暴走したんで
えーっと、春人が四組の更識と親しくなって、俺達が更識先輩と仲良くなったせいで姉妹仲が更に拗れたと春人は思ってるらしい。
いや……まあ……仮にそうだとして、仲直りをして貰いたいって思うのは良いことだと思うけどさ、そんなに首を突っ込んでも外様なんだし、変に拗れさせる気がするんだよなぁ。
ましてやその更識簪だっけ? 春人の事がどうも好きみたいで、以前春人が先輩にやらかして以降、変な誤解して余計嫌っちゃってるみたいだし。
俺はその妹の方とは一切話をした事ないからまだ何とも言えんけどさぁ。
目の前で取っ組み合いの殴り合いでもしたんだったらそら止めるべきだけど、複雑な感情が入り雑じってる感じの仲違いの場合は、外野があれこれ口を挟むのは控えるべきだと思うぜ? 本人に相談されて意見を言うくらいにしてよ?
教師である我々ですら、その姿を見た者は殆ど居ないけど、確かに存在する人材がこの学園には居る。
それが用務員という学園の設備等の管理をする者だ。
しかもその用務員の性別は男であり、当初何を仕出かすかわからないという理由で採用しようとする学園長に反対する教師が多かった。
だが蓋を開けてみればその用務員は何をする訳でもなく、更に言えば生徒や教師達の邪魔にならない絶妙な時間の間に仕事を終わらすので、いつの間にか反対をする者は消えていった―――というか本当にその用務員は存在しているのか? という疑惑になっていった。
無論清掃等の跡はきちんとあるし、何人かはその用務員を見た者が居るので、ちゃんと存在しているのだけは間違いない。
かくいう私も一度だけその用務員の男を見たことがあった。
見た限り歳は私と同年代か、もしかしたら下の若い茶髪の男で、顔立ちは――まぁ、特徴も感じない普通の容姿だった気がする。
偶々私の受け持つクラスの副担任をする山田先生と共に歩いていて、何やら話をしていたのを目撃した時がそうなのだが、何の話かまでは聞いてなかったし、私もあれが用務員なのかという程度の関心しか沸かなかったのでどんな性格をしているのかまではわからん。
まあ、別に知りたいとも思わないが。
あの非常勤保険医とかなり親しい関係だと聞いたしな。
そう、あの保険医……。
弟二人が入学した今年、特に春人についてをあの非常勤保険医に見せたくはない。
名をリアス・グレモリー……初めて見た時からどうにも気に入らない女。
同性からすらため息が漏れる程彼女の見た目は良いと私も認めてやる。
しかし、だからこそ余計に春人と引き合わせる訳にはいかん。
あの女がもし春人に関心を持っただなんて事になったら、私は怒りで何をしでかすか自分でもわからん――
ラウラにあるシステムが仕込まれ、それが学年別トーナメントの時に暴走を起こした時に春人が怪我を承知で止めてくれた時だって、私は決してリアス・グレモリーには見せなかったし、合わせもしなかった。
それくらいあの女には嫌な気配を感じるのだ……。
学年別トーナメントは実質半日で終わった。
いや、終わったというよりは中止となったと云った方が正しいか。
転校初日にいきなり一夏を殴ったラウラ・ボーデヴィッヒの機体が謎の暴走を起こしたのだ。
幸い組むよりは戦いたいというラウラの熱望によって対戦相手となっていた春人が止めたので、アリーナが半壊した程度に収まったが、そのまま続行はどうやっても無理だったので中止となったのだ。
「春人、やはりお前は私の嫁にする!」
「え……」
そんな中止騒動から数日、無事に復帰したラウラがまず行ったのは、諸君も知ってるだろう宣言と行為だった。
「私の前で良い度胸だな……!」
そのせいで春人大好きグループが担任を含めて教室で大騒ぎを起こしてしまう訳で……。
「教官だろうともこの想いは譲りません!」
「冗談じゃありませんわ! 今すぐ決着をつけてさしあげますわ!」
「ぶっ潰す!」
「………」
隣のクラスからも約二名が殺意まみれで突撃までするわで、既に授業をやる空気ではなくなっているし、春人はそんな皆を止められてない。
「どうすんだよ授業……?」
「さぁな、落ち着くまでは無理だろう」
「私としては合法的にサボれるから大歓迎だけどねー」
「というか、誰もあの修羅場に割り込めないよね。
近くで見た時ですら胃がキリキリ痛んだのにさ……」
そんな大騒ぎ組を見ながら一夏達は事実他人事みたいな事を呟き合っている。
この騒ぎで授業が潰れるのは構わないが、ISまで持ち出そうとして殺意を撒き散らすのはダメだろうと思うが、止める気は更々ない。
誰も好き好んで猛獣共の殺し合いの現場に飛び込む趣味はないのだ。
「な、何をしてるんですか!? 織斑先生まで!!」
そんな状況を止めたのが、少し遅れて登場した真耶だというのだから、地味に彼女の成長具合がうかがえる。
「教室でISを展開するのは禁止ですし、ましてやそれをお友だちに向けるのは駄目です!」
「ですがラウラが春人に……!」
「でももヘチマもありません! 織斑先生もどうして一緒になって暴れてるのですか!」
「い、いや頭に血が昇ってしまって……」
普段見ない真耶の剣幕に、流石の千冬達も縮こまってしまっている。
「おーやまやが頼もしく見える」
「というか、やまやって怒ると結構怖いね……」
そんな真耶の初めて見る怒りに生徒達は見直しており、色々と知る一夏達はうんうんと頷いていた。
「イチ兄のアドバイスのお陰だな」
「『餓鬼に嘗められない為には、一度キレたらぶちのめされるって恐怖を叩き込め』………と兄さんは言ってたからな。
まあ、それは乱暴にしても、こういう時はきちんと叱れる様にはならないとな」
正味、怒っても寧ろ怖くない気はするが、怒るべきところは怒れる様になっただけでも成長していると云えよう。
真耶に怒られで罰の悪そうにしながらも、お互いに睨み合ってる千冬達が果たして反省してるのかは別にしてもだ。
こうして真耶により少し遅れながらも授業は始まったのだが、春人は喧嘩をした友人達――よりも、男装をしたままのシャルロットが、やはり関わりが薄かったせいでこのタイミングでも男装を辞めないままである事について、これからどうしようか考えていたのだった。
「うっ!?」
「? どうした?」
「い、いや……今背中に冷たいものを入れられた様な寒気が……」
尚、既にほぼ解決してたりするとは知らずに。
終わり
逃げた先の世界で平穏を手にし、親しき者達までできたリアスと一誠の二人は確かに幸せだった。
けれどそれは唐突にやって来てしまった。
「ここは……ま、まさか……!」
「嘘だろ……身体も縮んでるし、記憶違いじゃなければここは……」
二度と戻りたくないとすら思った自分達の世界と似た世界。
成長した身体は退行し、時間もまた二人が出会う遥か前の時期……。
「あの男が居ない……?」
「先手を打って殺そうと思って探したんだけど、リアスちゃんを陥れた野郎はどこにも居なかった。
いや、それどころかある意味朗報かもしれない」
転生者が存在しない世界だとしても居たくはない世界。
けれど悪いことばかりではない……世界中を飛び回って転生者の存在が無いことを確認していく道中、一誠は再会していたのだ。
「一夏、箒、真耶、刀奈、虚、本音、シャルロット……!」
「やっと会えたぜリアス姉」
「一誠兄さんに拾われてなかったらと思うとゾッとする」
「私達も気付いたら身体が縮んでこの世界に……身寄りもなくてどうしようかと思ってたら一誠さんに」
「いやぁ、これぞまさに運命ですよね! 私と一誠さんの!」
「空気を読んでくださいお嬢様……」
「わぁ、リアス先生が小さくて可愛い! ……私も皆も小さいけど」
「皆と会えたから良かったけど、これからどうしたら良いんだろう?」
親しき者達と。
だからリアスは直ぐに決断した。
「こうなったらとことん実家を利用しましょう。
アナタ達を私の眷属として迎えた体にすればまず食べ物や寝泊まりする場所には困らないわ」
例えこの世界ではなにもしてないにせよ、既に見限っているグレモリーの名を最大限利用してやろうと。
だからリアスはかつて眷属だった者達は見向きもせずに行動した。
「
「え、私? 一誠さんじゃなくて?」
楯無を女王に。
「一誠はタイプ的に戦車――というより、一誠がアナタを推薦したのよ」
「な、なんで!?」
「キミはリアスちゃんとしょっちゅう張り合ってたろ? だからだよ」
「は、はぁ……」
「一誠は戦車をやってもらうわ」
「で、では私も戦車を……! そ、その方が一誠さんに色々と教えて貰えますし!」
「そうね、真耶は一誠に教えて貰うと成長が早いものね?」
一誠と真耶を戦車に。
「では私と本音は僧侶でしょうか?」
「ええ、お願いできるかしら?」
「まっかせてよリアス先生! 頑張ったらぎゅってしてね?」
虚と本音を僧侶に……。
「では私が騎士か……剣の類いは持たなくなったんだけどなぁ」
「箒が騎士なら一夏も――」
「いやシャルロットが騎士をやれ。
俺は兵士で良い」
箒とシャルロットが騎士を、そして兵士を一夏が。
こうして決して裏切る事ないチームは完成し、とことん実家を利用しまくって絆を強く育んでいく。
しかしその時はリアス達が学生となった時にやって来た。
「納得いかない。
真耶と同年代って括りにされるのは良いが、何で刀奈とまで同い年扱いなんだよ俺は? しかも虚が年上の体だし、普通真耶と逆だろ……」
「くじ引きの結果がそうなったのだから文句言わなーい! ふふん、いーちゃんと同じ年齢で同じ学校に通うだなんて夢みたいだわ!」
「わ、私は嬉しいですよ? 一誠君とお勉強できるんですもの!」
「まさか私がリアス先生と同じ学年になるなんて……! ふふ、嬉しい……」
「俺と箒と本音とシャルロットは予定調和って感じだよな?」
「そうだな、当時も一番年下だったし」
「ある意味で何時も通りだね」
「良いなぁお姉ちゃん。リアス先生と同じクラスだなんてさぁ」
見た感じ年齢がほぼ同じになった為、リアスと一誠を基準に分けた結果、虚が一誠よりも年上になり、刀奈がと真耶が同い年という体になってしまった――までは良かった。
だが、高校生となって人間界の学校に再び通う事になった時にそれは始まった。
「……そこの人」
「んぁ? ……えーっと、誰だ?」
「私は塔城小猫といいます。
アナタ達が三年生のリアス・グレモリーさんと一緒に登校しているのを見たので……。
その……まさかオカルト研究部に入ってはいませんよね?」
「入ってはいるが、なぜキミがそれを気にするんだ?」
「な、何で入れたんですか? それにどうしてアナタ達が……!」
年少組が妙にリアスを気にする白髪少女に絡まれ……。
「あの、兵藤君と更識さんと山田さんは居るかい?」
「き、木場君!? は、話し掛けられちゃったわ私! え、えっとね、あの三人なら部活に行ったと思うわ」
二学年は金髪美少年に目を付けられ。
「リアスさん、そろそろ部室に行きましょうか?」
「そうね虚、今日は適当に――」
「り、リアスさん!」
「リアス!」
「――――はあ、今度は何かしら支取さんと姫島さんだったかしら?」
三年組はかつての女王と幼馴染みにストーカーレベルにつきまとわれ……。
「ど、どうして女王が更識楯無って子なのよ!?」
「それを言ったら戦車だって兵藤一誠って人と山田真耶って胸だけ異常にデカい人ですよ……」
「騎士も篠ノ之箒って人とシャルロットってあの時見た覚えの無い人だし……」
「そ、僧侶も布仏さんという姉妹でしたし……」
「誰なのよ……! あの兵藤一誠ってのは確かリアスを連れて逃げた赤龍帝なのは間違いないけど、他は何なのよ!? あのクズ男に騙され、今度は間違えないと思ってたのに、あんな連中のせいでリアスに近づけないなんて……!」
かつてリアスを見捨てた者達は、自分達の位置だった箇所が既に埋め尽くされている現実に絶望する。
「しかしさぁ、スキルとは別にリアス姉の駒で転生した時に覚醒した魔力がISの能力として宿るなんてなぁ。
俺の魔力の性質って絶対に白式の零落白夜だろ」
「あれか、元は春人の機体だったのに途中からコアの意志によって一夏の機体になった」
それに加えて見知らぬ少年少女達の力もまた一筋縄ではいかないものだった。
「一誠兄さんに近い性質のスキルに零落白夜の魔力か……もしそれで白龍皇だったら運命的にも程があったな」
「いや、零落白夜あったら白龍皇の力は基本使う意味なくね?」
「確かに半減じゃなくて完全に零にしちゃうからね~。リアス先生と結婚してやるだなんて上から目線で言ってきた火の鳥さん達を完封した時はいっちーが輝いて見えたもん」
半減どころか神器だろうがなんだろうが力を零にしてしまう魔力を持つ兵士の存在からして勝手にあやまり隊にしてみたら目の上のたん瘤だった。
しかし足掻いたところで元にはもう戻らない。
現実は一度の失敗をそう簡単に許してはくれないのだ。
……嘘でした
補足
違いその1
シャルロットはシャルルのまま。
ただし、視線で寒気が止まらないらしい。
その2
ラウラの嫁宣言とキスに鈴音どころか簪まで突撃してきた。
なんで知ったのかというのは、春人の机に盗聴機を仕掛けてるからだとか。
その3
アリーナの後片付けは用務員と非常勤保険医と生徒会がかなり頑張ってましたとさ。
その4
嘘妄想乙