色々なIF集   作:超人類DX

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……えーっと、特に書くことがねぇ。


転生者なりの苦悩を知る先代

 神崎烈火にとって、少し種類は違うが別世界からやって来た存在たる兵藤一誠の存在はとても有り難かった。

 何せ自分の秘密を打ち明けられずに生きていかなければならないのと、打ち明けられるとではストレスの蓄積具合が天と地程の差なのだ。

 

 だからついつい、何でもない日だろうと用務員をしている一誠を訪ねては心の癒しにしてしまう訳で。

 

 

「キミ等のクラスの学園祭の出し物は喫茶なんだ?」

 

「ええ、何でも一昔前に一世を風靡したメイド喫茶をやるみたいで……」

 

「ふーん」

 

 

 この日も一夏に恋心を持つ女子達が一夏を訓練と称して連れ出すのを見送った烈火は、一人工具の手入れをしていた一誠の居る用務員室でお茶を飲みながら、自分達のクラスが学園祭でやる出し物についてを話していた。

 

 

「あれ、兵藤さんなら興味を持ってくれると思ったのですが、メイド喫茶に」

 

「メイドに扮装するのが生徒だろ? 悪いけど子供にしか思えねぇからイマイチ食指が動かんな」

 

「ははぁ、なるほど。

一応織斑先生と山田先生にもメイドになって貰うプランがあるんですが」

 

「山田先生に関しては話もしたことなければ、ちょっと童顔過ぎるし、織斑先生の場合は……ちょっとした交通事故を連想しちゃうんだよなどうしても。

俺はどっちかと言うと、妙齢な女性が無理してメイドのコスプレしてるって方が興奮するタイプだしよ」

 

「思ってたよりもストライクゾーンが狭いっすね……」

 

「キミの知る俺通りじゃないって事だな」

 

 

 一夏と烈火のクラスの担任と副担任がもしかしたらメイドになるかもしれないという話を聞いてもイマイチ乗らない一誠の言葉に烈火は苦笑いする。

 

 

「それでも当日は少しでも良いから来てくださいよ。お安くしますよ?」

 

「暇ならなぁ。前みたいに織斑君が大好きな女子生徒達が癇癪起こしてISを起動させて学園の備品を破壊さえしなければ」

 

「…………すいません」

 

「別に怒ってる訳じゃないから安心しろ。

ただ、校舎内で起動して空調システムをぶっ壊された時は結構参ったけどな。

お陰で業者の手配からなにから全部俺がやらされる羽目になったし」

 

「あれは大変でしたね……」

 

 

 グータラ化してる一誠にとって、余計な仕事は是非とも避けて通りたい道なのだが、この学園の女子達は約一部がとても我が強すぎてしまうせいで、中々に仕事量が多いのだ。

 具体的には破壊された施設の一部や何やらの修繕手配的な意味で。

 

 

「何度窓ガラスの張り替えの為に業者に頭下げたのか。

元気が良いのは結構だけど、もう少しなんとかして欲しいっつーか。いや良いんだけど」

 

「………今度言っときます」

 

「織斑君が早いとこ誰かと付き合ってくれたら良いのによー? ったく、モテモテ君は焦らしも上手くてたまんねぇよ」

 

 

 昼近くになって起きて、ダラダラとゲームだのPCだのして、ブラブラと用も無いのに散歩して、夕方になったら瓶ビールを冷えたグラスでやりながら枝豆をつまんでナイター中継を観て――的な生活に戻りたくて仕方ない一誠は仕事量の多さに辞めたい気分でしかなくなる。

 

 典型的過ぎるまるで駄目なおっさんと化してしまってる理由はやはり、目的が無いからの一言に尽きる。

 

 復讐は果たした。

 刀奈も立派な後継者に成長した。

 その次の目標が見付からないからこそ、一誠はダラダラとした男へとなってしまっているのだ。

 

 

「最近、更識さんに対して一夏がかなり意識してるんですけど、彼女って最初からあんな性格だったんですか?」

 

「いや、寧ろ凄い大人しくて、姉貴とも結構な確執があった筈なんだけど、気付いたら普通に仲直りしてたな。

ていうか、あんなイケイケな子だとも知らんかったし」

 

「そうなんですか……」

 

 

 じゃあ結婚を目標にしたら良い――と思うのだが、一誠の場合は既に肉体的にも精神的にも人間という理から完全に逸脱した新種の生命体みたいなものであり、また肉体の老化が20手前から完全に止まってしまっているので、恐らく相当長生きしてしまう。

 そんな男を受け入れてくれる存在なんてほぼ限られている訳で……。

 

 

「あープラトニックな青春が送りたかったなぁ! キミ達くらいの年の頃なんて、地下に潜伏しながら相手をぶち殺す事ばかり考えて修行しまくってた毎日だったから余計今になると思うわ」

 

「俺が言っても無責任な発言になるかもしれませんが、今からだって遅くないと思いますよ? 第一生徒会長さんは――」

 

「本当にあの子が小さい頃から見てきた子だから、どうもそんは目では見れないよ。

つか歳が離れすぎだし」

 

「でも芸能人なんかは一回り年下の女性タレントやアナウンサーと結婚することの方が多いじゃないですか」

 

「じゃあ直ぐ離婚するかもしれねぇじゃんか」

 

「いや、兵藤さんと生徒会長のやり取りを見てると、そういう事になったら本気で大切にしそうに思えますけどねぇ」

 

「どうかなぁ、酒乱クズ夫に変貌するかもしれねぇぜ?」

 

「そうご自身で言ってる時点でまずなりませんよ」

 

 

 気付けば一誠の恋人は誰が良い的な話にシフトし、烈火の言葉に一誠は腕を組ながら、小さい頃から自分の技術をほぼ全て叩き込んだ弟子について考える。

 

 

「うーん……やっぱり何年経とうが子供にしか思えねぇな」

 

「その内そうは無くなる日は絶対にありますって」

 

「ヤケに推してくるが、キミこそどうなんだよ? 本音ちゃまとは?」

 

「俺は……転生者ですから。もしかしたら貴方が憎んだ様な男になってしまうかもしれません」

 

「お返しじゃないが、そう言ってる時点でそうはならんだろキミは。

ったく、俺が殺したあのクソ野郎は相当のクズだったらしいとキミを見ると余計思うぜ」

 

「俺からすればその男が逆にそこまで欲に忠実過ぎることに引きますよ」

 

「だろ? 普通、一人の女と寝た五分後に別の女と代わり代わりに寝れるか? もっとも、そいつが抱いた女ってのは人間じゃねぇ畜生共の雌だがよ」

 

「悪魔とか……ですか?」

 

「あぁ、お陰で俺は人間以外の生物はチンパンジーか何かにしか思えなくなったよ。それと比べるのはあの子に失礼だけど、確かに刀奈の事は異性としては少しは見れるね」

 

「だから俺の知ってる兵藤さんとは違って女性のタイプが偏り過ぎてるって感じるわけだ……」

 

「キミの知ってる俺はどうも、綺麗所な女なら種族関係ないらしい。

ま、奴が存在しなかったらそうなってたろうな俺も」

 

「ええ、だから俺も俺のせいで一夏の人生や価値観を歪めてしまったら駄目だと思って……」

 

「けっ、織斑君は本当に運に恵まれた子だよ」

 

 

 かつて転生者に与した存在を種族ごと根絶やしにした一誠は、烈火というまとも過ぎる転生者に影から思いきり支えられてる一夏を羨ましいと思った。

 彼がもし自分達の世界の転生者だったら、自分もこうまで歪まなかったし、他の犠牲者も無かっただろう……。

 

 

「キミが良い奴で良かったよ」

 

「逆になりたくても貴方が憎んだ転生者みたいにはなれませんよ。

別に強い力なんて俺にはありませんし、必要ないって断りましたから。強いて言うならちょっと頑丈ってところぐらいでしょうか」

 

「そうかい」

 

 

 烈火と共にお茶を飲む。

 別人とはいえ、転生者というカテゴリーの存在とこんな落ち着いて話をしながら茶を飲む日が来るとは……。

 一誠は人生は正に何があるか分からないという言葉を染々と感じながらお茶請けのおはぎを口に放り込むのだった。

 

 

「いっちーおじさーん! ここにかーくん来てなぁい?」

 

「お、本音ちゃま。

神崎くんなら来てるぞ?」

 

「う、のほほんさん……」

 

「あ、かーくんみっけ!」

 

 

 頭を撫でるとか、微笑むとかで女を簡単に惚れさせる催眠術めいた薄気味悪い力も無いし、正に何でもアリとしか思えない理不尽な力も無い。

 寧ろ、自分から一夏以外の関係者となる者から距離を置こうと神経質にすらなってる。

 

 今だって、彼に対してかなり好意を持ってる布仏本音がやって来て烈火を探していたと言ってるのを、かなりバツの悪そうな顔で目を逸らしてる。

 

 

「おりむーがしののん達に連れてかれちゃったし、かーくんはいつの間にか居ないし……」

 

「えっと……ごめん。ここに来るつもりだったから……」

 

「むー、それなら私も誘ってくれても良いのに~ おじさんの事は私もよく知ってるのにさぁ」

 

「い、いやそれは……」

 

「まぁまぁ、落ち着けよ本音ちゃまよ。

男同士で腹を割って話し合いたい日だってあるんだよ。例えばほら、織斑君は一体誰とゴールインするかって話とかさ? な?」

 

「う、うん」

 

 

 烈火を発見した途端、余ってる制服の袖を振り回しながら、当たり前の様に烈火の隣に座り込む本音の不満に一誠がお茶とお菓子を出しながらフォローを入れる。

 女性が根本的に苦手という訳ではないが、それでも一歩踏み出せる勇気が彼には無いらしい。

 

 一誠に耳打ちされて以降は余計に本音との距離感に戸惑ってしまっているが見ていてよくわかってしまう。

 

 

「おりむー? うーん、最近かんちゃんが本気出し始めてるし、おりむーも結構かんちゃんを意識してるから、今のままならもしかしたら、かんちゃんだったり?」

 

「やっぱりあの子凄いな。

何時からあんな子になったんだろ」

 

「主におじさんのせいだと思うけどねー」

 

「え……俺? なんで?」

 

「いやほら、楯無お嬢様とのやり取りを見てて、お嬢様がかなりヘタレだから、それを反面教師にしたって」

 

「……………あー」

 

「そんな背景があったのか……」

 

 

 然り気無く肩を寄せてこようとする本音から離れようとする烈火と共に、簪の顔に似合わない大胆さの理由を知ってちょっとだけ納得する一誠。

 

 

「だから私もかんちゃんを見習う事にしたんだ。

なんとなくかーくんっておじさんにタイプがちょっとだけ似てるし」

 

「な、何故俺……」

 

「いや彼の場合は俺とは違うぞ?」

 

「違うの? うーん……私はちょっと似てると思うんだけどなぁ」

 

 

 そう言いながら然り気無く逃げられてる烈火を見る本音が逃げられない様にとそのまま烈火の膝に頭を乗せて膝枕されてる状態に持ち込む。

 

 

「の、のほほんさん……これは」

 

「んー? だってかーくん逃げるんだもん。

私のことキライ……?」

 

「い、いやキライじゃないけど!」

 

 

 そしてその状態で烈火を見上げ、ちょっと目を潤ませながら問う。

 そのある意味での攻撃はすさまじい威力を誇り、烈火もアタフタしてしまう。

 

 

「私かーくんの事好きだよ?」

 

「なっ!?」

 

「すげぇ、このタイミングで言って完全に逃げ道塞ぎおった。

……ホント姉達と違っていつの間にかこんな駆け引きも出来る様になったのか……」

 

 トドメというか完全に逃げ道を無くさせた一言に烈火は戸惑い、一誠は妹二人の強かさに姉二人との違いを感じていた。

 

 

「かーくんは他に好きな子がいるの?」

 

「お、俺はそんな事を考えた事は……」

 

「それなら私と……だめ?」

 

「お、俺は……俺は……!!」

 

「おいその辺にしてやれ。彼も突然すぎて心の整理がつかないんだよ」

 

「……。そうみたい、でもねかーくん? 私は本気だからね? 知ってるよ? 何時もおりむーやおりむーの事が大好きな人達に遠慮して距離を置こうとしてるのも、おりむーに悟られない様に色々とフォローしようとしてる頑張り屋さんな所も。

だからそんなかーくんが私は大好きなんだよ?」

 

「……………………」

 

 

 膝枕を止め、ソファーから降りた本音は何時もの雰囲気とは違う、本気の表情で烈火に告白する。

 その立会人にいつの間にかされてる一誠も、茶化す真似はせず本音の本気さを感じつつ烈火を見るが、まだ彼には踏ん切りはつかないだろうと思っていた。

 

 

「今すぐ返事はしなくて良いよかーくん。

でも何時かはしてね? かーくんの抱える何かに踏ん切りがついた時とかさ?」

 

「……………」

 

(青春してらぁ……ちくしょう、普通に羨ましいんだけど)

 

 

 神崎烈火。

 自らの意思で損だと分かっててもその道を選んできた彼の明日は果たして何処へ。

 それはまだ誰にもわからない。

 

 

「甘いよお姉ちゃん。

おじさんはお姉ちゃんをまだ子供だと思ってるんだし、ここは大胆な攻めを見せないと、ずっと弟子で子供だという認識のままだよ?」

 

「で、でもどうしたら良いのかしら? 考えられる手段は使ったけど、お師匠様に通用しなかったし……」

 

「そうだね……寝てるおじさん相手には大胆になれるのだから、寝てない時に裸でベッドに潜り込むとかしてみたら良いんじゃない? もう子供じゃないって言いながら」

 

「! そ、そんな大胆過ぎるわよ……! は、恥ずかしいし……」

 

「じゃあ無理だよ一生。

ずっと弟子のままの関係でいいの? 嫌でしょ? イチャイチャしたいんでしょ?」

 

「い、イチャイチャしたい……」

 

「じゃあやるしかないよ。大丈夫だよ、おじさんは結構お姉ちゃんの事大切にしてるもん」

 

「…………」

 

 

 そして妹にレクチャーされてる姉の明日もまだわからない。

 

 

終わり

 

 

 

 

オマケ

 

暗黒騎士御一行のその日。

 

 

 基本的に稼ぎが無いに等しい元士郎。

 無論彼と同化してるメシアが働く訳もなく、今の生活資金はなんと三人の中でも間違いなく年下でまだ未成年の少女の人には言えない仕事の収入だった。

 

 

「貴方が私のチームメイトの言っていた匙元士郎さんね?」

 

「………誰だアンタは?」

 

 

 そんなヒモニート状態の元士郎に、とある人物が訪ねて来た事で状況は一変する事になる。

 

 

「私は貴方の同居人の仕事場の――えーっと、所謂上司に当たる者よ」

 

「はぁ……じゃあ取り敢えず中へどうぞ」

 

「ええ、お邪魔するわ」

 

『? この人間、肉体の一部が人工物だ。

それに他と比べたら多くの陰我を抱えている』

 

 

 長い金髪を靡かせた妙齢の女性が、同居人の少女の勤め先の上司と名乗ったので、取り敢えず家の中に通した元士郎に、今彼の中に宿っていて彼にしか声が聞こえないメシアが女性の中身を察知していた。

 

 

「取り敢えず粗茶ですが」

 

「ありがと。ふむふむ、彼女は中々良い場所を借りてるみたいね。

実はどういう所に住んでるのか、恥ずかしながら知らなかったのよ」

 

「は、はぁ……」

 

「少しは安心したわ、素敵な同居人さんも居るみたいだし?」

 

「…………」

 

『油断――した所でそなたなら問題なく対応できる程度だが、警戒はしろ』

 

 

 にっこりと微笑む女性に、忠告するメシアに内心頷きながら、元士郎は彼女の反対側に腰かける。

 

 

「何のご用ですか? マドカなら会社に出勤した筈ですが……」

 

「知ってるわよ? 私が訪ねた理由は貴方に用があるからだもの」

 

「…………俺?」

 

 

 同居人……マドカでは無く自分に用があると宣う女性は黒いスーツの胸ポケットから名刺を取り出して元士郎に手渡す。

 

 

「ご紹介が遅れたわ。私はスコール・ミューゼル。

単刀直入に言わせて頂くわ匙元士郎さん、貴方を私の会社のチームにスカウトしに来たの」

 

「…………は?」

 

『スカウト……?』

 

 

 人の良さそうな笑みから、ほんの少しだけ好戦的な笑みへと変えたスコールと名乗る女性に元士郎は警戒の糸を少しだけ張り詰めさせた。

 

 

「何故俺を? マドカの同居人だからですか?」

 

「そうね、まず彼女がそこまで心を許す相手に興味があったのと――数年程前に頻繁に『黒い事をやってる研究施設』の人間が行方不明になったという事件があって、それが誰の手によって起こっていたというのを調べた結果、貴方に行き着いたからというのが大きな理由ね」

 

「………」

 

『お前が我と分離する為に、陰我を抱えた人間を喰らってた時期だな』

 

 

 スコールの話に元士郎の目付きが一気に変わる。

 確かに彼女の言うとおり、数年前までメシアと分離したいが為に多くの陰我を求めて、黒いことをやってそうな場所を襲撃するという真似をしていたが、そのひとつにマドカが造られた研究施設を破壊して以降は止めていた。

 メシアが俗っぽくなりすぎてアホで扱いやすくなったからというのもあるが、あまりマドカにそんな光景を見せたくは無かったからというのも大きい。

 だがこの女は数年前までの事件の事を知っている、しかも誰がやったのかを。

 

 どこで足が付いてしまったのかはわからないが、時と場合によってはこの女を『喰らう』必要があると元士郎は殺意を放ち始めると、スコールという女性は少しだけ冷や汗を流しながら口を開いた。

 

 

「思っていた以上に強烈ね。

心配しなくてもネタで揺するつもりは無いわ。ただ、私はその力を貸して欲しいだけ」

 

「貸す理由が俺にはねぇ。今すぐここでアンタを塵ひとつ残さず消せばそれで終わりになる」

 

「そうなれば、私のバイタルサインが消えた瞬間、本社に貴方に関する私が個人で調べた全てが送信されるわ。

そうなれば本社は貴方に対してもっと汚い手をつかってでも服従させようとするわ。

例えばあの貴方と共に居るクローンを人質に――」

 

 

 クローン……その言葉を放った瞬間、スコールの首筋に細身の両刃の剣の刃が当てられた。

 その圧倒的な速度にスコールは目を見開きながら驚愕してしまう。

 

 

「その言葉を使うな、不愉快だぜお前……?」

 

(その気になれば首を落とされてた。これは思っていた以上に強いわね、隻腕の様だけど、このご時世にこんな男が存在してるとは思わなかったわ)

 

 

 久しく見なかった強い男を前に、血が騒ぐスコールだが、ここは落ち着いて素直に謝罪する。

 

 

「不快な思いをさせたのなら謝罪するわ。

でも悪い話では無い筈よ、貴方の同居人さんはいくら『強い』といってもまだ幼い。

だから貴方が近くで見守ってあげれば安心じゃない?」

 

「…………」

 

『あの小娘はどんな仕事をしてるのだ? 前に聞いた時は【タンポポを刺身の上にのせる簡単な仕事】だと言っていたが』

 

 

 剣を鞘に収めた元士郎に殺意が無くなったのを確認したスコールがマドカの立ち位置を仄めかしながら落としに掛かるが、元士郎もメシアも実はそんな危険な会社に勤めてるとは知らなかったし、メシアの言った通り、コンベアから流れてくるパックの刺身にタンポポを乗せるだけの仕事だと思ってたぐらいだ。

 

 まあ、流石にそれが嘘だと元士郎は少しだけ見抜いていたが。

 

 

「どう? その腕っぷしなら十分に私のチームに歓迎できるし、給料も弾むわよ? マイホームを買うんでしょ?」

 

「………どこで聞いたそんな話?」

 

「前に預金通帳を確認しながら、彼女が小さく『マイホームを買ったら元士郎をもっと養える』ってニヤニヤしてたのを偶々見たのよ」

 

「………………」

 

「その、なんというか言いにくいけど、あんな幼い子のヒモになってるのもどうかと思うわよ?」

 

「……………」

 

『何だこの女? 偉そうに説教を垂れる気かこの我に』

 

 

 ヒモと言われてちょっとは自覚があったのか、凄まじくバツが悪そうな顔をする元士郎とは反対に、メシアはニートという概念に当てはまらない存在故が自覚もせず寧ろ偉そうなスコールに対して喰らってやろうかと呟いている。

 

 

(ここで彼のスカウトに成功すれば、あのクローンに対する首輪にもなるし、逆に彼にはクローンの存在により首輪を付けられる……。

男だからISは起動できないでしょうけど、生身の実力はそこそこらしいから利用価値はあるわね)

 

 

 そんな元士郎に対してスコールは内心ほくそ笑むのだが、元士郎の中にとある世界のとある生物にとっての神様的存在が宿ってるのだけは見抜けてないし、彼自身がやばい存在なのもわかってない。

 マドカに対する首輪付けのための要因としか見なしてない。

 

 

「………」

 

 

 そして……。

 

 

「本日より我々のチームに配属になった新人でコードネームはGよ」

 

「………よろしくお願いします」

 

「はぁ!? スコール、こいつ男じゃない! 何で男なんか――べぶ!?」

 

「どけオータム! 元士郎、本当に一緒に仕事をするのか!?」

 

「あぁ、ヒモはよくないと思ってな」

 

「そ、そうか! これが所謂二人の将来の為の共働きって奴だな!」

 

「て、テメェぶっ殺――」

 

「はい落ち着いてオータム。

そういう訳だからしばらくMが彼の新人教育をしなさい」

 

「任せろ! 今初めてアンタに対してよくやったと思ってるぞ私は!」

 

「あ……そう。(見たこと無いくらいに感情が豊かになってるわね、やっぱりスカウトして正解だったわ)」

 

「チッ、何でこんなしょぼくれた顔した男と組まなきゃならねぇんだよ……」

 

 

 ヒモニートは怪しい秘密結社に無事就職してニートを卒業しましたとさ。

 

 

「ISが起動できない時点で役立たずじゃねぇか! おいコラ新入り、片腕もねぇし、明らかに使えねーんだから茶でも汲んで――ぶべら!?」

 

「おっとスマナイな噛ませ犬顔? 足がつい滑ってしまったよ」

 

「こ、この人形が……! やっぱり気に入らねぇから今殺して――ひでぶ!?」

 

「すいません。湯飲みが暴走してしまいました」

 

「………。あんまりオータムを苛めないでね?」

 

『強い陰我を感じる』

 

 

終わり




補足
のほほんさんがかんちゃんと同じで強い(確信)


その2
そしてそんなかんちゃんに教えて貰ってるお姉ちゃん。


その3
刺身にタンポポを乗せるだけの仕事だと思ってたらブラックっぽいデカい秘密結社で、スカウトされて無事ヒモニート卒業しましたとさ。

マドカたんうきうき、スコールさん腹の中でほくそ笑み、オータムさんは世紀末モヒカン断末魔。

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