期待できる内容でもないから皆信じましょう。
本当に本当で本当の嘘一発ネタ
かつて人という種が地上に出現する前に現れた
その人間は別の世界の未来から殺されかけて何とか逃げ延びたと言っていたそうな。
そんな存在を人間を造り出す前の神達は興味示したらしく、彼を迎え入れてみる事にした。
その結果、人という種族が地上に産まれ落ちた――らしいが、それが事実かどうかは誰にもわからない。
何故なら、その人間は『やることが残っている』と言い残し、世界から再び消えたのだから。
それから数百年――いや、数千年後。
人という種族だけでは無く、様々な知的生命体で反映する地上にてこのお話は始まる。
かつて彼は約束してくれた。
『ケジメを付けられたら必ず会いに来る』
神々との邂逅を経て強くなり、世界から去っていった少年と交わした小さな約束は、どれだけの時を重ねようとも忘れる事はしなかったし、きっと守ってくれると信じ続けた。
だからこそ、その約束が果たされたあの時はとても嬉しく、他の者達からの勧誘すら蹴って自分の傍に居ることを誓ってくれた事はとても幸福だった。
ちょっとスケベだけど、とても楽しい人。
彼女はそんな彼がとても大好きで、紛れもない家族だ。
「……。俺が居ない間に随分と俺が知ってるのとは違う文明が進んだみたいなのは良いとしてよ、どうしてこんな生活をしてたんだよ?」
「や、やる気が起きなかっただけだよ。
長い間待ってても戻ってきてくれなかったし……」
「だからってお前な……他の女神さんに迷惑かけて怒られて放り出されても仕方ないぜこんなん」
どんな自分でも受け入れてくれる。
女神としての自分であろうとも、今の状態の自分であろうとも……。
「眷属ってのを作るのにこの根城じゃ嫌がられるし、少しは片付けてみようぜ?」
「えぇ? もう良いよ、キミが僕の傍に居てくれるって決まった時点で要らないよ」
「おいおい……」
彼は彼であり続けてくれるのだから。
その女神の名はヘスティアといった。
その青年の名はイッセーといった。
孤独な一匹狼。
それがとある女神が最初に見た時の印象だった。
全てが信じられず、全てに対して疑い、決して心を開こうとしない傷付いた黒狼。
まだ神々が地上に干渉するシステムが完成する前に異界から偶発的に死にかけた姿で倒れていた彼と出会ったとある女神はその青年に興味があった。
とはいえ、全てに対して敵意を発し、誰も信用しよいとしない青年の心を開くのはかなりの時間を要したしかなりの根気が必要なのは誰が見ても明らかだった。
それでもとある女神の持つ、持ち前の明るさと天性のトークスキルが、長い時間を掛けて徐々に青年の凍てついたその牙と心を溶かしていった。
というより、その女神にしか心は開かなくなってしまったといった方が正しいのか。
どちらにせよ、女神にとって青年はとてもお気に入りとなり、青年も青年で胡散臭い雰囲気を纏いながらも邪険にはできなかった女神と心を通わせていく。
だがとある女神と共に居たとある人間の存在が、青年と女神の別れを訪れさせた。
『奴にケジメをつけさせなければ、俺たちは前に進めない』
なんたる偶然か。青年とその人間の男は同じ世界を生きた者同士だった。
そして同じ存在に全てを奪い取られた者同士でもあった。
チビの癖に胸だけは無駄にでかいぐーたら女神の傍に居た青年と、自分の傍に居る青年は共に決着をつける為に自分達の世界へと帰った。
とある女神にしてみれば、やっと心を通い会わせられた青年と引き離されたと青年と、その青年と共に居た女神を恨んだ事もあった。
けれど青年は言ったのだ。
『アンタのお陰で俺は強くなれた。
だから必ず戻る』
黒き龍の力を黒き狼の力へと変質させた青年の言葉が無ければ、きっと今でも恨んでいたのかもしれない。
後年とある女神はそう回想していた。
…………まあ、そのちんちくりん女神とは根っこの部分で気が合わなかったので、二人の青年が其々去った後でも顔を合わせたらしょっちゅう言い争いをしていたが。
そしてその約束通り、青年は再び自分の前へと帰って来た。
別れる前よりもより頼もしい姿となり、ちんちくりん女神と共に居た青年と肩を並べながら、彼は自分のもとへとちゃんと帰って来たのだ。
「眷属……? 嫌な響きだな」
「ちゃう、眷属ってのは建前や。
ウチにとって眷属とは家族そのものの事なんよ」
「家族ね……」
「ウチと家族になるのは嫌?」
「いや、悪い気はしないな」
今度は正真正銘の家族として……。
その女神の名はロキといった。
その青年の名は元士郎といった。
迷宮都市と呼ばれるオラリオ。
様々な種族の生命体が生きるこの街には、都市伝説めいた伝説の眷属が噂されている。
神々の誰しもが欲した伝説の二人の眷属。
その二人の内の一人でも手に入れられれば、間違いなく最強のファミリアが約束される。
故に都市伝説と呼ばれているのだが…………。
「朝起きたら元ちゃんが居なくなってました! なんででしょーか!!」
『……………』
そういう都市伝説は案外身近に居るものだった。
……と、オラリオでもかなり名の知れたファミリアと眷属達は思ったのだとか。
「昨日の晩まで間違いなくウチの隣でスヤスヤ寝とったのに、朝起きたらもぬけの殻やったんや! なんでや!?」
「なんでやと言われてもね……」
「どうせ酒でも飲みに言ったんじゃねーのかよ?」
「………」
「というか、
「集めて緊急会議をするぐらい、ウチにとっては重要なんや!」
眷属システムの第一号とすら噂され、闇より生まれし黒炎と吟われる最強の眷属の一人、真名を匙元士郎……長であるロキと彼の友人以外はバラゴの名で通ってる青年がどうやら朝から居ないらしい。
ロキ・ファミリアの一軍メンバーの首脳陣は居なくなる度に一々全員を集めて緊急会議をしようとするロキの行動には慣れているけど、やはりうんざりするものがあった。
「それかヘスティア・ファミリアの赤龍帝と遊びに行ったとかな」
「そうだとしたら余計気に入らんわ! よりにもよってあのちんちくりんのモンと遊んでるだなんて!」
「別に良いでしょう、彼とバラゴは親友同士なのですから……」
「やったらウチに一言言うてもええやん!」
「…………めんどくせ」
ロキ・ファミリア最初の眷属にて、もっともロキが信頼し、もっとも愛する者かつロキに対する最大のストッパーになれるのが元士郎。
その彼が不在というだけでこんなにも一々騒がれるのは他の首脳陣にしても勘弁して欲しい訳で……。
「~♪」
気分良さそうにホームへと帰って来た元士郎に誰しもがホッとしてしまうものなのだ。
「あぁっ! 元ちゃん!」
「? 何だ揃いも揃って? 何かあったのか?」
「何かあったのかちゃうわ! 朝起きたら元ちゃんが居なくてどれだけ心配したと思っとんねん!!」
「心配? イッセーと飯食いに行ってただけなんだけど……」
元士郎の姿を捉えた途端、これでもかと詰め寄るロキに対して本人はあっけらかんとしていた。
こういうのが所謂温度差って奴なのかもしれない……と、彼によって上位レベルの実力まで至った主要メンツ達は思った。
「ぐぬ、やっぱりアイツの所に行ってたんかい……」
「別に飯食うだけなら良いだろ? それに色々と向こうの事情も聞いてきたぜ一応?」
「事情? なんやねんそれは?」
「おう、何でも一人眷属を加える事になったらしい。
まだ子供らしいがな」
そこら辺に居そうな若い兄ちゃんみたいな青年こそが都市伝説の一人。
だがひと度闘争となれば、その身に暗黒の鎧を身に纏い、全てを切り伏せる無双の黒狼と化す。
パワーバランスの問題で、彼ともう一人のイッセーという青年はダンジョンに潜る事ができないのにも拘わらず、誰しもが彼等を二分された最強の存在と恐れられているのだ。
「あのちんちくりんの所に入りたがるなんて酔狂な子や。
まぁ、どうでも良いけど」
「そうかい。じゃあ俺は二度寝でも……」
「アカン! 一人で寝るなんてさせへんで! 寝るならウチも一緒に寝たる! 今度は勝手にどこにも行かさへん!」
「嫌だよ、だってお前すげー寝相悪いし……」
「決定事項や、ほら行くで!」
実際はロキと夫婦漫才みたいなやり取りばっかりする普通の青年だというのだから、彼を知る前に様々な想像をしていた首脳陣達の顔もしょっぱそうな顔で、とても生暖かいものだった。
「あーあ、つれていかれちゃった。三時間は出てこれないねバラゴは」
「……バラゴに修行を頼もうとしたのに」
「残念だったねアイズ、でもこればかりは仕方ないよ。
私達に甘いロキでも、バラゴの事に関してだけは厳しいからね」
「というか、完全に束縛してるだけだがな。
あれでよくバラゴも愛想を尽かさないもんだ」
「何でもオラリオのシステムが出来上がる前からの付き合いらしいし、そういう面も引っくるめて受け入れてるんだと思うよ。
ロキが我が儘言ってバラゴが怒った事なんて無いらしいし」
『抱き枕にしたるから覚悟せぇよ!』とロキによってバラゴがドナドナされていくのを見送った首脳陣は、生暖かい気分を抱く。
今日もロキ・ファミリアは平和だった。
所かわってこちらは万年貧乏ファミリアことヘスティア・ファミリアのホーム。
ボロボロの廃教会をなんとか改修し、人が住める程度の環境にまで発展させたこの弱小ファミリアの長であるヘスティアは、敵対勢力であるロキとは逆に、童顔で巨乳という我が儘ボディを持っている神様だった。
「良いかいベル君?
ウチのファミリアは基本的にグータラな日々がモットーだ。
本音を言うと別に眷属を増やしたいとかとも考えてないし、何ならもっと将来性のあるファミリアを僕が紹介して―――あいた!?」
そんなヘスティアには眷属がロキと違ってたった一人しかいない。
それは彼女自身がその一人以外を必要としていないからというのもあるし、今もやっとこさわざわさ眷属になりたいと田舎から上京してきた白髪で赤目の兎みたいなショタに別のファミリアの紹介をしようとして……後ろからひっぱたかれていた。
「な、なにするのさイッセー!」
「なにするのさじゃないよお前は……。
せっかく田舎から出てきた少年になんつー事を言ってんだよ?」
「だ、だって別に眷属は要らないし、こんな弱小に入るよりは違う所に行った方が将来性もあるじゃないか」
「だからお前はロキに嘗められるんだよ……。
あぁ、悪いね少年、彼女の言ってる事は軽い冗談だから気にしないで良いぜ?」
「は、はぁ……」
叩かれた箇所を押さえながら『うー』と唸るヘスティアを押し退けて座り、対面する少年に謝罪するイッセーは、彼女の代わりにやっとこさヘスティアの眷属になってくれそうな少年との面接を開始する。
「名前はベル・クラネル君。
田舎村から冒険者を目指して遙々一人で上京……か。
若くてフレッシュで結構だぜ」
「あ、ありがとうございます……!」
「単刀直入に聞くけど、どうしてウチのファミリアを探して街を歩き回ってたんだ? 偶々俺が見つけた訳だけどさ?」
「え、えっとそれは……伝説の二大眷属さんの一人であるアナタに憧れて……」
「……あ、俺?」
「…………」
やっぱりそんな所か……。
イッセーと面接しているベル少年の動機を横で聞いていたヘスティアは思った。
先程ご飯を共に食べたバラゴ――つまりロキの所の元士郎の事を知りたがる者は多いし、こういった憧れの手合いも多く居るのは身を以て知っていた。
前もどこで噂を嗅ぎ付けたのか、女性の眷属希望者がイッセーを理由にやって来たぐらいなのだから。
都市伝説な筈なのに何故か嗅ぎ付けられる。お陰で女だからという理由でヘスティアはさっさと追い返してやった訳だが、このベルという少年もそんな彼の名前を知ってここに入りたがってるらしい。
「あとおじいちゃんが、凄い冒険者になってハーレムを築けって……」
「おおっ! 良いなその目標! 俺も若い頃はハーレム王とか憧れたもんだ!」
「……………」
そもそもイッセーと元士郎を其々その時限りの協力でロキと共に傍に置けるように奮闘した苦労があるし、そんな今でもイッセーか元士郎の勧誘をしようとする神々は多い。
特にあの美の女神に到っては強欲にもイッセーと元士郎の両方を欲しがる始末で、ロキと共に何回撃退したか……。
「なぁなぁ
「えぇ……?」
「あ、あの……ダメですか僕では?」
「うっ……」
だからロキとは違って新規の眷属は何がなんでも加えないつもりだったヘスティアだが、ベルのうるうるした上目遣い気味の眼差しにちょっとした罪悪感を抱いてしまう。
「わ、わかったよ! そこまで言われて断ったら僕が悪者にされちゃうじゃないか!」
「よしっ! やったなベル君!」
「あ、ありがとうございます!」
結果、ヘスティアは根負けして彼を加入させる事にした。
わーいわーいとイッセーとベルは喜んでいる。
「やっと一人ヘティの家族が出来た……! ぐすっ、なんだろ、自分の事みたいに嬉しくて泣けてくるぜ……! ベル君! いやベル坊! 今日から俺を兄貴と呼んでくれ!」
「わ、わかりましたアニキ!」
「お、おおっ……一人っ子だったから、弟を持てた気分……!」
「家族はイッセーだけで良いのに……」
そう一人不満そうな声を出すヘスティアだが、アニキと呼ばせてニコニコしながらベルを抱っこし始めるイッセーを見てると頬が緩んでしまう。
「ま、いっか」
考え方によってはこんな構図もアリかもしれない。
例えば自分がベルの姉貴分、もしくは母的存在になれば、自動的にイッセーが父的存在に――
「なーんてね! なーんてねっ!! イッセーと僕が夫婦になっちゃって……えへへへ!!」
「…………ど、どうしたんですか神様は? 突然クネクネしてますけど」
「あぁ、発作だよいつもの……。暫くしたら治るよ」
近くにあったクッションを潰す勢いで抱き締めながらソファーに大分し、クネクネと身体を揺らして妄想を捗らせてるのにベルはドン引きしてるのに気付かず、ヘスティアはただただクネクネしていたのだった。
彼等もやはり平和だった。
そしてこれは、異端と化した二人の青年を受け入れてくれた者達との物語……。
「ええっ!? べ、ベル君がロキの所の女の子に惚れちゃった!?」
「ほら、アイズって名前の子が居るだろ? 元士郎の一番弟子を自称してる」
「そ、それは知ってるけど、よりにもよって彼女に……?」
「アイズさん……」
暗黒騎士によりより凛々しい進化をしたアイズにベタぼれしてしまうベルきゅん。
「という訳でお見合いをお願いしたいんですけど…」
「アカーン!! ウチのアイズたんをちんちくりんの所の更にちんちくりんな坊やになんかやれん!!」
「ちんちくりんで悪かったね絶壁」
「あ? 今何か言うたかちんちくりん?」
「あっれー? 聞こえなかったならもう一度言ってあげるよ………絶壁!!」
「よろしい、ならば戦争や」
それなりに知り合いだったので、ベルきゅんと心配してついてきたヘスティアちゃまと共にお見合いを申し込んだけど、何故か長同士の喧嘩になってそれどころじゃなくなり……。
「今日はバラゴもイッセーも居る。
私を強くして?」
アイズたんはそんな事よりも最高峰の師が揃ってるのでウキウキで……。
「お久し振りね」
「げ!? ふ、フレイヤ!?」
「な、なにをしに来たの!?」
「私の諦めの悪さはご存じでしょう? 彼等を勧誘しに来たのよ」
どさくさ紛れに美の女神……というか二人にとってもどこかで聞いた事のある声の主が現れたり。
「どうするんだよ? また来たぞ、お前が対応してやれよ?」
「嫌だよ、根本的に苦手なんだよあの女神。
お前の好きな巨乳タイプなんだからお前が対応しろよ?」
「巨乳ではあるけど、なんか違うんだよ。
なんつーか……もうマジで疲れそうじゃん」
「それな。
しゃべるだけで疲れそうだぜありゃあ」
「………………」
「「ぷぷっ!」」
けどどっちもかなりめんどくさいと思われて拒否られ、二人の女神が珍しく息を合わせて笑ってたり。
「はーい残念でしたぁ! 垂れ乳女神はお呼びやあらへんやとさ☆」
「無駄に色気ばっかり振り撒けてるから、行き遅れ女神みたいだって言われるんだぜ☆」
「た、垂れ乳……行き遅れ……」
挙げ句トドメの一発にグサグサとメンタルを刺され……。
結果、わりと弄られキャラにされてしまう美の女神なのだった。
そして――
「腕は鈍ってないみたいだな!」
「お前もな!!」
最強の眷属同士の派手な喧嘩の行方は……?
「イッセー……!」
「元ちゃん……!」
「「頑張って!!」」
「「うん、頑張る!!!」」
程度は違うけど、どこかの世界の生徒会長と庶務のような関係となった二人の青年は楽しく平和に生きる……のかもしれない。
元悪魔の兵士二人の話。
始まらない。
補足
過去は吹っ切ってるので前向きです。
燃え尽きてもないです。
その2
戦友であり親友。
そんな二人は最強の眷属らしく、様々な神達があの手この手で勧誘したがる人材の模様。
もっとも、この二人は現状に満足してるので移籍なんてないらしいですが。