平穏派
息をする様に殺し合った仲。
挨拶代わりに腕の骨でもへし折る仲。
殺意を含めた全てを愛した仲。
複雑で。
歪んでいて。
そして狂っていて。
無限に等しき
それは例え世界が変わろうとも変わらぬ強すぎる我。
名が変わろうとも変わらない個性。
世界が壊れてしまおうが知らない。
生物が滅亡しようが関係ない。
ただ、
駒王学園の癒し系マスコット美少女……等と呼ばれる塔城小猫には、拭いきれぬトラウマがある。
そのトラウマが唯一の肉親である姉との別離に繋がってしまったのだけど、その姉というのは
ひとりははぐれ悪魔になってしまって今どこで何をしているのかもわからない黒歌。
そしてもう一人……小猫にとっては双子の姉となる自分そっくりの姉――
「久し振りだね白音。
随分と楽しそうに生きてるみたいで何よりだよ」
「白雪……姉さま……」
小猫と瓜二つの容姿を持つ少女。
「な、何の用なんですか……」
「別に無いよ? 偶々ここら辺に白音が居るってのを思い出して、ちゃんと生きてるのかなって思って見に来ただけ」
「だ、だったら安心したでしょう? 早く消えてください……!」
「つれないね。
ああ、昔目の前でクッソ不味いバカを
「っ! あ、当たり前でしょう!? あ、あんなおぞましい……!」
自分と瓜二つの顔をした姉に小猫は嫌悪感を丸出しに叫んだ。
かつて自分の目の前で自分達を襲ってきた連中を比喩じゃなく喰い殺した時の光景は今でも夢に出てくる程に小猫のトラウマだった。
「消えてください……!」
「随分と嫌われちゃったみたいだね。
ま、元々仲良しこよしするつもりも無かったけどさ」
それは恐怖だった。
恐怖があるからこそ、小猫は白雪という姉が黒歌よりも嫌悪していた。
「言われなくても消えるよ。
アナタを守る為に黒歌姉様は汚名を被った代償で得た平穏で精々幸せになれば良いんじゃないの?」
「……」
双子だけどなにかが根本的に合わない。
小猫は平然と気にする事をズケズケと言いながら去っていく姉を、恐怖と嫌悪が入り交じった目で何時までも睨み付けるのだった。
「どうやらこの世界のセンパイはこの世界の私を含めて、部長や皆に嫌悪を抱いてないで仲良くやってるみたい。
良かったね、この世界の
そして言われた通り去った白雪は、双子の妹である小猫に対して『この世界の自分』と呼びながら薄く笑みを浮かべる。
「でも、それじゃあ私にしてみればまるで全然足りない よ。
仲良しこよしで最初からセンパイから好意的に見られてるだなんてちっとも羨ましく無いし、魅力も感じない」
双子の姉妹なのに、瓜二つの容姿なのに白雪から放たれるものはどこか妖艶さがあり、彼女の独り言は何かのタガが外れている。
「もっとも、この世界のセンパイには『無い』し、まるで魅力も感じないから何をしようが知ったことじゃないけどさ?」
どす黒い食欲を持つかつて白音であり、ネオと呼ばれた正真正銘の化け猫。
それが白雪の正体であり、この世界においてのトリックスターであり、癌でもある存在。
「でも近々挨拶にでも行こうかな? 妹がお世話になってますとでも言って」
この世界自体がどうなろうと、彼女にしてみれば塵と同等にどうでも良い。
彼女にとって最も重要なのは、世界そのものでは無く、彼女と今現在共に居る『彼』の存在。
「どんな顔するかな? 私の大好きなセンパイを見たら……ふふふ」
彼さえ居れば後はどうでも良い。
彼に一度は徹底的に殺され掛け、その痛みを彼からの『愛情』だと解釈する事で覚醒してしまった領域に立つ世界をも補食対象とする
それが白音から白雪へと変わった彼女の正体だった。
白雪(旧名・白音)
食いまくる事で進化し続ける
生きる動機・センパイとイチャイチャし続けたいから。
だからこそ、この世界の自分自身の生き方を否定する気も、邪魔をする気も、嫉妬する気も無い。
何故なら彼女自身に羨ましさは感じないのだ。
この世界の彼が持たぬ者である時点で欠片の興味はない。
顔が同じだろうが、中身が違うのであるなら最早関係無い。
「ただいまセンパイ♪」
無い代わりに彼はとても明るい様で、この世界の自分はそんな人柄に惹かれていっている様だが、白雪にとってはそれでは足りない。
何故なら彼女にとっての彼は……
「何だ、もう帰ってきたのか」
強い殺意を心の奥底に秘め、認めた者にしか優しさを決して見せない
「ちょっと顔を見に行っただけですから。
ふふ、随分と楽しく生きてる様ですよ? この世界の私とセンパイは?」
「あ、そ……」
この世界の兵藤一誠とは真逆の冷たい表情と目。
口調もぶっきらぼうで、髪の色もその心を表現するかの如く漆黒に染まっている。
これが白雪にとっての兵藤一誠であり、心底愛するただひとりの男性。
狭苦しいオンボロアパートの部屋で生活する二人のやり取りはこれが自然なのだ。
「
「……。それが何だ?」
「センパイは憎んでくれてよかったって事です。
ふふ、だってお陰で私だけのセンパイなんですから」
「………」
悪魔に力を利用され、殺意と憎悪を増幅させ続けた彼は人以外の生物に対する嫌悪感が凄まじい。この白雪以外は。
安いブラウン管TVの前から目を離さないで座り込んでいた彼の隣に座り、その身を寄せても突き飛ばされる事が無いのは彼女だけ……。
「お前が外に出てる間に、無限の龍神と姉だかが来たぞ。
ウザいからお前の留守だけを伝えて追い返したが」
「あらら、タイミングが悪い。
でも何をしに来たんだろう?」
「さぁな、どうでも良い」
「ん、それもそうですね」
この二人は言ってしまえば、この世界の自分自身の敵となる位置に存在している。
別に敵になりたくてなった訳じゃなく、ただ流れでそうなったかららしい。
「ねぇセンパイ。……センパイが欲しい」
「……………」
この世界で好んで暴れるつもりはない。
だが誰かの役に立つために生きるつもりも更々無い。
白雪はただ彼がそこに居てくれたらそれで良いし、こうして甘えられれば他はどうでも良い。
「センパイの近くに居るだけで毎日が発情期みたいに身体がセンパイを欲しくさせる……」
他を蹴落とし、漸く掴み取れた今、彼女は毎日でも彼と交じる事を望む。
「お腹が熱いにゃあ……♪ えへへ、センパイ……」
是非も問わずに無言で無抵抗の彼を押し倒し、腹部に跨がる白雪は頬を紅潮させながら自身の来ていた服のボタンを外し、雪の様に綺麗な肌を露出させる。
「好き……好きぃ♪」
余すところなく全てが好き。
天上を超越した白猫は今日も楽しそうだった。
「私だけのセンパイ……。私だけが全部知ってるセンパイ。
他の誰にも渡さない……ちょっかいでも掛けてきたら全部しゃくしゃくする……! あぁ……センパイ……!
もっと乱暴に、私を虫けらみたいに激しくしてにゃあ……♪」
「チッ、マゾが」
「センパイが悪いんですよ? 私の事を散々ボロボロに殴ったりするから……。
えへへ、でもそれがセンパイなりの私への愛情表現ですものね? だから嬉しいんです……だから獣みたいに私をめちゃくちゃにしてぇ……!」
「………………ハァ」
彼にのみ、完全にマゾっ娘になってしまうのも、何時も通りなのだから。
化け猫と怪物の二人三脚。
彼等の強さはどうにもならないレベルであり、一度動いてしまえば敵対した全ては破壊されてしまう。
「ねぇ、どうしてアナタと白音の仲間の兵士悪魔君の顔がそっくりなの?」
「…………」
「白雪には近づくなって言われてるけど、どうにも気になってしまうのよね?」
「…………………」
「むっ、何とか言ったらどう――――」
「俺に触るな……殺すぞ……!」
「うっ……!」
猫姉妹の長女が殺意をぶつけられ。
「白音。我もその静寂の仲間に入れて?」
「私はもう白音じゃないって何度言わせるかな…。
それに、何故かアナタも記憶を持ってるみたいだけど、アナタはセンパイに嫌われてる時点で無理だよ」
「大丈夫、我は敵じゃないって理解してもらうように頑張る」
「………はぁ」
かつての世界でネオと怪物に惹かれた無限の龍神についてこられ……。
「お、俺……!?」
「髪の色や目付きは違うけど、イッセーにそっくり……」
「白雪姉様……! いったいどういう事ですか!? どうしてイッセー先輩にそっくりな男の人と、テロ組織に……!」
「流れでそうなったからかな。
あぁ、ちなみにそこの彼になんでこの人が似てるのかについては教えてあげない。
センパイは私のセンパイであって、髪の毛から情報までの全てを渡したくないからね」
「あ、あの子が小猫ちゃんの……。
で、でも小猫ちゃんよりおっぱいが大きいぞ!? ………ちょっとだけだけど」
「どうも。
ちなみに白音より大きい理由だけは教えてあげる。
それは、私が毎日センパイにちゅーちゅーとして貰ったりされてるからだよ」
「な、ナニィ!? そ、そこの俺そっくりなお前!! 小猫ちゃんの双子の姉ちゃんにそんな羨まし――じゃなくてけしらかん事をしてるのか!? 降りてこい! ぶっとばしてやる!!」
「…………………………………………………」
昔の自分もこんな風だったか? と楽しそうに生きてる自分自身を前にちょっと微妙な気分になる彼。
「く、黒歌姉さままでテロ組織に……」
「あー、久し振り白音。
そのー……白雪と同じく流れでそうなったというか、一応聞くけど、こっちに来ない?」
「私に部長達を裏切れと言うの!?」
「だよね。
うん、ごめん……変な事聞いちゃったね?」
長女も所属してると知って余計に感情が狂い始める白音。
「言った所で信じてはくれないだろうけど、アナタ達の言うテロ組織に所属してる体ではあるけど、組織の目的に協力はしてないよ。
ていうか、このオーフィスのバカが考え無しに色々と引き込んだせいで各々が内部で勝手にやってるだけだし」
「バカは酷いよ白雪。我の知らない所で勝手に増えただけ」
「オーフィスの言うとおり、人数が勝手に増えたあげくに派閥ってやつまで出てきたのよ。
なんだっけ? 英雄派とか旧魔王派とか白龍皇派とか。
私達は少なくともどこの派閥にも入ってないし、強いて言うならオーフィス直轄の暗殺部隊みたいなものにゃ」
「あ、暗殺ってまた物騒な。
てことは俺そっくりなソイツも……」
「あーうん、彼は人間と白雪以外の存在が死ぬほど嫌いみたいなの。
前に私も危うく腕を引きちぎられかけて死ぬかと思ったわ」
「お、お前、こんな素晴らしいメロンを持つ女の子にそんなひどい事をしようとしたのかよ!?」
「……………」
この世界を生きるイッセーに組織の内情をわざとリークしたり。
「言ってしまえば私達の目的はその日をダラダラ過ごせたら良い。
邪魔する輩は全部殺す……ね、平和的でしょう?」
「平穏派って事で、ここはひとつ私達の事は放っておいてくれないかにゃ? 刺激されるとさ、ほら……人外嫌いの零(進化イッセーの偽名)がプッツンしちゃうし」
困惑するテロ対策チーム達に平和主義者と嘯いたり。
何気に黒歌までもが勝手に入り込んで来て、妙に進化イッセーに懐いてるのは別世界とはいえ姉妹なのか。
若干白雪が黒歌に対して喰い殺してやりたくなる危うい事もあるが、刺激しなければ害の無い平穏派は彼等を大いに困惑させるのだ。
「取り敢えずさ、ウザいのでしゃくしゃくさせて貰えます? クソ不味いのは我慢するんで」
大きくなりすぎた組織の『リストラ』を行うために零という名前を使うイッセーと久し振りに組んで降臨したり……。
敵にとってはどこでも二人は悪夢だった。
「ね、ねぇねぇ、ちょっとくらい握手しても――」
「その手首から先が要らねぇなら勝手にしろ」
「にゃ……。私に対する扱いが酷いにゃ……」
長女はそのチーム内でも弄られキャラだったとか。
始まらない。
補足
この世界の自分から恐れられて嫌悪されてるネオ白音たん。
本人は全然気にしない模様
その2
行動理念が基本彼なので、それ以外がどうなろうとどうでも良いネオ白音たん。
戦闘力は……ヤバイ。