色々なIF集   作:超人類DX

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没の続き。

実は中々ストックが残ってたり……。

すんません。


懐かしき人間界

 青野月音にはブレた信念もあるが、ブレぬものある。

 それはどれだけ超越した力を持とうとも、自分は人間であるという誇りだった。

 

 人であるからこそ、人であるが故に持つ貪欲さがあるからこそ強くなれた。

 だから良いも悪いもひっくるめて彼は人という種族をある意味最も愛している。

 

 その人間達からすら化物だと蔑まれても……。

 

 と、まぁ大袈裟に説明はしたが、簡単に言えば――

 

 

「よっしゃ! よっしゃあ! テンション上がるぜ俺!!」

 

『…………』

 

 

 只今月音はいつになくテンションが高く、それは彼を知る者達が初めて見るくらいにウキウキしていた。

 …………新聞部が行う合宿に行くためのバスの中で。

 

 

「取材と託つけて現役女子高生か女子大生に声を掛けられる、あわよくばデートにも誘えるかもしねぇ。

ヒャハハハ! 久々にみなぎって来たぞぃ!!」

 

 

 月音のテンションの高さは若干引くレベルだった。

 が、本来の青野月音――というか兵藤一誠のテンションはこんなものであり、純人間の美少女に新聞部の取材だと嘯いて本当に久々となるナンパを前に心を踊らせていたのだ―――すんごく鼻の下を伸ばしながら。

 

 

「おい猫目先生よぉ! アンタにしちゃあなんて素晴らしい催し物を考え出してくれたんだ! 今初めてアンタを尊敬するぜ!」

 

「え、えぇ……?」

 

「つ、月音落ち着こう?」

 

「人間界に合宿に行くのがそんなに嬉しいのか? なんや意外な一面や……」

 

「というかさっきから顔が凄まじくだらしないわよ……」

 

 

 人間界に合宿しに行くと聞いてから今の今までずっとこんな調子の月音。

 妖怪達からしてみれば、どうして高々人間界に行くだけでテンションが上がるのか理解に苦しむくらいだ。

 

 

「籠女李々子とかいうウゼェ先公のせいで若干ストレスだったから余計楽しみだったぜ。

ひひひ、待ってろよセーラ服美少女、もしくは知的ブレザー美少女達!」

 

 

 先日、妙に色気を振り撒く女教師に絡まれてストレスを貯めていたらしい。

 結局その教師はムカムカしてた裏萌香さんによってぶちのめされたらしいが、そのストレスもあってかさっきから欲望の言葉がポンポンとぶちまけられてる。

 

 

「なんやジブン? 割りと女の子好きやったんか?」

 

「んぁ? そりゃ男ですからねぇ?」

 

 

 そんな欲望に対してちょっとした波長を感じたのか、銀影が聞くと、これまた何時になく月音素直に即答した。

 

 

「の、割りには萌香さんに素っ気ないやん?」

 

「え? あぁ、別にそういう間柄ではありませんのでね」

 

「あの、さっきから私のロザリオが凄い暴れてるからそんなハッキリ言うのは……」

 

 

 とにかく人間の現役女子高生にナンパするのが楽しみでしょうがない。

 何となく銀影的に何故人間相手なのかは理解できない部分はあるが、妙に根っこが似てる気がすると感じ、恐怖の象徴みたいだった月音への印象をちょっとだけプラスの方向に変えるのだった。

 

 

「…………」

 

 

 そんな月音のハイテンションに支配されるバス内の中、一人だけ月音とは真逆にローテンションで寧ろ怖がってる素振りを見せながら、タロット占いをしている少女が居た。

 それは人間に対して明確な恐怖を感じている魔女っ娘こと紫であり、彼女は人間界への合宿に対してただただ不安を感じているのだ。

 

 しかもその占いの結果が悪い結果を叩き出すせいで余計に。

 

 

「おう、どうした仙童さん、バス酔いか?」

 

「あ、い、いえ……」

 

 

 そんな紫に対して、ハイテンションのせいで全然空気を読まなくなってる月音が気安く話しかける。

 

 

「そ、その人間界へ行くのが不安で……」

 

「不安?」

 

「人間が怖くて……」

 

「人間が怖い? ………あぁ」

 

 

 未だ自称・純人間である月音とは違い、紫は魔女だ。

 人間とも妖怪とも言えない微妙な位置に居る為に過去に色々とあったが故に人間が怖いと吐露する紫に、月音は漸くウザいくらいのハイテンションを引っ込めた。

 

 

「確かに人間は末恐ろしい生物だぜ。

ある意味地球の支配者だし、一人一人は非力だけどそれを補う武装等を開発しちゃったりするしなぁ」

 

「……」

 

「敵と見なした存在には数の暴力で潰しに掛かる。

故に繁栄し続けてるといっても過言じゃあないな」

 

「う……」

 

「ちょ、ちょっとアンタ、そんな言い方で余計に怖がらせてどうするのよ?」

 

 

 月音の言葉にすっかり怯えてしまう紫に後ろで聞いてた胡夢が咎めようと口を開く。

 スイッチが入ると凶暴化し、自分の魅力も理解できない節穴男という認識で、新聞部の同僚としての付き合いがあるせいかある程度恐怖しなくなりつつあるからこそ、今の言い方はよくないと注意するのだが、そんな胡夢に対して月音は、嘘の人間像を語って誤魔化す方が良くないだろと返しつつ、紫の背中をポンと叩く。

 

 

「まぁでも心配するなよ。

そういう輩は確かに多いが、今日の俺様は実にいい気分だから、そういう人間に出会したら俺が追っ払ってやらぁ」

 

「へ?」

 

 

 余計ビクビクしていた紫の震えが止まる。

 

 

「キミは人間が恐いと思ってる。けど別に克服する事もねぇよ。

悪い人間が居るけど綺麗な人間も居るだなんて、誰かが言いそうな綺麗事を吐くつもりもない。

恐いならしょうがねぇよ、わざわざ歩み寄る必要もないし、回避したいならした方が良いさ。

だからどうしても恐いなら俺の側にでも居りゃあ良いぜ、そうすりゃあちったぁ怖くなくなるだろ? それともやっぱり恐いか?」

 

「え、うそやん……」

 

「あ、青野が凄く優しいですって……?」

 

「月音……ふふ、やっぱりそうなんだね?」

 

『うがー! 何故だ!? 私にはそんな言わない癖に、どういう事だ!?』

 

 

 奇跡的過ぎる紫への配慮に対し、聞いていた銀影や胡夢等は夢でも見てる気分にさせられる程の衝撃を受け、表の萌香はそんな月音に対してドライグから言われた通りだと微笑ましそうに思い、裏萌香さんは非常に納得がいかないとぷんすかと怒っていた。

 

 

「怖くない、です」

 

「ん、なら安心しろ。

女子高生のナンパの時はちょっと席を外すかもしれないが、大船に乗ったつもりで任せろ」

 

「つ、月音さん……!」

 

 

 ポンポンと紫の背中をもう一度優しく叩く月音に紫はめちゃくちゃ感動した。

 親以外でこんな優しい台詞を言われたのはほぼ初めてだったし、ましてや相手が月音だったから尚の事嬉しかったのだ。

 望むべくは、普通にシレッと女子高生をナンパしに行くと宣わなければパーフェクトだったが。

 

 

「という訳だ、何か希望はあるか? さっきも言ったが今の俺は実にいい気分だから大抵の事は聞いてやるぜ?」

 

『なぬっ!? お、おい私と代われ!!』

 

「はいはい空気をよもうねー?」

 

 

 しかしそれを加味しても紫は嬉しかった。

 元公安委員会に怪我をさせられた時も怒ってくれたし、結構な我儘を言っても仕方ないと言いながらも聞いてくれる。

 

 

「じゃあ月音さんの膝の上に座りたいです」

 

「何時もの事じゃんかそれ。

まぁいいけど、ほれ」

 

 

 それがとても嬉しい。

 いつの間にか先程までの恐怖心が消えていた紫は、心の中に温かさを感じながら、ひょいと軽々と抱えてくれた月音に身を預けるのだった。

 

 

「せ、先生も人間が恐いにゃー?」

 

「そっすか、じゃあ出会したら逃げたらどうです?」

 

「対応の差がひどい!?」

 

 

 人間は確かに恐いままだけど、克服できる気も今のところないけど。

 今紫は確かに月音という頼もしい存在を近くに恐怖を克服しかけていた。限定的ながら。

 

 

「あ、アンタって紫ちゃんには結構優しいわね……。

前から思ってたけど」

 

「ひょっとしてロリコンやったりせんか?」

 

「子供相手に大人げない真似する方がよくねーし、それだけでロリコン扱いされても困るんすけど」

 

 

 ところで、何でこんなに月音の態度が軟化しているのか。

 それは人間界に戻るというのも確かな理由だが、もう一つ大きな理由は一切の手掛かりが無かった白音がこの世界に存在しているというのが彼に精神的な余裕を与えていた。

 無論、白音を好いているからというプラスな感情は彼に無いし、寧ろ吐き気がする程大嫌いなのは昔も今も変わらない。

 

 だが彼女の無限に等しき執念と成長が、転生の神を殺せる大きな理由になったし、結局の所ある時点で月音は白音に超えられてしまった。

 

 だからこそ兵藤一誠から青野月音へと生まれ変わっての残った記憶と力は白音へのケジメを付ける為に必要不可欠であり、そうしなければ彼の心は永遠に前へと進めない。

 

 

(今は寝てるらしいが、その内起きるとあの妖怪理事長は言っていた。

フッ、精々呑気に寝てるんだな白ガキが……必ず引きずり出す。その時は全盛期の頃よりもさらに進化してやる)

 

 

 だから月音の最近はとても『ご機嫌』だった。

 白音の存在が確実に近くに居るという事が彼の失いかけていた執念を甦らせ、肉体の隅々まで滾らせているのだ。

 

 

「月音さんの優しい匂いが好きですぅ……」

 

「いやでも紫ちゃんの表情がちょっと……」

 

『あーなんかムカムカする! またムカムカしてくる! このムカムカを私はどこにぶつければ良いん!』

 

(だから、それまでは精々コレ等とそれなりに合わせてやるよ……)

 

 

 どこかの世界の白い龍皇と英雄が見たら腹でも抱えながら『どこの一誠でもやっぱりロリコンだな!』と大笑いしそうなくらい、然り気無く向かい合わせに座りだした紫から思い切り胸元に顔を埋められていても好きにさせてやる。

 大嫌いな存在達だとしても、彼等自身は兵藤一誠に何もしちゃいないのだから。

 

 

(まあ、気に入らなければぶん殴るけどな)

 

 

 

 

 何故か胡夢と銀影からロリコン疑惑を持たれながらも到着した取材場所。

 何やら神隠しに逢うらしいひまわりの名所らしいが、正味な話、そういった話に月音は全く興味がなかった。

 入学時にも見たバスの運転手と月音に素っ気なくされてテンションがただ下がりの猫目先生が月音達を放置して何処かへ行ってしまい、残された部員達は取り合えず付近の散策を手分けして行う事になった。

 

 

「何で俺だけ一人やねん!? そこは萌香さんと胡夢さんと同じグループでええやんけ!」

 

 

 公安委員会を月音はもの次いで感覚で一人捻り潰してしまったお陰で、別に怪我も何もしてないので普通に参加してる銀影が一人にされることに対して文句を垂れている。

 

 

「嫌です、何されるかわかりませんし」

 

「月音が紫ちゃんと常に一緒に居る約束をしている以上は……うん」

 

「そ、そんなぁ~ 萌香さんまでそんなけったいな……」

 

 

 銀影が一人ぼっちにされて拗ねるという間も挟み、月音は約束した通り、ナンパに出向く以外は基本的に紫の側に居る事になった。

 

 

「大丈夫っす先輩。前以てリサーチしたとある女子高の更衣室を教えますから、後で覗――んんっ!! 取材に行きましょうぜ?」

 

「お、おう……ホンマどうしたん? キャラ変わりすぎやろ?」

 

 

 拗ねた銀影に、月音が小さくエロ小僧全開な台詞を吐く。

 合宿場所が人間界と聞いたその日から妙にテンションが高く、しかも自分と同じ様な感じを醸し出してる今の月音が微妙に恐いと思うのは多分仕方ないだろう。

 

 

 

「んじゃ、適当に散策してくるんで」

 

「うん、じゃあまた後でね?」

 

『肩車までするのか!? 何でそんな贔屓ばかりをするんだ!?」

 

「この子の事は私に任せて、紫ちゃんの事守ってあげてね?」

 

「約束した以上はちゃんとするさ」

 

 

 裏萌香がまだプンプンと怒ってるのを無視し、月音は内心『今は、な』という言葉を呟くと、紫を肩車しながら黄色一色の平原の散策を開始する。

 

 

 

「見事に黄色一色だし、久々に蒸し暑いぜ」

 

「……」

 

「暑くねーか?」

 

「は、はい。大丈夫です……」

 

 

 寮生活だったが故に、愛しき人間界の久々の蒸し暑さや空気に満足する月音とは逆に、やはり少しは残る恐怖心から元気が少ない紫は肩車をされている状態から見える黄色い景色を楽しむ余裕はあまり無く、月音の頭にしがみついていた。

 

 

「この暑さがたまんねぇ。

そこら辺の駄菓子屋で瓶ラムネかアイスを買って食いながら歩く。

麦わら帽子と白いワンピースを着た女性と出会せたら尚の事最高なんだけどな」

 

 

 基本的にぶっきらぼうなのに、こうも変わるか……と、人間が苦手な紫からしてみたら非常に複雑だし、何故そこまで人間を好いているのかが理解できなかった。

 

 

「月音さんは人間が好きみたいですけど、どうしてそこまで……」

 

 

 月音だってあんな強大な力を持った――表の萌香がこっそり教えてくれた龍の大妖怪らしいのに、どうしてそんな力を持ってるのに月音にしてみたら弱い筈の人間にそこまで好意的なのか。

 萌香と同じくらいに月音の事が大好きな紫にしてみたら……とても嫌だった。

 

 

「私は月音さんにさっき勇気づけて貰ったけど、やっぱり人間は恐いです……」

 

「だから俺が人間を好いてるのが嫌だと?」

 

「はい……。月音さんが人間の事を褒めると何時も胸の中が痛いです」

 

「……………」

 

 

 そう言いながら肩車をされてる紫が月音の頭をぎゅっと抱く。

 そんな紫の吐露に対して月音は心の中で笑っていた。

 

 

(クククッ! 傑作だなドライグ? 俺が何で人間を好きなのか知りたいんだとよ?)

 

『…………』

 

(当たり前だよなぁ? だって今オメーが肩車して貰ってる奴こそが大嫌いな人間様なんだからよ。

なぁ、これ教えてやったらどんな反応すると思うよ?)

 

『よせ』

 

(言うなってか? 何だよ嫉妬させるぜオイ? 何時からこんな連中に肩入れする様になった?)

 

『この小娘はまだ餓鬼なんだぞ。それに餓鬼だからこそお前は……』

 

(あぁ、そうだったな。

あの白ガキの行方も全く分からなくて自棄になってた頃はそんな事もほざいてたな俺は。

まったく、俺ともあろうものが反吐がでるもんだぜ)

 

 

 白音の行方が掴めた今、彼の精神は萌香達との出会いで変わりつつあった精神を元に戻り始めてるのかもしれない。

 ドライグは紫に対して嘲笑めいた事を宣う月音の声を聞いて舌打ちをした。

 

 そんな視野の狭い考えだったからこそ、白音に追い抜かれ、蹂躙された事を理解できてないのだ。

 

 

(…………………てのが今までの考えだったんだよな俺の)

 

 

 それでは駄目だ。

 ドライグが忠告をしようと考えていたその時だった。

 それまで嘲笑っていた月音が冷笑を止めてそう心の中で呟いたのだ。

 

 

(確かに奴の行方も掴めた今、その時が来るまで妖怪共や魔女共には用は無くなっている。

だから切り捨ててしまえ…………ってのは今までの事を考えれば不正解なんだろドライグ?)

 

『お前……』

 

(わかってるよ。

いくら俺でも、気に入らない妖怪や人間じゃねぇ畜生生物だとしても、この世界の連中に罪なんかねぇってこともな。

あげくのはてにしつこいくらい友人だと言われるわ、好きだとも言われるわ……まったく、思い通りにならない連中だってのもな)

 

『………』

 

(大丈夫だ、こんな子供に悪意はやらんさ。

今更良い子ぶるつもりもねぇけどな……)

 

 

 ドライグは少し己を恥じた。

 相棒の事を信じられなかった己を……。

 

 

『言ったろ萌香。俺はコイツの父親代わりだなんて柄じゃあない』

 

(は?)

 

『何でもない。そら、小娘にうまい言い訳をさっさと言ってやれ』

 

(? おう……)

 

 

 白音に囚われいる頃の一誠では無くなり始めた。

 それはきっと停滞していた進化の異常性が再び息を吹き返す可能性があるかもしれない。

 ドライグは今一度、歴代最強最悪とまで呼ばれた宿主の行く末を見守る決意を新たにするのだった。

 

 

「月音さん?」

 

「んぉ? あぁ、悪い。

俺が人間を好いてる理由だったか? 決まってんだろ? 可愛い女の子が多いからだぜ!」

 

「えぇ……?」

 

 

 異なる世界の人ならざる存在達との触れあいが、月音のなにかを変えると信じて。

 

 

 

 さて、結局ピチピチギャルが多いからとかいう理由で人間が好きだと半分嘘の理由で誤魔化した月音は、引き続き微妙に不機嫌な紫を肩車しながらひまわり畑を散策していると……。

 

 

「きゃぁぁぁっ!!」

「!」

 

「むっ!? 鈴が鳴くような女性の悲鳴!!」

 

 

 少し遠くの方から女性の悲鳴が聞こえた。

 声質からしてかなり若そうだと察知した月音は、即座に紫を肩車から横抱きに抱える形にチェンジさせる。

 

 

「このまま走ったらあぶねぇからな」

 

「あ……」

 

 

 理由はアレだが、ナチュラルにお姫様抱っこされてる事に紫はびっくりするのと同時にちょっとドキドキする。

 そして異様な速度で飛ぶのではなく、跳ぶと、今尚悲鳴のする箇所へと一跳びで到着した。

 するとそこに居たのはキャップを被った若いおなごであり、凄まじい勢いと突風と共に落ちてきた月音と横抱きにされてる紫にびっくりしていた。

 

 

「だ、誰!?」

 

「に、人間……ぶへ!?」

 

「っしゃあビンゴ!! どうされましたお嬢さん!」

 

 

 その女性を見た瞬間、紫を地面に落とした月音は信じられないくらいだらしのない顔で涙目になってる女性に話しかけた。

 

 

「道に迷ったのですか? だったらこの私がご案内しましょう! そのついでにちょっとそこでお茶でも……」

 

「……………」

 

「な、何を……じゃなくて、助けて! せ、先輩がひまわりに食べられそうなの!!」

 

 

 下手くそにも程があるナンパを開始した月音に、一瞬この女性が消えてなくなれば良いのにと本気で考えながらジト目になってる紫。

 女性の方もいきなりナンパされて引いてたが、自分の措かれてる状況を思い出して、この意味不明な男に対して背に腹は変えられないと助けを懇願した。

 

 

「ひまわりに食べられそう? 何の事……なぬぅ!?」

 

「人間から養分を吸ってる……? もしかしてあれは魔草の一種……!」

 

 

 どうやら女性の連れがその魔草の一種に襲われてしまってるらしい……と、正体を解析していた紫の言葉を聞いた瞬間、年若きおなごが二人も居たという事実に余計テンションを上げた月音はヒャッハーと、世紀末を逞しく生きるモヒカンみたいな雄叫びをあげた。

 

 

「ヒャッハー!! お任せくださいお嬢さん!! この私がすぐにでもお連れのこれまた美しいお嬢さんを助けましょう!」

 

「え、えぇ……?」

 

「…………」

 

 

 台詞は一々クサイし、表情は鼻の下が伸びきってて気持ち悪い。

 思わず連れの先輩が危険なのに、月音に対してドン引きしてしまう女性に気付いてないまま、女性に巻き付いてる草に向かって両手を突き出した。

 

 

「この地ごと消えてなくなれ! 100倍ビッグバン・ドラゴン―――」

 

「なっ!?」

 

「っ!? つ、月音さんストップですぅ!!」

 

『よせこの馬鹿!!』

 

 

 確実にアホとしか思えないオーバーキル、しかも以前銀影に対して放った時よりも、文字通り100倍の威力でドラゴン波をぶっぱなそうと強大過ぎて、溜めてるだけで周囲のひまわりが吹き飛ばしてる月音を紫とドライグは止めた。

 もし本当に放ったら、ひまわりの丘どころか日本列島――いや、星ごと消しとんでしまうかもしれないのだから、さっきまでのシリアスなやり取りが台無しにされそうになってるドライグはそりゃ必死だ。

 

 

「ぬおっ!? な、なんで邪魔すんだよドライグ!? それに仙童さんも! 可愛いおんにゃのこがピンチなんだぞ!!」

 

『馬鹿かお前は!? その助けようとする女もろとも破壊しようとしてどうする!? それに下手したら星ごと消えるぞ! 威力を考えろ!』

 

「あ、アナタが月音さんの相棒であるドライグさんですか? 初めて声を聞きました……」

 

『おう、今後とも月音をよろしく………じゃなくて、取り敢えず落ち着かせるのに協力してくれ。

久々の生の人間の女を前に思考回路がイカれてしまってるんだ』

 

 

 何気にドライグと初邂逅を左腕の籠手越しに果たした紫は、頷きながら手からまだビームを出そうとしてる月音の腰にしがみついて止める。

 ちなみにキャップを被った女性は、あまりにも非現実的過ぎる何かを目の前で見せられて声が出せずに呆然としてしまっているし、先輩さんの方はさっきから吸われ続けてそろそろまずい事になっていた。

 

 

「わかったよ、ドラゴン波はやめて龍拳――」

 

「駄目ですぅ! その龍拳って技もちょっと気になりますけど、今のテンションの月音さんだと何を仕出かすかわかりませんので……くっ、嫌だけど私がやります」

 

 

 結果、よくても此処等一帯を消し飛ばしかねないと懸念した紫が嫌々人間救出を買って出ることになり、持ってた刃が仕込まれてるタロットカードをさらに良質なエサ二匹を前に本体ごと飛び出してきた植物生物に向かって投げ付け、取り出したステッキで操作して、まずは女性に寄生していた部分を切り刻んで切断した。

 

 

「これくらいなら私にもできます!」

 

『と、いう訳だ。お前はとにかく落ち着け』

 

「ぐっ、女の子にカッコいいと思われるポイント稼ぎが取られた……」

 

『心配するな、さっきの時点であの女共はお前にドン引きしてる』

 

 

 肩を落とす月音にドライグがバッサリと切り捨てる中、カードを操りながら魔草と戦っていた紫は内心ムカムカしてしょうがなかった。

 

 

「何ですか……あんな人間なんて……! 別に言うほど綺麗じゃないのに!!」

 

 

 絶対自分の方が可愛いと、妙な対抗意識による嫉妬が紫に対して何時も以上のパワーを引き出してるのか、さっきから嫌に一方的に次々と現れる魔草を切り刻んでいた。

 

 

(ほら月音さん! 今の私を見て褒めて――)

 

 

 妙に調子が良いので、今の自分の見て褒めてくれないかと魔草から放たれる無数の蔦を避けながらチラッと月音の方を見た紫だったが……。

 

 

「へぇ、大学生なんですかぁ。俺高校1年なんですけど、お姉さんの守備範囲すか?」

 

「え、ええっと……年上の男性が好みかな……。

というかあの子魔女だったの……?」

 

「え? まあ、そうですけど。そんな事よりお姉さんは味噌汁にネギ入れるタイプ?」

 

 

 

 

 

「………………」

 

「エサァ!!」

 

 

 然り気無く襲われた方を救出し、キャップを被った女性を懲りもせず月音はナンパしていて、全くこっちを見てなかった。

 割りと必死に戦ってるのに、会ったばかりのどうでも良い人間の女相手に鼻の下を伸ばしてる……。

 

 

「つ、月音さんの―――」

 

 

 その瞬間、紫の全身からマグマの様な怒り沸き上がり、その怒りがそのまま力へと変質する。

 具体的に言うと紫の内包していた潜在能力が一気にパワーとなって解放されたのだ。

 

 

「ばかーーーーっ!!!!!」

 

 

 怒りをパワーにというとネガティブにとらわれがちなのかもしれない。

 しかし時にはそういった感情の爆発が普段の何倍もの力を与える時がある。

 月音――かつて兵藤一誠だった頃の彼が絶対的な憎悪と殺意と怒りをもって敵を屠っていた様に。

 

 

「ん?」

 

「きゃ!?」

 

『本当に戯け者だなお前という奴は……』

 

 

 結果、全身から異様な力を放出した紫は魔草を全滅させた。

 怒りを力へと変える術の一端を再現した瞬間だった。

 

 

「ほ、ほら……見てくださいよ月音さん。

私一人で魔草程度、訳ないんですぅ………」

 

 

 完全勝利した紫は被っていた帽子も吹き飛び、限界を越えたパワーを怒りで引き出した副作用でフラフラになりながら、ちょっとだけ目を丸くしていた月音に『笑いながら』近寄る。

 そして人間を嫌う理由のひとつに新たな項目が加わった……。

 

 

「そこの人間、月音さんから離れろ……ですぅ……!」

 

「は、はい!」

 

 

 助けを乞うしかできないのに、月音に好かれてるから気に食わない。

 フラフラと嗤いながら言う様は結構な迫力があり、女性は言われた通りすぐに月音から五メートルは離れた。

 それを見た紫は満足げに微笑むと、何故かちょっとびびってる月音に近づき、そのまま倒れ込む様に抱きついた。

 

 

「月音さん……私、一人でも倒せました……。

これで少しは足手まといにならないですよね……?」

 

「え、あ……別に足手まといだなんて言った覚えがないんだけどな俺……。けど、なんかごめん?」

 

「えへへ……そんな素直に謝られたら許しちゃいますよ。

月音さん……大好きですぅ」

 

『あーぁ、知らんからな。お前のせいだぞ、小娘にそこまでさせたのは』

 

「えぇ?」

 

 

 ヤバイ扉を開かせた感がある様子の紫にドライグが呆れた声を出し、月音も若干どこかで体感した気がして困惑する。

 そしてそんな様子を五メートルは離れた場所で見ていた女性は……。

 

 

「ろ、ロリコンだったのね……」

 

 

 普通に大好きだと言いながら抱きつく紫を単に受け止めてやってたのが、彼女にとっては抱き合ってる様に見えてしまったらしく、単なるナンパ男からロリコン野郎へと月音への認識がすげ替わるのだった。

 

 

「待て! 俺ロリコンじゃねぇんだけど!?」

 

「あ、大丈夫よ誰にも言わないから。

ですので、それ以上近付いて貰うのはやめて貰って良いでしょうか?」

 

「そ、そんな馬鹿な!? おい仙童さん起きろ! 俺はロリコンじゃないと説明――」

 

「やぁん……♪ 月音さんったら赤ちゃんみたいにそんなに吸ってもまだ出ないですぅ……」

 

「もしもし、警察ですか?」

 

「ちっがーうっ!!!」

 

 

 力を使い果たし、月音に抱かれながらスヤスヤと満足そうに眠る紫が妙な寝言を言うせいで警察まで呼ばれそうになる始末。

 月音と紫の奇妙な冒険はまだ始まったばかりだった。

 

 

「お館様、大切なひまわり畑を守らせていた魔草が我々と同じ魔女に全滅させられました」

 

「ほう? それは歓迎しなければな、我々の同胞として」

 

「はいですがその……」

 

「なんだ?」

 

「その魔女と共に居る男が居るのですが……」

 

「男? 何者だ?」

 

「わかりません。ですが、別の場所を守らせていた魔草がその男の放とうとした強大な力に恐怖して逃げ出してしまいまして……」

 

「なんだと? 人間ではないのか?」

 

「わかりません、魔草に襲わせた人間を口説いていた様ですが、明らかに人間とは思えないものを感じますし、どうやら幼い魔女とも親しい間柄な様です」

 

「ふむ……どちらにせよ我々の同胞としてその幼い魔女は受け入れるとしても、その男には警戒しなければならない様だな。引き続き監視を続けろ我が弟子よ」

 

「はい、お館様」

 

 

 そしてその奇妙な冒険の要となる者達の存在も……。

 

 

「はぁ……ロリコンって言われるのがこんな辛いとは。しかも人間の女の子に……」

 

『自業自得だな。

それより気付いているんだろうな?』

 

「あ? あぁ、さっきからこっちを見てる誰かの事だろ? ロリコン呼ばわりされてるダメージがでかすぎてどうでも良いわそんなもん。さっきの『脅し』が通用する利口ならそれで良いし、通用しない間抜けなら八つ裂きにしちまえば問題ないだろ?」

 

『! お前まさか、さっきの馬鹿みたいなテンションの理由は……』

 

「多少はそういう理由もある。

こんな花畑に妙なもん仕込んで人間を襲わせてる理由なんか知らんが、人間にとって危険なら消すまでだろ?」

 

『………』

 

「ふふ……月音さぁん……」

 

「この子はまだ呑気に寝てるし――まぁ主に俺のせいだけど」

 

「大好きですぅ……」

 

『だとよ』

 

「俺の中身を知ったら逃げるだろうに……複雑だぜ」

 

 

終わり

 




補足

白音たんが存在してるとわかった影響か、心にゆとりが生まれた様で、結構周囲の妖怪さん達に対する認識も丸い。

お陰でロリコン扱いされたけど。


その2
人間の女の子相手に張り切った結果失敗しそうになり、紫ちゃまに尻拭いして貰ったのにナンパ続行したせいで怒り爆発させてしまう。

その結果、執念で何度も大好き宣言され、戸惑いながら倒れそうな彼女を受け止めてたらロリコン扱いされ、もしもしポリスメンまでされそうになり、挙げ句さよならまでされました。

龍神ちゃんヴァーリと曹操が見たら大笑いしながらロリコン野郎と連呼しそうだぜ。


その3
人間嫌いが克服どころか別の意味で深めてる感が満載。

ま、まぁ、なんとかならぁ! きっと……

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