色々なIF集   作:超人類DX

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無駄にポジティブなストーカーって厄介よね


其々の……

 篠ノ之箒にとって、姉とはかつて袂を別った存在だ。

 後に転生者という概念を知る事になり、一夏から家族や友人を奪った男こそがその転生者であり、一夏の姉である千冬と自身の姉たる束までもがその男に与した時点で最早箒にとって姉とは関わるべき存在では無いという結論に至らせたのだ。

 

 それに加えて、箒は常に『一夏とは違って私はしつこい程に恨みを忘れない粘着質な奴』と自称しているので、かつてまだ何の力も持たず、奪われていくだけだった一夏をゴミを見るような目をした束の事は未来永劫許せなかった。

 

 

「ソラァ!!」

 

「……!」

 

 

 そんな事情もあって、箒は姉との縁を完全に切り捨ていた。

 だが敬愛する血の繋がらぬ姉と兄の故郷に近い世界にて生まれ変わり、かつてと変わらぬ繋がりを再び育み始めた時、その姉は再臨した。

 自分達の生きた世界とは更に異なる世界で生きた……別世界の兄に全てを託された正当な龍帝の後継者という肩書きを持った姉が……。

 

 

「行くぜマコ兄!」

 

「うぉっ!?」

 

 

 転生者に与した姉とは違い、一見すれば真っ当に見える。

 だが実情はあらゆる意味で箒の出身世界の姉たる束を超越しており、特筆すべきはその執念の強さだった。

 

 

「何時見てもいっくんは強いねぇ」

 

「リアス姉さんとイッセー兄さんに鍛えられましたから。

特に一夏はリアス姉さんに近い成長をしています」

 

「みたいだね、戦い方から持っているモノまで彼女に似ているもんね。

で、逆に箒ちゃんは――」

 

「勿論、イッセー兄さんです。

貴女と同じですよ束姉さん……」

 

「フッ、皮肉だね。

私たちが生きた世界の貴女は死ぬまでアイツを恨み続けたのに、別世界じゃアイツに近い成長をしているんだもん」

 

 

 今一夏相手に追い込まれている、別世界のイッセーことマコトに挫折を叩き込まれ、その悔しさが執念となり、やがて才能がゼロとまで言われたその摂理を真っ向から捩じ伏せ、開花させた。

 挙げ句の果てには一度病気で死んだマコトを寸分違わぬ状態で造り上げ、復活までさせた。

 

 その病的なまでの執念は箒達はおろか、リアスやイッセーにも無い概念であり、その執念の強さがそのまま束の力へとなっている。

 

 

「貰ったぜ!!」

 

「残念、後ろだぜ!!」

 

「なっ――くべ!?」

 

 

 別世界の姉のそんな背景をかつて知った箒は、今もフェイントに引っ掛かって背中を一夏に蹴られて地面を鯱ポーズで転がるマコトをジーっと見ている束に対して、あらゆる意味を含めて畏怖の念を抱いている。

 

 

「勝負アリだね。

まぁ、今のアイツならこんなものでしょ」

 

 

 一度その力を知りたく、勝負を挑んだ事もあった。

 イッセーの影響を強く受け、イッセーと同じ様な成長と覚醒を果たした箒や、リアスと同じ成長をした一夏と共に掛かっても歯牙にもかけぬ程の力。

 元々天然の規格外とまで言われていた天才が、その方向性の正しさはともかくとして、徹底的な努力すれば怪物へと昇華するのは当たり前だったと思い知らさせたのはまだ記憶に新しい。

 

 

「くぇ……やっぱり強いなイチ坊。完敗だぜ」

 

「本来の強さのマコ兄だったら多分負けてたぜ俺は」

 

「どうかな、当時から考え方や捉え方がロートルだったからなぁ俺は」

 

 

 執念で開花させた才能にイッセーと同じ進化の異常性を持っていたマコトの才を取り込み、更には龍帝の力までほぼ間違いなく使いこなす。

 その力は最早この世界の脅威となる存在を前にしても対応可能なレベルとなっている。

 

 

「いてて、腰捻ったぜ。悪い束ちゃま、手も足も出せんかったわ」

 

「最初から期待してないから安心していいよ」

 

「でっすよねー……うはははー」

 

「では次は私が……。束姉さん、お願いします」

 

「お任せあれだよ箒ちゃん。

そら、負け犬はそこで黙って見てなよ?」

 

「うっす」

 

「なんか悪いマコ兄……」

 

「良いよ別に。

所謂俺と束ちゃまの間のじゃれ合いみたいなもんだし」

 

 

 リアスとイッセーは下手したら自分達よりも上だと言っていた。

 それに加えて束とマコトにはあって自分達には無いものも持っていると。

 

 

「フォローすると、アイツは確かに束さんに全部押し付けたあげく弱体化してるけど、ひとつだけ負けてない要素があるんだよ。

リアスちゃんや彼にすらにもね」

 

「……。解ってます、それは『手足が吹き飛ばされようが折れぬ闘志』ですよね?」

 

「半分は正解だけど、半分は外れだね。

確かにこと闘争においてのアイツはゴキブリ並の生命力で何度も立ち上がるタイプだけど、それだけじゃあ無いよ。

アイツは一度完全に敵と見なした相手にはどんな実力の差があろうと絶対にその相手を殺そうとする殺意と執念があるのさ。

……癪な事にその執念を私はアイツに教えられたのさ」

 

「………なるほど、解る気はしますよ!!」

 

 

 執念と殺意。

 敵を必ず、どんな手を使ってでも殺そうとする意思と行動力。

 かつて戦う事よりも生きる事を選んだリアスとイッセーには持ち得ない唯一勝るマコトの要素であり、一夏や箒達には無いモノ。

 

 

「これは単に個人的な印象だし、外様の私達が一々ほざく事でも無いけど、リアスちゃんと彼は少し甘い部分があるよ。

もしアイツが全盛期のままで今の二人の立場に立たされていたら、有無を言わせずにあの鬱陶しい連中を殺しに行ってたと思う」

 

「それは……二人は元々静かに暮らしたいだけで――」

 

「解ってるよ。狂暴な一匹狼が気にくわない群れを食い殺し回った所で待ってるのは数の暴力による排除だもん。

アイツはね、普段はヘラヘラしててドスケベ顔晒してるけど、殺る時は徹底的過ぎるんだよ」

 

「………なんだかんだ褒めてますよねマコトさんを」

 

「……。ま、この世の中でアイツを根元から理解して否定しないでやれるのはこの束さんだけだからね」

 

 

 生きる事を選んだイッセー

 地獄に落ちようとも復讐する事を選んだイッセー

 

 どちらが正しくてどちらが間違えてるかなどはわからないけど、二人の違いはまさにその一点だ。

 

 

「疾ッ!!」

 

「攻撃の意思がまだ弱いよ箒ちゃん、それじゃあ仮に当たろうとも相手の精神までは折れないよ!」

 

「くっ……!」

 

 

 左手のみで騎士として再び剣を持った箒の斬撃を捌き続ける束。

 

 

「やっぱ強いな束さん……」

 

「まーな、現役の頃の俺をとっくに越えてる子だからよ。

いやぁ、仮に喧嘩になったら即ぶちのめされちゃうよ俺は」

 

「そんな束さんをギリギリまでおちょくれるマコ兄が特殊なだけだと思うが……」

 

「ま、付き合いは長いからねー」

 

 

 端から見たらきっとこの二人はイカれてる。

 狂ってるとすら思われるだろう。

 だが、その狂気に近い執念こそが……。

 

 

「ちょっと見せてあげるよ、アイツがいっつもふざけて使ってた技……」

 

『Boost!!』

 

「龍拳・爆発!!」

 

「うわっ!?」

 

 

 この二人の根っこなのかもしれない。

 

 

「赤い龍が召喚されたんだけど……」

 

「おー、懐かしいなぁ。ラウラ師匠を思い出すぜ」

 

「ら、ラウラ師匠? それって気のせいじゃなければラウラ・ボーデヴィッヒの事だよな? 師匠ってなんのことだ?」

 

「んぁ? そういやあんま話してなかったな。

俺と束ちゃまが居た世界の話なんだが、ISの技術を俺に教えてくれたのがラウラ師匠だったんだよ」

 

「そ、そうなのか。

俺達はあんまり関わりたくない相手だったからちょっと意外だわ」

 

「良い子だったぜ? 俺が当時あと10年若かったら全力で口説いてた――かもぉぉっ!?!?」

 

「マコ兄ィィィッ!? マコ兄がサイ○イマンに自爆されて死んだヤ○チャみたいになっちまった!」

 

 

 

 

 

「ごっめーん、手が滑っちゃったー」

 

「ね、姉さん……」

 

「ね? 彼と違ってアイツは万年発情犬だから気を付けた方が良いぜ?」

 

「は、はぁ……」

 

 

 

 

 

 

 

 現リアス眷属の誰と戦っても普通に負けてしまうということで、現状最弱の名を欲しいままにしているマコト。

 それこそ戦闘に不向き気味な性格である真耶にすら素手での試合で負けてしまうのだから、現役時代からの弱体化は著しいと言わざるを得ないだろう。

 

 

「あっははー、真耶てんてーに負けちった~」

 

 

 もっとも、真耶相手だと最弱の癖に加減気味に戦い、挙げ句の果てに負けたらニヘラニヘラと寧ろ嬉しそうにしてるので、微妙に怪しいところもあるが。

 なので大体この後束にめっちゃ怒られるというのがテンプレ行事としてある訳で……。

 

 

「この学園を使って、三大勢力のトップ達が集まって会談を行うらしいわ」

 

 

 まあ、そんな事は置いておいて、現在リアスは来る行事を前に眷属達を集結させ、説明をしていた。

 無論内容は、先日の騒動により必要となってしまった、悪魔・天使・堕天使の各トップ達が集まって行われる会談についてだ。

 

 

「行われる事自体は予想してたし、一応内容も先日の騒動の件だろうし、その当事者たる我々が改めて事情聴取される為に出席しなければならないのも覚悟はしていたから別に問題はない。

ただ……」

 

「? ただ?」

 

 

 出席させられる事を予め通達されていたので、そこは問題じゃない。

 問題なのは、リアスですら言い淀みたくもなるある出来事をしなければならないのだ。

 

 

「当日の会談は出席しなければならない他に、トップ達――特に魔王様の護衛も兼ねているのよ。

知っての通り、私の兄であるサーゼクス・ルシファーとソーナ・シトリーの姉であるセラフォルー・レヴィアタンは眷属を持たない魔王なの。

だからその代わりに我々が護衛をする―――までは良いのよ、問題はその護衛任務にソーナ・シトリー達との協力をしなければならないのだわ」

 

『………………』

 

 

 ソーナ・シトリー………あの、ストーカー連中との連携を言い渡されたと、心底嫌そうな顔で話すリアスに、眷属全員の表情が同じように嫌そうなものへと変化した。

 

 

「リアス先生、我々だけで必ず護衛して見せると説明して彼女達を外すことは無理なのでしょうか?」

 

「護衛対象が魔王様二人という事もあるから、それは無理だと言われたわ。

もっとも、上層部も我々の気持ちをある程度察している様で、『かなり嫌かもしれないけど我慢してくれ』と言ってはいたけどね……」

 

「上層部にすら問題視されてる時点でどうしようもないわね……」

 

 

 プライベートというか、他人が居ない時は基本的に先生と呼ぶ刀奈や虚や本音達の声にリアスは複雑に笑う。

 

 

「それで先生? もしかしなくてもこれからその護衛任務についての話し合いをしようと向こうが言ってきて押し掛けてくる訳ですよね?」

 

「その通りよ刀奈。

……彼女達は紛いなりにも実力はあるから」

 

「実にストレスの溜まりそうな時間になりそうだな……」

 

 

 ボソッと言うイッセーの言葉に全員が無言で頷いた。

 本当に、心の底から関わりたくない相手と仕事とはいえ暫く共に居なければならない。

 昨今の若者ならさっさと転職も考えたくなる環境を前に、リアス達全員は大きく盛大にため息を吐いたのだった。

 

 

「ま、匙だけが良心と考えよーぜ?」

 

 

 マコトの言うとおり、元士郎だけがまともなので。

 

 

 

 そしてその時は来てしまう。

 予め打ち合わせする場を設ける話はしてあった――というか、その理由に託つけて向こうが一方的に約束してきたので、時間と共にストーカー連中が待っていましたとばかりにオカルト研究部の部室に雪崩れ込んできたのだ。

 

 

「来たわよリアス! さぁ、此度の任務の話し合いをじっくりしましょう!」

 

『……………』

 

 

 心底にっこりしたソーナ達の言葉に、早速殺意が芽生え始めたのは意外に短気なイッセーだった。

 

 

「落ち着けよ兄弟。

外様の俺ですら今のはイラッとしたけど、ぶちのめすタイミングじゃないだろ?」

 

「わかってる、ありがとう……」

 

 

 一瞬本気でその顔面をぶち壊してやろうと考えていたイッセーの肩に触れて抑えるのは、それ以上に短気だったマコトだった。

 とはいえ、馴れ馴れしく刀奈達眷属達をガン無視してこぞってリアスだリアスだと寄り付いていく姿は見ていて確かに蹴りでも入れてやりたくなる気色悪さなのには間違いない。

 

 

「ソーナ・シトリー様、どうか落ち着いてくださるかしら? そんなに皆様方で我々の王に寄られると話し合いにもなりませんでしょう?」

 

「む……」

 

 

 そんなソーナ達を張り付けた様な笑顔で止めに入ったのは、現在間違いなくリアスの右腕となっている更識刀奈であり、暗部時代の本心を悟らせない猫のような性格を前面に押し出しながら、リアスとの距離を離させると、ソーナは親の仇を見るような鋭い目付きで刀奈を睨み付けた。

 

 

「貴女に言われなくても解ってるわよ」

 

「結構。ではお席をご用意しましたのでそちらにお座りくださいな?」

 

 

 そんなソーナの殺気を軽々と笑みを浮かべながら受け流した刀奈は、然り気無く物理的にもリアスから距離の離れた箇所に設置させた椅子に向かって持っていた畳んだ扇子の先で差して座れと言う。

 何気に虚がノリノリで椅子を並べて同じように『お座りください』と言ってる。

 

 

「さて、落ち着いた所で今回の会談におけるお二人の魔王様の護衛任務についてですが……」

 

 

 アイコンタクトで刀奈にお礼の気持ちを送ったリアスが改めて、不満げに椅子に座ってこっちをガン見してくるソーナや元眷属達に対して他人行儀全開の敬語口調で話を切り出し始めると、現眷属達たる刀奈達は全員がリアスの後ろに控える様に整列して立つ。

 その中にはマコトと束も入っている訳だが、こういう時の空気は割りと読めるらしい。

 

 

「上層部からのお達しの通り、貴女方との連携をする事になっています。

つきましては――」

 

「その畏まった口調は必要ないのよリアス?」

 

「当日会談が行われる部屋の外部と内部にそれぞれ配置すべきと思います。

もっとも、我々は先日の事件の当事者なので必然的に内部の護衛になるかと思いますので、貴女方に外部を任せたいと思っていますが……」

 

「ねぇ、どうして無視するの? 私や貴女の眷属だった彼女達だってそんなのは貴女じゃないって解ってるのよ?」

 

「リアス、どうかお話をする機会を……!」

 

「リアス部長! お願いですから昔みたいに……!」

 

「僕達が間違えていました! だからもう間違えません!」

 

「やり直しをさせてください!」

 

「あの、話だけでも聞いてあげられないのか?」

 

「私達は貴女の事は知らなかったけど、あの男に騙されていたのは本当なのよ?」

 

「…………………………」

 

 

 案の定、そっちの話にしてこようとしてくるソーナ達にリアスは頭が痛くなってきたし、ソーナ達の横で見ていた元士郎に至っては何の話をしてるのかが解らないものの、全然違う話を一方的にしてこようとしてるのだけは解ってるのか、少し引いていた。

 

 

「二度も言わせないで頂けるかしら皆さん? 今は個人的な話ではなく任務の話でしょう? 私達の王もそんな話をする為に貴女方をここに通した訳ではないの」

 

「黙りなさい! 私の模倣の癖に!!」

 

「……はい?」

 

 

 目に余りすぎる状況に、刀奈が二度目になる忠告をした時だった。

 突然ヒステリックにソーナが怒鳴りだしたので思わずポカンとしてしまったのだ。

 

 

「模倣? えーっと、何の事かしら?」

 

「貴女は私の扱う魔力性質と似てるのよ! しかも戦い方までもがね!」

 

「えぇ……?」

 

 

 自分のパクりだと宣うソーナに、今度こそ刀奈は困惑してしまったと同時にちょっとだけ自己嫌悪した。

 よりにもよってコレにパクり疑惑を持たれてるだなんて刀奈にしてみれば最悪にも程があるのだ。

 

 

「先程から勝手な事をベラベラと仰ってくれている様ですがソーナ・シトリー。

貴女と私の自慢の女王(クイーン)をいっしょくたにされては困りますわね。ハッキリ言えば貴女と刀奈はまるっきり違うし、他の子達だって貴女達とは違う」

 

 

 だがそんな刀奈の気持ちを察したリアスがハッキリと否定する。

 そもそも刀奈の場合はかつての世界で所持していたISの性質がそのまま彼女の魔力性質として備わっているというだけの話であって、性質は確かに水系統ではあるが、その汎用性に関してはソーナを上回ってすらいるのだ。

 それに彼女にはリアスとイッセーの背を追いかける事で覚醒した、ソーナには一切存在しないスキルまであるのだから。

 

 

「やはり根本的に我々と貴女達は相容れない様ですわね」

 

「ち、違うわ! 少なくとも私達はリアスと相容れないだなんて思ってない!」

 

「そうですか、私は思ってますけどね。

話は聞かない。一方的に願望を押し付けてくる。何時まで経っても止めろと言ってる事を続ける。ハッキリ言って鬱陶しいんですよ貴女方は」

 

『………!!!!』

 

 

 何時になく冷徹なリアスの声にソーナと元眷属達はショックで固まってしまった。

 

 

「今決めましたわ、護衛対象は我々がサーゼクス・ルシファーを、貴女方はセラフォルー・レヴィアタン様を其々護衛すれば事足りるでしょう。

ではこれにて話し合いは終わりです、皆、この方々を丁重にお見送りしなさい?」

 

『アイアイサー』

 

「! ま、待って! それなら連携の意味が無いわ! せめて護衛するなら一緒に……」

 

「嫌です。

貴女達の近くに居たら何をされるかわかったものじゃあありませんので」

 

 

 もう中途半端な対応はやめだ。

 徹底的に拒絶する意思を示し始めたリアスはまだ帰ろうとしない連中を無理矢理追い出す為に全身から目視できる程の強大な魔力を放出し始める。

 

 

「それとも、無理にでも叩き出されたいのでしょうか?」

 

『っ!?』

 

 

 その力はかつて弱かったリアスとは似ても似つかない重圧を感じる強い魔力であり、リアスの全身から放出された魔力は形を変え、髑髏の上半身の様な姿となって覆われている。

 

 

「お帰りの扉はあちらですわ、ソーナ・シトリーさんとその眷属の皆様?」

 

『………』

 

 

 異質な魔力の形にソーナ達はそのまま圧される形で部屋を出た。

 いや、完全に追い出された。

 

 

「………」

 

「そ、ソーナ様、リアスのあの力は見たことが……」

 

「わ、わかってるわ。

リアスだって強くなってるんだから、私達のまだ知らない実力だって事よ。

くっ……それにしてもあの更識刀奈といい、他の眷属達といい、私達を馬鹿にした目で見て……!」

 

 

 しかしそれでも無駄に執念が強いソーナ達は、リアスにでは無くその周囲に対して恨み節をぶつけていた。

 

 

「あのシャルロット・デュノアって子だって僕と被ってると思わないかい? 金髪だし……」

 

「確かに。

ひょっとしたらリアス部長は言葉ではああ言ってるけど、無意識の内に私達を求めているのでは……?」

 

「!? そ、そうよ! 更識刀奈が私と被ってるのもそれが理由なのよ! リアスもきっと無意識に私達とまた一緒になりたいと思ってる筈よ!」

 

(絶対違うだろ。何なんだコイツら……。てか、昔って何時の話だよ……)

 

 

 しかも無駄に変な方向性のポジティブさを見せ始める始末であり、何も知らない元士郎はげんなりするのだった。

 ちなみにこの直後、ソーナが姉のセラフォルーに泣き付いたせいで、セラフォルーがサーゼクスに文句を言い出すという話があったのだが……まあ、リアス達には知らぬ話だった。

 

 

 

そして――

 

 

 

「サーゼクス、その、そろそろ結婚とかはしないのか?」

 

「? 突然なんですか父上?」

 

「いやな? ヴェネラナとも話したのだが、グレイフィアさんは明らかにお前に想いを寄せていると思って……」

 

「彼女が? そうですか、ですが私は彼女に対してそんな感情は一切ございません。

第一、眷属にしたのですら周囲が無責任に私に押し付けたせいでしょう? 正直私は眷属なんて要らないと思ってますので」

 

「そ、そうか……うむ、お前がそう言うのなら仕方ないが、そろそろ跡取りをだな。

リアスもどうやら自分の眷属の転生悪魔と添い遂げるつもりらしいし……」

 

「素晴らしい話でしょう。

最早純血を保持する時代じゃあ無くなるんです、無理に好きでも無い純血同士をくっつけるのもやめるべきですよ」

 

 

 魔王は裏で妹の自由の為に奮闘していた。

 

 

「それは勿論わかっている。

リアスも大分彼――赤龍帝の彼を信用し、彼もまたリアスを本気で守り続けているのだからな……」

 

「ならそのまま見守るべきでしょう? 跡取りが欲しいのなら最悪私が純血の悪魔と見合いでもしてあげますよ。それで文句は無いはずだ。ただし、あのグレイフィア・ルキフグスとだけは嫌ですけど」

 

「な、何がそんなに嫌なのだ? 献身的で素敵な女性――」

 

「ぶはっ! け、献身的? くくっ、あぁ、そう見えますよね? くくくっ!!」

 

「さ、サーゼクス……?」

 

 

 あくまで正体は明かさず、裏からリアス達の未来を守る為に動く。

 許しを乞う資格は己に無いのだから、せめて守る事だけはしてみせる。

 

 父のグレイフィアに対する評価に思わず笑ってしまったサーゼクスの意思は強かった。

 

 

「あー申し訳ありません。思わず笑ってしまって……」

 

「いや良いが……。実を言うと私とヴェネラナに彼女が相談に来るものだから……」

 

「チッ、外堀を埋めれば何とでもなると思ってるのか……?」

 

「え?」

 

「いえ、何でもありません。

ともかく、私は彼女に何を思うことはありませんし、結婚だなんて言語道断。

するなら別の女性にしますよ」

 

 

 実は別世界での娘も居るし、その娘が心底懐いてる悪魔じゃない女性も居るけど……と内心思うサーゼクスは、困惑する父を背に部屋を出る。

 

 

「僕はともかく、ミリキャスにした事を無かったことにしようとするキミとだなんて二度

とごめんだよ」

 

 

 いくら外堀を無駄に埋めようが、いくら反省してるというアクションをしてようが、ミリキャスにした事がある限り、到底許せるものではない。

 ましてやミリキャスはもうグレイフィアという実の母に対して明確なトラウマと恐怖を抱いているのだから。

 

 

「それにしても跡取りの話をしてくるとはね。

僕自身結婚なんてしたくなんてもう無いし、どうやってこの先誤魔化そうか……。

リアスに矛先を向かわせない為にも、ちゃんと対策を考えないと……」

 

 

 取り敢えずグレイフィアとの結婚は有り得ないと決めているサーゼクスは、近日控える三大勢力会談の報告を一応する為に戻った実家のグレモリー家の自室に戻る最中、ブツブツ言いながら考える。

 

 

「今更他の知らない女性に魅力なんて感じないしなぁ……」

 

 

 あまりにも安心院なじみと共に居すぎたせいか、目が完全に肥えすぎてしまっていたサーゼクスは、彼女を基準に考えてしまうせいで、結構求める女性像が贅沢になってしまっていた。

 しかも娘のミリキャスの事も考えると、今のサーゼクスの理想とする女性像を仮に考えるとするなら。

 

 

 安心院なじみより魅力的に思える。

 

 ミリキャスの事を受け入れ、ミリキャスをちゃんと愛するか。

 

 

 この二つだった。

 どちらかが欠けてる時点で有り得ないと思ってる時点でもう一生結婚なんて無理だと言ってる様なものなのは間違いない。

 しかもましてやだ……。

 

 

「サーゼクス様」

 

「……。僕の部屋の前で何をしてるんだい? 掃除かい?」

 

「いえ、お部屋に居るのかと思いまして……眷属ですから」

 

「そう。

なら別に貴女に命じたい事もないから下がってくれて結構だし、誰も部屋には入らないでくれ。

一人になりたいからね」

 

「………………。ジオティクス様とはどんなお話を?」

 

「やっぱりキミが言ったんだな? お陰で跡取りをどうだとかキミと結婚がどうだとか言ってたよ。

けどね、僕はキミと結婚なんて二度としないよ。キミがあの男の元に下ったばかりじゃなく、ミリキャスにした事を忘れたとは絶対に言わせない」

 

「あ、アレは……当時あの男の放つ魔力の様なものに意思を……」

 

「どうかな、僕の予想だとその魔力の様な魅力とやらは意思があれば簡単にはね除けられると思ったけど? 現に天使のガブリエルなんかははね除けたしね。その理由はわかるかい?」

 

「………」

 

「彼女には愛した者が居たからだよ。

その想いがはね除けさせたんだ。つまりキミは僕もミリキャスも愛してすら居なかったって事になる。

そんな相手に、ましてや僕と同じ記憶を持つキミと結婚をもう一度する? 冗談はやめてくれ、そんな事になるなら僕はこの冥界を捨てて逃亡するよ」

 

「で、ですから! 今度は間違えない為に! それにミリキャスがこのままでは生まれません!」

 

「また同じような存在が現れて同じように生まれたミリキャスがお前に捨てられる苦痛を与えられるなら、生まれない方があの子の為にも良いだろ?」

 

「っ!! 今度は間違えないと言ってます!!」

 

「口では何とでも言える。それほどの信頼をキミは裏切ったんだよグレイフィア・ルキフグス」

 

 

 かつて転生者に殺された堕天使を最期まで愛し続けた天使という例を知っている以上、何を言おうがサーゼクスはグレイフィアを信じられない。

 明確に拒絶の言葉を送ったサーゼクスは、ショックを受けるグレイフィアを見ること無くそのまま部屋の扉を閉めて丁寧に鍵まで掛けると、ふぅと溜まりにたまったストレスを吐き出せて少しスッキリした顔をしていた。

 

 そう、グレイフィアはまだ知らないのだ。

 かつて自ら疎んじ、転生者に差し出そうとすらした娘が存在している事を……。

 

 

「あんなハッキリ言っちゃって良かったのかい?」

 

「寧ろ今まで言わないだけ感謝して欲しいよ。

けど、勝手に余計な外堀を埋めようとしてくる以上、こっちもハッキリ言ってやらないとね」

 

「……………」

 

 

 その娘が今、部屋の外に居た自分の気配を感じて怯えていた事も知らない。

 サーゼクスが何よりも許せないのは、娘を自分の快楽の為に転生者に売った事なのだ。

 

 

「大丈夫だよミリキャス、彼女は追い返したし、今はもう部屋から離れてる」

 

「う……うん……」

 

「キミを出待ちしようと部屋の前で待ち構えてたみたいでね。

ずっと怯えてたよこの子は」

 

「キミが居てくれたお陰である程度は大丈夫だったみたいだね。ありがとう」

 

「安心院さんと呼ばれたこの僕が、軽く安心させる程度しかか出来ないのは軽く歯痒かったけどね」

 

「そんな事無い……ありがとうなじみお母さん……」 

 

 

 最早実の母よりも、彼女に対して信頼を置いてるし、彼女もまた自分の個性が二度と戻らない事を承知でミリキャスを守り通してくれた。

 だからもう、グレイフィアは自由なのだ――ある意味で。

 

 

「寝よう。

この部屋には誰も入れない様に細工はしてある。

なじみ、ミリキャスと一緒に寝てくれないか?」

 

「構わないけど、サーゼクス、キミも一緒の方がこの子も落ち着くだろ? ほら、一緒に入りなさい」

 

「うん、お父様も一緒が良い」

 

「よしわかった。

怖いことなんて忘れて皆で寝よう!」

 

 

 だから転生者みたいな男と恋に落ちようがもうどうでも良い。

 嫌気が差して眷属を辞めてくれても一向に構わない。

 

 反省してるのに許さない非情な男だと言われようが、決してこの思いは変わらない。

 

 

「こうまで二人に絆されるとはね。僕も自分で驚いてるくらいだぜ」

 

「ありがとう……」

 

「何度も聞いた台詞だぜサーゼクス? 気にするなよ、悪い気分は不思議としないんだからさ」

 

 

 一つのベッドにミリキャスを真ん中に、左右からサーゼクスとなじみが包み込む様に共に横になり、そして三人の手は重なり合う。

 不思議な繋がりは最早誰にも壊されぬ程に強いのだ。




補足

無駄に力はあるし、無駄にポジティブだし、無駄にアグレッシブなのは本当に厄介だった。

しかも変な逆恨みまで周りにしてるのがまた……。


その2

ミリキャス(娘)は母親に対して完全に恐怖してるので、多分修復は無理かも……。

てか、最早安心院さんに懐いてるし、その安心院さんも二人とスヤスヤ寝てる時点でもうね……

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