色々なIF集   作:超人類DX

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連コインすまん


お食事回

 ベル・クラネルは祖父にかつて物語の主人公の様な赤き龍帝と暗黒騎士の話を聞かされながら育った。

 著名な冒険者だったらしい祖父がかつて目にした二人の闘士と騎士。

 その力は拳を振るえば天が割け、剣を振り抜けば業火が大地を燃やし尽くし、友である二人が『喧嘩』をすれば星そのものが震えるとさえ云われたらしい。

 

 そんな二人の存在はベルにとって大きな指針となった様で、現在、その片割れである赤龍帝との出会いと彼の所属するファミリアへの加入は夢の実現のひとつを果たしたとも云えなくもない。

 もっとも、良い意味で祖父から聞かされた物語のような怖さは無く、普通にそこら辺にいそうな兄ちゃんみたいな快活さを持っているという事も尚の事ベルにとっての刺激になった訳だが。

 

 

「オーケーわかったぜベル坊、そりゃアレだな。一目惚れって奴だぜ」

 

「ひ、ひとめぼれ……」

 

「ダンジョンで助けてくれたその女の子の事がずっと今でも頭から離れない。

その女の子の事をもっと知りたい。その女の子の事を考えてるととてもムラムラしてしまう……」

 

「む、ムラムラ……」

 

「うん、そりゃ間違いなく恋だね。恋愛マスターことこの俺が言うんだから間違いないぜ」

 

「こ、恋」

 

 

 だからついつい頼れる兄貴分として何でも相談してしまう。

 今も、あの時ダンジョンで出会った金髪少女についての相談をし、それが恋だと自覚させられていたベルはどぎまぎしてる最中だった。

 

 

「良いねぇ、青春。羨ましいぜ若者! それは健全な心の成長だから大事にすべきだぜベル坊」

 

「心の成長……」

 

「そうだ。その心の成長を疎かにしてると――――悪い見本として俺みたいに何時まで経っても嫁さんすら居ない寂しい人生を送る事になっちまうから気を付けろよ? ……まあ、正直今全然寂しさはないけど」

 

 

 恋愛マスターを自称するイッセーの言葉に、ベルはあの時見た少女――というかアイズの事を想いながらポーッと天井を見上げる。

 

 

「よし、若干俺もどんな子か気になるから探しに行ってみようぜ」

 

「ええっ!? ど、どうやって……?」

 

「自分の足でだよ。

こういうのは男から行かないと駄目だぜ? モタモタしてる間に他の男に狙われて結局なんの進展もないまま終わるってよくある話だからな! 探しに行こうぜ!」

 

「で、でも神様にはなんて言えば……」

 

「ヘティには俺が上手く書き置きでも残しておくから問題ないぜ。

さっき様子見てたら寝てたしな」

 

 

 こうしてベルの恋物語は幕を開けた。

 …………その相手が誰であるとイッセーが知った時が大変だったのは云うまでもないが。

 

 

 さて、スヤスヤと時折寝言でイッセーの名を呟き、何やら幸せそうに抱き枕を抱き締めながら寝ているヘスティアの枕元に『ベル坊の男を磨く旅に出る』と無駄に達筆な毛筆体での書き置きを残して街へと繰り出したイッセーとベルは、まずはダンジョンの管理施設へと足を運んだ。

 

 

「ちわっす」

 

「!? ひょ、ヒョウドウ様! ……と、ベル君」

 

「こんにちはエイナさん!」

 

 

 ダンジョン管理に身を置く者達は大なり小なりイッセーが誰であるかを知らされている為、ベルのダンジョン潜入一日目のお見送りの時もそうだったが、職員達はイッセーの姿を見るなり自然と直立不動になってしまう。

 他の神の眷属とはいえ、彼の存在感はそれほどの影響力がそれなりにあるらしい。

 

 ……本人はまったくその自覚はないみたいだけど。

 

 

「今日はどんなご用件で? ベル君のお見送りでしょうか?」

 

「いや、少し尋ねたい事があるんだよ。

えっとな? この子がダンジョンに入った初日の日、他にダンジョンに入った者達ってどれくらい居た?」

 

「え……ええっと、確か100単位で居た気が……リストを確認しないと確実にそうだとは言えませんが」

 

 ざわ……ざわ……

 

 

 まるで某ギャンブル漫画の効果音みたいなざわつきが職員達の中に広がり、心なしか顎と鼻が尖って――――てのは流石に嘘だが、イッセーから尋ねられ質問に職員達は訝しげな顔をする。

 

 

「こういう情報になってしまう話はお伝えする事はできないのですが……」

 

「まぁそりゃそうだな。

変な事聞いて悪かった、じゃあさ、金髪の若い女の子がダンジョンに潜ったのを見送った記憶とかあるか?」

 

「金髪の若い……?」

 

 

 ざわざわ・・・っ!?

 

 

 なんだ? ついに女漁りでもする気か!? と、職員達は金髪の若い女について聞いてくるイッセーに対してざわざわする中、聞かれてる本人であるエイナは首を横に振る。

 

 

「少なくとも私の記憶の中では……。

あの、どうしてその様な事を……?」

 

「え……あー……いやちょっとね? いや申し訳ない、聞きにくい事を聞いて。今のは忘れてくれ、これ迷惑料」

 

「は、はぁ……お金は――」

 

「良いって良いって! 本当に迷惑かけたお詫びだから! ほらベル坊行くぞ」

 

「う、うん……さようならエイナさん」

 

「あ、ちょっと――な、なんだったのかしら?」

 

 

 職員達の過剰な対応を目にし、他の冒険者達がイッセーとベルに対して『なんだアイツ等?』みたいな顔をするのを背に施設から出たイッセーとベルは、ちょっと残念そうに肩を落とす。

 

 

「流石に個人情報までは教えちゃ駄目だという教育はしてたか。

上手くその日ダンジョンに潜った者のリストを見せて貰えたら特定できたんだけど……」

 

「……」

 

「そんな顔するなベル坊! まだ手はあるぜ!」

 

「アニキ……」

 

 

 第一の策は失敗に終わったが、別に探す手段は他にもあると、少し眉尻を下げるベルの背中を優しく叩きながらイッセーは笑顔を見せる。

 

 

「情報といえば酒場にもある。

酒場には色々な人達が騒ぎに来るからな、もしかしたらその金髪女の子も来ている可能性も高いぜ」

 

「そうだね! 諦めちゃ駄目だよねアニキ!」

 

「その意気だベル坊! 行くぜ!」

 

「うん!」

 

 

 ベルの恋物語もとい、ハーレム王の為にイッセーな我が事の様に奮闘する。

 かつて己が成し遂げられなかった到達点をベルならきっと……という想いと共に。

 

 

「さてと、オラリオの歓楽街に来た訳だが……」

 

「凄い人だかりだね……」

 

「そりゃ唯一のハメはずしの場所だからなぁ……」

 

 

 流石にかつての世界にあった夜も眠らぬ歓楽街みたいなどす黒い念は薄いものの、この時間から呼子達が店先に立ってそこいく者達に声を掛けてる光景は他の地区には見られない妖しい念を感じさせる。

 

 

「あんまり近付きたくはなかったんだが……」

 

「え、なんで?」

 

「まあ、ちょっと前に色々とあってな。

だがベル坊の恋相手を探す為だ!」

 

 

 イッセーとしてはこの通り――というかこの通りの先にあるとある店には正直近付きたくはなかったが、ベルの為には我慢をしなければならない時もあると、両手で自分の頬を叩いて気合いを入れ直すと、ベルと共に歓楽地区へと入り込んだ。

 

 

「す、凄い格好した女の人がいるよアニキ……」

 

「それが仕事だからな彼女は。あぁ、あんまり目を合わせるな、取り込まれんぞ」

 

「う、うん……」

 

 

 相変わらずの空気だなとベルにしっかり自分の服の袖を握らせながら歩くこと数分、やはりベルのショタっぽい容姿はかなり目立つせいか、様々な呼子に呼び止められてしまうという足止めをくらいながらも時には適当に話を聞き流しながら、時には真面目に聞いてるフリをしながら呼子に対して情報提供を求めながら奥へ奥へと進んでいく。

 

 

「うーん、これといった情報はないか……」

 

 

 しかしそれらしき情報は特に見つからず、そろそろチップに使用していたお金もなくなりそうだったその時だった。

 

 

「あっ、ベルさんだ!!」

 

 

 どうしようかと悩んでる時に聞こえるベルを呼ぶ声に、呼ばれた本人は勿論、イッセーも驚いて振り向くと、そこには……。

 

 

「し、シルさん……?」

 

 

 メイド服を来たヒューマノイドが此方へと走ってくる。

 その姿を見た瞬間、どうやらベルは誰なのかがわかったらしく驚いた顔をしていた。

 そしてイッセーは珍しく、その少女の格好を見て『げっ』という顔をした。

 

 

「ベルさん、こんにちは!」

 

「こんにちはシルさん。

ええっと、何でここに?」

 

「むぅ、前にも言ったじゃないですか、私はこの近くのお店で働いてるって。

来てくださいって言っても何時まで経っても来てくれないしー」

 

「あ、あはは、どうしてもお金が……」

 

「でもこの地区に来たという事はお金の目処があるって事ですよね!? ならお店に来てください!」

 

「えーっと、僕達は今そういう意味でここに来た訳じゃ……」

 

「? お連れの人………も……?」

 

 

 どうやら会話の中身を察するに、いつの間にか結構な知り合いになってたらしい。

 イッセーは困った様な顔をしながらこっちを見てくるベルに釣られてこっちを見て目を丸くして固まる少女にしまったという顔をする。

 

 

「あ、アナタ様は……」

 

「?」

 

 

 やべぇどうしよう、最悪だと何度も頭の中で繰り返されるネガティブな言葉を他所に少女はイッセーを見てこれでもかと驚いているのと同時に、ベルに対して質問する。

 

 

「ベルさんはこの方をご存じなのですか?」

 

「え? あ、はい。同じファミリアに所属する僕のアニキです」

 

「…………へー?」

 

「……」

 

 

 どこのファミリアに所属してたまでは聞いてなかったらしいが、同じという言葉を聞いた少女はイッセーに意味深な笑みを浮かべながら全てを悟った顔をした。

 そしてその瞬間だった、ベルの両手をがっつり握りながら営業を開始したのは。

 

 

「お願いします、今からでも良いのでお店に来てくださいよぉ~ 約束したじゃないですかぁ」

 

「でも僕達人探しを……」

 

「うちのお店なら色々な人達が来ますから、その探してる人の事も知ってるかも……?」

 

「えっ!? ほ、本当ですか!? どうするアニキ?」

 

「えーっと……」

 

 

 まだ純粋な男の子故か、すぐに信じてしまったベルを味方につけやがった。

 と、苦々しい顔をするイッセーに対して、シルという少女はベルには見えない所からニヤリとした笑みを見せてくる。

 

 

「折角だからアナタ様も来てくださいよー……ね、イッセー様?」

 

「…………………」

 

「行ってみようよアニキ!」

 

 

 別にこのシルって少女自体がどうって訳じゃないが、彼女の働く店全体的な意味であまり良い想い出が無さすぎるので近寄りたくはなかった。

 いや、悪い店員さん達でも無いのも勿論わかってるのだが……。

 

 

「わ、わかったよ。じゃあアレだ、元士郎も呼ぶわ」

 

「! はぁい! お二人様ごあんなーい!」

 

「元士郎……?」

 

 

 しょうがない。確かにあの店は大きなファミリアから木っ端ファミリアまでが訪れる最高峰の店ではある。

 情報を手に入れる場所とするならまさに適正といえるのは間違いない。

 

 だからこそイッセーはこうなったら覚悟を決め――親友を巻き込んでやろうと彼に連絡をして呼びつけたのだ。

 

 

「何も言わずに呼び出してくれたと思ったら……」

 

「あらバラゴ様ではありませんか♪ ふふ、今日は儲かりますよー!」

 

「…………帰る」

 

「セイセイセイ! 待ってくれ元士郎! 頼むぜ、あの店に良い思い出が無いのは同意するが、ここは新しい眷属の為と思って協力してくれよ!」

 

「あ、あの……こんにちは、ベル・クラネルです」

 

「あ、どうも匙元士郎……通名はバラゴです」

 

「! や、やっぱり!? あ、あの暗黒騎士の……!」

 

 

 

 豊饒の女主人という店には入るな。

 昔からロキとヘスティアの其々に言われていたのと、本人達とある理由で近づく気にはなれなかったという理由で行くことのなかったオラリオ最大級の酒場。

 店の質が良いのは確かに認めるが、その店員が二人はとても苦手なのだった。

 

 

「ただ今戻りました! そしてお客さんを三人連れてきましたー!」

 

「ここがシルさんの働くお店……大きいなぁ」

 

「やっべ、本当に来ちゃったよ」

 

「そこの坊やの恋相手探しの為なのは道中で聞いてわかったけどよ……マジかぁ」

 

 

 頭を抱える良い年した青年二人とショタを引き連れての堂々の帰還を果たすシルに、昼という事でお客の数も少ない店内からぞろぞろと店員達が――どれも美少女といっても差し支えない者達が現れる。

 

 

「いらっしゃ……あ! イッセーとバラゴにゃ!」

 

「「……」」

 

 

 明るめの茶髪でシルと同じ服装の美少女がなるべく顔を伏せてこそこそしてた良い年した青年二人を見るなり無遠慮に指を差しながら名を言う……声でかく。

 

 

「失礼だよアーニャ! …………でも本当に久し振りだね二人とも」

 

 

 そんな少女をアーニャと呼びながら注意しつつも少し不満気な顔をしながら二人に向かって話し掛ける恰幅の良さげな女性……つまりこの店の責任者に二人は観念したかのように顔をあげる。

 

 

「しばらく見ない間にキミは太ったなミアちゃまよ?」

 

「てかもうミアちゃまって呼べねーか?」

 

「バカにするんじゃないよ、心は現役さ。

で、シルがどうやら取っ捕まえてくれたみたいだけど、どうして来たんだい?」

 

 

 どう見てもちゃま付けで呼ばれるのに無理がありすぎる女主人に対して、まるで年下の子を扱う様な態度のイッセーと元士郎はそれぞれ来た理由を話す。

 

 

「来る気はなかったよ。けど、そのシルって子がウチのベル坊と知り合いだったばかりか口八丁で言いくるめられちゃったんだ。

だから仕方なく嫌々来てやったんだよ」

 

「俺は完全にコイツに巻き込まれた」

 

 

 ベルがシルと他の店員にちやほやされながらテーブルまで案内されている姿を眺めながら、イッセーと元士郎はミアと呼ばれる女主人に向かって無遠慮に話す。

 しかしそんな態度の二人を前にしてもミアは気を害した様子も無く、寧ろ嬉しそうに微笑んでいた。

 

 

「シルには後で特別ボーナスをやっておかないとねぇ。それと安心しな、ウチは確かにアレの系列ではあるけど、殆ど繋がりは切れてる。

だからアンタ達がこの店に来た事をしゃべるつもりもないよ」

 

「「……」」

 

「さぁ! 疑り深い顔ばかりしてないでテーブルに座りな! 目一杯持て成しをさせて貰うから! アンタ達、今日は臨時休業って札でも貼っときな!」

 

『アイアイサー!』

 

「は!? お、おいおいやめろ!

ちょっと飯食って情報を聞いたらさっさ帰るつもりなんだぞこっちは!」

 

「何の情報が知りたいかは知らないけどね、ここまで待たせた責任だけは二人にとって貰うつもりなんだよこっちは。

心配しなくても変な事はしないさ」

 

「あの初っ子が言うようになったなオイ……」

 

 

 昔は結構可愛かったのに、時の流れは残酷だ。

 観念したかの様にベルと同じテーブルに座った二人は、はぁぁ……と深いため息を吐くのだった。

 

 

「よくやってくれたにゃシル!」

 

「ベルさんがまさかヘスティア・ファミリアに所属してるとは思わなかったから、まさに棚からぼた餅ね」

 

「へぇ、あのヘスティア・ファミリアに? よく入れたね?」

 

「は、はい……アニキのお陰と言いますか……」

 

 

 やはり白髪赤目ショタは若い店員に人気らしく、ベルは今とてもモテモテで戸惑っていた。

 そんな若い少年を横目に、おっさん青年二人は適当に出された酒を煽りながら話し合う。

 

 

「あの女神とその部下共は来ないだろうな?」

 

「一応あまり関係性は無いと自称してるが、まあ油断はしない方が良いだろ。

別にあの女神自体はどうでも良いけど、部下達が面倒過ぎるんだよな……」

 

「もう仮に出てきたらお前対応しろよな? 巨乳好きなら喜んでできるだろ?」

 

「わかってる癖に言うなよ? ありゃ確かにおっぱいは大きいけど、相手にすると疲れるんだよ。

ヘスティアとかロキは自然体になれるのに」

 

「それな。

何度迷惑だって言ってもしつこいし、前にロキとヘスティアが『行き遅れの垂れ乳オバハン』だなんて言ったせいで部下達がガチギレして大変だったしよ……」

 

「あったなそんな事も。

マジで部下達のモノでも乳で挟んで満足してて欲しいぜ」

 

 

 どこぞの女神相手に滅茶苦茶な事を愚痴りながら酒をグイグイ煽るおっさん青年。

 すでに他の客は店員達によって半ば強制的に退店させられてしまい、文字通りの貸しきりになってしまっている。

 

 

「で、情報って何が知りたいんだよ?」

 

「あぁ、あの子がダンジョンに潜った日にたまたま出会した女の子にひとめぼれしたみたいでな。

外見は金髪で剣を扱ってたってだけで名前を聞いてなかったらしいから色々回って情報収集でもしようかなって」

 

「ひとめぼれ? ……若いな」

 

「だろ? てか、お前も昔そんな理由で奴の眷属に――」

 

「忘れろ、黒歴史だありゃあ」

 

「………だよな」

 

 

 見た目だけならベルより少し年上のそこら辺の兄ちゃんみたいな感じの二人だが、やはりリアルに若い者の若者らしい精神を前にすると年を食った気分になってしまうらしい。

 何せ容姿はそのままだけど、実際はミアよりも遥かに歳上なのだ。

 

 元王の悪魔とでき婚を夢見てたとか、ハーレム王になるとかいう夢は最早過去の事だ。

 

 

「イッセー♪ えっへへー」

 

「………」

 

「おい、猫娘が寄って来てるぞ? 相変わらずその手に好かれやすいよな?」

 

「俺は犬派だぜ」

 

 

 過去はもうどうでも良い。今を大切に生きる。

 それが二人のモットーであるし、それが更なる成長となっているのは良いのだが、ある意味人間関係が前より複雑化してるのは否めない。

 今も先程無遠慮に二人を呼び捨てで呼んだアーニャという少女がチビチビと飲んでたイッセーの隣に座り、スリスリと猫みたいにすり寄るのだ。

 

 

「イッセーの匂いは変わらなくて安心するにゃ……」

 

「キミは大きくなったな」

 

「当たり前にゃ! おっぱいだって日々成長中!」

 

「そっかそっか」

 

「にゃー♪」

 

 

 何故か一回会っただけでアホみたいに懐かれたのがこのアーニャなのだが、イッセーはそんなアーニャに対してマジ猫を扱う様な手つきで頭を撫でたりしながらチビチビと酒を飲んで居た。

 

 

「扱いが美味いねぇ?」

 

「キミと一緒で、あそこに所属してるもんにしては正直な子だからな」

 

「だったらもっと顔を見せにきて欲しいものだよ」

 

「それとこれとは話が別だよ。

ヘティにも行くなって言われてるしな」

 

「同じくロキに本当は禁止されてるんだよ俺も」

 

「あらら、あのお二人は独占欲が強いわね相変わらず」

 

 

 厨房から出てきて二人の前に座るミアが、二人を家族以上に大切にしてる女神二人を思い浮かべながら苦笑いをするのと同時に、やはり引き込むのは無理だろと二人がとても苦手にしてる元主に向かって思う。

 

 

「えー? こっそり来ればバレないと思うけど」

 

「バレたら怖いからな」

 

「へそ曲げたら大変だぜ」

 

「むー……ヘスティアさんは毎日イッセーの優しい匂いに包まれてると思うと納得できないにゃー!」

 

「そんな事言われてもなー……。

優しい匂いってのもよくわからんし……」

 

 

 そもそもこのアーニャと最初に会ったのは、まだ彼女があのファミリアに所属していた頃の話であり、その当時は偶然出会しただけだった。

 確かその時は何も無かった筈なのに……何故かこんな懐かれている。

 

 

「これが所謂ひとめぼれって奴なんだって頭ではなく心で理解できたにゃ」

 

「えぇ……? 男の趣味が悪すぎだぜお嬢ちゃん」

 

「そんなことないにゃ」

 

「いいや、キミはプリティなんだから、もっと爽やかな男と出会うべきだぜ。

こんな年齢不詳男なんてもったいねーって」

 

 

 もっとベル坊みたいな純粋チェリーくんの方が良いと思うぜ……とモテモテのご様子のベルを見ながら思うイッセーは、アーニャの頭をポンポン撫でる。

 

 

「えへへぇ……好きぃ♪」

 

「あれ……なんでそうなる?」

 

「そういう事をするからだと思うけどねアタシは」

 

「へ?」

 

「お前はそういう奴だからな……」

 

「はい?」

 

 

 あまり無下にはできない態度が逆に嵌まらせる。

 アーニャがこれでもかとうっとりした顔をしながらイッセーに密着してるのを見て、ミアと元士郎は昔から全く変わらない彼に頬を緩ませるのだった。

 

 

「だからフレイヤ様――いや、フレイヤにはイッセー達は渡さないにゃ!」

 

「おっと? まさかの思わぬ所での味方が……」

 

「それはアタシも同意だよ。

見ててしつこいからねぇあの方は」

 

「だろ? 何がそんなに俺達に拘るのかよくわからないっつーかさ、ロキじゃないけど、行き遅れの三十路半ばの女の人の怖さがあるよありゃあ」

 

「オッタル君が聞いてたら殺されそうだな、この会話」

 

「二人に泣きながら挑んで、結局人差し指一本で弄ばれてたけどね」

 

「確か最後に言われあの時は、俺と元士郎がうんざりしながら『マジで勘弁してくださりませんかねぇこのオバハンよぉっ!』って冗談で言ったら、そのままフレイヤさんが何故かマジ泣きしたんだよな……」

 

「で、オッタル君がガチギレ特攻してな?」

 

「一応謝りながら捌いてたら今度はオッタル君も泣きだしてカオスだったよなー」

 

「アタシ等は隠れて大笑いしてたけどね」

 

「…………………てか、おい大丈夫か? 俺前から思ってたけど、あのシルって子に妙なものを感じるんだけど」

 

「シル? あぁ、大丈夫にゃ。

そんな雰囲気を持ってる時はあるけど、本当に単に雰囲気が似てるだけにゃ」

 

「なら良いけどよ……。

たまに目つきが似てる時があるから……」

 

「色々と手回しばっかりだかなぁあの女神は。

あぁ、出来ることなら顔を合わせたくねーよ」

 

 

 そして話はフレイヤなる女神とオッタルという忠臣に対する笑い話へと変わっていく。

 

 

「そういえば『私は美の女神……垂れ乳でもなければ行き遅れてもない……!』って鏡の前でブツブツ言ってるって目撃情報があったね」

 

「マジかよ? ロキとヘティに言われたのがそんなに堪えたのか」

 

「確かにアタシ等にしてみればおばさんだけどにゃー」

 

「お、おいおい、仮にも元主なんだからよ……」

 

「いいもーん! イッセーと元士郎に嫌がられてる相手なんか!」

 

「思いきりの良い娘だなホント」

 

「えへへー じゃあ褒めてにゃー」

 

「大丈夫かよ? 一部部下に嘗められてるじゃねーか」

 

「アンタ達のお陰とも言えるわねある意味。

あそこまで啖呵切れるのがアンタ達ぐらいだってのもあるけど。だって基本的にあの人が話しかけても何回か無視するじゃない?」

 

「あれは無視っつーかどっちが対応するかで揉めてただけだけどな……」

 

「しかも変なもん振り撒くだろ? アレが鬱陶しくてよ? 気分悪いからやめろって言うと何故かショック受けた顔するし」

 

「やっぱり規格外だねアンタ達は」

 

 

 割りと盛り上がってしまうのはフレイヤ様様なのだろうか……。

 

 

「とにかくだ、なるべく顔を会わせたくないね」

 

「まったくだ、ただ、その時限りでロキとヘスティアが結束してくれるという意味では必要悪な気もしないでもないけど」

 

 

 本人が聞いたらさぞ余裕で微笑む――

 

 

 

 

 

 

 

「へっくち!! ………………あら、あの二人に噂でもされてるのかしら? ふふふ……そろそろ会いに行こうかしら?」

 

「しょ、正気ですか!? あんな野蛮な化け物二人に――」

 

「その野蛮さが良いのよ。

彼等だけよ、この私に正面切って『心底どうでも良いゴミを見るような目』を向けるのは。

ふ、ふふふ……本当に屈辱だわ……」

 

「ぐ、ぐぬぬ……おのれあの化け物共めェ……!」

 

 

……か、どうかはわからない。




補足

シルさんとあの方が……って可能性についてだけど、この話に限っては別人って形でご容赦を。

故にベルきゅんは逆に大変かもだけど。


その2
とにかくフレイヤ・ファミリア系統が苦手でしょうがないおっさん青年二人。

ただ、ミアさんとはそれなりに仲良しらしく、なんだかんだ来てしまえば楽しくおしゃべりしてしまうらしい。

んで、なにげににゃんこをホイホイしてしまってましたとさ。


その3
とにかくオバハンだの、垂れ乳だの、行き遅れだのと散々四人にディスられたせいか、特にイッセーと元ちゃんに対しては『真正面から自分を全否定してくる』という意味で変な執着を持ってしまったらしく、変な方向に……あ、アカン。

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