前半は現地視察編
後半はド嘘話
思い通りにならない事は多いが、臨海学校の日が近付いているという事もあって、取り敢えずそちらに集中する事にした春人。
(束さんが箒に紅椿を渡す為に現れ、銀の福音が暴走する。
何で暴走するかについてはあまり深く考えないにせよ……ね)
周りは臨海学校についての話題でハシャイでるが、知識のある春人はそうはいかない。
上手く乗り越えてより物語の中心に食い込む為には避けて通れない道なのだ。
「へー、海で遊べる時間もあるのかぁ」
「そうそう! 当日は皆気合い入れて水着を新調する筈だから、一夏君にとって目の保養になること間違い無しよ~?」
「目の保養ねぇ?」
「ありゃ? あんまり乗り気じゃない感じ?」
「そういう訳じゃないけど、うーん……」
臨海学校についての話をしてる能天気な兄についてはこの際無視だ。
でないと、何もせずとものうのうと上手くやれてる一夏を殴り飛ばしたくなると春人は独り考えるのだった。
「さて来週から始まる校外特別実習期間だが、全員忘れ物などするなよ。
三日間だが学園を離れることになる。自由時間では羽目を外しすぎないように」
そんな春人の考え等当然読める訳も無い千冬はというと、SHRの時間に久々に教師らしい事を言っていた。
というのも、ここ数日は副担任の真耶が殆どの主導権を取って取り仕切ってしまっていたのだ。
「織斑先生、今日は山田先生はお休みですか?」
春人が絡まないのなら普通なのだが、受け持つクラスに春人がいるせいで、基本的におかしくなる方が多いのを知る生徒達も、割りと真耶が頑張ってたのを知っていたので、姿が今見えない彼女の行方についてを質問する。
「山田先生は校外実習の現地視察に行っているので今日は不在だ。なので山田先生の仕事は私が今日一日代わりに担当する」
『え……』
どうやら現地視察に出てしまって今日は休み――――までは良いが、真耶の担当する箇所を千冬が兼任すると聞いた瞬間、一部女子が心配そうな声を出してしまう。
「……何だ貴様等。私だと不服なのか?」
「い、いえそういう訳じゃありませんよ? あ、あはは~!」
「そうそう! やまやが一足先に海に行ってるのが羨ましいなって思っただけですし!」
「寧ろ私にも一声かけてくれればいいのにと思ってただけです!」
「良いなぁー泳いでるんだろうなー」
ギロッと睨まれた生徒数人が慌てて誤魔化す。
不服どころか、春人にかまけ過ぎて授業になるのかが心配だが、変に睨まれては堪らないのだ。
「いちいち騒ぐな鬱陶しい。山田先生は仕事で行っているんだ。遊びではない、ではこれにてSHRは終了だ。
あぁ、これから春人はいっしょに職員室にな?」
「え? 待っ―――」
『………』
どうやら誤魔化す事には成功した様だ。
女子達は内心ホッとした。
春人がそのままSHRの終了と共に連れていかれたが、それはきっと必要な犠牲なのだ。
「あー危なかった……」
「でもやまやが居ないと誰もストッパーが居ないよ?」
「最近のやまやは結構織斑先生に言ってくれたりしたもんねぇ……」
「なんかすまん、俺の姉さんが……」
「あ、良いよ良いよ! なんというか、一夏君の方がもっと大変だっただろうし……」
「織斑先生と春人君のやり取りを毎日家でも見てたんでしょう?」
「そりゃあね。
でも、お陰で俺は放任されてて自由に過ごせて割りと快適だったりもしたぜ?」
「暇な時は大体私と遊びに行ってたしな」
完全に線引きしてるせいか、全くストレスにもならないと断言する一夏が逆に可哀想に思えてならない女子達が、心の中でホロリと涙を流すのと同時に、箒という最良の友人が居てくれて本当に良かったねと思うのだった。
「皆みたいに箒も水着とか買うのか?」
「別に買わんでも学園指定のやつがあるし、買う予定は無いぞ」
「いやいや、逆に箒があんな分かりやすいスク水着たら逆に大変な事になりそうなんだけどな――主に俺が」
夢なら永久に覚めないでほしい。
この時程真耶はそう思わざるをえなかった。
「この道で合ってます?」
一学年の臨海学校が近付いてるという事で、学年教師の代表として本日は現地の視察に行く事になった。
当然電車やバス等を使って行くものだと思っていたのだが、今真耶は白いソアラの助手席に座り、目的地までの旅を行っていた。
「は、はい! あ、ああ、合ってますです! えと、次の信号を右に曲がってください!」
「うーい」
慣れた感じのハンドル操作をする運転席の男――ていうか一誠が現地視察に同行をするという事になった経緯は、どうやら一誠を直接採用した学園長からの命令だったらしい。
曰く、『学園長から貰った』らしい年代物の車を自宅から引っ張ってきてIS学園からの最寄り駅の前で待ってた時はビックリしてひっくり返りそうになったぐらいだし、ましてや同行するから乗ってくださいと言われた時は、何度も自分の頬っぺたをツネツネして夢でないかと確かめたものだ。
「最近の子供の校外学習ってのは豪勢なものなんですね。
去年更識さんが行った場所と同じ所らしいっすけど、なんでも美味そうなもんを食ったとかなんとか……」
「そ、そうですね……」
「つーかこの車やっぱり燃費少し悪いな。
まあ、学園長からタダで譲って貰った手前贅沢は言えないけど……」
「そ、そうですね……」
高速に入り、長いトンネルが続く道を走るその車内にて真耶はドキドキし過ぎて先程から同じ返事しかできない。
まさかこんなサプライズがあるとは思ってもなかったし、何よりこれでは新婚夫婦の新婚旅行の様な……。
「えーっと、このトンネルを抜けたら海が見えて―――あ、見えた」
「………」
そんな時程時間の流れは早く感じてしまうものであり、気付いたら既に目的地の近くまで来てしまっていた。
「この海岸線沿いを進むと旅館が見えるんでしたよね? あ、アレか?」
「…………」
車を運転してる所を見るのも勿論初めてだが、運転してる横顔がかっこよく見えてしょうがない真耶は隙を見てはチラチラと伺っていた―――という事に気付いてもなければ、恐らく気付いたとしても特にどうとも思わないだろう一誠が目的の旅館を指差す。
「割りと道が空いてたから早めに来れましたよ」
「混んでれば良かったのに……」
「は?」
「あ、い、いえ! 何でもないです!」
どうやら思っていたよりも早く到着をしてしまったらしく、旅館の駐車場に車を停めた一誠は座席を後ろに倒し始めた。
「んじゃあ俺は此処で待ってますんで、先生は視察をしてきてください」
「え……」
どうやら送り迎えはしても、視察の中身までには介入する気は無いらしく、つまらない男そのままに一眠りをしようとする一誠。
(ど、どうしましょう。こんなチャンスは滅多にありませんし……よ、よーし!)
そもそも一誠と二人で外出というまずあり得ない展開が突然にせよやって来たのだ。
ここで引き下がったら後悔するし、何よりあの楯無のハングリー精神は見習うべきだとも思っていた。
だからこそアイマスクをしようとしていた一誠に向かって、ドキドキと胸の鼓動が高鳴るのを感じながら真耶は勇気を振り絞った。
「あ、あの……出来たら付いてきて欲しいなー……なんて」
「は?」
「ほ、ほら! わ、私一人だとドジを踏んでしまうかもしれないですし、その……怖い人に絡まれたらと不安だし……」
「このご時世に女性である先生にそんな真似をしようとする勇気ある輩が居るとは思えませんけどね。
ナンパしただけで拘留された例も聞いたし、痴漢したら死刑にすらなりかねないんでしょう?」
「そ、そうですよね。一誠さんに頼ってばかりも駄目ですよね……。やっぱり一人で行きます……」
リアスに言われたら、このご時世だろうが全力の護衛モードに入るのはわかりきった話だが、やはり真耶では駄目だったらしい。
ちょっと寂しそうに微笑みながら一人で行くと言った真耶はシートベルトを外してドアのロックを外して外へ出ようと開けた―――のだが。
「……。と、思ったけど、最近の子供がどんだけ贅沢なのかが知りたくなかったので、やっぱり先生に付いていきます」
「へ?」
いきなり身体を起こした一誠が気が変わったから付いて行くと言い出した。
いきなりの事で思わずポカンとしてしまう真耶だが、理由はどうであれ付いて来てくれる――それはとても嬉しい事だった。
「それで、まずは何処に?」
「は、はい! まずはこの旅館の人にご挨拶をします!」
「そっすか、じゃあ行きましょ」
楯無がもし見ていたら『ぐぬぬ……!』と悔しがるに違いない。
真耶はとても幸せ気分で旅館の中へと入るのだった。
「えーっと、今度此方にお世話になるIS学園の者なのですが……」
「はいはい、事前に現地視察の教師の方がお見えになる話は聞いてますよ。私が女将の清洲景子です」
まるで新婚さんの気分……と、一人妄想に走る真耶だけど、やるべき事はきちんとやる。
この旅館を取り仕切る女将に挨拶をし、何やら話をしているのを横目に一誠は入り口近くにあったお土産コーナを覗いていた。
「リアスちゃんに何か買ってこうかな。お? でもこれはイチ坊が好きそうだな。
で、これが箒と……」
折角なのでリアスと一夏と箒――と、流石に可哀想な気がするので楯無や虚や本音やシャルロットにもひとつずつ何か買ってやろうと物色し始める一誠。
「あちらの方は?」
「えっと、同行して頂いた用務員の方で……」
「用務員さん? IS学園には二名の男性起動者さん以外にも男性が居たのですね?」
「は、はい……」
「もしかして、先生の恋人さんでしょうか?」
「うぇ!? ま、まだ違いますよ!? 」
「へぇ? 『まだ』ですか。ふふふ」
「か、からかうのはやめてくださいよぉ……」
等という女将と真耶のやり取りがあったのだが、本人は土産の物色に夢中過ぎて全然聞いてなかった。
「蛍光塗料が塗ってあるキーホルダーか。
何でだろう……無意味なのに何故か欲しくなる、どうせ使わないしブラックライトが無いと光らんのになぁ」
『そういえば文字通りのガキの頃、よく金も無いくせに祭りの縁日に行っては指を咥えて見てたなお前は?』
(そんな事もあったな)
いや、どうやら暫く寝ていたドライグと会話していた様で、リアスと出会うかなり前の孤独だって子供の頃の思い出を回想していた。
『それが今ではそれなりの暮らしを手に入れられたからな。
もっとも、お前を殺し損ねたクズや、リアスを裏切ったゴミ共に復讐できないのが心残りだが』
(無理をして危険に晒すよりは逃げた方があの時は良かったんだよ。
……いや、リアスちゃんと一緒に生きると決めた時から失うのが怖くなったというべきだけどな)
旅館の名物饅頭の箱を手に取って眺めながら、この世界へと偶発的に逃げ延びられた事を思い返す一誠に、復讐の機会を失った事を心残りにしてるドライグもそこの点に関しては正解だったかもしれないと思う。
『どうせなら白いのを完全に殺してやりたかったな』
(その点に関しては本当に悪いと思ってるよ。お前を巻き込んじゃったしな)
『いや、あのクズに与した時点で最早宿敵ではないし、お前となら負ける気もしなかったからそこまで拘っては無いさ。
……というか、お前の同僚と女将とやらがこっちを見てるのは良いのか?』
(え? あー、世間話でもしてんじゃねーの? 知らんけど。てか同僚じゃないし)
『お前は本当にリアス以外の女には無頓着だな。
あの箒というリアスに似た声の小娘は少し違うみたいだが……』
(無愛想というか、どう返して良いかわかんないんだよ……)
今が平和なのだから。
終わり
新生リアス眷属として再び終結してからそれなりの時間が経っている為、かつては年齢差の関係で呼び方にも線引きされたものがあったが、今ではそれぞれ互いに下の名前で呼ぶ程度にはなっていた。
「リアス姉と一緒に登校すると毎回石を投げ付けられるんだけど……主に男子に」
「リアスちゃんもそうだが、他の子達もまぁ美少女と呼べる子達だからな。
多分気に入らないんだろうぜ、そんな中に如何にも親しそうに加わってる俺とお前が」
「お陰で男の友達が一人もできないんだよな……」
「心配するな、俺もそうだから」
が、当然一誠と一夏に対する学園生活での風当たりは割りと強く、特に男子からの嫉妬は凄まじかった。
「テメェ織斑ァ! 朝っぱらから美少女三人とイチャイチャしてんじゃねー!!」
「どぅわ!? あ、危ないなぁ! 小さい時からの仲なんだからしょうがねぇだろ! それに誤解してる様だから言わせて貰うけどな! 俺は箒が……」
「その時点でアウトだこの野郎!!」
入学初日から美少女達と登校したせいで一瞬で目を付けられた一夏なんかは毎日顰蹙を買い漁っていた。
が、不思議な事に一誠は特に何もされてなかった――いや、出来ないと云った方が正しいのか。
「えぇ? その胸で誘惑しても全く動じないの?」
「そうなのよねぇ。やっぱりリアス部長が強すぎるせいで中々崩せないのよ。
真耶ちゃんと組んでも中々……」
「真耶の胸でも駄目なのか……。とんだ牙城ね……」
「本人の真横でやめてくれないか?」
一度リアスにストーキングしてしまった男子生徒が謎の失踪を遂げたり、真耶や刀奈達の盗撮をしようとした誰かが手足が粉砕骨折した状態で校庭の真ん中に頭から埋まってた……という事があり、彼女達に何かしたらヤバイという恐怖心が抑止力となっていたのだ。
そして一誠と同学年という事になっていた真耶と楯無は、妙に馬が合って友人となった眼鏡女子から色々とアドバイスを貰っては組んで突撃する様になってきたらしい。
なので概ね平和……かと言えばそうでもなく、リアスの庇護下に置かれてる一夏達に近付いて絡んでくる元眷属達が存在していた。
「あの」
「ん? ああ、塔城さんだっけ? また入部の話か?」
「え、ええまぁ……」
例えば一学年では元眷属だった白い猫がしつこいレベルで一夏、箒、本音やシャルロットに対して入部をせがんだり。
「今入部勧誘もしてないし、リアス姉もしないって言ってるから、残念だけど何回来ても同じ事だぜ?」
「他の部活に入れば良いと思うけどな? キミなら引く手多数なんじゃない?」
「何でそんなにウチの部活に入りたいのかは聞かないけど、諦めた方が良いと思うよ塔城さん?」
「……」
「何を狙ってるかは知らないが、多分どうしようもないと思うがな」
「っ……。(この人、部長の声にそっくり……)」
既にリアス眷属がフルメンバーなのは知っていたが、実はまだ兵士の枠が三つ程空いているという情報をどこかで入手した元眷属達が勝手にバチバチとやりあってるらしい。
当然元眷属だったこの白い猫もその枠に捩じ込もうと、かつての世界では見た覚えすら無い少年と少女達と親しくなって利用しようと近付くが、上手く行くわけもない。
「ねぇ、木場くんが呼んでるわよ?」
「え、ま、またですか? ここの所毎日来ません?」
「これから部活だから面倒なんだけど」
「チッ、しつこい」
二学年もそうだったり……。
「はぐれ悪魔討伐を円滑に進める為には、我々は協力すべきなんですよ! そう思いませんかリアス!?」
「申し訳ありませんがソーナ・シトリー様、我々の王であるリアス・グレモリーは接点の無いアナタ方と組むつもりは全く無いと――」
「アナタに言ってないわ! 私はリアスに言ってるのよ! どこから沸いたのかもわからない僧侶風情が私に――っ!?」
「そうですか、私の大切な者達に対してその言い方をするのですねソーナ・シトリーさん。
申し訳ありませんが、ますますアナタ達と関わるのは嫌ですわ。というより、意味も無く絡むのも辞めて貰えませんか? ハッキリ言ってアナタの友人達共々迷惑なんですよ」
三学年達に至っては最早修羅場だった。
「毎日毎日……うんざりだわ」
「リアスちゃんにここまで拘るとなると、奴等は多分……」
「そうね、間違いなく私の知ってる者達だわ。
あの男とその後何があって私達みたいに過去をやり直してるかは知らないけど、今更過ぎるのよ」
「あのソーナ・シトリーって方の女王って微妙に私と被ってる気がしてならないのですが……」
「心配するな、少なくともアレ等よりはキミの方が遥かに愛嬌があるさ」
「……。褒められてる気がしないですね」
流石に連中がリアスをかつて裏切った者達である事には気付いた。
だが既に眷属は揃ってるし、リアスの実家の者達からも一誠達は歓迎されている。
つまり、どう足掻こうがかつて裏切った連中達が元の鞘に収まる事はありえないのだ。
それに最早リアスは元眷属達を完全に赤の他人として認識しているのだ――無論ソーナについても。
「そういやあのソーナ・シトリーって所の兵士の人――匙って先輩だっけか? 最近なんか後悔した顔しながら独りで花壇の鉢植えの交換をしてたな」
「あまりに可哀想な後ろ姿をしてたからつい僕達も手伝っちゃったんだけどさ、話を聞いてみると、あの人はどうもソーナ・シトリーさんに惚れてるみたいなんだって」
「でもリアス先生にストーカーしたり、盗撮してこいって命令されたりするのに嫌気が差してるみたい」
「ブツブツ言ってたな。『色々と冷めてしまってる』って。最近生徒会の仕事もあの先輩一人に押し付けられてるみたいだしな」
ただ、悲惨な事に記憶を持たぬ者も居て、そういう者は総じて利用されてる様だった。
「それって昔の織斑先生の一夏君に対する扱いみたいな……」
「それに近いのは確かね。
まったく、私もIS学園で生徒会やってた時はそれなりにサボってはいたけど、一人に仕事を押し付ける真似だけはしなかったのに……」
「過程は知らないけど、惚れて眷属になったら相手はストーカーでしただなんて最悪にも程があるな」
「最近そのソーナ・シトリーやら姉さんを裏切った連中に姉さんみたいな口調で名前を呼んでくれって迫られたし……」
そういう所が余計に幻滅させてるのに、前しか見えてないが故に気付かない。
今度シトリー家に対して娘が奇行に走ってるとでもリークしてやろうと思うリアスなのだった。
オマケ・元眷属と元友人の今の関係――終わり。
その2
フラグメイカー・一夏。
元を辿ればアホみたいにフラグを立てまくる体質を持つ一夏は、本人は非常に嫌がるがこの世界にて一誠以上に覚醒していた。
「シーグヴァイラ・アガレス……? 誰だっけ?」
「もしかしてあの人じゃない? 前に嫌々な顔したリアス先生と一緒に冥界に行って若手悪魔の会合をした時に、ガラの悪い悪魔に絡まれてた女の人……」
「あー……居たような、居ないような。
でも仮に居たとしても何で俺宛に手紙なんか……」
「多分だが、お礼の手紙じゃないか? あの時は偶々一夏が結果的に助けた事になってたし」
「えぇ? だとしたら凄まじく律儀な人だなぁ……」
「私が読んであげよっか?」
「じゃあ頼むぜのほほんさん」
「お任せー! えっとなになに………? ふむふむ……? ―――――わぉ」
「? 何が書いてあったんだ?」
「えーっとね、内容としてはさっきしゃるるんやほーちゃんの予想通りで、いっちーが結果的にこの人を助けた事に関するお礼なんだけどー……」
「けど?」
「うんとね、お礼が直接したいから
「は?」
「しかも上手いことに断りの手紙を出させない為に今日来るってさ」
「えぇ? 何でそんなめんどうな事に……」
正味、顔もそんなに覚えてない悪魔からのお礼訪問に対して、割りと本気で嫌がる一夏だが、今日これからやって来るとなると断りようが無さすぎた。
故に直ぐ様リアス達に相談し、取り敢えず迎え入れる準備だけはする事になってしまった。
そしてその悪魔はやってきた。
「お久しぶりですねリアスさん」
「こちらこそシーグヴァイラさん。それで早速ですが、ウチの兵士である一夏にお礼をしたいとか……」
「あ、は、はい……そうですが……今彼は……」
「あ、ここに居ます。織斑一夏です」
「! そ、その説は本当にありがとうございました……!」
「いえ、殆ど成り行きだったので、アガレス様が気にされる事ではございませんよ?」
ストーカー共への対処で割りと忙しいし、最近連中に痛い目に逢わせた後処理もしなきゃいけないということもあって、無駄に顔が良い一夏はスマイル全開で対処しようとしてるのだが、どうもそれがいけないらしく、シーグヴァイラ・アガレスはどこかで見たようなテンパり具合を見せていた。
「つ、つきましてはお礼をさせてください。
そ、そのー……暇な日を教えてくれたらなと……」
「暇な日? 何をする気ですか?」
「え、えっと……我がアガレス家にご招待するとか……」
「………は?」
もじもじしながら言うシーグヴァイラの意図が全然わからないって顔をしているのは一夏だけだったが、既にリアス達は見抜いてしまっており、素晴らしい程の苦笑いだった。
「お食事もちゃんと用意しますし、何かして欲しい事があったら何でもしますよ? だ、だからその……!」
「えぇ……? 暇な日なんて無いんですけど……」
嘘は終わり
補足
割りと学園長(真)との繋がりが強かったりする用務員。
お陰で年代物の車まで頂いてるもんだから、雇い主的な意味での忠誠心は割りとある。
その2
そんな一誠が同行してくれたせいか、やまやんがとても……妄想癖が強くなっちまっただ。
その3
嘘だから適当ですけど、いくら何をしても元鞘には戻れないかなぁ。
で、何故かフラグをたててしまい、一誠の気持ちが地味にわかり始める一夏くんなのだった。