色々なIF集   作:超人類DX

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ニート思考更生生活をさせられてるこの日、珍しくエリス様が別のお仕事で出払い、一日暇となったニートになりたいイッセーくんのちょっと濃い味な一日。


※やり取りの小さな追加


※たまに見せた優しさ

 ただ死ぬまでの繋ぎとして生きてるだけの世界で、生きる意味も意思も失った青年は何故か規則正しい生活をさせられていた。

 

 死にたいのに死ねないし、別に生きてる意味も無いのだから、部屋にでも引き込もって死ぬまで待ち続けた方が世界そのものの為にだって良い――と、主張しても、仕事を半ば放棄してまでわざわざ自分の監視をすると宣う女神は何時も言うのだ。

 

 

『それとこれとは話が別』

 

 

 だと。

 何が別であるのかが青年にはわからないし、そもそもお前は女神とやらの仕事は良いのかよとも思ってしまうし、本当に自分を完全に殺してくれるのかとも不安しか残らない。

 

 でもこの女神はわざわざこの世界に住む時の姿にまで変装し、ダラダラとした日々を過ごそうとする己の尻をひっぱたく。

 

 絶頂期の青年なら、そんな真似をましてや神にされた時点で無限に等しき殺意と敵意をもって潰しにかかるのだけど、生憎彼には今のところそういった行動をこの女神に向けるつもりは無いらしい。

 

 

「お前、本当に俺を殺してくれるんだろうな?」

 

「………。我が女神の名にかけて誓いますよ」

 

「本当かぁ? 仕事を放棄してただ俺の様子を見てるだけで本当に俺を殺せる算段が思い付くのかよ? めっちゃ怪しいんですけど」

 

 

 別に今すぐにとは言わない。けれどなるべく早めに殺してくれたら嬉しい。

 かつて愛した者達のもとへと逝きたい青年は、この手の話題を振ると決まって複雑そうな顔をする女神にただただ願うのだった。

 

 

(これで死ねませんなんてオチだったら、マジでアレだかんな)

 

 

 

 

 終活目的の異世界生活にもそれなりに慣れてしまった元・赤龍帝のイッセー。

 お節介過ぎる女神のせいで自由時間を大幅に削られてしまった彼にも一応休日はあるらしい。

 

 

「『今日はお仕事はせずに身体を休めてください。

私は別のお仕事に出掛けます』………ね」

 

 

 半年前と比べたらすっかり片付いてしまったお部屋のテーブルの上に置いてあったメモ書きを読みながら、半裸姿で寝癖飛びまくりなイッセーは寝ぼけ眼の間抜け顔でエリスが出払っている事を知るのと同時に、エリスが作ったのだろう質素な朝ごはんが置いてあるのに目を向ける。

 

 

「『朝ご飯をは作っておきましたので食べてください』……ねぇ?」

 

 

 まだ暖かいスープにパン一個に何かしらの卵のスクランブルエッグに何かのベーコン焼き。

 なるほど、朝飯にしては上等なラインナップだと、当初飯を作らせたらゲロマズそうな色の何かを生成していた頃と比べたら大分マシになったものだと、イッセーは一人鼻で笑いながらも律儀にエリスの作ったご飯を食べる。

 

 

「味薄っ……! やっぱ飯はリアスちゃんとガブリエルさんが作ったものに限るぜ」

 

 

 ちょっと健康志向の薄味で、リアス達仲間の女性陣が作ったご飯が恋しくなるものの、食べられない味ではないので、これまた律儀に完食する。

 

 

「さぁてと、うるさい小姑が居ない今日は何をしてやろうか? エロ本――は、しまった、この前全部燃やされて捨てられてしまったんだったか。

うーん、金はそこそこ残ってるから今のうちに買って隠してしまうか?」

 

 

 食べ終え、片付けないとまた煩いので片付けを終えたイッセーは、今日一日の予定を適当に考える。

 エロい方面の予定ばかりを考えるのは彼の本来の性格故なのか、娯楽の少ないこの世界においてはエロ小説は何よりの娯楽だった。

 

 生憎エリスにはまったく理解を得られないどころか、生活態度を著しく崩す要因だといっつも見つかると捨てられてしまうので、今日はそのエロ小説を隠れて買い込む事を目的に街へと出ることになる。

 

 

「しっかし、ホントにゲーセンもコンビニも無い世界ってば不便なものだぜ」

 

 

 確かはじまりの街とやらで、エリスもといクリス曰く、危なくないお仕事をする分には一番適した街らしいアクセルの田舎めいた街中を様々な人種の者達とすれ違いながら、イッセーは現代世界を懐かしむ。

 魔法めいた技術が多少横行しているようだが、人類が発明した三種の神器に慣れきった現代人のイッセーにしてみたら、魔法は寧ろ前時代めいてあまり慣れる気はしない。

 

 

「あぁ、カップ麺食いてぇ。

ガブリエルさんに怒られるけど、カップ麺の残り汁ご飯が食いてぇ……」

 

 

 そんなものよりも、塩分や添加物たっぷり上等なカップ麺を思いきり食べたいし、その残り汁を冷飯にぶっかけて思いきりかっこみたい。

 かつてヴァーリにその食べ方を教えたら、目が覚めた様な顔で『しょ、食の大革命だ!』と言ってたのを大笑いしてやった日々が懐かしい。

 

 

「まぁでもこんな場所でもリアスちゃんとデートする場所とするなら良いのかもな……はぁ」

 

 

 皆が先に逝って自分だけが醜く生き残り、あまつさえ神の世話にすらなってしまっている。

 街中は人々の活気の声で賑わい、空も晴れてるけど、イッセーの心の中は今もまだ雨が降り注いでるように暗いのだった。

 

 

「………あれ?」

 

 

 ちなみに、エリスと居る時にリアスの話をする事は大分少なくなっていたりする。

 その理由はリアスの名を口にすると高確率でかなり複雑な顔をするからだ。

 その理由を深く聞く気はないし、また知りたいとも思わないけど、過去を引きずる姿はエリス的に見たく無いのかもしれない――――――――とまぁ、そんな話は置いておき、書物が売ってる店へと向かっていたつもりだったイッセーは、はてと首を傾げながらたどり着いてしまった施設の前で立ち尽くしていた。

 

 

「なんで俺はここに来てしまったのだろう? 今日は仕事しなくて良い日なのに……」

 

 

 官能小説っぽい書物が売ってる店を探すつもりが、毎回引きずられる形で連れてこられるハローワーク的な施設――つまりギルド場へと来てしまったのだ。

 

 

「チィ、クリスに毎度嫌々連れてこられて道を嫌でも覚えてしまったからか? アホらしい、今日はエロ本を買うんだっつの」

 

 

 エリスに休んで良いと言われた今日、わざわざ来る意味が無い。

 イッセーは馬鹿馬鹿しいと己の中で思いながら回れ右をして来た方向へと戻ろうとしたのだが……。

 

 

「待て。

俺が真面目になったってここでポイント稼ぎをしたらアイツは女神の仕事に戻るんじゃなかろうか? そうなれば俺の監視の目も緩くなって引きこもりをしてもバレやしない……」

 

 

 ふとエリスによる監視が緩くなる可能性を思い付き、イッセーの足は止まり、再び悪夢のギルド場(ハローワーク)へと向く。

 

 

「…………よし!」

 

 

 かつて、冥界から命からがら逃げ出したリアスを助け、共に過ごしていた時期は、リアスにだけは貧しい思いはさせまいと死ぬほど働いた。

 そのお金でよく帰りにプレゼントも買ってた。

 

 どんな安物だろうとリアスはとても喜んでたし、その夜は忘れられない夜にもなった。

 

 

「待ってろよ、ロイヤルニート!」

 

 

 まあ、エリス相手にそんな気分になる事なんて欠片もありえないけど、あの小姑みたいな世話焼きが軽減される為のポイント稼ぎにはなるだろう。

 そう思ったイッセーは予定を変更してギルド場へと踏み込んだ。

 

 

「あらイッセーさん? 今日はクリスさんとご一緒ではないのですか?」

 

「ええっと、そうっすね。

それよりもなんか簡単な仕事――てかクエスト? ってのはありますかね?」

 

「勿論ございますよ! ソロで行えるクエストは向こうの掲示板に掲載させて頂いておりますの」

 

「ども」

 

 

 相変わらず生きる気力でみなぎってる連中だらけで羨ましい限りだ……と、ひとり無意味に自己嫌悪に走りながら、顔馴染み程度にはなった受付のお姉さんと案内で、ひとりでも可能なクエストの詳細の紙が貼ってある掲示板の前へと立つ。

 

 

「水路工事の人手の募集。報酬・二千エリス……?

完全にぼったくりだろこの値段、せめて日給15000はねーと誰も見ねーよ。

てか、他に見てるのが誰も居ねーってのが現実性を物語ってるし」

 

 

 他の冒険者達は討伐系のクエストの掲示板ばかり見てるだけで、こういう系統の仕事は隅っこに追いやられる形になってるらしい。

 なるほど、と、その理由がわかってしまったイッセーは破格設定のクエスト内容を見てブツブツ言いながらマシなものを探していると……。

 

 

「あ? なんだこりゃ? 『一緒にクエストをしましょう……』報酬――な、七千エリスだと!?」

 

 

 平均報酬が五千前後である募集の中、ひとつだけ――というか掲示板の隅の隅に貼られた、仕事内容にしても異様な募集の張り紙を見つけたイッセー。

 

 

「ただクエストをするだけで七千……?

内容にもよるが参加だけで七千って事なのか? 前金か? やべーな、下手したら淫魔の店にすら帰りに行けるかもしれないじゃん」

 

 

 怪しい臭いはプンプンするが、その見合わない報酬の高さにイッセーは仕事帰りの豪遊の妄想が捗り、若干鼻の下を伸ばす。

 別に淫魔自体に何を思う訳じゃないが、この前からその店にはリアスに似てる子が働いてるのではなかろうかというアホみたいな希望を抱いていたのだ。

 

 

「よーし、乗ってやろうじゃないか。

もし詐欺だったら、そいつをぶっとばしてかつあげして五万エリスはふんだくれそうだしな……ククク!」

 

 

 どちらに転ぼうが損は無いだろう。

 クリスに邪魔されて未だ入った事の無い如何わしいお店を糧に、人知れず久々に彼らしくなりながら、その貼り紙を手に受付へと向かうのだった。

 

 

「すんません、このクエストをお願いしたいっす」

 

「はいはーい、ありがとうございます……っと? なんですかこのクエストは?」

 

「へ? あの掲示板に貼ってあったのをそのまま持って来ただけっすけど?」

 

「え? でもこれ、パーティ募集の紙ですよ?」

 

「は?」

 

 

 七千エリスの為に意気揚々と受け付けに出しに行ったイッセーだが、受付嬢の言葉にポカンとなってしまう。

 どうやらクエスト……では無く、何者かのパーティ募集の貼り紙だったらしく、しかも職員のミスで貼る場所を間違えてしまったらしい。

 

 

「どうやら誰かが間違えて貼ってしまった様ですね。

申し訳ありません、こちらの手違いでした」

 

「ええっー!? 参加するだけで七千エリス丸儲けだと思ってたのにそりゃないぜ!」

 

「七千エリス? あらホント、パーティに加わると七千エリスがプレゼントされるみたいですね」

 

「そういう事かよぉっ! っあぁっ!! もうやる気が無くなった……!」

 

 

 手違いでクエストではないとわかった途端、一気にやる気スイッチが切れてしまったイッセーは腑抜けた顔で肩の力を落とす。

 

 

「馬鹿馬鹿しい、ちょっとその気になったのがそもそもの間違いだったんだ。

へへ、帰ろ帰ろ、働いた時点で負けだぜ負け!」

 

「そ、そんな大きな声で言わなくても……」

 

 

 顔見知りの受付嬢さんは彼がしょっちゅうクリスの尻に敷かれる形でめんどくさそうにクエストをやってたのを知っているのか、苦笑いをしながらこんな提案をしてみる。

 

 

「そ、そうだ! ではこの募集をした方と会って一度だけで良いからクエストをしてみたらどうでしょうか? そうすれば七千エリスは手にはいると思いますよ?」

 

「はぁ……? もう良いっすよ、会った所で軽快なトークのサービスでもしなけりゃ変な空気になっちまうんでしょ? どうせさ」

 

「そ、そんな顔しないで、もしクリスさんが一緒だったら怒られちゃいますよ?」

 

「ぬぐ……よ、よくご存じで……。

はぁ、まあ、騙された気分でやってみますよ」

 

 

「そうですか! それではまずはこの募集をされた方とお会いに……あら、集合場所はここみたいですね。

えーっとお名前は――」

 

 

 受付嬢にまで言われ、本当に仕方なく乗るだけ乗ることになったイッセーは、とてもやる気のない顔をしながら集合場所と募集した相手の名前を聞くと、終始嫌々な顔をしながら受付嬢さんに引っ張られる形でその場所へと向かう。

 

 

「あ、居ましたよ。恐らくはあの………えーっと、独りでポツンと隅の方でお座りになってる方かと……」

 

「はぁ……」

 

「では後はイッセーさんお願いしますね?」

 

「はぁ……ぃ」

 

 

 案内だけはするが、実際対面するのは本人がやれ……と笑顔でそう丁寧に告げた受付嬢さんは元の場所へと去っていく。

 ドライグと共にドラゴン波をぶっぱなしていた頃のギラギラしたオーラは欠片も見当たらず、かと云って七千エリスは取り敢えず欲しいので、受付嬢さんの指差した先に、うつむきながら、他の冒険者達の和気あいあいしてる様子を羨ましそうにたぶん見てる、どこかで見た気がする格好をした者の前に立つ。

 

 

「えーっと、この募集をしたのはアナタでしょーか?」

 

「え……」

 

 

 七千エリスの為……七千エリスの為……。

 と、何とかそれだけを糧にし、ポツンと座ってる少女に話しかけたイッセー。

 こんな事ならやっぱりエロ本巡りでもしてた方が良かったかもしれないと、少し後悔しながらも話しかけたのは、まだエリスに対する点数稼ぎの思惑が残ってるからだったのかもしれない。

 

 

「だから、この募集の紙貼ったのはアナタでしょうか?」

 

「!」

 

 

 そんな大人の汚い思惑があってのものだと、当然わかる訳もない魔導師めいた格好の少女は、まさか自分に話し掛けられるとは思わなかったのか、一瞬ポカンとした顔をし、目の前の男性が持ってる紙は確かに自分が書いた奴だというのを認識した途端、これでもかとテンパりながら何度も頷き始めた。

 

 

「は! ははははは、ははっ! はいぃ!! そ、それは確かにわ、わた、っ! わたひが、だしました!」

 

「……………………」

 

 

 すんごくテンパって噛みまくりな少女のリアクションに、イッセーは一瞬にして思った。

 

『あ、やばい、もしかせんでも超めんどくせーかも』

 

 

 言葉のコミュニケーションが上手く取れなさそうってのも緊張してるからだというのを加味してもめんどくさそうなのだ。

 とはいえ、ちょっと顔を合わせて適当なクエストをすれば七千エリス丸儲けだと考えれば、少しはマシなのかもしれないと思ったイッセーは、テンパりまくって半泣き顔の少女に口許を緩めながら落ち着かせる。

 

 

「落ち着けよ? 別にとって喰うつもりはないんだから」

 

「は、はい! ごめんなさい! ごめんなさい!ごめんなさい!」

 

 

 七千エリスの為だ。我慢しろ……。

 行動理念が今まさにそこのみとなりながら、今度は謝り始める少女にイッセーは人が良さそうな笑みを浮かべる。

 

 

「偶々募集の掲示板を見て気になったんだよ。

どうも職員の手違いでパーティ募集の掲示板じゃなくて雑用クエストの掲示板に張り出されてたらしいがね」

 

「え……じゃ、じゃあ今まで誰も来なかったのは……」

 

「ま、そういう事だ。運が悪かったな色々と……」

 

「…………」

 

「でもまぁ俺が見付けたし解決できた訳だし、そこは忘れて早速仕事の話をしたいんだけども……」

 

「は、はい……!」

 

 

 七千エリスの為だぁ……怒るな切れるな、やる気を示しとけぇ! と、とにかく金の為だと言い聞かせながら、らしくもない演技までかまして少女に仕事の話を切り出しつつ、テーブルに座って軽食を頼む。

 

 

「見たところ……なんだっけ? ウィザードっぽい格好してるから魔法に強そうだね?」

 

 

 というかウィザードについてはそれしか知らないのだが、適当に褒めとけば良いだろうとイッセーはいい加減な褒め言葉を送っておく。

 

 

「は、はいアークウィザードです」

 

「ん、アーク? 上級職なのかよ?」

 

「はい。だからパーティを組む必要はないって言われて……」

 

「ソロでも出来るだろうって意味でか? それで募集したんだ? ふーん」

 

「そうです。

ところであの……アナタのお名前は?」

 

 

 金の為にわざわざ気安く接しやすそうな空気を醸し出しながらご飯を食べるイッセーに少女が名前を問いかけてくる。

 その表情からして、名前を聞くのにすらかなりの勇気を出した感が満載で、ひょっとして彼女は友達が居ないタイプなのかもしれないとイッセーは思った。

 

 

「イッセー

残念ながら上位職でもなんでもない冒険者だよ」

 

 

 極限まで力を押さえ込んでの登録でステータスを偽装した為、器用貧乏の冒険者の職だったりするイッセーが名前を教えると、少女は一瞬何故か表情を明るくさせながら、ひとり何度もブツブツとイッセーの名前を連呼していた。

 

 

「イッセー……イッセーさん……ふふ、名前を聞けた、ちゃんと……」

 

「…………。で、君の名前は?」

 

 

 金の為だけど、なんだろ、この電波っぽく見えるのは? と思いながらも名前を聞いてみると、それまでひとりにやにやしてた少女が途端に恥ずかしそうに目を伏せた。

 

 

「あ、あの……笑わないですか?」

 

「は? 何を? 君の名前をか?」

 

「えっと、はい……」

 

「それは聞いてみないことにはなんとも言えないが……」

 

「で、ですよね……」

 

 

 なんだ? 金の為とはいえ、そんなに変な名前なのか? と思っていると、意を決したのか、少女はテーブルから立つと名乗りだした。

 

 

「わっ……我が名はゆんゆん。アークウィザードにして上級魔法を操る者。やがて紅魔族の長となる者……!」

 

「……………………」

 

 

 いや、名前だけ聞けたらそれで良いのにそんな名乗りまでしてくれなくても……金もらう為だし。

 と、言い終えたと同時に座り直して両手で顔を覆う少女――ゆんゆんに思うイッセーは別に笑う気にはなれなかった。

 

 

「ん、紅魔族? どこかで聞いた様な――あっ」

 

 

 それにその名乗りかたについて、以前どこかで見たと思い出した。

 確か名前はめぐみん……だったか、あの金欠パーティの一員の。

 

 

「へ、変ですよね? おかしいですよね? で、でも故郷だとこういう名乗りをしないと逆に変人扱いされるんです……うぅ」

 

「あー……だからか」

 

 

 彼女がその一族にとってのイレギュラーなのか……。と、めぐみんなる少女との羞恥の差を前に理解するイッセーは水を飲みながら、取り敢えず笑いやしないことを教えておく。

 

 

「色々な人種が存在してる時点でその種族特有の何かがあるってのは前に知ったから別に笑わんよ。

ふっ、なんなら俺も名乗ってやろうか?」

 

「え……」

 

 

 取り敢えず金をさっさと貰いたいので、この少女の警戒心を解いてしまえと思ったイッセーは、ゆんゆんと同じくテーブルから立ち上がると、全身から久々にリアスとの交わりとスキルによる相乗効果で手にした魔力を僅かに放ち、その両目を赤く輝かせながら大名乗りをした。

 

 

「我が名は兵藤一誠、元・赤龍帝にして、無神臓を発現せし者! ――――なーんてな」

 

「………」

 

 

 クリスに見付かったら大目玉でもくらいそうだな……と思いつつも、どうせ意味なんかこの少女に理解できる筈もないとイッセーはなにげに己のルーツを交えた名乗りを行い、そのままテーブルに座り直してご飯を食べ直す。

 

 

「はい、これでお互いに名乗りは終了だ」

 

「あ、はい……」

 

 

 ただ、ゆんゆんは僅かにイッセーから感じた魔力に気付いていた。

 それも並の魔力ではなく、何か自分でも知らない未知のものであることも。

 

 

「んで、どんなクエストをするんだよ? 募集には七千エリスをくれるって話を……」

 

「あ、は、はい! ちょ、貯金したお金ですが前金で……」

 

「は? 貯金? 待てよ、貯金を崩してでも誰かとパーティ組みたかったのかよ?」

 

「だ、だってお友達が欲しいから……」

 

「友達って……いくつだよキミ?」

 

「じゅ、14になりました」

 

「14!? ……………あ、あぁ、そうなんだ、へー?」

 

 

 14と聞いて割りと本当に驚いたイッセー

 というのも、クリスと比べても随分と発育が……。

 いや、その話は置いておこう、14歳ならば確かに友達は欲しいのかもしれない。

 自分が14の頃はドライグと毎日復讐の特訓やら、知りもしない虫の幼虫を食いながら飢えを凌いでた気はするが、普通の子供にしてみれば友達を欲しがる年齢だからしょうがないのかもしれない。

 

 

「友達か……。何か申し訳ないな。

待ちに待った相手が俺ってのが……」

 

「いえいえ! う、嬉しいです私は! あ、あのーイッセーさんはおいくつなのですか?」

 

「俺? 俺は――」

 

 

 年齢なんて100から先は数え忘れてるし、一度完全にリセットさせられた事も考えたら16程度なのは間違いない。

 ただ、それを言うべきなのか? ギルドカードには一応16で登録はされているが、実際のところ100歳はゆうに越えてる。

 

 

「16だよ」

 

「じゃ、じゃあ歳も近いですし、お友達になってもおかしくないって事ですよね!?」

 

「え……あ、あー……うん、そうだね」

 

「や、やった……! やっと私にもお友達ができた……! ふふっ、ふふふふ!」

 

「………。(もう勝手に友達扱いされてるし俺……)」

 

 

 実際は二十歳頃から完全に老化が止まってたので、ある意味間違いではないのだが、この喜び様を見てると騙してる気になって凄まじく罪悪感が芽生えてしまう。

 

 

(いやいやいや、所詮七千エリスを貰うだけだから。それからは別に関わらなければ関係ないし)

 

 

 けど金の為。

 そう自分に言い聞かせる事で誤魔化すことにしたイッセーは、とても嬉しそうに笑うゆんゆんから目を逸らしながら、彼女が待ち望んだ『友人と共にクエスト』に付き合うのだった。

 

 

 

 

 

 結局前金を貰う事なく、かなり浮き足立ってるゆんゆんとクエストをする事になったイッセー。

 内容としてもかなり楽な奴を選ぼうとしたのだが、受付嬢の人がゆんゆんのレベルならもっと上のクエストも可能だからと要らぬお節介を焼いたせいで、初めての討伐系のクエストをする羽目になってしまった。

 

 

「洞窟の採石場に住み着いた飛竜の退治……。

あのさ、俺マジで討伐系統クエストとかやったことないぞ? 相棒的な奴に禁止されてたから……」

 

「だ、大丈夫です! 私が守りますから……!」

 

 

 これ、クリスに逆に怒られるパターンじゃなかろうか? と思い始めてきたイッセーは、ひとり張り切るゆんゆんの後ろを歩きながら、どんどんと面倒な方向に事が進んでる事に後悔の念が沸き上がっていた。

 

 

(高々竜一匹に苦戦なんてしたくても、もうできないからどうでも良い。

だけどそれしても……あぁ、マジで家で寝てれば良かった)

 

 

 現場である洞窟へと入り、暗くてジメジメとした冷たい空気を肌で感じながら、イッセーはただただかったるそうに妙に張り切るゆんゆんの後ろを歩く。

 

 

「だ、大丈夫ですか?」

 

「あぁ……大丈夫だよ」

 

「何かあったらすぐに言ってくださいね?」

 

「うん……」

 

 

 七千エリスより高くつくだろ、こんなもん。

 そんな事をブチブチと心の中で文句を垂れ続けながら奥へと進んでいくと、獣の様な唸り声が洞窟内に響き渡る。

 

 

「……! 居ます、この先に竜が……」

 

「…………」

 

 

 どうやら目当ての竜が奥に居るらしい。

 表情を引き締めるゆんゆんとは逆に、どこまでの後悔ばっかりの締まりの無い顔をしているイッセーは、縄張りに入られて気が立って唸っている竜とついに相対する。

 

 

「グルルル……!」

 

「気が立ってるな……」

 

「っ……来ます!」

 

 

 何時かどこかで捕まえて食ってやった鱗の固そうな竜がゆんゆんの声と同時に雄叫びを上げながら襲いかかってきた。

 

 その瞬間、ゆんゆんが魔法を竜に向けて撃ち込む。

 

 

「ガァァァッ!!」

 

「思っていたより強い……!」

 

「突進してきた、根性あるなぁ」

 

 

 雷撃の含まれた魔法に対して怯む事もなく突撃してくる竜に身をかわしながらゆんゆんが今度は炎の魔法を放つ。

 

 

「グガァァァッ!?」

 

「お、炎に弱いみたいだぜあの竜?」

 

「そうみたいですね……! では!!」

 

 

 すると今度は苦しむ様な声をあげながら動きが止まり、炎が弱点だと見抜いたゆんゆんは更に出力を上げようとしたのだが。

 

 

「ガァァァァァッ!!!!!」

 

 

 

 瞳の瞳孔をこれでもかと開かせ、完全にキレた竜が炎のダメージを無視してゆんゆんに襲い掛かる。

 

 

「うっ!?」

 

 

 雄叫びと予期せぬ特攻に一瞬怯んでしまったゆんゆんに竜の爪が襲いかかろうとする。

 まずい……! そう思ってカウンターをしてやろうにも竜の動きが思っていた以上に速すぎる。

 

(ま、間に合わな―――)

 

 

 ゆんゆんはその一撃を前に目を閉じてしまった。

 

 

「竜が龍に勝てるかよ。……まあ、元が頭につくがな」

 

(え……?)

 

 

 しかし何時まで経っても痛みが襲い掛かって来ない。

 恐る恐る目を開けてみたゆんゆんは、目の前の光景に絶句した。

 

 

「が、ガァッ……!」

 

「へぇ、まだ挑む気かよ?」

 

 

 全身が傷だらけの竜が満身創痍で立つものやっとだと言わんばかりで自分の前に立っていたイッセーと向かい合っていたのだから。

 

 

「え……えっ……? な、なにが一体どうなって……」

 

「…………………」

 

 

 目を閉じてた間になにが? 困惑するゆんゆんだけどイッセーは答えず、満身創痍の竜の顎を蹴り上げる。

 

 

「ギャッ!?」

 

「え、嘘っ……!?」

 

 

 自分達の何十倍もある体積の存在を軽々と蹴り上げるイッセーに思わず驚いてしまうゆんゆん。

 洞窟の天井にめり込み。そのまま落下してくる竜に手を翳したイッセーは、ギルド場で顔を合わせた時に感じた異質な魔力を、今度は誰にでも目視出来る程の巨大なオーラの様に全身から放出すると……

 

 

「消し飛びな」

 

 

 消滅の魔力を竜に向かって打ち込み、この世から消滅させた。

 

 

「………………」

 

「………………」

 

 

 

 跡形も無く消え去った竜。

 まるで最初から存在してなかったかの様な静けさが洞窟内に広がる中、全身から吹き荒れていた魔力がイッセーから消えると、ハッとした声で一言……。

 

 

「あ、しまった。つい使ってしまった……」

 

 

 久々に身体を動かし、つい条件反射的に消滅の魔力を使ってしまったことにしまったと頭を叩くのだった。

 

 

 

 

 

 こうしてゆんゆんにとっての初めてのパーティ組みでのクエストは幕を閉じたのだが、冒険者でレベルも低いと言っていたイッセーに対する疑念は多く残ってしまったのは間違いなかった。

 

 

「チッ、取り敢えず金は貰ったから、まずはクリスに誤魔化しのものでも買って……」

 

「…………」

 

 

 

 異質であまりにも強大に感じた魔力。

 まるでアークウィザードの高レベル者を思わせる程に強い魔力を持っている彼は何者なのだろうか? 一応ギルドカードを見せてもらったけど、ステータスからレベルから初心者レベルだったけど、アレは明らかに初心者のレベルを超越している。

 

 

(下手しなくても私より多くの魔力を持ってるかも……)

 

 

 それほどまでに一瞬ながら強大な魔力をイッセーから感じ取れてしまったゆんゆんは、すっかり夕日が照らす街の大通りの店をあちこち回りながらひとりブツブツ言ってるイッセーの後ろを何気にずっと、クエストが終わって報酬を手にした後もついていく。

 

 

「これで良いか……。あ、すんません、これ値段はどれくらいっすか?」

 

「それ? あー……二千エリスで良いぜ」

 

「二千かよ……まぁ良いや、じゃあ貰うわ」

 

「はいまいどー!」

 

 

 何やら腕に身に付けそうなアクセサリーを買ったみたいだが、一体何に使うつもりなのか。

 ゆんゆんはじーっとアクセサリーを懐にしまうイッセーを見つめていると、それに気付いたのか、イッセーが振り向く。

 

 

「ゆんゆんさんよ、出来れば今日あった事はマジで誰にも言わないでくれないか?」

 

「え……」

 

「キミも感じただろ? 俺はほら……ちょっと他の人と違うんだよ。

だからその、あんまり広められると変な目で見られてしまうというかさ……」

 

 

 そう言いながら手を合わせるイッセー

 どうやらあのクエストの時の力は隠していたものらしい……。

 

 

「つまりこれはキミと俺の間での秘密って事でよ。

勿論タダでだなんて言わないぜ、何か好きなものを奢ってやるから……。(しゅ、出費だけで寧ろ赤字……淫魔の店どころかエロ本も買えねぇじゃん……トホホ)」

 

「二人だけの……秘密……!」

 

 

 確かに困りそうなくらい強い力を感じたと思ったけど、それ以上にイッセーの口から出た二人だけの秘密という言葉がゆんゆんにはとても魅力的に感じた。

 

 

「そ、そそ、それはつまり、私とイッセーさんがお友達だからって事ですよね!?」

 

「そうそう、友達同士の秘密。

(何をしてでもこの子に口止めさせないとまずいからね)」

 

 

 本人は単に口止めさせたいだけなのだが、ゆんゆんにとっては友達同士の秘密という言葉がとても甘美な響きに聞こえてしまい、一気に表情が明るくなった。

 

 

「絶対に誰にも言いません! そ、その代わり、また一緒にクエストしたりご飯食べたりは……」

 

「え……。…………と、友達だからな! 当然喜んで付き合うぜ! うん!(ま、まずい! 何を言ってるんだ俺は!? この子にこの先も付き合わされるとかますますニートからほど遠く……!)」

 

「や、やった……! します! 秘密にします! うふ、うふふふふ……♪ これで私達親友ですよねっ?」

 

「し、親友っていきなりそんな重――いや、そうだな! 親友だ俺たちは!! ワハハハハ!!」

 

 

 嬉しそうにはにかみながら、言ってる事が結構重いゆんゆんに、此処で否定したらまずい気がしてきたイッセーは笑って誤魔化しながら何度もヤケクソ気味に頷いた。

 

 

「親友……! えへ、えへへへへ♪」

 

「…………で、何か欲しいのある?」

 

 

 やべぇ、重いぞこの子……。

 リアスもかなり重いタイプだったが、イッセー自身がリアスにぞっこんすぎたのでまるでそうは感じなかったが、他人にそういう好意を向けられるとその重さがすさまじい事に気付いてしまう。

 これもゆんゆんが、友人ができなさすぎて距離の加減がわかってないからなのだが……。

 

 

「えっと、それじゃあこれを……」

 

「500エリスの髪飾りか……。よっしゃ任せろ」

 

「ところで、さっき買ってたアクセサリーは誰に……?」

 

「え? あぁ、紛いなりにも世話にはなってる相棒的な奴にね……」

 

「………………。相棒さんですか」

 

「今度機会があったら会わせるよ。

同性だし、きっと俺なんかより気が合う――」

 

「同性? ………………………。いいです、イッセーさんと遊べるなら他はもう要りません」

 

「は? いやいやいや、友達なら同性の友達こそちゃんと作ろうぜ。

こんな成り行きとかじゃなくてさ……」

 

「良いんですもう。

私はもう満たされてるので……」

 

「えぇ……?」

 

 

 イッセーは本来相手の暗い過去すらもひっくるめて受け止められる包容力があった。

 それが今、端的に、相手が友人ゼロで半分拗らせつつあった………所謂チョロイ面が浮き彫りになりつつあった少女とはいえ、それが発揮されてしまったのだ。

 厄介な事に、少女自身はその気持ちが重いとは思ってないらしく、今のところ、イッセー以外の友人は要らないかもしれないと思い始めてる。

 

 

「ありがとうございます! 一生、死ぬまで大切にしますからねっ!」

 

「お、おー……そんな安物をそこまで大事にする事も無いんじゃね?」

 

「いえ! イッセーさんからの贈り物ですから!」

 

「そ、そうか? プレゼントした甲斐はあったよ」

 

 

 初めて一族の中でも変人扱いされていた自分を笑わなかった、強大な力を自分だけが知ってる。そして何よりそれを秘密という形で共有する、挙げ句の果てに贈り物。

 イッセーは単に口止めをしたくて、子供なら物で誤魔化せそうだと思っていただけが、完全にゆんゆんの中にある地雷源をブレイクダンスして爆発させまくってしまった。

 

 

「今度私がプレゼントします」

 

「いや別に……」

 

「だって親友ですもの! えへへ、楽しみにしててくださいね?」

 

「お、おぅふ……」

 

 

 どこで何を間違えた? イッセーはただただ昼間の自分に『家でおとなしくすべき』と教えたくて仕方なかったのだという。

 

 

 そして……。

 

 

「今日一日中家に居なかった様だけど、一体何処までほっつき歩いていたのかな?」

 

「…………」

 

 

 やっとこさゆんゆんと別れて家に戻ってみれば、明らかに怒ってるエリスがクリスの姿で出迎えており、そのまま正座までさせられてしまった。

 

 

「如何わしいお店かな? それともスケベな本でも買ったのかい? さぁ、正直に言えば許してあげるけど?」

 

「……………」

 

 

 めんどくせぇ、全てがめんどくせぇ。

 ゆんゆんから解放された次はこれかよ……と、普段の悪い行いがそっくりそのまま返ってきた気分にさせられたイッセーだが、今日に限って言えば本当に真面目に過ごしていたとも言えるので、ちゃんとその事情を説明する。

 

 

「いや、本当にやることもなかったからクエストしに……」

 

「………………」

 

「いやわかる。その胡散臭いものを見るような顔になるのもわかってるけど、マジでやったんだよ。

ギルドカード見るか? 履歴が残ってる筈だし」

 

「いや、別に良い。

で、仮にクエストをしたとしても、帰りにはエッチなお店に入り浸ってお金を使いまくったんじゃないの?」

 

「………どんだけ信用されてねーんだよ俺は。まぁ仕方無いのか?」

 

 

 何を言っても普段の行いのせいか、全然信用されてない状況にイッセーは苦笑いを浮かべる。

 が、イッセーには信じさせる決定的な武器がある。

 

 

「行ってないよ。

ほら、紛いなりにも普段アンタには世話になってるだろ? だから自力でクエストした金でアンタにこれを買ってみたんだが……」

 

「?」

 

 

 あー、神の監視を緩めるとはいえ、詐欺師だなこりゃ。と内心思いながらも、買ってきたアクセサリーの入った包みをクリスに渡す。

 

 それに対してクリスは、相変わらず胡散臭いような物を見るような顔をしながらその包みを開け……目を丸くして固まった。

 

 

「………」

 

「必要かどうかと言われたらめっちゃ不必要なのかもしれないけど、まぁ世話にはなってるからね……」

 

 

 女性物のシルバーの腕輪。

 余計なゴテゴテした装飾は無いが、クリスの趣味を考えたら派手じゃないほうが逆に良いだろうという、リアスに対するプレゼントによる無駄に鍛えられたセンスがここで光っていた。

 

 

「え、これ……私に……ですか?」

 

「おい口調が戻ってんぞ? まぁ何度も言うけど紛いなりにも世話にはなってるからな。

要らなきゃどっかに捨てちまえ」

 

 

 思わず口調が戻るクリスにイッセーは頷く。

 するとクリスは突然俯き、ブルブルと震え始める……。

 

 

(あれ、失敗か?)

 

 

 その様子に失敗を予感していたイッセーだったが、次の瞬間、視界が真っ暗になっていた。

 

 

「わぷっ……」

 

「ひ、卑怯ですよアナタは!」

 

「へ? なにが? てか前が見えねぇ……」

 

「たまに見せるその変な優しさは何なんですか!? 私は女神なのに! 恨まれても仕方ないのに……!!」

 

 

 正座していたイッセーを抱き締め、よくわからない感情が押さえ込めない姿を見られたくないと必死に胸を押し付けて視界を防ぎながら怒ってるような、そうでないような声と口調のクリス姿のエリス。

 

 

「ど、どうするんですか!? こ、こんな事までされて私は……私はっ……!」

 

「あ、あれ? 怒ったんじゃないのか?」

 

「誰が……! く、ぅぅっ! ず、ズルい……卑怯ですよ……! でも、嬉しいんです……!」

 

「何かよくわからんけど、機嫌がなおってくれたのならそれで良いや」

 

 

 しめしめ、これで監視の目も緩くなるもんだ。

 と、エリスの気持ちは一切わからずに抱かれた状態でにやつくイッセー。

 

 

(っし! これで少しは監視の目も緩められそうだぜ! ヒャハハハ! 上手くいけばPCとエロゲーも然り気無く持って来て貰えそうだ……!)

 

 

 エリスにしてみれば、恨まれても文句も言えない相手からこんな事をされるとは思わなかったし、ましてや相手は自分が密かに憧れもした英雄の一人だ。

 

 そんな男にこんな事をされる……。

 そもそも、たまに見せられる優しさですらどぎまぎさせられるのに、今のエリスは幸福やらなにやらで訳がわからなくなっていた。

 

 

「喜んで貰えて何よりだけど、そろそろ離れてくんないか? 前が見えない」

 

「も、もう少しだけ……! い、今アナタに顔を見られたら恥ずかしいので……」

 

 

 ……………イッセーは単にご機嫌取りのつもりだったとも知らずに。

 

 

「で、離れて貰えた訳だけど、なんだよ? 目ェ合わせろよ?」

 

「ほ、本当に今は無理ですってば……!!」

 

「何で?」

 

「だ、だって……あ、あぅぅ……!」

 

「…………。アンタにホスト遊び教えたらドハマリしちゃいそうで心配なんだけど」

 

「わ、私はそんなちょろくありませんよっ!! そ、そもそも普段からグータラなアナタにこんな急に……ふ。ふふふっ! に、似合いますかね?」

 

「リアスちゃんがしても似合うものを選んだつもり―――」

 

「…………………………………」

 

「………。思うけどさ、なんでリアスちゃんの話をしようとすると、妙に泣きそうな顔をするんだよ?」

 

「………。別にしてません、ただ、正直あまり聞きたくはないんです。私は今のアナタの傍には居ますけど、彼等と共に居た頃のアナタの傍には居ませんでしたから」

 

「何だその理由……」

 

 

 そして――

 

 

「イッセーイッセー! ほら、ちゃんと食べよう、食べさせてあげるよ!」

 

「いや良いって……てかお前、前より酷くなって……あぐあぐ」

 

「偉い偉い……ふふ、ちゃんと食べれたね?」

 

「やめろ! ガキじゃねーんだぞ俺は!」

 

 

 監視の目が緩むどころか、次の日以降、余計にベタベタと構われる様になったのだとか……。

 

 

「今日もクエスト頑張れたし、私は嬉しいよ。よしよし……ふふふ♪」

 

「やーめーろー! 周囲から凄まじい生ぬるい目で見られて居たたまれないんだよ!!」

 

「良いじゃん。そんなの気にしなくても、別に悪いことなんてしてないんだからさ?」

 

「それでも嫌なの! ほら見てみろ! 佐藤君達からが特に『うわぁ』って顔されてるし!」

 

 

 貰ったその日から腕輪を肌身離さず身に付け、その腕輪は? と聞かれたら自慢気に『ウチのイッセーから貰った』と、別に知り合いでもない者にすら自慢しまくるし、ハッキリ言って余計に彼女との距離感が詰まって失敗してしまった感が凄まじかった。

 しかもそれに加えて――

 

 

「………その人が相棒さんですか?」

 

「! ゆ、ゆんゆんさんか。

えっと、まぁね……名前はクリスできっとキミの良い友達に――」

 

「イッセー、その人は誰だい?」

 

「初めまして、イッセーさんの大親友! ……のゆんゆんです」

 

「……………。ふーん、女の子といつのまにね?」

 

「え、え? なにこの変な空気は? ねぇ佐藤くん、飯あげるから来てよこっちに?」

 

「ごめん、無理。凄まじく無理。

飯は良いけどその空気は入ったら死ぬ……」

 

「? あれはゆんゆん? 何でゆんゆんが……?」

 

「! あ、やっぱり知り合いかキミの!? おいゆんゆんさん! ほら見ろ、あっちにキミのお友達が――」

 

「え? ……………あぁ、めぐみんですか? 別に友達じゃありません、単なる同郷の者です。

私のお友達はイッセーさんだけで良いですので」

 

「待ちなよ、イッセーの友達を自称するわりにはイッセーは困ってるみたいだけど?」

 

「そんな事ないですよ。

ほら、ちゃんとプレゼントまで貰いましたし」

 

「ふーん?」

 

「こっちを見るな。事情があるんだよ事情が……!」

 

 

 そしてなぜか変な空気のど真ん中から抜け出せなくなってしまったとさ。

 

 

「あのイッセーって男、結構分かってないでやらかすタイプと見たわ。

つまり、それをネタにお金を募金して貰える可能性が……」

 

「お前はマジで最低だな。

とはいえ、あのゆんゆんって名前のウィザードってめぐみんと同じ故郷の子なんだろ?」

 

「そ、そうだけど、な、なんですかゆんゆんの奴!

今も私をどうでも良いみたいな目で見てましたよね……!? 何故だかわからないけど悔しいです……! 二番手だったくせに!」

 

「お、落ち着けよ……」

 

「……。それにしてもイッセーって名前、今更ながらどこかで聞いた様な気がするわ」

 

 

 同郷で何時も成績やらで上回っていためぐみんが、明らかに様子が変わってるゆんゆんに憤慨し、アクアはアクアでここにきてイッセーという名前に首を傾げる。

 

 

 

「相棒? アタシの事を相棒って呼んでたの!? い、イッセー……き、キミって奴はそこまでアタシの事を……!?」

 

「えぇ? そ、そんな感激される事なのかよ?」

 

「………。相棒ではあっても親友ではありませんよね? 私はイッセーさんと秘密すら共有する程の大親友で……」

 

「へいへいへい! それは秘密だろゆんゆんさん!?」

 

「秘密? なにそれ? アタシにも言えないの?」

 

「い、いやだって言ったら絶対怒るもん……」

 

「フッ、怒るだなんて乱暴な人……」

 

「何だいその顔は? まぁ良いよ別に、アタシはそんなイッセーのお世話をしながら一緒の家に住んでる訳だし?」

 

「………………は?」

 

「お、おいどっちも煽り合うなって! 佐藤くーん! ヘルプ!! ヘルプミー!!」

 

「俺は知らない。俺は何も見てない。俺は何も聞いてない。見ざる、聞かざる、言わざるをモットーに真面目に生きてきました」

 

「嘘つけバカヤロー!! そんな奴が毎度飯をタカるかぁ!!」

 

 

 まあ、こんな状況でオタオタしてる男があの英雄の一人とは思うわけもないし、アクアの存在を知った瞬間からエリスにかなり色々と隠されてたので気付くのにも時間は掛かりそうだが。

 

 

終わり

 

 




補足

ちょっと気まぐれというか、エリス様の監視の目を緩めようと画策したら裏目に出て。

結構重めの女の子から金をせしめてやろうと思ったら裏目に出て。

口封じで口八丁と物で釣ろうとしたら裏目に出て

エリス様に思惑があったとはいえ、物で誤魔化そうとしたらやっぱり裏目に出て。


結果、余計ニートから遠ざかりそうになったとさ。


その2

とにかく友人同士らしい事を体験させてくれるイッセーに、まるでホストに金を落とすお嬢様みたいにドハマリしてしまったゆんゆんちゃま。
結果、めぐみんに対するコンプレックスが完全に消しとんだのはなんたる皮肉か……。

ただし、かなり重いらしい。イッセー曰く


その3
ちなみにリーアたんはそれ以上に重かったらしいのですが、イッセー本人が心底惚れ込んでるので重いと感じた事は欠片もなかった模様。

その4
暴力夫にDVされても別れられず、たまに優しくされて余計別れたくない駄目な妻みたいにどんどん別方向の駄女神化が進んでしまうエリス様。

……アクア様とタイマンさせたらどっちが駄目さで勝つんだろね。


ちなみにそのアクア様はまだイッセーの中身を知りません。

良い金づるとは思ってるらしいけど。

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