色々なIF集   作:超人類DX

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続き。

ブリュンヒルデどころか織斑先生がそんなに有名だったことも、その理由も殆ど知らなかったらしい用務員さんは……


頑張れなっちゃん

 他種族ながら、気に入らなければ女だろうが子供だろうが、容赦せずその手に掛けていた少年だった男の人生は、強大なる報復心によって形成されていたといっても過言ではなく、既に本来形成すべきだった性格ともかけ離れ過ぎていた。

 

 世界に落とされたひとつの病気(シック)が彼をそうさせ、その病気(シック)によって世界は無限に等しき憎悪を膨れ上がらせてきた少年によって破壊された。

 

 だから彼は気に入らない者はぶん殴って黙らせる様な粗暴な性格の筈だし、今置かれてる訳のわからない状況に対しても逆ギレかなにかをして黙らせる筈なのだ。

 

 

「え!? そんなに有名だったのか織斑先生って!」

 

「アレだけメディアに騒がれたりTVにも出ていたのに、それを知らなかった兵藤さんが信じられないのですが……」

 

「いやぁ、TVは基本的に天気予報か野球中継しか観ないもんでさぁ? それか部屋に籠って簪ちゃまとゲームしてるとか」

 

「………………」

 

 

 そんな史上最低最悪の殺戮マシーンとさえ揶揄された男が、本来なら取るに足らない赤の他人相手の強引さに付き合っている。

 

 

「第一回のモンド・グロッソの覇者だからブリュンヒルデと呼ばれてるんですよ」

 

「あ、ブリュンヒルデってそういう……。

はぇ~、そんなに有名だったんすね先生は?」

 

「……………。何でしょうね、この意味不明なまでの敗北感は? 私はこの妙な気分をどこに捨てれば良いのでしょうか?」

 

「さ、さぁ?」

 

 

 それは彼が後に後継者として鍛え上げる事になる少女と出会い、人との繋がりを獲たからなのか。

 殺伐とした人生とは無縁の、平和な時を生きた証からなのか……それはまだわからない。

 

 

「えーっと、織斑先生の事を知れて大変有意義なお時間を過ごせたということでお会計を――」

 

「まだ接客は終わってませんよご主人様。

…………………今逃げたら追いかけ回しますよ?」

 

「……………………」

 

 

 今の一誠はかなり穏やかなのだから。

 

 

「ご主人様、ご注文のチョコレートパフェでごさいます♪ さ、私が食べさせてあげますよっ!」

 

「そ、その口調だけは勘弁して貰えないでしょうか……。

俺ばかりじゃなくて生徒さん達まで怯えてるし……」

 

「………………。何だ貴様等? さんざん私に悪のりしてこんな格好をさせておきながら、私の接客に文句を抜かすのか?」

 

『いいえ!!』

 

「よろしい。………と、いう訳ですよご主人様! ほらお口を開けてくださいなっ?」

 

 

 ただ、少しばかり無自覚で地雷を踏んでしまう事が多くなった様だが。

 

 

 

 

 織斑千冬の事を本当にただの若い教師だと思ってたらしい、見た目年若き男性客に、多くの生徒は世間知らずのお坊っちゃんを連想したようだが、どうにも彼と知り合いらしい一夏や烈火や本音との会話を聞いていると、彼の方が年上らしい。

 

 

「えーっと、お客様はおいくつなのでしょうか? 見た感じ私たちとそんなに変わらない気がしますけど……」

 

「え、オレ? 今年33になるけど……」

 

 

 だから余計に年齢を聞いた時は信じられず、彼の持つ免許証の生年月日を確認して本当だと知った時はもっと驚いた。

 まさかの三十路のおじさんなのだから。

 

 

「オレってそんなにガキっぽく見えるの?」

 

「正直、俺たちとそんなに変わらないくらい若いと思います」

 

「………。渋いダンディおじさんを目指してる身としてはちょっと微妙だぜ」

 

 

 無理矢理ミニスカメイドのコスプレをしてる千冬にニコニコされながらパフェを食わされてる一誠は、年相応じゃない己の容姿に目指してる方向性故か、少し残念そうだった。

 

 ある一定の進化の壁を越えた日から、二十歳そこそこから一切の老化が無くなってしまったのは、常に肉体を全盛期に留める為に彼の細胞とスキルがそうさせたのだが、一誠的にはスーツの似合うダンディなおじさんにちょっとした憧れがあるので、まるで年をとらない今の自分の姿に得を感じた事はなかった。

 

 

「それなのに織斑先生の事は知らなかったのですね?」

 

「まあ、ISってのにも元々興味無かったし、知ってる事といえば女の人しか動かせないって程度だったからね。

だから男の君達が動かしたってのを偶々聞いた時も何でそんなに騒がれるのかが微妙にわからんかった」

 

 

 そう言いながら口の端についてしまったチョコレートを目ざとく発見した千冬に拭かれつつ、ISに対する認識の薄さについてを語る一誠に、これが世間一般の男性のISに対する関心なのかと、聞いていた他の生徒達も知る。

 

 

「だけど今わかったわ。なーんで生徒さん達は普段から織斑先生に対して背筋を伸ばしてるのかを。

そりゃISについて学ぶ学校で昔頂点に君臨してた人が先生なら誰でもそうなるわな」

 

「ま、まぁ、それだけでもありませんけどね?」

 

「オレはてっきり単におっかないからだとばかり思ってた――――じゃなくて、美人過ぎて近寄りがたいからだと思ってたぜ! うん!」

 

「あらご主人様ったら! 誉めたって何も出ないゾ☆」

 

「あ、あはははは……」

 

 

 また余計な事を言いそうになる前に誤魔化した一誠に千冬が、どこかで聞いた様なアニメ声でバシンバシンと背中を叩く。

 あまりに普段とかけ離れた声色と表情はそれだけでも多くの生徒達に冷や汗を流させる訳であり、一誠ですらも少し今の千冬が何を考えてるのかがわからなくて怖いとすら思ってる。

 

 

「でも私の事を全然知らなかったなんて酷いご主人様です!」

 

「は、はいはいはいはい! こ、今度は先生の特集記事でもググって調べますから!!」

 

 

 逆に知りたくなくなるわ! と、普段の千冬からは全く想像もつかない頬を膨らませながらの怒り方に、ゾッしたものを感じた一誠は自分なりに調べると適当ぶっこいてその場を収める。

 

 

(あーもう! どうでも良いんだけどな!)

 

 

 別にISの初代世界王者だったとか、ブリュンヒルデと呼ばれてた理由がそういう事だからとかを今更知った所で、一誠にしてみれば『それまで』でしか無いし、言ってしまえば一回り下の小娘でしかなかった。

 

 

(あれ? そういえば前に刀奈の奴がISを組み立てたとかなんとか言ってたような……?)

 

 

 そんな折りに弟子の刀奈についてを思い出す訳だが、誰かの差し金なのか、それとも単なる偶然だったのか。

 その時は突然に訪れてしまったのだ。

 

 

「お師匠様! 本音ちゃんから此処に居るって聞いたわよ! 約束の時間になってもまだ来ないなんて酷いわ!」

 

「!?」

 

 

 千冬のキャラがおかしな方向に行ってしまい、またそれが却って恐怖だったが為に、折角盛況だったお店も閑古鳥状態となってた教室もとい店の扉が勢い良く開けられると同時に現れる見慣れた空色の髪と赤い瞳の少女に、その場に居た者は驚いた。

 

 何故なら彼女は生徒会長であり、学園最強であり、大体猫みたいな気紛れの性格というか人を喰った様な性格だと誰もが思っていたのだから。

 

 

「お師匠さま……?」

 

 

 そんな彼女がいきなり怒りながら入ってくるのもそうだが、ある者を見た途端、呆然としたまま固まるのだから、生徒達は怪訝な顔にもなる。

 

 

「せ、生徒会長だわ……」

 

「というかお師匠さま……って、今あの人見て言ってたような」

 

「私もそう見えたわ……」

 

「あ、あれ? 生徒会長が震えてる?」

 

 

 なんだなんだと誰もが生徒会長の更識楯無の出現に変な空気を感じとる中、一人の生徒が言った通り、彼女はある一点を見つめながら呆然となり、やがてフルフルと身体を震わせ始めたのだ。

 

 

「あ、刀奈。

悪い、ちょっとしたトラブルが発生しちまったんだ」

 

 

 だというのにこの男は、刀奈の方から合流してくれたとホッとした顔をするだけで、何にも理解しちゃいない。

 一夏と烈火ですら完全に『あ、絶対にやばい』と悟ってるにも拘わらず、一誠だけが呑気に、隣にミニスカメイドの千冬が接客してる状態で軽くを手をあげながら挨拶するのだ。

 

 

「待ち合わせしてた子がわざわさ迎えに来てくれたので、マジでもうお会計をですね……」

 

「まだオムライスにケチャップで『アナタ様のメイドのちーちゃん』って書いてませんし、ポッキーゲームも……」

 

「織斑君! キミのお姉ちゃんにもっと自分を大切にしなさいって怒ってあげなさいよ!? 俺じゃないおっさんが聞いたらマジになっちまうぞ!?」

 

「い、言っときますけど、更識先輩が……」

 

「はい? 刀奈がなんだって―――」

 

 

 悲しいかな、思春期の全てを青い春と書いた青春とは程遠い、流血だらけの真っ赤な人生だったが故に、異性との距離感が近い様で遠い。

 勿論千冬との間にはお互いに何を思ってる訳じゃないのは明白だし、千冬にしても自棄っぱちな部分も多くある。

 

 ただ、刀奈は一誠の事を深く知っている。

 彼が女好きではあるものの、これまでそんな相手と巡り会う事も無いし、あっても即座に破局してしまうだろうともわかっていた。

 

 それに何より、大人ぶっても更識刀奈はまだ十代の子供だ。ましてや子供の頃から追いかけ続けて何時しか憧れが別の想いへと変わった相手である一誠が、自分より年上の――つまり自分よりは隣に居ても違和感の無い女性と見てくれだけなら楽しげにやってる姿を見せられて冷静な訳がない。

 

 本音に突然一誠が一年のクラスに来てると聞いた時はどこで道草を食ってるんだと、少し怒ったが、今の刀奈の胸に去来する想いは……。

 

 

「…………」

 

『一誠のバカ……』

 

 

 悲しみだった。

 厳しかったけど優しかった。

 目的を見失ってグータラになったけど、それでも変わらぬ大きな背を持つ偉大な師であり、そして初めて好きになった人。

 そんな師に、師の事を何も知らない女が似合わないコスプレをしながらあんなに近くに……。

 その現実に刀奈の赤い瞳から涙が流れ、師から継承した赤い龍もそんな先代の不用意な行動に毒づいていた。

 

 

『!?』

 

 

 ギョッとしたのは、まず何も知らぬ周りの生徒達だった。

 何せ刀奈のことは生徒会長の更識楯無としてしか知らないので、いきなり泣き出すとは思わないし、何度か彼女のキャラクターに翻弄された一夏大好きズ達ですら今の彼女に驚かされているのだ。

 

 

「せ、生徒会長が泣いてる……」

 

「一体何で……?」

 

「というよりお師匠さまってなんの事かしら……」

 

 

 ポロポロと涙を流して立ち尽くす刀奈を前に居たたまれなくなる生徒達は、一体何故泣くのかと彼女の視線の先に座る一誠との関連性が気になってくる。

 一誠も一誠で突然来て突然泣き出す刀奈にちょっと驚いてる様子だが、他の者とは違って弟子の本質を知るからこそなのか、そこまで驚いてはない。

 

 泣いてる理由が己にあるということも何となく察している。

 昔から大体地雷を踏んでしまうとこうなるからだし、本音が先程誰と電話してたのかもこれで全て納得した。

 

 

「ゼロから説明したいから、まずこっちに来て座ってくれ」

 

「……………ぅ」

 

「わかってる、お前が泣く時は大概俺が何かやらしてる時だってのはな。

それが何なのかも今の状況から思い返せば大体わかってる。

だから説明させてくれ」

 

 

 本音が烈火と一夏の二人に『本物の修羅場をお勉強できるよー?』と他人事みたいに教えてるのを横に、一誠は冷静に、そして然り気無く千冬から離れつつ刀奈を手招きするのだが、その瞬間、刀奈の感情は決壊したかの如くその両目を赤く涙で輝かせた。

 

 

「そ、そう言えば誤魔化せると思ってるんでしょ? そう言えば私が我慢すると思ってるんでしょう!? バカにしないでよ! 私はもうそんなに子供じゃない!!!」

 

『っ!?』

 

 

 涙を流しながら激昂する刀奈。

 その激昂は彼女の全身から得体の知れないエネルギーのようなものを感じ取れた気がして戦慄してしまい、千冬も自棄っぱちモードを止めて思わず臨戦態勢を取ってしまう。

 

 

「そうだな、約束をすっぽかしたのも俺だし、お前をガキ扱いしたままなのも認める」

 

 

 そんな周囲の状況の中、一誠だけが冷静に椅子に腰掛けながら首もとのネクタイを少しだけ緩め、整えていた髪を適当に崩しながら頷く。

 それが余計に刀奈を刺激させ、涙で輝く瞳が龍の力とリンクして鈍く輝き始める。

 

 

「お師匠さまは何時もそう……! 私がどれだけお師匠さまの事で寂しい思いをしてるのかも知らないで、いっつもどうでも良い女の人の事ばかり! 今だってそんな人と楽しく……!!」

 

「そ、そんな人……?」

 

 

 千冬を睨みながらそんな人呼ばわりする刀奈に、言われた本人はあまりにストレートに言われて逆に面を食らってしまった。

 

 

「あぁ、そうだな、こればかりは俺の不覚だ。

俺ともあろうものが、良くも知らんし正直そこまで興味が無い人にここまで圧されるとは思わなかったぜ」

 

「…………」

 

 

 挙げ句果てに一誠には一瞥すら無く、然り気無く興味無しとまで言われる始末。

 千冬は正直結構今の一誠の発言に傷ついていた。

 

 

「悪かったよ、約束すっぽかして……」

 

「う……うー……!」

 

 

 そんな軽くディスられて若干気分を落としてる千冬は放置され、二人は互いにしか分からない独特な世界に入り込んでしまっていた。

 というか、この刀奈の態度を見て殆どの生徒達がピンと来てしまったらしく、更識生徒会長はおじさま趣味があるという認識になってしまっていてちょっとドキドキしながら成り行きを見ていた。

 

 

「うー……! うー……!!」

 

「良いぜ、我慢するなよ?」

 

「う、うわーん! お師匠さまぁっ!!」

 

 

 ゆっくりと立ち上がった一誠が不敵に笑いながら両手を広げた瞬間だった。

 完全に感情を爆発させた刀奈は、そのまま泣きながら一誠に飛び付いたのだ。

 

 

「よっと、よく泣く子だ」

 

「お、お師匠さまのせいよ……! うぅ……ぐすん……!」

 

「まーな、今日は俺のせいだわ。なーんも言えねぇや、はははは」

 

 

 ポンポンと泣きつく弟子の背中を軽く叩きながら抱き締める一誠。

 その姿はどこか父性を感じるものがあり、すぐ横で見ていた千冬はどういう訳かポカーンと口を三角おにぎりみたいな形にさせながら見つめていた。

 

 

「なんで織斑先生と楽しくしてたの?」

 

「元々本音ちゃまと神崎くんと織斑君の様子を見に来たついでに軽く食ってみようって思ってたんだけど、どうもしちゃいけない注文メニューを見付けちゃったのが間違いだったらしくてな。

この織斑先生と引くに引けなくなって自棄っぱちになっちゃったんだよ」

 

「だ、だからこんな似合わない格好をしてたんだ……」

 

「に、似合わない……」

 

「そういうことはハッキリ言うもんじゃない。

良いだろ、たまにはそんな格好したって。先生だって普段大変なんだしよ?」

 

「……えらく庇うのね」

 

「庇うっつーか……あんま余計な事言って変なスイッチは入れたくないだけっつーか」

 

 

 

 またしても軽く刀奈にディスられてる千冬を見て、余計なスイッチを押させない為に咄嗟にフォローを入れる一誠。

 もうあんな接客は懲り懲りだった。

 

 

「んじゃ行くか。あ、皆さんごめんなさい、これ迷惑料として置いていきますので」

 

「は、はい…………い!?」

 

「ひゃ、百万円の束が二つも!? こ、こんなの受け取れませんよ!?」

 

「要らないなら募金箱にでも突っ込んどいてください。

んじゃ本音ちゃまに神崎くんに織斑くん、悪かったな?」

 

「い、いえ……」

 

「またどうぞ……」

 

「お嬢様のことお願いだよ?」

 

 

 刀奈を連れながら出ていこうとする一誠を見送る面々。

 まさか百万円の束を二つも寄越されてしまってどうしたら良いか生徒達も困惑する訳だが……。

 

 

「あ、ちょっと待ってお師匠さま」

 

「ん?」

 

 

 

 突然一誠から離れて戻ってきた刀奈が複雑な気分になっていた千冬の真ん前に立つと。

 

 

「べー……っだ!!」

 

「は?」

 

 

 何を思ったのか、突然千冬に向かってあっかんべーをしたのだ。

 目はまだ潤んでいたけど、その表情は良い具合に憎たらしく、本人もやれて満足したのか、とても良い笑顔になって再び一誠の傍に戻り、そのまま甘えた様に腕を組ながら出ていった。

 

 

「……………」

 

「どうしよこのお金。

本当に二百万円もあるわよ……」

 

「ど、どうしましょう織斑先――ひっ!?」

 

 

 不思議な青年と生徒会長が去っていった事で、妙な空気は緩和されたが、一誠が置いていった二百万もの札束の処理に困った生徒達が千冬に相談を持ち掛けたその時、たまたまグラスを持っていた千冬は無表情そのままに片手で握り潰したのだ。

 

 

「ち、千冬姉、落ち着こうぜ……? ほ、ほら、ほんのお茶目だからさ、更識先輩の……」

 

「そ、そうですよ……!」

 

「いや、アレは本気の意味だと思っ――」

 

「はいのほほんさん!? 一緒に休憩のお茶しようねっ!?」

 

「ぷは……! え、かーくんとお茶デートできるの? わーい!」

 

 

 別に本当に一誠に対して何を思ってる事なんて無いし、弟達の世話になってる人という認識でしかない。

 だから接客のやり方に関しても、若い男はああいうやり方が好みだと何かの雑誌で読んだデータに基づいての、謂わば演技だった。

 

 なのにどうだ? 一誠は終始引いてるし、更識は格好から演技に関してまでの何もかもをバカにした。

 

 挙げ句の果てに一誠は自分の事を単なる若い教師としか思ってなくて、自分がどんな者なのかも周りから聞いて初めて知り、それでもほぼ関心が無いとまで言ってくれた。

 

 ハッキリ言う――凄まじく納得できなかったのだ。

 刀奈から去り際に挑発されたことも含めてなにもかもが。

 

 

「フッ……クククッ! 何だこの初めての気分は? 凄まじく納得できないんだが?

お前達の中でこの今の私の気分を具体的に教えられる者はいないのか?」

 

『…………』

 

 

 教えたくても無理だと生徒達の心は奇跡的にひとつになった。

 だって言ったら怖いから。

 

 

「居ないのか、そうか……。

あー……なんだろうなぁこれ? 腹が立つというのとも違うし、本当になんなんだ? というかあの用務員め……私を欠片も知らんばかりか興味も無いと言ってくれたよな? それに関しても凄まじく納得できないな」

 

「ほ、ほら兵藤さんは男性だし、学園の用務員とはいえISとは無縁の仕事だからさ……」

 

「え!? 今の人用務員さんだったの!? そ、そういえば前に用務員さんが二人に増えたって噂はあったけど……」

 

「あ、あんな若い人だったんだ!? なぁんだ、だから知り合いだったんだね三人は?」

 

「ま、まぁな? そ、それより先生が……」

 

「私がなんだ? 私は見ての通り至って冷静だろうが? 考えてみたら前々から彼は私に対して話をしてると疲れそうだとか、気を使いそうで嫌だだとかズケズケ言ってくれてたなぁ。

くくく、私を知りもしない癖に酷いとは思わないか?」

 

「そ、そっすね……」

 

 

 ニヤニヤと独り笑いながら周囲に同意を求めては困らせる千冬。

 一体何が彼女のツボを刺激したのか、暫くニヤニヤと笑いっぱなしの千冬はこれまた不気味だったとか。

 

 

 

 

 

「本当に織斑先生には何も思ってないでしょうね?」

 

「思うも何もない関係性だろうが、あの先生とは。

つーかお前知らねーだろ? さっきまであの先生の醸し出してた自棄っぱちさの恐怖を。

ありゃあ、昔最終決戦する前に持ってた恐怖よりやばい恐怖だったぜ……」

 

「なら良いけど。それじゃあ一緒に見回りしましょ?」

 

「おう」

 

「えっと、そ、それじゃあまずは、手をこうやって絡ませるように繋いで……」

 

「何だお前? また急にテンパるのか?」

 

「きょ、今日は大丈夫だから! 簪ちゃんに色々とレクチャーして貰ったし!」

 

「あの子から? ………変な事教えてやしないだろうな?」

 

「大丈夫よ、体育館の倉庫で二人きりで休憩するのが吉だって言ってたわ。

それでシーンとした狭い空間で二人きりだから、こう、ムラムラしちゃって襲われちゃうかもって話もされたけど、覚悟はしてるから平気よ!」

 

「それは平気じゃねぇ」

 

「その、ね? お師匠さまから痛くされるのは割りと平気なんだけど、できたら最初は優しくして欲しいかなって……」

 

「体育館倉庫なんか行かねーし、何もしねーよ」

 

「ど、どうしてよ? おっぱいだってお師匠さまが認める大きさに成長したのに……」

 

「そんな捨てられた子犬みたいな目で見られても困るんだけど……」

 

 

 そして二人は相変わらずコントみたいなやり取りをしながら賑やかな校内を歩いていたのだった。

 

 

「それにしても簪ちゃんって頼もしいわ。

知らない間にあんな知識豊富な子になってたんだもの……」

 

「レディコミか何かの読みすぎな気がしてならなくて逆に心配だぜ俺は」

 

 

 

 

 

 

「や、一夏。

燕尾服姿もやっぱりかっこいいね?」

 

「っ!? か、簪!? お、おう……! 遊びに来たのか?」

 

「うん、ちょうどうちのクラスも落ち着いてきたからね」

 

「そ、そうか、それならうちで何か食べ――」

 

「ストップです! 更識さんは出禁ですわ!」

 

「そうだ! 一夏に変な真似をする奴など怪しくて入れられん!」

 

「どうしてもと言うなら僕達が対応するよ」

 

「嫁は渡さん!」

 

「ちょ、ちょっと皆、簪にそんな――」

 

「「「「一夏(さん)は黙ってろ!!」」」」

 

「――――はい」

 

 

 更に入れ替わりでやって来た簪によって何時もの修羅場が始まってたらしく、二組から来た鈴音も入って賑やかになってたらしい。

 

 

「良いよ別に、私も本音とごはん食べるつもりで来ただけだしね。

一夏は皆と楽しんでれば良いんじゃないの?」

 

 

 大人しそうな顔をしといての、簪のドストレートな好意の表現法に危機を持って意外とその時は団結する他の女子達のガードを前に、簪は敢えて引いてみせる。

 その時、セシリアや箒達の後ろから一夏が残念そうな顔をしたのを見逃さないし、だからこそ簪はじゃあ最後にひとつだけ……と女子達の前でこんな行動にでるのだ。

 

 

「一夏にちょっとしたプレゼントがあるんだ。それだけでも渡したいんだけど」

 

「………。まぁそれくらいなら良いでしょう」

 

「渡すなら早く渡して布仏の所に行くんだな」

 

「変なものじゃないでしょうね?」

 

「まさか……ほら一夏」

 

「えっと、なにをくれるんだ?」

 

「うん、これなんだけど見える?」

 

「……? 見えないけど」

 

「あれ、おかしいな? じゃあ少し屈んで見てよ?」

 

「んん?」

 

 

 プレゼントと言って自分の首辺りを指差す簪に、何の事だかわからない一夏は言われた通り屈んでみたのだが、その瞬間、突然簪が屈んでいた一夏の首に腕を回すと、そのままギュッと自分の胸を押し付けながら抱き締めたのだ。

 

 

「!? っっ!?!?!?」

 

「なっ!?」

 

「何をしてる!?」

 

 

 当然仰天する女子達に、とても柔らかいものが顔いっぱいに当たって硬直してしまう一夏。

 だが簪は、姉と比べたらとても大人しそうな美少女とは思えない、どこか妖艶めいた微笑を浮かべると、抱き締めていた一夏の耳元でささやくのだ。

 

 

「ごめんね? 皆と比べると胸は小さいけど、少しはあると思う、ふふ、一夏だったら直接――例えばちゅーってしても良いよ?」

 

「!?!?!?!?」

 

 

 耳元でくすぐったさを感じる吐息と共に放たれる言葉に一夏は全身が熱くなり、心臓がバクバクと屈んで鼓動してしまう。

 

 

「離れろこの痴女が!!」

 

「あ……」

 

 

 だが、激怒した箒が何故か持ってた木刀で襲い掛かってきたので、簪の言葉通りの展開には勿論なることは無く、また軽く木刀の一閃も避けさせてくれる様に突き放されたので、少しだけ一夏は感じたことのない寂しさを覚えた。

 

 

「あ、アナタはまたそんな真似を!? 自分が恥ずかしくないのですか!?」

 

「恥ずかしい? 悪いけど私は一夏にしかこんな事はしないけど?

それに痴女? 結構だよそう呼ばれようとも……ね、一夏?」

 

「お、俺は……!」

 

「一夏を惑わせるな!」

 

 大人しそうな美少女だからこそ、そのギャップの差に意識してしまう。

 この前からパンツは見えてしまうし、セシリアや箒達には死んでも言えないが、偶々二人で勉強をしてた時なんかも警戒心が無いのか、Tシャツにホットパンツに――ノーブラという格好で、どうしても意識して勉強どころじゃなかったし、その時なんかノーブラだったせいで決して小さくはない簪の胸の突起がシャツ越しに見えてしまって、その日の晩は寝られなかったのだ。

 

 

「じゃ、一夏。プレゼントはまた後日に。

ふふ、もしプレゼントが私を好きにしても良いって奴だったら喜んでくれる?」

 

「うぇ!? か、簪を好きに……できる……?」

 

「早くどっか行け! 一夏も何デレデレしてる!!」

 

「いだい!?」

 

「殴らなくても良いじゃん、大丈夫? ほら、これで元気だして?」

 

「わぷっ!? か、簪の胸が……!」

 

「ですからお止めなさい!!」

 

「はいはい、今度こそバイバイ……ふふっ」

 

 

 着々と簪の事が頭から離れなくなりつつある一夏。

 それがとてもいけない事だと思ってる純情ボーイは、一誠に相談する回数もまた多くなるのは間違いなさそうだった。




補足

意味は自分でもわからないけど、凄まじく納得できないちーちゃん。

挙げ句にあっかんべーまでされて余計納得できなくなったとさ。


その2
簪たんの攻めかた。


1.何度か計算でパンツを見せたげた。

2.一緒に勉強しようとお誘いし、敢えて地味だけど軽装姿を晒し、お胸のポッチを見せてムラムラさせ、時には屈んだ際に胸の中を……。

3.パフパフ上等。


……強い(確信)

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