色々なIF集   作:超人類DX

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徐々に……




回り始める歯車

 思春期の全てを殺意と憎悪を育む事に費やし続けた赤龍帝。

 常人ならとっくに気が狂うだろう不幸に突き落とされても、皮肉な事に彼は無限に膨れ上がる憎悪と殺意が正気を保たせていた。

 

 故に彼は成し遂げたのだ。赤龍帝の名を持った先代達の誰にも成し遂げられなかった領域への進化を。

 

 

「良いね、人生で今最高に気分が良い。

だって貴様等全員を皆殺しにできてしまうんだからなァ?」

 

 

 優しさ等無い。

 包容力なぞ捨て去った。

 思いやりなぞクソ喰らえ。

 

 己の生を否定する全てが己の敵であり味方は赤い龍の名を持つ者のみ。

 

 人との繋がりを拒絶する代わりに到達した、理を超越せし無敵のパワーは、遂に復讐へと至らせたのだ。

 

 

「おおっと? 無限の龍神ともあろうものが情けないなァ? その姿もゴミの趣味かい?」

 

『醜いな』

 

『あぁ、醜いな』

 

 

 赤色の龍に愛されし、混沌から這い出た人間(バケモノ)は既に止められない。

 

 

『同じドラゴンのよしみだ。終わらせてやるよ』

 

 

 人間(バケモノ)が受け入れた以外の龍を破壊し、転生者(バケモノ)とそれに与した全てを破壊し尽くす。

 

 

「悪で結構。狂人上等。

テメーさえぶち殺せれば何と呼ばれようが構わねぇからな……。ほぅら、ご自慢のお力で抵抗してみろや?」

 

 

 それが真っ赤な青春を送った青年の軌跡だった。

 

 

 

 そして現在……。

 全ての目的を果たした青年は――

 

 

「? 匙……元士郎?」

 

 

 とてもグータラな男という、ある意味大人しい人生を送っていた。

 自身の後継者も見付けられることにも成功し、皮肉にも人間性から何から真逆すぎる転生者と平和な関係性を築きながら……。

 

 

「はい、聞き覚えはありませんか?」

 

「さぁ? 聞いた事も見たこともないな」

 

 

 転生者の思う通りの世界と化した己の生きた世界から弾き出され、別世界で隠居同然に生きている青年こと一誠は、後継者として鍛え上げた弟子の更識刀奈の実家でニート生活をしていたのだが、グータラ化した師より弟子となったばかりのギラギラした頃の師に戻って欲しい彼女に半ば強引に、学校の用務員にさせられてしまっていた。

 その折りに自分が殺した転生者とは同じとはとても思えないくらいに常識的かつ気を周りに遣い過ぎて損ばかりしてる転生者の少年と知り合い、ちょっとした情報を貰ったりしてる訳だが、この日も学園祭の最中に彼から『先程出会したなぞの男』についての話を聞かされていた。

 

 

「その匙なんたらってのが何だってんだ?」

 

「……。本当の匙元士郎だとしたら、その人は貴方と同じ世界を生きた人です」

 

「…………………へぇ?」

 

 

 フラフラと刀奈に学園内を連れ回されていた一誠の元へ慌てた様子でやって来た烈火から聞かされた話に、一誠は本当の意味で久々に目付きを鋭くし、雰囲気も同じく刃の様に尖り始めていた。

 

 

「ご存じの通り、キミの知る俺って像と俺とは相当離れてる。

俺はその匙って奴の事は知らないが、何で知り合いじゃないのかは大体検討がついたよ」

 

「……?」

 

「男なんだろ? だとしたら多分、俺が知る前に殺されてた可能性が高いな。名前も顔も思い出したくもねぇクズ野郎によってな」

 

「…………………。すいません」

 

 

 こんな顔もするんだ……と。烈火はいつになくシリアスが顔付きをする一誠に驚きつつも、匙を知らない理由を聞いて思わず謝ってしまった。

 一誠の性格が自分の知る一誠とかなりかけ離れてる理由を聞いていて、またその理由たる存在が己の様な存在だとすぐに理解してしまったからこそ、同じ存在として思わず謝罪してしまったのだ。

 

 

「別にキミが謝る必要はないさ。

それで、その匙ってのはこの学園内に今居るんだな?」

 

「はい、恐らくは。

俺と一夏の友人の弾って奴とどういう訳か知り合いになって、クラスに来ました」

 

「ほう……? 入れ替わりだったみたいだな」

 

「はい……。あの、どうしたら……」

 

「キミが一々悩む必要はない。

その匙ってのがどんな奴かがわからん以上は勿論探すつもりだが、ドライグが居ない今の俺はかなり『鈍く』てな? 探し物を探すのがかなりド下手だから、地道に探してみるよ」

 

 

 同じ世界の存在の事を知った一誠は、その者を探す事にした。

 もし自分の生きた世界の者だとしたら、男の時点で恐らく殺されてしまっていたのだろうから。

 

 

「どうやってこの学園に入り込めたのかもちと気になるしな」

 

 

 そして何より、目的を知りたいから。

 久々に『ちょっとマジ』になった一誠は、烈火と別れると別の場所で待たせていた刀奈と合流すると、烈火とした話の内容を全て教える事になった。

 

 

「刀奈」

 

「もう、遅いわよお師匠様! 暇過ぎて黛ちゃんとお茶しちゃっ……た……?」

 

 

 その際、一人放置されていた事に文句を言おうとした刀奈だが、一誠の顔つきが何時ものグータラしたものじゃなく、弟子になったばかりの頃のギラついた刃の雰囲気が込められたものになっているのに気付き、思わず息を飲んでしまった。

 それは偶々出会して一緒にお茶をしていた新聞部の女子生徒も同じく、ついさっきまで死んだ魚みたいな締まりの無い顔をしていた青年とは思えない豹変さにびっくりしていた。

 

 

「少し俺に付き合え」

 

「は、はい……」

 

(あ、あの用務員さんがキリッてしてる)

 

 

 所属する部活柄なのか、一誠の事はある程度知っていたりするこの女子生徒が驚いてる事に気付いてないまま、まるでイケイケの肉食男子みたいな誘い文句に聞こえる言葉を放ち、そのまま手を取って立たせる。

 かなり久し振りに見る師の姿に刀奈はどういう意味でなのかドキマギしてしまって素直に言うことを聞いてしまってる。

 

 

「キミ、この子の相手をしてくれてありがとう。

これ、少ないけど取っておいてくれ」

 

「は、はぁ――って、万札!?」

 

「今まで俺を記事にしないでくれた礼コミコミだ。要らなきゃ赤い羽根の募金箱にでも入れてくれ」

 

「は、はぁ……」

 

「それじゃ」

 

 

 そして、昔殺してやった気がする女悪魔の一人に声が似てる女子生徒に万札を二、三枚渡すと驚いてしまってる彼女を尻目に一誠はさっさとポケーっとしてる刀奈を連れて行ってしまった。

 

 

「……どうしよう、これ」

 

 

 結構刀奈と仲が良い眼鏡の女子生徒は、一誠から貰ったお金を前に困惑するのだった。

 

 

「え、人探し?」

 

「あぁ、神崎君曰く『俺の生きた世界の出身者』と出会したらしい」

 

「お師匠様の!?」

 

 

 

 ほぼ間違いなく一誠の全てを知っている刀奈は、烈火が何者なのかも既に知っているので、その彼からもたらされた情報に驚いた。

 この学園内に一誠と同じ世界を生きた者が入り込んでいる。

 この学園際の騒ぎに乗じて、例の組織が動く事は予想していたし、警戒もしていたが、それに平行してまさかそんな者まで……。

 

 だから何時に無く昔に戻ってるのかと納得した刀奈は、直ぐにでも自分の中に託された形で宿している龍を呼び起こす。

 

 

「ドライグちゃん」

 

 

 自身が弟子であり認められた証である赤龍帝の籠手が刀奈の左腕全体を覆う様に現れると、その籠手から渋い男性の声が聞こえる。

 

 

『説明しなくても聞いていた。しかしそれらしき気配は感じ取れん』

 

 

 既に刀奈を介して周囲を探り始めていたドライグだが、どうやらそれらしき気配は察知できない模様。

 

 

「まあ、力を垂れ流しにしながらこんな人だかりの中に入り込もうとは思わないわな。

幸い、相手は男だと確定してるから探すのにそう時間は掛かりそうもないが……」

 

「男の人なのね? 容姿の特徴は?」

 

「特徴……? ……………あ、聞き忘れてた」

 

『お前な……そこが肝心だろうが』

 

 

 察知できないと言うドライグに、一誠は特に残念がる様子もなく、引き続き刀奈がひそかにドキマギする程度には真面目な顔になっていたが、肝心の容姿の特徴を聞き忘れているというミスにドライグは呆れてしまっていた。

 

 

『昔から鈍いお前を俺がフォローしてたとはいえ、平和ボケし過ぎた』

 

「居心地が良すぎてな……。

悪い刀奈、取り敢えず男だってのは間違いないんだがよ……」

 

「それだけでもかなり絞れてくるから大丈夫よ。

こういう手合いはお師匠さまより得意だから任せて」

 

 

 話の内容が内容なので、人気の無い場所へと移動していた二人はドライグを交えて捜索の道筋を考える。

 

 

「今日学園祭に来ている男性は少ない様で結構多いわ。

各種企業のお偉いさんから、一般父兄……そこから更に絞るとするなら、お師匠さまの見た目を考えて若い男の人に注意しながら探してみるべきね」

 

「聞いてみると転生悪魔であった可能性も高いらしいからな」

 

『転生悪魔か……久し振りに聞いたな』

 

 現役の暗部当主らしい刀奈の手腕に大人しく頷く。

 こういう事に関してはゴリ押しで誤魔化してた自分より刀奈の得意分野なのだ。

 

 

「まずは管制室に行きましょう。

学園内の監視カメラを調べればもっと早いし、神崎くんと織斑くんの教室に一度現れたのでしょう?」

 

「なるほど、刀奈はホントに頭が良いなぁ」

 

『お前がゴリ押しし過ぎの脳筋なだけだ。

グレートレッドにも言われただろうが……』

 

「あーそんな事もあったし随分と懐かしい名前だ。

アイツも今頃は悠々自適に次元内を泳いでるのかねぇ……?」

 

 

 少しギラギラモードになってる一誠に褒められて嬉しそうにしてる刀奈の後を歩きながら、一誠はかつて利害の一致から共に戦ったドライグ以外の唯一戦友を思い返す。

 

 

「顔から何から全て不愉快だからって理由で気が合ったんだよな。

アイツが居なかったら危ない面もあったし、平和に生きててくれると良いんだが」

 

『大丈夫だろ、奴もまた俺と同じでお前と共に進化できたのだからな……お前の無神臓で』

 

「無神臓、か。その名も懐かしいぜ」

 

「お師匠さまがお師匠さまである根の事よね? そういえば暫く感じ取れないけど……」

 

「自分で封じたのさ。

もう進化する理由も無くなってたし、お前という後を託せる子にも恵まれたしな」

 

「ふーん……?」

 

 

 転生者の存在が不愉快だからという理由で気が合った戦友。

 かつては夢幻の龍神と恐れられたドラゴンを思い返し、少しだけ優しげに笑みを浮かべる一誠を見て刀奈は少しだけ会った事は無いグレートレッドに妬いた。

 

 

(あんな顔をするなんて、よっぽどお師匠さまにとって大切だったのね。少しだけ羨ましわ)

 

 

 もっとも、可愛らしい少女の小さな妬きもちていどだが。

 

 

 

 まさか同じ世界を生きた挙げ句、図らずも自分の仇討ちまでしていた男に追われてるとまでは流石に思っていない元士郎はといえば、割りと隠す気が無い程度には堂々としてるマドカと共に学園祭を満喫していた。

 

 

「ふふん、こうして学園の制服を着れば案外バレないものだ。

どう元士郎? 似合うかな?」

 

「さっきなぜか言い争いをしてた女子組の中に居たツインテールのチビよりかは似合うと思うぞ」

 

「ツインテールのチビ? ……あ、さっきの中国の代表候補生の事?」

 

「? 何で知ってるんだ?」

 

「スコールから学園内に居る専用機持ちのプロフィールは頭にいれておけって言われてね。

別に興味は無いが覚えてはいたみたい」

 

「ふーん?」

 

 

 予め入手していたIS学園の女子制服を着て、髪は後ろでひとつに結び、伊達眼鏡を掛けた軽い変装をするマドカと共に学園内をウロウロする元士郎は、ほぼ別々の国出身だろう女子のグループが何やら凄い揉めてたのをスルーしてたのだが、その中に代表候補生なる者だったと知っても興味はなさげだった。

 

 

「ついでに言うと、さっき何故か揉めてたあの連中達は皆専用機持ちらしいね。しかも織斑一夏の友人」

 

「あぁ彼のね……」

 

「神崎烈火については……あんまりよくわからない。交遊関係が微妙に狭いらしいのは確かみたいだけど」

 

「色々知ってるなマドカは」

 

「これも仕事だからな。

あ、心配しなくても仕事と元士郎と過ごす時間はきちんと別と割りきってるから」

 

 

 そもそもISに関する知識が、マドカが就職先から持たされた変な機械程度の知識しかなく、マドカも殆ど使ってないという事なので、知る機会もほぼなかった。

 まあ、流石にマドカの事もあるので織斑一夏と千冬の二人については『知って』いるが。

 

 

「これは私の勘だけど、多分さっき揉めてた専用機持ち達は織斑一夏に惚れてると見たよ。

彼の名前を口にしながら喧嘩してたしね」

 

「モテるんだな彼は……確かに、人は良さそうだったけど」

 

「プロフィールを見る限りではその様だね。

一通りの家事全般もこなし、ISの技術も入学当初と比べて成長している。

なんでもこの前どこぞの国の無人機が暴走した際も彼とその仲間達で止めたらしい」

 

「ほほー?」

 

 

 売ってたソフトクリームを二人で食べて歩きながら、一夏についてを知っていく元士郎。

 

 

「才能についてはまだ成長していくと思うよ。

ほら、姉さんみたいにアレだし」

 

「なるほど、大体わかってきたが、お前は複雑じゃないのか? 馬鹿共の節穴な目的には成功例って奴でお前はその……」

 

「全く無いって言ったら嘘にはなる。

けど私はそれに対して憎いと感じることはもう無いよ。

だって元士郎が私の事を全部知った上で傍に居てくれるんだから」

 

 

 そう嘘の無い純粋な笑顔を見せながら元士郎の義手じゃない方の手を繋ぐマドカ。

 暗闇に堕ちた暗黒騎士として覚醒し、人間の陰我を喰らって血に餓えた牙を持つ――決してまともじゃない彼にマドカという個として見て貰えるからこそ、皮肉な事に精神的な成長を今尚続けているし、ある意味で千冬や一夏よりも勝っているとも言えなくもない。

 

 

「だからきっと、元士郎にとって私は要らないと解ったらそれで終わりだろうな。

私にとって、生きる意味はお前そのものだから」

 

「……そんな大袈裟な」

 

「大袈裟なもんか……なんて言うと、重い奴だと思われちゃうからあんまり言いたくないけど、元士郎に飽きられない為には私はなんでもする」

 

 

 本気で誰かを好きになるという心が。

 暗闇から救いだしてくれたのが、更なる暗闇だから悪いことだなんて誰が決めた? 少なくともマドカにとって黒狼たる元士郎は希望。

 そしてその希望たる彼が決して完璧ではなく弱い面があるからこそ、より強く共に居たいと思う。

 

 

「メシアの奴がどうせ盗み聞きして半笑いな顔でもしてるのだろうけど、笑いたければ勝手に笑えば良いさ。私の気持ちは変わらないよ」

 

「………」

 

『むむ……!

『す○ぶら』で我に勝ったからと調子に乗りおって」

 

「強いて言うなら、早く元士郎好みの身体に成長しないかなって思うかな。

最近一緒にお風呂に入ってると何時も元士郎の身体を見てお腹が熱くなるし……」

 

「お、おう……」

 

「絶対にソーナ・シトリーなんかより大きくなってみせるから、私を捨てないでね……?」

 

「いやアレについてはもう本気でどうでも良いんだけど……」

 

 

 マドカは本当に彼が好きなのだ。

 




補足

実は一人だけ戦友が居たらしい。

もっとも、利害の一致の関係らしいけど一誠くん的には唯一ドライグ以外で味方になってくれた存在なせいか、割りと大切ぎみに思ってる模様。


その2
ということで互いに知りません。

神崎くんのお陰で名前と存在を始めて知ったので、寧ろちょっと警戒気味。


その3
と、知らぬ元ちゃんはIS学園の制服を着た眼鏡マドカたんとイチャイチャしてたとさ。
 ちなみに結構周りから見られてキャーキャー言われてた模様

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