色々なIF集   作:超人類DX

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丸くなってたり、そうでなかったり。

かといっておっさん趣味だったり。


所帯染みた堕天使

 この世は地獄だ。

 小さな子供が夢も希望も教えられずに歪んだ育ち方をするのに、さして時間は掛からなかった。

 

 物心がついた時から暗い牢獄の奥底で、ただ生かされ続けていた。

 何かあるとすれば、自分達を生かす大人達に身体を調べられ、苦痛を伴うなにかをされる。

 声を出せば殴られ、罵倒される。

 

 そんな世界の何処に希望がある? 夢がある? 可能性がある? ある訳が無いし、見出だせる訳もないのだ。

 

 

 無意味に生まれ、無意味に生かされ、価値がなくなれば無意味に殺される。

 生きる上で絶望的過ぎる権利を約束されてしまった少年の心は既に壊れかかっていた。

 

 しかし少年の心はギリギリの場所で踏みとどまれていた。

 何故か? それは少年の後に次々と同じ年の頃の少年と少女が連れてこられ、自分と同じ目に遇わされる様になったからだ。

 

 友という概念を知らないまま生かされた少年にとって、その子供達は同じ苦痛を共有し、励まし合える同志だったし、彼等のお陰で希望というものを持てる所まで心を育めたのかもしれない。

 大人達によってその小さな繋がりを壊されるまでは……。

 

 

『実験はほぼ完成段階に入った。

つまりお前達はもう用済みだ』

 

 

 大人達から放たれた一言は育んだ希望を壊すのに十分だった。そして文字通り子供達は用済みとなって処分されていった。

 無論、その中には少年も入っていた。

 

 とある計画に於いて最初期の実験体にも容赦無く処理という魔の手は迫っていた。

 非道過ぎる初期実験の成果なのか、それともその因子を初めから持っていたのか、少年にはあるモノが宿っていたとも知らずに、他の子供達同様に処理が施された。

 

 けれど少年は生き残った。

 いや、生かされたというべきなのだろう。

 希望そのものだった友達の手によって……。

 

 後にもう一人だけ生き残った者が居たと知ることになるのだが、当時の少年が知るよしも無く、ボロボロの小さな身体を引きずりながら宛の無い暗闇を必死に歩いた……。

 

 そして、生かされた少年は初めての外にて出会ったのだ。

 

 

『死にかけだな小僧。

その目――俺がかつて宿した絶望のと恐怖の色によく似ている。

しかし決して諦めている訳ではなく寧ろ恐怖を克服しようという強い生の意思を感じる。

その歳でどうやら見るに耐えないモノを見てきた様だが……良いだろう、これも何かの縁だ。

生きて力を付けてみろ小僧』

 

 

 英雄と呼ぶには怖い顔した黒い天使に……。

 

 

 

 

 

 

 オッス! オレ兵藤一誠!

 リアス部長達と出会って悪魔に転生し、その後出会ったアーシアっていう子も何とか救えてホッとしている所なんだけど、その時発覚してしまった色々な出来事を考えると、少し微妙だった。

 

 まずはオレを騙して殺そうとしたり、アーシアを騙して神器を奪って一度は命を奪ったレイナーレを倒そうとした時に現れた、レイナーレよりも遥か格上の堕天使の存在。

 そしてその堕天使の配下と思われる、言動が一々エキセントリックで、実はリア充っぽかったはぐれ神父が部長が実は管理を担当してたらしいこの町に住んでいたという事。

 

 部長曰く、それほどの大物がこの町に既に住んでいたという事は知らなかったらしく、また部長の肉親の許可は貰っているのに自分には知らされなかったという事で少しご立腹だった。

 

 まあ、その気持ちはオレにもわかる。

 おおよそ女の影なんて欠片も無さそうな奴にあんな美少女とべったりだったなんて知らなかったって事を考えたら余計に腹が立つものなんだ。

 ましてやアーシアがアイツに何かされてないかと思うと余計にな。

 

 

「アナタとこうして改めて顔を合わせる前に、冥界の実家に連絡をして確認してみたわ。

…………どうやら本当に私の兄に許可を貰ってこの町に住んでいた様ね」

 

「わかって貰えて何よりだよ小娘」

 

 

 そんなこんなで、レイナーレとの件の時に約束した小さな会合が本日学園の旧校舎にあるオカルト研究部の部室で行われていて、オレもこうやって改めて見ればやっぱり悪人顔の堕天使コカビエルと対面してる訳なんだけど……。

 

 

「このパフェうっめーな」

 

「本当ですねフリード様」

 

 

 …………コカビエルはまだ部長と小難しい話をしてるから良い。

 けどそのコカビエルの隣に座ってるフリードが、ルフェイっていうオカルト研究部の美少女達並の美少女とパフェを食ってるのは、何か見せ付けられてる気分で果てしなくムカついた。

 

 

「あ、そこの女王(クイーン)のおねーさん、俺とルフェイたんにお茶のおかわりくださーい」

 

「………」

 

「お前いい加減にしろよ!? ここは喫茶店じゃねーぞコラ!!」

 

 

 挙げ句の果てには、副部長の姫島朱乃先輩に対してお茶のおかわりの催促までしやがるものだが、ついオレは我慢の限界が来て言ってしまった。

 

 

「なぁにカッカしてんのよ赤龍帝くん? こういう小難しい話はボスとおたくの王様がしてるんだし、付き添いの俺とルフェイたんは割りと暇なんだよ」

 

「暇だからってパフェを食うのか!? しかも二人で1個のパフェをひとつのスプーンでよ!? 何だお前、知れば知るほどリア充か!?」

 

 

 部長がコカビエルと話をしてる横で、フリードがルフェイって子とひとつの大きなパフェに対してひとつのスプーンで一緒に食べてるだなんて、なんかもう色んな意味で負けた気がしてならないんだよ。

 ……………オレだってまだそんな事したことないのに。

 

 

「静かにして頂戴イッセー。

それでコカビエル、アナタ達はこの町に住む目的があるの?」

 

「別に無いし、企んでもない。

単にグリゴリの本拠地にこの二人を置いておきたくはなかったので手頃な場所は無いかと考えた結果、当時お前の兄のサーゼクスの実家がこの町の管理の担当をしていたのを思い出し、交渉して住む事になったまでだ。

現にお前達にこうして知られるまでの間も何かした訳ではないだろ?」

 

「それは確かにそうね……」

 

 そんなオレの魂の絶叫は部長に注意される形で終わりを迎えてしまった。

 くそぅ、副部長にお茶のお代わりまでさせてよ……。

 

 

「けど個人的に納得いかないわ。

何で私にこの事を言わなかったのよ……」

 

「単純にお前の顔を俺が知らなかったからな。言われるまでサーゼクスの妹の名前は、リーアたんとかいう変わった名だとばかり思っていたし」

 

「そんなふざけた名前だったら流石に自殺を考えるわ……」

 

 

 見れば見るほど悪どい事をしてそうな程怖い顔をしてるコカビエルの口から、リーアたんって出る度にシュールな気分になるのは何でだろうか。

 言われてる部長本人もかなり嫌そうだし……てか、部長のお兄さんってどんな人なんだろ。コカビエルとは知り合い同士っぽいけど。

 

 

「はぐれ神父と流れ者の魔女を抱えてる理由は?」

 

「フリードに関してはある理由で死にかけてた所を拾って面倒を見てやった縁で、ルフェイに関しては、フリードを偶々見て懐いて付いてきたから、ついでに面倒を見てるだけだ」

 

「ふ、フリードに懐いたって……」

 

 

 割りとフリードの過去が暗そうな予感を感じる出会い方だったと知ったのだが、それよりもルフェイって子がフリードに対してやっぱりそんな感じな事に、ちょっと納得できない気分だ。

 

 

「あんだよ赤龍帝くんよ? そんなに意外かい?」

 

「だ、だってお前……! 前見た時にアーシアの目の前で依頼人を半殺しにしてたじゃねーか。

だから危ない奴だと思うだろ?」

 

 

 その理由は今フリードに対して言った通りだ。

 コイツ、以前俺が担当した依頼人を半殺しにしてたんだよ。

 で、その時アーシアが傍に居て青い顔をしてたもんだからてっきり通り魔の様な類だと思った……てか今も思ってるんだけど。

 

 

「あぁ、あの時怒りながら殴りかかってきたのはそれが理由かよ? つーか、アルジェントさんは言わなかったのか? そのキミが担当したっぽい依頼人が偶々アルジェントさんに怪我の治療をして貰った後、惚れでもしたのか襲いかかろうとしてたって話」

 

「……………え!?」

 

 

 話された真実は俺を別の意味でショックを与えるものだった。

 

 

「そ、そうなのかアーシア?」

 

「えっとその……そうです」

 

「じゃ、じゃああの時怖がってたのは……」

 

「びっくりしたというのもありますし、その、フリード神父が少しやりすぎなのではないのかというのもあって……」

 

「そういう所は甘いねぇ?

ああいう輩は二度とそんな気を起こさせない程度にぶちのめさなきゃわかんねーもんなのよ。

中途半端にやって逆恨みでもしたら何を仕出かすかわからねーしな?」

 

 

 依頼人がアーシアを襲おうとし、それを多分気紛れか何かで助けたのがフリードで……。

 う、嘘だろ? じゃあオレは一人で勝手に勘違いして敵視してたってのか? か、カッコ悪いにも程があるだろう……。

 

 

「その様な事をしてたのですねフリード様は? やっぱり白夜騎士様はかっこいいです……!」

 

「いんや、マジで偶々目撃しただけなんだけどな」

 

 しかもそんな行為をルフェイって子も知らなかったみたいで、知った途端キラキラとした眼差しを受けて軽く困った様に笑ってる……。

 なんだよこれ? 男としても負けた気分なんですけど。

 

 

「事情は大体分かったし、兄との契約があるのなら私はアナタ達がこの町に住むことを歓迎する。

けれど、知ってしまった以上、そしてアナタが堕天使である以上、悪魔としてアナタを時折監視させて貰う事になるけど良いかしら?」

 

「構わん。

寧ろ、手放しで俺達を歓迎したら世間知らずの砂利だったと落胆していたぐらいだからな。好きにすると良い」

 

「……。その小娘だの砂利呼ばわりはやめて頂けるかしら?」

 

「善処はしてやろう」

 

 

 こうしてコカビエル達は部長に歓迎された。

 元々前から住んでたらしいので、今まで通りとなにも変わらない生活をするつもりらしいが……。

 

 

 

 

 堕天使の事は大体把握している姫島朱乃でも、コカビエルという堕天使は何を考えているのかがわからない。

 ましてや嫌悪する堕天使の父はともかく、まさか人であった母の事まで知っているかもしれないというのは、朱乃にとって衝撃でもあり、また複雑でもあった。

 

 

「本気なのですかリアス? コカビエルをこの町に住まわせるだなんて……」

 

「お兄様の合意を既に獲ているし、確認も取れた。

それに彼等の行動はある程度把握していないといけないわ」

 

「…………」

 

 

 『野球中継がある』と言ってさっさとはぐれ神父と流れ者の魔女を連れて帰ってしまったコカビエル達について、部室に残った朱乃は王であるリアスに本当にそれで良いのかと問うと、リアスは朱乃の抱える過去の事を知った上で『だからこそだ』と返した。

 

 

「確かにこれまで大人しくしていたからと云って信用できるという訳ではないわ。

ましてやコカビエルといえば三大勢力同士の戦争において一番大暴れした暴君と言われてる存在だしね」

 

「でしたら……」

 

「朱乃、アナタが堕天使に対して複雑な気持ちを持っているのは分かっているわ。

けれど、だからこそ彼等が下手な真似をしないかを見張る必要がある。

…………彼がアナタのお母様の事を知っている事も含めてね」

 

「………」

 

 

 リアスの言いたいことはわかるし、確かにその通りなのかもしれない。

 けれど朱乃はやはり複雑だった。

 母をが死ぬ原因となった存在と同じ種族が近くに居ると分かってしまってる今は特にだ。

 

 

「大丈夫よ、監視といってもアナタはしなくて良い」

 

 

 そんな朱乃の気持ちを察してか、リアスが微笑みながら気を使う。

 だが朱乃はそんなリアスに笑みを返すと、首を横に振りながら口を開いた。

 

 

「お気持ちはありがたくいただくわ。

けれどそれとこれとは別の問題だから、ちゃんと私にもお仕事させて?」

 

 

 だがこうなってしまった以上は朱乃も悪魔として、私情を抑え込む。

 相手が実の父と同等の場所に居る堕天使だろうとも、姫島朱乃はリアスの女王として振る舞うのだ。

 

 

「ごめんなさいリアス、早速だけどお願いがあるの」

 

「なにかしら?」

 

 

 故に彼女はリアスに対してある事を買って出る――

 

 

 

 

 

 

「アナタ達がどこに住んでいるのかの把握の為に、早速訪問させて頂きましたわ」

 

 

 

 

 

 堕天使の監視役を……。

 

 

 

「一人でか? 貴様の王はどうした?」

 

「色々とお忙しいのです。それより中には入れてくれないのかしら?」

 

「……」

 

 

 数日後、本当に目立たない程に普通な一軒家に住むコカビエル宅へと正面から訪問してみせる姫島朱乃に、当初ほんの少し意外に思ったコカビエルは、彼女の一言を受けて無言で自宅の中へと招き入れる。

 

 

「ルフェイ、フリード、客だ」

 

「いてて……! 例の監視役って奴かいボス?」

 

「そうらしい、てっきり複数人が家の周りに監視用の仕掛けを施すだけかと思ったらそうではなかったみたいでな」

 

「ふーん? んじゃあ茶の用意をしないとなぁ……あいてて!」

 

「あ、大丈夫ですよフリード様、私がやりますから……!」

 

 

 家の中へと入った朱乃は内心少し緊張していたが、リビングへと入ると、どういう訳か怪我をしてるフリードと、そのフリードの治療をしてるルフェイが居た。

 

 

「好きな所にでも座れ」

 

「……彼は何故怪我を?」

 

 

 単に転んだ様には思えない程度の重傷さに朱乃は疑うような眼差しでコカビエルに問う。

 もしやあのフリードなるはぐれ神父が外で何か悪さをしたのではないのかと……。

 

 しかし帰ってきた答えは意外なものだった。

 

 

「お前が来る少し前に、ルフェイの兄が来てフリードと()りあっていた」

 

「あの女の子のお兄さん……?」

 

「あぁ、お前もあのリアスという小娘の女王をしてるなら兄のサーゼクスの事は知ってるだろう? ルフェイの兄のアーサーは大体サーゼクスみたいな感じなんだよ」

 

「………………」

 

 

 つまりシスコンだ。しかもかなり重度の。

 そうテレビをつけながらコカビエルは説明し、朱乃は肩透かしをくらった気分だった。

 

 

「彼女がここに居ることをそのお兄さんは納得してないのですか?」

 

「まぁな。俺とフリードもルフェイに関しては兄と下に居るべきだと言ってるのだが、肝心の本人がフリードを気に入ってしまっててな。

何度も返しては一人で戻ってきてしまうから、今では本人の好きにさせている。

まぁ当然、兄の方はそれに納得できずに、フリードに嫉妬して喧嘩をするわけだ」

 

「……………」

 

 

 『ええっと、今日のナイター中継は4チャンか?』と、新聞のテレビ欄を見ながらチャンネルを合わせてるコカビエルの行動もそうだが、あのはぐれ神父と流れ者の魔女の経歴もなんとも肩透かしを喰らう感じがしてしまうと、朱乃はルフェイに差し出された渋い緑茶をチビチビと飲む。

 

 

『さぁ! 連敗ストップなるか!? 嫁売ダイアンツVS白天バッファローズの試合は間も無くプレイボール!!』

 

「頼むぞ……! 今日も負けたら六連敗になってしまうぞ……!」

 

「……。野球がお好きなんですか?」

 

「あ? あぁ、見るようになったのは人間界(ここ)に住み始めてからだ。

最初はアホらしいと思っていたが、見てみると中々面白くてな……」

 

 

 しじら織の浴衣っぽい上下を着用し、ビール片手に答える様は野球好きのおっさんそのものだった。

 

 

「お夕飯ができましたよー」

 

 

 そうこうしている内に野球中継が始まる中、お茶を出してくれたルフェイから夕飯の準備が整ったという声が聞こえると、治療を完了したフリードがコカビエルに話しかけていた。

 

 

「出来たってよボス」

 

「わかったが……おいお前」

 

「え?」

 

 

 キッチンから漂うお腹が空く良い匂いに、そういえば昼から何も食べていない事を思い出した朱乃は、途端に空腹感を感じる中、コカビエルに突然呼ばれる。

 

 

「まだ居るのなら飯ぐらいは食わせてやるよ」

 

「え……私にもですか?」

 

「他に誰が居る、だからテーブルに運ぶのを手伝え」

 

「こっちッスよ女王さん」

 

 

 飯を食わせてやるから運ぶのを手伝えを言われ、返答する間も無くフリードと一緒になって引っ張られた朱乃は、困惑したままながらも取り敢えず出来上がった料理をテーブルの上に運ぶ。

 

 

(な、何をしてるのかしら私ったら……)

 

 

 監視相手の家の夕飯を運ぶ手伝いをさせられ、しかも食べさせられるという状況に朱乃はちょっと我に返るが、既にテーブルを囲んでしまってる時点で遅いし、また憎い事に料理が美味そうだった。

 

 

「お、美味いねぇ。また腕を上げたんじゃねーのルフェイたん?」

 

「ふふっ、ありがとうございますフリード様」

 

「最初は色々と凄まじかったからな……」

 

(あ、本当に美味しい……)

 

 

 最初にフリードとコカビエルが食べるのを確認し、恐る恐る食べてみると確かに美味しく、思わず普通に美味しいと心の中で思ってしまう朱乃。

 

 

『変化球を打ったぁぁぁっ!!!』

 

「っ!?」

 

 

 しかも、おかしい、警戒すべき相手なのに何でご飯を食べてるんだろう……と、思い始めてきた頃にテレビから放たれるテンションの高い実況を耳にしたコカビエルが、ビックリするぐらい目を見開きながらテレビにかじりつくのだから、朱乃も思わず彼の行動に唖然としてしまう。

 

 

『ライトへ……! 文句無し! 六連敗を払拭するダイアンツのスリーランHRだぁぁっ!!!』

 

「っしゃあ!!! よくぞやってくれたぞ阿○! お前なら出来ると信じていた!!!」

 

 

 グリゴリの幹部レベルが、人間の野球選手が放ったホームランに対してマジで褒め称えてる……。

 

 

「ビールが美味ぇ!! 飯も美味い! クハハハハ!」

 

「最近負け続きだったからなぁ。ボスが一気にご機嫌だな」

 

「このまま試合にも勝って欲しいですよね」

 

「……………」

 

 

 まさに下町の夕方のおっさんとしか思い様のない姿に、朱乃はやっぱり複雑な気分になるのだった。

 

 

「そら、お前も食え朱乃! ひゃははは!!」

 

「は、はぁ……。というか今名前を―――」

 

「何だお前? 元気の無い奴め。生まれた頃はもっと笑ってたのに」

 

「は!? な、何でアナタが知って……!?」

 

「あ? あぁ、お前がまだ赤ん坊の頃によくバラキエルと朱璃にしょっちゅう招かれてな。

バラキエルが抱こうとすると大泣きしてたが、何故か俺が抱くと泣き止んだりしてたもんだ……ふっ、そんな餓鬼が今じゃ朱璃に似た小娘に成長するとは……時の流れは早いものだ」

 

「なっ……!? は、母の名を……し、しかも赤ん坊の頃の私をって……そ、そんなバカな……!?」

 

 

 スリーランホームランのお陰か、妙に機嫌よくお喋りするコカビエルからのまさかのカミングアウトに朱乃はショックが大きすぎて思考が停止寸前にまで陥る。

 父と母の事を知ってる素振りはあったが、まさかそんな……赤ん坊の頃の自分を抱いた事すらあっただなんて、ショックどころのものじゃないのだ。

 

 

「な、なんなのよ……! なんなのよ……!!」

 

「お、突然食い始めたな。

うむ、餓鬼は食って成長するに限る」

 

「多分ボスのカミングアウトのせいで自棄になったとしか思えねーんですけど」

「わぁ……凄い食べてます」

 

 

 知られざる過去の一端をこんな形で知ることになってしまった朱乃は、どうして良いかわからずやけ食いに走るのも仕方ないのだった。




補足

実は赤ん坊の頃の朱乃さんは知ってました。

ただ、前回の邂逅の時は『まあ、話した所で関係ないか』と思って素っ気ない感じにしてましたけど、スリーランホームランがそれを変えました。

野球ってすごいね。


その2
バラキエルさんとはそれなりに付き合いがあるってか……ぶっちゃけバラキエルさんと朱璃さんが出会えたのはコカビーのお陰だったという裏話が……。

そのせいか、赤ん坊の頃の朱乃さんにはめっちゃ懐かれてたらしく、その事に関してだけはバラキエルさんにめっちゃ嫉妬されてたらしい。


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