色々なIF集   作:超人類DX

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せっかくなんで前回の続き。

主に皆大好きクレイジー・サイコ・ラビット化した束ちゃまのお話。


※天才の挫折と執念の記録

 現赤龍帝である兵藤一誠を擁するリアス眷属には秘密があった。

 それは眷属全員が元は全く異なる世界を生きた者達で構成されている事。

 そして……赤龍帝が二人存在している事だった。

 

 それは一誠と瓜二つの容姿を持ち、尚且つ元は更に別の世界を生きた兵藤一誠が名を変えた存在こと、日之影誠が赤龍帝――では無い。

 

 確かに彼は赤龍帝だったが、それは最早過去の話であり、所謂先代に当たる者だ。

 では一体誰がもう一人の赤龍帝なのか? それは誠によって後継と定められた天然の規格外――篠ノ之束がそうだった。

 彼女は脳を犯されて死の運命を待っていた彼により、赤い龍の力と彼が築き上げて来た()の全てを託された世界の枠を越えた次代の赤龍帝なのだ。

 

 だから誠は常々言っている。

 

 

『俺は既に隠居したジジイみたいなもんだから、実力からしてこの中じゃ一番弱いぜ?』

 

 

 束の執念により復活したとらいえ、力も託して零の状態となった今の誠はリアス眷属最弱だと。

 それは確かに神器とは違う人格の力(スキル)すらも束に託して無くしている今の誠は眷属の中では最弱なのかもしれない。

 具体的には、当初は呆気なくバラバラにしてやれた並の悪魔相手に結構手こずる程度には。

 

 一度束に赤龍帝の名と永久進化のスキルを返還することを言われたが、誠はそれを断った。

 

 

『いや、あげるって言ったものを今になって返して貰うってのもカッコ悪いじゃん? それにドライグも今や束ちゃまに適応できてるみたいだしよ』

 

 

 カッコ悪いからというのは建前で、本来神器は宿主の命に直結しているもの。

 だからもし神器を抜いてしまったら束の命が危ない可能性がある――という理由なのと、無限に進化するスキルもまた束の持つ執念のスキルの一部として完全に取り込まれてしまっていた。

 だから誠は断ったし、無くしたら無くしたなりに地道に鍛え直す道を選んだ。

 

 

『それにさ、別世界の俺自身――つまり一誠君に名前とかも譲ったのに持ってる力まで被ってたら色々と面倒だろ?』

 

 

 もう一人の自分と被るから……という理由もちょっぴり含めて。

 

 

 

 日之影 誠(真名・兵藤イッセー)

 

 神器・無し

 能力(スキル)・無し(ただし、人格や精神性は全く変化してない)

 

 

 これが曾て、転生者やあらゆる種族を世界ごと根絶やしにした男の今だった。

 

 

 

 篠ノ之束は日之影誠が物凄く大嫌いだ。

 その昔、束にとって先代の赤龍帝で兵藤一誠の名だった頃から知ってる間柄なのだが、とにかく束にとって一誠という存在は自分の親友やその弟の関心を全部かっさらう悪魔みたいな馬の骨野郎だったし、何よりその力は天然の規格外である束ですら挫折させる程の超越したものだった。

 

 だから束はこの世界にて共に居る妹の篠ノ之箒とは別世界の――つまり束にとっての出身世界の箒共々一誠を全力で毛嫌いしていたのだが、一誠はそんな姉妹に対して何時だって申し訳なさそうに、そして子供を扱うかの様に気を一々使ってきた。

 

 その気になれば一瞬で粉々にするパワーを持って起きながら、親友とその弟をその世界に引きずり込んでおきながら、自分と妹にはその才能が無いと言っておきながら、一誠はそれを総て申し訳ないと思ったのか、常に気を遣ったり、親友とその弟との仲をウザいくらいに取り持とうとした。

 

 それが束にはとても癪で、そして心底気にくわなかった。

 いっそ、馬鹿みたいに開き直ってくれたら清々する程憎悪してやれたのに、その中途半端な優しさが束をますます苛立たせたのだ。

 

 だから束はまず一誠の鼻を明かしてやろうと、才能が無いとキッパリ言われたその領域に強引に侵入してやった。

 地道にやった所で不可能なら、その力を持つ一誠の細胞を隙を見て食いちぎって奪い、自分の身体に埋め込み、強引にその扉をこじ開けて侵入した。

 

 この行動には周囲はドン引きしたが、あの憎い一誠が心底驚いた顔をしてたのを見れただけでも束はとてもスッキリした気持ちだった。

 

 その後束はその卓越した才能をフルに活用し、一誠の全てを研究し、ついにはその力に追い付くまでの王手までかけた。

 

 追い付き、そして追い抜けば一誠はきっともう自分を餓鬼扱いなんてしないし、対等に扱うだろう。

 いや、寧ろ自分に傅くのだって夢じゃない。

 そんな事を思っていた束だったが、待っていたのはまたしても挫折だった。

 

 

 

 そう、一誠は脳の病気に犯されたのだ。

 それも医学的に原因不明の全く新しい新種の――悪意の塊の様な病気に。

 

 時間と共に脳の機能が破壊され、人格が凶暴化し、やがて全ての脳細胞が壊されて死に至る病。

 一誠を家族の様に愛した親友とその弟はあらゆる医者に頼んで治療をさせたけど、身体の構造から脳の構造に至るまでが進化により別種の存在へと昇華したばかりか、その脳を犯すモノすらも一誠の持つ無限に進化する力によって強靭にて凶悪なものへと進化してしまう。

 

 皮肉にも、彼を支え、復讐に成功するまでに至った人格そのものによって破壊されていくというのが病気の正体だったのだ。

 

 

 勿論常日頃から一誠を視ていた束は、金だけ巻き上げるだけのヤブ医者共では治せないと判断し、入院している一誠をこっそり……親友とその弟をも出し抜いて連れ出した。

 自分が必ずこの男を元通りにさせ、今度はその恩で靴でも舐めさせてやるという決意と共に。

 親友とその弟にどんなに恨まれてしまおうが構わない――そんな強すぎる決意を以て。

 

 けれど一誠の病気は治るどころか、精々その進行を緩やかにするのが精一杯だった。

 卓越した才を駆使して短期間でその道の権威すらを超越するレベルにまで昇華した束ですら、一誠の病気は余りにも未知で、あまりにも凶悪すぎたのだ。

 

 結果束はまたしても強烈な挫折を味合わされた。

 どれだけ才を駆使しても、どれだけ考えても、どんな手を使用しても、待っているのは壊れていく一誠の脳の経過観察。

 

 

『CTスキャンによる脳の断面、脳波測定で得られた脳電図。

こんなくだらない膨大な資料は皆、ただの壊れた物体の観察日記……。こんなのは絶対にアンタじゃない、アンタであってたまるか!!』

 

 

 深い屈辱、挫折、絶望。

 かつて一誠によって貰った挫折なんか生易しいレベルの深き負の感情。

 挙げ句の果てには既に視神経すら壊れて眼すら見えなくなっていた一誠自身から託されたものが、永久に一誠へ追い付けなくなってしまった。

 

 

『散々好き勝手やってきた罰だねこれは。

だから俺は死ぬ。そしてこの力の全てをキミに託す』

 

 

 死を悟った一誠に与えられた全ての力。

 こんなものが欲しいから此処まで努力した訳じゃないのに、この男を勝手に死なせずにザマァ見ろと嗤ってやりたかっただけなのに。

 

 遂に自分の目の前で息を引き取った一誠に束は恐らく生まれて初めて本当の意味で泣いたのかもしれない。

 大嫌いな男の為に、ただ悔しくて、悲しくて……、

 

 普通ならここで終わる話なのかもしれない。

 

 だが彼女は――篠ノ之束はそんなタマの女ではなかった。

 

 

 

『造ろう。

美化もせず、風化もせず、1ゼプト足りとも違うことないアナタを造ってみせる。

どんな手段を使ってでも、それがどれ程に人の道から外れた外道な真似をしようとも、本当のアナタにもう一度会いに行くよ』

 

 

 彼女は決意したのだ、10咳分の1の誤差もない完全は、死の直前の記憶を完全に保持した彼を造り上げて復活させると。

 それは束が一誠に対して抱いた屈折しつくした気持ちの極致なのかもしれない。

 ある種一誠の病気を治す以上に不可能な所業なのかもしれない。

 

 けれど束はやり遂げた。

 一誠から継承したスキルと赤龍帝の名を完全に使いこなし、一誠がかつて出身世界からこの世界へと渡り歩いた様に様々な世界を渡り、様々な知識と技術を吸収し尽くし。

 

 とある世界では狂気の悪魔と揶揄され。

 とある世界では戦争を終わらせた女神と称えられ。

 

 あらゆる世界であらゆるものを吸収し、応用し、何千、何万の失敗を経た果てに束はやり遂げたのだ。

 

 

『ふ、ふふふ……くふふふ、あははははははははは!!!!』

 

『……? 束……ちゃま?』

 

『成功した! あはははは!! ザマァ見ろばーか!! これでお前は永久に私から逃げられないよ!!』

 

 

 肉体を創造し、魂を捩じ込んで叩き起こす。

 常人なら頭の可笑しい真似だと言われる行動をし続けた結果、時間は掛かったものの束は大嫌いな男を再びこの世に呼び覚ましたのだ。

 

 

『さぁてと、今後の予定だけど、取り敢えずアンタの病気はこの私が直してやった訳だけどさ? その事について何か言うべきだと思わない?』

 

『えっと、ホントに驚いたというか、とっくに俺なんか超えてるというか……ありがとう』

 

『(ゾクゾク)ひゃ……ぁ……ん♪ 良い、その困惑した顔、その私を餓鬼扱いしてた分際で追い抜かれて面食らった顔……堪らないよぉ……!』

 

『お、おう……。ど、ドライグ? この子どうしたん?』

 

『……自分の胸に聞け。

言っとくが、この小娘は――タバネは半端無いぞ色々と』

 

 

 その後は蘇生してブランクだらけの一誠をそれはそれは鍛え直すのを手伝ってあげながら、束は色んな場所へと連れ回した。

 

 

『な、なぁ、イチ坊やちーちゃんは?』

 

『あの二人ならもう居ないよ』

 

『え……』

 

『当然じゃん。アンタの復活に何年掛かったと思ってるの? あの二人にとってアンタはとっくの昔に死んだ間抜けなバカ野郎って認識なんだぜ?』

 

『そ、そうなんだ……。(深く聞くのはやめとこう……)』

 

 

 かつて家族の様に一緒だった者達は居ない。

 自分を知るのは目の前の束だけだと理解した一誠は、これ以上聞こうとすると機嫌が悪くなりそうなのを察知して大人しく束の後ろに付いて回る事にした。

 

 

『さてと、アンタが復活した今、ここに用も無いし、適当に誰も束さんを知らない世界か何かでアンタを飼おうかな』

 

『お、おう……』

 

『まあ、その前にその身体の機能がちゃんと同じかどうかを検査しないとね。

はい、出して?』

 

『へ?』

 

『『へ?』じゃねーよ? 出せよ?』

 

『な、何を?』

 

『惚ける気? あ、そうか、復活して早々私に欲情したからして欲しいってか? 相変わらずのド変態っぷりだねアンタは? ちぇ、嫌だけどしょうがないか』

 

『ちょ!? な、なんだよ!? お、俺のズボン脱がそうとする意味は!?』

 

『わかっててまだ惚ける訳? アンタの肉体の機能が変わってないかの検査をするんでしょうが? この束さんが嫌々手伝ってやるから出してよ? 精液を』

 

『ワッツ!?』

 

『あー嫌だ嫌だ、何でこの私がこんなド変態の為にこんな事……を……』

 

『あ、いや……』

 

『………………………………』

 

『あ、あのー……? やめとこ? な?』

 

『う、うっさいな。検査なんだからしょうがないのこれは。

ちょ、ちょっとビックリしただけで……』

 

『い、いやどう見ても無理してるって顔を……』

 

 

 その際、嫌いを連呼されながら色々されたりもした。

 色んな世界を渡る度に何度も干からびそうになった。

 でも大体決まって束は大嫌いだと良いながらとても嬉しそうにしていた。

 だから一誠は『この子の為に頑張ろ……』と第二の人生の目標を決めた。

 

 もっとも、若干まだ子供扱いしてる気はあるが。

 

 そして現在。

 様々な世界を渡り歩いた束が偶然出会った別世界の一夏達や、自分自身、そしてその自分自身がとても大切にしてる敵だった悪魔と出会った時、彼の人生は大きな転換を迎える事になった。

 

 

 

「あー……女の子と健全なお付き合いがしてぇ」

 

「また言ってらぁ、毎日それ言わないと死ぬ病気かお前は?」

 

「だーってさぁ、一誠が毎日リア充してるのを見てると思いたくもなるし言いたくもなるだろ?」

 

「まあ、それは確かに言えるよな。

今だって山田ちゃんや更識ちゃん達と一緒に弁当食っとるし」

 

「俺も誘われたけどさぁ……邪魔したら悪いじゃん?」

 

「そこは真面目なんだなお前」

 

 

 あれだけ憎んだ悪魔の眷属としての第二の人生。

 別世界の一夏達と別世界の自分自身と、束と共に日永に生きる。

 ある意味理想的な第二の人生を日之影誠という名を新たに生きていた。

 

 

「でもお前も篠ノ之としょっちゅう一緒じゃんか。

人の事言えなくねーか?」

 

「あー、それを言われると若干否定はできないな」

 

「否定しろし、ちょっとムカつくぞお前」

 

「あはは、可愛いからなぁ束ちゃまは」

 

 

 色々と苛烈だけど……と、級友にヘラヘラ笑いながら語る誠。

 リアスの眷属に二年前になり、彼女達が高校生になるという段階で当初は誠と束は通うつもりはなかった。

 が、折角だからと一夏達に言われた結果、一誠達と同学年という形で束共々入ったのだ。

 無論当初は一誠とそっくりで周りから双子とを疑われたが、従兄弟同士という事で納得してもらっている。

 

 

「おっと、噂をすれば束ちゃまからの呼び出しだ」

 

「何時も思うが、篠ノ之とどんな会話するんだ?」

 

「アイツが他の奴と喋ってる所なんてお前かオカルト研究部の人達ぐらいしか見たことねーし」

 

「ちょっと気難しいんだよ。

まあ、可愛いんだし許してやってくれよ?」

 

 

 もっぱら『部活動』以外では別行動が多く、基本的に誠は一誠達の学生生活の邪魔にならない様にと束とセットが多い―――というより、何かにつけて別クラスの束に呼び出されるのが多いというのが正しいのか。

 この時も束から一言メールで『来い』と送られたので、食べ掛けてたパンを口に押し込み、牛乳で流し込みながら席を立った誠は、級友達の束に対する評価にフォローしつつスタコラサッサと束が指定してきた場所へと急ぐのだった。

 

 

「にしても、元からリアス部長さん一筋だと公言してたらしい一誠が何故にああもモテモテなのだろうか……。イチ坊の場合もそうだが……うーん、不思議だ」

 

 

 途中、別世界の自分と一夏のモテっぷりを考察しながら辿り着いたのは、旧校舎の使われてない教室だった。

 奇しくもそこはかつてギャスパー・ヴラディなるハーフ吸血鬼が封印されていた部屋と同じ場所だったりするが、生憎この世界のギャスパーは封印されてもないし、ストーカー悪魔のソーナの眷属として同じくストーカー入りしてるので、あんまり関係ない話だったりするが。

 

 

「ノックしてもしもーし」

 

 

 そんなこんなでその空き部屋へと足を踏み入れた誠を待ち構えていたのは、あんまり似合ってないと正直思う駒王学園の女子制服を着て行儀悪く机に腰掛けて足を組んでいた束だった。

 

 

「二秒遅刻。ま、心の広い束さんだから許してあげるけど」

 

「すまん。で、どうしたんだよ急に?」

 

「別に。教室に居ると鬱陶しい金髪にジロジロ見られるのがウザいから抜け出して来ただけ」

 

「金髪? ………あぁ、部長さんの元眷属の方か。

今一瞬デュノアちゃんの事だと思ったぜ」

 

 

 ストーカー入りしてる元眷属の金髪の視線が単にウザいから抜け出し、時間まで暇だから呼び出したと語る束に納得した誠は深刻そうに頷く―――フリをしながら足を組んでる影響で太腿まで見えてる束の脚をチラチラ見ていた。

 

 

「向こうの実家の力を駆使して無理矢理入って来たんだっけ? どうも連中は部長さんや一誠の出身世界の悪魔共で記憶すら持ってるらしいが、ここまで来ると最早寒気のするストーカーだな。

よくまぁ部長さんも一誠も我慢してるよ。俺なら刹那で殺しちまってるよ――――今は無理だけど」

 

 

 電気はついてない為、少し薄暗くて肌寒さを感じる空き教室の椅子を適当に拝借し、机の上に座ってる束の前一メートル程前に座る誠が、変に真面目っぽい事を言ってるけど、さっきからチラチラと視線が定まってない。

 

 

「だからこそ私が色々と工作して連中の実家やら冥界のテレビ局や他の大きな貴族系列の家にストーカー連中の所業をリークしてやってるんだけどね。

お陰で前より少しは直接的な真似をしてこなくなったでしょ?」

 

「確かに部長さん達も言ってたな。

俺とキミが加入する前はそれはもうしつこかったらしいしな。

何でも部長さんはお風呂に入ったら連中が全裸で侵入して飛び掛かって来たとか……」

 

「レズにでも目覚めたのかは知らないけど、ウザい事には変わりないね」

 

 

 チラチラと、時おりスカートの奥が見えそうで見えない事に歯痒さを感じながらもつい見てしまう誠だが、束はそんな視線にとっくに気付いている。

 そして気付いてる上で敢えて泳がせていた……何故か?

 

 

(あれだけ餓鬼扱いしてたのが、ある程度隠さずにこの束さんに欲情してるや。ふふ……)

 

 自分を子供扱いせず、異性としての認識を持ち始めてる事が堪らない快感だからだ。

 何十と逆レ◯プもしてやれば嫌でもそうなってしまうのも無理は無いのだが、生憎束は一度誠が死ぬ前から自分に欲情してたと言い張りたいので、そこの所は考慮してないようだ。

 

 

「ま、イザとなりゃあ俺達総出で黙らせる事も可能なんだし、辛気臭い話も止めにして何か別の事でも時間までしようぜ?」

 

 

 とにかく束は誠が自分にベタ惚れしてなければ気が済まない的な思考回路な為、チラチラと自分の脚に目が行ってる事自体に不快感は無い。 口では変態と罵るもののだ。

 

 だがちょっと許せない部分もあるにはある。

 例えばだ……

 

 

「そうだね、じゃあさっきアンタがクラスメートに、『あー……女の子と健全なお付き合いがしてぇ』って言ってた事に関しての詳しい話を聞かせてよ?」

 

「な!? な、何で束ちゃまが知ってるんだよ……?」

 

「散々言ったでしょう? アンタのその単純な思考回路なんか私に掛かれば何でも見抜けるって? で、健全な女の子って誰の事かな?」

 

 

 これも口に出さないが。

 最近他の女に対して昔からある軽い性格が出てるのが若干束は許せない。

 リアスの兵士に転生した時もそうだった、元の世界でも全部が好みだと言わしめた山田真耶に対してナンパするし、それが無理だとわかれば街に出てナンパして玉砕するし。

 どうせ無理なのは解りきってるとはいえ、束的には非常に気に食わない行動であり、今ニコニコしながら言及すれば、誠はこれでもかとギクッとした顔をしていた。

 

 

「誰だったかな~? 脳の病気で死んだアンタを苦労して復活させたのは?」

 

「束ちゃまッス……」

 

「そんな恩人を放置で、昔みたいに犬の発情期よろしくに街でナンパ? 健全な女の子とお付き合い? へー? 面白いくらい良い度胸じゃないの?」

 

「…………」

 

 

 言えば言うほど罰の悪そうな顔をする。

 それも昔と違って、気を使うとかいう意味ではなく、単純に気まずそうな顔をしているのが、束にとって堪らなくゾクゾクするものだった。

 

 

「ご、ごめんなさい。あの、だって……一誠があまりにもモテモテだからつい愚痴感覚で……」

 

「彼の場合はアンタと違ってちゃんと最初からリアスちゃん一筋だって言い切ってるし、現に今まで悪戯に手を出してなんかないじゃん。

でもアンタの場合は違うよね? もし迫られたら拒否しないよね?」

 

「う……」

 

 

 図星を突かれた顔をする誠にますます束は背筋がゾクゾクする快感を得ると、トドメを刺した。

 

 

「あーぁ、結局こんな奴なのは分かりきってたけど、そのつもりのままだったらリアスちゃん達にアンタを頼んで私だけ何時か抜けて別の世界にでも行こうかなー」

 

「!」

 

 

 無論易々と苦労して復活させた誠を手放す気は無いが、生憎その本心だけは悟らせてないのでこの台詞は実に効果覿面だった。

 

 

「す、すまん! 悪かった! ごめんなさい!」

 

 

 顔を青くした誠がこれでもかというくらいに見事な土下座をしながら謝罪する。

 誠自身も実はわかってるのだ、束に捨てられたら完全にアウトだって事を。

 だから謝るのだけど……。

 

 

「っ……」

 

 

 束はそんな誠の土下座を前に身体を震わせ、完全に悦に入っていた。

 

 

「えぇ? その胡散臭い台詞は何度も聞いた気がするけどねー?」

 

 

 あの思い通りにならなかった男が自分にすがっている。

 あの子供扱いしてきた男が自分を頼りにしている。

 その現実が束を堪らない気持ちにさせ、ついつい意地悪な事を言うと、今度は半泣きな顔で突然顔を上げて立ち上がった誠が机から降りてた束の両肩に手を起きながら揺さぶる。

 

 

「ほぼ冗談ってか、ほら、顔が似てる一誠との違いを明確に周囲に知らしめる為だからな!? 別に本気じゃないぞ!?」

 

 泣きそうな顔で自分より身長の低い女性の肩を掴んで懇願している姿が、なんだか別れ話をされて必死によりを戻そうとしている甲斐性なしの旦那みたいであり、誠はそこの所に対する自覚は無いが、束にしてみればそんな台詞をまさかこの『大嫌い』な男からされる日が来ることになるとは……と内心勝利した気分で堪らなかった。

 

 

「キミに捨てられたら俺はどうして良いのかわからないんだよ……!」

 

「…………」

 

『い、一誠……』

 

 

 そんな誠の姿を束の中から見ていたもう一人のドライグはといえば、束に調教されきってしまった先代の姿にただただ微妙すぎる気持ちにさせられてしまうのだったとか。

 そして束も束でまた――

 

 

「はぁ、しょうがないなぁ。私が居ないと本当にアンタは駄目なんだから!」

 

 

 そんな誠をため息混じりで……心底仕方なく嫌々といった感じな声と共にギュッと抱き寄せるのだ。

 

 

「私無しじゃ生きられないだなんて、なんとも情けない。

あーあ、仕方ないから見捨てないではあげるさ、感謝しなさいよね?」

 

「おう……」

 

「しかも、こうやって私のおっぱいに顔を突っ込ませて抱き締めてあげてる御褒美までされちゃってさあ? 本当にどうしようも無いくらいの変態駄目男なんだから……」

 

「ごめん……ごめん……」

 

「謝るくらいなら少しはマシな男にでもなって貰いたいよね…………ふ、ふふふ♪」

 

 

 駄目男だなんだと罵倒してる割りにはしっかりと誠を胸で抱き締め、頬を染めながら笑ってる。

 つまり、割りと束も最上級の拗らせ時代と比べたら誠の復活により大分まともに戻ってはいるが、別の意味で駄目な女になっていた。

 

 というか、典型的な駄目男と駄目女カップルみたいになっていた。

 

 

「あ、予鈴が鳴ったけど……しょうがないからアンタの為にサボって暫くこうしてあげようかな? 本当は嫌だけど……ふふふ」

 

「ありがと……」

 

「本当にしょうもない男……。仕方ないから私が居てあげるよ……じゃないともっとアンタは駄目な男になるからね?」

 

「うん……」

 

 

 まあ、本人達がそれで幸せなら周りに致命的な迷惑を掛けてない分はまだマシなのかもしれないけど。

 

 

 篠ノ之束

 神器・赤龍帝の籠手

 能力・婚厄者(インフィニット・ラヴ)(無神臓融合)

 

 

終わり




補足

誠と名を変えた方の一誠はスキルもドライグの力も束ちゃまに託してる為に、眷属内では最弱候補です。

もっとも、彼等基準でですが。


その2
復活に成功した結果、クレイジーさは薄れたものの、変な意味で互いに駄目というか残念な感じになっちまいましたとさ。

ただし、本人達はそれなりに幸せらしいので問題ないようだけど。

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