再会の果てに心底グータラになってしまったヘスティアを説得し、ベル・クラネルという少年をファミリアに加える事に成功したイッセー。
即座にロキ・ファミリアに居る戦友かつ親友であるバラゴという通り名を持つ元士郎に自慢気に語り散らしたのはまだ記憶に新しい。
この少年を立派な男に導き、そして自分が果たせなかったハーレム王になって欲しい。
だからなのか、イッセーは珍しく彼に対して熱心な教育をしていた。
「諸事情があって俺はダンジョンには潜れない。
だからベル坊一人で行かなければならないけど、お前なら大丈夫だろう?」
「う、うん! アニキに教えられた通りにすれば不安なんてないよ!」
「それでこそ男だ! さぁ行けベル坊!! 夕飯までには帰ってこい!」
「おっす!!」
やっと出来たヘスティアの家族だからというのも大きいのだろう。
とにかくベルに対して過保護なまでにあれこれと心構え的なものを教え込み、ダンジョンへと向かった彼を見送ったイッセーは、ベルに注目してるらしい受付のお姉さんに一言挨拶しておく。
「戻ってきたら此処に迎えに来る事を伝えておいてください」
「は、はぁ……。しかしまさか本当にベル君がヘスティア・ファミリアに入れたなんて……」
「? その言い方だと、ベル坊から俺達の事でも尋ねられたのか?」
「え、ええ……。
ヘスティア・ファミリアの赤龍帝――つまり貴方様の事を聞いて回ってましたので」
「なるほどね。
殆どの者が俺の正体なんて知りもしない中、ホーム近くをさ迷ってた理由はそういう事だった訳だ」
「あの……やはりご迷惑でしたか? 貴方様とバラゴ様については
「いいや? 寧ろあの怠け者のヘティもそれなりにやる気を出してくれるかもしれない良い機会と考えてたから問題ないぜ」
最上の敬意を示すギルド職員達にイッセーは気安い笑みを浮かべながら気にしないでくれと手をヒラヒラと振る。
「ダンジョン内については、完成直後にキミ達の
だからベル坊の事を少しでも良いから目を掛けてやってくれたら嬉しいかな?」
「そのくらいならお任せください!」
「ん、んじゃあ後はよろしく頼むぜ」
他の者達が何だ何だと、ギルドの職員達総出で頭を下げてるイッセーを見る中、本人はヒラヒラと手を振りながら施設を後にする。
これで良い、ダンジョンについてはあまり詳しくないが、手っ取り早く男の経験を積ませるには適正場所だ。
後はレベルを上げ、男としての自信を持たせれば自ずと夢は叶うはずだ。
ベルという将来性のある若者をこの手で育て上げられる事に楽しみを抱きながら、イッセーは街の中へと消えていった。
「元士郎でも誘って飯――は良いか、あんまり頻繁に二人で遊んでるとヘティが臍曲げるし」
出身世界で生きていた頃と比べたらこの世界は天国だ……と、染々思いながら隠居気分で同じ世界の修羅場を生きた戦友と今日も飯でも食いながら駄弁ようかと一瞬考えるイッセーは、頻繁に二人で遊んでるとヘスティアと――元士郎が世話になってるファミリアの主神のロキが臍を曲げる事を考え、今日は大人しくヘスティアのご機嫌取りでもしようとホームである廃教会へと戻る。
「おーう、けーったぞヘティ」
「ん、おかえり、ベル君は大丈夫かい?」
「やる気に満ち溢れてたから大丈夫だろ。
あまり下には降りるなとも言ってあるし、あの素早さなら逃げ切れるだろうぜ」
当初はどうしようもない程にボロボロだった廃教会をヘスティアの背中を叩きながら二人で何とか改修し、雨露は防げる程度の住まいにはなったこのホームにて寝室に使用してる部屋でゴロゴロしていたヘスティアにベルの事についての報告を済ませる。
「帰って来た時に初ダンジョンという事で祝い事でもしてやろうと思うんだが……」
「それは良いけど、お金あるの?」
「それくらいならある。
それにこの前元士郎とポーカー勝負して勝った時の金もあるしな」
弟分が出来たということで嫌に張り切ってるイッセーにヘスティアはほんの少しだけ頬を緩めた。
彼との付き合いはこの地上に降り立つ前からの付き合いで、一時的に別れる事にもなったけど、やはり傍に居てくれるという安心感は何物にも代えがたい。
「という訳で買い物に行こうぜ。
ほら、お前がベル坊にお祝いのプレゼントをするって体にするから上手く合わせるんだぜ?」
「でも僕そんなにお金無いし……」
「俺の貯金をお前の金って体にしたら問題ないだろ?」
「そしたらイッセーは……」
「俺は俺で何とかするよ。
良いかお前はヘスティア・ファミリアの主神なんだぜ? ここで少しは威厳ある所を見せて欲しいんだよ俺は」
しかもこんなグータラな自分を何とか立てようとする献身さまで持ち合わせてる。
ちょっとスケベだし、女にだらしない所があるけれど、ヘスティアはこんな面があるイッセーがとても大好きなのだ。
「さぁ行こうぜヘティ?」
「う、うん!」
もしあの奇跡みたいな偶然で出会わなかったら、自分はどうなっていたのだろうか……。
あまり想像したくはないもしもの事は直ぐに忘れ、ヘスティアはイッセーの差し出した手を強く握るのだった。
兵藤一誠
基礎
力・無 測定不能
耐久・無 測定不能
器用・H およそ20
敏捷・無 測定不能
魔力・0
発展
【不滅】【無神】【神滅】【適応】
スキル
【
二天龍の片割れを宿せし称号。
【
全ての環境に適応し、永久に進化する。
かつて悪魔の主に見捨てられ、兄弟達をも喪い絶望の底へと突き落とされた青年は親友であり戦友でもある青年や当たりが強くても嫌な顔をしないで接してくれた女神の尽力により見事に再起を果たし、第二の人生を楽しんでいた。
『滅せよ!! そして我が血肉となれェェェッ!!』
その再起までの道のりは決して楽ではなかった。
いっそ死んだ方がマシだと思った事だって一度や二度じゃない。
けれど元士郎は五分割された黒い龍を独自に進化させる事によって第八の神滅具・
「わりと暇だ……イッセーは新人眷属にあれこれ教えてて忙しそうで飯には誘えないし、本も正直つまんないし……」
もっとも、その力は現在ほぼ使う事は無かった。
振るうにしても強大過ぎるし、まともに相手を務められるのが親友のイッセーしか居ないので、現在彼がその身を暗黒に染めるのはもっぱらイッセーとの何年かに一度行われる『死闘』しかない。
なので現在の彼はヘスティア・ファミリアのホームとは比べ物にならないくらいの豪華なロキ・ファミリアのホーム内で鈍らない程度に修行するか、こうして自室のベッドで本を読みながらポツンと呟くくらいだった。
「げーんちゃん!」
イッセーが居るヘスティア・ファミリアと違い、別に働かなくても生活に困る訳じゃない。
かといって他の眷属達は日々の活動に情熱的で自分が茶々を入れても邪魔にしかならない。
だからこうしてやることが無い時は部屋に閉じ籠るのだけど、そんな彼の部屋の扉をぶち破るかの如くいきおい共に侵入してきた主神のせいで静寂は失われた。
「元ちゃんみーっけ!」
「ロキ……」
明るめのオレンジに近い赤髪に糸目……そして悲しいくらいに無い胸を持つこのファミリアの主神であるロキがいの一番にベッドに横になって本を読んでた元士郎の腹部付近にダイブし、そしてグリグリと顔を埋めていた。
「元ちゃんの退屈電波をキャッチして飛んで来たで」
「前から思ってたけど、何でわかるんだよ?」
「そら元ちゃんの事やもん、なんでもお見通しやで」
どうやら元士郎が暇してると感知して来たらしい。
元士郎との出会いにより、地上に降りる前の頃の性格から大分変わったロキはこう見えても自分の抱える家族に対する責任感はとても大きい。
中でも、最初の家族として迎え入れた他の家族とは一線を画する想いがある元士郎に対しては他の者達が呆れてしまう程に溺愛していた。
「暇なら遊び行かへん?」
「そりゃ俺は暇だが、他の子の事は良いのかよ?」
「あの子達なら一昨日全員で掛かったのに元ちゃんに負けたのが悔しくてダンジョンに潜りに行ったで? せやからウチも暇で暇で……」
「妙に静かだと思ったらそういう事か……」
「良い刺激にはなったと思うけどな? 特にベートくんは『絶対にバラゴに一撃入れてやる』って張り切っとった」
「若いな……。昔の俺みたいだよ彼は」
ベート。ロキ・ファミリアの中でも気性が元士郎の悪魔眷属時代にもっとも似てる第一級レベルの冒険者。
彼の面倒は何度も見てきたし、口は悪いが家族を大切に出来る熱い心も持っている。
そんな彼も大人になってきた様で、しょっちゅう修行をつけてくれと後ろをトコトコと付いてくるアイズという少女に想いを寄せてる様だが、上手く行くことを願いたいものだ……と、今頃頑張ってるだろう若者達に頬を緩ませる元士郎は、『元ちゃんの匂い好きぃ……』と胸元に顔を埋めるロキの頭をポンと撫でながら本を閉じる。
「よっしゃ、本も飽きたし遊びに行くか!」
「! ホンマ!? それならはよ行こ!」
これが静寂の幸福なのだろう。
導いてくれた
「で、どこ行きたい?」
「えーっと、特に考えとらんかったわ」
「じゃあ適当にぶらつくか。
イッセーも最近新人の教育に忙しいみたいだしな」
「そのままずっと忙しくしとったらウチは幸せなんやけどなぁ」
「そう言うなよ、アイツは俺にとって親友なんだからさ」
「別に悪い気分を持ってる訳やなんやけどー……」
「心配しなくても、約束した通りアンタの前から居なくなる事はしないって。
俺には行くところも無いしな……」
身も心も死にかけていた自分に光を与えてくれた彼女の為に。
ある意味彼はどこかの世界の騎士の持つ『守りし者』なのかもしれない。
「あ、ところで最近鎧の力を別方向に解放すると全身が金ぴかになるようになったんだが」
「ありゃ、パワーアップかいな? あの子達が元ちゃんに届くのもまだまだ掛かりそうやなぁ」
光と闇の両方に覚醒した騎士として。
匙 元士郎(通名・バラゴ)
基礎
力・無 測定不能
耐久・無 測定不能
器用・G およそ50
敏捷・無 測定不能
魔力・B 400前後
発展
【魔耐久】【対転生】【報復】【飢餓】
スキル
【
第八の神滅具の始祖への称号
【
報復心により進化を促す。
【
守るべき者への想いへの進化。
さて、意気揚々とダンジョンに潜った我等がベル・クラネルは、未知への好奇心によりつい自分の今のレベルを考慮しない領域まで降りてしまった。
それにより協力なモンスターに追いかけ回されて危うく死にかけてしまうという災難に見舞われたのだが、偶々通りかかった凛々しい(ベル目線)の騎士少女に救われる事で難を逃れ、そのモンスターの返り血まみれだけで済んだ。
「…………」
その騎士少女こそ何を隠そう、ロキ・ファミリア所属のアイズなる少女であり、その姿にベルは……惚れましたとさ。
「うわぁっ!!」
顔が熱い、心臓がバクバクする。
剣を納めたその少女を前に初めての感情が爆発したベルはついその場から走って逃げてしまった。
「?」
そんな少年の後ろ姿をアイズははてと首を傾げながら見ているだけだったとか。
「は、はぁ……はぁっ……!」
感情の爆発によってついダンジョンの入り口まで戻ってきたベルは返り血まみれで息を乱しながらも何とか落ち着こうと深呼吸する。
なんて綺麗な人なんだ……と、彼女の事がまったく頭から離れない…………と、冷静になってきたベルは気付いた。
「な、名前を聞いていない……」
なんて事だ、ミノタウロスから助けてくれた恩人の名前すら聞かずに自分は逃げ出してしまった……! と、今更になって後悔したベルは元来た道を引き返そうかと迷ったが、仮に会えても上手く声が出ない気がしてならなく、結局テンションを下げたままダンジョンを出ることになった。
その際、受付のエイナさんに返り血まみれの自分を見て心配し、説明をしたら怒られたりもしたけど、ベルの頭にはずっとあの金髪少女の事が離れることはなかったのだという。
「……。バラゴはどこ?」
「帰ってくるなり唐突やな?」
「沢山ダンジョンで戦って強くなったから、バラゴに確認して貰いたい」
そんな金髪少女ことアイズは仲間達とホームに戻るなり、妙に機嫌よく出迎えてくれたロキにバラゴ――つまり元士郎との模擬戦を申し込む。
彼女にとって元士郎とは絶対的な壁であり、同じ剣を扱う師のようなもの。
故に暇さえあれば彼に修行を付けてもらいたがる困ったちゃんなのだ。
「元ちゃんに確認せんと許可はしないで?」
「許可させるから問題ない」
「……いや、そういう問題ちゃうんやけど。
まぁええか、おーい元ちゃーん!」
基本的にフラフラと自分達とは別行動を立場上している元士郎の居場所をほぼ間違いなく知ってるのはロキだけであり、彼女がこうして呼べば間違いなく彼は秒で姿を見せる。
「呼んだか?」
『っ!?』
案の定、ロキの声に直ぐ様気配も音もなくアイズ達の背後に現れた元士郎。
そこら辺にいる兄ちゃんみたいな格好をしてるこの男こそがこのオラリオの全ファミリア眷属で最強の位置に君臨し続ける者の一人なのだから世の中はわからない。
「なんや皆が元ちゃんに力の具合を見て欲しいんやと」
「え? ダンジョンに潜ってて疲れてるんじゃないのかよ?」
「その筈やけど、見ての通りアイズたんがやる気みたいなんよ」
「お願い。修行もつけて欲しい」
「…………」
アイズどころかベートやその他第一級レベルの者達まで元士郎に挑戦的な目をしている。
「………………………」
ロキにあちこち連れ回されてわりと疲れてる元士郎は、ちょっとだけ内心『今日は勘弁して欲しいんだけど』と思った。
が、皆して自分に対して情熱を燃やした目を向けてくる……。
仕方ない。そう思った元士郎は一発で終わらせる方法に本当はやりたくはないがする事にした。
「俺が今からすることに『立ってられたら』、真面目に修行に付き合うが、もし立てなかったら無しでどうだ?」
『?』
何だその条件は? と思う家族達は首を傾げ、ロキだけは『そら無理やろ』という顔をしていた。
何故ならその条件は、元士郎の首に掛けられているペンダントを無造作に外す事で始まるのだから。
「フッ」
『!』
冷たいものを感じる無機質なシルバーペンダントを外した元士郎が息を吹き掛ける。
その行為を前に何度か目撃していたアイズ達は目を見開く。
何故ならそれは彼が『本気』になるという事なのだから。
「………」
吹き掛けられたペンダントが妖しい輝きを放つと、ペンダントのチェーンを持った元士郎が天へと捧げる様に頭上へと掲げ、そのままグルリと回す。
するとそのペンダントの先に沿うように元士郎の頭上に赤紫色の光を放つ円陣が出現しその身を照らす。
禍々しい光にも、神々しい光にも感じるその光を浴びた元士郎の身には一瞬の内に全身が黒い鎧で覆われた。
『……………』
「うっ……!?」
「よ、鎧を纏うだと……!?」
「これまで一度も赤龍帝と喧嘩をする時以外纏わなかったのに……」
刺々しく、そして禍々しい歪な出で立ちの黒狼。
胸元には相対した者の未来を暗示するかの様な髑髏の装飾、そして背には孤高の王を思わせる擦りきれたマント。
そしてその手には彼にしか持つ事を許されない両刃の剣。
「うっ!?」
「ガッ!?」
「か、身体が動かな……っ!」
暗黒騎士・呀。
元士郎の到達した領域の姿を目の前で見せられたアイズ達は上から巨大な手で押さえつけられる様な重苦しい重圧感に膝を折ってしまう。
「ふ、震えが止まらない……!?」
それは本能的な恐怖なのかもしれない。
どれ程の鍛練を積んでも決して到達できる気がしない領域を目の前にしてしまった屈服なのかもしれない。
ロキを抜かした誰しもが膝を折って震えるその前を威風堂々と剣を片手に仁王立ちする元士郎は、直ぐ様鎧を解除すると、その重苦しい重圧感も消え去った。
「………誰も立てなかったな? だから今日はダメだ。
お前達全員身体を全力で休めろ」
『…………』
「……ま、ちと乱暴やったと思うけど、元ちゃんの言ってることも正しいで? あまり根を詰めたところで直ぐに強くはなれん」
『……………………』
ロキのフォローが入るが、鎧を纏っただけの元士郎にすら何もできない悔しさが眷属達の心の中で何度も繰り返される。
けど、だからこそ頼もしい……。
ロキを支え続けた最初の家族――謂わば父親の様な彼が。
「あ、明日になったら……! 身体を休めて明日になったら修行を見てくれる……?」
「どうせ言っても頷くまで引かないってのは知ってるからな。
とにかく全員身体を休めてからだ」
「や、約束だからな! 絶対だぞ!」
「わかったわかった
ヒラヒラと手を振りながら自室へと去っていく元士郎。
その重圧には負けたけど、誰も心を折る者はいない。
ロキ・ファミリアにそんな柔な者は居ないのだ。
「ちょっと脅かしすぎたとちゃう?」
「無理をさせて身体を壊すぐらいだったら、少し脅してでも休ませるべきだろ?」
「まーそうやし、皆寧ろ明日に備えて遠足気分で休んでるようやけど」
そんな元士郎の不器用な優しさにを一番理解してるロキは、全員が休息に入ったのを確認すると、自室で筋トレをしていた元士郎の部屋を尋ねていた。
全員が明日約束した『確実な成長』を約束される元士郎の修行に燃えているのは結構だし、心を折らなかったのも褒めてあげたいとロキは考えているらしい。
「アイズは特に元ちゃんとの修行が好きやからなぁ。
将来がちと心配やけど……」
「あの周りが見えなくなる感じは、あの子も俺の昔に似てるよ……」
「まー大なり小なりあの子達は皆元ちゃんに似てる所があるな」
家族の子達には決して弱い所は見せないし、幻滅もさせまいと密かに鍛え続けてる事はロキしか知らない。
最初の家族としての元士郎なりのケジメのつもりなのか……ロキはそういう面を知ってるからこそ元士郎が好きだった。
「……。最後にイッセーとやり合った時は負けたからな……。
アイツ等をガッカリさせる訳にはいかねぇぜ」
「勝とうが負けようが、あの子達は元ちゃんに幻滅なんてせーへんと思うよ? それに元ちゃんがあの子達に休めって言ったのに、そんな無理するのもアカン」
だからあまり無理はして欲しくない。
全てに決着をつけて戻ってきてくれ、家族にすらなってくれた元士郎にはもっと気楽に生きて欲しい。
そりゃあ、束縛してる面もあるかもしれないけど、もっと自分に頼って欲しい……。
神だろうと心が壊れてしまう壮絶な人生を送った元士郎を想うロキは柔軟体操をしていた彼の背中をそっと抱き締める。
「……? どうしたロキ?」
「弱くたってええ……泣いたってええ……。
家族なんやからもっと甘えてもええんや元ちゃん」
「……へ、そんな歳でもないだろもう」
結構長いこと生きてるしな……と、ロキの体温を背中に感じながらクスリと笑う元士郎に、ロキは更に強くは抱き締める。
「元ちゃんのお陰で今の自分があるのはちゃんとわかっとるし、傍に居てくれる毎日が幸せや。
だから、そんな幸せのお返しやないけど、もっと頼ってや?」
「……」
転生した元悪魔だとかは関係ない。
元士郎が元士郎だからこそ、何かしてあげたい。
そんな他の家族にすら見せること無いロキの心境を聞いた元士郎は、彼女の手を優しく取りながら目を閉じる。
「頼ってるさ、何時もありがとな……ロキ」
あの男に靡く為に自分を捨て駒の様に扱った悪魔達の事などとっくの昔の過去の事。
元士郎にとって大事なのは今であり、この変な女神の為に生きる事。
彼女の存在が再起へと繋がった時点で頼りになんか毎回している。
「はは、ちっと辛気くさくなってもうたな?」
「そんなのは寝て忘れるに限るぜ。
ん、そろそろ寝る――が、どうする? 今日は人肌恋しい気分なんだけど俺は?」
「言わんでもわかっとるやろ、ばか……。ふふっ」
この恩だけは死んでも返す。
ロキに対する信頼を誰よりも抱く青年は、彼女と共にスヤスヤと眠りにつくのだった。
補足
……アカン、ロキさんじゃないぞこの女神。
その2
ロキ・ファミリアの中では親父ポジにされてる元ちゃん。
頼られまくりだから本人も幻滅させまいと隠れて頑張ってるのだ。
その3
ベルきゅんの奮闘の始まりだぜ!