続きは特に考えてない。
精々頑張ってシリーズ『私の気持ち』
学年別トーナメントに取り敢えず記念のつもりで出場する一夏には当然専用機は無い。
元々適正ランクもSレベルである弟の春人と比べたら見劣りしてしまうCランクだし、世間的に一夏に対する認識は織斑春人のスペアといったものだった。
だから微妙に影は薄い。
しかしだからこそ、そこを利用して男性起動者としてのメカニズムを知ろうと、彼を狙う悪そうな秘密結社みたいな組織がちらほら居る―――のかはまだわからない。
というか、もしもそういった類が存在したとして、一夏の身柄を拘束したり拐おうとしたりするものなら、きっとその組織はその日の内に地上から消える可能性があるかもしれない。
「ね、ねぇ……最近春人君に見られてる気がするんだけど」
そんな仮定の話はどうでも良いとして、最近偶然やら何やらが重なった結果、珍しく仲良くなった男装少女、シャルロット・デュノアが顔色悪そうに一夏と箒に相談事を持ちかけていた。
「春人に見られてる? 気のせいとかじゃなくてか?」
「勿論気のせいとは思いたいけどさ……」
「どんな風にだ?」
学年別トーナメントが近付く中、どうも春人からの視線が気になるというシャルロットが、箒の質問に答える。
「こう、探られてるというか……。もしかして僕が男装をしている事がバレてるのかなと不安なるんだよ」
「流石にバレてない―――かは解らないな。
春人はたまに鋭い時があるっつーか……」
「仮にもしもバレてたとしたら、そのまま千冬さんに話が行ってしまってるのかもしれんぞ?」
「そ、そうなるよねやっぱり? どうしよ……僕やっぱり退学になるのかな?」
「待て待て、まだそうだと決まった訳じゃないし、視線を感じるだけなんだろ? だったらビクビクしないで逆に堂々とした方が良いぜ。
却って怪しませてしまうからな」
ひょっとしたら男装が春人に悟られてるかもしれないと怯えるシャルロットを一夏が元気付ける様に背中を軽く叩く。
とはいえ、微妙に考えが読めず、たまに恐ろしい勘の良さを放つ時がある事を知る一夏としも、手放しにしておく訳にもいかない。
偶然とはいえ、シャルロットもまたイッセーとリアスを知る者なのだから……。
「何時も通りに過ごすんだ。
俺達もなるべくフォローをするから」
「あ、ありがとう……」
「何かあったらすぐに言うんだぞ?」
「うん……!」
だから親身になる。
別に春人が悪いという訳では今の所はまだ無いが、それでも対策できるところはしておく。
それが一夏と箒の行動力なのだ。
所変わって此方は一年四組。
織斑春人や織斑一夏という男性操縦者が居る一組とは違って割りと影の薄いクラスに、更識楯無の妹の簪が所属している。
簪自身もクラスで目立った存在という訳では無く、寧ろかなり大人しい部類であったりするのだが、ここ最近と彼女は少し機嫌が悪かった。
(授業も終わったし、春人の所に行こう……)
元来の性格に加え、姉である楯無との才能の差によって卑屈になってしまったというのもあるのだが、織斑春人との出会いによって少しは前向きになり始めてるとも言えなくもない。
身体が弱いのに頑張っている春人は簪にとって一つの刺激にもなったし、親身になってくれるのもまた頼もしさを感じる。
有り体に言えば簪は春人に好意を抱いている。
他にも春人を狙う女子の多さについては問題だが、だからといって負けるつもりはない。
皮肉にもこの思いが、自己主張の少なかった簪の精神をある意味引き上げてる要因にもなっているのだけど、それとは別に簪はひとつだけ納得できない事があった。
「なんでこうも資料ばっかりなのかしら」
「お嬢様が後回しにさせるからです。黙って運んでください」
「はーいはい。あーぁ、遊びたいなぁ……」
(……………)
姉の楯無についてだった。
春人の所へと行こうとする道中、大量の書類の束を従者の虚と共に文句を言いながら運んでいる姿を見て咄嗟に廊下の角へと隠れた簪は、ブーブーと文句を言ってる姉を僻みにも似た感情で睨み付けていた。
(チッ、相変わらずお気楽な人……)
元々のコンプレックスもそうだったが、特に僻みを助長させたのが、春人にビンタを噛ましてくれたあの日が原因だろう。
あれ以降、癪に触る程自分に気を使うような真似をしてきた姉が呼び方をも変えて接し方を変えてきたのだ。
『自分は自分、アナタはアナタ。
今までごめんなさい、少しアナタに干渉し過ぎていたわ』
散々自分を気にして、ウザいと思うくらい構っていたのに、あの日以降、楯無は全く自分に干渉しなくなった。
それが酷く――望んだ筈なのに簪は腹立たしかった。
(アンタさえ居なかったら私だって……)
春人を殴った事も許せないが、何より散々構って来ようとしたのに今更になってそれを止めた態度が許せない。
虚に発破を掛けられながら書類を運ぶ楯無の背中を、居なくなるまで呪う様に睨み付け続けた簪は、ますます春人への依存を高めるのだった。
そんな簪の気持ちとは裏腹に、春人は春人で楯無に対する拘りをより強めていた。
「そういえば一夏よ、更識先輩が生徒会の仕事が忙しすぎると言ってたぞ?」
「正式な役員って実は会長の先輩を抜かしたらののほんさんと布仏さんだけなんだっけ実は?」
「そうなんだ~ だから少しでもお仕事を溜めちゃうと本当に大変で……」
妹の簪と仲良くなれたのは良い。
簪と仲良くなれば自然とそのまま楯無の気を引けると思っていたのが正味な所だったから。
だが現実は、事故で衝突した際に胸を触ってしまった楯無に報復され、挙げ句の果てに嫌われてすらしまっている。
そしてそんな事など知りもしないお気楽な兄が本来よりも早い時期に楯無と親しくなっている。
色々と計算したつもりだったのに、それを横から邪魔をする一夏が限りなく鬱陶しく思えてならない春人だが、だからこそ一夏を利用してみようと何度か考えて実行したこともある。
というか今がまさにそうだった。
「一夏」
呑気な顔をして箒や本音等の女子と話をしてる一夏に近づいて声を掛ける春人。
「ん? どうした春人? 友達と何かするんじゃないのか?」
「……………」
この危機感を感じない態度が昔からムカつくが、今はその事を態度に出すのは良くないと抑え込みながら春人は言う。
「簪と楯無さんが姉妹なのは知ってるよね?」
「? あぁ、それが?」
「……。何か仲が拗れてるみたいなんだよ、あの二人」
「あーうん……多分そうかもな?」
他人事みたいに返す一夏を一瞬ぶっ飛ばしてやりたくなる衝動を必死に抑えながら春人は続ける。
偶々一夏の近くに居たシャルロットが然り気無く春人から逃げようとしてるのには生憎気付いてない。
「それって僕たちのせいじゃないかって思わない?」
「僕……
「僕達とはどういう事だ春人? まさか先輩と四組の更識の仲が拗れたのは私たちのせいだと言うのか?」
「えーっと、おりむーくん? それは違うと思うよ?」
お前、何を言ってるんだ? 的な顔を一夏のみならず箒や本音にまでされた春人だがそのまま話を続ける。
「だってそうだろう? 僕が簪と仲良くなったり、お前達が楯無さんとそんな親しそうにし始めてから余計に悪くなってるじゃないか」
「いや、それは別に関係無くないか? 強いて言うなら、事故って先輩の胸にダイブ噛まし、後日妹さんの目の前でお前が先輩にビンタされてからじゃねーの?」
「どうやら更識はお前を好いてるみたいだからな」
「確かにその後かんちゃんは許さないって言ってたしね」
「だからだよ。
責任は僕達にあるとは思わないの?」
あくまで他人事みたいに言う一夏にますますイラつきながらも春人は自分達の責任だと述べる。
要するに仲直りの手伝いをさせてそのまま楯無との繋がりを持とうという意味での発言なのだが、一夏達は全く乗り気に見えない。
「そりゃ確かに仲直りするに越した事はないけどさ、俺達が外野からとやかく言ってどうにかなるのか? そもそも楯無先輩は更識を嫌ってる訳じゃなくて、今までの必要以上の干渉を控えるだけだって言ってたしな」
「逆に聞くが、更識の方は何を言ってるんだ?」
「……今までの鬱陶しい態度だったくせに勝手だって」
「あー、聞く限りじゃシスコンみたいだしなぁあの人。
でもまぁ話す機会はこれからもあるんだし、無理に俺達がとやかく言うのは止めた方が良いと思うけどなぁ」
姉妹仲に干渉すべきじゃないと言う一夏達の態度を見て、これじゃあ使えないと判断し始める春人は内心舌打ちをする。
「………わかった、もう良い」
つくづく役にたたない奴だと罵倒しながら去っていく春人。
最初からあんな役に立たずを利用しようと思った自分が馬鹿だったと反省した春人はそのままセシリアや千冬達等の目を上手く掻い潜って一人教室を出ると、今度は何と楯無の居る生徒会室に乗り込んだのだ。
「お願いがあります………簪と一度ちゃんと話をしてあげてください……」
「この忙しい時に何かと思えば……。見てわからないのかな? 今生徒会のお仕事中なのよね」
直接説得しつつ、そのままこの前の失態を帳消しにしようという考えを孕みつつ生徒会へと乗り込んだ春人だったが、虚と共に書類整理をしていた楯無の反応はとても素っ気ないものだった。
「仕事なら僕も手伝います。だから……」
「それはお断りするわ。
もしキミに手伝わせただなんて織斑先生に知られたら、何を言われるか分かったもんじゃないし、そもそもキミがここに来てる事も先生は知らないんじゃないの?」
「千冬姉さんには僕から言いますから……」
「ハァ……」
邪魔な一夏が居ない今、虚共々仲良くなれるというチャンスを前に中々食い下がる春人に、遂に楯無は心底嫌そうにため息を吐いた。
「ひとつだけ教えてあげるわ。
自分にとって良かれと思ってる事も、他人にとっては迷惑と感じられてる事だってあるのよ。
今まさに私はキミにそう思ってる……これお分かりかしら?」
「っ……なんで……僕が嫌いなんですか? 僕が楯無先輩にあんな事をしたから……」
「それに関しては一発お返ししたから別にもう何とも思ってないわ。
そもそもがアナタに興味ないってだけよ?」
「それは……一夏に何か言われたからですか……?」
「はい? 何で彼が出てくるのよ?」
「身体が弱い僕の代わりにアイツが色々な事をさせられたからって……」
「その話は一夏君から聞いてるけど、別に彼はその事に不満を抱いてる様子は全く無かったわよ? というより別にそれを聞いてアナタにどうこう思う事も無かったしね。
単純に最初から興味がないだけで、強いて言うならちゃんと妹の事を大事にして貰いたいって所かしら?」
「……………」
まさに取り付く島がないとはこの事で、春人は苦々しい顔をする。
この会話の最中も、楯無は春人に一瞥もくれずに書類分けの作業に没頭しているし、虚に至っては完全に春人が居ない体で黙々と手を動かしている。
「簪と話をする時は実家に帰った時にでもするから、アナタに心配して貰う事なんてひとつもないわ。
で、話はそれだけ? 終わったならお帰り頂けるかしら? アナタの事が大好きな子達や織斑先生に睨まれるなんて嫌だし」
「会長もこう仰っておりますので、どうかお引き取りください」
「っ……!!」
転生し。容姿も変わり。望めば周りから愛される事が当たり前だった春人にとって、転生前から好んでいた存在にこうもあしらわれるのはショックが大きすぎる様で、さっさと帰れと二人に言われてしまった春人は目尻に涙まで溜めて関心を買おうとするも、結局この二人は一瞥すら寄越す事も無く、追い出されてしまう。
その後、そんな半泣きの春人から事情を聞いてしまったせいで千冬や簪等が激怒して更に変な方向に行ってしまう事になるが、それはまたいつか語る事になるのかもしれない。
「また来るわね、あの様子だと……はぁめんどくさい」
「下手をしたら今の事を織斑先生達に話して更に面倒な事になるのではありませんか?」
「ほぼありえそうね。
ったく、簪を裏切らずに大切にしてくれるんだったら文句なんて無いけど、変にこっちに干渉してくるのは嫌ね」
「どうしますか? お邪魔になってしまうかもしれませんが、用務員室に避難しましょうか? 今日はもう来ないという保証もありませんし」
「! ナイス判断よ虚ちゃん! わかってるじゃない! よーっし! 一気にやる気が沸いてきたわ!」
「……………お嬢様も大概わかりやすいですね」
まだ芽があると思ってる春人の考えとは裏腹に、既に楯無に対する芽なんてとっくに消えてるとは勿論知らない。
ましてやこの学園に春人の『知識』には存在しない龍帝と悪魔が存在している事なんて……。
「―――――てな理由により、此処で生徒会のお仕事をさせて欲しいんです」
「ご迷惑なのは百も承知なのですが、また来られて邪魔をされては作業にならなくて……」
「別に構わないが……」
用務員室に行くとなった途端、倍はテンションを上げた楯無は意気揚々と虚と共に掃除終わりでお茶を飲んでた一誠の居る用務員室に向かい、事情を話して作業をさせて貰う事を了承させた。
事情が事情なので一誠も断らなかったし、何なら普通に手伝ってすら居た。
「生徒会ってのはこんな小難しい事までするのか? 各委員会の予算振り分けだなんて、大人がやるべきだろ」
「教師の下請け仕事みたいなものですよ。
あまり難しく考えなくても割りと平気ですよ?」
「ふーん……ん? 何だこの『用務員室改装案』ってのは?」
「あ、それは私が考えたんです! 今のこの場所も良いですけどぉ……やっぱり一誠さんと私の逢い引き場所としてはもう少し――」
「Fire」
最近の子供はこんな高度な事をしてるのか……と、学生の経験が一切無かった一誠が関心しつつ、作業の手伝い中に発見した用務員室改装工事案に関する資料が楯無の発案でしかもかなり個人的願望が見えたので、持ってたライターで即座に燃やしてやる一誠。
「あぁっ!? 私と一誠さんの愛の巣計画が!?」
「キミは馬鹿なのか? ただでさえ個人で使用してても広く感じるこの場所を改装して何になるっていうんだよ?」
「いつの間にこんなものを……。まだ学園側に提出前に見つけられて良かったですよ……」
「虚ちゃんまでそんな事言う~!」
見事に灰となった書類を残念そうに見ている楯無に、一誠はため息を吐く。
「キミが俺に対して何を思ってようが勝手だけど、俺はそれに対してまともに回答してやる気なんか無い、他を当たるんだな」
これまでの事を考えれば、流石に一誠もバカでは無いので、楯無が自分に何を思っているのかは理解している。
けどだからといって二十歳にもなってない小娘の想いというものに応えるつもりは無いし、割りと何回も言ってきた。
ましてや自分はリアスという、最も大切な女性が居るし、楯無だって分かってる筈なのだ。
それなのに……。
「へっへーんだ! 十回や二十回フラれた程度で諦める程私は良い子ちゃんじゃありませーん! その内絶対に一誠さんを振り向かせてみせるんだから!」
彼女は全く諦めてくれない。
いや寧ろ余計に燃えてるし、リアスに対しても良い意味でライバル視してる程だった。
「グレモリー先生より良い女になってやります! そうしたら今度は一誠さんから私に――あいたっ!?」
妙に強い決意を示す楯無に、段々めんどくさくなってきた一誠は、彼女の額を軽く指で小突いて取り敢えず黙らせた。
「わかったから手を動かせよ、強情っぱり」
この強情さはある意味強味だなと思いながら手伝いに戻る一誠に、額を小突かれた楯無はその箇所に触れながら暫くポカンとし、やがて何故か妙に嬉しそうに笑いながら然り気無く一誠の座る横に椅子を移動させながら作業をするのだった。
「ふふっ!」
「何笑ってんだよ……。キミもだけど」
「ふふ、いえ、本当に一誠さんとグレモリー先生の前だとお嬢様は楽しそうだなぁって」
そんな二人をどこか微笑ましく見る虚だった。
補足
地味に簪を出汁にしてまでたっちゃんに近付こうとしたけど、普通に帰れ言われて半泣きになってしまう。
理由は、周囲から好意を持たれるのが当たり前だという環境に慣れすぎたのと、やはりたっちゃんだからというのもある。
その2
たっちゃん的には春人は『簪を泣かせさえしなけりゃあ別に良い』という感じにしか見てないので、死んでも思惑通りにはならないでしょう。
……その相手が更に最難関の棘道ですが。
その3
すっげー妄想だけど、今後こんな感じで話が進んだ場合、最終的に元の世界――とは別の自分達の世界に戻ったりとか、その時一夏達やたっちゃん達まで来てしまったりとか、仕方ないからそのままリアスちゃんがたっちゃん達を眷属にした新生リーアたんチームが発足されて原作スタートしたりとか……が、あるのかもしれない。
王・リアス
女王・更識刀奈
戦車・一誠と何故かやまやん
騎士・篠ノ之箒
僧侶・布仏虚と本音
兵士・織斑一夏
――みたいな。
で、前に別でやってたやり直しシリーズみたいに、残りひとつの騎士の位置をめぐってリアスに謝り隊組達が勝手に修羅場り始めたり、一夏達は何者なんだと嫉妬したりとか……
まあ、妄想でしかございませんが。