 

「小猫ちゃんを連れていくだと……!?」

 

 

 美猴の言葉を聞いたイッセーが反射的に小猫を庇う様に前へと出つつ赤龍帝の籠手を呼び出す。

 しかしそんな中でも不気味な程に表情を変えていない黒歌は耳元でうるさい美猴に対し一言――

 

 

「煩い黙れ、そして先に帰れ………食い殺すぞ?」

 

 

 小猫と同じ金色の右目を九つの勾玉のある波紋状の瞳へと変貌させる。

 

 

「なっ!? な、何だその眼……!?」

 

 

 美猴にとっても初めて見るその眼に本能的な恐怖を感じ思わず黒歌から後退りする。

 しかし次の瞬間、黒歌の右目を見てしまった美猴は何かに心を囚われてまった様に焦点が合わない目共に固まってしまった。

 

 

「お前は何も見ること無く帰った……」

 

「お、れ……は、な……に、も見てない……」

 

「これは……」

 

「な、何が起こったんだ……?」

 

 

 催眠術にでも掛けられた様にフラフラとそのまま去っていく美猴を見て困惑する二人からはどうやら黒歌の右目の変化は見えなかったらしい。

 

 

「姉様、あの人にいったい何を……」

 

「別に大した事はしてないよ。勝手に着いてきて状況をややこしくしそうな邪魔者にはご退場を願っただけ」

 

「まるで暗示をかけられた様な感じがしたんだが……」

 

「割りといい線行ってるね? それに近い事をしたのは否定しないよ」

 

 

 森の奥へと消えていった美猴を一瞥し、元の金色の目へと戻した黒歌は困惑する二人に向かって気を取り直して話を続ける。

 

 

「そんな事よりも話の続き。

白音、最後にアナタに仙術のコツだけ教えてあげる」

 

 

「! 仙術を私に……!?」

 

 

「これから先、アナタには多くの試練がきっと待ち構えてる。隣の彼や他の皆だけでは乗り越えられない試練が。

だからその試練を乗り越える為にもアナタ自身も強くならなければならない」

 

 

 そうでなければ私の様に得た力以外の全てを失う……。

 まるでなにかを失った事があるような台詞を独り心の中で継ぎ足した黒歌にイッセーが抗議する。

 

 

「ま、待てよ! 小猫ちゃんに修行をつけてあげるってのには大賛成だとしても、二度と会わないなんてそんな寂しい事を言うのは反対だ!」

 

「…………。アナタからそんな熱そうな台詞を聞くなんて違和感を感じるけど、さっきも言ったでしょう? 私ははぐれ悪魔なの。

私とこの子が一緒に居ると知られたらアナタ達の主にまで迷惑がかかるの」

 

「だからって許せるか! 兄弟と離れ離れになるなんて、俺だったら気が狂う!」

 

「…………」

 

 

 妙に熱く……黒歌にしたら()()()しか覚えない程に熱く兄弟愛について力説するイッセーに、隣にいた小猫は無意識にの内にイッセーの服の袖を掴みながら姉を見つめていた。

 

 

(そっか、違うとはいえアナタもやっぱり彼に惹かれてるんだね?

ふっ、そこはやっぱり()()だって安心するよ。

けど、だからこそ私はアナタ達と離れるべきなんだよ白音)

 

 

 嬉しい様で複雑な気持ちを抱きながら、イッセーの服を掴んで心を落ち着かせようとしている小猫を見て少しだけ口許を緩めた黒歌は、取り敢えず二人には悪いが、納得したフリをして白音に仙術を仕込み、そのまま消えてなくなろうと計画を立てる事にした。

 

 

「わかったわかった、妙に兄弟愛について力説してくれるキミの顔に免じて撤回させて貰うよ」

 

「! そうか! やっぱり兄弟は死ぬまで仲良くしないとな! よかったな小猫ちゃん!」

 

「でも姉様がはぐれ悪魔なのは事実です……どうしたら」

 

「改築しちゃった俺の家にこっそり住めば良いさ! あそこなら部屋数も多いしな!」

 

「ですがバレるリスクが、それに弟さんの事が……」

 

「………………………………………。は、弟?」

 

 

 コロコロと表情を変えるイッセーにやっぱり違和感を感じる黒歌が暫く二人のやり取りに『理想』を感じながら眺めていると、何やら気になる単語が出てきて我に返る。

 

 

「おいおい、マコトなら事情を話したら即座に協力してくれるぜ? アイツは優しいからな!」

 

「や、優しいって……私には石像みたいに無表情で怖さすら感じるのですけど……」

 

「マコト……?」

 

「それはマコトが人見知りなだけだ! この際だから小猫ちゃんのマコトに対する誤解も絶対解いてやるぜ!」

 

 

 ……………。誰だそれは。

 マコトというイッセーの口ぶりからして血縁者だと思われる何者かに黒歌は困惑した。

 そして思い出す……。

 

 ()()()大好きだった先輩が全てを失った原因たる存在の事を。

 その瞬間、黒歌は無意識にその両の金色の瞳を赤い六芒星の形をした瞳へと変化させると、話し合う二人に向かって口を開いた。

 

 

「ねぇ」

 

「ん、何だ小猫ちゃんのお姉さん――っ!?」

 

「ね、姉様、その眼は……?」

 

 

 全てを失ったことを白音と別れて直ぐに全てを思い出してから、更に研磨させた結果、謎の空間にて邂逅した変な眼をした仙人によって会得した力を示す自分の眼を見て戦慄している二人に黒歌は答える事は無かった。

 

 

「……………………………。イッセーお前、こんな所で何をしている」

 

 

 何故なら、黒歌ですら全く気付くことが出来ぬ速度でその者は姿を現したのだから……。

 

 

「ま、マコト!? お、お前こそなんでこんな所に!?」

 

「……。夏だから冥界にもカブトムシとかクワガタが居るんじゃないかと思ってセラに聞いたら、良い穴場を教えて貰ってな。

んで、今セラと一緒に探してたんだ。そうしたらお前と仲間の人と見知らぬ人が居たから……」

 

「か、カブトムシとクワガタ? ず、随分と意外なご趣味ですね」

 

「…………………………………………。(シャルロットも一緒とは言わん方が良いな。

しかし即興とはいえ、我ながらアホみたいな言い訳だぜ)」

 

「お、おいおいテンパるなよ」

 

 

 かつては白い猫として見続け、追いかけ続けた執事な先輩を……。

 

 

 

 

 

 間違いない。最初はこの世界の先輩から、この世界の()を奪う奴だと思ってたけど、それはまちがいで、私の目の前に居るのは間違いなく私の先輩だった。

 

 

「セラフォルーさんも虫取してるのかよ?」

 

「セラは俺に付き合ってくれてるだけだ。

まあ、嫌いではないらしいが……」

 

「セラって呼んでるのですか、あの方を……」

 

「! あ、は、はい……まぁ……」

 

「何緊張してんだよ……」

 

「な、慣れてないんだよ……」

 

 

 あの他人には急にテンパる姿も、その燕尾服姿も、何もかもがかつての頃の姿と重なる。

 そして何より感じるこの気質も……。

 

 

「………。ところでそこの女は誰だ?」

 

「私の姉です。その……先輩の弟さんと見込んで誰にも言わないで貰いたいのですが、実ははぐれ悪魔でして」

 

「どうも事情があるみたいでさ、なぁ、秘密にしといてくれないか?」

 

「別に言わないが、そんなはぐれ悪魔が何で冥界に?(思い出した。確か前にも見たぞあの女……)」

 

 

 あの警戒心が丸わかりな目も……。

 だから私は無意識の内に声を出してしまった。

 

 

「先輩……!」

 

「は?」

 

「へ?」

 

「せ、先輩……?」

 

 

 ポカンとする三人。

 この世界の私と別人なイッセーさんは知らないだろうけど、私はもうこの人が私の求める先輩だと確信している。

 だから呼ぶんだ……何度も、何度も。

 

 

「先輩!! 私です! わかりませんか!?」

 

 

 本物ならこの時点で気付く。

 私が掴んだ領域を示せば先輩はきっと……!

 

 

「……? …………………………………!!!!!!?」

 

 

 最初は怪訝な顔をしていた先輩が、私から感じ取ったその瞬間、これでもかというくらいに分かりやすい反応をした。

 

 

「あは♪ 気付いてくれましたね? そうです()です」

 

 

 何たる誤算。

 この世界の私の幸せの為に自衛の手段を教えに来ただけのつもりが、こんな形で私が求めた人と会えてしまうなんて。

 これこそ運命であり、あのムカつく鳥女よりも遥かに先輩と相性が抜群という証拠になる。

 そうと決まればまずは――

 

 

 

「マコト? もしかしなくても知り合いなのか………はれ?」

 

「だとしたら何時どこではぐれ悪魔の姉さまと……ぅ?」

 

「ごめん、二人とも少し眠ってて?」

 

「!」

 

 

 ここから先は二人に聞かれると面倒な事になるから、まずは瞳術で眠らせる。

 瞳術についてはこの世界で掴んだもので先輩も知らないせいか、私を見て驚いている。

 

 

「その眼は――いえ、貴女は塔城さん……ですよね?」

 

 

 でも私が誰なのかは解ってる。それだけで……あぁ、お腹の中が熱いよぉ……。

 

 

「ええ、かつて私は塔城小猫でした。

という事はやはり先輩は日之影一誠先輩で間違いないですね?」

 

 

 おっとイケナイイケナイ。

 かつての姉の身体なせいか、妙に前以上に先輩を見てると発情しちゃうけど、今それを吐露したら引かれてしまう。

 ここは冷静に冷静に……。

 

 

「貴女の姿は確かかつて姉を名乗る女の……」

 

「ええ、先輩のコピー野郎としっぽりしてたらしい姉の黒歌ですね。勿論、私はそんな真似してませんが」

 

 

 寧ろ先輩としっぽり……なーんてなーんて!! ……じゃなくて、クールに……。

 

 

「この世界に奴は存在してませんからね。

もっとも、私がそれに近い立ち位置でしょうが」

 

「マコトという今の先輩の名前を聞いた時はもしかしてと疑いましたけど、どうも彼は先輩とかなり仲良くしてるらしいのでそれは無いと思いますよ?」

 

「……だと良いですが」

 

 

 私は寧ろこの世界の一誠の名前を持つこの人をわざと遠ざけようとしてる様に思えます。

 私がこの世界の私にそうしようとしてるように……。

 

 

「お互いに似たような気持ちをお持ちみたいですね。

まぁそれはそれとして、先輩が先輩だと分かってこうして会えた今、あんなどうでも良い組織なんて抜けます。元々この世界の私の姉としての行動をコピーしてただけなんで。

先輩、聞いたところによると今はセラフォルー様の将軍をされている様ですが?」

 

「ええ、セラも我々と同じですので。

もっとも、セラの場合は同一人物ですが……」

 

「セラ……ですか。

へー、先輩があの方を愛称でねぇ?」

 

 

 雰囲気が少し違うのと何か関係があるんだろう。

 あの先輩がからかい相手のセラフォルー様を素直に愛称で呼ぶとは……。

 きっと先輩も寂しかったのだろう……。

 

 

「他には?」

 

「ババァ―――じゃなくて、シャルロット・バアルという悪魔として生きているヴェネラナが……」

 

「ヴェネラナ様もですか!? おお、無意味な人生だと思ってたのに生き返った気持ちになってきましたよ!」

 

「………二人に会いますか?」

 

「勿論……! どうやら少し込み入った事情があって堂々と会えない様ですが……」

 

「! 何故わかるのです?」

 

「はぐれ悪魔となってから仙術を更に進化させていたら、ある程度相手の心の声が聞こえる様になりましてね。

この妙な瞳術も同様に」

 

「なるほど……相当進化をなされた様で」

 

「先輩が褒めてくれると思ったからですよ。

ふふ、それにしてもセラフォルー様を愛称でね……私の事も黒歌にちなんでクロと呼んで欲しいですよ。

あ、それとその畏まった口調もできたら……」

 

 

 まぁ流石に無理でしょうけど……と、先輩の性格を思いながら言ってみたら、先輩は少しだけ口を閉じると……。

 

 

「………………………………。わかった、慣れるまで時間は掛かるがキミの望む通りにするよ」

 

「へ?」

 

 

 口調が他人行儀のものから親しい者に対するそれに変わった。

 

 

「先輩……え?」

 

「なんだよ。確かに昔は変えるつもりもねぇとか思ってたけど、色々考えさせられたんだよ。

セラもババァもそうだが、キミもまた親しい人だったからな」

 

 

 頑なに他人行儀口調だったのにアッサリ変えてきた先輩にびっくりしてしまうが、先輩は少し遠い目をしていた。

 かつて頃を懐かしむかのように……。

 

 

「はぐれ悪魔だったか? 心配しなくてもキミだとわかった以上、キミを狙う連中から必ず守るよ。

だからそのどうでも良い組織を抜けるなら傍に居な。

俺もセラもババァも喜ぶ」

 

「…………………………………あの、変なものでも食べました?」

 

「食ってねーやい!」

 

 

 それが理由かは知らないけど、言動がその……妙にタラシを思わせるものになってる。

 あの先輩が今平然と傍に居たら良いだなんて真面目な顔して言うんだよ? びっくりしてお腹がキュンキュンとしてしまう訳で……。

 

 

「まあ、あの頃の俺を知ってるならそう思うのも無理は無いか。

ホントに申し訳ない、あの時は君達から向けられるものすら信じずにテメーの殻にとじ込もって悲劇のヒロイン演じてたバカだったからよ」

 

「い、いえそんな事は……」

 

「だからせめて、セラやババァ……そして今日からはキミを守る為にこの力を使っていこうと思う。

だから一緒に来てくれ―――何をしてでもキミ達を守り通す」

 

 

 …………。あ、これわかる。絶対セラフォルー様やヴェネラナ様――今はシャルロットさんだったっけ? このお二人も今の先輩にやられたクチだ。

 だって今私、アホなチョロいんみたいに先輩にコロッと倒されたもん。

 

 

「ふつつかものですが、永遠に可愛がってください……にゃあ」

 

「? おう、任せろ。今度は間違えねぇ……ぶっ!?」

 

 

 我ながら何てチョロイ性格なんだろうと思う。

 けど他ならぬ先輩に言われてる時点でもう、そんなのどうでも良い。

 反射的に先輩に飛び付き、先輩の顔に自分の胸を押し付け抱きついてしまうのも好きでやってることなのは間違いない。

 

 

「先輩……先輩ぃ……! 欲しいにゃあ……! 先輩にめちゃくちゃにして欲しいにゃあ……!」

 

「な、何だ急に!? ま、待て! 俺はもうセラと――」

 

「わかった上でも欲しいにゃあ!」

 

「ご、語尾と口調がおかしくなってるぞ!? 落ち着け――!? な、何だこの力、昔より遥かに強い……!」

 

 

 私は悪くない。だって先輩がこんな平然と女ったらしみたいな事言うんだもん。

 お腹がずっとさっきから先輩の子種を欲してしまうのだって、あんな事を言うからだ。

 

 だから私は悪くない。

 

 

 

 

 輪廻を超越せし六道腹ペコ猫……復活。




補足

突然の別れと生まれ変わりの結果、取り敢えず姉のやり方の大体をコピーしてこの世界の自分をリアスの眷属にする様仕向けたのですが、肝心のイッセーが執事じゃなかったので、やる気も出ず……でもやっぱり自己鍛練をしまくってたら宙に浮いた変なじーさんから掌に月と太陽のマークを刻まれたとかなんとか。


故に執事達にしてみれば初見も良いところらしい。


で、この世界の自分が仙術体得可能にまで成長する時が来るまでのらりくらりとテロ組織内で遊んでたら、覚えてすら無かった白龍皇になんか勧誘され、それを断ってたら付きまとわれたり、勝手に仲間扱いされて食い殺してやろうかとイラついてたりしたりと、割りとヤサグレた生活を送ってた模様。


まあ、此度で一瞬にして抜ける決断をしたので関係ないらしいですが。

彼女にとっての優先度はあくまで執事一誠やかつての家族達であって、その他は別にどうでも良いのです。

 この世界の自分は別ですが。


その2
夢で出てきたおじいちゃんが『愛』信者なせいで、彼女の持つ愛情に感銘を受けて力を渡したもんだから、仙術が最早別物すぎる仙術になっちまったようです。

具体的には眼がシャキーンして変化したりとか、背に黒い球が浮いてたりとか、全解放すると額にギョロっとした眼が開いたりとか……。


某兎ママンみたいな……

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