恐怖を克服し、
その為に何年も隠れて鍛え続けた。
上の兄達や両親も信じられない程に極度の他人不信となってしまっているライザーは唯一信じられる妹と義弟と共に、自信を取り戻す一歩へと踏み込む。
「基本的に俺とレイヴェルは七属性の炎を固定させる。つまりレイヴェルは大空、俺は大地の炎しか使わない」
「つまり兄貴の『氷河』やレイヴェルの『雲』で戦力の水増しやら撹乱も使えないって事か?」
「あぁ、俺達の炎はフェニックスの歴史で一度も現れた事がない特殊な力のある炎だからな。
誰が『敵』であるかわからない以上、わざわざ全部を見せてやる必要もないし、その為に俺達は鍛えてきた」
「勿論ギルの夜の炎もですわね?」
「あぁ、特に『
アレを使った一撃は、下手をしたらゲーム会場ごと消え去るかもしれないからな」
「………」
「勿論『到達点』もだ」
「わかった」
ライザーの指示に頷くギル。
憎悪と生への究極的な執着の果てに、
無論この世界の自分自身が持ち得ぬ力であり、また持つべき力ではないモノ。
「さて、そろそろ始まりのアナウンスが入る。
良いか、力を隠しているのは決して慢心してる訳でも相手の力を見くびっている訳ではない事だけは頭の中に叩き込め」
ライザーの七色でもなければ、レイヴェルの七色でもない。
全ての色を染め尽くす黒き炎を宿し、憎悪の塊と化したイッセーは彼等自身は無いにせよ、彼等と同じ存在の――己を食い尽くして殺した全てに憎悪の炎を無尽蔵に燃やし続けるのだ。
だが今はその時ではない……その永久に尽きぬ事のない憎悪の炎を解放するのはまだ先だ。
故にその
魔王であり、リアスの兄でもあるサーゼクス・ルシファーがこのゲームを見ているとグレイフィアから聞かされたリアスは、会場となる駒王学園敷地のレプリカに移動して開始のアナウンスが掛かっても、その気合いは変わらない。
「かれこれ開始から20分が経っているけど、ライザー達が居る本陣の生徒会室に動きはないみたいね」
「ええ、不気味な程にあっさりとセンターとなる体育館も制圧できたと連絡も入りました」
「……。やはり人数不足のせいでおいそれと駒を動かせないみたいね」
10日全てを全力でこの日の為に費やした。
まだまだ未熟な面も多々あるかもしれないけど、相手のライザーの戦力が思っていた以上に揃ってなかったのはやはり
『部長! 校庭を確認しましたけど、やっぱり誰も居ないみたいです』
『本陣手前まで偵察に行きましたが、やっぱり気配がそこにしかありませんでした』
「そう、ご苦労様。では二人は暫くそこに居て頂戴、今祐斗に連絡して合流させるから」
『『了解!』』
お陰で楽に相手の本陣周囲を取り囲む様に制圧させる事ができた。
これがもし相手側がフルメンバーだったら、こうは行かないだろう。
「……。聞いていたのと食い違いが少しはあったけど、寧ろその食い違いが私にとって良い方向に行っているみたいね」
「ですがその……明らかに『簡単』過ぎませんか? 私はまだ悪魔に転生して日は浅いですし、レーティングゲームもまだ知りませんけど……」
「アーシアちゃんの言う通りですわ。
私と同じ地位のギルという方はまだしも、僧侶であるレイヴェル・フェニックスですら出てこないというとはあまりにも……」
「そうね、二人の言う通り、ライザー達の動きが全く無いというのも不可解だわ。
だから――」
本陣に留まる女王の朱乃と、戦闘員ではない僧侶のアーシアの話を聞いていると、祐斗、一誠、小猫の三人から合流したという連絡が入る。
『合流しました部長。
今相手本陣の目と鼻の先です』
『生徒会室の中に気配はあります。中は見えませんが……』
『どうします?』
「………」
フィールドのほぼ全てを制圧した。
兵士である一誠もそのまま本陣に突入させれば
「どうされますかリアス?」
「……………」
朱乃が王の判断を待ち、リアスはそれに対して少しの間目を閉じて思案すると、目を開きながら判断を下す。
「
確かにライザー達の動きが全く無いのは不気味だけど、手をこまねいていてもゲームにはならないし、何よりこのゲームを見ている方々が退屈されてしまうわ」
少し賭けにはなるし、フェニックスの特性を考えると厄介だが、要するに『敗け』を認めさせれば良い。
そもそもライザーは既に公式なレーティングゲームに出場可能な年齢なのに、その戦績のデータは存在していない。
それはつまり、彼が眷属が居ない事を理由にした、自分と同じ『素人』であるという事。
「一誠、祐斗、小猫はそのまま本陣に突入し、彼等を制圧しなさい」
ならば遠慮はしない。
確かに眷属を『自分自身が本当に信じられる者しかしない』という話に意外性を感じはしたが、結局彼は女好きのチャラチャラした傲慢な男である事には変わりない。
10日の修行の間にライザーの事は調べたが、眷属を己好みの女で固めているのは間違いだったが、彼が貴族階級だろうが、どこぞの人妻すら口説こうとするくらいにはだらしない男なのはわかったのだ。
そんな男に負ける気はリアスには無かったのだ。
「これで結婚の話も全部終わりよ」
所詮傲慢な男。
そんな男との僅かな忌々しい縁もこれで切れる……。
そう思いながら朱乃の淹れたお茶の入ったカップに手を伸ばそうとしたリアスは聞く。
『リアス様陣営の騎士と戦車がリタイアしました』
彼女達も知らぬ『覚悟の炎』に覚醒した不死の帝王の力の結果を……。
「なっ!?」
「えっ!?」
「そんな……! 突入を命じて10分も経ってないのに……!?」
本陣からそれを聞いて驚くリアス達は即座に脱落した二人が何かしらの『罠』に掛かったのかと考えるが、それ以上に脱落していない一誠の事を思うと、深く考えている暇は無かった。
即座にカップを置いたリアスは一誠の無事を確認する為に、通信機で呼び掛ける。
「ダメ……返事がない」
しかし返答がない。
不安になるリアスの表情を見てアーシアも朱乃も心配になる。
「まだ脱落のアナウンスはない。
急いで私達が一誠の援護に行くしかないわ!」
「やはり向こうは我々の行動を読んでいたのでしょうか? でなければ小猫ちゃんと祐斗くんがこんなに早く……」
「考えている暇はないわ! 準備しなさい!」
リアスの一喝する様な声に朱乃もアーシアも慌ててリアスを追い掛ける。
まだ脱落のアナウンスの無い一誠の無事を信じて……。
二人が潰されるアナウンスが入る8分程前。
10日程共に修行した仲だからこそ、一誠は小猫と祐斗の強さを理解していたつもりだった。
だから三人で掛かればあんなチャラ男焼き鳥なんて取るに足らないと思ってたし、あの不気味な包帯野郎はともかく、ライザーの妹らしいレイヴェルという美少女にはもう一度お目に掛かりたいと変な方向に張り切っても居た。
だが、しかし……ライザー陣営の本拠地たる生徒会室に待ち受けていたのは、携帯ゲーム機の狩猟ゲームで協力プレイして遊んでいた三人の姿であった。
「やべぇ! 祖龍の滑空突進だ!?」
「ギル、今すぐ生命の粉塵を使いなさい!」
「……………」
普通に寛いでゲームしていた。
そんな光景に暫し小猫と祐斗と共に呆然としていた一誠は、取り敢えず微妙に腹が立ったので、三人に向かって大声を出した。
「オイッ! 何ゲームしてんだよ!?」
こっちはリアスの結婚を取り下げさせる為に頑張ったのに、コイツ等はゲームが開始しても何もせずゲームをしてただけだと思うと、一誠の怒りも尤もだった。
まあ、美少女でよく見たら胸も中々あるレイヴェルに対してではなく、ライザーと無言でカチカチとゲーム機のボタンを押してる包帯野郎ことギルに向けてる比率が多いのだけど。
「あっ!? や、やられた……!?」
「ギルの回復が間に合いませんでしたわね……」
「………」
「いや、謝らなくて良い。
その前にダメージを蓄積させてた俺とレイヴェルにも責任はあるからな」
「装備を見直す必要がありますわ」
が、そんな一誠の声に対して、三人は聞いてないのか、一言も声を出さずにペコペコと二人に頭を下げてるギルに対して、ライザーとレイヴェルは優しい笑みを浮かべてるのだった。
「む、無視しやがった。
本陣まで来られてるのに……」
「変な人達……」
「あの包帯で全身を覆ってる人も一言も喋らないし……」
何だか力が抜けてしまうと三人は思っていると、ゲーム機の電源を切ったライザーがやっとこっちに気付いた様な顔をする。
「? お、やっと来たなリアスの眷属達、思ってたより遅かったじゃあないか」
「てっきり我々の戦力の乏しさを考えて即座に詰みを仕掛けてくると思ってましたが」
「……………」
自分達を見下しているのか、それとも単に頭が回らない愚か者なのか。
ライザーとレイヴェルの気の抜ける様な言い方に一誠が思わずムッとなって噛みつく。
「お前等が出てこないから、何かの罠でも仕掛けてると思ってたんだよ」
こんな、自分より暢気そうな奴がリアスの婚約者なんてやっぱり嫌だと思った一誠の一言にライザーは目を丸くする。
「罠? へぇ……? 流石にそこまで考える程度には
「今は……?」
クスクスと笑うライザーの言葉に、横で聞いていた祐斗が引っ掛かりを覚えるが、一誠は仲間を馬鹿にされたと感じたのか、ライザーに食って掛かっている。
「少なくともゲームなんてしてるお前達よりよっぽど良いぜ!」
「…………。まあ、確かにそうだわな。悪い悪い」
「な……! わ、わかれば良いんだよわかれば……。
く、くそ、妙に調子が狂うぜ」
しかしライザーからこれまた妙に素直に謝られたので、一誠の勢いもそこで止まる。
それを見て、やはり聞いていたライザー像と違う気がすると小猫も祐斗も感じる中、それは唐突に変わり始めた。
「つまり詰みを今仕掛けてきたって訳だな、リアス・グレモリーは?」
「お、おうそうだ! 俺達でお前達を倒せばゲームは終わって、二度と部長に近づかせないぜ!」
「なるほどな……」
「という訳でそこの美少女に喰らえ! ドレス・ブレイク!!」
三人で来た。
それもこの世界の、まだ純粋エロ小僧時代だったギルが居る。
その時点でライザーの声色が僅かに変わったのだが、それに気付いてない一誠は不意討ち気味にレイヴェルに向かって手を向け、ドレス・ブレイクなる技をぶちかました。
「わははは! この技はなんと、相手を傷つける事なく、服だけを吹き飛ばす秘技だ!」
「そんなくだらない技をいつの間に……」
「最低……」
生徒会室の備品をあちこちに散らかしながら、突風の様なものがレイヴェルに襲い掛かり、一誠は鼻の下まで伸ばしながら技の解説をしている。
それは、この技を食らった後のレイヴェルの姿を夢想しているからに他ならず、横に居る仲間二人からかなり軽蔑された目をされてもなんのそので、攻撃が過ぎた後のレイヴェルが居た場所をガン見していた一誠は……
「い、居ないだとぉぉっ!? は、裸の金髪美少女はどこだ!?」
素っ裸――否、具体的に言うと靴下残しで素っ裸になっている筈のレイヴェルが居ない事に絶叫していた。
彼女は一体どこに行ってしまったのか? もしや加減を間違えて吹き飛ばしてしまったのか? と心配にまでなってきたが、それは杞憂だった。
何故ならレイヴェルは服も吹き飛ばされる事なく場所を移動していたからだ。
「…………」
「既視感を感じる気がするのはどうしてかしらねギル?」
「………………………」
ギルという包帯男に横抱きに抱えられているという格好で。
「あ、テメェ!」
「速い……」
「彼女を一誠くんの攻撃から救ったのか? 全く見えなかったがいつの間に……?」
一誠はレイヴェルの裸を拝める邪魔をしたとギルという男に憤慨してるが、小猫と祐斗は目付きを鋭くさせながらギルの動きが視えなかった事に警戒心を強める。
「別に対処なら自分で出来たのに、やっぱり心配性なのねギルは?」
「……………」
「ふふ、ホント……だから大好きよ?」
昔のギルそのものである一誠を目の前に、少し懐かしいものは感じていたレイヴェルだが、やはりそれだけだったのが本音だった。
彼には確かにこのまま成長していけばいずれ
「包帯越しなのが歯痒いけど、ありがとうギル」
「あぁっ!? ほ、包帯男が美少女にちゅ、チューなんてされてる!? う、羨ましくて恨めしいぞ!!」
けれどそれまでだ。
感じる程度でそれ以上の関心が彼には抱けない。
何故なら、例え堕ちぶれたとしても彼女にとっての真の英雄が傍らに居るから。
降ろして貰ったと同時に、包帯越しのキスをギルの頬にしたレイヴェルに一誠が一気に変な妬みを爆発させるが、やはりどうでも良かった。
「レイヴェル、ギル。まずは二人を眠らせろ」
「わかりましたわお兄様。ギル、アナタはあの騎士の彼を、私はこの顔から何から妙に見てて腹の立つ猫をやるわ」
「…………」
「! 構えて一誠くん!」
顔は同じだし、ルーツだけも同じ。
けれどレイヴェルにとってギルと一誠は別人なのだから。
「ぐべぇっ!?」
「ゆ、祐斗せんぱ――ひぎぃっ!?」
「き、木場!? こ、小猫ちゃん!?」
例え堕ちても彼女の想いは変わらないのだ。
嘗めたボケを噛ましてる連中と思っていたのが、一瞬で戦況をひっくり返された一誠は、祐斗はギルに顔面を殴り抜けられ、鼻から嫌な音と鮮血をぶちまけながら、小猫も同様にレイヴェルに顔面を殴り抜けられて校舎外までぶっとばされ、あっけなくリタイアさせられた。
「う、嘘だろ……」
「さて、ちょっとはスッキリしましたわ」
「………」
ふと見てみれば、レイヴェルの額に何故か橙色の炎が灯っていて、その青い瞳も額の炎と同じ色で輝いている。
だがそれが何なのかを考える暇も無く、独りにされてしまった一誠は焦りながらギルとレイヴェルに向かって身構えるのだが……。
「二人は下がれ、彼は俺が相手をしてやる」
「は……。ギル、下がりますわよ?」
「…………」
ライザーに命じられるままに呆気なく引き下がり、代わりに生徒会長が座る席に座って居たライザーが、先程までのふざけた雰囲気を引っ込め、形容しがたいなにかを放ちながらゆっくりと立ち上がる。
「君の相手は俺がしよう。
聞くところによると、キミは普通の人間が持つ神器よりも、特別な神器を持つそうだね?」
「っ!?」
な、何だコイツ……!? さっきまでと明らかに違う! と、鈍い一誠をも気付かせる程に、今のライザーからは妖しいものを感じていた。
「ひとつその力を俺に見せてくれると嬉しいのだが……」
「うっ!?」
黄金色の頭髪、日焼けしていない白い肌、そして心の奥底まで見透かされている様な蒼い瞳。
先程までのゲームをしてふざけていた雰囲気は既にそこには無く、一誠は気に食わなくて一発殴る気でいたライザーに対して一歩……無意識に後退していた。
「さっき、リアス・グレモリーとの婚約話を無くす為に俺に勝つ……キミはそう言ってたな? なら戦おうじゃないか? なのに何故怯えているんだ? そんなに怖がらなくても良いじゃないか……安心しろよ赤龍帝クン?」
何故か倒すべき相手、勝たなければいけない相手なのに、一誠はライザーの放つ言葉に猛烈な『安堵』を覚え、疲労は無いのに全身から嫌な汗が止まらないし、震えも止められない。
「う、うわぁぁぁぁっ!!!!」
倒すべき存在。けれど安堵する。
その矛盾した心理が衝突した瞬間、一誠は発狂したかの様に錯乱し、赤龍帝の籠手を纏って凄まじい速度で倍加を掛けた……。
そして、ライザーに殴り掛かる―――――では無く。
「ああぁぁぁぁっー!!!!」
逃げた。
一目散に、戦うという気力すら失い。ただこの訳のわからない感情から逃れようとライザーから逃げ出したのだ。
「…………………あ、あれ、おかしいな?
ちょっと挑発しただけなのに逃げてしまったぞ? ギルなら文句無く殺しに来た筈なんだが……」
「彼はピュアなんですよ。
今のお兄様を前にすればああもなりましょう。
はぁ、どうするのですか? 思っていたよりは今ので自信を取り戻せましたが……」
「……ま、まぁ、リアス・グレモリーに慰められて戦意を取り戻せばまた来るだろう。
それまでは適当に……」
「そうなりますか。
ではギルの膝の上で待ちましょうか。ギル、良いかしら?」
「ん」
逃げ出した一誠にライザーは予想外だったのか、少し戸惑いながらも待つ事にして、壁に大穴が開いたり散らかった生徒会室の椅子に座り直すと、レイヴェルも座っていたギルの膝の上に座る。
「やべぇぞ、別に脅したつもりは無いが、もし彼がトラウマになったら流石に悪いことをした気分に……」
「今はまだリアス・グレモリーが正気ですし、お仲間達もまともですからちゃんと立ち直りますわ。
それにしてもお兄様は女性との関わりを絶ってからの方が変な方向のカリスマ性に目覚めてません?」
「確かに兄貴の放つ言葉って妙な安堵を感じる時があるぞ」
「そ、そう……なのか? よくわからん……」
妹と義弟の仲の良さにほっこりするライザーだが、自分の変わった所にはどうやら鈍かったらしい。
覚醒した帝王ははてと首を傾げていた。
「……………やっぱり、あの時感じたのと同じ」
そしてゲーム会場とは別の場所で今回のゲームを見ていたとある誰かは、音声こそ拾えなかったが、赤龍帝を逃走させたライザーの佇まいを見て、何かを確信させていたのだった。
補足
本人は適当に煽ってたつもりですが、覚醒したカリスマ性が一誠くんに恐怖をそれだけで与えた模様。
本人にそこら辺の自覚はまだない。
その2
皮肉にも女性断ちをしたせいで覚醒しちゃってるという。
尚本人的には『もう懲り懲り』らしい。
その3
しかーし、そんな彼の本質を見てしまった者の居たりするのだッ!!
その4
関係ないけど、ドレス・ブレイクはどうやら靴下は残すらしい……無論彼の好みで