色々なIF集   作:超人類DX

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かんちゃんは意外と強いです……


中々からかい上手な簪ちゃん

 妹が『普通の幸せ』を手に入れられる様にと姉は覚悟した。

 血生臭い世界に決して妹を巻き込んではいけないからと姉はその宿命を全て己一人で背負う事になった。

 

 

『戦い方を教えろだぁ?』

 

『うん』

 

『おままごとして遊んでそうな歳の餓鬼の吐く台詞とは思えねぇし、弟子を取るつもりは無いぞ俺は。

第一銭にもなりゃしねぇだろそんなもん』

 

『ご飯なら食べさせてるし、寝られる場所も私が教えた。

だからその分を私に戦い方を教える事で支払って』

 

『…………。なるほどそう来たか。

意外と強かなお嬢ちゃんだぜ』

 

 

 その為には誰にも文句を言わせない力が必要だ。

 その為にはご飯と住む場所を提供してあげた青年の力が必要だ。

 

 

『……ま、良いだろ。少しの間の暇潰しにはなるだろうしな。

どうせ今のところ今後の目的もないし』

 

 

 運命を受け入れた上で抗う為に。

 異界から迷い込んだ最強の龍帝に師事したこの日、少女自身の運命は変わっていった。

 

 

『三日時間をくれてやる。

その間にまずは俺に一撃当ててみろ、もし当てられなかったらその時点でこの話は全部無しだ』

 

 

 人生を壊した転生者とそれに与する人ならざる存在全てを、憎悪を糧に殺し尽くした青年の地獄の特訓によって……。

 

 

『ま、及第点はくれてやろう。

さて次だが、二日以内にグリズリーとアムール虎を素手で狩って料理して俺に食わせろ』

 

『うぇ!?』

 

『なぁに心配するな。

もし八つ裂きにされたらそれなりのフォローはしてやる。ほーら現地に行くぞ』

 

 

 幼子にもまったく容赦しない、鬼畜な師と共に……。

 後継者と認められるその日まで。

 

 

 

 

 

 

 更識簪には、趣味である特撮アニメに出てくる様なキャラが画面の中からそのまま飛び出して来た様な、規格外の身体能力を持った存在を少なくとも二人程知っていた。

 

 一人は姉である更識刀奈。

 そしてもう一人は元から天才に属するそんな姉を更に異次元の領域へと引き上げた師匠的な青年である兵藤一誠だ。

 

 

『ナントゴクトケン!!』

 

「高校生活はどうよ?」

 

『オイ,ソコニスワレ,ナンダァソノメハ!?』

 

「ぼちぼちかな」

 

 

 どちらも簪にとってすれば少しだけコンプレックスに感じる存在。

 しかし余りにも非現実的すぎるものを持っているのを目の当たりにしてしまうと、どうやら一周回ってコンプレックスも減少してしまうものなのだと、簪は既に身を以て知っていた。

 

 

『ナントライシンショウ!!』

 

「そうか、本音ちゃまとは別クラスだって聞いてたから、ちと心配だったが、その様子だと問題は無さそうだなと安心したよ少しは」

 

『ミミガオトウトニニテル……!』

 

「そこまで子供じゃないから大丈夫だよおじさん」

 

 

 あまりにも凄すぎて逆に微妙になってくる……それが今の簪の姉に対する気持ちであり、また今自分の隣でアーケードコントローラのレバーを忙しなく操作している青年――見た目は17か18くらいにしか見えない今年33になる男に関しては、怖いイメージを持ってた昔と違って、こうして格ゲーをしながら世間話をする程度には仲良くなっていた。

 

 

『コノオレノカオヨリミニククヤケタダレロォ!!』

 

「げっ!? まさかのブッパだと!?」

 

『ヒャッハー!! ドウダクヤシイカァ アハハハ!!』

 

『ユリアー!!』

 

『FATAL K.O.』

 

「こういう不意討ちも結構実用的なんだよおじさん。まだまだだね」

 

「ちくしょう、これで連敗記録がまたしても更新されちまったぜ……」

 

 

 某世紀末スポーツアクションゲームで対戦し、簪の使用する石油使いのヘルメット教授が見事に一撃必殺KOを決めて勝利をモノにする。

 刀奈が次代の赤龍帝になる少し前から、グータラ男になり始めてた一誠は、同じくアウトドアよりはインドア派だった簪とこんな感じにゲームやら特撮アニメやらの事を教えて貰ってる内にすっかりグータラ仲間になっており、今日もグータラになりたい一誠を招き入れて一緒になってグータラとしていたりする。

 

 

「という訳で私が勝ったから今日は仮面ラ○ダーV3ね?」

 

「ぐぬぬ……すまねぇスト○ンガー。お前を視聴するまでまだまだ時間が掛かりそうだぜ」

 

 

 話してみると結構取っ付きやすく、また簪の趣味に関しても否定はせず寧ろ興味深々で、こうして古めの特撮アニメを一緒になってごろ寝しながら観る程度には簪は仲良くなったと思っている。

 

 

「V3きりもみ反転キックかぁ……俺出来そうだわ」

 

「お姉ちゃんも出来るんじゃない?」

 

「多分なぁ……って、パンツ見えてんぞ?」

 

「あ、ごめん」

 

 

 ていうか、グータラする一誠に多少影響されてるのか、簪も結構スイッチが切れるとグータラしてしまう訳で、今も枕を肘置き代わりにうつ伏せで寝ながらアニメを見てた簪のパンツが見えてると一誠に後ろでごろ寝しながら見てた一誠に指摘されても特に恥ずかしがってる様子がない。

 

 

「でも現役女子高生のパンツ見れておじさんも眼福なんじゃないの?」

 

「人妻のガーター姿なら興奮できる自信はあるけど、少なくとも平然とそんな台詞吐かれたら寧ろ残念にしか思えねぇな」

 

「あ、そっか。お姉ちゃんので見慣れてるもんね?」

 

「それも違う」

 

 

 大人しい簪らしい白の……言ってしまえば普通のパンツを見せられても微妙な顔の一誠。

 何だかんだこうしてグータラ仲間として仲良くはなれたし、刀奈の願いだった普通の生活を前向きに満喫してるのも嬉しい限りだが、どうも男性に対する警戒心がちょっと薄くなってる気がしてならない。

 まあ、相手が一回りも年が行ってるおっさんの自分だからというのもあるが、実は初な刀奈と比べるとちょっとオープンすぎる気がしてならない。

 

 

「本音ちゃまからきいたけど、織斑君にホの字なんだって?」

 

 

 それが心配に思えてならないし、今も最近簪がホの字になったらしい一夏について話を振っても簪はテレビの画面に眼を離さずに足をパタパタさせながらあっさりと肯定してしまうのだ。

 

 

「そうだね、たぶん好きだと思うかな」

 

「そっか……いや、そんなアッサリと肯定されるとは思わなかったぜ」

 

「だって本音から聞いたんでしょ? 否定した所で意味ないし、一夏の事は確かにかっこいいとは思ってるもん」

 

 

 そのあまりの呆気ない白状に、嘘を疑う一誠だが、ほんのり頬を染めてる辺りはマジらしい。

 だからこそ一誠は簪に、碌にまともな恋愛もした事がないくせに偉そうに忠告するのだ。

 

 

「だったら少しは恥じらいは持った方が良いんじゃかいか? 織斑くんはモテモテだから倍率はただでさえ高いしよ?」

 

「? 他の女子に負けない為に自分を偽れっていうの?」

 

「そういうことじゃなくてだな……。もし織斑君とこうして二人で特撮アニメを観る事があったとして、今みたいに平気でパンツ見せながらダラダラしてたら幻滅されちまうだろって事だよ」

 

 

 そのグータラの影響を多少受けさせた元凶の吐く台詞ではないが、一応理には叶ってる。

 だが簪はそんな一誠の言葉に対してこう返すのだ。

 

 

「えぇ? 前に試しに一夏にパンツを見せたら顔を真っ赤にしながらもチラチラ見てきたけど? それと事故装って胸を触らせたりもしたけど……」

 

「嘘だろ……」

 

「本当。おじさんと違って若いからかな? 一々反応が可愛くて、そこも結構好きなんだ」

 

「………………」

 

 

 あっれー……大人しそうな子の癖に随分と大胆行動に出れるんだなこの子……と、刀奈とはまた別の変な強さを持つ簪に一誠は微妙な気分になるのと同時に、この先何度一夏がムラムラさせられるのかと思うと、ちょっと彼に同情してしまう。

 

 

「凄まじく鈍いからね一夏は。

別に私も好きでやってる訳じゃないしたまにしかやらないけど、こうでもしないと意識すらされないでしょ?」

 

「まぁ聞いてる限りはな……」

 

「それに本音も本音で結構烈火に対して大胆らしいし?」

 

「本人は卑屈なまでにありえないと言ってたけどな」

 

「だからだよ。

お姉ちゃんがさんざん寸前で躊躇して結局ダメなのを見てるからこそ、私は私なりにちょっと恥ずかしいけど、攻める所は攻めるんだよ」

 

「な、なるほどね……」

 

「はぁ、お姉ちゃんもいっそおじさんがお風呂の時に全裸で突撃しとけば良いのにさ? 前にそれとなく言ったらクッションに顔突っ込んで『ま、まだ無理よぉ!』って言ってやれなかったみたいだけどさ」

 

「……………」

 

 

 

 ある意味刀奈に勝る面があったわ……と、大人しそうな顔して大胆すぎる事を言う簪に、一誠も少しだけ妙な感心をしてしまう。

 

 そしてその簪の行動は――

 

 

「あ、あの……最近簪からのスキンシップ的なものが多い気がするんです。

し、しかもこの前は、す、スカートの中身を見てしまっても、見たことない妖艶さを醸し出しながら『ふふ、もっと見せてあげよっか?』だなんて言うし! き、昨日なんか、アイツの胸に顔を突っ込んでしまっても怒らないどころか――『よしよし、疲れたらなら甘えてもいいよ一夏?』って……! こ、これってどういう意味なんでしょうか!?」

 

 

 割りと一夏を揺るがせていたらしく、後日動揺しっぱなしの一夏から相談された一誠は内心『あの子思ってたよりスゲーかも……』と、簪のよくわからない潜在パワーに戦慄するのだったとか。

 

「事故で何度か他の女子の下着を見てしまった事はありましたが、簪は一番地味というか、却ってだからこそドキドキしてしまうというか……お、俺って最低な男なんでしょうか!?」

 

「いや、きっと健全な反応だとは思うよ……。なぁ神崎君?」

 

「さ、さぁ俺にもよく……。ただ、思ってる簪の性格と違う気が……」

 

「いや俺ももっと初な子かとおもってたけど、その部分は刀奈――じゃなくて楯無の方が担ってたみたい」

 

「そうなんですか……。最近他の一夏を好いてる女子が更識さんに対して危機感を持っててある意味団結はし始めてますけど……」

 

「まさに毒を以て毒を制すだな……」

 

 

 思春期男子らしい悩みを持ち始めた一夏の相談を受けつつ、簪の魔性じみた行動にただただ驚く。

 

 

「そういえば最近のほほんさんも烈火に対して距離が近いんですよ。

この前なんか教室で押し倒されてたし」

 

「おいおい、避妊具もなしに大胆な……」

 

「違いますよっ!!! のほほんさんが椅子に足を引っ掛けて転びそうになってたまたま俺とぶつかっただけなんです! なんにもありませんし、下手したら訴えられてても可笑しくなかったと戦々恐々だったんですよ!?」

 

「はいはい。ったく、良いよなぁそれなりに青春やれてさぁ! まったく羨ましいぜ。

こちとら目の前で初恋の幼馴染の女の子が俺の目の前で男と窒息するんじゃねーかって思うくらいのキスかましてんの見せられてるってのにさ!」

 

「え……そ、それは」

 

「それって例の……?」

 

「まーね……!

はっ、もっとも昔の話で今はもうどうとも思ってねーけど。

ただ、それ以降何もないままこの年まで来ちまったがな」

 

 

 それと同時に青春してる二人の男子を見てるとやはり羨ましいと一誠はちょっとヤサグレ風に愚痴る。

 

 

「あ、そういえば千冬姉が俺達の相談っていうか避難場所になってくれてる兵藤さんにお礼ができてないって……」

 

「は? あぁ、それ前も本人から言われたけど、別に良いって君のねーちゃんに伝えといてくんね? そんな深く考えなくても良いし、どうしてもってなら今度食堂のプリンでも奢ってくれたらそれで良いって」

 

「あ、はいわかりました……」

 

「織斑先生も律儀な子――って言ったら失礼か、律儀な方だよなぁ?」

 

「めっちゃ鬼教師っすけどね……」

 

「でも美人だし良いじゃん。あの黒いレディーススーツに黒タイツが中々良いテイストを醸し出してるよな?」

 

「いや『な?』って俺に言われても……」

 

「というか俺弟として聞かされるとちょっと複雑っす」

 

「そりゃそうだな。悪い悪い、まぁでも心配しなくても変な真似なんて絶対しないし思わないぜ」

 

「それはそれで逆にもっと複雑なんすけど」

 

「じゃあ想像してみ? 俺が仮に君のねーちゃんを全力でデートに誘おうとする光景なんか見たくないだろ? いや、本当にする気なんて無いから仮の話だけど」

 

「うーん……まず千冬姉が乗ってくるとは思えないし即答で断りそうっす」

 

「だろ? そんなタイプだってわかってて突撃しようと思うほど何かを思ってる訳じゃないしさ、それにさ……なんか――すっげー気ィ使いそうだろ?」

 

「あー……弟である俺や幼馴染の烈火的にはそうは思わないですけど、他の人から見たらそう思うかもしれませんね」

 

 

 すっかり男子の駆け込み寺になりつつある用務員室内でお茶を飲みながら、何故か千冬の事について微妙に盛り上がる三人。

 

 

「貶してるんじゃないぞ? なんていうか話が合わなそうっていうか……」

 

「「……………」」

 

 

 一人の教師という意味では、まだ若いのに頑張ってるなぁと思うが、言ってしまえばそれだけであり、一誠は特に千冬に対しては単なる教師だとしか認識してない。

 故にお礼をして貰う必要だってないし、される程自分が何かしてるつもりもない。

 

 そして何より、現在一誠にとって身近な女性たちと比べると根本的に話とか趣味が合わない気がしてならない……と、二人に向かって千冬に対する己の抱くイメージを語ってた一誠だが、ふと対面側に座ってる二人を見てみると、自分……じゃなく少し斜め上――それもどうやら自分の後ろを見て顔が青ざめてるではないか。

 

 

「?」

 

 

 一体なんだ? と平和ボケしまくりな一誠が後ろを見てみると……

 

 

「………………」

 

 

 

 噂の千冬がそこに立っていた。

 

 

 

「…………………」

 

 

 

 即座に前を向く一誠が二人の首根っこを掴んで引き寄せる。

 

 

「や、やべーぞ、何時からいたんだ? てかどっから聞いてたんだ?」

 

「き、気付いたら入ってきてました……!」

 

「へ、下手したら全部聞かれてた可能性が……!」

 

 

 

 無言で一誠の背後からこちらを見下ろしている千冬に誰も目が合わせらない。

 いや、別に悪口を言ってた訳じゃないのだから堂々としてれば良いのだけど、微妙に気まずいのだ。

 

 

「い、いやー……織斑くんのねーちゃんって美人よな? 今度俺に紹介してよー(棒)」

 

「え、えー? 千冬姉は大切な俺の姉ですからそう簡単には紹介できませんよー(棒)」

 

(へ、下手すぎだろ演技!?)

 

 

 だからアドリブで持ち上げる台詞を棒読みで話す一誠と一夏だが、あまりに大根すぎて烈火が内心突っ込みを入れる。

 

 

「…………………はぁ、別にわざわざそんな演技までする必要はありませんよ」

 

 

 そんな二人に千冬も途端に毒気の抜かれた様な顔になる。

 どうやら別の意味で成功したらしい。

 

 

「別にあれですからね? 織斑先生の事はお若いのに教師されててご立派だなとは思いますけど、別に黒タイツにちょっとしたエロスを感じたりとか、結構美人だなとか思ってナンパなんて恐れ多い真似は絶対にしませんからね?」

 

「……………………。そこまで言われると逆に妙な屈辱感を覚えるのですが?」

 

「あ、あははは………他意はないんです、ごめんなさい」

 

「絶対ほぼ聞いてたな千冬姉……」

 

「居たたまれないんだが……」

 

 

 ただ微妙にギクシャクした空気だけは直らなかったらしい。

 

 

「この前言いそびれていた話をと思いまして」

 

「あぁ、お礼の話ですか? それなら今度食堂でプリン一個奢ってくれるだけで構いませんから!」

 

「………。差し支えなければお聞きしますが、私は貴方に何か不快な思いでもさせましたか? 妙に距離を取られてる気が……」

 

「いやだってそりゃ、趣味も合わなそうだし、会話するだけでも疲れそ――」

 

「……………………」

 

「――じゃ無くてェ!!! 織斑先生があんまりも美人さんだから俺みたいな虫けらが近寄るのも烏滸がましいかなって思うのデス!! いやぁ、こんな近くで織斑先生とお話できるなんて僕ちゃん幸せだな!!」

 

「…………は、はぁ?」

 

「すげーあの千冬姉が戸惑ってるぞ」

 

「あぁ、レアだな」

 

 ただ、刀奈が横に居たら大変な事になりそうな誤解はありそうだが。

 

 

終わり




補足

微妙に何でかメンタル面が強いかんちゃんは、すんごい大胆というか、時にはからかってモヤモヤさせ、時には誘い受けに持ち込んでドキマギさせてと、主導権を握るのがうまい子に何故か成長してました。

あとおじさんこと一誠にパンツ丸見えと言われても、お姉ちゃんの事があるせいか割りと平気っつーか、一夏にも発揮されてるので一夏は最近ムラムラ気味らしい。


その2
そんな女の子の行動についての相談をよりにもよって一誠にしてる内に何故かちーちゃんの話になったは良いけど、変な空気になったのは仕方ないね。

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