色々なIF集   作:超人類DX

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脱ヒモニートした元ちゃん。

彼の普段のお仕事は――兵士時代みたいな雑用さんだった。


元ちゃんの入社数日目

 ファントム・タスク。

 そう名乗る実態不明の組織にヒモニート脱却の為に就職する事になった暗黒騎士。

 思っていた以上に何を目的にしているのかが不透明で、またやってる事は間違いなく慈善事業ではない。

 

 先んじて就職して敏腕を振るってたらしいマドカ曰く、『似たようなスカウトを受けて給料が良かったから就職した』と、彼女自身の出生をも把握しているらしい。

 マドカに関する痕跡は可能な限り物理的に消したつもりだった元士郎は、自分のやっていた事まで知られていたこの組織に対してますます不信感を抱く訳だが、彼と一体化しているホラーの始祖・メシア曰く、『他とは比べ物にならない程の強い陰我を感じる、もしかしたら史上初のホラーが生まれるかもしれない』という言葉に、しばらく元士郎は様子を見ることを決意させた。

 

 一体化したメシアに力を与え、分離して弱体化する事が今の元士郎の目的なのだから。

 

 

「IS学園に潜入?」

 

「そう、無事に我々のチームへと配属になったGの初めての任務よ」

 

 

 その為と一財産築く為にはお茶汲みだろうが何だろうがしてやる。

 かつてソーナ・シトリーの兵士として築いたしったぱ精神が此処で役にたつことになった二代目暗黒騎士は、チームリーダのSことスコール・ミューゼルによって召集され、ただ今金が掛かりそうなホテルの部屋で他のチームメイト達と共に、絶対に慈善事業じゃないだろう任務の話を聞いていた。

 ……………お茶汲みしながら。

 

 

「あの学園には各国の代表候補生が在籍し、多くのISのデータが眠っている。

普通なら強固なセキュリティで盗み出すのは容易ではないけど、近々あの学園ではそのセキュリティが緩くなるチャンスが訪れるわ」

 

「?」

 

「ひょっとして学園祭の話か?」

 

「正解よM。世界中から狙われる施設のひとつなのに中々呑気なものだと思わない? もっとも、だからこそ我々の仕事もやりやすいけど」

 

 

 どこかの学園の学園際に潜入して何やら情報を盗み出すのが元士郎の初任務らしい。

 片腕で器用に日本茶を淹れ、チーム内での主要クラスであるスコール、マドカにお茶を出しながら元士郎はISの価値が一切理解できないのと全く知識も無い為、わからない事だらけだった。

 

 

「おい新入り、何で私に茶を出さねぇんだコラ?」

 

「あ、すんません。今淹れます」

 

 

 だからついつい手を止めて話を聞いていると、自分だけ茶が無い事を不満に思ったOことオータムが、おおよそ女だと思えない乱暴な口調で元士郎を睨み付ける。

 が、そんな睨み等寧ろ可愛いものにしか思えない元士郎は軽く受け流すと、そのままオータムにもお茶を淹れてあげた……。

 

 

「お待たせ致しました、淹れたて熱々なので火傷しないように……」

 

 

 ボコボコと、マグマみたいに沸騰した熱々のお茶を。

 

 

「こんなのが飲めるかァ!!」

 

 

 半分単なる嫌がらせのつもりで、案の定激怒したオータムは熱々の湯飲みをそのまま元士郎に投げ付けるが、事もなさげに避けられ、壁に熱々湯飲みがぶつかって無惨にも破壊されてしまう。

 

 

「駄目だコイツ! やっぱり私を嘗めてるって! こんなのと仕事なんてできる訳がないだろ!」

 

「落ち着きなさいO。Gもあまりおちょくるのは控えなさい」

 

「っす」

 

「ぷぷ、敬意を持たれる様な奴じゃないだろお前は」

 

「んだとゴラァ!!」

 

 

 最初のコンタクト以降、オータムに対してはどうもなめ猫の如く嘗めきった態度を崩さない元士郎。

 それはどうもマドカも同じだった様で、半笑いでオータムを煽って怒らせていた。

 

 

「どっちの立場が上か今この場でわからせてやらぁ!!」

 

「此処で起動させたら私も怒るわよ」

 

 

 そんなオータムは怒り狂って手持ちのIS機であるアラクネを起動させようとするが、スコールが少し殺気立ちながら場を飲み込んだので、なんとか未遂に終わる。

 

 

「……よろしい。それで話を潜入の話に戻すけど、Gは隻腕でそのままだと嫌でも目立ってしまうわ。

入社祝いで義手を与えたいと思うのだけど……」

 

「義手? いや、そういう類いは好きじゃないんだ俺は。なんかこう、違和感があるというか……」

 

「直接神経とリンクできる軍より30年は技術が進んだ最新鋭の義手で脱着も容易だわ。

こういう任務の時だけはそれで誤魔化してちょうだい」

 

「……」

 

「良いんじゃないか元士郎? タダでくれるというのなら貰っておいても。

それにその腕が復活したら全盛期以上になるだろうし……」

 

 

 うーと番犬みたいな顔でこっちを睨んでるオータムを無視し、目立つ事を避けて与えられる事になる最新鋭なる義手の話にマドカとスコールが元士郎を説得する。

 確かに義手だろうと両腕に戻れば不便な面も解消はされるが、こんな胡散臭い組織から与えられる物をそう簡単に信用出来る程元士郎も子供ではなくなってる。

 

 

(どう思うメシア?)

 

『我に相談事とは珍しいが、良いのではないのか? 常々そなたにはその失った腕を再生させようと思っていた所だからな。

もし両腕に戻ればそなたも『げぇむ』が出来るだろ?』

 

(………)

 

 

 どう思うか、この肉体に住み着くメシアに聞いてみれば、ゲームで対戦できるから賛成だと言う。

 人間程度の思惑ごときに遅れは取らないという自信から来る意見なのだろうが、理由がかなり俗っぽいので、微妙な気分になってしまう元士郎はきっと悪くない。

 

 

「………了解」

 

 

 結果、元士郎は潜入任務系やメシアとゲーム対戦をする時のみその義手を装備することを条件に貰い受ける事にした。

 

 

(これで良し。

この二人には首輪を着けたけど、念には念を入れておかないとね)

 

「やったね元士郎、でも私に触れる時は元士郎自身の手でお願いな?」

 

「ん」

 

 

 加入してから、無機質な態度が嘘みたいに感情豊かになっているマドカに懐かれてる元士郎を見ながら、上手く行ったとほくそ笑むスコール。

 どうやら義手に何やら仕込む予定らしいが、果たしてそれが本当に通用するのかは――悲しいけど多分無理だという事まではまだスコールは元士郎を知らない。

 

 

「では今日は解散よ。

ほらOも何時までも不貞腐れてないで?」

 

「チッ……次ふざけたら許さねーからな」

 

「善処します」

 

 

 最強の暗黒騎士の姿を。

 

 

(良いぞ人間。ここ最近は小娘のせいで滞っていた陰我がまた大量に喰らえそうだ。

これで漸く我の完全復活への道が再開される……)

 

 

 そしてその暗闇の中に宿る化物の事も。

 

 

 

 

 マドカは己の出生を憎悪していた。

 計画によって身勝手に命を弄ばれ、挙げ句に失敗作と見放す人間達を含めてすべてを憎悪していた。

 勿論、その雛形となったあの二人についても……。

 

 

『チッ、味が薄い。

やはり我の同胞が存在せぬこの世界ではこの程度の陰我が限界なのか……』

 

『なんだと? いったい何人食ったと思ってやがる? 後何回やらないとダメなんだよ?』

 

『このペースでは地球上の人間の陰我を喰らっても無理かもしれぬ……』

 

『はぁ!? …………ま、マジかよ』

 

 

 だがマドカには救世主が現れた。

 自分の命を道具のように弄び、何時か絶対に殺してやろうと憎んだ人間達を、喰らいながら現れた漆黒の狼の鎧を纏う騎士が……。

 

 

『子供? こんな場所に何故子供が……』

 

『…………』

 

『相当弱ってるが……今までにない強い陰我だ。

元士郎よ、その小娘を喰らえ』

 

 

 禍々しい姿。

 だがマドカにはその漆黒の鎧騎士がこの地球上の全てよりも美しく感じた。

 片腕が欠損し、地の底に引きずり込みそうな禍々しいオーラを放つその騎士がマドカには希望(ガロ)に思えてしまったのだ。

 

 

『喰った所でテメーと分離できねぇならやる気も起きねぇわ。

やめだやめ……アホらしい』

 

『! 何だと!? やめてどうするつもりだ! このままでは我が復活できぬではないか!』

 

『知るか、そのまま永久に復活しなきゃ――』

 

『ま、まって……』

 

『――あ?』

 

 

 家とも思いたくない居場所だった、破壊された施設。

 砂の様に崩れて消えてしまった憎んだ施設の人間達。

 ただ一人生き残ってしまったマドカは、何故か手を出さずに居なくなろうと見えない誰かと会話をしながら去ろうとする騎士に渾身の力を振り絞って呼び止めた。

 

 

『なに?』

 

 

 振り向くと同時に鎧が消え、一人の青年となった男が自分を見下ろす。

 その目は黒く濁り、希望を欠片も抱いていない目で、まるで自分の様だとマドカは青年に対して同族意識を持ってしまう。

 

 

『わ、わたしを、ここから……つ、連れ出して……!』

 

 

 だからマドカは懇願した。

 すがりつくように、自分よりも更に深い闇を持つ青年に自分を連れ出してくれと。

 どんな形にせよ自分の運命を彼が破壊し、そして命を奪わなかった。

 

 ならば自分の存在意義は彼にしかない――そう思って。

 

 

『そいつをどうするつもりだ? まさかバラゴの様に導師として使うのか?』

 

『導師が何なのかは知らねーが……。まあ、放置するのも後味悪いから、暫く拾うよ』

 

『ふん、甘い男だ』

 

『言ってろ。おいお嬢さんよ、暫く飯は食わせてやるよ……しょうがないからな』

 

 

 その懇願に青年は手を差し出した。

 連れていってやるという意思表示の前にマドカは迷わずその手を取った。

 そしてこの日より、マドカは自分の出生と決別する為に、存在意義をとどめる為に自称した織斑の名を――捨てた。

 

 何時しか、彼の為に生きるという動機が彼と共に居たいという動機へと変わる日まで……。

 

 

「これで合法的に学園で遊べるね元士郎」

 

「それはいいが、いいのか? 確かそのIS学園ってのにはお前の……」

 

「別にどうとも思ってないよ今は。

向こうは私の存在すら知らないし、成功例はあの二人だけだからね」

 

 

 絶対の存在かと思えば、彼に宿る存在含めて変にポンコツだった。

 絶対の精神力かと思えば脆い部分が寧ろ多いと知った。

 

 彼と共に生きる道へと進み、彼を知っていったマドカの今はとても充実し、そして彼に対する愛情は日増しに強くなり続けていく。

 

 その愛情の前では最早己の過去なんて小さな事だった。

 元士郎は失敗作の自分を否定しないし、自分を強くしてくれた。

 

 

「ただ、()()()と出会したらちょっと嫌だな。

顔が似てるから元士郎が……」

 

「あ? 俺が何だよ?」

 

「もし気に入ったら嫌だなって……」

 

「何だそりゃ」

 

 

 自分以上に暗いものを持ってる事も、そしてその中身が何なのかをマドカは既に知っている。

 元士郎に寄生するメシアからすべてを教えられたからだが、それでもマドカは益々元士郎への愛情を強くするのと同時に、決して何があろうとも自分は彼を裏切らないし離れないという強固な精神を決定付ける。

 

 だから、仮に元士郎から全てを奪った様な存在が現れようともマドカの心は寸分たりとも揺れはしない。

 メシアの今の姿の元となる悪魔の女とは違い、絶対に……。

 

 

「織斑千冬だったか? 確かに顔はお前と似てるが、俺にしてみれば違いはちゃんとあるだろ」

 

「え、わかるの?」

 

「当たり前だ、何年お前と居ると思ってる? お前はお前だろ」

 

「そ、そっか……! あはは、やっぱり流石だよ元士郎は!」

 

 裏切った悪魔達には皮肉ではなく本気で感謝したいとマドカは思う。

 お前達が馬鹿な判断をしてくれたお陰で私は今本当に幸せだよと……。

 

 

「元士郎……」

 

「ん、何――んむ!?」

 

 

 お前達のお陰で私は出会えたと。

 お前達のお陰で私はこの気持ちを持てたと。

 会った事もない悪魔達に感謝しながら、帰りの道中、周りに人が居ないことを確認したマドカはゆだんしてい元士郎に飛び付き、そのまま唇を重ねた。

 

 

「な……なにをして――」

 

「ふふ、さぁ帰ろう元士郎、今日も頑張ってご飯を作るぞ!」

 

『高々接吻程度で動揺とは、まだまだガキだなそなたも』

 

 

 その意味を語る事なく、不意を突かれて動揺する元士郎の手を引きながら前を歩く。

 マドカは今も暗闇の中に存在するけど、確かに幸せだった。

 

 

終わり

 

 




補足

オータムさんが変に弄られキャラにされ、空気感が妙にほのぼのとしてるのは多分気のせい。


その2
多分このネタ話内では恋愛ごとは一番前に進んでるマドカたんなのだった。

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